都会から少し離れた町に1人の僧侶が暮らしていた。
彼が住む町の周辺にはゆっくりが生息する森が存在し、
ゆっくりたちは時々町にやって来ては町人たちと過ごした。
特に僧侶が住む寺には多くのゆっくりが訪れる。
挨拶しに来た者、産まれた赤ちゃんを見せに来た者…。

「おにーさん!ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってくださいね。今日はどうですか?」
「ゆゆっ!きょうはおひさまがぽかぽかでさいこうだぜ!」

「わかるよー。おすそわけだよー。」
「ありがとうございます。山菜は体にいいので助かりますよ。」
「むきゅ!またみつけたらわけてあげるわね!」
「ええ、是非お願いします。」

「ありすのとかいはなあかちゃんをみせにきたわ!」
「ほら、あいさつしてね!!!」
「「「「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!!!」」」」
「元気のいい赤ちゃんですね。きっと親に似た良い子になりますよ。」
「お…おにーさんったらおせじがじょうずね!!」

「ゆえぇ…。みょんがれみりゃにたべられちゃったよぉ…。」
「それは可哀想に…。私がお墓を立ててあげましょう…。」
「ゆぅ…。てんごくでゆっくりしていってね…。
 …れみりゃなんかしねばいいんだよ…。」
「今の発言は穏やかでは無いですね…。
 確かに大切な伴侶を奪われた悲しみは分かります。
 でも、れみりゃだって生きるために必死なのです。
 あなただって生きるために虫や草を食べているでしょう?
 我々は何かを犠牲にしないと生きられないんですから…。」
「…おにーさんのいうとおりだね…。
 れいむ、しんだみょんのぶんまでいきるよ!!!」


毎日こんな調子である。まさに共存、平和そのものだった。
だが、初めからこんな良好な関係だった訳でもないし、
僧侶も初めからこんな性格だった訳でもない。




「あ、お坊さん!!こんにちは!!」
「おや、学校は無いんですか?」
「今日は祝日だよ?そんなことより昔のお話聞かせて!!
 聞かせてくれるって約束でしょ!!?」
「…そうでしたね…。」

僧侶に駆け寄ったのは近所の小学生だ。
ゆっくりを蹴り飛ばしているところを僧侶に目撃され、
説教を受けてからよく通うようになった。

「そうですね…。お話しましょうか。」
「やったー!」
「ここだとゆっくりたちに聞こえてしまうので中に入りましょう。」
「どきどきわくわく…。」
「…あれはずっと前…。私がまだ愚かだった頃の話です…。」





                                  • 今からずっと前・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「さ~て♪手術の時間ですよ~♪」
「いやぢゃぁぁぁぁ!!!はなじでぇぇぇぇ!!!!」
「麻酔は使いません!それがオレのポリシー。
 じゃあまずはメスを…♪ス~…。」
「ゆびゃげげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「暴れると中身出ちゃうよ~♪おっ!悪性の腫瘍発見!!今摘出します!!」

そう言いつつ『中枢餡』に手を伸ばす…。

「ゆぎょええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!?」
「もうしばらくの辛抱だ!楽しい手術の時間もあと少し…せいやっ!!!」

ズブズブッズボォッ!!!

「ゆ…ゆがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!…ゆ…ぐ…。」
「…手術完了。そして~♪腫瘍は実は中枢餡でしたー♪」
「ま…まりしゃのおがぁぢゃんがぁぁぁぁぁ!!!」
「ゆ…ゆぎぇぇぇぇぇぇぇ!!!エレエレエレ…。」
「次はチビちゃんの番だよ~♪すぐ両親と再会できるからね~♪」
「もうやぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「全員手術完了♪あ~楽しかった!!手術ゴッコ最高!!」




僧侶は前まで虐待鬼意山だった。しかも筋金入りの。
毎日ゆっくりを見つけては惨い方法で虐待した。
その虐待っぷりにゆっくりだけでなく町の人々からも恐れられた。

「夜な夜なゆっくりの叫び声が聞こえて…。」
「子守唄の代わりになっていいじゃないか。」

「苦しませるぐらいならせめて一撃で潰せ…。」
「そんなことしたらつまらないだろう。」

「子供に悪影響…。」
「そんなことは無い。道徳の授業に取り入れてもいいぐらいだ。」

周りの言葉などどこ吹く風、鬼意山は存分に虐待ライフを楽しんでいた。
…この町の周辺の森はとても環境が良く、食べ物も豊富にあった。
ゆっくりたちは皆で仲良く暮らしており、ゲスはほとんど見当たらなかった。
だがそんなこと鬼意山には何の関係も無かった…。






