冬
 飼いゆっくり。-中でも金持ちの道楽が建てた施設育ちのゆっくりは、越冬をすることも無くゆっくりと冬季生活をエンジョイしていた。
 コタツの中でぬくぬくするもの、暖かい室内で遊ぶもの、中でも外で遊ぶものは意外と多い。
 動きにくいのか、この時ばかりはセーターを着ているゆっくりは脱がせてもらい、代わりにあちこちにカイロをつけて外に飛び出す。
「ゆっくりつもったよ!!」
「これでたくさんあそべるね!!!」
 足跡一つ付いてない深雪の上を、ポンポン跳ね上がり丸い窪みを付けていく。
「これはれいむのあしあとだよ!!」
「ゆ? まりさのだよ?」
「むっきゅ♪ ぱちゅりーのだよ♪」
「……わからないね!!」
「むきゅ……」
「まりさもぱちゅりーも、ゆっくりしようね!!」
「ゆっくりしようね!!!」
 作ってもらった雪山の上から滑り落ちるもの、またはむしゃむしゃ食べるもの。
「いい? とかいはのありすは、ういんたーをまんきつするのよ!!」
「アリィストカイハァ!!」
「トカイハーー!!!」
 体験したことの無い季節の遊び方はそれぞれである。
「ゆゆ!! こっちをたんけんしてみようね!!」
「そうだね!!」
 そう言って、門を飛び出していったのは、あの三匹であった。
 この施設は常時門が開け放されている。
 来るゆっくり、出るゆっくり、それぞれ自由だ。
 こう言うと聞こえは良いが、税金対策と言う声もよく耳にする。
 事実、素行の悪いゆっくりをこの界隈ではまったく見かけない。
 存在するなら、真っ先に施設に出向くはずなのだが。
「ゆ? れいむたちがいないわ?」
「シャンハイシラァナァイヨォ!!」
「ホーライモシラナイ!!」
「んっもう!! せっかくよにんで、ゆきごやげぇむをしようとおもったのに!!」

 多くのゆっくりが、和気藹々と遊んでいるこの場が余り好きにはなれないようで、
「ゆゆ!! かえってきたらよにんであそぶんだから!!」
 そういい残して、シャンハイとホーライを連れて屋敷の中へ戻ってしまった。

~~~~~

 一方。
 外に出かけていった三匹は初めて見る冬の光景に大はしゃぎで、キャッキャと声をあげては忙しなく行ったり来たりしている。
「ゆっくりしていってね!!」
「れいむ!! あっちもすごいよ!!」
「むきゅ~~~♪ ゆっくりしていっちぇね!!」
 綺麗に彩られたイルミネーション。
 中には綺麗に作られた雪ダルマに、メニューを掲げた店もある。
 まるで異世界に迷い込んだかのようなその光景に、三匹は時が過ぎるのを忘れて遊びまわる。

 そんな折である。
「ゆ? へんなのがあるよ?」
 魔理沙が見つけたのは、大きな木の箱で出来た物体。
 それが複数。
 下には何か平たいものが備え付けてあるが、いまいち使用法が分からない。
「なんだろうね?」
「わからないね?」
「むきゅきゅ? なにかをいれるおはこよ!!」
 暫くその場で考えていると、持ち主と思われる人間がやってきた。
「わぁゆっくりだ!!」
「ほんとうだ!! えっとうしてないんだ」
 それは数人の子供達。
 皆一様にスキーウェアを着込み、物々しいほどの重装備である。
「ゆ? これは、なににつかうの?」
 運んでいこうとする子供達に、代表して魔理沙が問いかける。
 対する子供達も、邪険にするでもなくニコニコしながら説明する。
「これはソリさ!!」
「これで雪山の中をすべるとすっごく気持ち良いんだぜ!!」
 説明の終わりに、ボンとソリを叩く。
「ゆゆ!! すごいね!! まりさたちもやってみたいよ!!」
「れいむたちも、すべってみたい!!」
「むきゅ~~~♪ ぱちゅりーもやるやる!!」
