森を踏み倒しながら進んでくる、巨大ゆっくりの群れがあった。
先ほど村を襲った群れなどとは比べ物にならない大規模なものだ。
その中心にいるのは、ゆっくりゆゆこ。大喰らいで知られるゆっくりで、英雄や妖怪すら食べたという。
その食いしん坊が焼き饅頭の美味しそうな匂いに引きつけられ、村の方へと進軍していたのだ。
「ゆっ?おにいさんはだれなの?」
「こっちのほうからおいしそうなにおいがするよ!ゆっくりとおしてね!」
「じゃましないでね!ひとりじめはよくないよ!ぷんぷん!!」
「……行くぞ、ギャクタイザー」
頬を膨らませて怒る巨大ゆっくり達を前に、巨神は大剣を地面に突き刺す。
遥か地下まで届く剣は、地下水の流れに干渉し、その量を増幅させ……地上の一点において爆発させた。
「ゆゆゆぅぅぅぅぅぅ!!?」
「なにこれ!!おみずがいっぱいでてきたよ!!」
「みずうみよりいっぱいだね!」
「しゅっきりできりゅよ!!」
「ゆっ、こんなにいっぱいあったらゆっくりできなくなるよ!!おうちかえる!!」
この土地は山々に囲まれた盆地である。大量に湧き出した水は流れ出ることなく、その場に溜まっていく。
山を越えて逃げようとするゆっくりもいるが、巨神の力により山は隆起を起こし、その高さを増していた。
「ゆっ、ゆっ、な゛んでにげられな゛いのおお゛ぉぉぉおおおぉぉ!!」
「くるときはどおれだのに゛いぃぃぃぃぃ!!」
「ゆっぐりでぎなぐなるううぅぅぅぅぅ!!」
「おかあしゃあああぁぁぁん!!うごけにゃいよおおぉぉぉぉぉ!!
「ゆっ・・・くち・・・」
自分達を溶かすほどの大量の水になど、ほとんど出遭ったことが無いはずの巨大ゆっくり達だが、
それでも水を恐れるのはゆっくりとしての本能故か。
背丈の小さな赤ゆっくり、子ゆっくりなどは、次々に体が溶けて行動不能になり、死んでいった。
「おにいざん!!だずげで!!だずげでね!!」
一匹のれいむが、水の中でも平然と佇んでいる巨神に縋りつく。
「ほほう、殊勝なゆっくりだな」
「おみずごわいよ!!ゆっぐりもちあげてだずげでね!!」
「どれ、そうしてやろう」
「ゆゆっ!」
家や城すらも押し潰すほどの重さを持つ巨大れいむを、巨神はいとも軽々と持ち上げてみせる。
誰かに持ち上げられた経験など当然あり得ないれいむは、今しがたの恐怖も忘れ、新鮮な体験に心から感動した。
「ゆっ!すごい!すごいよ!!」
「はっはっは、楽しいかい」
「ゆゆ~!おそらをとんでるみたい!」
「そうかそうか、じゃあ今度は本当に飛ばしてやるよ」
「ゆ?」
巨神の機械の腕が熱を持ち、倍ほどの太さに膨れ上がる。力を溜めているのだ。
そして腕から蒸気が噴き出すと、巨神はれいむを空高く放り上げた。
「ゆっ!たかいたか~い!」
「タイザースカイハイ……ゆっくり楽しんでいきな」
凄まじい速度で垂直方向に上昇していくれいむ。
自分を持ち上げてくれた大きなお兄さんも、水の中でもがき苦しんでいる友達のゆっくりたちも、
それを取り囲んでいる山々、その外側にある村や川など、全てが瞬く間に小さくなっていく。
「ゆ~!すごい!みんながおまめつぶみたいだよ!!」
巨大になった事で鈍重となり、決して得られることのないと思っていた鳥の目線が、れいむの眼前に広がっていた。
餡子が興奮と幸福に満たされていくのを感じるれいむ。
「ゆっゆゆっゆ~♪ゆゆゆ~ん♪」
楽しくなって歌を唄い出す。が、自分の歌もすぐに聴こえなくなる。空気との摩擦音で。
「ゆっ?なんだかあついよ!!」
顔を下に向けて飛んでいたれいむは、後頭部が段々熱くなってきているのを感じる。
大気の層に突入し、激しい空気の摩擦が高熱を引き起こしていたのだ。
髪が焦げ、やがてリボンが燃え尽きるのを感じ取る。
「ゆびゃああああぁぁぁぁ!!でいぶのおりぼんがああぁぁぁぁぁ!!」
そんな叫びを上げるも、もう聴こえない。摩擦音の激しさだけでなく、聴覚の役割をする表皮が焼け焦げているのだ。
「なんでぎごえないのおおぉぉぉぉお!!ごわいよおおぉぉぉぉぉ!!
