生物ゆっくり

うんうん乱舞

俺設定多め


ゆっくりが群れを成して住む森の中。
日中天高く昇る陽が森の木々に光を注ぐ。
その光を浴びる樹齢60年はあろうかという大木の根元にぽかりと開けられた穴。
その中から森のざわめきに混じるような、調子はずれの歌声が。
「ゆ~ん♪ゆ~ん♪ゆっくりしていってね~♪」
この穴の主、ゆっくりれいむの歌がその正体だ。
このれいむが昼間から暢気に引きこもっているのには訳がある。
このれいむはゆっくりまりさの子を宿した為、無理をして子供の生育に影響を与えないようにと、まりさに言い包められたからである
今は胎教としてなのか暇を持て余してなのかは分からないが、一匹でゆっくりと歌っている。
「おうたがおわったらおひるねでゆっくりするよ…」
そして歌い終わると独り言なのか胎教なのか分からない呟きを残し、れいむはまぶたをそっと閉じた。

「…?…!?」
れいむの眠りは雑音で妨げられる。
しかしそれを不快には思ってはいない。
「ゆゆん…まりさのおかえりだね…」
まりさはいつも家に入る前にれいむの事を呼ぶのが慣習になっていた。
バリケードを施された巣の奥ではまりさの呼びかけは雑音にしかならないので、今回の雑音も当然まりさが来たものだと思っている。
仰向けに寝ていたれいむは底部を器用によじる事で身を起こし、巣のバリケードまで這って行く。
しかし
「まり…」
と呼びかけようとしたところでれいむは口を噤む。
表から聞こえる声が、愛しのまりさのそれではないと思えたからだ。
さらには同類であるゆっくりの声にも似ていない、聞いたことのない異質のもの。
一人身ならば、持ち前の好奇心で積極的にコンタクトを図るのだが、子を宿したれいむは慎重さを身につけていた。
(まりさじゃないならゆっくりさせないよ…)
物音を立てずにそっと外の様子を窺うように聞き耳を立てていると、突然ばさがさっと乱暴にバリケードがはがされる。
「ゆうううん!?」
「お、当たり!」
「リーチ一発じゃん!」
れいむの眼前に飛び込んできたもの、それは二人の人間だった。
「れいむ一匹だけか?妊娠していたら番待ちするんだがな」
その言動からゆっくりを捕らえる事を目的としているのは明らかだ。
そんな人間の邪な目的を察してか、
「ゆっくりできないよ!」
さっと踵を返して巣の奥に素早く引き篭もる。
「お、結構素早い」
「あれつかうか」
「だな」
れいむが敏感に危険を察しても余裕のある人間達。
ゆっくりの巣の出口が一つしかない事も、その巣の深さも熟知している口ぶりだ。

人間が手にした一つの道具。
野生動物を絡め取る時に使う、長柄の先に鉄製のワイヤーの輪が付いた道具だ、
その輪をれいむへ被せようと手探りだけで棒を動かす。
「ゆっくりできないひもがきたよ!ゆっくりしないででていってね!」
頼まれてもいないのに現状を実況してくれるれいむ。
そのおかげで人間は巣を覗き込まなくても手探りだけで捕まえることが出来る。
「ゆゆぅ!ひもさんはゆっくりはなれてね!れいむのおりぼんさわらないでね!すりすりしないでね!」
これでれいむが輪にかかったことを確信した人間は、手元の紐をグイッと引き絞る。
するとれいむにかかった輪が、孫悟空の緊箍児のように締め付けた。
「ゆい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!」
強烈な痛みで苦悶の声を上げるれいむ。
これもまた人間側には都合のいい合図になり、手にした棒を手繰り寄せる。
強烈な力で引き寄せられ、徐々に近づく人間達の下卑た笑みを目にしたれいむは、気が動転したのか妙な事を口走る。
「うんうんするよおおおおっ!かわいいれいむがうんうんするよおおお!」
わざわざ排泄の合図をすると、本当に宣言通りにれいむの顎下から餡子がひり出されてきた。
その様を見て顔をしかめる人間達。
「うわ…汚物かよ…」
「あちゃ…森の中なら大丈夫だと思ったんだけどなぁ」
「どうする?」
「いいよ、このまま捕まえるさ。後のことは帰ってからにしようぜ」
一旦れいむを引きずり出す手を止めていた人間だが、気を取り直すと再びその手を動かし始める。
しかしその動きは手を止める前に比べると少し遅い。
れいむの醜態に気が乗らなくなったのだ。
「うんうんしてすっきりしたよ!もっとうんうんするよ!」
しつこいアピールにすっかり興醒めした人間は、用意したずた袋へ乱暴にれいむを放り込む。
「うんべっ!?」
「おいおーい、あまり雑にあつかうなよぉ」
「いいんだよー!グリーンだよー!」
「あっひゃっひゃっひゃ!つまんね」
「…」ぼすっ
「ゆぎょお!」
部活帰りのサッカー少年のように袋に入れたれいむを蹴りながら、二人の人間は山を降りていった。



