「ゆ…ここまでにげれば…ゆ、ゆっくりできるよ…」
ぱちゅりーを背負ったまま走り続けて息も絶え絶えのまりさはちょうどいい森の中で少し開けた草原に寝転がった。
ゴロリ、とぱちゅりーがまりさから落ちる。
ぱちゅりーはすぐさま顔を地面に押し付けた。
「…ゆ?どうしたのぱちゅりー?おなかいたいの?」
「むきゅぅううううん!こないでー」
心配して寄り添うまりさだったがぱちゅりーは頑なに動こうとしなかった。
「ぱちゅりー?どうしたの?ぱちゅりー!」
まりさは何かあったのかと思いぱちゅりーをゆすると、体力のないぱちゅりーはまりさに押されて遂に顔が上がり二匹の目が合った。
まりさはその顔を見て凍りついた。
「ぱ、ぱちゅ…ぱちゅりーのお顔がああああああああああああああ!?」
「いやああああああ見ないでまりさああああああああああああああ!!」
ぱちゅりーの顔は百足に所々食い千切られ、首のところから取れてしまった百足の首が何個も刺さったままで
そこらじゅうから餡子がちょろちょろと漏れていて、二目と見れないほど醜くぐちゃぐちゃになっていた。
まりさは思わずそこから目をそむけた。
「む゛ぎゅぅ゛ぅ゛う゛う゛ん゛!む゛ぎゅぅ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛ん゛!」
大きな声を出せば危険な虫がまた襲ってくる可能性も忘れてぱちゅりーは大声でわんわんと泣き始めた。
私はなんて醜い顔をしているのだろう、こんな顔ではまりさには完全に嫌われてしまった。
そうぱちゅりーは思い、それがズキズキと痛む顔の傷よりもずっと痛かった。
流れる涙餡が傷口に入り込んで滲みるのも意に介さずにぱちゅりーは泣いた。
涙で視界が滲んで前が見えなくなるほど泣いた頃、突然口にやわらかく暖かいものが押し付けられた。
「む、むきゅ!?」
何がなんだかわからず目を白黒させるぱちゅりー。
「ゆうううううう!!ぷはぁ、ゆぅ…」
「むっきゅぅっぱはぁ!?な、ななななな何をしてるのままままありささささあ!?」
まりさがぱちゅりーに熱い口付けをしたのだ。
二人の口から唾餡の糸がたらりと伸びていた。
「まりさは!ぱちゅりーのことが!だいだいだいすきだよ!
どんなお顔になっても!どんな時でも!ずーっとずーっと一緒にゆっくりしていたいの!
だから、だからああああああ!!!」
「む、むきゅううううううううん!!」
まりさは顔を真っ赤にして、上擦りながらも大声で愛の告白をすると再びぱちゅりーにねっちょりとしたキスをした。
舌と舌が絡んで粘膜が激しくこすれあった。
ぱちゅりーは混乱する意識の中でただ今自分は最高に幸せだということを理解した。
もう二匹を止められるものは居ない、だんだんと理性が抑えられなくなり二匹は体をゆすり始め
「そこまでよ!」
『ゆきゅう!?』
丘の上の方からあのゆっくりれいむの一家がこちらを眺めていた。
「まだ大人じゃないのにスッキリしたらゆっくりできなくなるんだからね!
じちょうしてね!!!」
『ゆ、ゆゆゆゆゆ~~』
若い二匹の交尾に対してぷんすかと怒るお母さんれいむであった。
恥ずかしいところを目撃されて二匹は顔を真っ赤にして俯いて唸っていた。
「おかあさん、まりさおねえちゃんたちなにちてたのー」
「子どもはまだ知らなくていいよ!!
