ゆ虐の隙間15 ゆっくり脳移植&先輩いじめ

「ほらっ先輩起きれますか?」
 どこかで声がする。むかつく声だ。俺はその声を知っていた。会社の中で役立たずの後輩だ。仕事の覚えは中の下。まぁ、役に立たないがそこまで使えないというわけでもない。だが、清潔感とかは壊滅的だ。いつも、どこかがだらしが無い。シャツをはみ出してくるときもあれば無精ひげも生やしていて。何処となく臭い。さらに、何時も一人でぶつぶつ喋っていて周囲と話そうとしない。話しかけてもおどおどしてきもい。まぁ、典型的な社会のごみだ。仕事は最低限出来ているからクビにすることも出来なく。自分からやめさせるためにいびっていたのだが中々やめない。
「ゆ。なんのようだ。如月」
 これは、喋った後で後悔した。何故、いまゆなんて声が出たのか。自然にいったのだが、これではまるであのゴミみたいではないか。
「あぁ、起きてくれましたか。先輩。気分はどうです?」
 これはそこで違和感に気づいた。
(ここは何処だ)
 家ではない。こいつを家に入れる理由が無いからだ。しかし、会社でもないだろう。自分は会社で居眠りなどしない。そこではっと思い出した。そういえば、急に心臓が痛くなって病院に運ばれた気が。そこまで考えて急におなかがすいた。いや、お腹が空いたというほどではなかった。早くしなければ生命の危機にかかわるような。
「だめですよ。先輩。いろんな事考えたら栄養使いすぎてしんじゃいますよ」
 如月はそういった後。これに何かを刺した。
「ゆっ」
 びっくりして声を上げる。まただ。また自然とゆっと声が出てしまった。それに先程のは点滴か何かか。先程の空腹感も急に無くなった。
「ゆっ。どういうことだ。これは」
 首を曲げようとするが首が動かない。いや、首だけではない。手足もまるで自分の体ではないみたいに。
「あれ?まだ気づいてないんですか。先輩。さすがの先輩でもその体に入っては馬鹿になるんでしょうか」
 如月は普段上げたことでないような声で馬鹿にしながら笑う。
「ゆっ、貴様どういうつもりで」
「あはは、一言でわかりやすく状況を知るための魔法の言葉を唱えてあげますよ。ゆっくりしてってね」
「ゆっくり・・・!!!」
 今何を言おうとした。ゆっくりしてってねなどとあのゴミと同じ言葉を言おうとしたなどそんなことがあるわけが。
「おぉ、凄いですね。耐えましたか。でも、これをみれば現実に目をむけるかな」
 如月は鏡でこれを映し出した。
「な・・・」
 その姿はどう見てもゆっくりだった。今までこの世でもっとも馬鹿にしていたものの姿だった。
「ど、どういうことだ」
「どういうこともこういうことも簡単ですよ。先輩の脳みそをゆっくりに移植したんですよ。といっても先輩の脳みそを切り取ってゆっくりに植え込んだだけですけどね。さすが、不思議妖怪。まさか、本当に出来るとは思いませんでしたよ。あぁ、いっておくけど殺人ではありませんよ。先輩心臓麻痺で既に死んでましたから」
「ゆっ、俺が死んだ」
「先輩、俺のことよくゆっくりみたいなゴミだと馬鹿にしていたじゃないですか。だから、その気持ち味わってもらおうと」
「貴様」
 如月に跳ねて体当たりをぶちかまそうとするが簡単に跳ね除ける。
「あはは、ゆっくりはやっぱり馬鹿ですね。勝てるわけ無いじゃないですか。ゆっくりが人間に」
「ゆゆっ」
 勢いあまって壁に激突する。車にはねられたかのような衝撃だ。
「おっと、力入れすぎましたね。まだ死なせたくはないですから。せっかく上手くいったのに。自我が崩壊するまでたっぷり楽しみましょう」
「ゆゆっ、自我が崩壊するまで!?」
 聞いたことがある。ゆっくりの自我が崩壊させる虐待兄さんの事を。まさかこいつも。
