ゆっくりアリスの一団が暗い山の中を移動していた。
昨日の内に、ゆっくり家族がたくさん住んでいた場所で繁殖を終えたからだ。
親子合わせて五十は下らないゆっくり魔理沙と霊夢は、各々数個のゆっくりの赤ちゃんをぶら下げて朽ち果てた。
この、親を知らないゆっくり達は、村や家や畑に忍び込んで人間達の糧になる。
そんなことを知ってか知らずか、六匹のゆっくりアリスは仲良く山の中を移動する。
「とかいはのありすは、れいむがいちばーんだいすきなの!!」
「とかいはのありすは、まりさがいちばんだいすき!!!」
「……ありすはありすがだいすきだよ……」
山の中腹まで来た時に、突然大きな叫び声がアリス達の耳に飛び込んできた。
「うーーー!!! ざぐやーーー!!!!」
それは、何故かこんな所をほっつき歩いているゆっくりれみりゃ。
大方、また紅魔館を抜け出してきたのだろう。
「ゆ? ゆっくりーーーー!!!」
突如近くから聞こえたゆっくりの声、その方向に向かって一同が叫ぶ。
「うわーーー!!! ざぐやーーー!!! ざぐやーーー!!!」
相手が逃げようが何のその。
こんな獣道では、とてとて歩きのれみりゃよりも饅頭ゆっくりの方が格段に早い。
あっと言う間に距離が詰まられるかと思った。
が、運良くすっ転んだれみりゃは勢いに任せて地面を転がり始めた。
これでは流石に追いつけない。
「……くんくん……!!! こっちだよ!!!」
しかし、一匹のアリスが懸命にゆっくりれみりゃの匂いを追ってゆく。
山を降り終え川辺に、そしてゆっくりの匂いが強く出ている所へ。
「くんくん! こっちからゆっくりのにおいがする!!!」
一帯が盛り上がった場所、れみりゃが巣を作ることはしないので大方散歩していて偶然見つけた巣であろう。
ともあれ、場所は特定できた、後は全員で襲うだけだ。
バサっという音とともにアリス達が中に入ると、そこにはずうずうしくも人の巣の中ですすり泣いているれみりゃの姿。
しかし、入ってきた姿を確認すると、一転口元を緩ませる。
「うーー!!! ? う~?」
どうやら、餌だと思っているのだろう、しきりにどれを先に食べようか思案している。
酷い顔が更に酷く動く。
「う~♪ たーべちゃうぞ~♪」
漸く、その顔面運動が止み一匹に狙いを定め襲い掛かかろうとしたれみりゃ。
しかし、相手は集団のゆっくりアリスである。
「れ!れ!れみりゃ~~~!!!!!」
「う~♪ !!!!! うわーーー!! うわーーー!!!」
勢いよく、れみりゃに向かってアリスが飛びつく。
押し倒されたれみりゃに更に群がっていくアリス達。
それらは、必死にれみりゃの顔に自分の顔をすりつけ振るわせる。
段々と顔が赤くなってゆくアリス達、口から出る涎はれみりゃの服をべたべたに汚している。
「ざぁぐやー!!! どごーー!! れみりゃをだずげでぇーーー!!!」
対するれみりゃは興奮などしていない。
唯、自分の面倒を見てくれている者の名前を挙げて泣き叫んでいるだけだ。
「れみりゃでもいいよ!!! れみりゃもだ~いすき!! まりさや、れいむやぱちぇりーやありすのつぎにだーいすきだよーーーーー!!!!」
そう、アリス達は相手が興奮しようがしまいが関係ない。
何故なら自分がれみりゃを好きだから。
それ以上に相手も自分を好きになってもらいたくて、執拗に体を摺り合わせている。
「「「「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!!」」」」」
「うがぁっ!! う゛あ゛ああああああああぁ!!!」
いよいよ交尾も終盤、加工場のように一匹のゆっくりに対して複数のゆっくりアリス。
普通のゆっくり以上の負荷のかかる為、既にれみりゃは白目を剥いて痙攣している。
「れみりゃも!! ありずどのごどもがんばっでうんでねーー!!!!!」
一匹のアリスの声が引き金になり、次々とすっきりしていくアリス達。
「「「「う~♪ すっきり~~~~♪」」」」
全員がすっきりする頃にはれみりゃは完全に気絶していた。
起きたら、数匹の自分の赤ちゃんと一緒に紅魔館に帰るのだろう。
