まりさの言っていた「不思議な家」とはペットショップでは無かった。
偽装したゆっくりを一時的に保管しておく倉庫か何かだったのだろう。
恐らくまりさはそこで見張りをさせられていたのだ。
良く考えれば「巣の鍵を閉め忘れた為に外へ脱走された」という出来事などありえない。
巣から出たところで建物そのものに人間が鍵をかけているのは当然であり、外へ逃げる事など到底できない。
ましてや高価な金バッジを扱うのならば警備くらい付くかも知れない。

つまり「逃げた」のでは無く「逃がした」という事だ。
「業者がこの辺りに偽装ゆっくりを投棄した」
あの偽善者のクソジジイが言っていた言葉だ。
建物の扉も巣の入り口も人間の手によって開け放たれて、脱走する事を促されたのだろう。
それをまりさは自分が逃がしてしまったと勘違いした。
そして逃げたれいむをすぐに見つけたと言っていたが、あのまりさ風情にそんな芸当は不可能だろう。
しかし、全ての偽装ゆっくりが外へ放されたのであれば一匹位見つける事くらいはできただろう。
不思議な家に帰れなかったのも、業者が全てのゆっくりが外に出た事を確認した後
引き払ったのならば、それも合点がいく。普通に迷ったという線も大いにありうるが。

それを決定付けているのが、まりさと出会ったときにバッジをつけて居なかった事だ。
野良生活で他のゆっくりに奪われたか、紛失したのかと思っていたが、
業者が全てのゆっくりを投棄する前に世話係として飼っていた正規のバッジ持ちからはバッジを取り上げた。
これが最もしっくりくる答えだ。当然手元に残しておけば証拠品になってしまう偽造金バッジはそのまま投棄しただろう。

「くさいよ!せまいよっ!れいむはおこるとこわいんだよっ!?わかってるの!?くずにん・・・」

喚き散らしていたれいむだったが、持ち上げられた瓶越しに男の顔を見ると即座に沈黙した。
目と歯をむき出した形相のまま暫し固まるれいむ。
そしてフルフルと顔を振ると、額に汗を滲ませながらも満面の笑みを浮かべて、
もみあげをピコピコと振りながら伸ばした体をくねくねと揺らし始めた。

「ゆ、ゆゆ~ん♪お、お兄さん♪れいむがくねくねするから怒らな」

男は夜の自家発電の動きでコーヒーの瓶を高速で上下運動させた。
れいむが笑顔のまま瓶の天井に頭を「ゴチン!」とぶつけて驚きの表情を浮かべる。

「ゆっ!ゆっ!?ゆ゛!ゆ゛!ゆ゛っ!ゆ゛ぅ!ゆべっ!べひっ!ぶひっ!んべっ!ばぼっ!ほだらっ!」

瓶の中で天井と底に延々と体を叩きつけられるれいむ。
男の動きは止まる気配を全く見せない。
終わる事無く繰り返される上下運動。しかもその速度は更に少しずつ上昇していた。
中で叫び声をあげていたれいむだったが、もはやそんな余裕すらなくあまりの高速運動で

「天井に頭をぶつけて拉げながら目を飛び出してる」れいむと
「空中で舌をだらりと垂れ流して苦悶の表情を浮かべる」れいむと
「地面に叩きつけられて全身が押しつぶされて餡子を吐き出している」
三匹のれいむが瓶の中に詰まっているように見える程である。

「ゆ゛っゆ゛わ゛っ・・・!ゆわぁぁぁん!!」

どうする事もできないで立ち尽くしていたまりさが、
ついに赤ゆっくりの様に大口を開けて泣き出した。

正気の沙汰とは思えない男の奇行は終わる気配を見せない。
瓶を高速で振り続けるという行動を、かれこれ十数分も延々と行っている。
男の目は血走り、鼻息は部屋全体に響き渡り、右手は真っ赤に腫れあがり始めた。

