「あぁ~、困ったなぁ…今日はここを離れられないっていうのに…」

ある一軒の家の中、少女は二つの理由から、少々困った状況に陥っていた。
その理由の一つは足元でスヤスヤと眠る五匹の赤ゆっくり――れいむ種が二匹とまりさ種が三匹――にある。

「この子たちが起きたら、餌とかオヤツ上げないとなんだけど……もうっ、こんなときに姉さんってば!」

そしてもう一つの理由、それは少女の言葉に出た姉のことだった。
急用といいつつデートに出かけた姉、その姉が出がけに私用を自分に押しつけたため、少し家を離れなければならないのである。
しかし赤ゆっくりたちはまだ本当に小さく、起きた時自分がいなかったり、餌がなかったりすれば不安から体調を崩す恐れがあった。

「隣のお兄さんに頼んでもいいんだけど……あんまり迷惑かけたくないしなぁ……ん?」

そう言って悩んでいると、ふと窓の外に気配を感じた。
なにかいるのかと思い、少女が窓を開けて縁側に出ると、そこには一匹のゆっくりれいむが座っていた。

「どうしたの、こんなところで?」
「ゆっくりしていってね! おねえさんがなやんでいたのがみえたから、れいむがちからをかすよ!」

人の家の敷地に入ってよくも勝手なことが言えると思ったものだが、相手の発言に興味を惹かれ、少女は問い返す。

「どういうこと?」
「ゆっ! おねえさんはそのこたちのめんどうをみたいのに、でかけなきゃいけないんでしょ! だったられいむがそのこたちのめんどうをみるよ!」

なるほど、ようするにベビーシッターを引き受けてくれるということか。
これが見知らぬ他人であれば少女も断っただろうが、相手は自分のペットと同じゆっくり、しかも子育てに定評のあるれいむ種だ。
それに会話の内容から考えても、良識あるゆっくりのようだ。家に帰った時に自分の家発言されることもないだろう。

「そう? だったらお願いしようかな」
「まかされたよ! おねえさんはゆっくりしてきてね!」

そうして、少女は赤ゆっくりたちの世話についてある程度の説明を残し、家をあとにした――。


【ゆっくりベビーシッター】


「ゆゆっ、おきたみたいだね! ゆっくりしていってね!」

少女がいなくなった部屋でしばらくのんびりとしていたれいむだったが、やがて赤ゆっくりたちが目を覚ましたことで、声を上げた。
それを聞いた赤ゆっくりたちは一瞬キョトンとしたが、会ったことのない他のゆっくりの存在に目を輝かせ、いっせいに挨拶をする。

『ゆっくりしていっちぇにぇ!』

挨拶を終えると、赤ちゃんたちは興味津々でれいむに近づいて、話しかける。

「おにぇーしゃん、だぁれ?」
「ここはれいみゅとおにぇーしゃんたちのおうちだよ?」
「ゆぅっ! しらにゃいゆっくちをいりぇたら、おにぇーしゃんにちかりゃれるよ!」
「でも、ゆっくちできしょーなおねーしゃんだよ!」
「ゆぅん…まりしゃもしょうおみょうよ!」

などなど、様々な反応が微笑ましくて目を細めながら、れいむは答えた。

「れいむはこのいえのおねえさんにたのまれて、みんなのおせわをしにきたんだよ! みんな、おなかすいてるでしょ!」
「ゆっ、ちゅいてりゅー!」
「おにぇーしゃんがごはんくれりゅにょ?」
「わーい、ごはんー!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねて、ごはんをねだる赤ゆっくりたち。
ちょっと待っててね、と言い置いてれいむは隣の部屋へ跳ねていくと、少女に言われた餌とお菓子を探した。
説明されていた通り、棚の奥に置かれていた加工所製の柔らかいゆっくりベビーフードを乗せた皿と、口の開いた袋に詰められたクッキーを見つける。

「ゆっ! これだね!」

お菓子を口の中に入れ、皿を口で引きずり、れいむは急いで赤ゆっくりたちの元へ戻る。

「ゆっくりまたせてごめんね! ゆっくりたべてね!」
「ゆ~、ありがちょー、おにぇーしゃーん」
「ゆっくち、いちゃだきまちゅ!」
「む~ちゃ、む~ちゃ、ちやわちぇー!」

