おつかいれいむ
by ”ゆ虐の友”従業員
「ゆゆ!くーださーい!!」
振り返って足元を見ると、ゆっくりが飛び跳ねていた。
まだ小さい、どちらかといえば子供のゆっくりだろう。
「くーださーい!!」
「……?」
よく見れば、その口には一枚の銭がくわえられている。
おつかいを頼まれた飼われゆっくりか、
そうでなければ小銭を拾って売買のままごとをしているのだろう。
俺は困り果てた。
「あのね……。ここは店じゃないし、俺は大工。通りすがりの大工さんなんだよ?わかる?」
「くーだーさいー!!ゆーっーくーりーくーだーさーいー!!」
「ちょ、うるせえ!聞こえてるっての!
”元気が足りないから売れない”とかそういうことじゃねえからこれ!!」
”ください”を魔法の言葉か何かと勘違いしているのか、必死なほどに連呼する。
というか、口に銭くわえてるのに何処から大声出してるんだお前……?
辟易した俺は、懐にたまたま入っていた釘を十本くれてやり、小銭を受け取った。
受け取る銭に対して、そのぐらいが適当な価値の品だと思ったのだ。
「ゆゆーん!ありがとうおにーさん!ゆっくりしていってね!!」
「ああ、ゆっくりしていくよ……」
ゆっくりは飛び跳ね飛び跳ね去っていく。
* * * *
ゆっくりれいむは釘を十本くわえて得意満面に跳ねていく。
「ゆっ!ゆゆっ!ちゃんとおかいものできたよ!!」
お前がそう思うんならそうなんだろう。お前の中ではな。
しばらく跳ねたところで、れいむは違和感を覚えた。
「……ゆ?ちがうよ!れいむはおいしいおかしをおつかいするはずだったんだよ!
こんなゆっくりできない、とんがりのじゃないよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
れいむは必死に跳ねた。
さっきのおにいさんのところへ行って、今度こそおいしいごはんを貰うつもりでいる。
一生懸命に跳ねて、幸運にも先ほどと同じ人間を見つけることが出来た。
「ゆゆ!みつけたよ!!
おにーざーん!!ゆっぐりおがねがえじてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「おいィ!?何いきなり”俺がゆっくりから金を奪った”的な事を往来で叫んでるわけ!!??」
「おにーざん!こんなゆっくりできないのじゃなくて、おかしをちょうだいね!!」
れいむは怒りにまかせてまくし立てる。
怒りのために、相手の表情がしだいに険しくなるのに気づかない。
「ゆっくりできないおにいさんは、おかねをかえしてゆっくりしんでね!!」
そのあまりにも一方的な物言いに、ついに大工の男の堪忍袋の尾が切れた。
「あのなあ……いい加減にしろよお前……」
大工はれいむを顔の位置まで手で持ち上げると怒鳴りつけた。
「俺は!お前の餌なんか持ってない!仮に持っててもやらないね!!
それにお金を返してもあげないね!!
お互いに合意して交換したものを、何でそんな一方的に言われて返してやらにゃいかんのだ!!
お前の唾液でべとべとに汚れた釘を使えってのか!?
人間をなめるんじゃないぞこの饅頭!!!」
その言葉をわずかにでも理解したのか、それとも単におびえたのか。
れいむは目を回してしまった。
「ゆゆゆゆゆゆゆゆ!!!!」
「しまった、やりすぎた……」
大工は親切にも、口からはみ出た餡子を体内に押し込んでやった。しばらくするとれいむは蘇生した。
「ゆ!ゆっくりしていってね!」
「おお、生きてたか」
大工は言った。
「つまり、さっき言ったとおりのわけで、俺はお前にお金を返してはやらない。
そのかわり、いいことを教えてあげよう」
「いいこと?ゆっくりできること?」
「そうさな……お前がうまくやればな」
「れいむうまくできるよ!!ゆっくりおしえてね!!」
「それはだな……」
「ゆゆ!いいこときいたよ!!」
大工が教えたのは”釘を何かに欲しがるゆっくりに釘をやり、その代わりになるものを
そのゆっくりから貰う”という、原始的な取引の方法だった。
れいむは後生大事に釘をくわえて跳ねていく。
「れいむ?なにしてるんだぜ?」
原っぱまで来たところで、知り合いのゆっくりまりさに出会う。
「ゆ!ちょうどいいところにゆっくりしてるよ!?
まりさ、このとんがりいらない?」
「れいむはなにをいってるんだぜ……?」
「すっごくかちのあるものなんだよ!このかがやきがわからないの?」
「……!!
そういわれてみれば、ぴかぴかしてきれいだぜ!!れいむ!それをよこすんだぜ?」
「ただではあげられないよ!かわりになにかをちょうだいね!!」
「ぜっ!?」
まりさはその言葉にたじろいだ。
いつも勝手にものを持っていく生活のゆっくりだ。かわりのものを要求されるなんて、聞いたこともなかった。
「こ、これならいいんだぜ……?」
まりさは口の中から、食べ残しの虫をぺっと吐き出した。
「まりさはたくさんたべたから、これはもういいんだぜ!これをれいむにあげるんだぜ!」
れいむは虫を見定める。
「………だめだよ!こんなちょっとじゃ、このとってもきれいなとんがりはあげられないよ!