ある時は挨拶してきたゆっくりを踏み潰した。

「ぐ…ぐりゅじぃぃぃ…!!!」
「全体重かけまーす♪よいしょっと!」
「ゆぐぐぐ…ゆべげふっ!!!!」






ある時は巣を襲い食べられそうな物を根こそぎ奪った。

「やべでぇぇぇぇ!!!ふゆざんをごぜなぐなっぢゃうぅぅぅぅ!!!!」
「おっキノコ発見♪こっちには木の実がある♪ラッキー!!」
「どらだいでぇぇぇぇぇ!!!どぼじでごんなごど…!!!」
「うるっせーな。ちょっと黙ってくれ!おらぁっ!!」
「ゆべげっ!!!」






ある時は赤ゆを目の前で潰したり食べたりした。

「おがぁぢゃんだじゅげ…!!!」

がぶっ!

「ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛!!」
「むしゃむしゃ、美味い!おかわりしよっと!!」
「あがぢゃんたべるやづはじね…ゆげふっ!?」
「親に用は無い。さ~赤ちゃん♪ゆっくり食べられてね!!」
「いやぢゃぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」

がぶっ!






ある時はれみりゃ(胴無し)を使ってゆっくりをハンティングした。

「うー!うー!」
「れれれ…れみりゃだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うー♪うーうー!!!」

ヂューヂュー…

「ながみずわないでぇぇぇぇぇ…もっちょ…ゆ…り…。」
「う~♪」
「れみりゃよくやったな!…飽きたからお前もういらないわ。」
「うー?」

キョトンとしているれみりゃを掴み、羽を引き千切る。

ブチブチッ!!!

「う゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「そ~ら!飛んでけ!!!」

鬼意山は羽無しれみりゃを持ち上げ、川にぶん投げる…。

ボチャン!!

「うぁぁぁぁ…!!!がぼがぼがぼ…!!!」
「ストレス解消♪肉まんが弱肉強食気取ってんじゃねーよ♪」







毎日こんな調子であった。まさにやりたい放題、地獄絵図であった。
鬼意山はこの生活が永久に続くと思っていたし、
これからも虐待が好きな自分でありたいと思っていた。



だがそんな鬼意山を変える運命的な出来事が起きた…。
それは某年某日某時某分…とにかくある時のこと…。

「ちっいてて…。しくじった…くそぉ…。」

鬼意山は少し離れた森の奥、崖から転落し、大怪我を負っていた。
この付近にドスが治める群れが存在することを知り、
皆殺しにすべくやって来ていたのだ。
だが痛恨のミス、うっかり足を滑らしこの体たらくだ。
多分骨折している。頭も打ち意識ももやもやしていた。
携帯で連絡…無理だ。ここは圏外だった。

「思えば…くだらない人生だったな…。」

鬼意山はその時死を覚悟した。
こんな状態では満足に歩けず野垂れ死にするのがオチだ。
こうなったのも自分がドスの群れを襲おうと思ったからだ。

「…罰が当たったな…。ゆっくりにも仏がいたのかねぇ…。」

柄にもないことを言いながら鬼意山はそっと目を閉じた…。
そこで鬼意山は死ぬ…はずだった。

「ゆ!?ドス!にんげんさんがたおれてるよ!!」
「本当だ!すぐに治療しようね!!」
「おお、大怪我大怪我。我々で運びましょう。」

薄れる意識の中そんなやり取りが聞こえた。
ああ、幻聴だな。こんな都合のいいことが起こるはずがない。
こんな情けない幻聴を最期に聞くとは…。




数時間後…

鬼意山は重たい瞼を開けた。生きてる。まずそう思った。

「むきゅ!にんげんさんがめをあけたわ!!」
「たすかったんだねー。わかるよー。」
「ドス!にんげんさんめをさましたよ!!」
「おお、生還生還。でもまだ絶対安静ですよ。」
「…幻聴じゃなかった…?いったい何のつもりだ…!?」

鬼意山は群れのど真ん中で寝かされていた。
折れた足もちゃんと太い木で固定されていた。
こんなことがあるだろうか?夢の中じゃないか?
あの自己中心的で愚かで弱いゆっくりに助けられた?
何故?オレを助けて何の利益がある?
オレは大量のゆっくりを殺したんだぞ…。
ゆっくりに助けられるなど、鬼意山のプライドが許さなかった。

