とあるゆっくりありすとゆっくりしゃんはいの夫婦の間に子供が生まれました。
ありすとしゃんはい、ほーらいが1匹ずつ。
3匹が生まれたその日の内に、親は死にました。巨大怪獣の吐いた重粒子ビームに消し飛ばされたのです。
この巨大怪獣は八雲さん家の藍ちゃんが速やかに退治したので、長い目で見ると幻想郷に大した影響は出ませんでした。
問題は短い目で見た場合です。
生まれたばかりで右も左も分らない、目さえ開いていない3匹のいる巣穴は、3匹の目の前で消滅しています。
そこにいたはずの両親は残骸もありません。
訳も分らない赤ん坊は哀れ、このまま怪獣に踏みつぶされる運命かと思われました。
ですが幸いなことに、お隣のれいむお母さんが様子を見に来てくれました。
「ちょくげきだ! やられたか!? ……う?」
断じて野次馬に来た訳ではありません。
そこでれいむお母さんが見た物は、半ばから吹き飛んだ巣穴の中で身を寄せ合って震えている、生まれたばかりの姉妹の姿。
ついこの間まで子育てをしていたれいむお母さんにとって、その光景はとても放っておける物ではありません。
「あわわわわわ。で、でておいで! ゆっくりにげないとふみつぶされるよ!」
「ゅー、ゅー……」
「ぉかーしゃん、どこー?」
「ゅーゅー……」
「どうしよう、どうしよう。ゆー、ゆー……。! そうだ! ゆ! おかーさんはここだよ!?」
おや? とれいむお母さんの方を向く3匹。ここで初めて3匹がれいむお母さんに気付きます。
「おかーしゃんは、さっききえちゃったよ!」
「れいむたるもの、テレポートの1つくらいゆっくりまえさ!! かんいっぱつにげていたんだよ!」
「ゆ! おかーしゃんすごーい!!」
「しゃんはーい!」
「ゆー! ほらーい!」
「さ、はやくおかーさんのくちのなかにはいって! ゆっくりにげるよ!」
こうして親切なれいむお母さんに助けられた3匹は、父親のことも忘れてすくすくと育ちましたとさ。
めでたしめでたし。
『嫌われありすの一生』
1匹で食料調達が出来るくらいにまで成長したありすが、口一杯に木の実を詰め込んで巣まで帰って行きます。
新しく見つけた木イチゴの群生地を皆に報告したくて、帰宅の足はついつい逸ります。
そんなありすが、突然何もないところで転びました。
ぐべ、と地面に突っ伏したありすの上に乗っかってくる影2つ。
細い蔓を使ってありすを転ばせた、ゆっくりしゃんはいとほーらいです。
「しゃんはい! しゃんはーい! (やーいやーい! ありすざまあ!)」
「ほらいほーらい! (おお、みじめみじめ!)」
2匹はありすの上で散々飛び跳ねた挙句、ありすを投げ飛ばしました。
放物線を描いて、ありすは顔面から木に激突します。飛び散る朱い飛沫。
ベチャリ、と地面に落ちてきたありすの体は、真っ赤な液体で染められています。
あ、と硬直する2匹。やり過ぎに気付きました。
「しゃしゃしゃんはーい!! (ちちち、ちがでてるううう!!)」
「ほほほっほほおおお!!! (たたたったいへんだー!!!)」
ありすを濡らすそれが血であるなら、どうみても致死量に達しています。
アワアワと震える2匹が見守る先で、ありすがゆっくりと身を起こします。
「ふおおおおおお……」
「しゃー!!! (ぎゃー!!!)」
「らいらーい!! (ぞんびー!!)」
グロテスクな外見に驚いた2匹が、我先にと逃げ出します。
先に悪戯しようっていったのしゃんはいじゃん! しゃんはいが捕まってよ!!
やだね、ぐずなほーらいが食べられればいいじゃん!
いやあああ!!!
足下もろくに見ないで走ったせいで、先を行くしゃんはいがもんどり打って地面にダイブしました。
それにつまづいたほーらいも顔面スライディングを敢行します。
「はあああああい!! (したかんだー!!)」
「らあああああ!! (おでこすりむいたー!!)」
後から2匹に追いついた、木イチゴの汁で顔を汚したありすがため息をつきます。
口の中の木イチゴが台無しになったので、2匹を叱ろうと追いかけてきたのですが、
痛みに悶える2匹を見ているとあきれ果て、どうでも良い気分になりました。
「ばかねえ、あんたたち」
せっかくの木イチゴを台無しにしたので、2匹はお母さんれいむにこっぴどく叱られました。
「しゃんはーい…… (ちくしょう……)」
「ほらほらーい…… (ありすのとかいは(わら)め……)」
どうにかして仕返しをしてやろうと巣の近くをぶらついていると、れみりゃの死体を見つけました。
まだ日が高いのではっきり死体だとわかりますが、意外と損傷が少ないので暗くなってくると生きているれみりゃと区別がつかないかも知れません。
2匹は顔を見合わせ、お互いの思考が一致したことを確認しました。
ありすは、木イチゴを集め直しに行っている。帰りは少し遅くなるだろう……。
夕闇が迫る山中を、ありすが大急ぎで走っています。
昼間駄目にした木イチゴの分も挽回しようと欲張った結果がこれだよ!!!
