書きたかった事
  • 間接的に虐待とか目指してみるよ
  • 虐待というより調教になっているっぽい
  • ドスって実は……
注意点
  • 虐め要素とても少ないです







また村の畑の一つがゆっくりに襲われたと一報が入った。
今回は未遂でゆっくり達を捕まえたらしくこちらには一切被害は出ず無事だったようだ。
どうせ群れに帰しても何度も来るだろうし、来ていたであろうゆっくり達の為、リーダー格のゆっくりまりさ以外はすでに潰されていた。
日も沈む夕方の男が来た頃にはまりさも何人かの村の男達の足下でコロコロと蹴り転がされていた。
仲間を殺されて本人も無様な姿に成り果ててはいたが、男達に断ってこのまりさを貰い受ける事にした。
「あんたも物好きだねぇ。どうせそいつは商売道具にしないんだろ?」
「えぇ、でも貰っていくのはたぶんこいつで最後だと思います」
「何するかしらないけど。まあ頑張ってくれや」
「俺たちゃ畑に被害が出なけりゃいいんだからさ」
「まかせてください。それでは」
別れの挨拶も早々に済まし、泥まみれになったまりさを抱いて帰宅した。

道中、外からの被害は見受けられないが蹴られていたダメージが体内に蓄積されているようでまりさはずっとだまったままだった。
もちろんそのほうが男にとっては好都合だが死なれると面倒なため帰路を急いだ。

まりさを抱えた男はは道路に面した正面から自宅に入っていった。
男の家は店舗の奥に併設した形のもので、店じまい前だったので暖簾を下ろしながら入る。
店の中に入るとすぐにまりさは目ざとく甘い香りを感知したようで男の腕の中で暴れだした。
男の店は和菓子屋で、しかも今川焼きやたい焼きを主要な商品とした商売をしている
この事実にまりさが気が付いたなら少しくらい恐れおののくべきである。
もちろんそんな事情をゆっくり如きが知る由もないし、男の店ではゆっくりの餡子は使わない昔ながらの味を継いでいるのでまりさは和菓子に加工される事はない。

男は用意していた紙袋を手にまりさを床が掘り下げられた自宅の一室に連れ込んだ。
そこはゆっくり専用の部屋に改造されており実に快適そうでとても静かな空間になっている。
何者かによって作られた不細工な巣もまりさには十分すぎる程の大きさだ。
このまりさ一匹だけにはもったいない部屋だがしばらくの間ゆっくりと過ごしてもらうのに、
住処に関してストレスを与えてもしょうがないのでこれでちょうどいい。
男の考えには畑を荒らしたまりさに制裁を与えるところにはない。
少しの好奇心とゆっくりが村の畑を荒らさなくなるようにするためにまりさを捕まえたのだ。

「ここをお前の家にしていい」
「まりさのゆっくりぷれいすなんだぜ!?」
「ちょっと待ってろご飯を用意してやる」
そう言うと抱いていたまりさをそっと床に降ろしてやる男。
降ろすが早いかまりさは跳ねながら部屋中のものを観察して廻った。
するとどうやら段ボール製の巣もたいそう気に入ったようだ。
この状況におかれて、一緒に畑を襲撃した仲間のことなどすでに忘れてしまったようにも見える。
これは新たに別のゆっくりを見つければいいというまりさ種の狡猾さか、
単にひどい餡子脳であるかのどちらか、はたまた両方なのかも知れない。

男が部屋にいるのも無視してまりさは思う存分ゆっくりし始めた。
「ここをまりさのおうちにするんだぜ!!」
巣の中を一通り見回して巣の入り口まで出てきて宣言する。
誰かに聞かすでもないその言葉は虚しく部屋に響くがまりさはとても満足している。
このゆっくりぷれいすは一面壁で囲まれ、男と入ってきた扉が唯一外界と繋がっていることはまりさでもわかる。
ここが気に入らなくなれば次に男が出るときに隙を見て足下を擦り抜けて逃げ出せばいい。
しかし男は自分のためにご飯も用意してくれるようだからそんなことする必要はないだろう。
部屋には巣の他に空の受け皿と温い水入りの水皿、自分と同じ大きさのボール、さらに暖かそうな毛布が無造作に置かれていた。
巣の中には何もなく殺風景だったため、中で広げようとまりさは毛布を無理矢理引っ張る。
引っ張られていく毛布が水皿をひっくり返し部屋の床が水浸しになるのもお構いなしだ。