「やべで!がいぬじざん!やべでええええ!ゆるじであげでぇぇぇ!!」

ようやく意を決してまりさが男のズボンの裾をくわえてひっぱりながら叫んだ。

「飼い主さんの大事な可愛い金バッジのれいむがしんじゃうよぉぉぉ!」

その声を聞いて男の動きがピタリと止まる。

「え゛っ・・・えじゅっ!・・・ぴぃっ!ぴきゅうっ・・・!」

長時間全身を強打し続けたれいむは、まともな言葉を喋ることができず
小動物のような弱々しい呻き声をあげて瓶の底で痙攣している。
産まれてはじめて受けた壮絶な痛みに我を忘れて瓶の底でありもしない出口を探して
淵をなぞるようにズルズルと体を引きずりながら、一心不乱にグルグルと回っている。
れいむのそんな様子を横目でチラリと見ると男はもう一度瓶を大きく振った。

「い゛びゃいっ!!!」

バチン!と音がして再び天井に頭をぶつけたれいむの動きがピタリと止まって、
うつ伏せの体勢のままピクリとも動かなくなった。
男は瓶を握ったまま洗面所へ向かい、水が入った浴槽にそれを投げ捨てた。
瓶は浴槽に沈み、底に当たってコトリと男を立てる。

「ゆ゛っ!おちびちゃんっ!おちびちゃんっ!」

浴槽の淵へ飛び乗って涙を垂れ流しながら、水に沈んだ瓶の中のれいむに必死に声をかけるまりさ。
男はそんな様子を一瞥すると、興味無さ気に振り返ってリビングへ戻って行った。
まりさは、立ち去る男に助けを求める事ができずに、
口をパクパクさせながら遠ざかるその後姿を見つめる事しかできない。
その視線は諦めの表情と共に再び浴槽の中のれいむに戻る。
れいむの体は全身を強打したことにより、徐々に痛々しくボコボコに腫れあがり始めた。

「ゆ゛っ!・・・う゛ぎっ!ん゛びひっ!ごご・・・どごぉ・・・!」

徐々に激しさを増す全身を駆け巡る痺れるような激痛にたまらず目を覚ますれいむ。
辺りを見回すとそこは水の底、しかも蓋の隙間から徐々に水が入り込んでいた。

「ゆぴぃ!ちゅめたいっ!」

れいむの足元に水がかかると、涙を撒き散らしながら瓶の中をコロコロと転がる。
水の流入は収まらず、すぐにれいむの口の辺りまで水は入り込みつつあった。
そんな浴槽の中のれいむの様子を、何時もの情け無い顔で震えながら凝視しているまりさ。

野生や野良のゆっくりならば、その無知ゆえに即座に後を追って水の中へ飛び込んだだろう
しかし、無駄に知識をつけてしまったまりさにはどうしてもその危険を冒すことができない。
ゆっくりの体は水に弱く、水は飲むだけに留めるべきであり、
もし全身を水に浸せば数十秒で皮は破れてしまい中身の餡子が水に溶け出して死に至る。

息を荒らげて飛び込もうと体を動かすが、どうしても体がいう事を聞かない。
虫は死ぬその瞬間まで死を恐れないが、人は生まれた瞬間から死を恐れてしまう。
人はその恐れから様々な対策を練るが、中途半端に賢いゆっくりはただ死の恐怖に身を悶えさせる時間が増えただけだった。

「まってねっ!今助けるからねっ!い゛ま゛っ!ゆ゛ぎぎっ!い゛ま゛ぁぁぁ!!」

そう連呼しながらも一向に飛び込む気配をみせないまりさ。
自分のあまりの不甲斐なさに涙がポロポロと水面へこぼれ落ちた。
同属を殺され、番を殺されてもその犯人に立ち向かう事無く、ゆっくりと生き延びる事を選んでしまったまりさ。
そんなゆっくりの風上にも置けない自分が、リスクを犯して水の中へ飛び込み、
餡子の繋がっていない子ゆっくりを助ける事などできる訳もない。そんな勇気があればとっくに出してあの日に死んでいただろう。
ゆらゆらと揺れる水面の底で形相を浮かべているれいむをジッと見つめるとまりさは力なく呟いた。