お礼を言ってすぐに皿に群がる赤ゆっくりたち。
しっかりと躾けられているのだろう、皿の周りに散らかすこともなく、舌で掬い取って口に運ぶとゆっくりむ~しゃむ~しゃと頬張り、しやわせ~と頬を緩める。
れいむもそれを見て、まるで我が子を見るように目を細めていたが、やがて自分もお腹が減ったことに気づいた。

「ゆぅ…おなかがすいたよ…」

けれど赤ゆっくりたちの餌を奪うわけにもいかない。
外に食べに行こうか、そんなことを考えたれいむは、口の中のお菓子のことを思いだす。

「ゆっ、そうだったよ! これがあったよね!」

ペッと口から袋をだすと、その中にはいくつもの甘いクッキーが入っていた。
たしか少女は、赤ちゃんには一匹三枚あげてね、と言っていた。
これだけあるのだから、一枚や二枚食べてもなくなりはしないだろうし、赤ちゃんたちも食べられるだろう。
そう考えたれいむは、餌を食べる赤ゆっくりたちに隠れて、クッキーをむ~しゃむ~しゃと口にしてゆく。

「ゆゆっ! あまいよっ、それにおいしいよ! む~しゃ、む~しゃ、しあわせー!」
「ゆっ! おにぇーしゃんも、ゆっくちむちゃむちゃちようにぇ!」

そんな会話をしながら食事は続き、餌はどんどんと減ってやがてなくなった。
れいむのほうもあと一枚、もう一枚だけとクッキーを食べ、どうにかお腹が落ち着いたところで赤ゆっくりたちが声を上げた。

「あちょはでじゃーとだにぇ!」
「おにぇーしゃん! れいみゅちゃちもくっきーもちょうだいにぇ!」
「ゆゆっ! わかったからならんでね! ゆっくりかぞえてわたしていくよ!」

袋から舌でクッキーを取りだし、一枚ずつ配っていく。
だがそこで問題が発生した。

「ゆっ? ゆゆぅ、どういうことぉぉっ!」

れいむが狼狽してそう叫ぶ。
それもそうなるだろう、袋には九枚のクッキーしか残っておらず、赤ゆっくり全員に三枚配ることができないのだから。
もっとも、それはなにも考えず、数も数えずにれいむがバクバクと食べてしまったからなのだが。

「ゆぅ…しかたないね。とりあえずくばるよ!」

やむを得ず、れいむは残されたクッキーを全員に配ってゆく。
だが――。

「ゆ~? これじゃちゃりにゃいよ!」
「おにぇーしゃん、いちゅもとおにゃじだけちょうだいにぇ!」
「まりしゃもれいみゅとおにゃじだけほちいよ!」

それらは赤れいむに三枚ずつ、けれど赤まりさには一枚ずつしか配られなかった。
足りないと気づいたれいむが、本能で自分と同じ赤れいむを贔屓し、集中して与えたせいである。

「ゆ~、あまあま~♪」
「ちあわちぇ~♪」

ホクホク顔でクッキーを口にする赤れいむ。けれど赤まりさたちは収まらず、れいむに向かって糾弾するように叫ぶ。

「おにぇーしゃん、まりしゃたちにもちょうだいにぇ!」
「いじわりゅちないでね!」

まさか自分が食べたせいだとも考えず、れいむは次第に苛立ち始める。
そしてカッとなって叫び返してしまった。

「うるさいよ! それだけしかないんだから、がまんしてたべてね! ゆっくりできなくするよ!」
『ゆぅぅっ!?』

ビクッと身を竦ませて、赤まりさは涙目になる。
しかしゆっくりできなくなるのはイヤだった、しかたなく、一枚しかないクッキーをサクサクと齧り、小さく呟く。

「む~ちゃ、む~ちゃ…ちゃりにゃいー」

けれど一枚では物足りない。
早々に食べ終えた三匹の赤まりさは、二枚目のクッキーを齧る赤れいむににじり寄り、残る三枚目のクッキーに齧りつく。

「むちゃむちゃ…」
「ゆっ! そりぇはれいみゅのだよ! まりしゃはじびゅんのをたべちぇね!」
「ゆぅっ、まりしゃのはちゅくなかったよ! れいみゅのをわけちぇにぇ!」
「ゆゆっ、じゅりゅい! まりちゃも!」
「まりしゃもほちいよ!」
「やべちぇぇぇっ! れいみゅのおちょっちょきがぁぁ!」