み゛んなどごいぐのおぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!でいぶをおいでがないでぇぇぇぇぇぇ!!」
どんなに叫んでも、れいむの声が地上の仲間に届くことはない。目に映る全てはれいむから遠ざかっていく。
やがて大気圏を突破したれいむはしかし、奇跡的に原型を留めていた。ただし、五回りほど小さくなってはいたが。
中心核に当たる餡子さえ残っていれば、ゆっくりは死なないとも言われる。
もしそうであれば、宇宙空間を漂うこの小さな餡子の塊は、
やがて引力に惹かれ燃え尽きるまで、何を思って星を回るのだろうか。
「ふぅ~~……『でいぶのおりぼんが』……か」
驚異の虐待聴覚により、巨神はれいむの大気圏からの叫び声を聞き取っていた。
また一つの虐待を済ませ、ひと時の安息を得る巨神とお兄さん。
だが彼らがふと気付いた時には、もう盆地の水位はゆっくりにとっての安全域まで下がっていた。
「なっ……一体何が!?」
「ちゅごごごごごーーーーっ」
激しく水を吸い立てる音。群れの中心に、飛びぬけて大きなゆっくりがいる。ボスゆゆこである。
その恐るべき食欲を以て、盆地を満たしていた地下水をほとんど吸い込んでしまったのだ。
元々他の巨大ゆっくりの数倍の大きさを持っていたゆゆこだが、水を吸うことで更に大きくなったようだ。
「ゆゆっ!ゆゆこのおかげでたすかったよ!!」
「やっぱりゆゆこはとってもゆっくりできるゆっくりだよ!!」
「ゆふん!!」
水を吸い終え、周囲でふやけているゆっくり達に称えられてふんぞり返るゆゆこ。
周囲のこのような態度が奴を増長させ、ここまで巨大な群れを作らせていったのだろう。
「チッ……さっきから気になってはいたが、やっぱでけえな」
「ゆっゆっゆっ!おにいさんなんてゆゆこにかかればいちころだよ!」
「ひとくちでむしゃむしゃされちゃうよ!」
「おお、あわれあわれ」
「だからさっさとどいてね!?いたいめみたいの?しぬの?」
「みのほどしらずのおにいさんはゆっくりしんでね!」
ゆゆこの周りのゆっくりたちが、ニヤニヤしながら巨神のほうを見ている。
ゆゆこもそれに合わせてニヤニヤし始める。巨神とお兄さんの寿命はストレスでマッハだった。
「身の程知らず、か……お前らの身の程は如何程か見せてもらおうか。
踊れ、タイザーフック!!」
巨神が両腕を前方に突き出すと、その手首から無数のワイヤーが射出される。
ワイヤーは遥か上空へと伸びていくと、それぞれ『何もない空中に引っかかっ』た。
そのまま地上へと伸びていくワイヤーの先端には、鉤爪状のフックが取り付けられている。
それらはゆっくりたちの帽子や髪飾りを引っ掛け、再び上空へと昇っていった。
突然髪飾りを奪われたゆっくり達は、余裕の表情を一切失って慌て始める。
「ゆゆっ!まりさのおぼうし!!」
「れいむのおりぼんがあぁぁぁぁぁぁ!!」
「どうじでごんなごどするのおおぉぉぉぉぉ!!」
「ぼうしがないとゆっくりできないよ!!ゆっくりしないでかえしてね!!」
「じゃ、自分で取ったらどうなんだ」
「ゆっ!ゆっくりとるよ!!ゆっくりおろしてね!!」
ワイヤーフックはスルスルと降りてくる。ゆっくりが必死でジャンプしてギリギリ届く位置だ。
ゆっくり達はみな必死な表情で、口をぽかんと開けながらぴょんぴょん跳ねている。
「ゆっくりかえしてね!ゆっくりかえしてね!」
