「うおおおっ! 精密射撃なんぞやってられっか! 弾幕はばらまきだぜ!」
エアガンが趣味の男が、持参したそれのトリガーを引きっぱなしにしている。銃口の先
には、もちろんゆっくりたちがいた。
普段は一発一発を丁寧に撃つ男だが、今日ばかりはろくすっぽ狙いもつけずに掃射して
いた。ゆっくりの数が多いので、それでも面白いほどに当たる。
「ゆべ! やめ、ゆぶ!」
「いぢゃいぃぃぃぃ!」
「ゆ……ぶ……、うご……けにゃ、い、ゆべ!」
「れいみゅのおめめがみえな、ゆびゃ!」
フルオートでばらまかれたBB弾はゆっくりの皮を貫通する威力を帯びており、体の小
さな赤ゆっくりなどは体の真ん中に当たれば一発で絶命した。
生きているゆっくりも満身創痍だ。体のどこかが欠けていた。
とりあえず視界の中に動いているゆっくりがいなくなると、男はマシンガンを置き、ハ
ンドガンを手に取った。
ゆっくりだった皮の破片やら餡子の山の中に、一際大きな塊があった。それは、大人の
れいむの成れの果てであった。わが子たちを守ろうとして無慈悲な弾の雨によって命を奪
われた母の姿だ。
「ゆゆぅ」
そして、その献身はとりあえずは報われていた。その死骸の後ろには、震え泣きながら
も、一匹の子まりさと二匹の子れいむが生き残っていたのだ。
「ゆぐ、えぐっ、おきゃーしゃーん」
「れいみゅのだめに……ゆええええん」
「おきゃーしゃんのぶんまでゆっくちするよ! ぜったいだよ!」
落ち込む一方の子れいむを子まりさが励ます。
「お、いたな」
しかし、上から降って来た声に、姉妹たちはゆっくりできなくなる。ハンドガンの銃口
が向けられていた。
男には、れいむの後ろに隠れていた子ゆっくりが生き残っているかもしれないというこ
とは先刻承知だったのだ。
「トドメだ」
ばす、とガスガンの発射音がして、子れいむの頭が陥没した。
「ゆぎゅうぅぅぅぅ!」
「れいびゅぅぅぅ!」
「や、やめぢぇね! やめぢぇね!」
ぴょんぴょん跳ねて懇願する子まりさを無視して、男は二発目三発目と的確に子れいむ
の体を削っていく。
「れいびゅのいぼうとがぁぁぁ、ゆべ!」
妹の死を嘆いていた子れいむも、標的が自分になったらもうそんな暇も無くなった。
「ゆぎ! やめ、ゆぶ! やめ、ゆげ、やめ、やめぢぇぇぇ! ゆびゃ!」
男は、わざと発射間隔をあけて、子れいむが懇願するのを待ち、それを途中で遮るよう
に次弾を放っていき、最期に懇願を言い切らせてからトドメを刺した。
「ちねえ! ゆっぐりでぎないにんげんは、ぢねえ!」
子まりさが靴に体当たりをする。ぽよん、ぽよん、と悲しいほどに威力の無いそれを延
々と続ける。
男は子まりさを摘み上げて、親指と人差し指を使って右目を強引に開かせて、その目の
前に銃口を持っていった。
「ゆ! ゆわわ! やめぢぇ!」
恐ろしくて目を閉じたいのだが、閉じられない。
男がトリガーを引いた。
カチッ、カチッ、カチッ。
音が立て続けに鳴るが、先ほどまでの音とは違ったし、弾も出なかった。子まりさは悲
鳴を上げることすらできずに震えている。
「あちゃー、弾切れかあ」
苦笑する男。もちろん、弾が切れていることなどわかった上でやっているのだ。
「ゆ、ゆゆ、丸いのなくなっちゃんだね、それじゃまりしゃはたすかっちゃよ!」
脳天気極まり無いことを言って、嬉しそうに笑う子まりさ。いつのまにやら、男があの
丸い弾でしかゆっくりを殺せないということになっているようだ。
「はっはっはっ、心配御無用、丸いのはまだまだたーくさんあるよ!」
男は予備のマガジンを取り出し装填した。
「はい、それじゃおめめに丸いのをあげるね!」
「ゆぴゃああああ! やめぢぇぇぇぇ!」
ばすん、と。
至近距離での衝撃に、子まりさは右目どころではなく、体の右側が抉り取られてしまっ
た。
「ゆ゛ぅ……ゆ゛ぅ……なんじぇ……なんじぇ、ごんなごどに」
死の間際に思うのはそのことであった。この子まりさに限らず、他のゆっくりたちもわ
けがわからぬうちに死んでしまったもの以外は思いは等しかっただろう。
あんなにゆっくりしていたのに。
ここは、いいゆっくりプレイスだったのに。
何日か前から、ドスおじいさんが来なくなって、ごはんもそれまでよりはむーしゃむー
しゃできなくなった。それでもれみりゃに襲われる心配はなかったし、ごはんも別の人間
がくれた。
なぜ、こんなことに――。
だが、それを言うならば、なぜああまでゆっくりできていたのかを問うべきであったか
もしれないが、このゆっくりプレイスで生まれた子まりさがその疑問を抱くのは無理な話
であった。
ひとえに、ドスおじいさんの庇護によって成立していたゆっくりプレイスが、その庇護
を失って崩壊し、その際に
ゆっくり虐待を趣味にした人間たちが関与してしまったという
だけのことである。
ドスおじいさんは自分の死後のことも考え、息子にここのゆっくりたちの面倒を見続け
ることを願った文章を残していた。
自分の死後、ペットを世話することを条件に財産を信頼できる者に譲る負担付遺贈も考
えたのだが、なんといってもゆっくりというのは生き物であると認められているようない
ないような、凄まじく曖昧な存在である。基本的にどんなにむごたらしく殺してもそれ自
体を罰するような条例等は無い。
そしてなにより、ここのゆっくりたちは数が多い。これだけの数のゆっくりたちを世話
するのは好きでなければやっていられないことであり、金目当てではすぐに嫌気がさして
しまうだろう。
結局、ドスおじいさんは、息子に、父親の最期の願いとして託すことにした。別に息子
自身が足繁く通って世話をしないでも人を雇ってやらせればいい。
そして、その願いをこめた文章を、家のテーブルの上に置いておいた。
他にも色々な方法はあっただろう。早いうちに、ゆっくりが好きでその世話を厭わない
ような人間を住み込みで雇っておいて、自分の死後にその者に託せばよかったかもしれな
い。信頼できるゆっくり愛護団体に全て任せてしまえばよかったかもしれない。
むしろ、息子との仲がよくなければドスおじいさんはそうしたかもしれない。だが、息
子との仲はよく、息子は父を尊敬していて、父としては息子に託せば大丈夫だ、との思い
があった。
実際は、いかに尊敬する父親の願いと言えど、ゆっくりごときのためにそこまでしたく
はないと思った息子が、その願いを見なかったことにして灰にしてしまった。
ゆっくりごときだった。
その、息子の感覚が、人間の大勢であった。
彼らは、言うだろう、たくさんの口が言うだろう。
「ゆっくりごときのためにあそこまでやれば十分だ。息子がゆっくりごときにそこまでし
たくないと思うのもしょうがないさ」
と。