「ゆーっ!ここはゆっくりできないよ!!」
れいむは怒っていた。突然群れにやってきた人間達に捕まり、大きな袋に放り込まれた。
夫のまりさや他のゆっくり達も次々と袋に入れられ、ぎゅうぎゅうに押し込められること約半日。
空腹の限界点も通り過ぎた頃にようやく解放され、袋から出られたと思ったら見たこともない四角い部屋。
そしていきなり頭上から土砂降りの雨が降ってきて、みんなパニックを起こしかけた。
雨はすぐに止んだが、そのあとたくさんやってきた人間達にまた袋に入れられてしまった。
しかも今度はなぜか種族別に分けられたので、大好きなまりさとも離ればなれ。
そして今、透明な小さな袋の中にひとりづつ入れられ、動く細い床の上に乗せられていた。
「おなかへったよ!ひどいにんげんさんはれいむにたべものをもってきてね!」
袋の外では白っぽい服を着た人間達が黙々と歩き回っている。れいむの訴えに耳を貸そうとする者はいない。
「れいむはおこってるんだよ!むししないでね!ぷくー!」
精一杯威嚇してみるが全く効果なし。次々とれいむの目の前を通り過ぎて行く。
「もうやだ!おうちかえる!」
この動く床から脱出しようと、思いっきり跳ねてみた。
「ゆべっ!」
しかし周囲に見えない固い壁のようなものがあって、頭をぶつけてしまった。
それ以前に袋がいやに体にまとわりついてうまく動けないので、逃げ切れるかどうかは疑問だったが。
「ゆううぅぅぅっ!ゆっくりさせてよおおおっ!!」
あまりの仕打ちにとうとう癇癪を起こしてしまった。
その時、突然れいむの体が浮いた。
1人の青年が、れいむを袋ごとつかんで持ち上げていた。
「ゆーっ!おそらをとんでるみたい!」
まもなくれいむは白い台の上に優しく置かれた。動く床から解放されたのだ。
「おにいさんありがとう!あとれいむをふくろからだしてね!ゆっくりさせてね!」
助けてくれた青年に満面の笑みを向けるれいむ。
だが青年は笑うこともなく、黙ってれいむの後方を指さした。
「ゆっ?なに?」
振り返ると、そこには見るからにおいしそうな色とりどりの果物が大量に積まれていた。
「ゆーっ!すごいよ!くだものさんだよ!」
群れの生活では、こんなたくさん食べる機会などなかった。
れいむは口を大きく開き、涎を垂らさんばかりの表情でそれを見つめた。
“早く袋から出してもらって、ゆっくりむーしゃむーしゃするよ!”
そう思った瞬間――
れいむの両方の目玉が、ものすごい力で締め付けられた。
目玉だけではない。頭、足、耳、唇。れいむのありとあらゆる部分に尋常ではない力が加わっている。
――なに、これ、いだい、いだい、ゆっくり、できない――
力は喉の奥まで押し入り、出かかった悲鳴をたやすく封じ込めた。
――やべて、つぶれ、ちゃう、ゆ゛あ゛ぁ゛――
とても身動きできないほどの圧力なのに、れいむの体が破裂することはなかった。
圧力はあらゆる方向から均等にかかっているため、変形させることなく、ただただれいむを締め付けるのみ。
――めが、いだい、あづい、やべて、つぶれる、しんじゃう――
締め付ける力は、隙間という隙間の奥の奥まで届き、眼球や舌根をこれでもかというくらいに絞り上げる。
視界は様々な色が混じり合ってぼやけ、もう何も見えたものではない。
――たずげて、おにいさん、だずげで、まりさ、まりざ――
体の中心から焼けるような熱さが広がっていく。
聞こえる音はぐわんぐわんと響く耳鳴りだけ。
頭の中はぐるぐると回っているような、ぐちゃぐちゃとかき乱されているような。
一瞬のうちに、れいむは地獄に叩き込まれた。
加工所の新商品として、「ゆっくり真空パック」というものが発売された。
“産地直送!生きた新鮮な甘味をご家庭で!”という文句で売り出されたこの商品。
要するに生きたゆっくりをそのまま真空パックし、注文先に配達するという、名前通りの商品である。
前々から真空パックという方法は一部の商品で使われていた。
しかし冷凍や加熱処理で仮死状態にした後にパックしていたので、それなりに手間もコストもかかる。
そこで考案されたのが、“殺菌処理のみした後すぐパックする”という方法だ。
「別にゆっくりなら仮死状態なんかにしなくてもいいよね?」という軽い発想も手伝って生まれたのだが・・・
これがなかなか望外な効果を持っていた。
真空パックで締め付けたまま放置しておくと、甘味が増していくのだ。
成体ゆっくりはゆっくりさせたままだととても不味いので、従来の加工の際はゆっくりさせない配慮が必要だった。
しかし真空パックのおかげで無理に苦痛を与える必要が無くなり、加工所の職員達は(一部を除いて)歓迎の声を上げた。
実用化が決定されてからは、どんどん研究や開発が進んでいった。
無造作にパックしてしまうと唇がつぶれて餡子が漏れだしてしまったり、まぶたが閉じてしまったりする。
いかに効率的に苦痛を与え、きれいにパックするか。
まず薄くて柔らかい、それでいて破れにくいビニールシートが開発された。それを袋状にして中にゆっくりを入れる。
次に、ごちそうを見せることによって目を見開かせ、大口を開けさせるという方法が提案された。
隙を作って背後から空気を吸い出し、眼球や舌をビニールで締め上げる。
これらは全てうまくいき、あっという間に商品化までたどり着いた。
真空パックには、商品を受け取った人が自分好みの糖度になるまで熟成することができる、
後頭部から包丁を突き立てれば、何の抵抗も絶叫もなく物言わぬ饅頭になる・・・といった利点もあった。
斬新な仕組みに、人々は面白がって注文した。
もちろんパックの中のゆっくりは生きている。時間が経てばパニック状態からは抜けだし、思考能力も元に戻る。
もっとも耳はあまり聞こえないし、眼球は固定されているので焦点は一点しか合わないが。締め付けに延々苦しむのだ。
しかしビニールに穴を開けてやれば、たちまち蘇生し喋り出す。
このことから、特殊な理由での注文も相次いだ。
近所に野良ゆっくりがおらず、一度現物を見てみたい、という人。
解放したことに恩を売り、そのままペットにしたい、という人。
人には言えないようなアブノーマルな趣味を持っている、という人。
その他様々な人からの需要を発掘し、大ヒットとなった。
今の加工所では、手間もコストも大幅に削減されるので、通常種の成体の4割をこの方法に回すようになっている。
あまりの売れ行きにライン生産までされるようになった。
引き続き開発も進められている。現在の案件は、解放した瞬間に生クリームをほとんど吐き出してしまうぱちゅりー種について。
“にんっしん”したゆっくりのパックも開発中だ。植物型は特に問題ないが、胎生型は1/2程度の確率で死産になってしまう。
加工所期待の商品「ゆっくり真空パック」は、粛々と生産され続けている。
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あとがき
虐待短すぎ、説明長すぎですね・・・反省してます・・・
過去作品
- ゆっくりバルーンオブジェ
- 暗闇の誕生
- ゆっくりアスパラかかし
最終更新:2011年09月04日 02:57