「馬鹿が…。オレはな…。お前らを殺すためにここまで来たんだ…。
 もし怪我が治ったら…。またここに来て…お前らを殺してやるぞ…。」

挑発だ。いっそのことオレを殺してくれ。
ゆっくりに助けられることが鬼意山にとってはどうしても許せなかった。
すると鬼意山の前に巨大なゆっくり…そう、ドスが現れた。

「人間さん…。しゃべると悪化するよ…。安静にしてね…。」
「…!?何言ってるんだ…?オレの言ったことも理解できないのか…?
 オレはな…今までに何匹も…。」
「知ってるよ。ゆっくりできない臭いがするもの。
 でもドスは人間さんを殺すつもりも見捨てるつもりもないよ。
 ゆっくり理解してね。」
「…何でだ…?何でオレなんか助けるんだ…?
 これまでお前たちゆっくりを散々殺したんだぞ…!?」

しかし群れのゆっくりは誰も鬼意山に手を出さなかった。
ドスもただ鬼意山を心配そうに見つめるだけだ。

「ドスはね…。ゆっくりをゆっくりさせるのが使命だよ…。
 確かに人間さんは沢山ゆっくりをゆっくりできなくしてたみたいだけど、
 ドスは他の皆にもゆっくりして欲しいんだよ…。鳥さんも人間さんも…。
 怪我をした人間さんを放ってはおけなかったんだよ。」
「…それで…何か要求があるんじゃないか…?あまあまが欲しいとかよ…。」
「そうだね…。しいて言うなら…。」

ほら見ろ。やっぱり所詮はゆっくりだ。この偽善者め。
結局オレを助けたのは物目当てだったのだ。
少しでも期待したオレが馬鹿だった。
だいたいたかが饅頭が…。

「人間さん…。人間さんにはゆっくりも必死に生きてるってことを知って欲しいよ…。」
「……!!?」
「ゆっくりだってね、生きてるんだよ。
 家族で仲良く過ごすよ。友達と遊ぶよ。
 食べたり飲んだりすると幸せな気持ちになるよ。
 ケンカだってするし、お歌だって歌うよ。
 子育てだって、子供の自慢だってするよ。
 中には悪い子もいるよ。無鉄砲な子もいるよ。
 人間さんたちに迷惑をかけちゃう悪いゆっくりもいるよ。
 でも、優しいゆっくりもいるんだよ。
 空を見ると心がすっきりするよ。
 仲間が死んだらすごく悲しいよ。
 子供が独り立ちした時、親は寂しいよ。
 ……ゆっくりも人間さんたちと変わらないんだよ。
 それでも殺したりひどいことしたいならそれは仕方ないよ…。
 だって、人間さんだってゆっくりしたいものね…。」

鬼意山は息を詰まらせた…。そして何故か涙が流れた。
何だこれは…。自分は今まで何をやっていたのだろうか…。
ゆっくりなど虫以下の命だと思っていた。
殺そうが何しようが許されると本気で思っていた。
だがこの瞬間、鬼意山の常識は砕け散った…。

「う…うう…。」
「ゆ?どうしてないてるの!?」
「わからないよー!おなかがすいたのー!?」
「なきがおなんてとかいはじゃないわ!げんきだして!!」
「むきゅう…。けががいたいの?」
「おお、涙涙。葉っぱで良ければ涙を拭いてください。」



…思えば鬼意山は昔から1人だった。
虐待を始める前からずっと…。
学校ではいつも苛められていた。
友達もいなかった。
親はケンカばかりで、相談できる相手もいなかった。
いつしか鬼意山の心は歪み、善悪の判断が鈍くなった。
そして大人になり、今の町に引っ越してきた。
新しい職場でも1人だった。
引っ越してきて初めてゆっくりを見た。
鬼意山はそれから毎日ゆっくりに怒りをぶつけた。
自分の過去を振りかざし、何もしていないゆっくりを虐待した。
その新しい趣味により、ますます1人になった。
悪いのは自分じゃない。周りが悪い…。
そんな幼稚な考えを正当化し、今まで生きてきたのだ。

