- 「 」はゆっくり、『 』は人間のセリフです。
- 独自設定(ガバガバ)があります。
- ゆっくりは死にません。
- 比較的愛で
すぃー
それは木の板に車輪が付いた物体。一切の動力は付いておらず、単体では子供のおもちゃの領域を出ない。
しかし、ゆっくりが乗るとなると状況は変わる。ゆっくりの思い込みを原動力として、すぃーは動き出すのだ。
基本的にすぃーは飼いゆっくり用のおもちゃとして販売されており、ゆっくりはそれに乗って自め…エンジョイしている。
その思い込みを原動力とするすぃーに対しては、エコな乗り物として経済界も注目したこともあったが、肝心の動力源がアレなのでなかなか導入は進んでいない。
加工所系の研究部門で働いている友人から、”すぃー”の試乗を頼まれた。
初めは何を言われているのか分からなかったので、電話口で『バカなの?死ぬの?』とつい言ってしまった。だが、翌日、加工所で現物を見ると友人の言わんとするところは理解できた。
友人が車でけん引してきた”すぃー”は、鉄板に自動車にありそうなタイヤが取り付けられ、雨風をしのぐボディーもある。ボディーは加工所の透明な箱の応用で作られたようだが、制作方法は企業秘密とのこと。ぱっと見、車っぽいが…これ運転するのか?
『これ、実際どうなの?動くのか?』
『動かないものを持ってこないっしょ。まあ乗ってみな』
早速、すぃーに乗ってみる。乗用車と違って、座席はなく、操縦台と同乗者が乗るスペース、後方に荷物を置くスペースがある。胡坐をかいて座ることができ、一応シートベルトも付いているようだ。
『これ、どうやって動かすの?』
『そりゃすぃーだからな。ゆっくりが動かすんだよ。早くお前の飼いゆでも乗せな』
『えー、あいつに運転させんの?死にたくないんだが。チェンジで』
「どおしてそんなこというのおお!!」
『生憎、プロの運転ゆっくりは別用でいないんだよ。残念だがそいつで我慢してくれ。死んだら腹抱えて泣いてやるよ』
『笑ってるんじゃねーかよ』
しゃーないか、と思い、飼いゆのまりさを操縦台に乗っける。
「まりさ、これうんてんしたくなのぜ。やばいおーらさんがあるのぜ」
『どうしてだ?この前、「まりさはななつのたいりくをしはいするはしゃなのぜ!」とか言ってただろ。すぃーくらい楽勝だろ、覇者さんよお』
「それじょうだんにきまってるでしょおお! これまじでやばいのぜ! しぬのぜ!」
『ドンマイ。時間の無駄だから行くぞ』
のろのろとすぃーが動き出す。俺とまりさを乗せたまま。
結構ノロいな……。
『おい!何やってんだ!』
「うごかないのぜぇえ!! だれかたすけ……」
まりさが喋っている途中で、すぃーの前輪が浮き上がる。そしてそのままひっくり返りそうになるタイミングで友人から声がかかる。
『大丈夫か?結構エンジョイしてるなお前ら』
『これが楽しそうに見えるか?』
『すげー楽しそうに見えて羨ましいわ。でもそれウチの試作品だからな。壊したら弁償だぞ?』
『それは最悪だ。まりさ、これ何とかならないのか?』
「うまくうごかないのぜ!どうすればいいのぜ!!」
『それ、こっちのほうに集中してみ』
友人の言う”こっち”がどっちなのかは分らんが、すぃーは体勢を立て直し、安定感を保って進み始めた。
透明な箱がベースとなっているからか、ほとんど振動を感じず、乗り心地は怖いくらい快適だ。
『すごいなこれ。揺れもあんましないし、これでゆっくりが運転できるなら革命的じゃないか?』
『ああ、ゆっくりにはもったいない乗り物だよ。ゆっくり以外の動物でも使えればもっと良いんだけどなぁ』
『例えば?』
『ゆっくり以外の動物、例えば犬とかでも使えれば、移動の時に便利だろうな。人間だって、もしこんな乗り物があれば楽に移動ができる。ゆっくり以外が使えるようにできれば、加工所は儲かるだろう。あとは……そうだな、工事現場なんかにも使えるかもな。すぃーを使えば人手不足も解消される。まあ、ゆっくりでしか動かないのがすぃーなんだけどな。さあ、コースに入った入った』