「ごっ・・・ごべんね・・・おちびちゃ・・・」
「だしゅけぇぇぇ!おぎゃーじゃああん!だしゅげでぇぇぇ!!」
「ゆ゛う゛っ!!」

まりさは中枢餡に電流が走るような衝撃を感じた。
その衝撃はまるでまりさの動力であるかの様に体の中を駆け巡って咆哮をあげた。

気がつくとまりさは水中に居た。

「お母さん」その言葉に咄嗟にまりさの体は動いた。いや、動いてしまった。
必死に体を動かして水を掻き分け、れいむの元へ向かう。
しかし体をどんなにうねうねと動かしても体は浮力によって水面へと戻ってしまう。
プリンプリンと何度も体を揺さぶって浴槽の底にある瓶へ一心不乱に向かおうとするまりさ。
水中に居る時間は既に十秒を経過していた。そろそろ戻らなければ体は徐々に水を吸い込んで崩壊してしまうだろう。

「ゆ゛む゛・・・っ!ゆぎっ!ん゛ぎぎぎっ!」

しかしまりさは潜ることを止めなかった。
餡子の繋がっていないれいむが自分の事をお母さんと呼んでくれたのだ。
人間の視線に怯えてしっかりとゆっくりとした子に育てる事ができなかった自分をお母さんと呼んでくれたのだ。
もう同属のゆっくりできない顔を見ることだけは嫌だった。たとえ自分がゆっくりできなくなってもだ。

「ゆ゛っ!・・・ゆ゛ぅ!!」

その時、ようやく徐々にまりさの体が沈み始めた。
まりさはゆっくりできた自分の願いが叶ったと喜びの声をあげた。
しかし、それはそんなありがたい話ではなかった。
たっぷりと水を吸い込んだ体が、水の底へ引きずりこまれてるだけだった。
その事に気づかないまりさ。水の底の瓶を口にくわえると水面を目指して体を伸ばしたり縮めたりを繰り返す。

「ゆ゛ぶぶぶっ!ふっぐり!!ふぐりぃぃぃ!!」

しかし水を吸った皮は必死に体を動かしているのにも関わらず、僅かに上へ進むとすぐに水底へ戻ってしまう。
今度はどんなに頑張っても体が浮ばない、まりさの顔に焦りの表情が浮ぶ。

「ん゛ぎぃ!ぼぼじべ!!ぼぼじべぇぇぇぇ!!」
「おがぁぁしゃん・・・おぎゃあ・・・じゃ・・・」

まりさの口にくわえられた瓶の中は既に水で満たされつつあった。
僅かに残ったスペースに口だけを突き出してゆ゛っ!ゆ゛っ!と痙攣をするれいむ。
それを暫く見つめていたまりさは口で器用に蓋をあけると、水中へ投げ出されたれいむを口に含んで浴槽の外へ噴出した。
スポーン!水中から勢い良く外へ投げ出されてタイルを転がるれいむ。

「ゆべっ!・・・ゆっ?ゆっ?」

れいむは何が起こったのかわからずキョロキョロと辺りを見回す。
そして自分のゆっくりとできない危機が去った事を理解すると
満面の笑みを浮かべてその場をコロコロと嬉しそうに転がった。

「ゆわーい♪ゆっくりできるにぇ!」

外から聞こえるれいむのゆっくりとした声にまりさは力なく微笑んだ。
もはやまりさ自身が水中から脱出する手立ては無かった。
完全に水を吸った体はブヨブヨにふやけてしまい、無理に体を動かせば皮が破れる段階にまで達してしまっていた。

窒息死をする事は無かったが、息を吸えない事で「苦しい」と認識して絶望的にゆっくりできない気分になれば命を落とすだろう。
いや、その前に体が崩壊して餡子が漏れ出して死に至る方が先であろう。
しかしそんな事はもうどうでも良かった。まりさは仲間の命を救えた事にこの上ないゆっくりを感じていた。
キラキラと輝く頭上の水面を見つめていたが、ゆっくりと目を閉じて何時に無く安らいだ表情を浮かべるまりさ。

