※俺設定注意










暇を持て余し、畑で精を出しているゆうかの様子でも見に行こうかと散歩に出たある日のこと。
そいつは急に現れた。

「じゃおおおおん!!じゃおおおおおおん!!」
「じゃおっ!!じゃあああああおおおおお!!」

門番兼警備ゆっくりのめーりんたちが、気勢を上げながら走り回っている。
どうやら何かを追い掛け回しているようだ。仕事熱心で大変結構。だが一体何を追っているのだろうか?
めーりんたちの進行方向、その先を見遣る。

「ゆっ!!れいむはめーりんなんかにつかまらないよ!!」

スィーに乗ったれいむが一匹、めーりんたちから逃げ回っていた。
恐らくうちの畑の野菜でも盗みに来たのだろうか?
スィーに乗ってる分、そのスピードは速い。めーりんたちを翻弄している。

「ゆっ!!そこのおじさん、じゃまだよ!!ぶつかっちゃうでしょお!?」

なんかこっちに来た。
退けとか五月蝿いが、こっちは避ける気なんて無い。ゆっくりの不法侵入を許すつもりも無い。
迎撃のため、深く腰を落とす。

「喰らえ!秘儀、車輪外し!」

すれ違いざま、れいむのスィーに向かってその技を叩き込んだ。
書いて字のごとく、スィーの車輪を一瞬で悉く外す絶技。そこらのお兄さんには真似できない。
あ、あと避ける気無かったのに避けちゃったよ。

とりあえずこれでスィーは使えなくなるだろう。
車輪を外してしまえばスィーなどただの板切れ。何の価値も無い。
ほら、もうすぐ俺の後ろでクラッシュするスィーの悲鳴が聞こえるはずだ。



だが、その時俺は知らなかったのだ。
この行為の結果が、あんなことになるだなんて。
僅か数秒後、俺は信じ難いものを目にすることになる。










交響ゆ篇れいまりセブン 










「ゆわ-い!!れいむ、おそらをとんでる!!」

㌧㌦。
今目の前には、元スィーであったであろう板切れに乗って空を飛ぶれいむの姿が映っていた。
一体何が起こったのかと呆気に取られる俺。いや、ほんとに何が起こったの?



考えてみれば、元々スィーとは謎な乗り物であった。
動力、操作法その他一切が不明。使いこなせるのはゆっくりだけという代物だ。
俺もこの前ゆうかのスィーを貸してもらったけど危うく大破させかけた。

そもそもスィーが『走る』ものだという事すら疑わしかったのだ。
スィーはどんな悪路であろうと、そこが地面でさえあるならば変わらぬスピードを出す。
まるで地面のコンディションなど気にしないように。

一説では、スィーは地面から少し浮いているのではないかと言うものがある。
ドラえもんの足のように、実は少しだけ地面と車輪の間に空間が存在するらしいのだ。
聞いた当初は何をバカなと思ったが、今となってはどうやらその説が正しかったようだ。

スィーは、車輪があるからこそ『走る』という事をしていたのだ。
車輪があるものは走るもの。そんな人々の無意識に応え続けていた。自らの限界を縛って。
しかし今、スィーの車輪という軛は解き放たれた。それは、重力からの開放をも意味していた。

そしてスィーは空を飛ぶ。
新たなる可能性。地べたを這い回る芋虫から華麗なる蝶へと・・・・・・って。
一体俺は何を言っているんだ。



足元ではめーりんたちがれいむを見上げ、じゃおじゃお喚いている。
空を飛ぶ相手には手が出せない。分かってはいるが、悔しいのだろうか。
本当に仕事熱心だなぁ。なんか頭が下がってしまう。

「ゆふん、ばーか!もうめーりんなんかにはつかまらないよ!」

いらつく笑みを浮かべ、そうれいむは挑発する。
あ、いかん。俺までイラッと来た。
とりあえず惨劇の予感がするのでめーりんたちに持ち場に戻るよう促す。
すごすごと引き返していくめーりんたち。

「ゆふん♪ゆ~ゆっゆ~♪ゆ~♪」

ご機嫌そうに飛びながら聞くに堪えない"おうた"を口ずさむれいむ。
初めて空を飛んで気持ちいいんだろうが、音痴を披露される側としてはたまったものじゃない。
うるせぇ。更にイライラが溜まる。