四苦八苦しながら毛布を広げ終えた頃に男はまりさに尋ねた。
「おいまりさ、床に水を撒いてどうするつもりだ」
「ゆっ!! まりさはしらないんだぜ。かってにみずたまりができてたんだぜ」
自分の非を認めないまりさを見つめる男の目には普通ならあるはずの怒りや悲しみといった感情は無い。
「おい、じじい。さっさとごはんをよこすんだぜ」
「まあいい。ほらご飯だ、残さず喰えよ」
まりさの側にあった受け皿に男は自家製たい焼きを三個放り込んだ。
作りたてのようでその皮からは香ばしい匂いと暖かそうな湯気が立ち上る。
その食べ物の様子にまりさは舌を器用に使って一目散に食らいついた。
この大きさまで育てば普通のたい焼きくらいなら丸々口の中に収まる。
縦に大きく咀嚼しながら初めて食べる人間の菓子の味に涙を流す。
「うっめ、めっちゃうっめ」
ガツガツと食べなければいけない細かい餌と比べると、はるかに汚れが飛び散らないため掃除の必要はなさそうだ。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ〜♪」
そう言うとまりさはあっという間に全てのたい焼きをその体に納めた。
量からすれば少し物足りないような気もするがとてつもない甘さの前には気に留めるような事でもないといったところだろう。
まりさはパリパリとフワフワが混じった食感の熱々の皮の中には、
野生では味わえない冷たくて濃くてさっぱりとした甘いものがぎっしり詰まった不思議な食べ物の虜になってしまった。
「これから朝昼晩三回三匹ずつそいつ持ってきてやるからな」男はそう言い部屋を後にした。
「ゆっくりりかいしたよ。あさになったらゆっくりしないでもってくるんだぜ!!」
ここは天国だ。まりさがそう理解するのも早かった。
捕食種に追われて逃げ回った、森の中でご飯集めに明け暮れていたあの頃と比べれば幸せしかない。
安心して寝られる巣もある。とても美味しいご飯をもってくる人間もいる。
あえて言うなら他のゆっくりがいないが、寂しいと思うほど子供でもないまりさには気にするほどでもない些細なことだ。

男の家に迎え入れられたその夜、まりさは新たな巣の中で眠りについた。
いつも感じていた他のゆっくり達の暖かさがどこか懐かしい記憶と共に湧き上がってくる、そんな気がした。

「ようやく眠ったか」
男はまりさのいる隣の部屋でまりさの観察日誌をつけていた。
男の居る部屋の下部とまりさの居る部屋の上部は窓で繋がっている。
まりさは男が部屋を出てからずっと監視されていたことに全く気が付いてなかった。
これはまりさ種だから、という男の経験則からきている。
あの帽子ではさぞかし上方に注意が向かないのだろう。
むしろそのおかげで下ばかり見る行動をし、果ては相手を見下ろす態度になるのだろうとそこまで推測していた。
「一日目、晩飯のみ。体長およそ一尺。特に変化はなし。環境には適応している様子。
体内の存在に気が付くまで注意する必要もないだろうっと」



「ゆぅ、じじいはまだこないかなー」
男の家に来てから数日経った頃、まりさは退屈と戦うことになった。
たしかに森で暮らしていた時とは比較できないほどゆっくりできているが、如何せん暇なのだ。
ご飯を持ってくる人間も手短に挨拶をして、ご飯を受け皿に置きすぐに出て行く。
話し相手もいないこの空間では寝たり、物思いにふけるしかすることがなかった。

そんなまりさはここに来てからの体の変化には気が付かされているようなものだ。
野生のときよりも栄養価の高いおいしい食事が毎食出てくるのだからそれも当然だ。
跳ねると今までよりも高く遠くに飛べる事にとても喜びを感じた。
また水皿の水面を見れば、自分の顔を見る事が出来る。
まりさの皮の張りや感触も見て分かるほど良くなっている。
しかし、どれもこれも自慢する相手がいないのでは意味はないのだ。
ゆゆーんと威張ってみても虚しい事はすでに経験し終えた。
まりさの満たされない自尊感情は発散する矛先を求めていた。

