(ある日差しの穏やかな午後)
ゆっくりプレイス。そこはとても広い草原だった。
そこに集まったおよそ100匹のゆっくり達は思い思いにゆっくりしていた。
草を食む者、バッタを追いかけ遊ぶ者、あるいは日向ぼっこを目一杯楽しむ者。
そこに現れた男が二人。背には竹籠、手には鉤付きの棒を持っていた。
ゆっくり達に緊張が走る。しかし誰も逃げ出さない。
あの人間達は自分達を捕まえに来たのかもしれない。
しかし、単に自分達と一緒にゆっくりしようとやって来たのかもしれない。
事実、そんな人間も中にはいるのだ。そして彼らは決まって自分達に甘いお菓子をくれる。
不用意には近づけない。しかしお菓子は欲しい。ゆっくり達は態度を決めかねていた。

「うーん。本当にゆっくりがいなくなってるとはなぁ。
 森にもいない。巣にもいない。池や川のほとりにもいない。
 いつもならこの草原に沢山居る筈なのにやっぱりいない。
 あの先生の言ってた事は本当だったんだなぁ。」

「だから言っただろう。先生に頼めば一発だって。
 先生はこの近くに住んでいる人の中で一番頼りになる人なんだよ。美人だし。
 不思議な能力を持ってたり、綺麗な弾幕を張ったりだって出来る。それに美人だし。」

「・・・。ま、まぁ確かに美人だな。しかしまさか一晩でゆっくりを消すだなんて。
 一応狩りの用意をしてゆっくりを探しに来たがとんだ無駄足だったなぁ。」

「まったくだ。俺達のじいさまの代から駆除しても駆除しても増え続けたゆっくりを
 たった一晩で全部消してしまうなんて。その上美人だし。」

「(もういいって・・・)」

男達は里に住む農家だった。畑に悪さをするゆっくりに困りはて人外の先生に駆除を依頼したのだ。
先生は里に住む全ての人間を集め『一晩ですべてのゆっくりを消す』と宣言した。
この二人はそれを確かめるためにゆっくりを探していたのだった。

「いやーしかし、今までここにはゆっくり狩りでしか来たこと無かったから気付かなかったが
 いいところだなぁ。ゆっくりに占領させておくのはもったいない。
 日当たりはいいし、風も気持ちいい。奴らがゆっくりしたくなる気持ちもわかるよ。
 俺達もすこしゆっくりしていこうか。」

「ははは、馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。カミさん達に畑任せっぱなしなんだぞ。
 しかしまあ一服くらいしてもバチは当たらんだろ。」

そう言うと男達は笑いながら煙草をくわえ火を付けた。

「ゆー。あのひとたちはどうやらゆっくりできるひとのようね。」

「やっぱりぱちゅりーもそうおもう?あのひとたちなんだかゆっくりしてるみたいだよ。」

「あっなにかたべてるよ。れいむたちももらいにいこう!」

談笑中の男の足下に集まるゆっくり達。

「ゆっくりしていってね!!!」

「いっしょにゆっくりしようね!」

「まりさにもそのたべものをちょうだいね。」

しかし男達は足下のゆっくりに気付かない。無視しているのではなく本当に気付いて無いのだ。
だが無視されたと感じたゆっくり達は体をふくらませ威嚇し始めた。

「どうしてむしするの!ゆっくりできないひとだね!」

「ゆっくりできないひとはでていってね!」

「はやくそのたべものをくれないとほんきでおこるよ!」

ついに男の足めがけて体当たりを始めるまりさ。

「じゃあそろそろ行くか。今度は家のちび共も連れてピクニックにでも来よう。」

「そりゃいいな。たまには仕事ばかりじゃなく子供とも遊んでやらんとな。」

男の一人が咥えていた煙草を足下に落とす。それを見たまりさは大口をあけてとび跳ね
そのままぱくんと飲み込んでしまった。

「!!!!!!!あああああぢゅいいぃぃぃぃいぃぃ!!!!」

「おいおい、煙草の火はちゃんと消さないと駄目じゃないか。火事でも起きたらどうする。」

「おっと。あぶねぇあぶねぇw」

「き゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛ま゛り゛さ゛を゛ふ゛ま゛な゛い゛て゛え゛え゛ぇ!!!」