バイクに乗った友人に誘導され、俺とまりさを乗せたすぃーは加工所内のコースに入る。
『何でもあるんだな、加工所って。教習所みたいだ』
『いろんな実験をしてるからな。これくらいないとな。早速だが、この道を全力疾走してくれ』
「こわいのぜ。これぜったいやばいやつなのぜ…」
『ビビってんのか?これじゃあ、いつまでも雑魚ゆだな。近所のアホまりちゃ以下だな』
「わかったのぜええ!!!」
『おっ、マジで走る気になったのか?』
「まりさはつよいのぜ。こんなきほんこーすなんかへっちゃらなのぜ。すぃーさん、がんばるのぜ。いくのぜ!」
急加速するすぃー。車内のスピードメーターを見ると、あっと言う間に時速40キロに達した。
『かなりはええなこれ!結構こわいぞ!』
『ちゃんとカーブは曲がってくれよな!』
「ゆっくりりかいしたよ!!」
いい感じにカーブを曲がっていく。普通のすぃーすら乗ったことがないまりさにこんな才能があったとは。羨ましくてなんか腹立つ。
家に帰ったら、まりちゃのうんうんでも食わせてやろう。
『いい感じだまりさ!この調子で頼む!』
「ゆっ!まりさはかぜさんになるのぜ!」
『あのー 楽しそうな時に水差すのはアレだが、ちゃんとやることはやってもらうからな』
『やることって何だ?もう乗ってるじゃねーか』
『乗って終わりなワケないだろう。ほら、そこにあるだろ?レバーみたいなのが』
確かに、操縦台の横にレバーのような物がある。
『そのレバー横のボタンを押してみろ』
言われた通り、ボタンを押すと、すぃーのライトが点灯した。別のボタンを押すと、ウインカーが点灯した。
『おお!すげー!』
『希少種でもない限り、ゆっくりの思い込みじゃライトやウインカーは点かないからな。法令順守だよ。ちなみに上のボタンを押しながらレバーを引くと、強制ブレーキだ。試しにやってみな」
「ゆっくりりかいしたよ!」
まりさが操作しようとするが、一本しかおさげのないまりさではどうにもならない。
『こればっかりは人間の操作だな。まだ改良が必要な分野だ』
『これ、商品化しないのか?』
『これはあくまでも試験用だ。課題が多すぎて販売はまだ先かな。さて、そろそろゴール地点が見えてきたぞ』
「ゆっくりりかいしたのじぇええ!!すぐにすぃーさんをとめるのぜ!」
『止めるのはゴール過ぎてからにしてくれよな』
ゴール地点を過ぎ、すぃーを止めた。俺がレバーブレーキで止めたのでまりさは不満げであったが気にしない。
『次は何をすればいいんだ?』
『ああ、こっちのコースだ』
友人が指し示す方を見ると、そこにはS字やクランクといった教習所の難所あるあるのコースがあった。
『いや、無理っしょこれ。普通の教習所より難易度高くね?』
『2種免を想定したコースだからな。大変だろうな』
『なんでそんなもん作ったんだよ』
『そりゃあ、お前、2種免許の試験ってのはとにかく難しいんだよ。これくらいのコースにしておかないと対応できないだろ』
『そりゃそうだが、すぃーと関係ないだろ』
『それが関係あるんだよ。先行事例だと、すぃーを活用したタクシーとかも考案されてる。客乗せるなら2種免の技能くらい必要だろ』
「まりさ、にしゅめんさんなのぜ?」
『そうだな。頭まりちゃの2種免だよ』
「どおしてそんなこというのおお!」
『だってお前、絶対受からないじゃん』
「う、うるさいのぜ!まりさはつよいのぜ。あんなのらくちんなのぜえええ!!」
『はいはい、頑張れ頑張れ』
「ゆぎい…」
そんなこんなで2種免コースへ。俺も無理だぞこれ。
『じゃーさっそく行ってみようか。それ、はよ行け』
「ゆん!」
まりさのすぃーは順調に進んでいく。
『うん、上手いな』
『当たり前だろ。サポート機能付けてるんだから、このくらいはできて当然。さあ、次のカーブは?』
「まりさをみくだすとはいいこころがけなのぜえ!!」
そう言いながら、カーブを曲がっていく。なかなかスムーズだ。
『すごいな!よし、そのままいけ!』
