「ゆっ!おちびちゃんたち、ただいま!」

「みゃみゃだ~!」
「ゆぅ!おかあしゃん、おかえりなしゃい!」
「おかーさん、おかえりなさいだぜ!」
「ゆっくりおかえりなさい!」
「ゆぅ~ん♪おにゃかしゅいたよ~♪」

巣に戻ってきた母れいむに、巣の中で遊んでいた子ゆっくり達が
口々に返事をしながら、ぴょんぴょんと跳ね寄って来る。

崖の岩肌にできた洞穴。
ゆっくりの巣としては広い洞穴で、
屈みさえすれば、人間でも三人ぐらいは入れそうな広さがあった。
ほぼ円形の広々とした空間。
目立つ物と言えば、天井から突き出した、頑丈そうな太い木の根ぐらい。
崖の上に立つ大木の根がここまで伸びてきているのだった。
そこが、れいむ一家の巣だった。

その巣に住むのは、
ソフトボール大の子ゆっくり、子まりさが2匹に子れいむが1匹。
ピンポン玉より一回り大きめの赤ゆっくり、全て赤れいむで3匹。
母れいむを入れて、今は計7匹のゆっくり家族だった。


「みゃみゃ~、しゅ~りしゅ~りちて~♪」
「ゆっ!れーみゅも!」

大好きなお母さんとすーりすーり♪しようとしているのは、
末っ子と五女の赤れいむコンビ。
そして、母れいむの陰に転がっている丸い物体に気づく。

「ゆ・・・?しょれ、なーに?」
「ゆ!このこはね・・・」

五女赤れいむが上げた疑問の声に
母れいむが事情を説明をしようとしたときだった。

「ゆっ、ゆぅ・・・ん・・・・」

注射されていた睡眠薬の効果が切れ、目を覚ましたソレが声を上げた。

「ゆわっ!?しゃべっちゃ!」

末っ子の赤れいむが驚いてぽよ~んと、飛び上がる。

「ゆゆっ?おちびちゃん、めがさめた?」

母れいむが少し体をよじって鎖を引っ張ると、コロコロとソレが転がり、
母れいむの目の前までやってくる。

「ゆぅ!あかちゃんだよ!」

次女である子れいむが最初にその正体に気づいた。

「そうだよ!きょうから、このあかちゃんもかぞくになるよ!
 みんなゆっくりなかよくしてね!」
「「「「「ゆゆぅ~!?」」」」」

突然家族が増えたことに、
一様に驚きの声をあげる子供ゆっくり達。

「おちびちゃんも、これからはれいむがゆっくりさせてあげるからね。」

優しく笑顔を向けるれいむ。
キョトンとしている赤まりさ。

「ゆ・・・きょきょ・・・どきょ・・・?」

生気のない声で誰にともなく尋ねる。
怖い人間の家にいた筈なのに、
気がついたら、どこか見知らぬゆっくりのお家にいた。


怖い人間の家にいた筈なのに?
その怖い人間の家で自分は何をされた?
怖い人間に見せられた鏡という物に写っていたのは何だった?

「ゆっ・・・!?み、みないじぇぇ!まりしゃをみないじぇぇ!」

突然、恐慌状態に陥り、泣き叫び出した目の前の赤まりさに、
唖然とするゆっくり一家。
その状態からいち早く復帰したのは、母れいむだった。

「ゆっ!おちびちゃん!もうだいじょうだよ!
 おちびちゃんをいじめる、わるいにんげんさんは、もういないよ!」

赤まりさを落ち着かせようと力強く声をかける。
だが、赤まりさの恐慌は治まらない。
今、赤まりさが怯えているのは、目の前にいない人間にではない。
怖い人間によって、怖い化け物にされてしまった自分の姿、
そして、その自分を見たときに、周りのゆっくりが見せるであろう
反応に怯えていたのだ。


しかし、その反応は赤まりさが想像していたものとは違った。

「ゆゅ・・・どうちたのぉ・・・?ぽんぽんいちゃいの・・・?」

五女赤れいむが心配そうに、赤まりさの顔を覗き込む。

「みちゃやぁぁ!みないじぇぇ・・・ゅ・・・・?」

自力で動くことができないため、顔を逸らすことすらできず、
ただ泣き叫ぶ赤まりさだったが、
赤れいむが叫び声をあげないことに気づいて戸惑う。
自分の妹のまりさは、自分の顔を見て怯えて、火がついたように泣き出した。
この赤れいむもそうだろうと思っていた。