グリグリと頭を踏みつけられたまりさは餡子を吐きながらピクピクを痙攣する。
それを見た仲間たちは男の前にたちはだかり次々に叫びだす。

「まりさになんでごとするのおおおお!!!」

「おじさんはゆっくりあやまってね!」

「こんなことするおじさんとはゆっくりできないよ!」

しかし次の瞬間。

「ぎゃああああああ!!!」

「やめて!なんでこんなkぶびゃああああ!!!」

「ゆっくりしね!ゆっくりしね!ゆっkぐへぁあああああ!!!」

歩きだした男達に踏まれ罵声は悲鳴に変わる。
男達が去った後。そこには餡子を吐き出し苦悶の表情を浮かべ息絶えたゆっくりと
その周りでただ泣くことしか出来ないゆっくりが残った。


(数日後 人間の里の畑)
「ふぅ・・・またか・・・」

そこには荒らされた自分の畑を見てため息をつく老いた一人の農夫がいた。
つい先日、先生がすべてのゆっくりを消してくれたおかげでゆっくりが畑を荒らす事はなくなった。
しかし、今度はべつの生物が自分の畑を荒していたのだ。

「今度の奴はいったいなんなんだ。きっと恐ろしく頭のまわる奴だぞ。
 罠はすべて起動しているのに死体が一つも残ってないなんて・・・」

農夫が仕掛けた数々の罠。落とし穴や毒入りのエサ、対ゆっくり用の超小型地雷。
そのすべてがまったく機能していない様に見えた。

「こりゃぁ新しい罠を考えなければならんのぉ」

またため息を一つつくと農夫はとぼとぼと家路についた。

一方落とし穴の底では。

「ゆぎゃああああ!!!いだいよおおおぉぉぉおおぉぉ!!!!」

「だれがだずげでええええ!!!このままじゃじんじゃうよおおお!!!」

「のぼれないよ!だれかゆっくりたすけてね!こんなところじゃゆっくりできないよ!」

穴の底に仕掛けてあった杭に串刺しにされたゆっくりや
運よく杭を逃れたものの上に登れず泣き叫ぶゆっくりの姿があった。

「れ゛い゛む゛の゛あ゛か゛ち゛ゃん゛か゛あ゛あ゛あ゛!!と゛う゛し゛て゛な゛の゛お゛お゛お゛!!」

「あ゛ん゛こ゛か゛と゛ま゛ら゛な゛い゛よ゛お゛お゛ぉぉぉぉ!!!」

地上もまた地獄だった。
毒を食らい青黒くなって息絶えた子供たちの前で絶叫する母れいむ。
少し離れたところには地雷を踏み破れた皮から餡子を流し続けるありすがいた。

しかしゆっくりにとっては確かに地獄であったがこれは里の人間にとっては日常だった。
唯一いつもと違う点は人間達にゆっくりの姿が見えず声が聞こえない事だけだった。


(さらに数日後 虐待おにいさんの家)
「どうしても行くのか?」

「ああ、行く。この里のまわりに住むゆっくりはすべていなくなってしまった。
 それどころか家で飼っていた虐待中のゆっくりもだ。
 ゆっくりを虐められないなんて・・・この状況は僕には耐えられない。
 だから僕はゆっくりを求めまだ見ぬ土地へ旅に出る。他の土地ならまだ生きたゆっくりがいるはずだ!」