「勘違いしないでください。私は博愛主義なんですよ。憎い先輩ならともかくその体であるゆっくりを殺すのはね。先輩、自分が馬鹿になってると思いませんか?ゆっくりの体とはいえ脳は先輩なんです。知能が低くなるとはおかしいと思いませんか?その条件反射の言葉遣いといい。さっきだって攻撃するなら武器を使えば可能性はあったかもしれない。でも、先輩はそのままぶつかってきた」
「ゆゆっ」
 確かにそうだ。周囲に武器らしい武器は無いがそれでも、生身で挑むよりは称賛があっただろう。
「実はですね。ここに先輩をスキャンしたものが二枚あります。一枚は移植後すぐ。もう一枚はそれから一日経ったものなんですけど。違いわかります?」
 両方共に脳とアンズらしきものが見える。どちらにも違いが無いように見えるが・・・待てよ。移植後のほうが脳が大きいような。
「気づきました?よく見れば目視できる程度ではありますが。この一日で、脳が杏に侵食されてるんですよ。さすが、なんでも食べる雑食妖怪ですね。このままだと先輩。ただの頭の良いゆっくり程度まで落ちるでしょうね」
「ゆっ・・・・」
「じわじわと、先輩がこの世で最もけなしていたゆっくりになっていくんです。最大の苦痛でしょう」
「そんな・・・俺がゆっくりに。体だけじゃなく心まで」
 絶望により、全身の力が抜けていく。人間なら膝をつく所だろうがこの体では頭を垂れてるようにしか見えない。
「あっはははははは。そうですよ。その絶望に染まりきった顔。それが見たかったんです。ありがとうございます。あぁ、先輩の本当の顔でしてくれたら最高だったんですが。まぁ、それは高望みですかね。じゃあ、俺は行きますね」
「待て。如月。待ってくれ〜〜〜〜!!」
 俺が叫ぶのを無視してそのまま扉の向こうに行ってしまった。
「くっそ〜〜」
 何とかしてあけようとするが、扉には鍵がかかっており。いくら体当たりしてもゆっくりでは扉も壊せない。



 あれから、一日ぐらい過ぎた。如月はちょくちょく顔を見せた。この体は、とてもお腹が減るのが早い。当たり前だ。ただでさえ、脳みそ詰め込んだために従来の半分しか杏が無い上に。栄養消費の激しい脳を詰め込んでいる。しかし、その期間も徐々に長くなってきたような気がする。私が今やってることといえば記憶あさりだ。少しでも忘れないために反復してる。
「・・・一ヶ月前にした外食はとんかつ。そのときは部下の町田と・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 ドンドンと頭をぶつける。少しでも思い出すために。
「そうだ。下塚だ。その時に下塚は自分の予算考えないで上ロースなんか頼んで足りない部分出してやったっけ」
 思い出せば、ちょっとおっちょこちょいだが可愛い部下だ。自分は本当に部下に恵まれた。一人を除いては。
 その時、ガチャリとドアが開いた。その瞬間。
「ゆぅぅぅぅぅぅ!!」
 開いたドアに突進した。如月を倒すためではない。逃げるために。そう思いついたときにはまだそのくらいの知能があったかとほっとした。
 だが、逃走劇は始まることすらなく簡単に頭を掴まれて戻された。
「駄目ですよ。逃がすほどおろかじゃあありません。ゆっくりがとおれないようにバリケードくらいはってますし」
「くるなぁぁぁ。如月」
 どうにか手から逃れようとする。こいつの顔なんて見たくも無い。
「だって先輩ご飯まともに食べないじゃないですか。栄養取らないと余計侵食が早くなりますよ」
「ゆっ!!」
 その言葉に反応する。確かに、栄養がたりなくなったら杏が何をするか。一番の栄養消費源であり。異物でもある脳を食らおうとするはずだ。
「じゃあ、今栄養剤打ちますからね」
 そうやって、栄養剤を打たれると体の中の杏が落ち着くのを感じた。
「ゆっくり〜〜・・・は!!」
 思わず、今ゆっくりといってしまった。しかも何だ今の幸福感。俺は今まで怠けに幸せを感じたことなど無いはずだが。それはどんな大きな仕事を達成したときよりも。昇進したときよりも。結婚したときよりも大きな幸せだった。