まったく、わかものの性の乱れにはゆっくり呆れるよ!」
普段からお母さんれいむはそういった風紀の乱れに対して心を痛めていたようだ。
「ゆゅ!?まりさ!そっちのきもちわるいのなに!?」
「ゆ!?」
ぱちゅりーの顔を見た子れいむが悲鳴をあげた。
「おかあさん!きもちわるいのがいるよ!」
「あんなのといっしょじゃゆっくりできないよ!」
「…ゅっ、むっ…ゅぅ…」
「ぱ、ぱちゅりー…!」
子ども達の言葉がぱちゅりーの心に突き刺さった。
まりさが受け入れてくれればそれでいいとはいえやはり辛かった。
ぱちゅりーは顔を子れいむ達に見せないように後ろを向いてまりさの胸に顔を埋めた。
「おかあさん!はやくあいつをやっつけ…ゆ゛ぅ!?!」
その時、パァンという音が響いて子れいむが転がった。
「ゆぅ…?お、おかあさんがぶったぁあああああああああ!!!!!」
「お、おかあしゃんどうちてこんなことするのおおおおおおおお!!?」
「ぼーりょくてきなおかあさんとはゆっくりできないよ!!!!」
子れいむ達はお母さんれいむに次々と非難の声を浴びせた。
「お だ ま り !!!!!!」
子れいむ達の罵声がさっ、と止んだ。
「ぱちゅりーはれいむ達のおともだちだよ!
そのぱちゅりーをきもちわるい、やっつけようなんていうゆっくりはおかあさんの子どもじゃないよ!!」
お母さんれいむはピシャリと子れいむ達を叱りつけた。
子れいむ達はしゅんとなって俯いて黙り込んだ。
お母さんれいむは子れいむ達を睨み付けると呆然とこちらを見ているぱちゅりーの方へと近寄っていった。
「ごめんねぱちゅりー、子ども達がこわがるからお顔にこれをつけてね」
そう言って口の中から雨避けに使う大きめの葉っぱを出して舌に三つ穴を開けるとぱちゅりーの顔に貼り付けて傷が見えないようにしてくれた。
「むっきゅう…ぁ、ありがどう…ありがどぉおおお…!!!」
ぱちゅりーは葉っぱの下でわんわんと泣いた。
「それで、れいむ達もゆるいをさがしてここに着いたの?」
「そうだよ、でも虫さん達に追われてぜんぜんゆっくりできないよ!
だから一緒に力をあわせてここから出ようね!」
「そうね、早くここから出ないと虫さん達におそわれてむっきゅーってなっちゃうわ」
お互いに大体の事情を話しあった結果、とにかくこの場から協力して脱出する必要があるという結論にたどり着いた。
「ゆー!もっとやすみたいよ!」
「おなかすいた!ゆっくりできないよ!」
年長三人がたどり着いた結論に子れいむ達が異議を申し立てた。
実際子れいむ達の体力はかなり厳しいところにきていた。
「むきゅ、どうしようまりさ…」
「ゆー、ゆっくり…していく?」
子れいむ達の申し出に折れそうになるまりさとぱちゅりー。
子どもにあまり無理はさせたくないというのが正直なところだった。
確かに今のところここでは虫には襲われていないのだし、少しぐらい休んでもいいのではないかという考えが頭を過ぎる。
「だめだよ!こんなところで休んでいたらゆっくりできなくなるよ!!!」
しかしお母さんれいむはそれ以上の危機が自分達に迫りつつあることを長年の経験で察していた。
「ゆ、ゅ…」
「ゆ、わかったよ、がまんするよ…」
「ゆっくりちたかったのに…」
不平を漏らしつつも母の決断に従う子れいむ達だった。
早速準備を整え出発しようとするゆっくり達。
その時、ブゥゥン、という不吉な音が辺りに響き渡った。
「ゆ、あっちからなにかくるよ?」
「ゆー、なんだろ」
「いっぱいいるよ!ゆっくりちていってね!」