主の片割れを失った巣の中に、一つ残されたれいむのうんうん。
ところがうんうんと思われたそれが突然ぶるぶると動き出すと、中から一匹のゆっくりまりさが出てきたのである。
「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇえ!」
それもれいむのうんうんを貪りながら。

れいむは人間に捕まった時に一つ決心をしていた。
「れいむはもうおしまいだよ!まりさはゆっくりがんばってね…でもあかちゃんはゆっくりさせるよ!」
自分の事はどうなっても良い、しかし子供だけは何とか助けたいと必死に知恵を絞った結果、とんでもないことを思いつく。
「うんうんのなかにあかちゃんをかくすよ!うんうんならにんげんさんもほしがらないよ!」
思ったことをその場ですぐに実行出来てしまうのは、流石と言うべきか呆れると言うべきか。
この無茶苦茶な適応力があったからこそゆっくり達は過酷な環境で生きてこられたのだろう。
それはともかくれいむの思惑はまんまと成功し、れいむとまりさの一粒種は人間の魔手から逃れることが出来たのである。

そしてこのれいむが計算づくだったのかどうかは分からないが、もう一つ赤まりさにとって良い事が。
それはまりさを包むうんうんだ。
ご存知の通りゆっくりのうんうんの正体は餡子。
目の前でうんうんとして排出されれば忌避するのだが、赤ゆっくりとしてれいむの体内で眠っていたまりさはうんうんとして排出された事など知りもしない。
それにうんうんとして排出はされたが、したくもないのに出したうんうんは、れいむの体の一部を無理やりひり出したもの。
正確にはうんうんと呼ぶべき代物ではないのかも知れない。
ナマコが緊急時に肛門から内蔵を吐き出すのに近い行為だろう。
何はともあれ、れいむの番のまりさが帰るまでの間、この赤まりさが食べ物に困る事態は避けられたのである。
「おなきゃいっぱいだから、まりしゃはおねむだよ…」
そして空腹を大量の餡子で満たした赤まりさは、暫くの間すやすやと安らかに眠っていた。