「そうか・・・決意はかたいんだな。しかしこの部屋の散らかり具合はいったいどうしたっていうんだ?」

おにいさんの友人は部屋中に散らかった虐待グッズを見てあきれ顔で聞いた。

「ははは。いやぁ実はどの虐待グッズを持って行ったら良いか悩んでしまってね。
 どれもこれも素晴らしい逸品なんだがすべては持っていけないからねぇ。」

「はぁ・・・」

その時開け放たれていた縁側からゆっくりれいむの一家が部屋に入ってきた。

「ゆ!ここにはおもしろそうなおもちゃがたくさんあるね!」

「みんな!きょうはここでゆっくりしていくよ!」

「「「はぁ~い!」」」

「そういうわけだから、おにいさんたちははやくれいむのうちからでていってね!」

早くも自分の家宣言をするれいむ。
しかしおにいさん達はそれにまったく気付かず持っていく道具の吟味を続けていた。

「これなんてどうだ?透明な箱。やっぱり基本は外せないんじゃないか」

「うーん。僕もはじめはそう考えたんだが・・・これって結構かさばるんだよねぇ。それに・・・」

「それに?」

「基本中の基本だからさ、わざわざ持って行かなくてもゆっくりがいる土地なら必ず店で売ってると思うんだ。」

「なるほど。そうなると持っていくのは小さくて他では手に入らない物か。
 そういやこれはなんだ?店では見たこと無い。ひょっとして自作した物?」

「ちょっとおにいさん!れいむのことむししないでね!はやくでていってね!」

「もういいよおかあさん!それよりこのへやにはおもしろそうなものがたくさんあるよ!」

「ああこれね。これは僕が作ったやつ。ゴム製の疑似餌だよ。
 ゆっくりが好きな果物だよ。しかも香り付きだからゆっくりはすぐだまされるんだ。」

「ほぅ。」

「例えばこんな風に箱の中に入れてさ。」

おにいさんが近くにある透明な箱の中にゴム製の疑似餌を入れる。

「ゆ!!!おいしそうないちご!!!」

「いただきま~す!!!」

二匹の子れいむがそれにつられて箱の中に入る。

「そしてその中にゆっくりが入ったら蓋を閉じるのさ。」

「ふむ。」

おにいさんが箱の蓋を閉じる。母れいむが大声で抗議するが二人には聞こえない。
子れいむは疑似餌に夢中で気づかない。

「ふたりでゆっくりわけようね!ゆ?」

「どうしたの?」

「ゆうううう!!!なんでええぇぇ!!かみきれないよおおおおお!!!」

「なにいってるの!うそつかないでね!はやくれいむにもわけてね!」

「うそじゃないよおおお!!!たべれないのおぉぉ!!と゛う゛し゛て゛え゛え゛え゛え゛!!!」

「ゴム製だしね。当然ゆっくりはこの餌は食べられないよ。
 そして『と゛う゛し゛て゛え゛え゛え゛え゛!!!』とか言いながら泣き出すのを見て楽しむのさ。」

「うーん。わからんなぁ。ただ五月蝿いだけなんじゃないの?それって。」

「君にはまだ早いかもね。いずれ解る日が来るよ。」

「(いや、一生わからんと思うが・・・)」

おにいさんはゆっくりが入った箱を本棚の上にしまう。

「まっでっでねえ゛え゛ぇぇ!!!いまだすげるがらあ゛あ゛あ゛!!!」

「な゛に゛し゛て゛る゛の゛お゛ぉぉ!は゛や゛く゛あ゛か゛ち゛ゃん゛を゛お゛ろ゛し゛て゛ね゛ぇぇ!」

母れいむは届くはずのない箱に向かって懸命に飛び続ける。
一方おにいさんは残りの疑似餌を床に無造作に置いてあったトラバサミの上に置く。

「こんな風にもつかえるんだ。」

「なるほど。餌につられたゆっくりがこれを踏むとこれに捕まるわけか。」

「ゆ!みんな!おいしそうなぶどうがあるよ!」

「まって!これはれいむがたべるよ!れいむはむこうのぶどうをたべてね!」

「おいしそ~!いただきま~す!」

「「「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!!!」」」

一斉に子れいむを捕まえるトラバサミ。挟まれ絶叫する子れいむ。驚くおにいさん達。

「な、なんだぁ!急にトラバサミが!」

「おいおい、大丈夫なのかこれ?なんもしてないのにいきなり挟んだぞ。」

「ゆ゛き゛ゃあ゛あ゛あ゛!!!い゛た゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!!」

「お゛か゛あ゛ち゛ゃあ゛あ゛あ゛ん゛!!!た゛す゛け゛て゛え゛え゛ぇぇぇぇ!!!」

「ゆ゛っく゛り゛て゛き゛な゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」

「おっかしいなあ~。今までこんな事無かったのに・・・」

「不良品なんじゃねーのコレ?」

「えー。お値段以上印のにとり製だぜ。しかも結構高かったのに・・・」

「しかしこんなんじゃ危なくって持って行けないな。」

「うーーーーーん。」

しばしの間考え込む二人。その間にトラバサミに挟まれた子れいむ達はすべて息絶えた。
わずかな間にすべての子を失った絶望により、母れいむはただ虚空を見つめ
もの言わぬ人形の様になってしまった。本棚の上で泣き叫ぶ我が子の事も忘れて。