「ゆ!!じめんにはいつくばっているおじさんがいるよ!!」
「ゆぷぷ!!おお、おろかおろか!!」
「おろかなおじさんはれいむのしーしでもなめててね!!」

俺を思い出し、一通り罵り、しーしーをかけようとするれいむ。お前は蝉か。
当然、華麗に避けた。砂糖水なんか被りたくない。
そしてれいむの舐めた行動により俺の怒りが有頂天に達した。

よし。こいつ殺そう。

拳大の石があったのでそれを拾い上げる。
びゅんびゅんと飛び回るれいむに狙いをつけて―――

「落ちろ蚊トンボ!!」

投げた。

一直線にれいむ目掛けて飛んでいく石。
このままれいむのドタマをぶち抜くと思われたそれを―――

「ゆっ!みえるよ!」

避けやがった。
普段の鈍足っぷりが嘘のよう。華麗に石を回避した。
なんかニュータ○プっぽいことを言っていたが無視。

そこらにある石ころ全部拾い上げてれいむに投げつける。
だが当たらない。全て避けられた。そんな馬鹿な。
当たり判定が小さいとでも言うのか。

「ゆっふ~ん!!れいむにそんなのがあたるわけないでしょ!!ばかなの!?しぬの!?」

ますます調子に乗るれいむ。
それが更に俺の怒りを煽る結果となった。
このれいむを嬲り殺しにしなければ気がすまない。

「ふらん!おい、ふらん!居るか!?来てくれ!!」
「うー?どうした、お兄さん?」

地面から石を投げるだけでは分が悪い。
という訳で空を飛べる者の力を借りることにした。
胴つきのふらんを呼ぶ。

「あそこに飛んでるれいむいるだろ?あいつここまで引き摺り下ろしてきてくれ」
「わかった、まかせろ」

二つ返事で了承するふらん。
そのままふわりと飛び立ち、矢のような速度でれいむに肉薄する。
れいむを叩き落すため、手を伸ばし―――

「あまいよっ!!」
「!?」

それすらもれいむは避けた。
一体どうなってる。元キャラばりの回避能力じゃないか。
ふらんも予測すらしなかったのだろう。驚きのままわずかに硬直する。

「ゆっ!!ゆっ!!ゆっくりにげるよ!!」

その隙をれいむは見逃さなかった。
ふらんと距離をとり、そのまま背を向け逃げ出す。

「っ!!にがすか!!ゆっくり死ね!!」

ふらんも本気になった。
先程よりも更に加速し、れいむを追い掛け回す。



こうして世にも珍しいゆっくりの空中戦が展開されることとなった。



スピードはわずかにふらんが有利。
元々このふらんは強化済みであり、通常のふらんとはあらゆるスペックが桁違いに高い。
わずかに遅いといえどそのふらんに匹敵するスィーの潜在能力に恐ろしいものを感じる。

捕まえよう、あるいは叩き落そうとばかりにふらんは闇雲に手を突き出す。
それをギリギリで回避し続けるれいむ。
なかなか白熱した勝負だといえよう。

ちなみに観戦することしかできない俺は既にリラックスして、空を見上げていた。
有頂天になった怒り?そんなもんとっくの昔に静まってますよ。
むしろこの勝負を愉しんでいる。

「ゆゆっ・・・・・・このままじゃつかまっちゃうよ・・・・・・」

なにやられいむが呟いている。
避けるれいむは既に疲労が見え隠れしている。対して攻撃するふらんは疲れの色すら見えない。このままではジリ貧確定。
れいむが力尽きるのをふらんは待つだけで良い。それはれいむも分かっているのだろう。

「ゆゆっ!!」

何かを思いついたのだろう。
ぐんぐんと高度を上げていくれいむ。
ふらんも逃がすまいと、れいむを追いかけ高度を上げる。
どんどん小さくなっていくふらんとれいむの影。

「ゆぅっ・・・!ねだるな、かちとれ、さすればゆっくり・・・・・・」

なんか言ってるのだろうが遠くて聞こえん。
どうせ大したことじゃないから聞かなくてもいいことなんだろう。

「あぁぁぁい・・・!きゃぁぁぁぁん・・・!」

れいむの動きが変わった。
急速反転。弾かれたように方向転換、飛び退る。
ふらんはこの動きについてこれない。

更にもう一度反転。
まるで三段跳びのようだ。ふらんは完全に目標を見失った。今、れいむはふらんの頭上に位置している。
この機動・・・・・・いや、このトリックは・・・まさか・・・!?

「ふらぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」

三度反転・・・否、宙返り。
稼いだ高度をそのままスピードに変え、急降下。
間違いない。このトリックはあの伝説のカットバックドロップターン。
今日初めて空を飛んだであろうれいむがこの技をこなすとは。驚きだった。

スィーの端の角っこのところでふらんを切りつけるれいむ。
ふらんの肌に蚯蚓腫れのような物ができる。
ほとんどダメージは皆無のようだった。

「うううううう!!ゆっくり死ねぇっ!!!」
「ゆわああああああああああああああああ!!」

だが、それがふらんの怒りに火をつけた。
遮二無二突撃し、れいむに拳や蹴りを見舞おうとする。ありゃあ完璧に殺す気で行ってるな。
れいむはそれを紙一重で避けている。



・・・・・・・・・・・・。



なんか飽きた。
どうやられいむの回避能力は相当にずば抜けているみたいだ。
このまま見ていても決着は付かないだろう。

「おーい、うーぱっく!れみりゃ!きめぇ丸!うつほ!いくさん!あのれいむ捕まえてくれ!」

とりあえず空を飛べる奴らを呼べるだけ呼ぶ。
こうなりゃゆん海戦術だ。
俺の声を聞きつけてぞろぞろと集まってくるゆっくり達。



それから数分後、流石に囲い込まれては逃げる場所が無く、れいむはあえなく御用となった。
ふらんは怒りに打ち震えていたが、れいむを惨殺してストレス解消を果たしたようだった。



こうしてこのちょっとおかしいスィーにまつわる事件は終了した。
・・・・・・かのように見えたのだが。










それから数日後。
俺はまた散歩に出かけようとしていた。

「くっちずさむメッロディーがっ思い出っさせてくれーるー・・・・・・って、うおぉっ!?」
「う?どうした、お兄さん?」
「いやどうしたじゃねぇよ!!なんだよその顔!!」

通りがかったふらんが、なんか凄まじい顔をしていたのだ。
ゆっくり特有の表情ではなく、なんか、その・・・・・・もうとにかくウザいとしか形容できない。
なにこれ?なんか何処かから「ニジウラセブン」と電波が飛んできたような気がした。

にゅっと元の顔に戻るふらん。
あ、元の顔に戻れるのか。良かった。

「なんでそんな顔してたんだよ」
「いや、なんとなく・・・・・・こんなかおがしたくなって」



あれから我が家では、スィーの車輪を外して空を飛ぶという通称「りふごっこ」が流行っていた。
今まで空を飛べなかったゆっくり達には良い刺激だったのだろう。
今もゆうかが畑を耕しているその上で、「りふごっこ」に興じているゆっくりが見える。
ちなみにゆうかは興味が無いらしい。スィーは地を走るからこそスィーなんだとか。

恐らくこの「りふごっこ」のせいだろう。
その証拠に、いま車輪無しスィーに乗っているゆっくり達の顔があの名状しがたき表情になっていた。
「りふごっこ」にこんな悪影響があったなんて。思わず戦慄する。



それから暫くして、「りふごっこ」は全面禁止となった。
やはりスィーは陸を走ってこそスィーなのだ。車輪外すなんてゆっくりしてないよね。
勿論それに反対してブーたれる奴も出たが、それを締め上げるのは別のお話となる。










おわり










―――――
書き溜めです。ゆっくりしてねぇな。
「エウレカ○ブン」見てたら書きたくなった。反省している。
れいむの長所は回避能力が高いことだと思うんだ(ただし空中専用、よって意味無し)。
あとタイトルに反してまりさが全く出ていなかった。

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最終更新:2022年05月19日 12:39