「そろそろ対ゆっくり欲求が刺激されてるころだろうな」
なかなか眠りにつけないでいるまりさを見て男が呟く。
「五日目、三食完食。体長およそ一尺一寸。独りでいらいらして眠れていない様子をみせる。
今晩中に何らかの心傷が発現すると予想されるっと。さて今日は徹夜か」



………ゆ…ゃ…………!! ……で………え……!!………
…………ぼ……ぞ………と…………………お!!………
………ば……ざが……………でず…………!!………
………も゛…ゆ゛……で…………ぃ…………
………も………っぐ……だ…った…………



「ゆゆっ!!」
いきなりのことにまりさは暗い巣の中で飛び起きた。
このゆっくりぷれいすは外光こそ差し込まないものの、外の明るさと同調しているためまだ夜明け前だとわかる。
何者かの声が聞こえた気がしたが、まりさが辺りを見回してもここに来たばかりのまりさしかいない。
念のため巣から出て辺りを見回してもやはり他のゆっくりはいなかった。
首を捻りながらもまだ朝ではないため再びまりさは巣に戻る。
しかしどうも先程の夢の中の声が気になって深い眠りにつけそうにない。
聞こえてきた声は他のゆっくり、しかもゆっくりまりさの声だった様な気がする。
今この場にはいない、いるはずのないゆっくりの声はまりさの脳裏にべったりと張り付くように残った。



まりさがなかなか寝付けなかった夜も明け、男がいつもの朝ご飯を持って入ってくる。
しかし男はいつもと違う別の物も担いでいた。
いつものご飯にも目もくれず、まりさの輝く視線はまりさの前にそっと降ろされたゆっくりれいむに注がれた。
「ゆっくりしていってね!!」
「ゆっ!! ゆっくりしていってね!!」
まりさと同じくらいの大きさのれいむはとてもゆっくり出来ている気がした。
「まりさはまりさだぜ!! れいむはゆっくりできるれいむなの?」
「そうだよ、とてもゆっくりできるよ!!」
「それならまりさのゆっくりぷれいすでゆっくりしていってね!!」
「ゆゆっ!! まりさはとてもゆっくりできているまりさだね」
「ゆゆ〜ん、やっぱりそう?」
「そうだよ!! まりさとならとてもゆっくりできそうだよ!!」
そこには身をよじらせながら恥ずかしがっているまりさと、そのまりさに笑顔で返すれいむがいた。
お決まりの挨拶もすまし、まりさはあっさりと自分のゆっくりぷれいすにれいむを迎え入れ、これから二匹で過ごす事を決めたようだ。

このれいむは男が森に入ってすぐに見つけたれいむだった。
れいむはとてもゆっくりできる場所と素敵なまりさがいるというとすぐに男の家に来る事を了承した、そんなゆっくりだ。
そしてれいむの期待に添った環境がここにはあり、れいむは満足しているようだ。
実際にこのまりさは野生のゆっくり基準からすればとても美ゆっくりなゆっくりだろう。
他のゆっくりに飢えていたまりさからしても久しぶりのゆっくりはどんなゆっくりでもとてもゆっくりできていると認識するのも無理はない。
そして二匹はすぐにうち解けていった。

二匹が仲良くしている間に割り込んで男がご飯を食べるときの規則を伝えた。
「れいむ、まりさ。ご飯は二人に同じだけやるから相手のご飯を食べたりしたら駄目だぞ」
「ゆっくりできるまりさがそんなことするわけないでしょ!? そんなこともわからないの? ばかなの? しぬの?」
「れいむもしないよ!!」
「それならいい。好き勝手に食べたらもうもってこないからな」
男はれいむの為に新しい受け皿を一つ置き、まりさとれいむに三匹ずつたい焼きを与えて部屋から出て行った。
皿に置かれたたい焼きにれいむは当初のまりさのように涙を流しながら美味しい食事に幸せを覚えた。
そんなれいむに先に食べ終えたまりさは頬擦りをしながらこれからの生活のことを考えた。
二匹はその日は丸一日かけて自己紹介をしあった。ただし自己紹介と言っても自分の自慢を語り合うだけだが。
自己紹介が済めばわずか二匹ではあるが、成体のゆっくり同士だからまりさとれいむは群れを作ったといってもいい。
夜になればまりさは巣の中にれいむを招待して、二匹寄り添って眠りについた。

