収穫も近づいたある日の朝。
いつものようにゆっくり一家がゆっくり小屋から出てくると、ヒトがいるのが見えた。

「ゆ!!」
「ゆっくりできるおじさんかな?」
「ゆっくりおかしが食べられるといいね!」
「れーむはおにくがいい!!!」

「おじさん」はゆっくり達にゆっくりと作物の育て方を教えてくれたヒトだ。
最近は段々と来る頻度が減っていたが、来るたびにおいしいお肉やお菓子を持ってきてくれる。
育てた作物と交換でお肉やお菓子をもらい、一緒にゆっくり食べるのが一家の楽しみだった。
一家はぴょんぴょんと跳ねながら近づいていき、元気良く挨拶した。

「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」

びっくりしたような顔をしてヒトが振り向く。
残念ながらいつもの「おじさん」ではなかった。
このヒトはなんでれーむ達の畑にいるんだろうか、と母ゆっくりは思う。

「おじさんだれ?」
「ここはれーむ達の畑だよ?」
「おじさんはゆっくりできるひと?」

男はイラついたような顔でゆっくり達を睨む。

「ゆっくりってのは本当に同じことしか言わないからイラつくな…
 おい、ゆっくり達。ここは俺の畑だ。今すぐ出ていかないと食っちまうぞ」

いきなり酷いことを言われて驚くゆっくりたち。

「「「ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!???」」」
「なんでそんなひどいこというの!!!!」
「ここはれーむ達のはたけだよ!!!」
「おじさんはゆっくりできないならでてってね!!」
「れーむたちのおうちだってここにあるもん!」

ゆっくり達はわけがわからなかった。
ここにある野菜はゆっくりたちが苦労して育てたものだ。
「おじさん」もゆっくりたちの畑だと言ってくれたではないか。
このヒトはなんでそんなことを言うのだろう。

「おうち…?おい、ひょっとしてあの小屋か?」

男は隅に立っている小屋に気づき、近づいていく。
それを見てゆっくり達は頭が真っ白になった。
小屋の中にはゆっくり達が貯えておいた食料がたっぷりとある。
もしそれを男に取られてしまったら収穫を早めなければいけなくなってしまうだろう。
収穫量が減り、「おじさん」とゆっくり食べる分が無くなってしまうかも知れない。
ゆっくり達は慌てて男を阻止しようと体当たりを始めた。

「ゆっくりでてってね!ゆっくりでてってね!」
「れーむたちのおうちにはいらないで!!」
「ゆっくりしね!!!」

「いい加減にしろって…言ってるだろうが!!!!」

そう言うと男は最近生まれたばかりのまだ小さいゆっくりを鷲づかみにした。

「ちゅっくりちね!!!ちゅっくりちね!!!」
「れーむのこどもをかえせ!!!」
「かえせー!!!」

ガブリ。
男はちびゆっくりの4分の1ほどをいきなり食べてしまった。

「い゛た゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛よ゛お゛お゛!!!!」
「れいむのこ゛と゛も゛に゛な゛に゛す゛る゛の゛お゛お゛お゛!!!」
「ひ゛と゛い゛い゛い゛!!!」

ニヤニヤと笑ってゆっくりを齧った男だが、突然驚いたような表情になる。

「なんだこりゃ!めっさうめぇ!!このゆっくり、餡子が緑色になってやがる… こんなの初めて見たぜ。
 こりゃあ高く売れそうだ。後でお前ら全員加工場に売り飛ばしてやるから楽しみにしてろよ」

驚くべきことに、野菜や雑草ばかり食べていたためか、このゆっくり達は餡子が変質していたのである。
この男は知らなかったが、この緑色の餡子は俗に抹茶餡と呼ばれるものであった。
「ゆ゛!ゆ゛!」と断末魔をあげていた小ゆっくりを、男はあっという間にたいらげてしまった。

「れ゛い゛む゛の゛こ゛と゛も゛を゛か゛え゛し゛て゛え゛え゛え!!」
「か゛こ゛う゛し゛ょ゛う゛は゛い゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「お゛し゛さ゛ん゛た゛す゛け゛て゛え゛え゛え゛!!!!」
「こ゛の゛ひ゛と゛か゛ひ゛と゛い゛こ゛と゛す゛る゛う゛う゛う゛!!!」

ゆっくりたちは泣き喚いているが、男は取り合わない。
周囲は柵と堀で囲われているので、捕獲を後回しにしても逃げ出される心配は無い。
こんな所にどうやって入ったんだろうか、という疑問が頭をよぎるが、男は気にせずに小屋を調べ始める。

