ここは幻想郷の東の端の端、外の世界との境界に位置する博麗神社である。
この神社の床下(縁の下)にはゆっくり霊夢の家族が住んでいた。
お母さんゆっくり霊夢(以後お母さん霊夢)1匹に赤ちゃんゆっくり霊夢(以後プチ霊夢)10匹の幻想郷で最もよ
く見かけるゆっくり一家だ。
「「む~しゃ♪む~しゃ♪」」
「ゆっくりたべてね!」
お母さん霊夢が巣の外で頬袋にためこんだ食べ物をプチ霊夢達に与えている。
住み始めてからゆっくり一家はある意味とてもゆっくりすることができていた。
神社は幻想郷でも辺境に存在するため天敵であるゆっくり種とも遭遇することはまずなく、民家に無断で侵入し人間
に虐殺されるなんてこともなかった。
また、他のゆっくり種との小競り合いもなかった。神社までたどり着くことができるゆっくりがほとんどいないのだ。
(ここで補足しておくと、神社へ人間の里から行くには、見通しが悪く妖怪に襲われる危険もある獣道を通らなればな
らない。神社に通ずる獣道は危険度が高いため、ゆっくりが生き延びて神社にたどり着くことはまずないのだ。)
ではなぜこのゆっくり一家が神社の床下に住んでいるかと言うと話は約1ヶ月前まで遡る。
「よぉ霊夢、遊びに来てやったぜ!」
「なによ魔理沙、またお茶とお菓子をたかりにきたの?」
「そう言うなよ、今日はお茶請けの菓子を持ってきたんだぜ?」
魔理沙は手に持っている風呂敷包みを掲げて見せた。
「そう言うことは先に言いなさい、さぁ上がって上がって。」
「それじゃ、遠慮なく上がらせてもらうぜ。」
魔理沙が卓袱台(ちゃぶだい)の前に座ってくつろいでいると霊夢がお茶を運んできた。
「で、お茶請けのお菓子って言うのはなんなの?」
「これだぜ。」
魔理沙は卓袱台の上に風呂敷包みを置き、結びを解いた。そして霊夢はかたまった。
「・・・・・何これ?」
「何って見ればわかるだろ?私の家に忍び込もうとした不届き者を捕まえて持ってきたんだ。」
風呂敷包みの中から現れたのはスヤスヤと眠っているお母さん霊夢1匹とプチ霊夢6匹だった。
「ゆっくりだと言うのは見ればわかるわよ、こんなの食べられるわけな・・・。」
「食べられるぜ?しかもお茶請けにはぴったりだ。」
「え!?」
驚く霊夢を見て魔理沙も驚いた。
「ひょっとしておまえ、ゆっくりが食べられるって知らなかったのか?」
「・・・私を騙してるわけじゃないでしょうね?」
「騙してなんかないって。」
魔理沙は1匹の眠っているプチ霊夢をつかみ、体の半分ほどに一気にかぶりついた。
「ゆ゛う゛ーー!」
あまりの痛みに悲鳴を上げ一瞬で目を覚ますがすぐに絶命するプチ霊夢。
「今悲鳴を上げたわよ!?」
「そりゃあネムリダケから作った薬で眠らせてあるだけだからな、人里じゃ眠っていないゆっくりでもそのまま食べる
らしいぞ?ちなみにこのゆっくりはちゃんと洗ってから持ってきたからきれいだぞ。」
とてもおいしそうにプチ霊夢を食べる魔理沙の様子から窺(うかが)うに、まずいということはなさそうだった。
「絶対おいしいって、騙されたと思って食べてみろよ。」
魔理沙の強い推しに負けてプチ霊夢を手に取る霊夢。
霊夢の手の上のプチ霊夢はこれから自分に起こる事など知る由もなく、ただスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
そして霊夢は目を瞑(つむ)り一気にプチ霊夢にかぶりついた。
「ゆ゛う゛ーー!」
先程と同じように悲鳴を上げ絶命するプチ霊夢。
霊夢の口の中には甘すぎず、そして濃厚な餡子の旨味が広がっていた。
「おいしい!」
「だろ?私も初めは食べれるって事に半信半疑だったがアリスの家に遊びに行ったとき食べさせてもらったんだ。それ
以来、森でキノコを探すついでにゆっくりも捕獲してるんだぜ。」
「へぇ~いいわね、神社周辺じゃゆっくりなんて見かけないわ。」
「森と違って妖怪やら幽霊が神社の周りには多いからな。」
その後、霊夢と魔理沙は何気ない雑談をしながらプチ霊夢達をたいらげた。
「そういえばこのでっかいのも食べられるの?」
