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大砲のような怒号が響いた。
静寂が支配するはずの夜は、たちまち彼女の声によって喧騒へと塗り替えられた。


「おい、ふざけんなよ、シグナムッ! 返事しろ! 早まった真似すんじゃねえ!!」


橙色の髪を三つ編みにした幼い体躯の少女ヴィータは、言うだけ言って一方的に念話を切ったシグナムに激高した。シグナムは主である八神はやてを救うために、この殺し合いに乗ると言ったのだ。しかも、シグナムはヴィータにそのことを手伝えと平然と言ってのけた。心優しき八神はやてを、彼女のために誓った騎士の誓いを、こうも簡単に裏切ってみせる同僚の存在にヴィータは怒りを覚えると同時に失望もした。


八神はやてが、どんな結末を望んでいるかなど、少し考えれば分かることだ。確かにハッピーエンドに至る道のりは、茨で埋め尽くされ、困難を極めたものであろう。だけど、何のための守護騎士か。その難を排して、主が進む道を切り拓くのが、騎士であるシグナムとヴィータの仕事だ。それなのに簡単にその道を諦め、大切な八神はやてを悲しませることなど言語道断。八神はやてのためにもシグナムのためにも、早急にシグナムをぶっ飛ばさねばならない。ヴィータは怒りの咆哮と共に早速魔力反応のあったシグナムの方向へと駆け出そうとした。


「え……? は、はやて……?」


驚愕と絶望と悲嘆に塗れたヴィータのかすれた声が、やっとのことで口からこぼれた。その場を飛び出そうとした瞬間、工場の片隅からヴィータが心から慕う八神はやての姿を見つけたのだ。だけど、それは同時に哀しみの到来でしかなかった。何故なら。もう彼女が息をしていなことが、すぐさま見て取れたのだから。下半身はどこにもなく、口から血を吐き出した上半身が冷たい地面に横たわるだけ。痛みに嘆く様も、悲嘆に喘ぐ様も、命に必死にしがみつく様も、その八神はやてには全く見られなかったのだ。


「お、おい、嘘だろ? なあ、はやて」


茫然自失の体で、よろよろとヴィータは自らの主の下に近づく。一刻も早く八神はやての容態を確認したい。だけど同時に確認をしたくない。そんな相反する感情のせめぎ合いの果てに、ようやく自らの主の下に辿り着く。そして八神はやての亡骸に手をかけた瞬間、ヴィータの身体は幾つもの尖頭によって身体を貫かれた。


「がはっ……? あ、えっ……?」

「ひひひ、あーはっははははは!!」


血を吐き出しながら疑問の声を上げるヴィータの耳に、戸愚呂兄の哄笑が聞こえた。声のするところを見れば、波打つ長い黒髪を無造作に垂れさせる小さな男が、地面の下から這い出てきたのだ。そしてそれと共にヴィータは己の身体に何が突き刺さったかを知った。何と戸愚呂兄の指が槍のように伸びていたのだ。その人とはかけ離れた異様さに、思わずヴィータは目を疑う。だけど真に驚くべきは、その男の腕の形であろう。ヴィータが目にした八神はやての姿は、あろうことか戸愚呂兄の右腕がかたどっていたのである。


「あ……? な、なんだ?」

「ひひひ、不思議か? 何でオレがこの小娘とおまえのことを知っていたか。なに、実に簡単なことだ。このオレがさっきこの小娘を殺してきたのさ」


酷薄な笑みと共に告げられる台詞にヴィータの頭の中は真っ白に染め上げられた。大切な人、その人と夢見たハッピーエンドの道のり、そしてその先にある温かな笑顔。それら全ての喪失は、文字通りヴィータの心の中にあった一切のものを抉り取り、霧散させてしまったのだ。だけど悲しいかな、心は幾ら死ねど、目は見え、耳は聞こえ、口は開く。身体は生きているのである。だから、ヴィータは聞きたくもない言葉を再び耳に入れてしまった。


「ククク、八神はやてといったか? 中々いたぶり甲斐がある女だったぜ。まだ幼いにも関わらず、必死にこのゲームを否定していた。だけど、ちょいと突いてやれば、途端にあの様だ。涙を流して、血を吐いて、いい声で鳴いてくれるのさ。だから、このオレもついつい力が入っちまった。もっと長く遊ぶ予定だったが、目と耳と腕と足を潰して、皮膚を剥ぎ取り、神経を掻き毟ったところで、ケケケ、死んでしまった。しかし、かわいそうなもんさ。最後まで助けを呼んでたのに、誰も助けに来ないんだからな。助けて、助けて、シグナム、ヴィータってな。あはははははははは!!」