 その音が合図であったかのように、三匹がいっせいに反応を示す。
 その目は、先ほどの子供達の其れと同じであった。
「いいよ。乗っけてやるからおいで!!」
「其れまでこの中に入ってな。引っ張ってやるから!!」
 一人のがたいの良い男の子が、自分のソリを指差す。
 憧れのそりの中に入り、一路近くの山を目指す子供達と三匹のゆっくり。
 狭い中で、三匹は思い思いの想像を話し合っていた。

~~~~~

「それじゃあ、これからすべるから好きなそりに乗りな」
 目的地に着いた一行は、それぞれ持参したソリに乗り込み準備を整える。

「おい、のんび!! お前軽いから乗っけたほうが良いんじゃないのか?」
「それなら、上手いたけあんが乗っけたほうが喜ぶんじゃない?」
「……わかったよ。 すねかじ!! お前の新しいんだからそれにものっけろよ!!」
 三人のソリに乗り込み、たたまれたひざの上に乗り、ヒョコッと顔を出す。
「ゆゆ!! すごい!!」
 自身よりも幾分高いからであろうか、動き出す前から既に興奮状態の三匹を尻目にゆっくりとソリは斜面を滑っていく。
「ゆ~~~~♪ ゆっゆ!!!」
「むっきゅーーー!! そうかい~~~♪」
 すぐにスピードに乗り、ぐんぐん速度を増すソリ。
 生い茂る木々たちを、ブレーキと舵で器用によけながら突き進んでゆく。
「すごい!! すごいゆっくりしてるよ!!」
 やがて斜面の傾斜は緩くなり、今まで感じたことの無い爽快感に思い思いの感想を抱いた三匹の、初めてのソリすべりが終わった。

「どうだ? 凄かっただろ!!」
 その言葉に、体に張ったカイロが剥がれ落ちそうになるほど大きく頷く。
「すごくゆっくりできたよ!!」
「もういっかいすべりたいよ!!」
「むきゅ!! むっきゅ!! すごいすごい!!」
 体が弱く、二匹の倍はカイロを貼り付けているパチュリーがここぞとばかりに主張する。
 今まで、早く走ることもままならなかったパチュリーにとって、まさに異次元の早さだったからであろう。
「よっし!! すぐに滑らせてやるよ!! のんび!! 体力づくりに俺のソリてっぺんまで運べ!!」
「ええーー!!!!!」
 気をよくした子供達は、満足そうな顔を浮かべ小山の上までの行軍を敢行した。


~~~~~~~~

 その後も何度かすべり、見よう見まねで動かし方も覚えた三匹。
 当然こうなると、自分達でも動かしたくなるのは当然で、それはゆっくりにとっても同じようであった。
「ゆ~~♪ すごいね~~♪」
「まりさたちも、そーじゅーしたいねー♪」
「むきゅ~~~~♪ そうさほうほ~はおぼえたの~♪」
「良いぞ!!!」
 そう答えたのは、先ほどソリを他人に預けたあの子供だった。
「むきゅ!! かしてくれるの!!」
「いいや。たのしそうだったからくれてやるよ」
「ゆっくりしていってねーーーー!!!!!」
 ここまで喜んでもらえたのが余程嬉しかったのだろう。
 ソリを貰えるとは思っても見なかった三匹も、これにはただただ興奮するしかない。
「へぇー。たけあん良いとこあるじゃん」
「お前のソリ、また作れば良いよな。この前もソリの材料が余っちゃって、って言ってたもんな」


 ゆっくりに贈呈されたのは新品のソリだった。
 そのソリに、ゆっくりでも乗れるように改造していく。
 秘密基地になっている、近くの空き小屋からビールケースを運び出し、下に敷いて高さをあげるだけではあったが、そのわずかな時間でも、ゆっくりにとっては何時間に及ぶ大改造に感じられた。
「よっし完成!!」
「ほら、入って良いぞ!!」
 漸くのゴーサイン。
 パチュリーも普段見せることのない跳躍を行って、自力で入ることができた。