「ゆぅぅ・・・りゃいじょうぶ・・・?」

だが、赤れいむは、いまだに心配そうに、
赤まりさの顔をじぃっと覗き込んだままである。

「ゆ・・・・・・・・」

赤まりさは、少し離れた所から、固まってこちらを見ている、
他の子ゆっくりと赤ゆっくり達に視線を移す。

他のゆっくり達は、どこか訝しげな視線をこちらに向けている。
やっぱり自分のお化けみたいな顔を怖がっているのか?
でも、怖がって怯えているという様子とは少し違う。


「・・・ゆ。なんだか、へんなおめめのあかちゃんなのぜ!」

小馬鹿にしたような口調で子まりさが言った。

(ゆ・・・やっぱり・・・)

再び、赤まりさの心が暗く沈む。
その様子を見て、母れいむが子まりさを叱りつけようとした、その時。

ドン!!

「ゆびゃっ!?」

音を立てて、子まりさに体当たりをしたのは、もう一匹の子まりさ。
長女まりさであった。
ちなみに体当たりをされた方の子まりさは三女である。

「あかちゃんに、そんなひどいこと、いっちゃだめなんだよ!
 そんなこというゆっくりは、ゆっくりできないよ!」

「だじぇ・・・」

姉に叱られ、涙目になる三女まりさ。

「そうだよ。れいむのおちびちゃん。
 このあかちゃんはね、わるいにんげんさんに、けがをさせられたんだよ。
 とってもかわいそうなめにあったんだからね。
 いじわるいったら、おかあさんゆるさないよ。」

姉まりさが厳しく叱ってくれた分、
幾分優しく、諭すように語りかける母れいむ。

「ゆぅ・・・ごめんなさいなんだじぇ・・・」

涙目で謝る三女まりさ。

「まりさ、あかちゃんにもあやまろう?」

体当たりされた時に地面に打ち付けた頬を
ぺーろぺーろしてくれながら、次女れいむが促す。

「ゆぅ・・・あかちゃん、ごめんなさいなんだじぇ・・・!」

母れいむは安心していた。
三女の子まりさは思ゆん期にありがちな反抗精神から、
粗雑な態度を取ることも多いが、根は優しい子ゆっくりである。
きちんと接してあげれば、こちらの想いは必ず通じる。
勿論、他の子達もこの子に負けず劣らずに
優しい、ゆっくりとしたゆっくりだ。



一方の赤まりさは、戸惑っていた。
変な顔と言われこそしたが、このゆっくり達には怯えた様子は見られない。
自分が自分の顔を見たときには、恐怖のあまり叫び声を上げた。
怯えるなと言われても、怯えずに済む顔ではなかった。
お父さん達だって、叫び声こそ上げなかったが、
怖がってブルブルと震えていたではないか。
それなのに、この家族達は、何故か誰も怯えた表情を見せてはいない。
自分の顔が怖くはないのだろうか?
自分の顔は怖くはないのだろうか?


「それじゃ、みんな、あたらしいかぞくのあかちゃんに、
 ゆっくりあいさつしようね!」

「「「「「「ゆっ!」」」」」」

「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
「「「ゆっきゅりしちぇっちぇにぇ!!」」」

母れいむの号令一下、綺麗にハモった挨拶をするゆっくり一家。

「・・・・ゆぅ・・・ゆっくり・・・していってね・・・・」

一方の赤まりさは、ゆっくりの本能から返事は返すが、
その声にはまったく力がこもっていない。
ゆっくり一家も表情を曇らせる。

「ゆ~・・・あかちゃん、げんきないよ・・・」

長女まりさが心配そうに母れいむを見やりながら言う。

「ゆぅ・・・
 おちびちゃん、ひどいことされたから、げんきないんだね・・・
 でもだいじょうぶだよ!
 ゆっくりしていれば、きっとげんきになれるからね!
 ここはゆっくりできるおうちだから、
 おちびちゃんはえんりょしないで、ゆっくりしていってね!」

母れいむが赤まりさを元気づけるように言う。

「ゆ・・・」

赤まりさの反応は相も変わらず。
母れいむは嘆息を漏らすが、まだこんな小さな赤ちゃんが、
ひどい目に遭わされた上、家族まで失ったのだから仕方がない、
後は時間に任せるしかないと結論を出した。