しゃんはいとほーらいは木によじ登り、ありすが来るタイミングに合わせてれみりゃの死体を落とそうと目論んでいます。
ありすを驚かせれば、少しは鬱憤も晴れるというものです。
「ほらら (きたきた)」
「うー……よくねむったお」
「しゃんしゃん (それはよかった)」
……はい? 2匹が真っ青になって振り返った先では、れみりゃが大あくびをしながら伸びをしています。
はい、眠っていただけだったね。
「らあああああい!!?? (はっきりしたいだってわかるっていったの、だれえええ!!??)」
「ははははああい!! (しゃんはいじゃない、しゃんはいわるくないもん!!)」
「うー、ゆうごはんがめのまえにいるお。らっきーだお」
カポ、とれみりゃがしゃんはいの頭に齧り付きます。恐慌状態の2匹は木の上でアタフタするしかできません。
「ほらほらほらほら…… (あわわわ、こまりましたねぇ……)」
「ゆ゛うううううぅうううう!!!」
れみりゃの牙がしゃんはいの頭皮に突き刺さり、髪の毛がむしり取られていきます。
「じゃああんんん!!! (だすけ゛てえええ!!!)」
「うー、うるさいおー」
抵抗するしゃんはいに苛立ったれみりゃが、しゃんはいを地面にたたき落とします。
固い地面に切り裂かれたしゃんはいの顔面から餡が漏れ出し、
しゃんはいを踏みつぶしに落ちてきたれみりゃのプレスに耐えきれなかったしゃんはいの体がザクロのように破裂しました。
あたり一面にぶちまけられるジャムみたいなしゃんはいの残骸。
「じゃ……、じゃ……」
「ペロペロ、うー。おいしいくないお」
ぺー、としゃんはいだったものを行儀悪く吐き出し、木の上で震えているほーらいを引きずり下ろします。
哀れ、しゃんはいの命は2回舐められるだけの価値しかなかったのです。
「ほらああああ!! ほらああああ!!! (はなしてええええ!! たべないでええええ!!!)」
「こいつもうるさいお。しゃーらっぷ!」
れみりゃの鋭い翼がほーらいの口を真横に切り裂き、ついでに切り取られた舌がテロンと零れます。
こうなると、ほーらいの口からは「はふ、はふ」と空気が漏れる音しかしません。
さあ、今度こそ、と意気込むれみりゃの横っ面を重い物が張り飛ばし、れみりゃはゴロゴロと転がっていきました。
ハンマー代わりにしゃんはいだったものを咥えたありすが、鬼の形相で仁王立ちです。
「ゆー! ゆっくりできないれみりゃはやっつけてやる!!」
「うー、うわーん! さ゛くやー、へんなありすがいるどー!」
ありすの迫力に恐れをなしたれみりゃに反撃の意思は最早ありません。
何回もしゃんはいで殴りつけられ、自分の顔を汚しているのが自分の餡なのか、
しゃんはいの餡なのかわからなくなりつつ逃げていきました。
興奮が収まらないのはありすです。
よくもしゃんはいを、よくも。
それだけを繰り返し叫びながら、近くで動くものを殴りつけます。
「なにやってるの、ありす!!!」
そんなありすを突き飛ばしたのは、れいむお母さんでした。
え、助けに来てくれたんじゃないの? 驚いたありすがあたりを見回すと、視界に入ってくるのはれいむお母さんと……。
ボロクズになって息絶えたほーらいでした。
左側頭部は陥没して元に戻らず、破裂した左眼球から漏れた餡は鼻孔に詰まり、
裂かれた口は無惨にアチコチから破れて口の中を晒しています。
最後まで無事だった右目には目垢が大量に固まり、ほーらいがどれだけ長い間泣いていたかを物語っています。
言葉が喋れなくなっていたほーらいは、助けを求める事も出来ずに姉妹に殺されました。
「――ばかね、わたし」
「かぞくをころしたありすは、そこでゆっくりしないでいてね!!!」
「しゃんはいとほーらいはありすとなかよしだったのに、ざんねんだよ!!!」
「ゆー! ちがうの! しゃんはいをころしたのはれみりゃだよ!」
「うそまでつくの!? れみりゃのはがたさえ、しゃんはいにはついてないよ!」
家族を殺してしまったありすは、枯れ木の中の孔に閉じこめられてしまいました。
孔の出入り口は枝や石で厳重に固められ、外の音が何とか聞こえるくらいです。
この後彼女をどうするのか。れいむお母さんやご近所さん達が話し合っています。
「ありすは……うちのちぇんともなかが……」
「まさか……。でも……」
「なんで……。ずっとかぞくでゆっくり……」
孔の中では茫然自失のありすが縮こまっています。
自分は何てことをしてしまったんだろう。ごめん、ほーらい。助けられなくてごめん、しゃんはい。
そうこうしている内に、気疲れもあってありすは眠りに落ちていきました。
「――! ――!」
「――、――♪」
何やら外が騒がしいようです。騒音に目を覚ましたありすが外の様子を伺うと。
「にげでぇえぇぇ!! みんなはやぐううう!!」