「まけないのぜ!」
一体何と戦っているんだか。その後もまりさは、難なくこなしていく。
『すげえなお前!こんなに上手くいくとは思わなかったぞ。やっぱ加工所製の乗り物は違うな』
『だろ?もっと褒めてくれてもいいんだぜ?』
『はいはい、凄いです。』
『そっけないな、お前。お、そろそろ難所入るぞ。次左曲がれ』
「ゆっくりりかいしたよ!!」
と言いながらまりさはクランクポイントをスルー。即、レバーブレーキで停止。
「どおしてとめるのおお!いまいいとこだったでしょおおお!!」
『おい、コース外れてるぞ。家帰ったらでいぶの刑な』
「かんべんしてほしいのぜ!」
コースに戻ると、またすぃーは進みだす。難所クランクも何とか脱輪せずに進んでいく。
『ほら、あと少しだ。頑張れ』
「がんばるのぜ!すぃーさんがんばれぇー」
『その調子だ!よし、そこ右曲がればゴール…じゃねーな。まだあったわ』
「ゆ!?」
右折しようとしたところで、急停止。止めたのは俺でもまりさでもない。目の前には障害物があったが、まりさはポカーンとしている。
『はい、よく見てみろ』
友人の声にまりさは目を凝らすが、何も見えない。
『見えねえよな?じゃあ、ヒントだ。そこに何があると思う?』
「わからないのぜ……」
『答えは木箱だよ。お前のすぃーの前に障害になるような物が置いてあるのわかるか?』
「ゆっくりりかいしたのじぇ!!もうすこしまえにでてほしいのじぇええ!!」
『残念。前に出たところでお前には認識できないはずだ。なんせお前らのいう”けっかい”が施されてるからな!』
「ゆ?」
『簡単に言えば、人間からは見えるけど、ゆっくりからは見えなくなっているわけだ。これがいわゆる、インビジブル・ブロックというものだ。覚えておくといい』
「ゆっ、ゆうう!!まりさにいじわるするきなのかぜええ!!!」
『インビジブル・ブロック?そんなもの初耳だが…』
『(今作ったんだよ。とりあえず合わせてくれよ)』
『(めんどくせえ…)』
『ともかく、運転するゆっくりには限界があるからな。この辺はこっちの技術で何とかしないと路上は走れない』
『自動ブレーキみたいなものか?』
『その理解でいい。ただ、ゆっくりの思い込みを応用してる点は違うけどな。原理は教えねーぞ』
『別に聞きたくないから言わなくて良い』
「もうしゅっぱつしてもいいのぜ?」
『ちなみに、今乗ってるすぃーには、特別製が搭載されている』
『そんなにすごいのか?』
『ああ、あれは特別なんだよ。まりさ専用に作られた専用システムだ。通常の車ではできないこともできる』
「まりさをむしするとはゆるさないのぜえ!!」
『うるさいな。とにかく、あのインビジブル・ブロックも問題なく通過できるようになるから安心しろ。それに、万一ぶつかりそうになったとしても大丈夫だ。ちゃんと別の策は講じてある。』
『対策済みなら良かったよ。じゃあ、行くぞ』
「ゆっ!いくのぜ!」
すぃーはゆっくりと前進し始めた。そして、難なく障害物を通過する。これぞ技術の賜物。
「できたのぜえええ!!」
『すげえな。きれいに避けて進みやがった。でも狭い道だと難しいなこれ。障害物どかさないと無理だろ』
『普通は車が進めないレベルの障害物が路上に散乱してたら、片付けるか警察呼ぶだろ。』
『そりゃそうだな』
「ゆっくりりかいしたのぜぇえ!つぎいくのぜえ!!」
『おう』
2周目に入り、次のポイントに差し掛かる。
『よし、次はここで曲がりたい方向に思いっきり進んでみろ。』
「わかったのぜえ!」
まりさは言われた通り、舵を切る。しかし、車は一向に曲がらない。
『うん、そう来ると思ったよ。まりさ、ちょっと止まってくれるか?』
「どうしたんだぜ?」
友人の言葉に不思議そうに反応するまりさ。
『ちょっとだけ、すぃーの向き変えるだけだから。』
「ふーん。分かったのぜ」
すぃーを停止させるまりさ。友人はすかさずすぃーに乗り込む。人間2人乗れるのかこれ。
『何やってんだ?』
『いいから見てなって』