「みゃみゃぁ♪れいみゅ、おにゃかしゅいたよ!」

暗い雰囲気を破るように、六女れいむが脳天気な声をあげた。
時間は既に夕方近い。
朝ごはん以来、何も食べていない子供達は既に空腹であった。

「ゆっ!そうだね!ごはんさんにしようね!」

母れいむも、自分達が沈んだ気持ちでいては、
この赤ちゃんをゆっくりさせてあげることなんてできない、
みんなで楽しいごはんにしようと、気持ちを切り替える。
そこで、人間から貰った、とてもゆっくりできるごはんの事を思い出した。


「ゆゆっ!ゆっくりおもいだしたよ!
 おちびちゃんたち!きょうはとってもおいしいごはんさんがあるよ!
 おねえちゃんたちは、おかあさんをてつだってね!」

「ゆゆぅ~!?おいちいごはんしゃん!?」
「ゆわーい!ゆわーい!」

嬉しそうにピョコピョコ飛び跳ねる赤ゆっくり達の歓声を受けながら、
母れいむと子ゆっくり達は、人間が巣の前に置いていった
大量の食料の山を巣の中に運び入れる、

「ゆぅ~!!!すごいごちそうなんだじぇ~!?」
「とってもあまそうな、あまあまさんもあるよ!?」
「ゆっ!すっごくゆっくりできるごはんさんだね!!」

お姉ちゃんゆっくり達も、今まで見たことのない大ご馳走に、
興奮してポヨンポヨンと飛び跳ねる。

「こっちのごはんさんは、ふゆごもりのときのおたのしみだよ!
 きょうはくだものさんとおやさいさんをたべようね!
 とってもおいしくて、ゆっくりできるよ!
 でざーとにあまあまさんもあるよ!」

「「「「「「ゆゆ~ん♪」」」」」」

そうして、楽しそうな一家の食事が始まった。


「うっめ!?これめっちゃうっめ!?」
「ゆゆぅん♪このくだものさん、すっごくおいしいよぉ!」
「おにぇちゃん!おやさいしゃん、おいちぃにぇ!!」
「「「むーしゃむーしゃ、しあわせぇ~♪」」」

ガツガツ、もっもっ、と餌を食い散らかしてゆく、ゆっくり達。
そんなとき、ふと五女赤れいむが、一匹佇んでいる赤まりさに気づく。

「ゆぅ・・・おかあしゃん、あにょこはちゃべないの・・・?」
「ゆっ・・・おちびちゃんはおくちをけがしちゃって、
 ごはんがたべられなくなっちゃたんだよ・・・」
「ゆぇぇぇん!
 ごはんしゃんたべりゃれなかっちゃら、ゆっきゅりできにゃいよ~!」

それを聞いた末っ子の赤れいむが泣き出してしまう。


「・・・・・・・・」

そのやり取りを黙って見ていた三女まりさが、
今から食べようとしていた餡子を口に頬張ると、
赤まりさの目の前までビョンビョンと跳ねて来た。
そして、ベッと餡子を吐き出す。

「ゆっ!ごはんさんをたべないと、
 まりさみたく おおきくなれないのぜ!
 むりしてでも たべたほうがいいんだぜ!」

そして、母ゆっくりが子ゆっくりにしてやるように、
少量の餡子を自分の舌に乗せると、
キョトンとしている赤まりさの口の前に差し出した。
先程の汚名返上のつもりなのだろうか。

だが、子まりさは、そこで初めて、
赤まりさは餌を食べるべきお口を閉じているのではなく、
そもそも、お口がついてない、ということに気づく。
その部分には、呼吸のための空気穴が幾つか開けられているのだが、
針で開けた細い穴なので、ゆっくり達はそれに気づかなかったし、
どのみち食物摂取の役に立つものではない。

