それは現代社会にゆっくりの名が知れ渡る前の、とある食事会の風景。

テーブルの上に置かれた小さな檻の中にはバレーボール大のゆっくりが2匹。
そして、その隣に置かれた透明なボウルの中にはベースボール大のゆっくりとピンポン玉サイズのゆっくりが2匹ずつ。
どのサイズの個体も赤いリボンを付けた黒髪のものと、黒いとんがり帽子を被った金髪のものが1匹ずつ用意されていた。
それが今ここに居る4人の男女の前にそれぞれワンセットずつ置かれていた。

「ほう、これがゆっくりですか」
「ゆっくりしていってね!」

初めて見るその不思議な姿を前に興味深そうに目を細める男の名は白 頭翁。
その手にはナイフとフォークが握られているが、これらがゆっくりを食べるためのものだ。
ゆっくりは自由に動き、しかも人語を喋るくせに実はただの饅頭という理解不能な生命体であった。

「苦痛を与えると甘くなるそうですが、そのための道具は・・・これと言って見当たりませんな」
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってよー!」

ゆっくりとテーブルの上に置かれているものを交互に見比べる大柄な男性。
彼の名はアノレ・C・ラソプ。どこぞの国の石油王だと言われているが、謎の多い男である。

「確かに、テーブルの上にあって当然のものしか見当たらないわね」
「ゆゆっ!どうしてむしするの!ゆっくりしようよー!」

ラソプの言葉に促されるようにテーブルの上を一人の女性が眺める。
視界に入ってくるのはナイフ、フォーク、スプーン、そして塩などの調味料にワインと水。
他にも火のともったキャンドルや花などが置かれてはいるが、どう見てもゆっくりを虐めるためのものは見当たらない。
そんな訳で、女性・・・名を公馬 紀乃という、は困った風な表情でくいをかしげていた。

「ふふっ・・・判ってないわね。あるじゃない、目の前に沢山・・・」
「ゆっくりー!ぷくううううううううう!」

初めてのゆっくりを前に皆が少々戸惑い気味の中、一人の女性が余裕の笑みを浮かべていた。
彼女の名は所 カロエ。日本人とフランス人のハーフだそうな。
カロエはおもむろにナイフを掴むとさっきからずっと騒いでいるゆっくりを引っ張り出す。

「ゆゆっ?おねーさんはゆっくりできるひと?」
「ええ、とってもゆっくり出来る人よ」
「ゆゆーっ♪ ゆっくりしていってね!」

引っ張り出されたのはバレーボールサイズのゆっくりまりさ。
ゆっくり出来ると言う言葉を聞いて安心したのかカロエに満面の笑みを向けていた。
そんなまりさの口にすっとナイフをあてがったカロエは躊躇することなく、その大きな口を切り裂いた。

「ゆびゅあ!?」

突然の事態に悲鳴を上げて白目をむくゆっくりまりさ。
その光景を目の当たりにした他のゆっくり達もまた「ゆっくりー!」と叫びながらパニックに陥っている。
が、そんなことは意にも介さず、カロエは傷口から漏れる餡子をスプーンで掬い、口へと運ぶ。

「甘くて・・・とても美味しいわ」
「ゆぎゅ・・・ゆぎぃ・・・」
「ゆっくりー!ゆっくりしてよー!?」
「ゆっきゅりー!?」

口の中に広がる上品で濃厚な甘みと、奏でられる悲鳴の旋律に満足した彼女は柔らかく微笑んだ。



それがきっかけとなって他の3人もゆっくりを食べ始める。
ラソプはおもむろにベースボールサイズのゆっくりれいむをフォークとスプーンで器用につまむと彼女の身体の接地面をワインに浸す。
それから、手近にあったキャンドルで子れいむの足を炙り始めた。