友人が何やら操作を行ってすぃーの向きを変えると、目の前には、木箱。
「ゆゆ!?」
驚くまりさ。
『やっぱりな。お前ら、インビジブル・ブロックに引っかかってたぞ』
「ゆっくりりかいしたのぜ。でもどうしてこんなところに?」
『お前らがぶつかる前に回避させるためだよ。インビジブル・ブロックの先にある障害物を回避できるように、あらかじめ設置しておいた』
「ゆっくりりかいしたのぜ」
理解してるのか、コイツ。それよりも…
『俺も理解できないんだが。つーか、さっきのブロック見えなかったぞ』
『そりゃ、最新の光学迷彩使ってるからな。よく目を凝らさないと見えないぞ』
『普通教習所に光学迷彩なんてあるか?』
『ねーよ。でも路上出れば何があるか分からねーだろ。こっちはいろんなリスクを考慮してるんだ。ちなみに、この先には”透明な柱”があったぞ』
『ロクでもねーな』
『まあまあ、とりあえず次行こうぜ。次は右折だ』
『了解』
「ゆっ!」
友人がすぃーから降り、試乗再開。
とうとう3周目に入り、いよいよ最後のチェックポイントだ。ここさえクリアすればひとまず終了らしい。
『まりさが運転して、障害物を避けて進む。最後に駐車ポイントで停止して終了だ』
「まかせるのぜえ!!」
『気合い入ってるな』
「あたりまえなのぜえ!!このさきにいけばおちびたちがまってるのじぇ!!」
『お前におちびなんていないけどな。あと少し、頑張れよ』
「もちろんなんだぜえ!!」
最終コーナーに入る。すると、突然まりさの身体が宙を舞った。
「うわああああああ!!!!」
『まりさ!』
「いてて……。どうなったんだぜ……」
何とか地面への落下は免れたまりさは、辺りを見渡す。
『あそこだ』
友人の声につられて上を見ると、そこには標識が見えた。標識には、”強風注意”と書かれていた。
「あぶないのぜえ!!」
『落ち着け。大丈夫だ。さすがに吹っ飛ぶレベルには設定してない』
『結構突風だったぞ。驚いた』
『まあ、そこは安全装置でどうにかなるようになってるからな。それより、まりさは大丈夫なのか?怪我とかないか?』
「だいじょうぶなのぜ!まったくもう、びっくりさせないほしいのぜ!!」
憤慨するまりさ。そりゃそうだ。
『お、ゴール見えてきたぞ』
ゴールポイントである駐車場には、すでに数台車が止められていた。てか、全部重機じゃねーか
『あの間のところに止めてくれ。それで終了だ』
「わかったのぜ!」
無事、すぃーは駐車に成功した。
『よし、これで試乗は終わりだ。まあまあの結果になったな』
「やったのぜええええ!!!」
達成感に喜ぶ俺とまりさだったが、友人が制止をかける。
『まだ終わってないぞ』
「ゆ?」
『すぃーから出るまでが試乗だからな。油断するな』
『普通に降りりゃいい話だろ』
『お前、免許持ちだろ?ちゃんと周囲の確認してから出ろ。まわりは重機ばっかだし、ましてや死亡フラグの塊であるゆっくりと一緒なんだから』
『ああ、そうだな』
「ゆっくりりかいしたのぜえ!」
そう言うまりさを連れ、俺は車から出た。
『忘れ物はないな?』
「うん!ぜんぶもってるのぜ!!」
『よし、それじゃ、今回の試乗は終了だ。お疲れさん!』
こうして、俺とまりさの謎のすぃーの試乗会は終わりを告げた。
まあ、正直友人のアシストなしで乗るのはごめんだ。
「ありがどう、もひかんさん!!」
『おう、また何かあったら言ってくれ。力になるから』
「ゆん!!つぎはおちびたちもいっしょにくるのぜえ!!」
『だからお前におちびいねーだろ。』
「どおしてそんなこというのおお!」
『まあいいか。今度は家族連れで来な』
「ありがとうなのぜえ!!」『良くないんだが…もうこりごり』
『はいよ。んじゃ、気をつけて帰れよ』
「ゆっくりりかいしたのぜええ!!」
そう言って俺とまりさと友人は別れた。
さすがに親を連れて乗ることはないな。さっきは友人にあんなこと言ったが、また機会があれば乗ってみたいとは思う。
最終更新:2022年05月05日 14:42