迷い竹林の中、えーりん実験室の地下にはすっきりルームというものがあった
そこには
ゆっくりたちが集められていた
「こわーい化け物のお部屋」と可愛らしい文字で書かれた部屋に
八意永琳は入っていく
ここはゆっくりたちのストレスに対する抵抗力を見る施設
ゆっくりたちは地上の実験室で何かしら粗相をやった事の罰としてここに連れて来られる
「ちかのへやにはこわいばけものがいる」
ゆっくりたちの宿舎でそんな噂を少し流してやると
噂には尾が付き鰭が付き、ゆっくりたちにとって地下の部屋に連れて行かれる事は最大の恐怖となっていた
薄暗くだだっ広い部屋
時折、なにかの呻き声がし、大きな足音、何かが壊れるような音がする
足音ともに地面は揺れ、何かが壊れる音と共に風が吹く
その中を永琳は歩いていく
永琳はその化け物の正体を知っているからだ
河童に作らせた音響設備、揺れる床、送風機
自分の後ろで大きな音がする
永琳はゆっくり歩いているので後ろから走ってくるゆっくりまりさに追い抜かれる
「おねーさん、ゆっくりしてたらたべられちゃうよ。ゆっくりいそいだほうがいいよ」
ゆっくりまりさは気が動転して矛盾している発言を繰り返す
「いいのよ、私はゆっくりしていくから。あなたは慌ててるのね」
永琳はニッコリゆっくりまりさに答える
「ゆっ?!まりさもゆっくりしてるよ!!」
「そう?でも、来てるわよ」
ズドン、また大きな足音がして床が揺れる
「ゆっ!ま、まりさはゆっくりにげるね」
「大変ね。そんなに慌てて」
絡んでくる永琳の言葉にゆっくりまりさはどうしても絡み返してしまう
「あわててないもん!!ゆっくりだもん!!」
逃げたいけど、慌ててると言われるのは嫌だ
さっさと逃げたいけど、ゆっくりもしなければ行けない
化け物の音は近づいてくる
「だまれだまれよ。ゆっくりにげるよゆっくりいそいですばやくゆっくりにげるんだよ」
言ってる事もだんだんおかしくなる
「急いで素早く逃げるのね。まりさは偉いわ。ちゃんと化け物の怖さを知ってるもの」
もうゆっくりまりさは恐怖と怒りのあまり泣き出している
近づいてくる化け物、ゆっくりしていない自分の現状
あまりのストレスからかゆっくりまりさは何度も餡子を吐き出す
「さっ、まりさ。早く逃げて、化け物が来ちゃうわ」
「ゆっくりゆっくり」
「いいえ、怖い化け物がやってくるわよ」
「いそいでにげるよ」
「あら、あなたはゆっくりできないの?」
何か喋るごとに口から餡子が出てくる
もうこのゆっくりまりさはダメだろう
随分と頬がこけてきた。あとは化け物の恐怖に任せて別のゆっくりを見に行こう
永琳が次に見かけたのが比較的怪物の音から遠い場所にいるゆっくりれいむ
「こんばんは、お食事中かしら」
「うん、おねえさんもゆっくりしていってね!!」
「あら、お言葉に甘えさせてもらうわね」
永琳はゆっくりれいむの隣に腰掛ける
ゆっくりれいむが食べているのはゆっくりパチュリーだ
この部屋にもちゃんとエサは支給される
しかし、化け物の音に怯え動けないものはなかなかエサにありつけない
「何を食べているの?」
「ゆっくりパチュリー」
珍しい子だと永琳は思った。普通なら共食いはやってはいけない行為
もしやってしまったとしても報復を恐れてそれを口外する事は滅多にない
「お友達じゃないの?」
「うん、でも、ゆっくりパチュリーのぶんまでれいむがゆっくりいきてあげるからいいの」
「そんな事できるの?」
「うん、れいむゆっくりかんがえてわかったの、ばけものがここにずーっといられるりゆう」
「ゆっくり聞かせて」
「うん、ばけものはゆっくりをたべてるからゆっくりながくいきられるの」
「それで」
「でも、ゆっくりパチュリーはゆっくりをたべないからゆっくりすぐしぬの」
わあ、なんて子なの、ゆっくりなのにここまでの宗教観に達してる