「やっぱり道具なんかに頼っちゃだめだって事なんじゃないか?
 ゆっくりごとき痛めつけるのに両手両足があれば充分だろ。
 それにお前いつか言ってたじゃないか。『僕はなんとかの虐待技を使える』って。」

「ああ。48の虐待技の事?」

「そう。それ。ちょっと見せてよ。あれを使ってさ。」

男が指さす先には呆然とする母れいむの姿が。奇跡が起こったのか。
おにいさんは見えないはずの母れいむに向かって歩き出す。

「え?これ?これはちょっとなぁ・・・高かったんだよこれ・・・」

奇跡・・・では無かった。男が指さしていたのは母れいむのすぐ後ろ。
ゆっくりの皮に綿を詰めたゆっくりクッションだった。

「じゃあ、まぁふりだけでもさ。」

「う、うん。そうかい・・・じゃあふりだけね・・・」

その時本当の奇跡が起こる。ゆっくりを捕まえるふりをしたおにいさんの腕に母れいむが。

「ゆ?なんなの?はやくゆっくりおろしてね!」

突然人間に捕まえられ我に返る母れいむ。だがおにいさんの二の腕からは逃れられない。

「こうやってゆっくりを捕まえてさ。」

「それから?」

「ゆううぅぅぅぅ!!ぐるじいよ!はやくはなじでね!!!」

「ゆっくりぃぃぃぃ!愛してるよぉぉぉ!!ふんぬらばっっっ!!!」

「ゆ゛き゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

「なにそれ?ただ絞め殺しただけじゃね?」

「う・・・ま、まぁ素人にはそう見えるかもね・・・」

「(こいつ、今適当に考えてやったな・・・)」


(さらに数日後 里の集会所)
「先生、実は今日お越しいただいたのは畑を荒らす謎の生物の事なんです。
 先生のおかげでゆっくりは消えましたが畑の被害はまったく減らない。
 しかもこいつがかなり頭の良い奴で。罠を仕掛けてもまったくかからんのです。」

「先生、またお力をお貸し願えないでしょうか。もちろん今回もお礼は致します。」

里の人間達から見つめられた先生と呼ばれる人物は「うっ・・・」と一言呟くと、
後ろにいた兎耳を付けた弟子となにやらボソボソと相談し始めた。

「ど、どうしよう。うどんげ。」

「どうしようじゃありませんよ師匠。だから私は反対だったんです。」

「だって・・・里の人達が困ってる様だったし。お礼くれるって言うし。家の家計は火の車だし。」

「だからって!私の力で知覚不能にするだけなんて、根本的解決になってません!」

「あ、あの、先生?」

「あ、ああ、ご心配なく。未知の生物は私が必ず退治して見せましょう。
 そのかわりお代は前回と同じという事で・・・」

「おお!やって下さいますか!ありがとうございます!」

「さすが八意先生だ頼りになるなぁ。」

「師匠!!!!!!」

「しょ、しょうがないでしょうどんげ。こうなったら殺るしかないわよ。」

「まさか・・・」

「では皆さん。私が明日、皆さんを困らせている生物を退治してきます。
 皆さんは明日一日家から出ないように。」

「おお!ありがとうございます!」

「・・・・・。どうなっても知りませんよ。」


(翌日 日差しの穏やかな午後)
ゆっくりプレイス。そこはとても広い草原だった。
そこに集まったおよそ100匹のゆっくり達は思い思いにゆっくりしていた。
草を食む者、バッタを追いかけ遊ぶ者、あるいは日向ぼっこを目一杯楽しむ者。

そして気づかれないようにゆっくりと進む影が二つ。

背には竹籠。手には鉤付きの棒を持った蓬莱の薬師と弟子の兎が・・・

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最終更新:2022年05月19日 11:27