おぜうさまのこーまかん
家に帰ると大きな段ボール箱が玄関前においてある。
「ああ、『胴付き
ゆっくり用のペット小屋”おぜうさまの☆こーまかんだどぉ♪”
ラージサイズ』が届いていたのか(なんて不自然かつ長いセンテンスなのだろう)」
段ボール箱が邪魔で玄関から上がれないので、両手で箱を押しのける。すると、
ぐもっという弾力と「う゛ー!?」というれみりゃの悲鳴が起こった。
つまり、こういうことなのだろう。
段ボール箱が届く。
↓
「うー!おぜうさまへのぷれぜんとにちがいないどぉ♪」
↓
開封しようとするが、れみりゃの不器用な手ではガムテープをはがすことができない。
↓
「うー!うー!さくやー!」
↓
泣き疲れて箱の陰で寝る。
↓
俺帰宅
↓
ぐもっ
「えぐっ、えぐっ」
「やれやれ……」
ところで、梱包を開けられなかったのはれみりゃにとってちょっとした幸運といったところだ。
もし勝手に開封していた場合には、お帽子没収の刑を与えることになっているのだ。
もっとも帽子なしではぐずりが酷いので、俺はいつもパーティー帽をかぶせてやることにしているのだが。
いかにもチープなパーティー帽をかぶせてやっただけで機嫌を直す様は滑稽だし、ルックスの
間抜けさ加減も良い感じでおすすめだ。
* * * *
さて、わざわざ値の張る”おぜうさまの☆こーまかんだどぉ♪”ラージサイズを買ったのは、
なにもれみりゃをこれ以上高慢にさせてよろこぶためではない。むしろその逆だ。
「れみりゃの~、謙虚なところが見ってみったい~」
鼻唄を歌いつつ”こーまかん”を庭で組み立てる。どうせまとわりついて作業の邪魔をするに違いない
れみりゃは檻の中だ。
無事完成したこーまかんを見上げて一息つく俺とハイテンションのれみりゃ。
「うーうー!!こーまかーん~♪おぜうさまの~♪」
俺はれみりゃを檻から出してやる。
「うっうー♪」
「これ、待ちなさい」
俺はれみりゃを制止する。が、そんな話を聞くようなれみりゃではない。
普段にない力を発揮して強引に俺の脇をすり抜け、こーまかんに向かう。
「う~う~」
「待たんかい!」
とりあえず、足も砕けよとばかりに背後からローキックをお見舞いしておいた。
「ぎゃおーー!!??」
「あ゛う゛~あ゛う゛~」
泣きながらのたうちまわるれみりゃに、俺は説明を始める。
ちなみに足は吹っ飛んだが、すでに再生を始めている。
ゆっくりだから大丈夫デース。
「さて。今日はれみりゃへのプレゼントがあるんだ。
……一つはアレ」
庭にはっきりと存在感を示しているこーまかんを指差す。
さすがに(
ゆっくりの住居としては)よく出来ている。瀟洒ならせん階段やらダンスホールらしき場所まであり、
あれなら思う存分れみりゃの虚栄心を満たすことができるだろう。
「あう~。こーまかん、とってもうれし~どぉ~!おぜうさまのえれがんとなおうちにふさわしーどぉー!」
「そして、もう一つはアレ」
俺は庭の隅を指差す。
「あう?」
そこには、もう使われなくなったみすぼらしい犬小屋がある。
「あそこに、ぷっでぃーんを置いておいた。どっちか好きなほうをお選びなさい」
「うー☆ぷっでぃーんー!」
腕の力と翼のはばたきで、れみりゃは犬小屋の方へ進み始める。
「どっちか片方だけだぞ」
俺は言ってやる。ぴたっ、とれみりゃの動きが止まった。
「う~う~」
おお、迷っている迷っている。
れみりゃ種の根底にある”えれがんと”への憧れを満たす立派なこーまかんと、とっても大きなプリン。
このれみりゃはどちらを選ぶのだろうか?