それを見て無邪気に声を上げる子れいむ達。
「イナゴさんだよ!!!早く逃げて!ゆっくりできなくなるうううううう!!!」
それの恐ろしさを知っているお母さんれいむは血相を変えて叫びをあげた。
しかし狭い森の中の小さな草原である、お母さんれいむが叫んだ時には既に先頭のイナゴ達に追いつかれていた。
「いだいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
「がじらないでええええ!!!れいむはおいしくないよおおおおおおおおおお!!!!」
「おかあさんたすけてええええええええええええ!!!!」
「はやく走って!小さい子はお母さんのお口の中に入ってね!」
泣きながらイナゴの群れから逃げ出すお姉さん子れいむとお母さんれいむの口に入る妹れいむ達。
まりさとぱちゅりーもお姉さんれいむを先導しながら先を急いだ。
「お、おかあさん!はやくなかにいれてね!ゆっくりできぁいよ!!!」
「ふが、ふが…!」
何分大家族である、全ての子れいむを入れる前にお母さんれいむの口がいっぱいになってしまったのだ。
「…ふがっ、ふがっ!(ゆっくり追ってきてね…!)」
お母さんれいむは苦渋の決断を下す。
ここで手をこまねいていては口の中の子れいむ達まで道連れになる。
ならばこの子れいむがなんとか一人で逃げ切れることを祈って先に進むしかないのだ。
お母さんれいむは涙を堪えながら子れいむに背を向けた。
「おかあさん!れいむのいもうとがまだのこってるよ!」
「おねえちゃん!おねえちゃぁぁあああん!!」
「れいむのいもうとがああああああああああ!!!!」
お母さんれいむの口の中の子れいむや先に進んでいた子れいむが叫んだ。
「おかあさん!おかあさんおいてかないで!!れいむをおいてかないでええええええええええええ!!!!!!!
もうわがままいわないから!!ぱちゅりーのこともあやまるからあああああああああ!!!」
「ふがっ、ふがぁっ(ごめんね、ごめんねえええええ!!!)」
お母さんれいむは歯噛みしたい思いでひたすら走り出した。
もう子れいむには追いつけないだろう。
そしてイナゴから逃げ切ることも子れいむのスピードでは出来ない。
子れいむの命運は尽きたと思われた。
「ぱちゅりー!先に行ってみんなをゆっくりポイントまで連れて行って!」
「むきゅ!?何をするつもりまりさ!ま、まさか…!」
まりさのいつもの悪い癖が出たのではないかとぱちゅりーははっとした。
ぱちゅりーの思ったとおりまりさは突如反転して先頭から外れると凄まじいスピードでイナゴの群れに突っ込んだ。
「ゆっ!?」
「はやくまりさのお口に入ってね!」
その勢いでイナゴを一時的に振り払い、子れいむの傍に着地するとまりさはぺろりと子れいむを口の中に入れる。
「駄目!イナゴに囲まれてゆっくり出来ない!」
ぱちゅりーが叫ぶと同時にイナゴがまりさを囲み一斉に襲い掛かる。
「ゆっぐぉおおおおおお!どっけえええええええええ!!!」
体当たりでイナゴを振り切りながらまりさはどんどんと突き進んでいった。
仲間を思う気持ちを頼りにイナゴを蹴散らしていく雄雄しい雄姿。
その姿、まさに廃線ぶらり途中下車。
「まりさおねえちゃんすごい!」
「おかあさんよりはやーい!」
そのまますぐにお母さんれいむに追いつくとそのまま追い抜かして先頭のゆっくり達に追いついた。
「むっきゅー、流石ねまりさ!」
「ぱちゅりーも乗る?ゆっくりさせないよ!」
はっはと息を上げながらも軽口を叩いてまりさはにやりと笑う。