「ぴょんぴょんするよ!ゆっくりとらせてね!!」
「ゆっゆっ!ぼうしをかぶるとゆっくりできるよ!!」
だがそもそも、ゆっくりの身体で物を扱うことが出来るのは口だけである。
つまり吊るされた髪飾りを回収するためには口が届かなければいけないわけだが、
人間が手をかざしてジャンプするのとは異なり、ゆっくりの口は体の正面方向についており、真上を向くことが出来ない。
よって「ギリギリ届く」というのは、跳躍の頂点である頭頂部が髪飾りにギリギリ触れる程度、という意味だ。
そしてゆっくりは頭部に髪飾りが触れていない時、本能的に「ゆっくり出来ない」と感じる。
裏を返せば、触れてさえいればその不快感は払拭されるのだ。たとえそれが一瞬だったとしても。
最大の跳躍により、髪飾りは一瞬だけ自分の頭に触れる。その刹那の安息を求め、ゆっくり達は延々跳ね続ける。
完全に髪飾りを取り上げる絶望よりも、一筋の、本当にほんの一筋の光明を―――
ゆっくりの行動を操作するにはこれに限る、というのが、この虐待お兄さんの持論であった。
またこうしてゆっくり達に「ゆっくりできる手段」を与えることで、巨神本体への意識を逸らし、攻撃を防ぐ狙いもあった。
「ゆっ・・・ゆっくり・・・できるよ・・・」
「ゆっぐりおぼうしかぶるよ・・・ゆっぐりぃ・・・」
「おいおいどうした、もう息が上がってんのか? うちで飼ってたチビゆっくりだってもうちょっと根性あったぜ?」
ゆっくり達が跳ねる度に起きていた地響きも、次第に小さくなっていく。
巨大ゆっくりはその巨体故、跳躍を得意とする個体は少ない。体力の消耗が激しすぎるためだ。
瞬く間に群れ全体から元気が失われていく。跳躍の高さも少しずつ低くなっていくようだ。
「しょうがないなあ、じゃあもう少し下げてあげるよ! ゆっくり取り戻してね!」
「ゆゆっ!おにいさんありがとう!!」
「ゆっくりおぼうしおろしてね!」
巨神はゆっくり達が髪飾りを取りやすいように、ワイヤーを更に下に降ろしていく。
しかしこれも古代コンピュータにより、疲労したゆっくりの最高到達点を計算した結果の絶妙な位置調整であり、
決して髪飾りを口でくわえて取り戻すには至れない。
そして高さだけでなく、その位置自体を少しずつずらしていく。
「ゆっ!おぼうしおぼうし!!」
「ゆびゃっ!まりざ!なにずるの゛!!」
ずらした先は、体がふやけて動けなくなっていたゆっくりの頭上。
巨体に踏みつけられ、柔らかくなった体はひとたまりもない。
しかし自分のゆっくりを追求することに夢中な飾り無しのゆっくり達は、仲間を踏んでいることにも気付かない。
「ゆびゃっ!やべでええ!ゆぐ、ゆっぐりでぎなぐなるうぅぅぅぅ!!」
「な゛んでふむの゛!!ゆっぐりつぶれちゃ、つぶれぢゃっ」
「ゆ゛ぅ・・・ゆ゛っ、ゆっぐりじでいっで・・・ね・・・」
「ありますよね~、何かに夢中で周りが見えなくなることって」
次々に潰されていくゆっくり達を眺めながら、虐待お兄さんは一人うんうんと頷く。弟の顔を思い出しているのだろうか。
足場となるゆっくりが潰れていくのだから、それに合わせて高さを調節されていた髪飾りも、
当然跳ねているゆっくり達からは遠ざかっていくことになる。
自分の位置が下がっているなどとは露ほどにも思わず、ゆっくり達は髪飾りが遠ざかることに激しく苛立つ。
「ゆ゛あああ゛ぁぁぁぁぁ!!なんでだがぐなるのおぉぉぉぉぉ!!」
