「………!!………!!」
「なに言ってるのか聞こえなーい」
透明な瓶に押し込んだゆっくりがこちらを見ている。
瓶ゆっくり。見かけはしょっぱいが、れっきとした工業製品だ。
専用の機械を使って、ゆっくりの体を少しずつ引き伸ばして瓶の中に入れるらしい。
環境等級の高い(つまり”野生のものより少しいい暮らし”をしてきた)ゆっくりを使っているので、
狭い瓶の中ではゆっくりすることもできず、また頑強で少々の手荒な扱いであっさり逝くようなこともなく、
様々な反応を見せてくれるという品だ。
「………!!」
こちらを威嚇しているつもりなのかぷっくーと膨れるが、そんなことをしても狭い瓶が一層狭くなるだけだぞ。
言葉は聞こえてないし。
「そらよっと」
瓶を手で持つ。すると瓶の中のゆっくりれいむの目が急に輝きだした。
餡子頭のことだ。出して貰えるとでも思っているだろうか?
俺は試しに瓶の蓋を取ってみる。
「どうしてこんなことするの?ばかなの?しぬの?
いまならとくべつにゆるしてあげるからゆっくりだしてね!」
「出れるもんなら出てみろよ」
「こんなゆっくりできないばしょはゆっくりでるよ!!おにいさんじゃましないでよね!!」
「わかったよーがんばってねー(棒読み)」
俺は瓶を横倒しにしてやり、寝そべって観察する。
「ゆーしょ、ゆーしょ……でられないいいいい!!!!!」
「ぷっ」
瓶口の細まった部分に体半分嵌まったところで出られなことにようやく気づき、喚きだすゆっくり。
瓶に入れられるときに死ぬような思いをしたことも覚えていないのだろう。
れいむはついに自力での打開を諦めたかと思うと、こちらに声をかけてきた。
「おにいさん!れいむをゆっくりたすけてね!」
なんでやねん。俺は蓋をもう一度閉める。
「………!?………!?」
外に出られるという希望を裏切られて絶望に歪むれいむの顔を真正面からにやにやと見つめる。
「んー?どうしたー?」
「…………!!」
ふと、瓶を手に取った本来の目的を思い出し、もう一度手に取る。両手で口の近くを掴むと、俺は素振りを始める。
虐待仲間から聞いた健康増進法だ。
「おっ、これはいい按配だ」
俺が瓶を振り切るたびに、べちんべちんと内壁にゆっくりがぶつかる心地よい手ごたえが素振りの退屈さを紛らわす。
ゆっくりが入っているので重さもちょうど良い。
「ほっ……!はっ……!」
ぶん。(べちん!)ぶん。(べちん!)
「よっ」
ぶん。(ぐぐぐ……)
おっ?れいむは内壁に必死で張り付き叩きつけられまいとしている。
俺は今までよりも大きく振りかぶる。瓶を両手で握りなおし――
「そおらっ!!」
ぶんん!(べちっ!!)
「……!………!」
「たっのしー!!」
これなら毎日できそうだ。
その2
近くを流れる川へ行き、川べりに杭を一本立てた。そこに紐をかけて瓶に結びつける。
瓶は川の中に放り込む。
* * * *
れいむははじめて見る水中の眺めに心奪われる。
「ゆゆっ!おさかなさんだよ!ゆっくりしていってね!!」
「おみずがとってもゆっくりしてるよ!」
瓶に捕らわれていることも忘れ、ゆっくりしだすれいむ。
ぼちゃん。
「ゆゆ?」
水面から何かが投げ入れられた。それは……
「れいむのあかちゃんだよ!あかちゃんゆっくりしていってね!」
続けざまに二匹、三匹と、透明な水中へと落ちてくるれいむの子供たち。
それは太陽の光を浴びてきらきらと輝いて見えた。
「ゆ~♪ゆ~♪ゆ~♪」
おうたをうたってあげているつもりの親れいむに対して、子供達は瓶の向こうから口々に訴えかける。
”からだがとけりゅよ!”
”おきゃあさんゆっきゅりたすけちぇね!!”