まったく、減らず口をよく叩くのはまりさ種の特徴とは言え
本当に困ったゆっくりだと呆れると同時にぱちゅりーは笑いがこみ上げてくる。
「むきゅ、遠慮しとくわ!」
健在をアピールするまりさの姿に必死に走っている最中で息も絶え絶え
頭がズキズキ痛くてクラクラしているにも関わらずぱちゅりーも思わず笑みをこぼした。
「ここまでくればもう大丈夫だよ!」
「みんなゆっくりしようね!」
「ふがっ、ふがっ!(ゆっくりお口から出てね!)」
ゆっくり達は森まで行き木々を障害物として利用しながらなんとかイナゴを振り切ったのだった。
「ゆー、ちぬかとおもったよ!」
「これでみんなでゆっくりできるね」
「よかったね!ゆっくりしようね!」
和気藹々とするまりさとぱちゅりーと子れいむ達。
「……い、一番おっきなれいむの子どもはどこ…?」
お母さんれいむが震えながら呟いた。
先頭グループを走っていたはずの最年長の子れいむがどこにも見当たらなかった。
「あ、あれ?おねえちゃん?おねえちゃーん!?」
「お゛ね゛え゛ぢゃんがい゛な゛い゛よ゛おおおお!!!」
「ゆ゛っぐりできな゛いいいいいいいいい!!!!!!!」
「み゛ん゛な゛でゆっぐりぢだがっだああああ!!!!!」
和気藹々とした雰囲気が一瞬で壊れ、子れいむ達の嘆きの叫びが辺りを支配した。
それとは対照的にお母さんれいむは声を殺して静に泣いていた。
「ま、まりさがもう一回もどって助けに行くよ!」
すぐに子れいむを助けに行きに飛び出そうとするまりさ。
「ま…」
「駄目だよ!どの道もう助からないよ!まりさもゆっくりできなくなるよ!」
ぱちゅりーがまりさを止めようとするよりもさらに早くお母さんれいむがまりさの前に立ちふさがった。
「どおぢでぞんなごどい゛う゛のおおお!?」
「お゛があ゛ざんのばがあああああ!!!!」
「お゛ね゛えぢゃんをだずげでよお!!!!」
「れ、れいむ!まりさは強いから大丈夫だよ!
子れいむを助けてすぐに帰ってくるよ!
ゆっくりどいてえええええええええ!!!」
まりさは必死にれいむを退かして進もうとするがれいむはびくともせずその場を動かなかった。
「もうあの子は助からないの…!だから…だからせめてみんなあの子の分までゆっくりして…!」
「ゆ、ゆうう…」
涙を流して懇願するれいむの迫力に気おされるまりさ。
「まりさ、れいむが言うことが正しいよ…」
ぱちゅりーはゆっくりとまりさ達を嗜めた。
ぱちゅりーにももう子れいむは助からないだろうことはわかっていた。
まりさも心の底ではわかっていたのだろう。
しかし仲間思いのまりさにはそれがどうしても認められなかったのだ。
お母さんれいむの涙を見てまりさはようやく目の前の現実を受け入れた。
「ゆぐぐぐううう…」
「お゛ねえぢゃん……」
「ごべんね…ごべんねぇ…!」
「おねえぢゃんのぶんもいっぱいいっぱいゆっくりするからね…!」
その場に居る全てのゆっくりが子れいむのために涙を流した。
涙を拭って、ゆっくり達は再びこの地獄、永夜緩居から脱出するために進み続けた。
ガサガサと枯葉の地面を踏み歩きながら森を抜ける道を探す。
「むっ、きゅっ…」
静かにただ黙々とみんなが進んでいく中で、ぱちゅりーが突然ふらついてまりさにもたれかかった。
「ゆ?大丈夫ぱちゅりー?」
「むきゅ…大丈夫だよ…まだまだ元気いっぱいだから…」
「ゆー、できればみんなゆっくり休ませてあげたいんだけど…」
そう言ってまりさは子れいむ達を見回す。
「ゅ…ゅー」
「ゅひゅー…ひっひ…ゅー」