そうなるともはや阿鼻叫喚だった。
全員が全員が己の分を確保すべく、クッキーを取り合って、ポコポコと体当たりを繰り返す始末。
自分のせいでそうなったことも気づかず、れいむはオロオロとして、突如始まったケンカをどう止めようかと思案していた。
その眼前へ――。

「ゆべっ、ゆぅ…れいみゅのくっきーが…」
「ゆ~、あまあまをひちょりじめしゅるからだよ! む~ちゃむ~ちゃ」

一匹の赤れいむが跳ね飛ばされて
きたことで、れいむはカッと頭に血が上った。


「ゆゆっ、なにしてるの!」
「ゆべぇっ!」

れいむが猛烈なタックルを繰りだして赤まりさを吹き飛ばす。
弾かれた赤まりさは、その前に自分が突き飛ばした赤れいむよりも遥かに強く飛ばされ、壁に勢いよくぶつけられてしまう。

「ゆぅ…ゆっくち、ちたかったよ…」

打ちどころが悪かったのだろう、口から餡子を吐きもらし、赤まりさは静かに息を引き取った。
それを見て驚いたのはほかの赤ゆっくりたちだ。
急に姉妹を失った悲しみに、全員が泣き声を上げる。

「ゆぅぅぅっっ! まりちゃぁぁぁぁ!」
「どうじでぇぇぇぇっっ!」
「ゆっ…ゆえぇぇぇぇんっっっ!」
「おにぇーしゃんのばがぁぁぁっ、どうじでごんなごどじゅるのぉぉぉぉっ!」

悲しみは怒りへと変わり、全員が赤まりさの仇とばかりにれいむに体当たりをし、罵倒を繰り返す。

「ゆっくちちね! ゆっくちちね!」
「おにぇーしゃんをころちたゆっくちは、ゆっくちちね!」
「れいみゅのおにぇーしゃんをかえちぇ!」
「ゆっくちごろちのごみくじゅ!」

それほど威力のない体当たりは、子ゆっくりと成ゆっくりの中間くらいの大きさであるであるれいむにはほぼノーダメージだった。
が、その言葉は沸点の低いれいむの怒りに火をつけるのに十分な威力を持っていた。

「どうじでぞんなこどいうのぉぉぉっ! ゆっくりしんでねっっ!」
「ゆべっ!」
「ゆぎゅっっ!」

怒ったれいむは手近な赤ゆっくりに体当たりをぶつけ、さらにそのさきにいたれいむの頬を噛み、遠くへ放り投げる。
それだけでは飽き足らず、のこった周りの赤ゆっくりにも体当たりを繰り返した。

「ゆっくりできないあかちゃんたちだね! そんなゆっくりはしんだほうがいいよ!」

手当たり次第に体当たりを浴びせると、赤ゆっくりたちは餡子を撒き散らしながら一匹、また一匹と絶命してゆく。
やがて残ったのは、かろうじて傷の浅かった赤れいむが一匹だけとなった。
そのころには興奮も冷めたのか、落ち着いたれいむは赤ゆっくりの様子を見て、驚きに目を見開く。

「ゆぅんっ! どうじであかちゃんがぁぁっ!」

どうしてもなにも自分でやったことなのだが、餡子脳は都合の悪いことなど簡単に忘れてしまう。

「ゆぅ…おにぇーしゃん、どうちて…」

残った一匹の赤れいむがそう訴えると、キッとそちらを睨み、さきほど自分がされたように罵倒する。

「ゆっ、おまえたちがゆっくりしてないからだよ! もうれいむはしらないよ、ここでのたれじんでね!」
「ゆぅぅぅっ!? どうじでぞんなごどいうにょぉぉぉっ!」

涙でボロボロにした顔を向けるが、れいむは背中を向けて、その場から逃げだそうとする。
それはもしかすると、餡子脳の奥に記憶していた自分の悪行が、人間にバレて制裁されるのを恐れての行為だったのかもしれないが――。

「たっだいま~♪」
「ゆぶぅっ!」

間の悪いことに、少女が帰宅してしまった。

「ありがとね~、れいむ! それから赤ちゃんたち~、ゆっくりといい子にしてたかな~……って、え……なに、これ?」
「ゆぅ…おかえりなさい」
「おにぇーしゃぁぁぁんっっ!」