子供が目の前ですべて食べられたのに気が付かず、スヤスヤと眠っているお母さん霊夢を突っつきながら霊夢は魔理
沙に尋ねた。
「食べられるには食べられるんだが餡子はパサパサしててまずいらしい。そいつは別の目的で連れてきたんだ。」
「別の目的?」
「毎回ゆっくりを運ぶのも面倒なんでここで繁殖させようと思ってな。そうすれば饅頭食い放題だぜ。」
「な!バカな事言ってるんじゃないわよ。エサ代がバカにならないわ!」
霊夢は立ち上がり卓袱台をドン!と叩き魔理沙に猛抗議した。
「いやいや、お前がわざわざエサをやる必要なんてない。神社の床下にでも住まわせて自分でエサを取らせばいい。」
霊夢は魔理沙の言葉を聞くと再び卓袱台の横に座り魔理沙の説明の続きを聞いた。
「私も家の近くの木の洞にゆっくりの家族を住まわせてるんだ。食べたいときに眠らせてプチゆっくりを捕まるんだ。」
「そんな頻繁に子供が減るんじゃゆっくりもすぐ逃げ出すんじゃないの?」
「それがな、ゆっくりは頭が悪いから少し子供が減ったくらいじゃ気が付かないんだぜ。」
「・・・・・どこまで⑨なの?こいつ。」
まだスヤスヤと眠っているお母さん霊夢の頬を抓(つね)りながら呆れる霊夢であった。
「で、ゆっくりはどうやったら増えるの?」
「もう一匹ゆっくりを用意して発情させて暗い場所に放置すればいいらしい。だがその方法だと時間がかかって面倒な
んだ。そこでこの秘密兵器を使うんだ。」
「秘密兵器?」
魔理沙は風呂敷とは別に持ってきた入れ物を開け、中から霧吹きのようなものを取り出した。
「私の目の錯覚かしら?ただの霧吹きにしか見えないのだけれど。」
魔理沙は人差し指を立てチッチッチと言いながら指を振って説明を始めた。
「これは確かに普通の霧吹きだが中に入っている液体が重要なんだ。森で採れる幻覚作用を持つキノコから作った魔法薬
が入っててな、これをゆっくりに吹きかけると興奮しだして勝手に子供を生むんだぜ。」
「また妙なもの作ったわね、いったい何のために作ったのよ?ゆっくりに使うためじゃ無かったんだしょ?」
「いやぁ~アリスに使ったらどんな反応をするか見てみたくてな、試しに実験台としてゆっくりを使ったんだ。そしたら
いきなり興奮しだして子供を産んでな、さすがにびっくりしたぜ。」
霊夢は呆れていたが結果的に饅頭の数を増やすことができるようになったのだからとこれ以上突っ込むのはやめた。
「それじゃそろそろはじめようぜ。」
魔理沙はお母さん霊夢を持ち上げると霊夢を誘い庭へ出た。
「子供を生ませる前にやっておかないといけないことがあるんだ。さすがのゆっくりブレインでも目を覚ませば森とは別
の場所にいるのには気が付くからな。初めが肝心なんだ、途中話かけるから適当に返事をしてくれ。」
「えぇわかったわ。」
魔理沙は抱えているお母さん霊夢を離した。当然お母さん霊夢は自由落下を始めドスっと音を立てて地面にぶつかる。
さすがに衝撃が大きかったのかお母さん霊夢は目を覚ました。
「ゆ?ここはどこ?おうちがないよ!れいむのこどももいないよ!」」
混乱してキョロキョロ周囲を見回すお母さん霊夢に後ろから魔理沙は話しかけた。
「お、やっと起きたか。体は大丈夫か?」
お母さん霊夢は振り向いたが少し警戒しているようだった。
「おねえさんだれ?ここはどこなの?れいむのこどもはどこなの?」
警戒するお母さん霊夢の前にかがみこむと魔理沙は話し出した。
「実はなお前達の一家はゆっくりれみりゃの集団に襲われたんだ。たまたま通りかかった私がゆっくりれみりゃを追い払
ったんだが・・・残念ながら子供はすべて食べられてしまったんだ。」
突然の魔理沙の説明に呆然とするお母さん霊夢だったが次第にぶるぶる体を震わせ始めた。
「・・・・・ゆ゛う゛う゛う゛う゛う!!!」
そして次第に目から涙が流れ出し、
「どおじでぇ゛ぇ゛ぇ゛!? どおじでぇ゛ぇ゛ぇ゛!? そんなのれいむはおぼえてないよおぉぉぉ!」
「落ち着くんだ、あまりのショックに覚えてないだけなんだ。」