「………っ………」
全員息も絶え絶えと言った様子だ。
しかしさっきのように虫たちに襲われた時休んでいたらひとたまりも無い。
とにかく一刻も早く永夜緩居から脱出することが最優先なのだ。
ぱちゅりーもそれを理解しているから空元気でまりさに苦笑いを返す。
「ごめんね…まりさがゆるいに行こうなんていわなかったらいまごろゆっくり出来てたのに…」
つっ、とまりさの頬を涙が伝う。
「むっきゅ、それは言わないお約束だよ」
そう言ってぱちゅりーはまりさの涙をぺろりと舐めて拭った。
その時、異変が起こった。
「ゆぅ~~!?」
段差に気付かずに子れいむが足を踏み外して転げ落ちたのだ。
「れ、れいむの赤ちゃんが!?」
慌てて下を覗き込むお母さんれいむと子れいむ達。
「ゆゆ?おそらをとんでるみたい~~~!」
しかし子れいむは不思議なことに下まで落ちずにまるで中に浮いているかのように
段差からの途中辺りから伸びていた4、50センチほどの枝と枝の間の空間で止まっている。
子れいむはそこで楽しそうにぽよんぽよんと跳ねていた。
「ゆ、おねえちゃんいいな、ずるいずるい!」
「れいむもやるー!」
ぴょんぴょんとそこに飛び込んでいく子れいむ達。
「ゆ、ゆー?」
お母さんれいむも今度は何が起こったのかわからず困惑して首をかしげている。(つまり斜めになっている)
「ごほっ、むぎゅうううん!だめええええ!ゆっぐぉほっ、ゆっぐりでぎなぐなっぢゃううう!!!」
ぱちゅりーだけが餡子を吐きながら遅すぎる静止をした。
「ぱ、ぱちゅりー?どうしたの?おなかいたいの!?」
まりさは突然餡子を吐いて叫ぶぱちゅりーを心配して傍によって背中をさすった。
「うああああああ!だずげでおがあざあああああああん!!!」
「いやあああああああ!!こないでえええええええええええ!!!」
子れいむは中に浮いていたのではない、蜘蛛の巣に引っかかっていたのだ。
人間の拳二つ分ほどもある巨大な蜘蛛が二匹、枝の影から現れた。
「い゛や゛ああああああ!れ゛い゛む゛のあがぢゃんがああああああ!!!」
お母さんれいむの叫びも空しく大蜘蛛が身動きの出来ない子れいむ達に齧りついた。
「あがっがっがっがっが…」
「ゆっ…ゆぐっ…ゆ゛…」
皮を突き破った牙から餡子に毒を混ぜられて子れいむ達はもはや喋ることもままならなくなった。
「おねえぢゃああああああああああん!!!」
「れいむの…れいむのい゛も゛う゛どがあああああああ!!!」
獲物が動けなくなったのを確認すると大蜘蛛達は子れいむを咀嚼し始めた。
皮を剥ぎ、蜘蛛の頭が餡子の中に埋まる。
くちゃりくちゃりという咀嚼音が辺りに響いた。
「うっ、ゆうう…ごめんね…ごめんね…」
お母さんれいむが耐え切れずに目を背けた。
まりさとぱちゅりーは何も出来ずにただ後ろから見ているしかなかった。
「おねえぢゃん!おねえぢゃん!」
一匹の子れいむが身を乗り出して家族の名前を呼んだ。
「むきゅ、そんなに乗り出したら危な…」
ぱちゅりーが注意を促そうとしたその時、段差に生えた枝の一本が動いた。
「ゆぎゃあああああああああ!?」
茶色の蟷螂が子れいむの頭に深々と鎌を突き立てていた。
ギロリと辺りを睨み付けると茶色い枝蟷螂は段差の下へと子れいむを連れて飛び降りていた。
「いやあああああああああ!!?」
「あ、あああああああああああ!?」
傍にいながら何も出来なかったことにお母さんれいむは歯噛みして後悔した。
「だずげでよおがあざん!れいむおねえぢゃんだぢみだぐにたべられだぐ…!