おとといゆっくりしていってね!!」
「なんでだぜぇぇぇぇ!!??」
押し問答を繰り広げる二匹。
そこへありすが通りかかった。
「そのとんがりはくぎね!ありすにちょうだい?」
先ほどと同じやりとりの後、ありすが持ち出したのはまりさと同程度の食べ残しだった。
「へっ!ありす、そんなもんじゃくぎはもらえないんだぜ!!」
しかし、ありすはふんぞり返っている。
「あまいわね!よくみるのよ!
このむしさんは、ありすのとかいはおくちでちゃーんとゆっくりしていた、とってもいきのいいむしさんなのよ!
そんなそまつなのといっしょにしないでね!」
れいむはよく検分する。たしかに、まりさのものより活きがいいように見える。
「ゆ、それならいいよ!
だけどちょっとしかないから、ぜんぶはあげられないよ!ふたつでいいよね!」
「だとうなとりひきね」
「なんだかおもしろくないんだぜぇぇぇぇぇ!!??」
「まりさ、まだいたの?」
「これだからいなかものはいやね」
たしかにありすの言うとおり、とっても美味しい虫だ。
「むーしゃ、むーしゃ……しあわしぇぇぇぇぇ……!!
のこりのくぎでおつかいして、もっとゆっくりするよ!!」
八本になった釘をくわえて、れいむは次なる取引相手を求めて跳ねていった。
* * * *
「れいむ……!!」
夕暮れまでかかって、飼い主はやっとのことでれいむを発見した。
「ゆゆ!おにいさん!」
「れいむ、心配したんだぞ」
「すごいでしょ!れいむこんなにすてきなおつかいできたんだよ!さすがはゆっくりしたれいむだね!」
れいむが自慢げに口の中から取り出したのは、
- 石ころ(転がして遊ぶとゆっくりできる)
- ほおずき(食べられないけどとってもゆっくりしている)
- 布切れ(れいむのかみかざりほどじゃないけどかなりゆっくりしている)
以上三点。
「………」
「なんとこのほかに!ありすからむしさんももらったんだよ!
これもひとえにれいむがかわいいからだね!ゆっへん!」
お兄さんはれいむを叱った。
「れいむ……教えたとおり、お菓子屋さんの前で、ください!ってちゃんと言ったの?」
「ゆゆ!ばかにしないでね!れいむちゃんとやったよ!!」
「じゃあお金は?
あのお金で、れいむの大好きなお菓子が二つ、買えたはずなんだよ?」
そう言われて、れいむは自分が今自慢げに取り出した品々をあらためて見た。
「……ゆ?」
それは、手に入れたときにはとてもゆっくりして見えたのだが、
れいむの大好きなお菓子とは比べものにならなかった。
よく見れば、石ころなどそこらじゅうに転がっているではないか。
「ゆ…?ゆ…?どうしてこんなことになっちゃったの?
このごみくずはなんなの?しぬの?
おかしたべたい!おにーさん、かわいいれいむにおかしかってね!」
「お金を粗末にするゆっくりにはあげません!!その変なので勝手にゆっくりしてなさい!!」
「おがじ!!!!!おがじだべだいよ!!!!だべだいよ!!!
ごんなのいらない!!ごんなの!ごんなのぉぉぉぉ!!!」
れいむは布切れの上で飛び跳ねる。大事にここまで運んできたぼろ布は、すぐに千切れて跡形も無くなる。
「いしころざん!!ぜんぜんたいしたことないいじごろざんはあっぢいっでね!!」
石ころを弾き飛ばす。石は何処かへ飛んでいき、そこらに転がっているほかの石と区別できなくなった。
「ごんなもの!ごんなもの!!」
ほおずきをむーしゃむーしゃする。
「にがいよぉぉぉぉぉぉ!!!ぜんぜんゆっぐりでぎないよぉぉぉ!!!!」
「まったく、しょうがないんだから……さ、帰るよ」
「ゆっぐ……ゆっぐ……でいぶじょうがなぐないよ……ちゃんとぐだざいじたもん……」
「はいはい、そうですね」
「ぼんどだよ!!ぼんどにぐだざいじだのぉぉぉぉぉ!!!!」
「うっさいよお前。
そうそう、言いつけを破って勝手によそでゆっくりしてた罰で、今晩はご飯抜きだからね」
「ゆぐうぅぅぅんん!!ゆぐうぅぅぅんん!!どぼじでごうなるのぉぉぉぉぉ!!!!???」
泣きべそれいむは飼い主にひきずられて家へと帰った。
おしまい。
= = = =
「これはにんげんがりっぱなゆっくりぷれいすをつくるときにつかうものなのよ!
とかいはのありすのおうちが、またいちだんとりっぱになったわね!」
「そうなのかだぜ?まりさもほしかったんだぜ……」
羨ましそうに見ているまりさの前で、ありすは自分のおうちの床に釘を並べて悦に入る。
「こうやってねそべって、くつろぎのくうかんをえんしゅつ……ゆぎひぃぃぃぃ!!??
つんつんしていたいわぁぁぁぁ!!??こんなのぜんぜんとかいはじゃないわぁぁぁぁ!!??」
「ゆぷぷ!!」
最終更新:2022年04月16日 22:39