戸惑った声で問いかける少女に、れいむは不貞腐れたようにそう答え、赤れいむは泣き叫びながら少女に飛びついた。

「あのおにぇーしゃんが、くっきーくれなくて! おにぇーしゃんをころちて! みんなころちたにょぉぉっ!」
「はぁぁっ!? ちょっと、れいむ! どうしてそんなことしたのよ!」
「ゆっ、ちがうよ! れいむはあかちゃんけんかをとめようとしただけだよ! おねえさんがこんなこをかっているからでしょ!」

この期に及んでもそんな言い逃れをし、逆ギレするれいむ。
けれど少女はそれほど怒った様子も見せず、とりあえず死んだ赤ゆっくりたちの残骸を片付けた。
部屋を綺麗にすると、赤れいむを撫でてやりながら、怒って威嚇するようにプクーッと膨らんでいるれいむに問いかける。

「それで、いったいなにがあったの?」
「わからないよ! くっきーをとりあってあかちゃんががけんかしたからとめたら! みんなこんなことになってたよ!」

ふーん、と鼻で相槌を返し、少女は今度は赤れいむに問いかける。

「なにがあったの? お姉さんに教えてね?」
「ゆぅぅん…あのにぇ、くっきーがちゅくなくて、とりあったらあのおにぇーしゃんが…ま、まりしゃをころちて…ゆぐっ、みんなころちたのぉ…」

双方の言い分を聞くに、クッキーが足りなくて赤ちゃん同士がケンカしたことは間違いなさそうだ。
それを止めようとしたれいむがやりすぎて、結果はこうなったというところなのだろうが…。
少女はため息をつき、れいむに問いかける。

「ねぇ、れいむ……あんた、袋に入れておいたクッキー、食べたんでしょ?」
「ゆっ、ゆゆっ!? し、しらないよっ! れいむはそんなのたべないよ!」

そう言って否定するれいむだが、少女はそれが嘘だと見抜いていた。
なぜなら、袋にはクッキーが十五枚ちょうどしか入っていなかったのだから。
だが、自分で入れ間違えたという可能性を考慮しないほど、少女は浅慮ではなかった。
そこで、れいむの口から真実を聞きだすため、一計を案じる。

「あのね、別に食べたことを怒ってるんじゃないのよ? ただ、大変だっただろうし、次に頼むことがあったらクッキーをもっと置いといてあげるから、
れいむだったら何枚くらい食べるのか、聞いておきたいな~って思ったのよ」
「ゆっ! そうなのっ!」

クッキーがもらえると聞いて、れいむは目の色を変えた。
すぐに口の中に涎が湧き、それを撒き散らしながられいむは叫んだ。

「ゆぅっ、れいむはくっきーたべたよ! あんまりおぼえてないけど、ふくろのなかからいーっぱい、むーしゃむーしゃしたよ!」
「へぇ~、やっぱりねぇ……そんなことだろうと思ったわよ! このクズ饅頭!」
「ゆぎゅぅぅっ!」

その言葉を聞いた途端、少女は柔和な笑顔を一転させ、般若のような表情で立ち上がると、れいむの頭を踏み潰した。
餡子が漏れるほどではないが、人の力で思いきり潰されたれいむの顔はひしゃげ、皮が引き裂かれるような痛みにれいむは悲鳴を上げる。

「ゆぶぅぅぅっ、どうじでごんなごどずるのぉぉぉっ! おねえさんのかわりにあかちゃんのおせわしてあげたのにぃぃぃっ!」
「はぁっ? なにが世話よ、クッキー貪り食って皆を殺したくせにっ……あー、もう、こんなバカ饅頭に頼んじゃうなんて、最低っ……」

ギリギリと脚の力を込め、中の餡子が漏れだすギリギリまでの痛みを、れいむの身体に刻みつける。
無様に泣き叫びつつも、少しでも動かそうものなら少女の足が食い込み、床と挟まれた身体が千切れてしまいそうになるので逃げることはできない。
それを見ていた赤れいむは、きゃっきゃっと笑い、少女の手の平かられいむに向けて罵倒をぶつける。

「ゆっゆっ、おにぇーしゃんをころちゅわりゅいゆっくちは、しょこでちんでねっ!」
「……どれ、ペロッ」
「ゆっ、くちゅぎゅったいよぉ、おにぇーしゃん♪」

少女は手の平で笑う赤れいむの頬を舐め、こびりついていた餡子を口に含んだ。
舌の上でトロリと蕩け、けれど脳が痺れるほどの甘さが口内に溢れる。
そうして少女は深いため息を吐き、その手を高く振り上げた。