なんともメイド長だけが喜びそうな光景ではあるが、……。
「ゆ~! そろそろありすたちもおうちをさがさないとね!!」
「そうだね! とかいはのありすたちは、のじゅくなんてできないもんね!!!」
「はやくぺんしょんをさがそうね!!」
そそくさとゆっくりの巣を後にする。
山に舞い戻り、自分たちがゆっくり出来そうな場所を探し出す。
「ゆ! こっちにいいおうちがあるよ!!」
割とあっさり見つかった洞穴とでも言うかのような大き目の洞窟。
ゆっくりアリス達は大きさに惹かれたのか、一匹、また一匹と惹かれるように中に入ってゆく。
「ゆゆ!! ここはれいむのおうちだよ!! もうくらくなってゆっくりできないからありすたちはゆっくりでていってね!!」
どうやら先客が居たようだ。
ゆっくりれいむの大家族、全員で輪になってゆっくり話していたところに来たお客さん。
もともと温厚なゆっくり霊夢だが、家族でゆっくりしている時に来られたら流石に一緒にはゆっくりできないようだ。
「ふーん……。なかなかしくなおうちだね! まぁ、このくらいのおうちだったらありすたちがとまっていってあげるよ♪」
ありすたちはそんなことは関係ないとでも言うかのように、ズイズイと奥に入り込んでくる。
「ゆゆ!! せまいよ!! ゆっくりできないならでていってね!!!」
居場所を奪われた一家は勿論抗議するが、はいそうですか、と聞くゆっくりありすではない。
「おきゃくさまにいいせきをかくほするのは、とかいはのきほんじこうだよ!! れいむたちもこいきなとかいはだったら、ゆっくりりかいしてね!!!」
そういって霊夢達を段々と奥へ奥へと追いやったアリス達は、一家が頑張って蓄えてきた食べ物を発見するとものすごい勢いで貪り始めた。
「ゆゆ!! こんなにたべものがあるよ!!!」
「きょうはごうかなでなーができるね!!」
「ふーん、こんなへんぴなところで、こんなものがたべられるなんて!」
「ぱーてーだね!! ここにひろげようね!!」
本人達は上品に食べているつもりだが、生憎手足が無いので食べ方は傍から見ると他のゆっくりと大差ない。
むしろ、食べ物を撒き散らして食べる当たり、他のゆっくりより意地汚いのかもしれない。
「やめてね!! それはれいむたちがあつめたごはんだよ!! ありすたちのじゃないよ!!!」
「ゆっくりやめてね!! みんなであつめたんだよ!!!」
「ゆっくりちてね!!」
一家が必死になって抗議したのが効いたのか、アリス達の動きがパタと止まった。
それだけではない、全員が体を震わせなにやらボソボソ呟いている。
間違いなく、お腹がいっぱいになったゆっくりアリスたちが交尾に入る準備だった。
「れっ!! れいむーーー!!!!」
「だいすきだよーー!!!」
「そのりぼんなかなかかわいいね!!!」
「くりくりのひとみもかわいーよ!!!」
「ゆ!! やっやめてね!! みんなでゆっくりしようね!!!」
「「「「「おかあさんれいむがいうならしかたないね!!! こどもたちもみんなでゆっくりすっきりしようね!!!!!」」」」」
スイッチが入ったアリス達は、手当たり次第に巣の中のゆっくり霊夢に擦り寄っていく。
子供達はその様子にパニックになり、身動き一つできないで居る。
「ゆーー!!! おかーしゃーーん!! おかーーしゃーーん!!!!」
「ゆ!! れいむもみているだけじゃなくていっしょにすっきりしようね!!!」
「!! いやだぁーー!! ゆっくりちたいー!!!! ゆっ! ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!!!!」
「はぁはぁ、れいむ!! ちいさいのにせっきょくてきだね!! そんなにありすのことだいすきなんだね!!!」
「ゆゆゆ……!!! ゆ゛っ゛ぎゃ゛ら゛ーーーーー!!!!!!!」
「……! すっきりーーーー!!!!」
既に朽ち果てた赤ちゃん霊夢には目もくれず、数人が相手をしているお母さん霊夢の元へ駆け寄る。
子供達がドンドン朽ち果てている中、このお母さん霊夢は必死にアリスを追い出そうとしていた。