「六日目、まりさ三食完食、れいむのご飯を食べる事はせず。体長およそ一尺二寸。
昨晩姿無き声が聞こえた様子。れいむとは無事意気投合したようだ。明日明後日にも子作りが開始されるだろうっと」



………ゆ…ゃあ……あ!! …べで…えええ……!!………
…………ぼ…でぞん……と………おおおおお!!………
………ば…ぃざが…る………でずう……うう!!………
………も゛うゆ゛……でぐ………ぃぃぃ………
………もっ……っぐり…だ…ったよ………



「ゆ゛ゆ゛っ!!」
昨晩よりもはっきりめに聞こえてきたゆっくりの声に反応してまたしても飛び起きる。
やはり巣の中や外を見回しても自分とれいむしかいないのだ。
「まりさおきるのはやいよ、もっとゆっくりしようね……」
「ごめんねれいむ。もうすこしねるよ!!」
まだ眠そうなれいむに諭されまりさはもう一度目を瞑ろうとした。
だがやはりあの声が気になり眠れないのだ。
まりさは眠ればまた聞こえてくるかも知れない声に怯え満足な睡眠が得られないでいた。

「ゆっくりしてるか?」
「「ゆっくりしていってね!!」」
あれから結局眠れなかったまりさはれいむが起きるまでその顔をずっと覗いていた。
れいむを見ているとなぜか不安な気持ちになったが、朝の挨拶からのスキンシップでそんなことは忘れていた。
そして男がまりさとれいむの朝ご飯を持ってくるとさらに忘れてしまった。
「ほらご飯だ、自分の分だけ食べろよ」
「ゆゆっ、わかってるよ!!」
「じじいはしつこいんだぜ!! ごはんをおいたらゆっくりでていってね!!」
「まだか……」
「ゆっ?」
「なんでもない。さっさと食べろよ」
男が出て行くと二匹何事もなかったかのようにたい焼きを食べ始めた。

普通のゆっくりのように歌を歌ったり頬擦りをしている間に昼も過ぎ夜も過ぎ、
まりさとれいむは巣の中で就寝前に会話をしていた。
二匹はこれからのことを相談しはじめた。
たった一日くらいですっかり意気投合した二匹はぴったりと密着した状態で話をしている。
「まりさ、ここはとてもゆっくりできるね!!」
「そうだね。れいむのおかげでさみしくないよ!!」
仲間を失い、たった一人きりで生活していたここ数日は少しつらいものがあった。
突然現れたれいむであったが、その苦しみを取り除くには十分でまりさは今とても満たされていた。
しかし、つい一日前まで森で群れの中に囲まれて過ごしていたれいむではその逆である。
「でもれいむはかぞくがいないからさみしいよ……。れいむはあかちゃんがほしいよまりさ!!」
「ゆゆっ!! それならすっきりしよ……」
すっきりしよう。
まりさはそう言おうとしたが「れいむ、やっぱりすっきりはゆっくりもうすこしまってね」とまりさはすっきりを拒否した。
「ゆっ!? どうしてそんなこというの?」
まりさとれいむしかいないのであれば、すっきりして仲間を増やしてしまえばいい。
安心して過ごせる場所、美味しいご飯、そしてゆっくりできるゆっくり。
ともあればすることはすっきりしかあるまい。
しかし、まりさは何故かためらってしまった。
至って普通の、しかも成体であるゆっくりの思考なら絶対にあり得ないことだ。
すっきりをしないと決めているのではない、しようとしたけど止めたのだ。
まりさは今ここですっきりしてしまうとまずい気がしたのだ。
それはどこか魂に刻まれたようなレベルの警戒感だった。
だがそんなまりさの事情を知らないれいむからすればまりさの態度は気に入らない。
「まりさはれいむのこときらいなの?」
「ちがうよ!! すっきりしたいけどしたらだめなんだぜ」
「わけのわからないこといわないでね!! ゆっくりできないまりさはどこかにいってね」
「ここはまりさのゆっくりぷれいすなんだぜ!! でていくのはれいむなんだぜ」
「どぼじでそんなごというのおおおおお!!」
「れいむはわからずやだね!! そんなゆっくりとはゆっくりできないよ」
「ゆえーん!! ばでぃざのばがあああ!!」
ゆっくりらしい言葉足らずの口喧嘩であっという間に二匹は仲違いをしてしまった。
れいむは泣きながらまりさに罵詈雑言を吐いてくる。こうなるとしばらくれいむは止まらないのをまりさは知っている。
まりさはそんなれいむを急に冷たい目で見始めた。もうれいむとも口をきく事はないだろう。
『このれいむはゆっくりできないれいむだぜ。まりさのまわりにいてほしくないんだぜ』
ついさっきまでれいむに対して持っていた感情とは真逆のものがまりさの中に渦巻いていた。