「うー♪ あのありすをみつけて、ころしてやるどー♪」
「はい、おぜうさま!」
「かしこまりましたわ!」
「ありす゛はああ! そこのあなのなかだよ!」
「だまされませんわ。あななんてありませんもの」
「うー♪ さすがはさくやだお!」
「いりぐちかためたの、だれええええ!! はやくありすをそとにだし゛でええええ!!」
「ばちゅりいいは、もうしんじゃったよおお!!」
さっきのれみりゃとその家族のさくやが、家族やご近所さんを襲っています。
狙いはありす。どう見ても仕返しです。
しかも、入り口を枝と石で固められた孔に彼女たちは誰も気付きません。
「わだじはここよー! みんなをいじめないでえええ!!」
「う? なにかきこえるど?」
「げんちょうですわ、きっと」
「うー♪ さすがはさくやだお!」
「ありすをひろってあげたけっかがこれだよおお!!」
「おかーさん、た゛すげてえええ!!」
「わかああああああ!」
「ちぼっ、ちぼっ……」
見る間に数を減らしていくゆっくり達。さらに、反撃を受けたれみりゃ達にも少なくない被害が出ました。
さくやの顔面に齧り付いたまま絶命したまりさや、高みの見物を決め込んでいたれみりゃの羽根をもぎ、自分の死体の重さで潰したゆっくりらんは勇敢に戦いました。
最後に残ったのは1匹のさくやと、1匹の赤ちゃんぱちゅりー。
ピーピー泣いているぱちゅりーを、さくやがそっと咥えます。
「かえりましょう……、ぱちゅりーさま」
「むきゅーん……」
「おぜうさまもおまちですよ。うふふ」
「さくや?」
「うふふふふふふ」
この2匹がこの後どうなったのか、誰も知りません。
ありすは巣の中でずっと泣いて暮らしました。干からび、萎びれ、自分の命がどんどん減っているのを自覚してなお、何か行動を起こす気にはなりませんでした。
そしてそのまま死んでいればそれで終わりでしたが、このありすは相当運が良かったのでしょう。
キノコ狩りにきた老人が枯れ木の中でぐったりしているありすを見つけ、持ち帰ってくれました。
老人の手厚い看護のおかげでありすは一命を取り留め、一人暮らしの老人の貴重な話し相手になりました。
そして季節は冬。特別寒さが厳しいその年、幻想郷は一面雪に覆われています。
始めは塞ぎ込み、餌に全く手を付けようとしなかったありすも、老人の絶え間ない愛により少しずつ心を開き、
健康を取り戻しつつありました。
――飼い始めの頃、自傷行為が見受けられたありすを老人はこう叱りました。
「お前さんの事情は知らん。あのあたりのゆっくりが全滅したのと関係がありそうなのは分るがな」
目をそらそうとするありすの顔をしっかりと掴み、視線を真正面から合わせ。
「お前さんは生き残ったんだ。なら生きなさい。お前さんにはその義務がある」
老人の家の仏壇に飾られているのは、若い女性と幼い子供の写真――が色あせた、ただの白い紙。
「後生だから生きて、私の家族になってくれ。1人はいい加減さみしい」
そう言われたありすは老人の説得に折れ渋々餌に口をつけ、傷の治療を受けたのでした。
少し昔のことを思い出して黄昏れていたありすの元に、夕飯が持ってこられました。
「さ、おこたに入って夕飯をお上がり。私は風呂に入ってくる」
そう言って老人は浴室に向かいました。残されたありすは幸せなような、申し訳ないような気分で餌をつつきます。
今でもしゃんはいやほーらい、家族やご近所さん達の死に様を夢に見ない夜はありません。
正直な話、死んでしまったらどんなに気が楽だろうと思っています。
それでも、あの老人の頼みを無下にして命を絶つのは気が進まなかったので、ありすは今も生きていました。
「ゆ。わたし、いきていていいのかな……」
誰かに許しを貰いたがっている自分に気付き、ありすは自嘲気味にため息を漏らしました。
許しなら、既にあの老人からたくさん貰っているではないか。
「ばかね、わたし」
彼は言っていました。「今私は幸せだ」と。
無い食欲を誤魔化しつつ、ゆっくりゆっくりと餌を食べます。時計の針が一回りをしてもまだ食べ終わりません。
「……おじいさん、おふろながいわね……」
数日後、文々。新聞の片隅にこんな記事が小さく載りました。
『1人暮らしの老人が孤独死
先日、○○村の××さんが浴室で死亡しているのが発見された。死因は心筋梗塞と見られる。
××さんは1人暮らしが長く、最近は慰めにゆっくりを飼う孤独な老人だった。
近年増加する1人暮らしの老人の孤独死は、てゐさん行方不明の影響であるとの説が有力であり――』
飼いゆっくりの消息は載っていなかった。
PN水半分
なお、作者は『嫌われ○子の一生』を未読・未鑑賞なのでタイトルが似通っている以外の関係はありません。
最終更新:2022年05月03日 15:20