それがまりさの命を繋いだ。

「ゆっ!?」

気がつくと浴槽の水かさはまりさが上を向いて少し体を伸ばせば、水面から出る程にまでに減っていた。
僅かな水の流れを感じて視線を移すと、浴槽のゴム栓が外れて排水溝へ急激に水が流れ込んでいた。
そのゴム栓の鎖の先には歯を食いしばって鎖を引っ張るれいむの姿があった。

れいむはまりさと目があうと「ゆっ!」と眉毛をキリッ!とさせて誇らしげに微笑んだ。
れいむが排水溝から栓を抜いて、水が流れきるまでに相当な時間がかかったが、
まりさがゆっくりしていた為に窒息死には至らなかったのだ。
また不用意に体を動かさないで皮の崩壊を遅らせた事も幸いした。

「おちびちゃんはとっても賢いね」

まりさの顔が思わず綻んだ。
れいむはもみあげで金バッジを指すと嬉しそうに身を揺らしてそれに答えた。

「ゆ゛っ!?」

しかしその瞬間、「ぽちゃ!」と小さな水柱を立ててれいむが再び水に落ちた。
れいむが立っていた場所には人間の手。男がれいむを突き落としたのだ。

「ゆうっ!やめてねっ!れいむはまりさを助けてくれたんだよっ!ゆっくりやめてねっ!」
「流れてるぞ」
「ゆっ?・・・・う゛わ゛あああああああ!?」

れいむは水流に流されて排水溝へ向かいつつあった。
それを必死の形相でまりさが水を掻き分けながら後を追う。

ちゅるん!

小気味のいい音と共に、れいむが排水溝に詰まって水の流れは止まった。
排水溝に顔面を吸い込まれてれいむは身動き一つする事ができない。
何とか排水溝へ吸い込まれた顔面を引き抜こうと体を捩るが
顔の部分の皮が伸びるだけで状況は一向に良い方へと向かうことは無かった。
まりさは必死に舌でれいむを引っ張り出そうとするがれいむはピクリともしない。

「おちびちゃん!ゆっくりだよぉぉぉ!ゆっぐりじでええええ!!」
「ゆっぐ!!むりべっ!んぎぎぎぎっ!ばぶべっ!ばぶべちぇ・・・ぴぎゅる!」

思わず声をあげてしまったれいむが水を吸い込んでむせる。
水を思いっきり飲んでしまって咳き込むがそこは水の中。更にむせる事になり。
凄まじい勢いで身を悶えさせて苦悶の表情を浮かべた。

「ぎゃぶっ!ぶびっ!びびひっ!ばぼっ!」
「おぢびぢゃああああん!!まっででねっ!!いばだずげであげるがらねっ!!」

まりさが浴槽の底に口付けするような体勢をとると、ジュルルル!と水を飲み始めた。
れいむが栓を抜いて殆ど水は流れ出したとはいえまだ数リットルは残っているであろう。
それを一心不乱に体に流し込むまりさ。
洗面所にはまりさの悲痛な「ごーく!ごーく!」という声だけが響いた。



「けふっ!けっふ!ゆっぐぢぃぃ!おぎゃあじゃん!ゆっぐぢぃぃ!」

数分後、何とか水を全部飲み干したまりさ。
ようやく排水溝から脱出できたれいむがまりさの元へ「ぺたんぺたん」と力なく跳ねる。

「ん゛っ・・・ゆ゛ぐい・・・っ?」

そこには目をカッと見開いたまま元の大きさの数倍に膨れ上がったまりさの姿があった。
目はうつろで荒い呼吸を繰り返して天井を凝視している。
その体を少しでも押したら噴水の様に口から水が噴出しそうだった。