「ざわれないよぉおぉぉぉぉぉ!!ゆっぐりでぎないいぃぃぃぃぃ!!」
「よーし、今度こそ返してやるから頑張ってね!」
お兄さんは再びワイヤーの位置を移動させていく。ゆっくり達は極めて従順にそれについてくる。
髪飾りの方ばかり見ている為、先ほどに引き続き足下は見ていない。
だから、自分達が山を登っていることにも気付かない。ゆゆこという巨大な山の上に。
「ゆっくりおぼうしとりかえすよ!」
「おりぼんつけてゆっくりするよ!!」
「ゆっゆっ、つかれたけどがんばってはねるよ・・・」
「ん゛~~~~~~!!ん゛~~~~~~~~!!」
ボス格であるのに、群れのみんなが虐められていても先ほどから身動き一つせず、文句の一つも言わなかったゆゆこ。
怠けて何もしなかったわけではない。実際は動くことも話すことも、何も出来なかったのだ。
自らの体積を超える量の地下水を飲み込んだため、体内に圧縮された水分量はとっくに飽和状態に達している。
それこそ口を開けば、水で極限まで薄められ、液状化した餡子が流れ出てくるほどに。
だから口を必死に閉じて我慢している。口を開けてしまえば自分が死ぬだけでなく、また盆地は水に満たされ、
他のゆっくり達を押し流すことになる。群れのリーダーとして、そんなことは出来ない。
だから上から踏み付けられて中身を圧迫されても、口を開けて文句など言えず、逆に必死に唇を結んでいた。
「ゆっ!とれるよ!もうちょっとだよ!」
「おりぼんがあたまにさわるとゆっくりできるよ!もっとさわってたいよ!!」
「まりさのおぼうしおりてきてね!!ゆっくりしたおぼうしならいうこときいてね!!」
「ほらほら~、もっと頑張って跳ねろよ。もう少しで取れるかもよ!」
髪飾りを吊るしたワイヤーを揺らすように激しく上下に動かし、取れるかも知れない雰囲気を演出する。
飾り無し達は「ゆゆ~~~!!」と色めきたち、より興奮した様子で跳躍し始める。
だらしなく開かれた口の端からは涎が辺りに飛び散っていた。
「おぼうし!おぼうし!」
「でいぶのおりぼんーーーー!!」
「ん゛~~~~っ、ん゛~~~・・・ん゛ばあああああああぁぁぁぁぁ!!!」
その激しさを増した圧迫に、ついにゆゆこの口が限界を迎える。
口からは薄黒く染まった濁流が溢れ出し、巨大な体は気球が萎むようにしおしおと地面に広がっていった。
山一つ分ほども地面が下がっていき、急激に遠ざかっていく髪飾りにゆっくり達は戸惑った。
「なんでおりぼんどっかいっぢゃうのおぉぉぉぉぉ!!」
「まりざのおぼうじがえっでぎでよおおお゛ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ゆっぐりでぎないよおぉぉぉぉぉぉ!!」
「ハハハ、みんなよく頑張ったね。そら、ご褒美だ!」
お兄さんがそう言うと、髪飾りは鉤から外れ、ワイヤーは瞬く間に巨神の手首へと返っていく。
至福の笑顔で落下していく髪飾りを眺めるゆっくり達。
しかしその目線が地表へと近付くにつれ、徐々に恐ろしい事実が明らかとなる。
髪飾りが落下する、ぱちゃん、という水音で、ついにゆっくり達はその現実を認識した。
「な゛んでまたおみずがあるのおおぉぉぉぉぉぉ!?」
「どげぢゃうよ゛!!おりぼんあっでもゆっぐりでぎない!!」
「ゆゆごはなにやっでるの!!やぐだだずのでぶりーだーがあぁぁぁぁぁぁ!!」