「ゆー・・・?ゆびぁ!?!」

突然の熱と痛みに子れいむはカッと目を見開くとぶるぶると身体を震わせながら脂汗を垂れ流す。
それでも「ゆっぎゅぢでぎない・・・やべで、やべで・・・ゆっぎゅりぃー・・・」などと呻いているがラソプはまるで聞いていない。
しばらくあぶり続けて、子れいむが動かなくなった頃を見計らって子ゆっくりを一口齧ってみる。

「・・・・・・なるほど、これは美味い」

甘いものがあまり好きではないラソプだったが、いたぶられた後のゆっくりの味には満足した。
びっくりするほど濃厚で、強烈な甘みがあるのに後に引かないさっぱり感と舌に清涼感を残す独特の風味。
ゆっくりのとりこになった彼は子れいむを一旦更に置くと、改めてフォークで突き刺し、二口目を楽しんだ。


その隣では何処からかキャベツを持ってきた頭翁がピンポン玉サイズのれいむを葉に包み込んで視界をふさいでいた。
視界を塞いだ赤れいむをスプーンとフォークでつついたり、少し高いところから落としてみたりしながらゆっくりと恐怖を与える。

「ゆきゅ!?ゆっきゅりー!ゆーん!ゆえーん・・・!」

そして特に根拠もなく機は熟したと判断した彼は一口で赤れいむを口の中に放り込んだ。
口の中から赤れいむの鳴き声が聞こえてくるが、気にせず一口だけ噛んでみる。

「・・・・・・ふむ、不思議なものですね。これだけ強烈な個性を放っているのにキャベツの味と見事に調和している・・・」

咀嚼するたびに餡子の味が広がるが、ほんのりとキャベツの味もする。
これだけはっきりと味がするにもかかわらず他の食材を殺さないならば、きっと色んな料理に応用できるだろう。
そんなことを考えながら、頭翁は赤まりさをつまみ上げると、今度はすぐに口の中に放り込み、咀嚼せずに飲み込んだ。

「ゅぅ?ゅっ・・ゅ・・ぃ・・・!」

お腹の中から声の聞こえる不思議な感覚がなんだか楽しい。
行儀が悪いと言われるかもしれないが、これだけ楽しめる食材は他にはないな、と彼は思った。


「さ、お口を開けて?」

紀乃の言葉に従ってお腹を空かせていた子まりさは口を開ける。
そして、紀乃は子まりさの様子を伺いながら、慎重にワインを大きな口へといざない、一気に流し込んだ。

「ゆびぇ・・・んぐ!?」

子まりさはとっさにワインを吐き出そうとするが、すばやく口を塞いでそれを阻止する。
しばらくそのままにしていると諦めた子まりさはワインを飲み込み、徐々にその顔が赤くなってゆく。
口から手を離してあげると、ふらふらとおぼつかない足取りでお皿の上を当てもなく徘徊していた。
どうやら、酔っ払ってしまっているようだ。

「・・・もしかして」

一つの仮説を頭の中にとどめながら、紀乃は酔っ払い子まりさを食した。
その瞬間、口の中に広がったのは酒饅頭を髣髴とさせる味とワインの上品な風味。
信じられないことに饅頭とワインの味が僅かな反発を起こすこともなく見事に溶け合っている。

「凄いわ・・・餌や飲み物で味を変えることも出来るのね・・・」

今まで食べた中で最高級の甘味に舌鼓を打ちながら彼女は思った。
きっと、この食材は食に無限の可能性をもたらしてくれるに違いない、と。


それからも食事会は続き、その場に居たゆっくりは全て4人のお腹の中に納まった。
切り裂かれ、貫かれ、抉られ、焼かれ、毒である辛味を飲まされ、弱点である水に浸されたゆっくり達はみなとても甘かった。


‐‐‐あとがき‐‐‐
そういやゆっくりって饅頭なんだよな、と思いつつ
登場人物の名前に深い意味はありませんので悪しからず

byゆっくりボールマン

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最終更新:2022年04月16日 23:00