必死(演技)に魔理沙はお母さん霊夢をなだめようとするが一向に泣き止まない。
「れいむのがわいい、がわ゛い゛いごどもがみんなしんじゃっだなんでうぞだあぁぁぁ!」
「うそじゃないんだ、これを見るんだ。」
魔理沙はスカートのポケットから先ほどお茶請けにおいしくいただいたプチ霊夢達のリボンを取り出して見せた。
「あ゛!あ゛あ゛あ゛!でいぶのがわいいこどもが!こどもがあ゛ぁぁぁ!」
お母さん霊夢は子供達がゆっくりれみりゃに食べられたと信じたようだ。
10分ほど放っておくとお母さん霊夢は次第に泣くのをやめだした。
「どうだ?落ち着いたか?」
「うん、おねえさん、れいむをたすけてくれてありがとう。」
自分の子供を食べた張本人だとは思いもしないお母さん霊夢は魔理沙にお礼を言った。
「あそこにいる巫女にも礼を言った方がいいぞ。お前の怪我を治療してくれたんだ。」
お母さん霊夢は跳ねて進み霊夢の足元で止まり上を見上げた。
「あかいおねえさん、れいむのけがをなおしてくれてありがとう。」
「えぇいいのよ。」
霊夢は適当に返事をした。
泣き止みはしたが、まだショックから立ち直れずに呆然としているお母さん霊夢に魔理沙が話しかける。
「よかったら友達になってくれそうなゆっくりでも紹介してやろうか?」
「ともだち?」
友達という単語に反応しお母さん霊夢は顔を上げた。
「あぁ一緒にゆっくりできる友達だ。」
ゆっくりという単語にお母さん霊夢はさらに反応した。
「ゆっくりともだちをしょうかいしてね!」
すかさず先ほどの魔法薬の入った霧吹きを吹きかける。
「ゆ?」
頭の上に?マークを浮かべるお母さん霊夢であったが、次第に口はだらしなく開かれ、顔は赤みが濃い色彩を帯
び、目はとろんとしだした。
「ま、まりさぁ、れいむもまりさのことがだいすきだよ!」
一匹しかいないのに何かに擦り寄る動作をするお母さん霊夢。しばらくすると興奮しながら体をうねらせる。
「ゆゆゆゆゆ!んほおおおおお!」
大声を上げ口を大きく開けたまま硬直するお母さん霊夢。
しばらくするとお母さん霊夢の頭から緑の芽が顔を出し、ぐんぐんと成長していった。
「な、なに!?私の饅頭生産機に何が起こったの?」
霊夢はお母さん霊夢の状態を見て心配になったのか魔理沙に質問した。
「心配するな、ゆっくりの子供は母親ゆっくりの頭から伸びた蔓に実るんだ。ちなみに成熟していないゆっくりが
子供を生むと黒くなって朽ちてしまうんだ。これくらいでっぷり成長したゆっくりなら大丈夫だがな。」
しばらくすると伸びた茎の先にゆっくり霊夢の赤ちゃんが実りだした。お母さん霊夢の意識はまだ戻っていない
が朽ち果ててはいなかった。その様子をまじまじと見ていた霊夢は不思議そうな顔をしていた。
「それにしてもゆっくりっていったいなんなのかしらね?動物のようだけど中身は餡子だけ、子供は植物のように
増える、さらには幻覚を見せたくらいで勝手に興奮して子供を産むだなんてまったくもって理解不能な生物だわ。
生物かどうかも怪しいわね。」
「確かにわけのわからない生物だな、まぁ私からすれば簡単に饅頭が手に入るようになったという事実があれば十
分だがな。」
30分程経つと蔓の先に実ったプチ霊夢達は先ほどおいしくいただいた物と同じくらいのサイズに成長していた。
1匹のプチ霊夢が蔓の先から音も無く切り離され地面に落ち、それに続くかのように他のプチ霊夢も続々と地面
に落ちていった。そして1番初めに地面に落ちたプチ霊夢がむくっと顔を上げた。
「ゆっくりちていってね!」
それが合図であるかのように他のプチ霊夢たちも目を覚まし次々と産声(ゆっくりちていってね!)を上げた。
最後のプチ霊夢が産声を上げるとお母さん霊夢の意識が戻り、蔓も抜け落ちた。
「・・・ゆ!まりさはどこ?」
幻覚を見ている最中の交尾相手であるゆっくり魔理沙を探しているようだった。
「よぉ気が付いたか。ゆっくり魔理沙ならお前が子供とゆっくりできるように去って行ったぜ。」
「ゆ!そうだったの!さすがれいむのおともだちのまりさだね!ともだちおもいだね!」