「ゆゆゆゆゆ!!!! やめでね!! ゆゆゆゆゆ!!! おうちからでていってね!!!」
「れっれいむーーーー!!!! つんでれなれいむもだいすきだよーーーー!!!!」
「!!!!!!!」
先ほどのアリスのが加わり一気に勝敗が決まった。
「ゆゆゆゆゆゆゆ!!!! ゆっぐりじでだけっかがごれだよ!!!!!」
「「「れいむーー!!! ありすとのかわいいこどもいっぱいうんでね!!!!!」」」
「……!!!」
そこからは、アリスたちの声にかき消されて霊夢の声は全く聞こえなかった。
……。
翌日、残っていた食事を取ってアリス達が出て行った巣には、沢山の赤ちゃん霊夢が生まれていたという。
しかし、その日のうちに濃厚な餡ペーストとなってしまったが……。
「れいむはやっぱりかわいいね!!」
「とかいはのありすたちのてくにっくでめろめろになってたね!!!」
「なかなかのおうちだったね!」
霊夢の巣を出発し、思い思いの感想を話し合っていると、いつの間にか人里に出ていたようだ。
周りにはちらほらと家が立ち並び、人々は遠くの畑で精を出していた。
「ゆゆ!!! にんげんのおうちだよ!!!」
「やっぱりとかいはのありすたちはこういうおうちにすまないとね!!!」
「どのおうちにする?」
「!! あのおうちにしよう!!!」
他の家よりも一回りほど大きく、入り口には大きな門も建っている。
ゆっくりアリスでなくとも、なかなか裕福な家だと言うことくらい分かるだろう。
「ふーん……。まぁまぁのおうちだね」
「はやくはいろうね!!!」
周りをグルグル回り、ちょうど入れそうな隙間を見つけ中へ入っていく一行。
「ゆーー!!!!」
予想通り、農村には珍しく綺麗な家だった。
モノはきちんと整理されており、清潔感が漂っている。
「うん! なかなかきれいなおうちだね」
「でも、すごいいなかくさいね!!」
「せっかくとかいはのありすたちがとまるんだから、とかいふうにこーでねーとしてあげよっか!」
「「「うん、せっかくだからそうしてあげよう!!!」」」
……。
「なんだよ、これ……」
帰ってきた男の第一声はそれだった。
綺麗にしていたはずの玄関は靴が全て出されて乱雑に並べられており、ご丁寧に全て泥まみれになっている。
そこから続く廊下も綺麗に土が敷き詰められており、決して靴を脱いでは上がれない状況だった。
仕方がなしにそのまま家に上がる。
すると、居間の方から賑やかな声がする。
そう思った男は、勢いよくドアを開け放った。
「ゆ? おかえりなさい! ありすたちがとかいはにこーでねーとしてあげたよ!!」
「これからしばらくのあいだ、ここでいっしょにくらすことにしたの」
「るーむめーとっていうんだよ!!! おじさんしってた?」
「しかたがないから、とかいはのありすがるーむめーとになってあげるよ!!!」
男はそれだけ聞いてもう一度室内を見て回った。
ここにも土がしいてある、おそらくほかの所も同じだろう。
花瓶は床に庭に落ちて割れていた。
花は、おそらくアリス達が頭につけているものがそれであろう。
置物、掛け軸、本等は全て囲炉裏にくべられている、消したつもりだったがくすぶっていたのだろうか、殆どが灰になっていた。
台所は、……見るも無残。
全ての食材がぶちまけられ、食べられた痕も見受けられる。
二階の寝室、布団は土に埋まり、着替えも全て泥の中。
「どろはせいけつなんだよ! ありすたちはとかいはだからなんでもしってるんだよ!!」
と、ここまで、ずっとこのアリス達は男の後ろをついて回っていた。
その瞳は期待に満ち溢れている。
大方、流石都会派だね! とでも言って欲しいのだろうが。
「おじさん! きょうはありすたちがでなーをじゅんびしてあげるよ!!!」
「ありすたちはおりょうりもうまいんだよ!!」
「おいしいおはなやこんちゅうをいっぱいしってるんだよ!!」
「さっききっちんをみたでしょ!! ありすたちがいっしょうけんめいじゅんびしてあげたんだよ!!」
「みんなでゆっくりしようね!!」
「……。そうかい、でもねぇ、人間は土の上で生活しないし、服も泥だらけにしないし、食べ物もきちんと閉まっておくんだよ」