永琳はそのゆっくりれいむを抱きしめたくなったが、我慢する
「じゃあ、あなたも化け物みたいにゆっくりを食べればゆっくり長く生きられるの?」
「うん、そうだよ。ゆっくりわかった」
死のストレスから開放されたゆっくりれいむのは嬉しそうで
ゆっくりパチュリーをもぐもぐ食べていた
「じゃあ、お姉さんは行くわね」
「うん、れいむはまだここでゆっくりしていくね」
「ゆっくりしていってね」
「うん、ゆっくりしていくよ」
次に永琳が見つけたのはゆっくりパチュリーだった
「あら、こんばんは」
ゆっくりパチュリーは答えない
「お隣いいかしら?」
無言のゆっくりパチュリー
「お邪魔するわね」
ゆっくりパチュリーの隣に腰掛ける
「しってるのよ。ぜんぶゆっくりしってるのよ」
消え去りそうな声でゆっくりパチュリーが何か言っている
「しってる。そうこれはゆめなのよ。ゆっくりゆめをみているのよ」
「ふふふ、これは現実よ」
「ほら、ほらまたゆめがはなしかけてきたわ。ゆっくりだますつもりね」
その後もゆっくりパチュリーは「しっているしっている」と何度も繰り返している
夢と現実の区別が付かなくなっているのか、それともただ現実を否定したいだけなのか
「いつまで夢を見てるの?」
永琳の言葉に今までぶつぶつ喋っていたゆっくりパチュリーの声が止まった
そして、ゆっくりパチュリーはカタカタ震えだした
「おわらないおわらないおわらないおわらない!!」
「ゆめがおわらない。おわって。ゆめのなかでゆっくりしたくない!!」
「げんじつでゆっくりしたい!!げんじつでゆっくりしたいよ!!!」
「おわらない!!ゆめがゆっくりしてておわらない!!」
錯乱したゆっくりパチュリーは何度も壁に自分をぶつけ始めた
「めざめて!!ゆっくりめざめて!!はやく!!」
「おわっちゃう!!わたしのじかんがゆっくりおわっちゃう!!」
「ゆめの、こんなゆめのなかでわたしのじかんがゆっくりおわっちゃうよ!!」
動かなくなったゆっくりパチュリーをもって永琳は先ほどのゆっくりれいむの所に戻った
「あ、おねえさん、おかえり。ゆっくりしにきたの?」
「うん」
「おねえさんはゆっくりできるひとだから、れいむだいかんげいだよ」
「あら、嬉しいわ」
「こんどはおねえさんのぶんのゆっくりもよういしておくね」
「そう、楽しみにしてるわ」
ゆっくりれいむが永琳に抱きかかえられたゆっくりパチュリーを見つける
「あ、ゆっくりパチュリーだ」
「食べる?」
「んー、いらない」
「もうお腹いっぱい?」
「んんー、ゆっくりしてればまたおなかすくから」
「じゃあ、どうしていらないの?」
「だって、そのゆっくりパチュリー、じかんがないからしんじゃったこだもん」
「ああ、だから食べても長生きできないのね」
「うん」
永琳は立ち上がる
「もういくの?ゆっくりしていけばいいのに」
「いいえ、私は化け物が怖いから」
「そうだね」
永琳は「こわーい化け物のお部屋」から出てくると、鈴仙を呼びつけた
「どうでしたか?」
「面白い子はいたんだけど・・・」
永琳は残念そうに首を振る
「鈴仙、河童達の所へ行って除湿機を作ってもらいなさい。あと薬品を散布するための機械を」
「え、どうしてですか」
永琳は研究室のパソコンをカチカチ弄ると「こわーい化け物のお部屋」の監視ビデオの映像をディスプレイに映した
「この部屋の・・・この辺りだったかなー・・・」
カメラは方向を変えズームを変え、ゆっくりれいむを映す
「うぇ!!」
鈴仙は思わず目を逸らす
「この子、面白い宗教観を持っていたんだけど、これじゃ、そう長くは持たないものね」
ディスプレイに映し出されたのは黒ずみカビが生え髪も半分ほど抜け落ちた醜いゆっくりれいむの姿だった
~あとがき~
食パンがカビてて驚きました
それ以上にwikiで自分に名前が付いてた事に驚きました
最終更新:2008年09月14日 06:13