「ゆゆこならさっきお前らが皆で踏み潰しただろ……聞いてないか」
恐慌状態に陥るゆっくり達だが、髪飾りの回収だけは忘れていない。
まりさ種は帽子を水面に浮かべ、上に乗ることで難を逃れている。
この巨体を支える浮力を得られるような帽子には見えないのだが、饅頭の装飾品は不思議がいっぱいだ。
「ゆっ!いいなまりさ!!れいむもそれにのせてたすけてね!!」
「だめだよ!このおぼうしはまりさひとりようだよ!れいむはゆっくりとけてね!」
「どぼじでぞんなごどいうのおぉぉぉぉぉぉ!?れいむだぢふうふでじょおぉぉぉぉぉ!!」
「ごべんねれいむ゛!!でもゆっぐりじんでねえぇぇぇぇぇ!!」
このような光景が至るところで繰り広げられている。
ところで、この盆地を満たしている濁流は単なる地下水ではない。
「ゆっ!?まりざ、しずんできてるよ!!」
「ゆゆ゛っ!なんでなのぉぉぉぉ!!ばりざのおぼうじはじずまないはずなのぃぃぃぃぃ!!」
「れいぶをみすてたばつだよ!!ゆっくりはんせいしてよね゛!!」
「やだよぉぉぉぉぉ!!でいぶゆるじでえぇぇぇぇぇ!!」
勿論、れいむが許したところで事態がどう好転するわけもない。
この濁流はゆゆこの体内から流れ出したもの。ゆゆこの内容物の全てが溶け出しており、
その暴食を実現する消化作用……人間で言えば胃酸のようなものも、薄まっているとはいえ流れ出している。
その薄められた酸が、まりさの帽子に穴を空け、浸水を引き起こしていたのだった。
巨神の体は、一切浸蝕を引き起こす様子は無い。元よりゆっくりの攻撃は効かないのである。
「ゆ゛うぅぅぅぅぅぅ!!ゆ゛うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「どげぢゃう!!まりざだぢみんなとけぢゃう!!」
「おにいざんみでないでだずげでええええぇぇぇぇぇ!!」
「しょうがないなぁ、よっと」
巨神は腰を屈めると、両手をも餡水の濁流の中へと突っ込む。
「ダブルタイザーコレダァァァァーーーー!!」
「「「「ゆびびっびびびっびびびびびびびびびびびびびびびび」」」」
巨神の両手首、両足首から突き出した無数の槍からは、またしても超高圧電流が放電される。
それは水を伝って群れの全てのゆっくり達へと行き渡り、余すことなく感電をもたらした。
激しいうめき声を上げたゆっくり達は、数秒後には物言わぬ餡塊と化し、ゆっくりと水に溶けていく。
あまりに喧しい巨大ゆっくり達の悲鳴に、騒音被害を考えたお兄さんが取った苦肉の策であった。
電撃を流しながら、巨神は再度「ヒャァァァ」と雄叫びを上げる。
「爽快感に満ちているのか? ギャクタイザー……確かにこれは壮観だ」
山の盆地に満ちる黒い水、その上を漂う巨大なリボンや帽子などの髪飾り。
虐待ガルガンチュアの名残は、幻想の名に相応しい悪夢的な様相を呈していた。
「なんで・・・ゆっぐぢ・・・でぎない・・・の゛・・・」
生き残って呻いていた最後のゆっくりを踏み付けると、巨神は静かに沈みゆく夕陽を見つめた。
巨神と共に村へと戻ったお兄さんは、巨大ゆっくりのボスであるゆゆことその取り巻きを倒したことを長老に報告する。
お兄さんに白い目を向けていた村人達は一転、彼を英雄として称えて騒ぎ始めた。
「虐兄よ、そなたは間違いなく幻想郷一の英雄じゃ。わしはそう確信した。その名は後世まで称えられよう」
「兄ちゃん、俺兄ちゃんのこと誤解してたよ!
