れいむが好きすぎたお兄さん



ふぁ〜あ、良くねた!

青年は布団の中でゆっくりと目を覚ます。
暫くまどろみながら身じろぎする。

「よいしょっと」
「ゆぷぁ!ゆっくりくるしかったよ!」

青年が頭を上げるとゆっくりれいむの声。

「おにーさん、いつもそうだけどおにーさんのあたまはおもいよ!」
「それを支えるのが枕の仕事だろ? 折角寝心地いいんだからさ」
「それはとーぜんだよ!れいむのなかみはすっごくふかふかだもん!」
「だから枕じゃないか、とりあえず日向ぼっこするか」
「ゆ!ゆっくりひなたぼっこするよ!」

どうやらこのれいむは枕のようである。
自分からそういう事を言う辺り、筋金入りなのだろう。
青年は枕れいむを窓際にそっと置いた。

と。

「ゆっくりじかんだよ!!!おにーさんはゆっくりしないではやくおきてね!!!」

唐突に机の上のれいむが騒ぎ始める。

「分かってるわい、それにもう起きてるのが見えんか?」
「ゆぶぇ…おにーさんいつもいつも強く叩きすぎだよ!それにれいむはめざましなんだからね!」
「目覚ましなんだからそこまでうるさくすんな、もう一発叩くぞ」
「ゆっくりおとなしくゆっくりするからゆっくりやめてね!」

こちらは目覚ましのようだ、と言っても本当に時間が正確かどうかは怪しいが。
普段のように鳴り止ませる。
時計らしくくちからちっくたっくとか聞こえない位で言っているとか何とか。

寝巻きを脱ぎ捨て、昨夜の内に溜めてあった湯船に浸かる為風呂場に行く。

「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」

4匹のれいむが風呂場で青年を迎え入れた。
それぞれ2匹ずつ、籠に入れられてゆっくりしているようである。

「おにーさん、きょうもれいむのゆっくりぷれいすでからだをきれいきれいするの?」
「あわあわはそっちのれいむでやってね!れいむはゆっくりするよ!」
「なんでそんなこというの!あわあわするのはれいむじゃないでしょ!」
「どっちでもいいからゆっくりおにーさんをきれいきれいしてあげてね!」

片方は石鹸で、もう片方はスポンジである。

「じゃ、今日は先に声を出したれいむで体を洗う事にするか」
「なんでぇぇぇぇぇ!!!!?」
「ゆっくりあわあわになってね!!!」

青年は慣れた手つきで石鹸れいむを泡立て、スポンジれいむを泡だらけにしていく。

「それじゃ宜しくなれいむ」
「きょうはふつうにきれいきれいしてね?おにーさんすっきりしないでね?」
「いや、多分無理」
「それはやめてね!おねがいだからすっきりしないでね!ぜったいにすっきりしないでね!」
「前フリだねー、分かるよー」
「ちぇんみたいなこといわないでぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

ゆぎゅーゆぎゅーと身体を擦り合わせ、ついでにスポンジれいむの口を使って気分をスッキリさせる。
青年はこれが常習化しているようだ。

さて、活動する服に着替えると、次は食事である。

「ゆぅ…ゆぅ…」

暢気に寝ているれいむ。頭からは子供の付いた蔓が延びた状態だ。
掌くらいの丁度いい大きさにまで育っている。

「朝一番の甘味はコレっと」

ぶちり。

「ゆゆ!?」
「ゆぎゃ」

起きる親れいむと悲鳴にならないような潰れた悲鳴を上げる赤ん坊れいむ。

「どぼじででいぶのあがじゃんどっぢゃうのぉぉぉぉ」
「どうしてって、食べちゃいたい位可愛かったからさ」
「かわいいならだべないでじょぉぉぉぉ」
「それなら赤ちゃんを食べない変わりにれいむを食べようか?」
「でいぶをだべないでぇぇぇぇぇ」

餡子れいむの赤ちゃんを頬張りながらニコニコと話をする青年。
そのお尻の下。

「――――――――――――――!!!!」

何かが声を上げようとして、全然届いていない。

「さて、ご馳走様」
「でいぶのあがじゃんがぁぁぁぁぁぁ」

青年はスポーティーな感覚でスッと立ち上がる。

「ゆぶはぁっ!おにーさん!れいむをしりにしかないでね!!!!」

直後にさっきまで座っていた所から響くわめき声。

「尻に敷かれるなんて普通はできないじゃないか、よかったな、れいむ」
「ぷんぷん!ちっともよくないよ!いくられいむがざぶとんだからってさすがにおこるよ!」
「それじゃ座布団じゃないじゃないか、ちゃんと座布団らしくゆっくりしないと」

永く愛用しているのに、と男はひとりごちた。
再び座布団れいむに座りなおし、アストロンれいむを文鎮代わりにして鉛筆で絵を描き始める。
勿論描くのはゆっくりれいむだ。
間違えた所はペットボトルのキャップ大の消しゴムれいむで修正していく。

「ゆぎゅぎゅ、つよくこすらないでね!」
「この実線が消えないといいれいむが描けないんでね、綺麗なれいむの絵、れいむも見たいだろ?」
「ゆゆ、それならしかたないね」

消しゴムれいむとそんなやりとりをしながら執筆が続き、遂に

「うん、我ながらよく描けてる」

見事なまでにふてぶてしさを再現した、今にも動き出しそうなれいむである。
青年はそれを手に玄関から外へ出て、家の前の柱に貼り付けた。
一見不審な行動に見えるが、これは青年の仕事の一つなのだ。

そのまま庭先へと足を運ぶ。

「ゆっくりしていってね!」
「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」

そこにはひときわ大きなれいむと、そのれいむにつられて返事をする大量のれいむがいた。

「さて、今日はどれ位のゆっくりが何種類生まれたかな?」

一匹一匹手で触って確認しながら、赤ん坊の質をチェックする青年。

「ゆぴぃっ!?」
「あれ、まちがったかな?」

偶にこんな感じで誤って潰してしまう事もあるが。

「おにーさん、きょうはどうだった?」

巨大なれいむが青年に尋ねる。

「全体的に漸く餡子の割合が減ってきたな、日用品が多かったからきっと沢山貰い手が来るぞ」
「それはいいことだね!にんげんさんはふえすぎたれいむをかわいがってくれてるんだね!」
「ああ勿論」

そう、この青年はれいむ専門のゆっくり日用品店を営んでいるのだ。
目覚ましに枕、石鹸やスポンジ、座布団まで…
この青年は売られたゆっくりが大切に使われると信じて疑わない。
だからこそこの商売を続けているのだ。
青年が胸を張ってそれを続けられているのは理由がある。
買って行く人が必ず「とてもいいれいむでしたよ」と温かい言葉を掛けてくれているからだ。
そういうからには、きちんと使って貰っているのだろう。
青年にとってその言葉を頂くのが一番嬉しいひと時である。

「さて、今日も可愛いれいむをちゃんと使ってもらえるよう頑張りますか」

青年は商売を続けつつ、れいむと戯れ続けているであろう。






※ちなみに、れいむを買って行く人たちは皆奇特な人たちです。

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最終更新:2022年05月18日 22:16