これはゾロアスターじゃんけんが作られるまでの過程を記したものです。
※ゾロアスターじゃんけんは、システムが普通のじゃんけんと大きく異なります。よって、
ルールを理解されてからこの文章を読むことをオススメします。
※テレビ局の表記は、発案時の名称「フジテレビ」を採用します。
フランスじゃんけん
フランスじゃんけんこそゾロアスターじゃんけんの大本、基礎となった初代新じゃんけんだ。ある人が「新しいじゃんけんを作ろう」と言い、フランスのじゃんけんからヒントを得て(というか丸ごと真似て)フランスじゃんけんは生まれる。そして同時に新じゃんけん創造委員会が発足した。
フランスじゃんけんのルールは、普通のじゃんけんに井戸を加えただけというごく単純なものだった。だが委員会は単純さを嫌った。そこで委員会の中の一人がある提案をする。
「『最初はグー』か……これほどつまらないものはない。別のものにすべきだ」
「では、何にしよう」
「『最初は死ね!』だ」
これは「じゃんけんは戦争である」という精神に基づいて決定された。
さらにそれだけでなく、委員会内からはまた提案があがった。
「井戸であいこになったとき掛け声を作ろう」
「何故だ?」
「井戸が二つ並んだ光景というのは風景として非常に素晴らしいものだ。ゆえにそのまま次のじゃんけんに移ることは許されない」
「なるほど。井戸の均衡状態を崩すべきだと?」
「そうだ」
「では掛け声はどうしようか」
「うぬ……」
「こんなのはどうだろう。井戸が二つ出たら手をひっくり返して『ピー!!』と叫ぶってのは」
「素晴らしい」
こうして「井戸あいこ時ピー」のルールが出来た。
二つの特殊ルールを加えたフランスじゃんけんは、叫び声のせいで多少うるさくなったものの、それなりに面白く、委員会はひとまず成功、と胸をなでおろした。
だが委員会は重大なミスに気づく。井戸というのはパーにしか負けず、チョキにもグーにも勝ってしまうのでグーの存在意義が完全に抹消されてしまっていたのだ。哀れなことにグーは、普通のじゃんけんでさえなんか負けやすい気がするというのに、もやは気がするでは済まされなくなった。(おかしなことにフランスではこれが当たり前のこととして認知されている。)
かくしてグーの価値が消えたフランスじゃんけんはもはや普通のじゃんけんと騒音を発するということ以外なんら変わりないものになってしまった。だが我々の目的は「新しいじゃんけんを作る」だ。「グーをいじめる」ではない。そこで生まれたのが「グーの名誉を讃える」というルールだった。これはグーで勝利したものに対して尊敬と称賛の意を示すというもので、具体的にはグーの勝者に深々と礼をし、さらに拍手喝さいを浴びせるというものだった。
「下らない」
きっとグーはそう思ったに違いない。グーだって勝ちたかった。名誉などいらなかった。じゃんけんの中の一つの技として、確かな勝利を得られる技として存在したかった。「最初はグー」すら消えたフランスじゃんけんをグーは恨んだ。
「やっぱりグー弱すぎないか?」
「ああ」
委員会はなんとかしてグーの不遇を改善したかった。
グーが弱いならグーでしか勝てない最強の手を作ればいいのではないか。そう気づいた委員会は早速フジテレビを作った。フジテレビはグー以外のすべての手に勝ち、グーだけが倒せる。フジテレビが出来たおかげで、グーは確かに強くなった。
だが今度はチョキの価値が無くなってしまったのである。少し考えれば分かるが、チョキはどう見ても弱いフジテレビ以外の何物でもない。チョキはグーにはフジテレビ同様負けるが、それに加えてフジテレビが勝てる井戸にも負けてしまうのである。当然パーにはフジテレビもチョキも勝てる。かくして、良かれと思ってしたことが逆に災難を招くことになってしまった。
「どうするよ、チョキ」
「うーん。まあいいか」
委員会はチョキなどにかまっている暇などなかった。ともかく彼らにとっては、人類を震撼させるであろう新じゃんけんの新しい手を考えることが最も大切な使命だったのである。だがこの後しばらくしてこのチョキの問題は解決されることになる。
テレビ局の次に彼らが生み出した技は棒であった。
棒はグーだけに勝て、それ以外のすべての手(※注1)には負けるというものだ。これだけだと恐ろしく弱い手のように見える。だが我々はグーと同じ過ちを二度は繰り返さない。
そう、皆さんご存じの通り、棒はテレビ局を倒したグーを倒すことができる手なのだ。
これはフジテレビを作ったことで、少し強くなりすぎたグーとのバランスを保つために考案された。
これでゾロアスターじゃんけんに使われる大まかな手はそろった。現在いわゆる常群と呼ばれている5つの手と、最強の手テレビ局はこのようにして出来上がったのである。
※注1 今では弱群があるため、すべてではない。
ホウレン草じゃんけん
メインの手が揃ったいま、委員会の気がかりはやはりあのチョキであった。繰り返すようだが、今のままではチョキはしょせん弱いフジテレビである。
「チョキがやはり弱い」
「そしてフジテレビが強すぎる」
「なんとかならないか」
当面の課題は二つ。フジテレビが強すぎることと、チョキが弱すぎること。多くの人はチームのメンバーが少ないことを嘆いたりするものだが、この委員会(現在二人)にとってはそんなことはどうでもいい。ただし、今のところは。
「こうするのはどうだろう。フジテレビを二人以上が出した時、フジテレビを無条件敗北させるというのは」
「なるほど。つまり、強いと思ってうかつにフジテレビを出すと、他の誰かが出した時に負けるかもしれない、と」
「そのとおりだ。そうすればチョキとフジテレビの差別化が図れる」
おわかりだろうが、要するにフジテレビに負けやすくなるルールを課したということだ。当然チョキは二人以上出しても負けにはならないので、フジテレビに対してアドバンテージを得ることになる。
(現在のルールを熟知している人は、ん?でもあいこになるんじゃない?と鋭い考察をするかもしれないが、あいこの概念はまだ出来ていない。それは次の話だ)
さて、いい感じにバランスが取れてきたと内心ほくそ笑む委員会。だが思ってもみない重大な欠陥に気づく。
「あいこはどうする」
「なんだと」
「これだけ手が多いと、普通のじゃんけんみたいにあいこを決めていては全く勝負が決まらないのでは」
そう、手が3つの普通のじゃんけんでも、大人数でやるとグーチョキパーが出てなかなか勝負が決まらない。ましてや手が6つもある現状、通常通りにあいこにしていては到底勝負は決まらないだろう。給食のおかずの取り合いの悪夢の再来である。
「いっそ2つ以上同じ手が出たらあいこにして、バラけた時だけ勝負が決まることにしないか。フジテレビだけはもちろん二つ以上で無条件敗北だが」
「うーむ、そんな方法で大丈夫だろうか」
いや、大丈夫ではない。たとえばグー、チョキ、パーが出たとき、どれを勝たせるのか。この三者の強弱は均衡している。全く解決になっていない。
困った。せっかくここまで手を増やし、ルールを決めてきたのに、思いもよらぬ「あいこ」などに足を挫かれるとは。
二人は思わぬ壁にぶち当たった。
最終更新:2012年12月28日 00:50