空っぽになった心。そこ感慨などはない。ただ空虚な暗闇が、そこに広がるだけだ。だけど、立て続けに火種と薪をくべられれば、どんなところにだって否応にも火がつく。そして猛火となって燃え盛るヴィータの激情は、エネルギーとなって、ついにヴィータの身体を動かした。


「てめえは許さねえ。てめえだけで絶対に殺す」

「言葉の威勢はいいが、その様では負け犬の遠吠えでしかない」


そう戸愚呂兄が評すのは仕方のないことであった。ヴィータの身体には幾つもの穴が開き、血が絶えず流れ出ている。既に行動自体が危ぶまれる重傷だ。ろくに反撃の目すら残されていない。だから、余裕たっぷりに戸愚呂兄はヴィータに最期を告げた。


「死ね」


その宣告と同時に男の指が伸び、再びヴィータを無残にも貫こうと迫る。それは戦闘プログラム体であるヴィータですら死に到達するかもしれない槍衾。それを身体に受けてしまったら、それこそ終わりだ。だけど、ヴィータの内にある怒りはその未来を否定した。戸愚呂兄の攻撃が迫るよりも前に、ヴィータは自らの武器の名前を叫ぶことに成功したのだ。


「アイゼンッ!!」

『Jawohl(了解)』


ヴィータの咆哮と共に胸のペンダントは鉄槌へと変貌。またそれに伴ってシャツにデニムのスカートといったラフな格好から、真紅に染まったシックなブラウス、ジァケット、フリルスカートという服装に変わったのだ。そしてヴィータの命を奪おうとした全ての突槍は、空中に突然と現れた魔方陣の形をした紅いシールドによって防がれることとなった。


「な、なんだ、それは!?」


今度は戸愚呂兄が疑問をぶつける番であった。無理もない。満身創痍の少女がいきなり変身して、魔法を使ったのだ。驚くなと言う方が無理な話だ。しかし、ヴィータにはそれに答えるだけの義理もないし、またそうするつもりも毛頭ない。だから感情の赴くままに、ヴィータは自らの身体を動かした。


「カートリッジロード!! ラケーテンハンマー!!」

『Explosion(爆発)』


鉄槌の柄に組み込まれた3連装回転シリンダーから、頭部の燃焼室に魔力の塊が送られ爆発。
そのエネルギーによりハンマーヘッドの片側がスパイクへと形状変化し、更にその反対側では噴射口が開く。そしてヴィータが鉄槌を構えると同時に、噴射口からロケットのような火が噴き、加速。ヴィータを中心に回転するその勢いは凄まじく、瞬く間に空気は巻き上げられ、竜巻を呼び込む。そして猛威と化した鉄槌――グラーフアイゼンを、ヴィータはそのまま容赦なく戸愚呂兄の頭へと叩きつけた。


「ブッ潰れろッッ!!」

「あみばっ!!」


その有り余る破壊エネルギーは筆舌に尽くしがたい。一瞬で戸愚呂兄の頭を粉微塵にして、それでもなお収まらないエネルギーは、戸愚呂兄の残った身体を、工場の建屋を壊すくらいの勢いで吹き飛ばしていったのだ。戸愚呂兄を死に至らしめる圧倒的な暴虐。それはヴィータが一切の遠慮なく吐き出した自らの気持ちであった。しかしそれでもヴィータの怒りの炎はいまだ燃え盛り、ヴィータの身体を焼き尽くしていた。


「シュワルベフリーゲン!! 絶対にッ、絶対に許さねえ!! はやてを殺したてめえだけは絶対にッ!!」


鉄球を魔力によって召喚し、ハンマーフォルムに戻ったグラーフアイゼンによって、それを戸愚呂兄の方へ打ち出す。爆音を立てて、工場は壊れていく。最早、八神はやて殺した仇は、生きてはいまい。頭の中でそう囁けど、ヴィータの感情はいまだ収まりを見せなかった。だからヴィータは魔力が続く限り鉄球を召喚し、体力の続く限りそれを打ち出していった。


「ハァ、ハァ……チクショー。ごめん、ごめんよ、はやて……」


どれだけの攻撃を放ったのだろうか。やがて息の切れたヴィータが、地面に膝をつき、涙ながらに頭を垂れた。八神はやてを守ることができなかったのだ。その至らなさが、ヴィータにはどうしても許せない。悔し紛れに、地面を何度も、何度も拳で殴りつける。勿論、それだけでは何ら気が晴れることはない。だけど拳から流れ落ちた血を見て、ヴィータの中に燻り続けた感情は不思議となくなった。