男は無言で浴槽の鎖を手に取ると再び栓をした。
そしてまりさの最近やっと元に戻ったおさげを握り締めて持ち上げると浴槽の淵に座らせた。

「やべで!・・・ざばらないで!・・・」

体は殆ど動かさずに小刻みに震えながら男に懇願するまりさ。
男はそれを聞き流してまりさの腹を鷲づかみにする。

「ん゛む゛っ!や゛っ!や゛べでぇぇぇぇ・・・・」
「何が触るなだ、水を台無しにしやがって」
「んぎっ!・・・ご、ごべんなざい・・・・・・」

男はまりさのお腹を時折手でギュッ!と圧迫した。
その度にまりさは青白い顔を歪めて必死にこみ上げる吐き気と戦っている。
男は握ったまりさのおさげを引っ張って自分の顔に引き寄せる。
おさげのある方の顔だけを「ビローン!」と伸ばして半笑いの様な表情になるまりさ。
そんなまりさに男は静かな声で耳打ちした。

「突然だが、もうお前らは必要なくなった」
「どっ・・・どぼじで・・・っ?」
「あのクソれいむのバッジが偽者だったからだ」
「ゆぎっ・・・ぞ、ぞんな・・・んん゛ぎっ・・・ぎぎっ」

男は摘んだまりさの腹の皮を捻り始めた。
思わず飲み込んだ水が逆流をはじめてそれを歯を食いしばって抑えるまりさ。
もし水を戻してしまえば、その水は再び浴槽に溢れ返ってれいむを再び溺れさせてしまうだろう。
ようやく男の手がまりさから離れて、まりさは大きく息を吐いた。

「ん゛っ・・・ゆっ・・・ゆふぅ!ゆふぅぅ!」
「家で潰すと掃除が大変だからお前らは捨てる事にしたからな、外へ出してやる」
「・・・わがりまじだ。ばでぃざは届かないがら、おぢびじゃんをひろってあげてぐだざい。すぐにででいぎばず」

あっさりとまりさはそれを承諾した。
まりさはれいむに教育を施す一方で、こっそりと自分自身が外で生き抜くための知識を蓄えていたからだ。
潤沢な食料に囲まれたこのプレイスを捨てるのは当然惜しかったが、
男の一挙一動に震えて暮らすのはもう精神的に限界に達していた。

しかし次の瞬間、男の握りこぶしがズムッ!とまりさのお腹に突き刺ささる。
目を丸くして驚きの表情を浮かべたまりさだったが、次の瞬間その頬が限界まで膨らんだ。

「びゅる゛る゛る゛る゛る゛ぅ!!!・・・びっ!びぎっ!・・・ん゛お゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛おおぉぉぉ!!!」

それと同時にまりさの口から極太レーザーの様に水柱が噴出した。
一気に餡子が混ざって黒く濁った水が浴槽に降り注ぐ

「ゆぴゃっ!だじゅげっ!あまい!めっちゃこれあめぇ!!」
「にげっ!お゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛!!にげでおちびじゃ・・・ん゛ぼろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ぉっ!!」

直下型えれえれに巻き込まれて叫び声をあげるれいむ。
一気に元のサイズに戻ったまりさが咳き込みながられいむに必死に声をかけている。
再びおさげがひっぱられて伸びきったまりさの顔が男の前に引き寄せられる。

「お前はふざけてるのか?無条件で逃がすわけがないだろ?外に出してやって「も」いいって言ってるんだ」
「わがりばじだ!なんでもじばずがらおぢびじゃんをだずげでねっ!ばやぐじでえええぇぇぇ!!」
「へぇ」

男は排水溝のゴム栓を抜いた。
まりさの戻した水は渦巻きを作りながら急速に流れ出して行った。
それを見てまりさは安堵の表情を浮かべた。
しかし、次の瞬間頭上の男の口から信じられない言葉がまりさに突き刺さった。

「殺せ」
「ゆっ?」
「何でもやるって言ったよな?」
「ゆ゛ゆ゛っ?」
「れいむを殺したら外に出してやると言っている」
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!?」