「ゆ?ゆぅっ・・・?!おぐぢがぁ・・・!?
 ゆぎぃぃ!?どうじでごんなひどいごとするんだじぇぇぇ!?」

三女まりさはガクガクと震えながら驚愕の声を上げた後、
赤まりさの境遇に我が事のように涙を流し、
じだじだと体をぐねらせる。

「ゆ・・・まりしゃは・・・だいじょうぶぢゃよ・・・
 おにゃきゃ・・・しゅいてないよ・・・」

実際、赤まりさは、濃縮オレンジジュースによって
十分過ぎる程の栄養を与えられているので空腹感は無かった。

それでも普通のゆっくりであれば、
他のゆっくり達が美味しそうにごはんを食べている光景を見れば、
おのずと食欲が沸いてくるものである。
しかし、虐待を受け、家族から化け物呼ばわりされて
生きる気力を失っている今の赤まりさは、
ゆっくりできる美味しいごはんすらも、
何ら魅力的には感じなかったのである。


「ゆぅぅ!だっだらまりざも、おながずいでないんだじぇ!
 あまあまはいらないんだじぇぇ!!」」

三女まりさは、そう言いながら、体を使って地面の餡子を脇に押しやる。
だが、時折視線が餡子の方を彷徨い口の端から涎が垂れているのが未練である。

「ゆぅ・・・ゆっきゅり、あみゃあみゃさんをたべちぇにぇ。
 しょのほうが、まりしゃはうれちいよ?・・・まりしゃおにぇしゃん。」

「ゆぅぅぅぅ・・・ゆ・・・ゆ゛え゛ぇ゛ぇぇん!
 ゆっぐりいだだぐんだじぇぇ!!
 むーじゃ、むーじゃ・・・じ、じあわぜぇぇ!!」

しあわせぇと叫びながらも、
ボロボロと涙を零し、むせび泣きながら餡子を貪り喰らう三女子まりさ。


この子まりさは、同世代の子ゆっくり達の中では一番の年下。
妹の赤ゆっくり達は全てれいむ種。
そんな中で、初めてできた、同じまりさ種の"妹"。
初対面では、あんな意地悪な事を言ってしまったが、
内心ではそのことが嬉しくて嬉しくて仕方なかったのだ。

だから、お姉さんらしい所を見せようとして頑張ったのだが、
逆に"妹"に気を使われてしまった事への悔しさと、
『おにぇしゃん』と呼ばれた事への嬉しさ。
それらが綯い交ぜになっての涙だった。

「おにぇちゃん、なきゃないでにぇ!」
「ゆぅぅぅ!みんにゃでいっしょに、たべよーにぇ!」

赤れいむ達が、まりさ姉妹の元に跳ね寄ってくる。
それを見て、姉の子まりさと子れいむも、
美味しい餡子さんを口に咥えて、集まってくる。
母れいむは、そんな子供達の姿を微笑ましそうに眺めている。


その中心にいながら、赤まりさの心は、
いまだ辛い記憶に暗く沈んだままだったが、
虐待を受けた疲れからか、残っていた睡眠薬の影響からか、
ウトウトと船を漕ぎ始め、いつしか、安らかな眠りに落ちていった・・・


--------------------------------

それから三日後。

赤まりさが新しい家族の元に来てから四日目の日。


「ゆぅぅ~!?まりしゃ、しゅご~い!!」

ゴムボールの弾力でボヨンボヨンと高く跳ねる赤まりさを見上げながら、
四女赤れいむが感嘆の声を上げる。

「おちびのくせに、なかなかやるんだぜ!」

三女子まりさが、負けじとポヨンポヨンと跳ね上がる。

「ゆゅん♪」

他のゆっくり達に較べると、まだ少し元気が無いが、
それでも楽しげな声を上げる赤まりさ。


あの日以来、小雨が降り続き、一家は一歩も外に出ることなく、
巣である洞穴の中で過ごしていた。
外には出られなくても、美味しいごはんは食べきれないくらいある。
また、一家が巣にしている洞穴は広いので、
子ゆっくり達が一緒に遊べるだけの空間もある。
もっと広いお外で、のびのびと遊べないのは残念ではあるが、
それでも一家はゆっくりとしていた。
母れいむ一家の赤ゆっくりよりも、僅かに年下の赤まりさは、
皆の妹分として、姉妹達からも可愛がられた。

そんな、ゆっくりとした優しい"家族"に囲まれていた事と、
都合の悪い記憶、辛い記憶はすぐに忘れ去ろうとする
ゆっくりの自己防衛本能故に、暗く沈んだ赤まりさの心も、
少しずつではあるが、元の明るさを取り戻していった。
凍てついていた氷が溶け出すように、ゆっくりと。