「うーぷっでぃんー」
のそのそと、犬小屋の方へ向かって行く。
「こーまかんはいらないのな?」
ぴくっ
「……こーまかんもほしーどぉー。だけどぷっでぃんたべるどぉー」
「あっそう」
「むーしゃむーしゃ……しゅしゅしゅしゅごいどぉぉぉぉぉ!!!!とってもおいちーどーー!!!」
俺の特製バケツプリンを感激しながら食べるれみりゃ。
「あう~あんまいどぉ~……あう?」
それを半ばまで食べたあたりで、れみりゃの顔色が変わった。
「ん…?む…ぷぅぅぅぅ!!」
好き嫌いをするれみりゃのために、ペースト状にした野菜を中につめておいたのだ。
甘いプリンと大嫌いな野菜の味が混ざってどうしたらいいのかわからないのだろう、
「……!……!」
どうにか飲み込むことには成功したらしい。
「うーうー!まじゅいのやだどぉー!!まじゅいのぽいっしておいしーぷっでぃんたべるのー!!」
手足をばたつかせているれみりゃを横目に、俺は庭から縁側に戻る。
「あう。おぜうさまのこーまかん~」
しばらくして機嫌を直したれみりゃは、とてとてとこーまかんの方に歩く。
洋館風になっている門の前に立ってもう一度こーまかんを見上げる。
「とおってもえれがんとだどぉ~。おぜうさまのおやしきにふさわしいどぉ~」
そのままれみりゃは門の前で踊り始めた。
「うっう~うあ☆うあ☆」
「れみ☆りゃ☆うー!」
ひとしきり踊ったあとで、門に手をかける。
「きょうからおぜうさまのおやしきだっどぅ~。すてきだど~」
ガチャ。
「あう?」
ガチャガチャ。ガチャガチャ。
「あかないどぉーー!!」
門を押したり引いたりするれみりゃに言う。
「いや、だってお前プリン選んだじゃん」
「こーまかんもー!こーまかんもおぜうさまのー!!」
「駄目だね」
「やだどぉー!あげでー!あげでー!」
* * * *
それから三日経った。
れみりゃは毎日、自分のものになるはずだったこーまかんを眺めて暮らしている。
「おぜうざまのこーまかん……」
かつてれみりゃがのうさつ☆だんすをしたり遊んだりしていた庭は、こーまかんに占拠されて
だいぶ狭くなってしまった。
だんすを踊っても、他の遊びをしても、入ることの出来ないこーまかんが目に入って、
すぐにつまらなくなってしまう。
「うー!うー!おぜうさまはふびんだどぉー!ざぐやなんとかするどぉー!」
今日は、そのこーまかんの中から声がしていた。
「うー!?だれだどぉ!?」
俺は知っているがれみりゃは知らない。
れみりゃが起きてくる三十分ほど前、庭に現れておうち宣言をした
ゆっくりがいたので
こーまかんをくれてやったのだ。
そして、その
ゆっくりが今こーまかんのバルコニーに姿を現した。
「ここはれいむのおうちだよ!ゆっくりしていってね!」
「まりさもいるよ!」
「ううー!?ここはれみりゃのこーまかんだどー!?」
いや、お前のじゃねーから。
「「ゆっくりしていってね!」」
「うーうー!!ここはおぜうさまのなのー!!」
滂沱の悔し涙を流すれみりゃだが、門は俺が施錠しなおしておいたし、
二階のバルコニーまで飛ぶほどの浮遊力はれみりゃにはない。
れみりゃにできるのは、きっちりとこーまかんを囲う柵をむなしくひっかくことぐらいだ。
「やめてね!れいむのごーじゃす
ゆっくりぷれいすにきずをつけないでね!」
「
ゆっくりしてないやつなんだぜ!」
俺は縁側から口を出す。
「こいつはなぁ、ぷっでぃんとおうちでぷっでぃんをえらんだれみりゃなんだぞー。
食い意地が張ってるんだぞー」
それを聞いてまりさが吹き出した。
「ゆぷぷ!れみりゃはおばかなのぜ!」
れいむも言う。
「ぷっでぃんはすごくゆっくりしてるけどむーしゃむーしゃしたらなくなっちゃうよ!
おうちはずっと
ゆっくりできるんだよ!」
こんな時だけ正論を吐くこいつらは、実は意外と空気の読める性質なのかもしれない。
「たんらくてきしこうは
ゆっくりできないよ!」
「おうちとあまあまをくらべるなんて、ばかなの?しぬの?」
れみりゃはうつむき、ぷるぷると震えながらそれを聞くことしか出来ない。
「う゛う゛ーー!!ざぐやー!ざぐやー!」
二匹の
ゆっくりはバルコニーから
ゆっくりとした身を乗り出して言った。
「「ゆっくりしていってね!」」
END
書いた人:十京院典明
一周年企画『自分の一作目をリメイク』
fuku720.txt『豚小屋とぷっでぃーん』からのリメイクです。
「あ゛う゛ー!あ゛う゛ー!おぜうさまのおぼーしがえじでー!」
俺は取り上げた帽子をさっと後ろ手に隠す。
「あうー!でびりゃのー!」
まるで世界の終わりのように泣き喚くれみりゃ。
「えぐぅぅぅぅ!!!うびぃぃぃぃ!!!」
れみりゃに勝手に取り返されないよう、タンスの奥に帽子をしまい、代わりにパーティー帽を取り出す。
しゃがみこんで泣きじゃくるれみりゃの頭にそれを被せてやる。
「うー?おぼうしだっどぉ♪かり☆しゅま☆ふっかつぅ~だどぉ~!」
「(いやいやいや)」
安っぽい銀色のパーティー帽を被って踊るれみりゃ。
「帽子の何が大事なのかよくわからん……」
ゆっくりには謎が多い。
「いいこと思いついたのぜ。お兄さんは天才なのぜ」
パーティー帽の枠に磁石を貼り付ける。れみりゃの頭にも磁石を載せる。
俺が帽子から手を放すと、ふわり、と帽子が浮き上がり、頭の上を滑り落ちる。
「あう~。おっこっちゃったどぉ~。おぼうしだいじだいじだどぉ~」
拾う。
頭の上に乗せ直す。
ゆらり……ぽてん。
「あう~!おぼうしゆっぐりしないとだめだどぉー!」
拾う。乗せる。ゆらり。ぽてん。
「あ゛う゛ーーー!?どーじでゆっぐりじないんだどぉーー!!??」
END
最終更新:2022年01月31日 02:18