まりさは男を凝視しながらカッと目を見開いて叫び声をあげた。
無茶苦茶だ。この人間は一体何を言っているのだろうか?
れいむを助けたかられいむを殺せという物言いはもうわけがわからない。
たっぷりとベントラーにアイテムを吸収させた上で逃げられる以上に意味がわからない。
そんなものが通る筈がない、そもそも無理やりここへまりさとれいむを連れて来たのはお前ではないか。

「な゛に゛言っでっ!!なになななないっでえええあああああ!?ぞっ!ぞんなごっごごごっ!」

そんな事できるわけがない。
そう言いたかった筈のまりさは壁に思い切り全身を叩きつけられていた。
ズルズルと壁を滑って床に落ちるまりさ。そこに男の足が落ちる。

「ん゛ぎゅっ!」

一日たりともこの人間に対する恐怖を忘れた事はないと思っていたまりさだったが、
いくら銀バッジとは言え、やはりそこはゆっくりだった。長い平穏な暮らしのせいで無意識にそれを忘れてしまっていた。
それを今、まりさは思い出して後悔していた。この人間に意見をするという行為そのものが
ズレている。平和ボケしていると言わざるを得なかった。
平然と仲間を汚水に投げ捨て、番の顔面を吹き飛ばし、産まれて間もない赤ゆっくりをすり潰したのだ。
忘れていた。何故自分はこんな恐ろしい生き物に意見をしたのであろうか。

浴槽の水が全て流れ、うつ伏せで痙攣するれいむの姿が露になった。
その姿を男が確認するとまりさの頭を掴み浴槽へ投げ捨てる。

「ゆびぇっ!ひぐぅ!ゆ゛びぇぇぇん゛!!」

嗚咽しながら「むくり」と体を起こすまりさ。
目の前には酸欠で顔を真っ青にして荒い呼吸をくりかえすれいむ。
ゆっくり出来ない子かと思っていたが、自分を助け、慕ってくれた可愛いれいむが居た。

「やれよ」
「でぎばぜんんんん」
「やらないなら、俺がれいむを殺してその後にお前を殺すだけだぞ」
「ゆ゛っ!!・・・・ゆ゛ううぅぅぅ」
「それじゃ死に損だ。そんな馬鹿げた話は無いだろう?」

ボロボロを涙を流しながらズルズルと少しずつれいむとの間合いを詰めるまりさ。
しかしその動きはれいむまであと数歩のところで完全に止まってしまった。
嗚咽を繰り返して俯き微動だにしないまりさ。
そんなまりさの頭を男が優しく撫でる。

「足で」だが。

「仕方ない、俺が合図を出してやるよ」

男は淡々としかし、冷たい声でまりさに語りかけた。
三回手を叩く。
一回目でれいむのお飾りを剥ぎ取れ。
二回目でれいむの顔面に食いちぎれ。
そして三回目で残ったれいむを飲み込め。

「やらなかったら同じ方法で俺がお前を殺してる。わかったかな」
「いやああああああ!!いやあああああああ!!」

首をブンブン!振り回しながら上空の男に向かって叫ぶまりさ。
そんなまりさを見ようともせずに男は手をパシッ!と鳴らした。

「やべちぇぇぇぇ!おがあちゃん!!やべちぇぇぇぇ!」
「ゆ゛っ・・・!ゆ゛っ・・・!」

まりさを見つめて泣き叫ぶれいむ。
小さな体からどうしてこんなにもでるだろうか?という程の涙を垂れ流して
大きなその瞳でまりさをプルプルと震えながらジッと見つめている。
まりさは前へ進もうと体を動かしているが金縛りにあったように前に進めない。
次の瞬間、男の手が上から伸びてきてまりさの帽子を奪った。

「ゆ゛っ!ばでぃざのおぼうじっ!」

間髪居れずに男はまりさの帽子をビリビリに破くと紙ふぶきのように撒き散らした。
そしてそのまま二回目の合図を行うべく再び手を目の前にかざした。
ピンと張り詰めた空気。矢次ぎ早に行われるゆっくりできない男の行為にまりさは錯乱状態に陥る。

パシッ!