「あれ、アタシから……血? いや、何でアタシは生きてんだ?」


ヴィータは闇の書という魔導書から生まれたプログラム生命体。そしてその核となるのは、闇の書に選ばれた八神はやての魔力である。つまり八神はやてが死ねば、同時にヴィータを構成するプログラムの核を失い、ヴィータ自身も消滅を免れない。しかし、実際にはヴィータはこうして生きている。それはつまり八神はやてが生きているということの何よりもの証左だ。


その結論に辿り着いて、ヴィータは乾いた笑いをこぼした。確かにそこには喜びがある。死んだと思っていた八神はやての生が確認できたのだ。嬉しくないはずがない。だけど、それと同じくらいの絶望がヴィータを襲っていた。何故なら、たった今、八神はやてが最も忌避する殺人を、ここで、この手で行ってしまったのだから。


「はは……何が早まるなよ、か。一番早まった真似をしてんのは、アタシじゃねえか」


妙な男の挑発に簡単に引っかかり、自らの手を血に染めてしまったのだ。それは自分が嫌悪した仲間の、主への誓いの裏切りに他ならない。勿論、あの男が人間じゃないという慰めの言葉がある。だけど、それでもあの男は生きていたのだ。そしてそのたった一つきりの命をヴィータは奪ってしまったのだ。それは否定しようのない事実。だから八神はやての傍にいる資格を失ったことを、ヴィータは涙ながらに悟らざるを得なかった。


ここにいるのは紛れもない不忠の騎士、稀代の裏切り者だ。
もう八神はやてに会わせる顔はどこにもない。それはたった今ヴィータ自ら捨て去ってしまったのだから。だけど、それでも八神はやてを大切に思う気持ちに嘘偽りはない。八神はやてこそヴィータの最優先事項なのだ。


だから、ヴィータは残されたたった一つの選択肢を、選び取るより他はない。
ヴィータは自分が起こした惨状を目の当たりにして、そのことを痛感した。



【一日目 深夜】
【現在地 B-6 工場跡】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのは A's】
【状態】全身に刺傷(回復中)、拳に擦り傷(回復中)、疲労(極大)、魔力消費(極大)
【装備】グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのは A's
【道具】ランダム支給品、支給品一式
【思考】
 基本 八神はやてを守る
 1. ……
 2. はやてを守り抜く
【備考】
※戸愚呂兄を殺したと思っています
※工場は木っ端微塵に破壊されました




瓦礫と化した工場の下で、バラバラになった肉片が動き出し、徐々に一つの固まりになっていく。それは異形であった。肉も骨も神経も内臓も剥き出しで、なお一つの生命体として成り立っているのだ。だけど見れば、気がつく人もいたであろう。そこに戸愚呂兄の面影が確かに残っていたことを。


(少しはしゃぎ過ぎたか? だが、まあ、いい。おかげで名簿に書かれていたことが事実であることが分かった)


詳細名簿。それが戸愚呂兄に支給されたものであった。その中に参加者の出自や経歴、能力が、事細かに記載されている。初めはその突拍子もない内容に当然の如く疑ってかかったが、試しにヴィータと呼ばれる少女にちょっかいを出して、戸愚呂兄は確信した。詳細名簿に嘘はない、と。これさえあれば、随分と楽しんでゲームを進めることができる。何せここにいる奴らの大半は、ヴィータのような単純な馬鹿ばかりなのだ。戸愚呂兄は、愉快な未来に思いを馳せ、心の中で大笑した。



【一日目 深夜】
【現在地 B-6 工場跡】
【戸愚呂兄@幽遊白書】
【状態】全身バラバラ(回復中)
【装備】なし
【道具】詳細名簿@オリジナル、武器支給品、支給品一式
【思考】
 基本 殺し合いを楽しむ
 1. 回復を待つ



【支給品説明】
  • グラーフアイゼン
紅の鉄槌の姿を持つデバイス。アームドデバイスとしての基礎機能を高いレベルでまとめつつ、優れた魔法補助能力も持ち合わせたバランスの良さが特徴

  • 詳細名簿
名前以外に参加者の経歴、プロフィールが記された名簿。



21:Highway Star <BACK  NEXT> 23:Come Together
ヴィータ 42:Who killed Cock Robin
戸愚呂兄 62:I Miss You



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最終更新:2012年07月05日 00:01