そして今日、三日ぶりに雨が上がり、
一家は森の中の空き地まで遊びにやってきて、
厳しい冬が始まる前の、柔らかな陽の光を存分に楽しんでいた。


「ゆっ!もういっかい、いくよ!」

次女子れいむが、赤まりさを留めている鎖を口で咥えると、
ピョーン!と空に向かって放り投げる。

「ゆぅ♪まりしゃ、とりしゃんみちゃい♪」

ボヨ~ン、ボヨ~ンと高く飛び跳ねる赤まりさ。
何回目かの着地点に、尖った小石が落ちていた。

「ゆぴゃっ!?」

尖った石に当たったことで、赤まりさがあらぬ方向に飛んで行く。

「ゆぇぇん!まりしゃぁ!?だいじょうびゅ~!?」

赤まりさを追いかけ、涙目で跳ねてゆくのは、五女赤れいむ。

「ゆ・・・だいじょうびゅ!びっきゅりしちゃっただけぢゃよ!」

赤まりさは、何事もなかったように返事をする。
全身をゴムで包まれているので、
小石に当たったくらいでは、何のダメージも無いのだ。

「ゆぅ~・・・ぺーりょぺーりょ、すりゅよ!」

それでも心配して、赤れいむが赤まりさの底部を舐める。
赤まりさは、赤ゆっくり達の中では、
この五女赤れいむと一番仲が良くなっていた。
本当の姉妹の中で一番仲の良かった赤れいむと
どこか雰囲気が似ている事もその一因だった。
そして、赤れいむの方も赤まりさが大好きだった。

「ゆ~ん・・・?」

ぺーろぺーろをしていた赤れいむが不意に疑問の声をあげる。

赤まりさの底部のぺーろぺーろをした箇所が
饅頭皮の肌色から、黒色へと変化したからである。
しばらく、その黒い物を見つめていたが、
赤れいむにはそれが何かはわからない。