乾いた音が当たりに響く、天を仰いで白目を向いて痙攣するまりさ。
男は無言で足を振り上げる。足の位置で上からまりさの顔面だけ踏み抜こうとしているのがわかる。

「ゆ゛っ!!!!」

まりさの餡子脳にかつての仲間と番であるまりさの顔がよぎった。
青白い顔でこちらに何かを必死に訴えかけながら汚水に沈んだまりさ。
何もわからないまま顔面を吹き飛ばされて、下あごだけで笑ってるまりさ。
期待と不安に胸を膨らませて番のお腹の中でゆっくりと生まれるのを待っていたであろう蠢く禿饅頭の形相。

その時、無意識に引かれた自分と彼女らとの線。
嫌だ。ああはなりたくない。あんな風にだけは死にたくない。
ここにきて、ようやく燻っていたまりさの生存本能に火がついた。
仲間を見捨て、番まで見捨てたのだ。餡子の繋がっていない生意気なゴミクズを見捨てるなど造作も無い。

「お゛っ・・・お゛・・・がぁ・・・ぢゃ・・・」

次の瞬間、まりさはれいむの顔面に喰らいついて引きちぎっていた。
皮が破れ、むき出しになった歯と目玉を振るわせながられいむが力なく呟いた。
コロリと転がって浴槽の底を転がるれいむの片目。
まりさはそんなれいむに圧し掛かるとお飾りにも喰らいついてビリビリに裂くとはき捨てた。
その拍子にコロコロと浴槽の底を転がる光り輝く金色のバッジ。
まりさが毎日ぺろぺろしてあげて綺麗に拭いてピカピカだったバッジが薄汚れながら浴槽の底を転がった。

「ん゛ぎっ!」

次の瞬間、まりさにの頬に焼け付くような感触が走った。
れいむが懇親の力を込めてまりさの頬にギリギリと噛み付いていた。

「じねっ!・・・じねぇぇぇ!ばばあ!ゆっぐりじねっ!じねぇぇぇ!!」

残った片方の目を真っ赤に血走らせて凄まじい形相でまりさに喰らい付くれいむ。
しかしまりさはそんなれいむに一切の恐怖を感じなかった。
れいむの赤く血走った目に映った自分の姿がそれを遥かに凌駕した鬼の形相を浮かべていたからだった。

パァン!

三度目の音が洗面所に鳴り響く。
次は全く躊躇しなかった。顔を振り回してれいむを振りほどくと
うつ伏せで耳を劈くような奇声をあげながらもみあげを
パタタタタタと狂ったように地面に叩きつけて痙攣するれいむを尻から一気に丸呑みにした。

「むーじゃ!むーじゃ!・・・じっ!・・・じあばっ!・・・じっ!ゆ゛ぐぐぐっ!」

舌から伝わってくるれいむの餡子の感触はむせ返るような甘味を持っていた。
ゆっくりにしては贅沢であった人間から与えられた食事の中でもこれほどの甘味を持った食べ物は無かった。
思わず口に出してはならない言葉が漏れそうになるが、歯を食いしばって「その言葉」を押さえ込むまりさ。

上から聞こえる乾いた音。
男がにっこりと微笑みながら拍手をしていた。

(もう同属のゆっくりできない顔を見ることだけは嫌だった。たとえ自分がゆっくりできなくなっても)

確固たる意志の元にそう誓ったまりさの思いは僅か数分で粉々に砕け散った。
まりさは何時もの情け無い顔で男の顔を見ると力なく微笑んだ。微笑んでしまった。















テンションあがってきたので(収まらなかったので)つづく


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  • 副工場長れいむの末路
  • ゲスの見た夢
  • 元野良れいむの里帰り
  • ゆっくりできない四畳半
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最終更新:2022年04月16日 22:23