ああああ!いだいいいいいいいい!おがあざん!おがあざん!みでないでだずげぎぃ!」
枝蟷螂は鎌で器用に子れいむのリボンを切り裂いた。
「あ゛!やべでええ!れ゛い゛む゛の゛!れ゛い゛む゛の゛リ゛ボン!れ゛い゛む゛のだいじなりぼんな゛のお゛!!!」
邪魔なリボンを切り裂けば次は皮、その次は中の餡子だ。
「ごめん…こんなお母さんでごめんね…もっとゆっくりさせてあげたかったよ…」
ポタリと子れいむの頭にお母さんれいむの涙が落ちた。
最後に一瞥くれてお母さんれいむはその光景から背を背けた。
「おがあざん!?どうじでぞっぢむいぢゃうの!?れ゛い゛む゛はごっぢ!ごっぢだよ゛!」
「早く行くよ、急いでここから出ないとゆっくりできなくなっちゃうから」
「ゆ!?ま、まってよおかあさん!」
「で、でもおねえちゃんが…」
「……」
生き残った子れいむ達の静止を無視してお母さんれいむは無言で進んでいった。
{お゛があざんお゛いでがないでだずげで!だずげでよ゛おお゛お゛!!!
れ゛い゛む゛ゆっぐりでぎでだいどおおお!おいでがないで!おいでがないで!
れ゛い゛む゛をだずげでごのま゛まぢゃれ゛い゛む゛ゆっぐりでぎないよ!!
お゛があざん!お゛があざん゛ん゛んん゛ん゛ん゛ん゛んん゛ん゛ん゛!!!」
子れいむの絶叫が木霊する中、ぱちゅりーとまりさは黙ってお母さんれいむに着いていくしかなかった。
「ゅぅ…ゅぅぅぅぅ…」
「ひっく…ゅ…おねえぢゃん…ぅゅぅぅ…」
「ゅっく…ゅぇぇ…」
子れいむ達は啜り泣きながらお母さんれいむの後ろについて歩いていた。
まりさとぱちゅりーはしんがりを勤めて周りを警戒している。
「がほっ、ごほっ…むきゅぅ…」
「ほ、ほんとに大丈夫?まりさの上に乗ったらゆっくりできるよ!」
「むきゅっ、まりさだって限界でしょ
大丈夫、その気持ちだけでぱちゅりー嬉しいから」
ぱちゅりーはよろめく体でそう応えた。
実際のところぱちゅりーは限界に近い状態にあった。
百足に噛み付かれた場所はズキズキと痛んだ。
眩暈もさっきからずっと止まらない。
耳鳴りだってしている。
足の裏も枝や小石で傷だらけだ。
満身創痍に近い様態だった。
けれどここから出れればまた二人一緒にゆっくり出来る、そして大きくなったら二人で子どもを作りたい。
そして死んでいった子れいむ達の分もゆっくりさせてあげたかった。
ぱちゅりーはまりさと一緒にここを出ることを心から願った。
その願いが僅かながら歩む力をくれた。
ぱちゅりーを突き動かすのはもはや気力だけであった。
「ゆ!森を抜けるよ!
もうすぐゆっくり出来るよ!」
木々の間から光が挿している。
お母さんれいむの話では出口はもうすぐのはずだった。
「ゆ!森を抜けたよ!もうすぐ!