そうこうする内に、

「ゆ!つぎはおしくらゆっくりをやろうね!
 おしくらゆっくりす~るも~の♪こ~の■■■■と~まれ♪」

長女まりさの呼びかけに、五女赤れいむもすっかりそちらに気を取られる。

「やりょうね~♪」
「おちびもやるんだぜ!とってもたのしいのぜ!」
「ゆぅ♪まりしゃもやりゅよ♪」

三女子まりさに引っ張られ、赤まりさが嬉しそうに声を上げる。

「ゆぅぅぅ!みんなとってもゆっくりしてるね!
 おかあさんもゆっくりできるよ!」

母れいむは、鎖に繋がれて遠くまで離れられない赤まりさを中心に
仲良く遊ぶ子供達の姿に、顔を綻ばせていた。


--------------------------------

「ゆぅ・・・ゆぴぃ・・・・」
「だじぇ・・・・」
「すーやすーや・・・すーやすーや・・・ちあわせぇ・・・」

遊び疲れた子供達は、母れいむに寄り添って、しばしのお昼寝タイム。
穏やかな子供の寝顔をみつめる母れいむ。
ふと、視線に気づく。

「ゆ?どうしたの、おちびちゃん?おねむじゃないの?」

自分を見上げていた赤まりさに声をかける。

「ゆ・・・・・・」

赤まりさは、何かを言いたそうに、もじもじとしている。

「ゆぅ・・・?どうしたのかな?」

「あ、あにょね・・・・おばちゃん・・・」

いい淀む、赤まりさ。
どうしよう。断られたらどうしよう。
そんな思いに餡子胸をドキドキと高鳴らせて。
母れいむは、優しい笑顔を浮かべて、ただ黙っている。

「まりしゃね・・・まりしゃ・・・おばちゃんのこと・・・・・・
 おかあしゃん・・・って・・・よんでみょいい・・・・・・?」

ウルウルと瞳を潤ませながら、
赤まりさがやっとの思いで言葉を絞り出す。

「ゆゆっ!?もちろんだよ!おちびちゃん!
 おちびちゃんも、れいむのかわいいあかちゃんだよ!!」

母れいむが満面の笑みを浮かべて答える。

「ゆぅぅぅ・・・おかあ・・・しゃん・・・おかあしゃん!おかあしゃぁん!」

泣きながら、母れいむの事を何度もお母さんと呼ぶ、赤まりさ。

「ゆぅ・・・さびしかったんだね、おちびちゃん。だいじょうぶだよ。
 これからは、おかあさんがずっとおちびちゃんのそばにいるからね!」

母れいむも目に涙を浮かべながら、赤まりさの固い体にすーりすーりをする。



ガサリ

不意に離れた木陰で物音がした。
子供を守ろうとする本能から、まず、母れいむが咄嗟にそちらに視線を移す。
遅れて赤まりさが。

木の陰から一人の人間が笑顔でこちらを覗いていた。
だが、ゆっくり達の視線がこちらを向いたことに気づき、すぐに身を隠す。

(ゆ・・・?あのときのおにいさん・・・?)

母れいむは、その顔に見覚えがあった。
他ならぬ、この赤まりさを母れいむに預けた、あの人間だ。

(おちびちゃんがしんぱいでみにきたんだね・・・)

「ゆっ!おにいさん!こっちに・・・」

赤ちゃんはとってもゆっくりできてるから心配ないよと伝えよう、
それから子供達にも美味しいごはんのお礼をさせよう、
そう思い、お兄さんに声をかけようとする母れいむ。
だが、その声が遮られる。

「ゆぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

赤まりさが、耳をつんざくような絶叫を放った。



「ゆっ!?どうしたの!?おちびちゃん!?しっかりしてね!!
 どこかいたいの?!」

「ゆびぇぇぇぇぇぇぇ!!にんげん!!!にんげんしゃんがいりゅよぅ!!!
 ゆんやぁぁぁぁぁぁ!!!やめちぇぇぇ!!!ゆぴゃぁぁぁっ!!!
 まりじゃに、ひぢょいこちょちないじぇぇ!!!!!!!!」

半狂乱になって泣き叫ぶ赤まりさ。
赤まりさの叫び声に、姉妹達も次々に眠りから醒め、
尋常ならざる赤まりさの声に、何事かと心配そうに様子を伺っている。

「ゆゆっ!?ちがうよ!おちびちゃん!
 あのにんげんさんは、いいにんげんさんだよ!
 おちびちゃんのことたすけてくれた、やさしいおにいさんだよ!
 ゆっくりりかいしてね!!」

この赤ちゃんは、人間の顔が区別できないのだろう。
自分を虐めた悪い人間も、あの優しい人間も、
みんな同じに見えるに違いない。
そう理解した母れいむは、必死に赤まりさを宥めようとする。
それに、赤ちゃんの命の恩人であり、美味しいごはんの恩人でもある
お兄さんに聞かれたら気を悪くさせてしまう。

まりしゃのおかあしゃんは何を言っているのだろう。
あの人間さんが、良い人間さん?優しいお兄さん?
違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。
そんな筈はない。だって、まりしゃは忘れていない。
絶対に忘れられない。あの人間さんの笑顔。
まりしゃの本当の姉妹達と、本当のお父さんとお母さん達を、
とってもとってもゆっくりできないひどい目に遭わせたあの笑顔。
あの怖い怖い怖い怖い怖い怖い笑顔。


「ゆ゛え゛ぇぇぇぇん!!!ぢぎゃうにょぉぉぉぉ!!!!
 ぎょわいにんげんざんにゃにょょぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ゆぅぅ・・・・おちびちゃん・・・・」

赤まりさは、必死になって母れいむに訴えかけるが、
必死になればなるほど、恐怖だけが先に立ち、言葉は伝わらない。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。
このままでは、まりしゃだけではなく、
優しいお母さんと、お姉ちゃん達まで、あの怖い人間に・・・!

「ゆっぐ・・・!!にげぇぇ!!にげちぇぇぇぇ!!!
 にんげんざんがぎゅるよぉぉぉ!!!!!」

「ゆっ!!おちびをいじめた、わるいにんげんがくるのかだぜ!!
 そんなやつ、まりさがひとひねりにしてやるんだぜ!!!」

漠然と状況を把握した三女まりさがいきりたつ。

「「ゆっくりできないにんげんは、おねえちゃんたちがゆるさないよ!!」」

長女まりさと、次女れいむも、赤まりさを囲むようにして、
どこにいるかもわからない敵に向かって、
ぷっくぅぅぅ!と全力で威嚇をする。

「ゆすん・・・おにぇちゃん・・・!」

やっと自分の話を理解してくれる相手が現れたと、希望に目を輝かす赤まりさ。

「ち、ちがうよ!れいむのおちびちゃんたち!
 ちゃんとれいむのおはなしきいてね!?きいてね!?
 どぼじでぎいでぐれないのぉぉぉぉ!?!?」

子供達が更に事態をややこしくしようとしていると感じ、
ほとほと困り果てる母れいむ。
無論、この場合、判断を誤っているのは、母れいむただ一匹なのだが、
そんな事には気づく筈もない。