「あ~あ、失敗かぁ……舌触りはいいけど、こんな甘いんじゃなぁ……」
「ゆぅ~? おにぇーしゃん、どうち…ゆぶべぇぇっっ!」

少女は勢いよく手を振り下ろし、手の平の赤れいむを叩きつけ、あっさりと殺した。
そして――後悔する。

「あちゃ……生ゴミ用のゴミ箱に捨てるんだった……不覚っ」
「ゆぅぅぅっ、かわいいあかちゃんがぁぁぁっ! なんでごんなごどずるのっ、ひどいことするばばあはじねぇっ!」

さっきまではゆっくりしてないだのなんだのと言っていたくせに、人間が暴力を振るうとすぐにこうである。
自分がしたことを綺麗さっぱり忘れてそんなことをのたまうクズ饅頭に、少女は冷たい視線を向ける。

「あんたのせいでこうなったんでしょうが……さて、責任とってもらおっかなぁ……」
「ゆぐぅっ、なんのぜぎにんんんんっっ? れいむはもうおうちかえるよぉぉぉっ!」

足元で喚くれいむの言葉は無視し、少女は開け放たれていた襖とは反対の、閉ざされていたノブつきの扉を開く。
すると――その先には。

「ま”り”ざあぁぁぁぁぁっっ、んほぉぉぉぉっっ!」
「れいぶぅぅっ、かわいいれいぶぅぅぅっっ! ずっぎりぃぃぃぃぃっ!」
「いやぁぁぁっ、ありすいやぁぁぁっっ!」

二匹の発情したありす種と、それに圧し掛かられて泣き叫ぶ、れいむ種とまりさ種の成ゆっくりの姿があった。
その地獄絵図と言うべき光景に、少女に踏まれたれいむは言葉もだせない。
やがて震えた声で、少女の機嫌を窺うように問いかける。

「お…おねえさん、あれ、なに…」
「あぁ、あれは饅頭生産機よ。あたしはね、店で売ってるようなしっとりした饅頭じゃなくて、紅白饅頭みたいなパサついた皮の饅頭が好きなの。
それに甘ったるい餡子じゃなくて、ほんの~り甘いだけの餡子のほうがね。だから赤ちゃんの頃からた~っぷりゆっくりさせて、餡子の甘味を抑え
ながら、皮がパサつくように大人になるまで育てる……で、最期に苦痛を与えてちょっと甘くして食べるのが、あたしと姉さんの至福の瞬間なのよ」

身の凍るような少女のセリフに、れいむはブルブルと震え上がった。
少女はペットとして赤ゆっくりと飼っていたのではない、自分好みの饅頭を作る為の材料として育てていたにすぎないのだ。

「別に野生のでも変わんないとは思うけど、気分的にねぇ? 虫やら草やらは食べてすぐに餡子になるって言っても、そんなの食べてるのがヤだし。
ま、親も加工所でなに食べてたかわかんないけど、野生よりかマシでしょうから……あら、どうしたの、れいむ?」

少女の言葉をすでに聞いていなかったのだろう、必死で足の下から這い出ようと、れいむはもがき続けている。
そのいまにも千切れそうな饅頭に、少女は無言でさらに体重を乗せる。

「ゆぐぅぅっ、うごげないぃぃぃっ! れいむ、かえりたいのにぃぃぃっ!」
「はぁ? 帰らせるわけないでしょ、あんたにはここで饅頭生産機になってもらうんだから……もうすぐ死んじゃう、あの二匹の代わりにねぇ?」
「ゆっ…ゆぅぅぅっ、いやぁぁぁぁっっ!」

動けぬままで目の前の光景を見せつけられ、泣き叫んで拒絶するれいむ。
その目には、頭に茎を伸ばして黒ずんでゆくまりさとれいむの姿が、はっきりと映り込んでいた――。



あとがき
 初投稿です。
 ちょっとれいむが情緒不安定でしたかね?
 おそらく兄弟がいなくて、制裁の力加減とかわかんなかったんじゃないでしょうか? てへ☆

 拙い文ですが、お楽しみいただけていれば、嬉しいです。

 作・あきほ

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最終更新:2022年05月03日 23:17