ポツリポツリとアリス達に向かって話しかける男、勿論更生させるつもりは全く無い。
「ゆゆ! おじさんはほんとにいなかものだね!! とかいのみんなはちゃんとこうしt……!!」
一匹の煩いアリスの口を強引に塞ぐ。
方法はいたって簡単。
口を引っ張って釘を打ち込むだけだ。
幸い、アリス達がボロボロにしたモノの中から釘はすんなりと見つかった。
「!!!! んんーーー!!!」
「ゆゆ!! おじさんなにするの!! ありすにあやまってね!!!」
「これだがらいなかものはきらいだよ!!!」
「そうかい? でもねぇ、俺の家をめちゃくちゃにしたのはお前らなんだから、きっちり責任を取ってもらうよ?」
「だぁかぁらぁー! アリスたちがせっかくとかいはのおうち!! んびゃぶ!!!」
「うるさいなぁ。……これ以上なんか喋ったら、この二匹と同じようになるぞ?」
「「「!!!!」」」
男の宣告に、残っているアリス達は押し黙る。
それからは誰も口を開こうとはせず、二匹の声にならない悲鳴だけが辺りを包んでいた。
「それじゃあ聞くけど?」
沈黙を破るように男が口を開く。
「人間はどんなお家で生活するんだっけ?」
あくまで疑問系で尋ねてはいるが、その口調は有無を言わせぬものが有った。
「にんげんのおうちはきれいにかたずいてるよ!!」
「かびんもきれいにかざってあるよ!!」
「おいおい! さっきお前達は全く逆のことを言ってなかったか?」
「「!!!」」
「ごめんなざい!!! とかいはのありすたちのおうちみたいに、おじさんのおうちをきれいにしたかったんです!!!」
「おじざんによろごんでもらいだがったんです!!!」
「にんげんとおどもだじになりだがったんです!!!」
プライドを捨てて、必死に説明するアリス達。
先ほどの威勢は何処に言ったのか、ゆっくり霊夢や魔理沙の泣き方よりも随分酷いものだ。
「そうか。わかってくれたかい?」
「「「「うん!! ゆっくりわかったよ!!」」」」
男は、二匹の釘を抜いてやった。
それを見たアリス達の顔に笑みが戻る。
助かった、やっぱり都会派の人間は優しい……。
「じゃあもういいよ。ゆっくりしてね」
「ゆ? !! ゆっぐりんびゃってい!!!!!」
手近に居たアリスを捕まえて体を縛る。
絶対に外れないように、それはもうキツキツに。
その処理を、全てのゆっくりに済ませた後、庭に連れて行き柱にしっかりと結び付けておく。
「うごけないよ!! はやぐなわをほどいてね!!!」
「ありすはどかいはなんだよ!! こんなことするいなかものはゆっくりできないよ!!!」
全く気にすることも無く、芋煮用の大きな鍋にたっぶりと水を入れ薪を入れる。
後はゆっくりアリスを入れてしばし待つだけだ。
「ゆ! あったかい!! おふろだよ!! おふろだよ!!」
「ゆっくりできるよ!!」
「おじさん!! はーぶかゆずをいれてね!! とかいはのありすはただのおふろなんてはいれないよ!!」
普通ならこのまま釜茹でだが、40度前後を保ちながらゆっくりとアリス達を浸からせる。
「いいゆかげんだね!!」
「さいこうのばすたいむだね!!!」
顔がほんのり赤みを帯びてきたら頃合だ。
「ゆ!! おじさん!! ありすはまだつかっていたいよ!! ひとのばすたいむはじゃましちゃいけないよ!!!」
一匹を捕まえて準備しておいた寸胴へ。
「ゆ? んぎゃらっぱいん!!!!!」
額に穴を開けて吊るしておく。
見ると、熱で柔らかくなったカスタードがドンドン流れ落ちていく。
「ゆ!! ありすのあんこが!!! とかいはのありすのあんこが!!!」
都会派ならカスタードくらい知っておけよと突っ込みたくなるが、自分の体から流れるカスタードを見て焦り、恐怖を覚えるアリス。
これならドンドン美味しくなるだろう。
「ゆゆ!! やっぱりいなかもののおうちじゃゆっくりできないよ!!!」
「!!! でれないよ!!! おふろからでれないよ!!!!」
丁度他のゆっくり達からも見える位置で作業しているので、慌てふためいて逃げ出そうとするアリス達。