そんな自分に手を差し伸べてくれたのが、よりにもよってゆっくりとは…。
今までの人生を否定された気持ちになり、泣かずにはいられなかったのだ。

「………あ……と……。」
「ゆ?」
「あり…がとう…。」
「ゆゆ!どういたしまして!」




…応急処置を済ませた後、鬼意山はきめえ丸たちによって町まで運ばれた。
町の人たちは皆で鬼意山を心配し、生還を喜んでいた。

「何だ…。結局オレの思い込みかよ…。」

町の人たちは鬼意山を嫌ってはいなかった。
恐れてはいたが、どうにかして普通の人間になって欲しいと気にかけていた。
辛い過去から、鬼意山は心を閉ざしていた。
周りの全ての人間から嫌われ、疎外されていると思い込み、
自分から人を遠ざけていただけだったのだ。

「ゆっくりに気付かされた訳だ…。オレの方がよっぽど自己中心的で愚かだったな…。」



重い鎖から解放された『鬼意山』は普通の『お兄さん』になった。
鬼意山だった頃の自分はあの時死んだ。
これからは生まれ変わった気分で第2の人生を歩もう。


そう固く誓ってから数年後、お兄さんは当時していた仕事を止め、
頭を丸め、退職金や預金を使って寺を建て、僧侶になった。
あの時ドスがしてくれたことを、今度は自分がしてやる番だ。
各地へ出向きゆっくりの命の大切さを説いた。
自分の罪を隠さず、全てを包み隠さず…。
そして、いつしかお兄さんから僧侶となった…。




                      • そして現在・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「…という訳です。」
「へぇ~…。じゃあこれからはゆっくりに乱暴しないようにする!」
「ふふ…。それがいいです…。私と同じ過ちを犯してはいけませんからね。」


だが世間にはまだまだ虐待を趣味とする者が溢れるほどいる。
そして一般の人もゆっくりを害獣としか思っていないのが実状だ。
しかし僧侶はこれからもゆっくりの命について説き続けるつもりだ。
無論、畑を荒らしたゆっくりを農家の人が駆除しても責めはしない。
僧侶が言いたいのは、悪いことをしていないゆっくりに手を出してはならないということだ。

「でもゆっくりの中にも悪い奴がいるでしょ?そいつらも殺しちゃダメなの?」
「…そこが難しいのです。だから人とゆっくりは分かり合えない…。
 しかし、いくら相手がゲスだからと言って、簡単に殺したり虐待したりすることは良くありません。
 話し合いをして、説得をすれば分かってくれる者も少なからずいるのですから…。」
「ふ~ん…。そう言えば、その恩人のドスは今でも生きているの?」

僧侶は空を見つめ、ゆっくりと呟いた。


「…ドスは…もう生きていません…。密猟者に襲われたらしく…殺されました…。
 ドスの皮や餡子は貴重品らしいですからね…。知った時は延々と泣きました…。」
「そんな…ひどい…!!」
「…でもね、ドスは私の心の中で今でも生きていますよ…。
 ふふ、ちょっとくさい言葉ですけどね…。
 いや、今まで私が手にかけた全てのゆっくりの命を私は背負っているのです。
 彼らの死を無駄にしてはいけませんからね…。」
「…そっか。うん!今日は話してくれてありがとう!またね~!!」

僧侶は手を振って見送った。
外に出て花に水をやっているとふと声が…。

「ゆ!おじさん!あいさつしにきてやったぜ!!」
「おや、元ゲスのまりさじゃないですか。」
「もうむかしのはなしだぜ!かこをひっぱるのはよくないぜ!!」
「…ええ、でも過去の過ちから学べることもありますよ。」
「それもそうだぜ!じゃあまりさはもういくぜ!」


このまりさは『元』ゲスであった。
今では人間から物を盗んだりしないし、ケンカを売ったりもしない。
僧侶が根気よく対話を続け改心させることに成功したのだ。
僧侶はゲスと呼ばれるゆっくりを自分の過去と照らし合わせていた…。

「ゆっくり…。いつか人間と心から共存できる日が来ると私は信じてますよ…。」


都会から少し離れた町に1人の僧侶が暮らしていた。
そこには人間とゆっくりの理想の関係があった。

そして今日も多くのゆっくりが僧侶の元に集う。
どのゆっくりも僧侶の前でとてもゆっくりしていた。
そう、まるでドスの近くにいるかのように…。
                                fin










あまり虐待っぽくない…><まぁ過去に虐待描写あるからOK…?

人は1人では生きてはいけません。
過去の過ちを悔いることができる人は幸せだと思います!





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最終更新:2022年04月14日 23:33