その時だった。

ポツ・・・・・・ポツ・・・ポツ、ポツ、ポツ、ザー・・・

この季節の天気は移ろいやすい。
ゆっくり達が賑やかにゆんゆん騒いでいる間に、
いつの間にやら空が掻き曇り、あっと言う間に大粒の雨が降り出した。

「「「「あめさんだぁぁ!?」」」」

赤まりさ以外、今までのドタバタの事も忘れ、
空を仰いで恐怖の叫びを上げるゆっくり一家。

「ゆっ!?やめてね!?あめさんはゆっくりできないよ!!」
「あめさんは、ゆっくりふらないでね!ふらないでね!
 かわいいれいむがゆっくりできないよ!
 どぉぉじで、あめざんふるのぉぉぉぉ!?」
「やめちぇね!れーみゅとけちゃくないよ!?」

「おちびちゃんたち!!
 ゆっくりしないで、おかあさんのおくちにかくれてね!
 いそいでおうちかえるよ!!」

母れいむが自力で動けない赤まりさを真っ先に口に咥えると、
他の子ゆっくり達を急かす。

「ゆぇ~ん!!みゃみゃ~!!」
「ゆっぐ!ゆっぐ!ゆっぐりできないんだじぇぇ!!」

わらわらと母れいむの口の中に逃げ込む子ゆっくり達。
全員が入ったのを確認すると、母れいむはボヨン!ボヨン!と
全速力で降りしきる雨の中を駆け出した。


隠れていた木の陰から出てきて、
母れいむの背中に向かってヒラヒラと手を振る、虐待お兄さん。

「あぶねぇ、あぶねぇ。気づかれるとは迂闊だった・・・
 ま、間一髪セーフだな。これで"メッキ"が剥がれるだろう。
 ああ・・・赤ゆ潰してぇなぁ・・・」


--------------------------------

どうしよう、どうしよう、どうしよう。
なんとかして、怖い人間のことをお母さん達に伝えなきゃ。
何と言ったら、わかってもらえるんだろうか。
とにかく、お家についたら、ゆっくり話を聞いてもらうしかない。

母れいむの口の中で、赤まりさはそれだけを考えていた。
本当は、今すぐにでも、傍にいるお姉ちゃん達に聞いてもらいたかったが、
当の姉ゆっくり達は、いまだ雨への恐怖にパニック状態。
赤ゆっくりの目から見ても、
まともに話を聞いてもらえる状態ではないことは一目瞭然だった。



「ゆひぃぃ・・・・ゆひぃぃ・・・・・・
 お、おうちについたよ!おちびちゃんたち!ゆっくりでてきてね!」

頭の饅頭皮がふやけ、溶けかかりながらも、
辛うじて、巣に逃げ込むことができた母れいむ。
あんぐりと口を開けて、子ゆっくり達を外に出す。
幸いにして、母れいむの唾液で溶けることもなく、皆無事だったようだ。

「おちびちゃんもでてね!」

ベッ!と赤まりさを吐き出す。


「ゆっ!おかあしゃん!おにぇちゃん!
 まりしゃのおはなし、ゆっきゅりきいちぇね!!」

姉妹達と安堵の言葉を交わすのも惜しく、話し始めようとする赤まりさ。

だが、何か様子がおかしい。
自分を見るお姉ちゃん達の表情、そして、お母さんの表情。
何だろう。
どこかで見たことがある表情だ。
乏しい餡子脳をフル回転させて記憶を辿る。
そして、一つの記憶に辿り着く。
それと同時

「「「「「「「ゆぎゃあぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?
       おばげだぁぁぁぁ!?!?!?!?」」」」」」」

それは恐怖の表情。
赤まりさの本当の親と本当の妹が、赤まりさに向けた最後の表情、
そのものだったのだ。




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最終更新:2014年10月11日 02:37