しかし、つながれている縄は中に沈んでいる重しに結びついているので、逃げたくても自由に体の向きすら変えることができない。
これも中身を美味しくするコツだ。
「ゆ~~~~!! れいむぅ~~!! まりさぁ~~!! たいせつなおともだちのありすをたすけt……」
どうやら、餡子がなくなったようだ。
居るはずの無い友達の名前を呼びながら、中身を全て出して死んでいった。
それを見ていたアリス達も一様に騒ぎ始めた。
「ありずーー!!! どーじでとがいはのありずたじにこんなごとするのーー!!!」
「ありずたちはなにもめいはぐかけでないよーー!!!」
「ここはおじさんのおうちだよ!! とかいはのありすたちだからるーむめーとになってあげたのに!!!」
さぁて。
「さぁて、次は一番の都会派のアリスにしようかな?」
「「「!!!」」」
アリス達の震えがお湯に伝わり、大きな波を立てる。
「あっ、ありすはあんまりとかいはじゃないよ!!!」
「ありすもだよ!! ありすもあんまりとかいはじゃないよ!!!」
「ありすはじょーきょーぐみだよ!! だからとかいはじゃないよ!!!」
「……。そうか、君達のいう事はよく分かったよ」
「「「ゆ♪」」」
「そういえば、都会派の君たちが俺のお家を綺麗にコーディネートしてくれたんだもんね。みんないっぱしの都会派だって事忘れてたよ」
じゃあ次は君から。
「!!!」
一匹のアリスを掴んで、男は作業を再開した。
……。
翌日、男は昨日集めたカスタードを持って近くの街のまで来ていた。
取引のある屋台の店主に、カスタードを買ってもらうためだ。
「やぁ、今日は店を出してないんですか?」
屋台が出ていなかったので店主の家へ、そこには店主とゆっくりれみりゃの親子、そして金髪のきれいな女性がお邪魔していた。
「いやぁ、昨日コイツラが店の商品をめちゃくちゃにしてね。麺棒でブッ叩いて家まで運んできたんだが、そこで良い考えを思いついてね」
それを、ご贔屓にさせてもらってるそこの魔法使いのお嬢さんに話したら、ぜひとも協力させてくださいって言われてさぁ、と店主は言葉を続けた。
「そうだったんですか。実は家も昨日ゆっくりに酷くやられましてね。幸い、本当に貴重な品は無事だったんですけど、他はこっぴどくやられてしまいまして。それで、今日はこれを買い取ってもらいたいんですが……」
申し訳なさそうに、カスタードが入った寸胴を差し出す。
店主は一口味見をした後、気前よく買い取ってくれた。
男の言い値より遥か高く。
「気前がいいですね?」
「いや、あの調教が終わったら高収入間違えなしだからね。そうだ、味見をしてみるかい?」
「いいんですか?」
「もちろん! ありすさん、一回やってみてもらっても大丈夫ですか?」
「ええ」
奥で泣き叫んでいた親れみりゃを無理矢理引きずりながら、アリスと呼ばれた魔法使いがこちらにやってきた。
「うあーーーー!! ざぐやーーー!! こわいひどがいどぅーーー!!!」
「少し待ってくださいね」
業務用の大きな鍋に水を張り、一瞬で沸騰させる。
その、ボコボコいっている鍋の中へ一匹の子れみりゃを迷い無くぶち込む。
「う!! !! あじゅいよーー!! まぁまぁーー!! ぼごっ! ……まぁmうぐっ!!」
箸を器用に動かして、ころころと中のれみりゃを動かす。
「うーー!! れみりゃのぷりでぃーーなあがじゃんがーー!! うーー!! たべちゃうぞーー!!!」
テコテコと歩きながら近づいてきたれみりゃを、アリスが凄い音を立てて蹴り返す。
「うーー!! !!? うっぎゃらぺっちゃーーー!!!」
後ろに居た人形に五寸釘で受け止められた、もはや喜劇にしか見えない。
「さてと、これくらいで良いかしら……?」
茹でたこのように、顔を真っ赤にしたれみりゃを魔法で運んでいく。
男達の下ではなく、お母さんれみりゃの下へ。
「うわーー!!! あがじゃん!! あがじゃん!!!」
すっかり傷が再生したのか、急いで子れみりゃの元へ駆け寄っていくれみりゃ。
しかし、移動速度は歩いている時と殆ど変わらない。
「はいはい! ……っしょっと! ほら、さっき教えたとおりにやってみなさい」