「すげぇ…よくもまぁここまで貯め込んだもんだ」

中には各種穀物や野菜、さらには金平糖などのお菓子や干し肉なども貯蔵されていた。
お菓子の中に「饅頭」があったことにはさすがの男も苦笑い。

「人様から盗んだ物をこうやって貯め込んでたってわけか。大した悪党だな」

「れーむたちぬすんでないもん!!!」
「れーむたちがおじさんからもらったものだもん!!」
「おじさんなんかでてけ!!!」

盗んだものを「もらった」とは何とも図々しい、と男は思った。

「そうかそうか。じゃあおじさんもゆっくり達から『もらう』ことにするよ(笑)」

そう言いながら男は金平糖や干し肉を食べ始める。さすがに腐りかけの饅頭には手をつけなかったが。

「ゆゆゆ!!!」
「おじさんひどーい!!!」
「おじさんとはもうゆっくりできないよ!!」
「ここはれーむたちのおうちだからゆっくり出てって!!!」

さっきまでは子供のことで泣き喚いて怯えていたのに、今度は食料のことで怒り狂っている。
脳みそが餡子でできているというのは悲しいことだな、と男は思った。

「おっと、こっちも『もらう』ことにするよ。ゆっくりありがとう!」

そう言ってちびゆっくり達を何匹か摘み上げて口に放り込む。
「ゆ゛げうぉ゛ほ゛ほ、゛ゆ゛っ゛く゛り゛ぐげ、て゛き゛な゛い゛よ゛!!」
「お゛があ゛ざんた゛ず゛げ゛ぐぼっ」

「や゛め゛て゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「ご゛め゛ん゛な゛さ゛い゛い゛い゛い゛゛゛」

再び泣き喚くゆっくりたち。
その泣き顔が男の嗜虐心をくすぐる。

「そうだな。確かにこれを俺が一人で全部食べちゃ悪いよな。ごめん!お前達にも分けてやるよ。」

一瞬不思議そうな顔になり、立場が逆転したと思って俄然強気になるゆっくり達。

「ゆゆ?」
「おじさん、はんせいした??」
「でもおじさんなんかゆるしてあげないよ!!」
「これはぜんぶれーむたちのたべものだからはやくでていってね!!」
「おじさんはのたれじにすればいいとおもうよ!!」

「そんなこと言うなよぉ、分け合いっこしようね!」

そう言って男はちびゆっくりをもう一匹つまみ上げ、思いっきり握り締める。
男の指の間から餡子がとびだし、ちびゆっくりが「ゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆ」とおかしな声を上げた。

「や゛め゛て゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」
「れ゛い゛む゛の゛こ゛と゛も゛が゛し゛ん゛じゃ゛う゛よ゛お゛お゛!!!」

指の間から飛び出している餡子を舐めながら男はゆっくり達に話しかける。

「さあ、君達にもわけてあげるよ。この餡子はほっぺが落ちるくらい甘くておいしいぞ☆」

「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ーーー!!!」
「そ゛ん゛な゛の゛い゛ら゛な゛い゛!!!」

「これを食べないと君達もみんなおじさんが食べちゃうぞ~?それでもいいのかな~~?」

男がそう言うと、ゆっくり達はまだ生きている家族の餡子を泣きながら食べ始める。
「ごべんで゛え゛え゛!!」
「ゆ゛る゛し゛て゛ね゛え゛え゛え゛!!!」

潰されたちびゆっくりは絶望の眼差しで家族を見ながら「ゆっゆっゆっゆ」と声を立てていたが、餡子が減るにつれて、それも静かになった。
また、ちびゆっくりが静かになるころには、ゆっくり達も食べることに夢中になっていた。

「うめぇ!!こんなうめえもんはじめてくった!!」
「こんなゆっくりできるのはじめてだよ!!!」
「う~まう~ま♪」

「家族はおいしかったかな?さて、次は誰を食べようかな?」

そう男が語りかけるとゆっくり達は我に返り、絶望して騒ぎ始める。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「も゛う゛い゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「どお゛し゛て゛こ゛ん゛な゛こ゛と゛す゛る゛の゛お゛お゛お゛!!!」

必死になって命乞いをする残りのゆっくり達。
だが仮に男がやめたとしてもゆっくり達が助かる道はない。
残ったゆっくりは、持って帰って食べられるか、加工場へ売り飛ばされるか、どちらかの運命しか残されていないからだ。
まだゆっくり達は10数匹も残っている。ゆっくり達の餡子まみれの収穫祭は始まったばかりだ。






数時間後。
男は一桁にまで減ったゆっくり達を袋に詰め、家路を急いでいた。

「まったく、親父が病気になった途端に畑に忍び込んで住み着くとは。これだからゆっくりというやつは図々しい上に油断ならん。
 幸い作物に被害は無かったみたいだが、もう少し遅れていたらどうなっていたことやら。
 親父は『ゆっくりと畑を頼む』なんて言っていたが、ゆっくりしてたら畑を滅茶苦茶にされるところだったぜ。
 まぁ珍しいゆっくり種も手に入ったし、良しとするか。病気に効くかもしれないし、早く親父にも食べさせてやろう」




その日一人の哀れな病床の老人が心臓ショックで死んだこと。
また、母ゆっくりが水路に押し込んで逃がしたちびゆっくりが生き延び、
他のゆっくり達と力をあわせて、十年後、幻想郷奥地に大農園を築き上げたこと。
それらはまた別のお話。



おわり

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最終更新:2020年09月21日 13:58