あの丘を越える前は虫さん達に襲われてなかったからあそこを越えれば大丈夫だよ!」
そこは開けた草原だった。
その先にはゆっくりにとってはそれなりに小高い丘があった。
「ゆ!あとちょっとだよ!やったねぱちゅりー!」
「むっきゅー、あそこを越えたら絶対にゆっくりやすみたおしてやるわ…」
ゆっくり達は最後の力を振り絞って歩き出した。
「もうちょっとだよ…」
「もうすぐゆっくりできるね!」
「みんなでゆっくりしようね!」
草原を進んでいる内に段々とみんなの顔に笑顔が戻ってきた。
ここを抜ければゆっくり出来るのだ、そのことがみんなに元気を与えてくれた。
その時、絶望の羽音がゆっくり達の耳に届けられた。
「い、イナゴさんだー!!!」
「いやああああああああ!!!」
「ゆっくりできないいいいいいいいいい!!!」
「急いで!もう丘は目の前だよ!」
さっきのようにお母さんれいむの口の中に子ども達が隠れる。
今度は全ての子れいむ達が入ることが出来たし喋ることも出来た。
とにかく急いで丘にまでたどり着くゆっくり達。
しかしそこからが地獄だった。
「ゆっ、ゆっ…!」
「むきゅぅっぅぅぅぅ…!」
登りはどうしてもそれまでよりスピードが落ちる。
一方イナゴは空を飛んで変わらぬスピードで追いかけてくる。
もうイナゴの軍団はすぐそこまで来ていた。
「むぎゅぅ…ま゛り゛ざ…もうぱちゅりーをお゛いでにげで…」
「何言ってるのぱちゅりー!ここを出ていっしょにゆっくりするんだよ!急いで!」
「むぎゅ…うげぇ!エロエロエロ…!」
「ぱ、ぱちゅりー!?どうしたのぱちゅりー!ぱちゅりー!」
突如、ぱちゅりーが激しく嘔吐し辺りにどろどろの餡子が飛び散った。
「む、むぎゅぅ゛…」
「ふが…ま、まさか…!」
はっと思い当たったようにお母さんれいむがぱちゅりーの顔の葉っぱを取り去った。
「ど、どうじでぱちゅりーのお顔が紫色なのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
ぱちゅりーは顔中に紫色の斑点が浮き出ており、その表情は死相としか言いようが無い痛々しく生気の無いものだった。
最初に噛み付かれた百足の毒が全身に廻ってたのだ。
一匹なら、普通の百足ならこうはならなかっただろう。
だがここは永夜緩居なのだ。
そこは虫たちの住まう狂った世界。
諸手を挙げて誘い込まれる獲物を喜び喰らう魔境である。
「これは…もう…助からないよ…」
「うん…ぱちゅりーが…一番わかってるよ…むぎゅぇっ!ごばぁっ!」
「二人とも何をいっでいる゛の゛おおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?」
れいむとぱちゅりーの二匹がぱちゅりーの死を受け入れる中でまりさだけが現実を受け入れようとしなかった。
「むきゅ…ありがとうねまりさ、でもぱちゅりーは、もう駄目だからまりさには生き延びてゆっくりして欲しいの…」
足手まといとなった自分を絶対に見捨てないまりさの気持ちが嬉しかった、そんなまりさが大好きだった。
だからこそぱちゅりーは絶対にまりさには生き残ってもらいたかった。
「馬鹿なこといってないで早く行こうね!もうすぐイナゴさんが来るよ!!」
そう言ってまりさはぱちゅりーの帽子を引っ張って無理やり連れて行こうとする。
ぱちゅりーは力無い瞳でれいむの方を見つめた。
「れい…む…このままじゃみんな死…んじゃう…から…おね…がい…わか、るよね
まりさ達が…ゆっくりする方法…」
「そんなの簡単だよ!まりさとぱちゅりーがあの丘を越えればいいだけだよ!」
まりさも薄々と手遅れなことを感じ取っていた。
れいむは黙って悲痛な表情でコクリと頷いた。
そして、れいむが体当たりをしてぱちゅりーは丘を転げ落ちた。
「さよなら、まりさ」
「ぱちゅりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
ぱちゅりーは餡子を撒き散らしながらごろごろと転がり、イナゴの群れの中に堕ちた。
「な゛に゛を゛ずるどれ゛い゛む゛うううううううううううううううううう!!!!」
「ぱちゅりーはもう駄目なんだよ!だからぱちゅりーはみんなを助けるためにああやって犠牲になったの!ああやって…!」
れいむの視線の先にはイナゴに群がられ齧り削られていくぱちゅりーの姿があった。
ああしてぱちゅりーを食べている間はイナゴの群れはこちらを追ってはこなかった。
「今助けに行くからねぱちゅりー!!!」
「駄目ぇ!!どうしてぱちゅりーがああまでして犠牲になったのかわからないの?ばかなの?