さすがゆっくりブレイン簡単に信じ込んだようだ。
周りにいる総勢15匹のプチ霊夢はお母さん霊夢に擦り寄ってきた。
「「おかあさん、おかあさん」」
「みんなれいむのたいせつなこどもだよ!こんどはぜったいまもるよ!」
ちなみにお母さん霊夢が魔理沙に捕まったのはお母さん霊夢自身が魔理沙の家に忍び込もうと提案したのが原因
である。自業自得だ。
初めは親子で頬ずりし合っていたが、しばらくするとお母さん霊夢は周囲をキョロキョロ見回しだした。
「いまからゆっくりできるばしょをさがしにいくよ。」
それを聞くと待ってましたとばかりに魔理沙が前に出る。
「それならオススメのゆっくりできる場所があるぜ。」
お母さんれいむの目の色が変わる。
「ゆ!おねえさん、れいむたちをそこにゆっくりあんないして!」
魔理沙は神社の縁側までゆっくり一家を案内した。
「ここだ、ここから建物の床下に入れるんだ、広さは十分なはずだぜ。」
お母さん霊夢はプチ霊夢達をその場へ待機させ巣の下見のため1匹で床下へもぐっていった。
3分ほどすると入っていった場所からお母さん霊夢がにょきっと顔をだした。
「きにいったよ!きょうからここがれいむたちのおうちだよ。」
「「おうち♪おうち♪」」
図々しくも早速自分の家宣言をするゆっくり一家。
一家そろって大喜びだ。そこにすかさず魔理沙が釘をさす。(言葉で釘をさすって意味だからね)
「そうそう、この建物の中には絶対に入っちゃだめだぞ。ゆっくりにとって危険な物がたくさんあるんだ。もし入
ったら二度とゆっくりできなくなるからな。たとえ中からおいしそうな匂いがしたとしてもだ。わかったか?」
「ゆ!ゆっくりできなくなるのはいやだよ!ぜったいなかにははいらないよ!」
お母さん霊夢は魔理沙の言葉を信じたようだ。ゆっくりブレイン+優しいお姉さんの言葉というのが効いたのだ
ろう。
「子供達にも言い聞かせるんだぞ、わかったか?お前達が巣にする床下は安全だからゆっくりすればいい。」
お母さん霊夢は頭だけの体でお辞儀をするとプチ霊夢達を連れて床下へもぐっていった。
「意外に聞き分けが良かったわね、あの饅頭生産機。」
ゆっくり一家が床下へ消えると霊夢は話し出した。
「成長したゆっくりは言い聞かせればある程度約束は守るんだ。もし霊夢の居住スペースに入り込んできたら眠ら
せて子供をすべて食べるなり料理してしまえばいい。その後母親を別のところへ移してさっき私が見せたような
演技をして恐怖を植えつければいいのさ。」
「わかったわ。それにしてもよくあんな演技ができるわね、ある意味感心するわ。」
「饅頭のためだぜ!」
一通りの作業が終わる頃には日が傾きかけおり、魔理沙は睡眠液と幻覚液の入った霧吹きをそれぞれ霊夢に渡
すとほうきにまたがり家へ戻っていった。
霊夢は念のため饅頭達が進入できないように居住スペースに結界を張った。
次の日、お母さん霊夢は目覚めるとまず初めに子供達の確認をした。
「ひー、ふー、みー。ちゃんとみんないるね!」
成長したゆっくりとは言え所詮ゆっくりブレイン。数は3までしか数えることが出来ない。
現在お母さん霊夢の横で眠っているプチ霊夢の数は14匹。昨夜霊夢が1匹こっそりとさらいおいしくいただい
たのだ。もちろんお母さん霊夢は気が付いていない。
「みんな~ゆっくりめをさましてね。」
プチ霊夢達がすべて目を覚ますと巣から出ないように注意した後、エサの調達に出かける。
神社の周囲には昨夜霊夢によって結界が張られていた。お母さんゆっくりが遠くまで行って人間や妖怪に捕まら
ないようにするためだ。
もちろんエサがある程度確保できるように神社の境内から少し距離を置いたところに結界は張ってある。
お母さん霊夢はいずれ霊夢たちにおいしく食べられてしまうプチ霊夢達を育てるためにせっせとエサを集めをす
るのだった。
こうしてこのゆっくり一家は子供が頻繁に減るものの、その事に気が付かないためある意味とてもゆっくりと過
ごすことが出来たのである。
End(前編)
作成者:ロウ
最終更新:2008年09月14日 05:50