「あかちゃんなにをいってるの?ゆっくりしていってね!」
異変はすぐに起こった。体が溶け出し、それに気づいたれいむも今更ながら水の危険性を思い出す。
「かわいいあかちゃんたち!ゆっくりおみずからでてね!ゆっくりできなくなるよ!!」
その声は瓶に遮られて届くことはないし、届いたとしても水の上へなど自力で這い上がれるはずもない。
”おみじゅいやだよ!ゆっきゅりできないよ!!”
”おきゃあしゃんどぼちてたしゅけてくれにゃいにょおおおお!!??”
助けを求める子供たちを目の当たりにし、しかし何もすることができないれいむ。
「ゆぐう゛う゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!」
その時、水中に影がさした。
魚がやってきたのだった。れいむはここぞとばかりに声を張り上げる。やっぱり聞こえてはいないのだが。
「おさかなさん!!れいむのたいせつなあかちゃんをゆっくりたすけてね!
たすけなかったらしょうちしないよ!!」
魚はゆっくりの都合など知ったことではない。体の崩壊の始まった子ゆっくり達にのっそりと襲い掛かる。
”こわいよぉぉぉぉぉぉ!!”
”もっとゆっきゅりしたかったよぉぉぉぉ!!!”
あっさりと子ゆっくりたちは食べられてしまう。れいむは瓶の中で身悶える。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!どぼじてそんなことするの゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!」
* * * *
川から引き上げる。
「どうして子供を助けてあげなかったの?馬鹿なの?死ぬの?」
「ゆぐぐぐぐぐぐぐ………!!」
「子供をほったらかしてゆっくりしていたんだね?れいむはゆっくりできないゆっくりだね?」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛!!!!!」
その3
色々いじったあと、また蓋を開けてみた。れいむはすごい剣幕で吠え立ててくる。
「どぼじてこんなことするのおおおお!!??
いじわるばっかりするおにいさんとはゆっくりできないよ!!れいむのおうちからゆっくりでていってね!」
どう見ても俺の家なんだけど……しかし、俺はあえて否定はしない。
「れいむのおうち、すっごく住みやすそうだね!!これからはお兄さんがゆっくりつかってあげるよ!!」
「だめだよ!ここはれいむのおうちだよ!!
ゆっくりできないおにいさんをすまわせるばしょはないよ!!」
狭い瓶の中で暴れまわるれいむ。しかし、いくら暴れたところでそこから出る術はない。
「お兄さんが見つけたんだから、今日からここはお兄さんの家だよ!!
瓶の中でなら、れいむも特別にゆっくりしていっていいよ!!」
逆☆おうち宣言☆
「びんはいやだよ!おそとにだして!!
れいむのおうちかえしてよぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は追撃の手を緩めない。
「あーもううるさいなぁ、蓋閉めていい?」
「だめだよ!いきができなくなるよ!!ゆっくりできないよ!!」
息してねーだろお前ら。
「閉めるよ?閉めるよ?」
「やめてえええええ!!!!……!!……!!」
わんわん泣いているれいむに構わず蓋を閉め、がたごと揺れてうるさいので専用の台に乗せて固定する。
この台がまたすぐれもので、機械仕掛けで縦揺れ、横揺れ、回転など思いのまま。
瓶の中のゆっくりを決してゆっくりさせない。
”ここからだして!”
”れいむのおうちをゆっくりかえしてね!!”
「まだ何か言ってるよ……聞こえねっつの」
俺は適当に機械を操作して、瓶を動かす。
”ゆゆっ!!めがまわるよ!!”
”ゆっくりできないいいいいい!!!!”
「瓶ゆっくりか…」
買う前には透明箱とそんなに変わらないだろうと思ったが、
持ち運びが簡単だったり防音性にすぐれたりとこれはこれでなかなかの使い勝手だ。愛用してしまうかもしれない。
おしまい。
□ ■ □ ■
今までに書いたSSです。よかったらどうぞ
豚小屋とぷっでぃーん
豚小屋とぷっでぃーん2
エターナル冷やし饅頭
れみりゃ拘束虐待
無尽庭園
ゆっくりできない夜
ゆっくりぴこぴこ
何かがいる
踊り師とれみりゃ
最終更新:2008年10月28日 16:10