「!!! うぎゃーー!! いだいよーー!! まぁまーー!!!」
「うー!! うー!!!」
親れみりゃの手に載せられたのは子れみりゃの腕。
目の前で自分の子の手を引きちぎられて親も子供同様大パニックだ。
「ほら! さっさとしなさい」
「うーー!! いやだぁーー!! れみりゃのぷりでぃーなあがじゃんがーー!!!」
「うるさい!! 言うこと聞かなかった罰よ」
人形がまた親れみりゃに五寸釘を刺す。
今度は先程とは違い、体中満遍なくだ。
「うっじゃーーー!! いだい!! ざぐやーー!!! ざぐあ--!!!」
「ほらほら、さっさとやらないともっとお仕置きよ?」
「うう! う~♪」
ドガッ。
腹部に蹴り、思いの他効いたようで口から餡を吐き出す。
「返事は、ハイ、よ!」
「ハイ!! ハイーーーーー!!!」
そこからは、泣きながらの料理だった。
たどたどしく、腕を手で開いて餡を取り出す。
残った皮を捏ねて再度成形する。
そこに先ほどの餡を入れて形を成形。
出来上がったのは肉まんだった。
「んー!! うじゃ!!」
黙って男にその肉まんを差し出そうとした矢先、またしてもアリスの蹴りが鳩尾に入った。
「だれが、そんな事を教えたかしら?」
「うーー!! れみりゃの、れみりゃのぷりでぃーな!! んびゃお!! ……れみりゃのごどもだじがらつぐったにぐまんです!! どぉぞぉ~!!!」
散々蹴られながら、何とかそれだけ口にして男に肉まんを差し出した。
「へぇー。肉まんが作る肉まんですか」
「おう、どうやら紅魔館近の中でくそ大切にされていたれみりゃらしい。その子供も味は格別だぞ」
「そうですか。では、頂きます」
一口かじった男は、暫く口の中で咀嚼した後、賞賛の声を上げた。
「うまい! これはすごく上手いですよ!!」
「だろ、これは間違いなく良いビジネスになるぞ」
「うーー!! ぞれはれみりゃのあがじゃんだのーー!!」
「いい加減煩いわ……」
話に割り込んできたれみりゃに向かってアリスが弾幕を放った。
綺麗に首から下を吹っ飛ばされたれみりゃは何が起こったのか分からず、襲い来る痛みだけを絶えていた。
「あぁあーーー!! いだいーー!!! れみりゃのがらだがーー!! れみりゃのきゅーどぅなからだが!!」
「ちがうでしょ。何回も教えたわよねぇ。こういう時はなん言うんだっけ?」
「!! ぐずっ!! ……れみりゃどぉー、あがじゃんがらずぐったにぐまんをおいじくたべでもらっでありがどうございまじだぁーー!!!!!」
「そう、それでいいのよ……」
やはり、魔法使いというものは恐ろしい。
男達二人は、それじゃあ続けて調教しますからと言って奥の部屋へ消えていったアリスを、静かに見送った。
「……。そういえば、カスタードって事はゆっくりアリスの集団だったのかい?」
何とか話題を作ろうと、店主が男に尋ねた。
「えぇ。他のゆっくりよりも酷いモンでしたよ」
「はは、あいつらは何故か好き好んで人間の家に入ってくるからな。入ってくる割合はほかのゆっくりより多いんだぞ」
「そうなんですか?」
「あぁ。でも、あいつらはお前さん家みたいにめちゃくちゃにするから、殆どの住人は直ぐに踏み潰してしまうのさ。だから、カスタードもあんまり出回らないんだよ、加工場も増えた奴を間引きするくらいでね」
「へぇ、ところで……」
どうやら、これがきっかけとなり会話が続いていくようだ。
「うっぎゃーー!! ざぐやーー!! だずげでーー!!!」
「「「「まぁまぁーー!!!」」」」
「ほらほら、そんなにとろとろしてたら冷めちゃでしょ? 90秒以上掛かったらまたお仕置きよ!」
奥では、アリスが生き生きとれみりゃを調教している。
この商売が成功する日も近そうだ。
……。
ゆっくりアリスは集団でゆっくりを襲う。
しかし、できるのは殆ど襲われた側のゆっくりの赤ちゃんであり、もし生まれたとしても親は居ない。
そして、その性格ゆえ人間の家に入って集団ごと根絶やしにされる。
それゆえに、アリスが増えすぎたと言う報告はこれから先も出ては来ないだろう。
最終更新:2011年07月27日 23:34