「先輩がゆっくりか。そうですね。ゆっくりしていってね」
「ゆっくりして・・・いかねぇぇぇぇぇ」
 そのままドンドンとまた頭を打ち付ける。その様子を見て如月は転げまわって爆笑してる。
「あぁ、面白かった。ところで先輩。先輩の名前ってなんでしたっけ?」
「そんなもんれい・・・え?」
 今なんていおうとした。俺の名前がれいむ?違うだろう。それはこの体の種族だろう。俺の名前がなんだっけ?わからないわからないわからない。
「わからないよ〜〜〜」
 声を上げて泣き出した。自分の基本となるものがわからないことがこんなに恐ろしいことなんて。
「あぁ、これは思ったより早いかもしれませんね。明日には感じも喋れなくなるかもしれませんよ」
 そう言って、如月はまた去っていった。


 さらに一日経って。もはや、精神疲労が限界に来ていた。体がゆっくりしろゆっくりしろと叫んでるようだ。あの後、どんなに考えても自分の名前はおろか部下の名前も思い出せなくなっていた。自分の名前は霊夢で当然という思考さえあるし。仲間の名前はありすとかまりさとかゆっくりのなしか出てこない。
「ゆっくりしていってね」
 ドアが開けると共に、そんな声が聞こえた。
「ゆっくりしていってね」
 もはやそう答えるのに何の不思議もなくなっている。
「僕はもう駄目だよ。ゆっくりできないよ」
「先輩。一人称が僕になってますよ。そんな喋り方していましたっけ?」
 そう聞かれるが、もう何も思い出せない。いや、そもそも一人称って何だっけ?
「如月。いや、如月さん」
 憎く思っていた人間だからか。最後まで覚えていた名前がこいつなんて皮肉なものだ。それも後どのくらいまで覚えていられるか。憎いことすら忘れてしまうかもしれない。
「僕を殺してください。もうだめです。これ以上は耐えられない」
 そう、1回死んだ人間だ。何を死を恐れるべきか。死んだ人間は死んだままになってるべきだ。
「嫌だね」
 迷うことなくきっぱりと笑顔で言いやがった。
「先輩。いや、もうれいむか。僕言ったでしょう。それともほぼゆっくり脳では覚えた無いかな。僕は罪もないゆっくりを殺すつもりは無いんだよ。ただ、先輩が憎いだけ。むしろ、その肉体にはそんな不要物いれて悪かったと思ってるよ」
「僕のことを考えてよ。人間だった僕のプライドは」
「もう、君は意識の大半がれいむだ。そんなもんゴミ箱に投げればいいと思うよ。どうせ、もうすぐ消えるし」
「くっそ」
 壁に思いっきり体当たりしようとした。こんな男に頼るんじゃなかった。自分から死んでやる。
 しかし、昨日まで硬かったはずの壁はいつのまにかやわらかいクッションになっていた。
「これじゃあ死ねないよ」
「うん。昨日君があんまりにも頭を叩きつけていたからね。僕が昨日君が自分の名前を思い出そうとしてる間にクッションつめといたよ。死なれたくないからね。さて、それじゃあ次来るときはお土産持ってくるよ」
「ごろず。ごろず。ごろず。ごろず。ごろじてやる。きさらぎぃぃぃぃ」
 僕の呪言はむなしく扉の向こうに去っていった。


 次の日。恐らく僕の人間としての自覚は今日が最後だろう。もう漢字も喋れない。(注意:この分は途中までひらがなで書いていましたがあまりにもわかりづらいことに気づき漢字に変換させていただいております)人間だったということとあいつへの恨みだけしか保ててない。もはや、それさえもうろ覚えだ。
「ゆっくりしたい。ゆっくりしたいよ。でも、ゆっくりしたらゆっくりになる」
 ゆっくりの体というのは不便だ。半日も休まないだけで体にゆっくりを訴えてくる。
「こんにちはゆっくりしていたかな」
「ゆっぐりしねぇぇぇぇぇ」
 掛け声と同時に突進。もはや憎しみで一敗だ。負けるとか勝敗は考えない(注:考えられない)。この一撃であっさりしとめる。
「できるわけないでしょう」
 片手でポイッといつぞやと同じように叩き落す。