「むっきゅ~~~~♪ ぱいろっと~~♪」
 パチュリーが一番前に陣取り、その左右後方に二匹が収まる。
 どちらも、体が弱いパチュリーが喜んでいるのを見て、自分のことのように嬉しそうだ。
 準備が整うと、少しソリを押してもらい、ずずずっと滑り出すのを待つ。
「ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりできそうだよ!!」
「むきゅ~~♪ どらいぶしてくるするわ!!」
 そして、雪同士がこすれる鈍い音と共に、ソリは重力により斜面を下がっていく。
 ずんずんスピードに乗り、斜面を降下していくソリ。
 三匹の歓声をBGMに、ソリを見送った子供達は、興味を次のものへと移していた。
「よし。すねかじの家で人生ゲームしようぜ!!」
「さんせー!!」
 この後は、誰かの家に言って暖かい部屋で遊ぶのであろう。
 それは、ゆっくりも同様であろう。
「ゆっゆ!! はやいよ~♪」
「きもちいいね!!」
「むっきゅ~~~♪ あうとばーんよ♪」
 三匹を乗せたソリは勢いよく斜面を滑ってゆく。
 自分達だけになったソリは速度こそ遅くなったが、自分達だけで動かしているという意識がそれを忘れさせていた。
 場所がよかったのか、直進したままで滑走できていたことも手伝い、三匹はこれでもかと言うほどに楽しみ、興奮していた。
「ゆ!! めのまえにおっきいきがあるよ!!」
 よくよく見ると、先には大きな木が一本行く手を塞いでいた。
「ほんとだ!! こっちにいくよ!!」
「むきゅ!!」
 三匹は、力いっぱいレバーを押し倒す。
 しかし、レバーは押し込んだとたんに元の位置へ戻ってきてしまう。
「ゆゆゆ!! なんでーーーー!!!」
「むきゅ!! むきゅきゅ!!!」
 雪上の上ならいざ知らず、滑空している中ではかなりの抵抗がある。
 しかも舵なら尚更に。
「もういっかいおすよ!!」
 もう一度、懇親の力を込めレバーを押すが結果は同じ、ブーメランの如くしっかりと元の場所へ戻ってきた。
「どうじでーー!! まりしゃーー!!」
「ゆ? わからないよーー!!」
 レバーを押し込めるほどの力はゆっくりにはない。
 そうこうする内に木はどんどんと目の前に迫ってくる。
「むきゅ~~!! ぶれぇきは?」
 とっさに、ぱちゅりーが発した一言が三匹の寿命を延長させた。
「それだよ!!」
 曲げてだめなら止めてみろ、を言わんばかりの勢いでブレーキのレバーを倒す。
 体重をのせ思い切り押さえつけた成果か、思惑通りだんだんとソリの速度は落ちていき、三匹の顔にも余裕が生まれだす。
「ゆ~~~♪ ゆっくりできるよ!!」
「むきゅ!! やった!! ぶれぇきがきいたわ!!」
「ゆっくりしt!!!!!」
 それでも、完全に止まるまでにはいかず、木にぶつかってしまった。
 その衝撃で、押さえ込んでいたレバーの位置が元に戻り、再度ソリは加速しだす。
「ゆーーー!!」
「むっきゅーーー!!!」
 こなるともはやゆっくりには止められない。
 バランスを崩し、起き上がることができなくなったからだ。
「ゆっくりしていってね!! ゆっくりしていってね!!」
 必死の叫びもむなしく、猛スピードで木々の間をすべり、予定のコースの裏側へ流されていく。
「ゆっくりしていってね!! ゆっくりしていってね!!!」
 前方が視認できるようになると、より一層声が大きくなる。
「ゆっくり!!!! していってねーーーー!!!!」
 なぜなら、目の前には大きな崖が存在していたからだ。
「もうやだーー!! おうじがえるーーーーー!!!」
 三匹を乗せたソリは、そのまま勢いよく崖の下へと落下していき。
「ぶぎゃら!!!」
