いままで書いたもの
「「ゆっくりしていってね!」」
空気の湿った薄暗い森の木のうろから元気のいい声が二つ響く。
声の主は
ゆっくりである。幻想郷の有名人の顔を大きくして太ましく
したような造型の生首饅頭。それのうちのゆっくりれいむとゆっくり
まりさであった。れいむの頭上には青々とした茎が生え、まりさは上
機嫌に鼻歌など漏らしながらそこに実っている実を眺めている。
「いいおてんきだねれいむ!」
「そうだね! こんなにいいおてんきならおちびちゃんもゆっくりう
めるね!」
この二匹は出合ったその日につがいになり、つがいになったその晩に
子作りをして、夜明けとともに出産に臨んでいるという、ゆっくりに
はよくあるタイプのつがいであった。
「それじゃゆっくりうむからおひさまのあたるばしょにだしてね!」
「ゆっ! もううむの? はやい! きた! おちびちゃんきた!」
これで勝つるとばかりにおおはしゃぎしながら、身重のれいむを押し
ていくまりさ。それとは対照的にれいむは非常に穏やかな顔でゆ~ゆ
~と歌を歌っていた。
小鳥の囀りが聞こえてくる頃、れいむがまりさを制止した。いよいよ
出産の時かとまりさはそわそわうきうきしながられいむの頭上を眺め
続ける。
と、そこに二匹の鳥がやってきた。獲物を狙う鋭い目でれいむの頭上
を旋回する。
まりさは慌てて声を上げた。
「ゆゆっ! とりさんはむこうにいってね! いまからかわいいおち
びちゃんをうむんだからね!」
そう言って、ぷくーっと膨れながら鳥に向かってぴょんぴょんと飛び
跳ねる。
まるでゆっくりしていないまりさとは対照的に、非常に冷静である種
威厳すら感じる空気を纏ったれいむはこう一言。
「とりさん、おちびちゃんをゆっくりたべていってね!」
「どぼじでぞんなごどいうのー?!」
これにはまりさも大慌て。膨れて跳ねるのを忘れて涙を流しながられ
いむに向かって絶叫する。
それがまずかったのか……もしくは最初からまりさなど眼中になく、
このタイミングはたまたまだったのか……鳥はれいむの頭に止まると
羽を休めながら茎に実った実をゆっくりしていない速さで啄ばんだ。
「やべでー! ぞれはばりざのだいじなおぢびぢゃんなんだよー?!
おでがいだがらゆっぐりやべでねー?!」
まりさの懇願。しかし鳥には言葉は通じず、れいむの頭上に実ってい
た無数の実はわずか二匹の鳥に全て食べられてしまった。
「ゆ゛あ゛ー! ばりざのおぢびぢゃんがー!!」
すっかり小奇麗になってしまったれいむの頭上を見たまりさの慟哭が
響く。その声量に驚いたのか、れいむの頭の上で行為に及ぼうとして
いた二匹の鳥は慌ててどこかへと飛び去っていった。
れいむはその鳥たちを眺めながら、元気良くこう言った。
「げんきでね! れいむのおちびちゃん!」
れいむがこんな対応をしたのにも当然ワケがある。
このれいむ、実は植物型のゆっくりなのだ。
植物型のゆっくりは、雄役のゆっくりと交尾すると頭上に茎を生やし
そこに果実を作る。この果実は消化が悪いものの非常に美味で栄養価
も高く、他の野生動物の恰好のエサとなるのだ。
食べられた後、野生動物の体内で果実の中にある微笑な種が芽吹き、
動物の糞と共に排出される。植物型ゆっくりの誕生である。
生まれた植物型ゆっくりはほぼ未消化で排出された果実を食べながら
赤ゆっくりの時点で自立し、生きる為の知恵をその場その場で学びな
がら厳しい自然を生き抜いていくのだ。
ちなみに、植物型ゆっくりは一回の交尾から数百ほども生まれるが、
親という庇護者がなく、更に一度に数百と生まれる生態上から、個の
執着というものが非常に薄く、痛みに鈍感で死ぬ事に恐怖しないので
外敵にやられずに成体まで成長できるものは一桁に満たないのだ。
のだが、
「ゆぁーん! おきゃーしゃんどきょにいるにょー?!」
「りぇーみゅさびちーりょー!」
「どうちちぇまりしゃのからだがくちゃいくちゃいにゃのー?!」
「おにゃきゃすいちゃー!」
「やめちぇー! ありしゃんこっちこにゃいでにぇー!」
「いちゃいよー! ゆっくちできにゃいー!」
「「「「「もっちょゆっくちちちゃかっちゃー!!」」」」」
まりさ
どうも、不純物の因子が混じってしまったせいか。
あの鳥の糞から生まれた数百の赤ゆっくり達は、親の不在による不安
や体の汚れ、空腹と痛み等植物型ゆっくりらしからぬ事を訴えながら
成体になれる一桁どころか、わずか一日で全滅してしまいましたとさ。
おわる
最終更新:2011年07月29日 17:58