「確かにこれは下等生物ですね。先輩が馬鹿にしていた気持ちがわかります。まぁもっともその先輩もゆっくりになってしまったんですがね」
「うるさいよ。おまえのかおなんかみたくないよ。ゆっくりきえてね」
 殺せないなら姿なんて一秒たりとも見たくない。
「そんなこといわないでほしいなぁ。今日は特別にとっても美味しいご飯持ってきたから。しかも天然ものだよ」
「ゆっ。おいしいもの」
 脳内に沢山の美味しいものが蘇る。さすがゆっくり脳だ。食べ物の記憶だけは残したみたいだ。とんかつ。しゃぶしゃぶ。肉類は大好きだ。天然ものというと海老やうなぎやマグロ。魚介類は最高だ。
「ほしいよ。いますぐちょうだいね。おいていったらゆっくりきえてね」
「まぁ、ほかにもあるからそれあげたらね」
 袋からゆっくり中身を皿の中にぶちまけた。中に入っていたのは・・・大量の虫だった。
「ゆぅぅぅ。たくさんの虫さんだよ。さむけがするよ」
「おや、先輩虫が生前大嫌いでしたもんね。そこはまだ覚えていたのかな」
「わからないよ。でも虫を見ると寒気がするよ」
 無い背筋が凍りついた感覚がする。
「でも、ゆっくりは虫さんが大好きだよね。やせいのゆっくりは虫さん沢山食べるよ」
「ゆゆっ、でもれいむはきらいだよ。ゆっくりできないよ」
「そんなことないよ。もう一度見てごらん」
「ゆゆっ」
 そういわれてゆっくり虫の方を見る。見るからにきもい。吐き気がするはずだが。おなかの辺りがぎゅーってなる。
「あれ?なんかだんだんゆっくりできるようになってきたよ」
 それどころか美味しく見える。いや、でもお菓子のほうがもっと美味しいはずだ。でも、視線がはずせない。
「そっか。まぁ、これは今は気に入ってもらえなかったかな。じゃあ、つぎはこれはどうかな?」
 如月(この時はもう既に名前を認識してませんが面倒なので会話文以外では使っていきます)は今度は透明なあのケースを取り出した。中には一匹のまりさが入っている。
「ゆゆっ。ここがおにいさんのいうゆっくりできるところ?」
 まりさは如月にそうたずねる。如月は笑顔を浮かべながらうなづいた。
「うそだよ。ここじゃあ、ゆっくりできないよ」
 れいむはそういうが如月は笑いながら否定してくる。
「それは君がゆっくりしなかっただけだろう。僕は君に酷いことなんて何もしてないだろう。こうやって、餌も持ってくるし。寒くないように毛布だってある。周りにぶつけないようにクッションも敷き詰めてあげた」
「ゆゆっ。でもここはゆっくりできないんだよ。おにいさんがいるから」
「だから気遣ってここには入らないようにしてるじゃないか」
 あれ?あれれ?ここはゆっくる出来ないところだ。頭ではわかってる。でも、なんでゆっくりできないんだっけ?
「へんなれいむだね。あんまりゆっくりしてないれいむだね」
 まりさが顔を覗き込んできた。あれ?変だよ。なんかドキドキするよ。どう見ても間抜け面なのに。なんだあのはりのある肌は。何時もゆっくりしている証のように見える。可愛い帽子も素敵だ。
「そうだよ。このれいむは中々ゆっくりしていってくれないんだ。だからまりさが一緒にゆっくりさせてあげてね」
「うん。まりさがいっしょにゆっくりさせるよ。れいむゆっくりしていってね」
「ゆ、ゆっくりしていってね」
「うん、良かった。じゃあ二人の邪魔しちゃ悪いからゆっくり消えるね」
 如月はそのままドアから消えていった。あぁ、もうこのまま手放してもいいんじゃないか。人間の心なんて。もうどうせ残ってないんだし。自分は僕はれいむはゆっくりだ。そのことを境にれいむは考えるのをやめた。
「ゆっくりしていってね!」

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最終更新:2024年05月06日 09:28
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