まりさに助かって欲しいからだよ!お願いだからぱちゅりーの命を無駄にしないで!!」
「黙れこの豚れいむがああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
鬼の形相となったまりさは必死に止めるお母さんれいむを突き飛ばすとイナゴの群れの中心へと
ぱちゅりーの所へと転がっていった。
「どうして…どうしてぱちゅりーが命を捨てる気持ちがわからないの…!
何でまりさはぱちゅりーの気持ちを無駄にするの…!
みんな命を繋ぐために生きてるのに!れいむだってぱちゅりーだって虫さんだってみんな命を繋ぐために生きてるのに!
まりさああああああ!まりさは最低だよ!最低のゴミクズだよ!
死ね!まりさはそこでゴミクズらしくゆっくり死ね!!!」
お母さんれいむはぱちゅりーの命を無為にするまりさのその行為に激昂し、唾を吐きかけた。
そして丘の上を目指し振り向かずに子れいむ達を連れて登っていった。
「ぱっぢゅぃりぃー!ぱぢゅぅりぃ!!!」
どうして来てしまったのか、ぱちゅりーがもう見ることは無いと思っていたまりさの姿を見て思ったことはそれだった。
まりさはイナゴに体中を齧られながらもぱちゅりーの所へと辿り着いたのだ。
せっかくまりさだけでも助かって欲しいと思っていたのにと腹が立った。
いつもそうだ、まりさは自分の作戦を無視して勝手なことをして台無しにするのだ。
この前の蛇の時だって自分を囮にしている間に逃げれば簡単に二人で逃げ出せたのに
なのにまりさが石につまづいた自分を飛び出して助けようとしたから台無しになって必死に逃げ回る羽目になったのだ。
本音を言うとそれがとても嬉しかった。
今もそれは同じだった。
ただとても悲しくもあった。
きっとまりさも自分と一緒にイナゴに食べられてしまうだろうから。
まりさには生きてその明るさと行動力でみんなを導いて欲しい、そう思っていた。
「ぱちゅりー!待ってて!絶対に絶対に絶対に助けるよ!
ここから出たらね!おっきなおうちみつけようね!
ゆっくりがたくさんすめてゆっくりできるおうちだよ!
そこで二人でゆっくり暮らすの!冬も安心して越せるんだよ!
虫さんなんて絶対に入ってこないんだよ!
ごはんはぱちゅりーが調べたばしょからまりさがいっぱいとってくるから安心だよ!
春になったらお花さんも食べようよ!こんどはかまきりさんの居ないゆっくり食べられるお花なんだよ!
夏は水浴びして!ひんやり~!してゆっくりするよ!
秋はね!秋はね!食べ物がたくさんあるからゆっくりし放題なの!!
それで二人が大きくなったらたくさんたくさん子どもを作るの!
ここで死んでいったみんなの分もいっぱいいっぱいゆっくりさせるの!
だから!だから一緒にここを出ようよ!ぱちゅりー!
ぱちゅりー!!起きて!ぱちゅりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
まりさの声を聞きながら体中を齧られて、ぱちゅりーの視界はやさしい緑で埋め尽くされた。
ありがとうやさしくてわたしのだいすきなまりさ。
もう喋る口も食べられちゃって無いけれどこれだけは言わせて
まりさといっしょで本当にゆっくりできる一生だったよ。
ああ、私に群がる虫さんたち
最後に一つお願いさせて
私の体は全部あげる
だからまりさを
もってかないで…
永夜緩居― 二匹のゆっくり
最終更新:2022年05月03日 18:07