れいむが誘拐されてから数刻後、番であるまりさが帽子の中に食料を抱えて帰還してきた。
「れいむのまりさがかえったよ!…おおおおおっ!おうちがたいへんだよおお!」
乱暴に散らかされたバリーケードを見て最悪の事態を想像し、一瞬で顔を青ざめさせるまりさ。
「れいむうううううう!」
愛するれいむの安否を確かめるために巣に飛び込むと、一匹の小さなまりさを見つける。
「ゆゆっ!?なんでれいむじゃなくて、ちっちゃいまりさがまりさのおうちでゆっくりしているの!?」
れいむが必死の思いで託した赤まりさだとは知る由も無いまりさ。
お家に余所者が紛れ込んだと思うのは当然だろう。
「ゆ…ゆゆぅ…」
凄い剣幕で問いかけるまりさに言葉を詰まらす赤まりさ。
まりさの問うた「おうち」が何であるかを理解していないのも一因だが、初めて見るゆっくりから詰問されたのだから怖気づいても仕方が無い。
まりさはそんな煮え切らない態度の赤まりさに強い敵意を持ってしまう。
れいむが居なくなった隙にこの赤まりさが乗っ取ったのと思い始めたからだ。
勝手にお家を乗っ取る不届きなゆっくりは、暴力で追い出されることも多いのだが、しかしまりさも鬼ではない。
赤子であるのはそのサイズを見れば明らかなので、大人の威厳を持って追い出そうと圧力を掛けるのだ。
「ここはまりさとれいむのおうちなんだよ!ちっちゃいまりさはじぶんのおうちにかえってね!」
赤まりさから見れば巨人ともいえるサイズをぷくーと膨らませる事で更に大きく見せるまりさ。
「にゅぅえええええ!まりしゃのおかあしゃんはどこいっちゃったにょおお!?おとうしゃんはどきょなにょおお!?」
しかし赤まりさはその姿に怯むのではなく、保護者を求めてを嘆きだした。
生まれてすぐにあまあまを口にして忘れていたのだろうが、目の前に大人のゆっくりが現れた事で、自分が未だ母にも父にも対面していなかった事を思い出したのだ。
「ゆっうーっ!まりさがゆっくりできないから、ちびまりさはゆっくりでていってね!」
噛み合わない会話に痺れを切らしたまりさが体当りで赤まりさを押し出そうとした時だった。
「…れいむ!?…れいむのにおいがするよ!」
居ない筈のれいむの存在を匂いで感じ取ったまりさは体当りを中断する。
れいむが一日中篭っていたのだから、巣の中でれいむの匂いがするのは当然なのだが、まりさは目の前の小さなゆっくりからより強い匂いを感じ取ったのだ。
「…このちびちゃんかられいむのにおいがするよ…」
れいむから生まれたばかりの赤まりさ。
うんうんに包まれた生まれといえど、餡から皮までれいむから分け与えられた物なのだから、れいむの要素を強く引き継ぐのも当然だろう。
そしてまりさは赤まりさが自身の分身である事に気付くと同時に、れいむが帰らぬ存在になってしまった事に気付いてしまう。
悲しみに押しつぶされそうになったまりさだが、目の前の赤まりさかられいむの最後の願いを強く感じ取ると気を強く持ち直した。
「…おちびちゃんのおかあさんはもういないよ…でもおとうさんはまりさだからゆっくりしていってね!」
「ゆゆぅっ!?まりしゃのおとーしゃんはまりしゃなの!?」
「そうだよ!だからいっしょにゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしちぇいっちぇにぇ!」
こうして二匹のゆっくりは、奇跡的な邂逅を遂げたのだ。

れいむを失う悲劇に見舞われたまりさ親子だが、これからはれいむの分までゆっくりするだろう。
と思われたが…

「にゅぅええええ!にぎゃいよおおおお!」
「おちびちゃん、これはおいしいごはんだよ?むーしゃむーしゃしようね!?」
「むーちゃむ…おえっ!に゛がい゛い゛い゛い゛い゛!むーちゃむーちゃしたくないよぉ!!!」
今しがた親まりさが持ち帰った虫や草を口にした赤まりさは、味の不快感に我慢が出来ずに一つ残らず吐き出してしまった。
「ゆうううん!?おはなさんはむーしゃむーしゃできるでしょお?」
「むー…え゛え゛え゛え゛え゛…ゆっきゅりできにゃいよぉ…」

この赤まりさが普通のゆっくりが食べる物を受け付けなくなったのも理由がある。
答えは単純、生まれてすぐに上質のあまあまをたらふく口にしてしまったから。
結果赤まりさの舌は肥えた物になり、森の恵みだけでは満足できない体になってしまった。
れいむの機転は一見赤まりさを庇護したかに見えたが、結局赤まりさを不幸な環境に産み落としただけだった。
「ゆっ!?ゆぎょ!?おごっ!おびょぼぼぼぼ…」
「ゆううううう!おちびちゃん!しっかりしてぇ!?」
「…もっちょ…ゆっきゅり…ちちゃかっちゃよ…エレッ」
れいむが無理して産んだ未熟な体だった事も一因だろうが、体に合わなくなった物を無理して食べてしまった所為で、一日と経たずに幼い命は失われてしまった。




「れいむもおちびちゃんもいなくなっちゃったよ…」
完全に独りぼっちになったまりさ。
ひとり巣の中で悲しみに暮れていると、まりさヘ向かって声を掛ける者が現れた。
「お、もう新しいのが入っているな」
「これだけ広いと他のゆっくりが放っておかないんだろうな」
「…ゆぅ?」



おわり


一部のヤスデは卵を糞に包んで産むと知って思いついた。

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最終更新:2022年05月19日 14:48