一念通ずっていうか……何かに対して本気になるって、スゲーことなんだ!!」
「この何とかイザーとかいう機械人形も長老の話だと、お前じゃなきゃ操れなかったそうじゃないか。
いや、大したもんだ。今まで散々嫌味を言ったりして悪かった」
次々に祝いと感謝の言葉を述べていく村人に、しかし虐待お兄さんは渋い顔をした。
「やめてくれ、みんな……俺とギャクタイザーは、ただ欲望に従ってゆっくりを虐待したに過ぎないんだ。
今回はただ、その結果として村を守ることに繋がっただけだ。本当はただ俺達が満足しただけ。
何も褒められることなんてしていないんだ」
「うむ、わかっておるぞ。おぬしの性根が穢れ切っておることはな。
しかし、その上で敢えて言わせてもらおう。村を守ってくれて、ありがとう」
「ふ……感謝は有り難いけど、やはり素直には受け入れられないね。
それに俺がどんなことをしたって、俺が一人で地下に篭もってる間に、見殺しにしていった人達は……」
その時、広場に佇んでいたギャクタイザーから不思議な光が満ち溢れた。
地下室でお兄さんを包んだ光に似た、しかしもっと優しいものだ。
お兄さんは虐待好きの同族として、その光の本質を感じ取った。あれはスッキリした感情を表しているのだと。
その光は優しく、しかし大らかに広がり、村全体を包み込んだ。
「おお、何と神々しい……これが太古の巨神の……」
「お、おい見ろよあれ!! 餡子の中から……」
村に散乱していたゆっくりの死骸や、焦げた破片の中から、次々に沸き出すように出て来る者がある。
それは裸の人間であった。ゆっくりに食べられたり殺されたりしていった村人達が、蘇ってきたのだ。
「こ、これは一体どういうことだ!?」
「おばあちゃん!! おばあちゃんなんですか!?」
「ママぁぁぁーーー!! こわかったよおぉーー!!」
「と、父ちゃん! 兄ちゃんがやったんだよ、あのゆっくり達を!!」
思いがけぬ再会に、一様に涙を流して狂喜乱舞する村人達。みなゆっくりによって友達や家族を奪われていたのだ。
ぽかんと口を開けてその様子を眺めている長老、そして虐待お兄さん。その心に巨神の言葉が流れ込んでくる。
『我はゆっくりによりて人心に遺恨、受傷が残ることの一切を許さぬ。
よって虐待により得られた快感を力に変え、可能な限りの修復を図ったのだ』
「ふっ……全てはスッキリに向けて完結すべし、か。どこまでもご都合の良い野郎だぜ!」
「奇跡じゃ……巨神の力によって奇跡が起こったのじゃ……」
「おい、こっちには博麗の巫女もいたぞ!」
「どぼじでこの人だけ服着でるのぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
ふと山の方に目を向けると、隆起していた山並みは元に戻り、川となって流れて来た餡子水の中にも、
多くの人間がぷかぷか浮かんでいる。各地の村で襲われた人々だろう。
『ちなみに我の力によって変形させた山、吸い上げた地下水、全ては支障の無いよう元に戻しておいた』
「虐待が終わったらきちんと後片付け。つくづく一流だぜ……お前はよ」
「虐兄よ。巨頭の一角を破ったとはいえ、巨大ゆっくりはあれだけで終わりではない。
この幻想郷中で未だに人々を苦しめ、暴虐の限りを尽くしていることだろう。
しかし、暴虐を以て暴虐を制す……長老としての命じゃ。虐兄よ、世界中のゆっくりを虐待して来い!」
「言われなくとも!」
『ヒャァ! 虐待だぁ!』
お兄さんとギャクタイザーの戦いはまだまだ続く! 応援ありがとうございました!!
スパロボに詰まったのでムシャクシャして書いた。今は反省している。
ちなみにぱちゅりーは巨大に進化する過程で、自重で潰れて絶滅しました。
最終更新:2008年10月17日 13:16