 雪が積もっていない、岩がむき出しの崖の下までいって漸く止まった。
「ゆっ!! ……ゆ!!」
「お!! おうじ……がえりだい!!」
「むきゅ!! む……」
 投げ出され、バラバラに飛び散った木材が容赦なく饅頭の皮に突き刺さる。
 致命傷には至らなかったが、この様子ではもう動くこともできない。
 雪こそかぶらないが、外の気温は随分低い。
 このままでは三匹の命はない、だが、助けが来れば助かるであろう。
 幸いなことに、それを自覚して逝くだけの時間が三匹のは残されたいた。
 カイロが切れるまでの、数時間の余裕が……。
「もっど……ゆっぐり、じだが……っだーーー!!!」
「ゆっくり、したけっかが……これだよーー!!!」
「むきゅきゅ!! きゅきゅ……」


~~~~~~~
「ゆっくり~~~~~♪ しぃっていってね~~~~~~~♪」
 再びあのゆっくり施設へ。
 支給された食事を食べ終え、思い思いにゆっくりするゆっくり達。
 お風呂へ行くもの。
 駆け回るもの。
 テレビを見るもの。
 そして、ホールで歌うもの。
 そのなかに、あのゆっくりアリスも居た。
「ゆ!! まりさたちったら、とかいはのありすをこんなにまたせて!! じかんにるーずなんだから!!」
「アリスゥ、ゴハンタベヨォオ」
「ゴハーン!!」
 目の前には食べ物が入った、餌入れが三つ。
 大まかに区切られているそこに、ご飯と味噌汁と揚げ物。
 この日出た残飯を整形し揚げたものであるが、大量にかけられたソースが味をかき消し、ゆっくり達には大満足だ。
「しょうがないわ!! ありすたちだけででなーをいただきましょう!!」
「ィタダキィマァス!!」 
「イータダキマース!!!」
 味の濃い揚げ物を一かじりし、ご飯と味噌汁を適宜食す。
 シャンハイとホーライは、与えられたスプーンを必死に使いながら食べているが、アリスはそんなことはできない。
 既にメニューは揚げ物と猫飯に様変わりしている。
「ぱっくぱっく♪ ゆ~~♪ でりさす~~~♪」
「オイシィイネェ」
「シーアワセー」
 今回もスプーンを諦め、両手で抱え込みパクつく。
 当然汚れてしまうが、この後お風呂に入って洗い流せば良いだけ、と言う考えだ。
 あくまで体毛の延長という考えなのだろう。
「アリィスー。マリサタチィガカェッテキタァラ、ドゥスルゥノォ?」
「ナーニシテアソブーノ?」
「ゆ!! もうきめてあるわ!! まず、こーどーでいっしょにおうたをうたって、ひろばであそんで、らうんじでてれびをみて、いっしょのおふとんでねるの!!!」
 二匹の急な質問に、近くに散乱しているソースだらけの雑巾で顔の周りを拭き終えたアリスが答える。
 その顔はとてもうれしそうで、まさにクリスマスや誕生日を目の前にした子供のようであった。
 そして、三匹は仲良く風呂場へ消えていった。

~~~~~
 ここはゆっくりセンター。
 ここでは、毎日たくさんのゆっくりの楽しそうな声が聞こえる。
 色々な理由で去るもの、ゆっくりできると思い来るもの。
 そんな施設の中で、よく目を凝らしてみると三匹のゆっくりを見つけることができる。
 ユリスマスも、お祭りのときも、ずっと三匹だけで過ごしているこのゆっくり達。
「いい? まりさたちはわいるどにでていっちゃたけど、ありすたちはずっとここでまっているのよ!!」
「ヒゲキィノヒィロォインダネェ!!」
「キーロイハンカーチダネー!!!」
 三匹は、いつまでもいつまでも、ここで三匹仲良くは過ごしていた。






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最終更新:2022年05月03日 09:46