「七日目、まりさ三食完食、れいむのご飯を食べる事はせず。体長およそ一尺二寸。
未だ言葉遣いは改善されず。だがまりさはれいむとのすっきりを拒否。ようやく効果が現れ始めたようだ。」

翌日目を覚ましても二匹は挨拶をすることはなかった。
れいむが何と言おうがまりさは早計に子供を作る気はないし、
まりさが出て行けと言ってもれいむには行くところはない。
それにこの狭い場所ではどうやってもお互いの存在を感じる事が出来るのだ。
二人は目を合わす事のないように離ればなれで一日過ごすことになった。

「八日目、まりさ三食完食、れいむのご飯を食べる事はせず。体長およそ一尺三寸。
喧嘩はしたようだがまりさ、れいむ互いに暴力に走る事はない。れいむはそれほど頭の悪い個体ではないらしいっと。
もうそろそろアレがきてもいいんだけどなあ。」

さらに翌朝、お互いにそろそろ許してやってもいい気持ちになっていたがきっかけがなく、まりさとれいむの間にはまだ陰鬱な雰囲気が漂っていた。
「まりさーれいむー、ご飯だぞー」
そんなときに手に朝ご飯のたい焼きを持った男が部屋に入ってきた。
入り口に近かったれいむが男の元に近づいたおかげでまりさはしかたなく部屋の隅で待った。
なんとなくれいむに近づくのがはばかられたからだ。
そんなまりさの気持ちを知ってか知らずかれいむは図々しく朝ご飯をねだる。
「じじいはさっさとごはんをおいていってね!!」
「なかなかな言い方だなれいむ」
男はにこやかな表情を変えずれいむに応えた。
れいむの言葉の裏にはいざというときはまりさが助けてくれるとでも思っている慢心でもあるのだろう。
ここにきた当初よりも明らかに増長したれいむの態度は人間を刺激するには十分なそれだ。
だが男は気にする様子もなくまりさにも声を掛ける。
「おーいまりさー、ご飯いらないのかー」
「ゆっ!! そんなことないよ」
できればれいむの側には行きたくはないが、ご飯は食べたいので仕方なく男の方に向かう。
そんなまりさを見て、口元を緩めながら男は言った。
「なんだお前らさっそく喧嘩でもしたのか」
あからさまな二匹の態度に男が突っ込むとこれまたあからさまに体を震わせる。
人間如きに図星を指されるのはまりさのプライドが許さないため必死に否定しようとした。
「そ、そんなことはないんだぜ!! じじ……ゆ゛っ!!」
じじいには関係ないんだぜ、まりさはそう続けようとした。
しかしその瞬間体の中を凍えるくらい冷たい液体が抜けたようなとても不快な感覚が襲った。
これに似たようなことがつい最近もあったがいつだったかはまりさは関連づけできていない。
しかもあのときよりも明らかに強い拒否感だった。
「ゆぎっ……!! がっ……!!」
「どうじだのばでぃざあああ!! はやぐよぐなっでえええええ!!」
体の底からくる震えをまりさは止める事が出来ず、目を見開いて歯を食いしばりひどく痙攣する。
そんなまりさを見てれいむも心配したようで涙を流しながらとうとうまりさに擦り寄る。
まりさが居なくなっては困るという打算的な考えではなく、単純にれいむが優しいからだ。
「しっがりじでねぇぇぇ!! ぺーろぺーろずるがらぁぁぁ!!」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ、だだだいじょうぶだよよよよ」
必死に看病するれいむとそれを甘んじて受けるまりさを見て男はほくそ笑む。
「じじいはゆっぐりみでないでまりざをたすけてね!!」
れいむはいてもたってもいられず、男に向かって叫ぶ。
するとその台詞を聞いてまりさが再び激しく痙攣しはじめる。
「ででででいいいぶぶぶ、おおおにいさんのごどをじ、じじいっでいわないでねねねねね」
「ゆ゛ゆ゛っ!! どうしたのまりさ、まりさもいってたじゃない!!」
「いいいっでないよよよ。もうぜっだいいわないよよよよよ。でででいむもいっちゃだめだよよよ!!」
まりさの様態はとても心配だがまりさの言葉の意味がさっぱりわからずれいむは混乱しているようだった。
男はそんな二匹を無視してご飯をおいてさっさと部屋を後にした。
放っておいてもそのうち直るのだからあれでいいのだ。
むしろこうなることは予想済みだし、そうなるとまりさにまた同じような症状がでるのは間違いない。

その日はまりさの容態を心配したれいむがぺーろぺーろやすーりすーりしてやっている間に夜になった。
その間れいむが何を言っても人間はご飯を持ってくる以外何もしてくれなかった。
れいむは震えるまりさに無理矢理ご飯を食べさせて回復を促しもした。
しばらくしてれいむはようやくゆっくりできるようになってきたまりさを見て考えた。
すっきりはしないと言ったまりさ、あの人間のことを急におにいさんと呼び始めたまりさ。
なんだか目の前のまりさの事が分からなくなってきた。
そんなれいむにまりさから久しぶりに話しかけてきた。
「れいむありがとう!! ゆっくりよくなったよ!!」
「ばでぃざああああ、だずがってよがっだああああ」
そう言うとどちらからとも無く涙を流し合って喜んだ。
そしてそのままの勢いでまりさが続けた。
「ごめんねれいむ、まりさがいいすぎたよ!!」
「ゆう? なんのこと?」れいむは全く身に覚えがないので体を横に倒すようにして疑問の表情をする。
「でもすっきりはまだできないよ」
そこまで言われて初めてれいむはここ最近のことを思い出した。
「ゆっ!! まりさはまだそんなこといってるの!!」
まりさにまたすっきりを拒まれれいむは怒った。感情をころころ変えるのが忙しそうだ。
「れいむ、ゆっくりきいてね」
今度はわからずやとれいむを罵らずまりさはすっきりできない理由をゆっくりと説明し始めた。
前回とは違ってまりさはすっきりしてはいけない理由がどうしてかすらすら思い浮かんでいた。
「いますっきりするとごはんがいっぱいないかられいむがゆっくりできなくなるんだよ」
「ごはんはじじ……おにいさんがかってにもってくるよ!!」れいむはまりさの言葉を律儀に守って男の呼び名を言い直す。
「でもおにいさんはれいむのごはんはもってきてもあかちゃんのごはんはもってきてないよ」
これにはまりさに一理ある。
すっきりしてしまえば赤ちゃんに餡子を奪われるため、いつも以上にご飯が必要になるのだが今はれいむが生きる分しか与えられてないのだ。
「それならまりさががまんしてまりさのごはんをわけてね!!」
「ゆっ、それはだめだよ。おにいさんのいったことわすれたの?」
「ゆぐっ……。まりさのごはんはまりさのごはんなんだね……。」
れいむはかろうじて男に言われたご飯のルールを覚えていた。
自分からルールを守ると宣言した手前、それを破るのはゆっくりできてないようではばかられた。
「れいむはゆっくりりかいしたよ!! すっきりはがまんするねまりさ」
「ありがとうれいむ!! れいむはとてもゆっくりできるね!!」
「そんなぁ〜」
ゆゆーんと照れるれいむにまりさはこの前のれいむに対する気持ちを訂正する。
『このれいむはれいむでもとくにものわかりがよくてゆっくりできるれいむだよ』
お互いの気持ちが再び通じ合いすーりすーりしあった。
そして二匹はとても幸せそうに眠りについた。このまりさに起こっている変化に気付けぬまま。

「九日目、まりさ補助付きで三食完食、れいむのご飯を食べる事はせず。体長およそ一尺三寸。
ようやく記憶継承による精神打撃が起こった。人間に対する言葉遣いに関する項目のため発現が早かったと思われる。
それにより語尾に変化が現れる。しばらくすれば難しい言葉も話し始めるだろう。
その他の項目についても状況を用意してやれば順次発現すると予測される。
明後日にでも外の群れと合流させ群れの長としての資質を調査する必要がありそうだ。」



………ゆぎゃああああ!! やべでええええええ!!………
………どぼじでぞんなごとずるのおおおおお!!………
………ばでぃざがわるがったでずううううう!!………
………も゛うゆ゛るじでぐだざいぃぃぃ………
………もっどゆっぐりしだがったよ………



まりさは息を呑みながら目を醒ます。
前回寝ていたときに聞こえた声がまた聞こえてきた。
しかも今回ははっきりと聞こえた。
依然声の出所はわからないが、その切羽詰まった様子は感じ取れた。
自分の知らないどこかでゆっくり達が悲鳴をあげている。
我が身のことではないがとても安心して眠っていられる状況ではない。
隣を見ればとても穏やかな表情でれいむが寝息を立てている。
それだけで幾分気持ちは楽になったが原因の分からない聞こえてくる悲鳴にまりさは恐怖するしかない。

また眠ればさっきの声が聞こえてくるかも知れないと思うとまりさは眠られるはずもない。
れいむを起こさぬよう巣をそっと出て男から与えられている水を飲んでひとまず落ち着こうと試みる。
前回も今回もあれほどの声がしたにもかかわらずれいむには聞こえていないようだ。
自分にだけ聞こえるゆっくり達の声。
それが何を意味し、何処から聞こえ、そして何故聞こえるかはまりさがいくら考えてもわかるはずもなかった。

「ゆっくりしていってね!!」
「れいむ、きょうもゆっくりしていってね!!」
まりさが部屋中をぐるぐる這いながら夜が明けるのを待ち巣に戻るとれいむが起床していた。
れいむのいつもと変わらない姿にまりさは考えすぎてゆっくりできていないと反省した。



まりさとれいむが目覚めのすーりすーりをしていると男が入ってきて朝ご飯を持ってくる。
「「ゆっくりしていってね!!」」
「ああ、ゆっくりしていってね」
「「おにいさん、ゆっくりごはんちょうだいね!!」」
「神妙な心がけだ。とてもゆっくりできてるな」
昨日のまりさを襲った痙攣から学習してか二匹の男に対する言葉に変化が見られた。
まりさは身をもって経験したため、れいむはまりさのようになりたくないがためである。
「「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ〜♪」」
「よし、きれいに食べ終えたな」
二匹の食事を観察し終えて男は部屋を後にしようとする。
「おにいさん!!」するとその男を不意にまりさが呼び止めた。
「どうした、まりさ」
「まりさはおにいさんにおねがいがあるんだよ!!」
お願いの内容はこうだった。
まりさとれいむは家族が欲しい。
そこでちゃんと赤ちゃんを産めるようにどうかご飯の量を増やして欲しいということだった。
男はまりさの発した言葉に驚いた。
ゆっくりに飢えさせたゆっくり達なら勝手にすっきりして子供を増やすと思っていたからだ。
ましてや普通のゆっくりであるまりさが人間に対して命令ではなく懇願をしようとしているのだ。
そして男はその願いを聞きまりさにある提案をする。
男の想定以上の結果がまりさに現れているようでそうそうに次の段階に移行する事にしたのだ。
「なあまりさ、家族増やすのなら別に赤ちゃんではなくてもいいだろ?」
「ゆう? どういうこと?」
「久しぶりに外にも出たいだろ。いいところに連れて行ってやるよ」
まりさの疑問に答えぬまま男はまりさとれいむを両脇に抱える。
「ゆゆ〜、おそらをとんでるみたいだねまりさ!!」
「そ、そうだね……」
呑気に男の腕に収まっているれいむにまりさは少しくらいは警戒したらどうかと言おうとしたが男の前なのでぐっと我慢する。
二匹は男にどこに連れて行かれるかわからぬまま家の外まで運ばれていく。


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最終更新:2022年04月16日 23:26