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極十字を刻む二本の手刀が襲ってきた。烈風のように空気を切り裂き、全てを薙ぎ払うが如く、その刃は吹き荒れる。その切れ味は凄まじく、鬱蒼と生い茂る木々は、瞬く間に切断され、次々と地面に倒れていった。だけど、その荒れ狂う嵐の中に佇む一人の少年ダイの身には、僅か数えるほどのかすり傷が生まれるだけであった。


「……小僧、その闘気は何だ?」


いつまで経っても変わらぬ状況に、サウザーは攻撃の手を休め、ダイに訊ねた。自らが誇る最強の拳法 南斗鳳凰拳の技が通用しない分かっても、そこに自信が損なわれる様子はない。金色の輝く総髪を後ろに流し、覇気を伴う眼光を小揺るぎもさせないその帝王たる威容を掲げながら、サウザーはダイを悠然と見下ろしている。対するダイも嵐の中に震える臆病者ではなく、それと立ち向かう勇気ある者の瞳でもってサウザーを見据えた


「竜闘気(ドラゴニックオーラ)だ!」


その迷いのないダイの発言に、サウザーは僅かに眉をひそめた。てっきり拳法の流派や技の解説が聞こえてくるものと思えば、耳に入ってくるのは闘気の名称のみ。それでは相手が誰で、何なのか、さっぱり分からない。最強たる南斗鳳凰拳の看板を揺らすという大業を為したのだ。その者の拳法や使い手の名ぐらいは覚えてやろうとも思ったが、名乗りを上げないのであれば、しょうがない。サウザーは再び空気を押し分け、ダイの方に力強く歩みを進めていった。


「小僧、その闘気の鎧は見事なものだ。だが、その闘気で果たして眼球を守れるか? 鼓膜を守れるか? 口腔を守れるか? 我が極星十字拳で、それを確かめてやろう!」


その言と共にサウザーは神速の踏み込みでもって、ダイの眼前に現れる。そしてすかさずサウザーはダイの目に向けて、二本の手刀を放った。その一連の行動は、まさに一瞬とも思われる速さで行われたが、さすがに事前に攻撃箇所を宣言されていれば、対処の仕様は幾らでもある。ダイは難なくサウザーが振るう手の刃を受け止めた。だけど、それとてサウザーの予想の内。次の瞬間、ダイの腕はサウザーに掴まれ、ダイは自らの股間に新たな衝撃は走ったことを知った。


「~~ッ!?」


ダイは悲鳴とも叫び声とも判断つかない声を上げた。無論、そこは竜闘気で入念に覆われた箇所だ。どんなに強く蹴られたとしても、サウザーの足では、ダメージなど寸毫も与えられない。だけど悲しいことに、そこには男としての大事なものがある。そこに衝撃があれば、幾ら些細なものであれど、恐怖から背筋を凍らせてしまうものなのだ。それは幾多の戦闘経験を積んできた竜の騎士とて例外ではない。そしてその絶大なる隙にサウザーは再度の極星十字拳をダイの目に見舞った。




暗闇の中、鮮血が舞い散る。その箇所は二つ。
一つはダイの右瞼の上から、そしてもう一つはサウザーの口からだった。


「フ……小僧、この帝王の身体に傷をつけたか」


口の端から血を垂れ流しながら、感心と憤怒でもってサウザーは呟く。あの局面から、こちらの攻撃をかわし、反撃を加えてくるのは、まさに相手の力量の程を表すもの。年端もいかない少年がそれをやってのけるなど、サウザーでもっても思わず感嘆の息が漏れる。だが、それによって不敗たる自らの身体が傷つけられとあれば、最早相手を許せる道理もない。サウザーは両手を広げ、ついに最強を証明する南斗鳳凰拳唯一の構えを取った。


風が吹き荒む。枝葉はざわめき、幹は慄くように震える。天が、大地が畏怖する程の苛烈な闘志の発露と威風。サウザーが構えただけで、天災にも等しいような猛威がダイに押し寄せたのだ。だけど、ダイは右目にかかる拭うと、力強く立ち上がり、サウザー以上の怒りでもって、敵に咆哮した。


「なんでッ! なんで殺し合いなんかをするんだ! これじゃあバーンの思惑通りじゃないか! おまえはバーンを喜ばせたいのか!?」


人間を滅ぼそうとやって来る魔王軍に対して、いま人類は総力を合わせて、それと戦っている。この戦いで人間が負けたら、それこそ人の終わりだ。それなのに目の前の武闘家はバーンの言葉に物の見事に躍らせられている。人間の未来の為に歯を食いしばって頑張っている仲間たちを知る故に、ダイはより一層手前勝手な行動を取るサウザーが許せなかった。しかし、文字通り世界が異なるサウザーにとっては、そんなことは埒外のこと。故にサウザーの口から出るのは、単なる疑問だった。


「バーン? ……そうか、きさまは一番最初にあのジジイに食って掛かった小僧か。……答えろ! バーンとは何者だ?」

「バーンは魔界の王だ。今は魔族を率いて、人間界を滅ぼそうとしている。だから、おれたちは皆で手を取り合わなきゃいけないんだ! 戦う相手は人間じゃない! 戦うべきはあの大魔王バーンだ!」


魔界に魔族に人間の終わりと仰々しい言葉がサウザーの前に並べられた。そのどれもがサウザーにとっては初耳のことではあったが、別段そこに驚きはなかった。ダイとは世界が異なるとはいえ、サウザーの世界にも似たような言葉を弄する輩が腐るほどいるのだ。だからダイが言う危機感も、ダイとの世界の相違にもサウザーは気がつけなかった。


「フフフ……まさかこの俺やラオウ以外にも王を吹聴する輩がいるとはな。だが天空に輝く極星は、このおれの南斗鳳凰拳の将星のみよ!」

「この分からず屋が! 皆が死んじゃうかもしれないんだぞ!」


ダイの両の手の甲にある竜の紋章が輝き、内在する竜闘気の全てを怒りのままに開放した。天をも突き上げるように迸る竜闘気は、サウザーから押し寄せていた覇気を打ち消し、ざわめく大木たちをなぎ倒す。あまつさえ、夜の暗がりに支配された辺り一体をを白色に染め上げた。
それはまさに神の顕現とも思われる神々しき姿であった。聖帝として君臨するサウザーすらも、その様に一筋の冷や汗を流す。だがさりとて、それで自らに後退を許すサウザーでもない。


「それがどうした!? 南斗鳳凰拳の前に立つのは全て下郎! 我が鳳凰の羽ばたきは何人にも止められぬ! ラオウやバーン、そしてきさまとて例外でないわ!」

「一人で、一人でなにもかも出来るわけないじゃないか! バーンを甘く見すぎだよ! それにおれたちに闘う理由なんてない!」

「小僧、きさまがおれの前に立ちはだかった時から、既に勝負は始まっていたのだ!」


そう言うや否や、サウザーは天を舞うかのように跳躍して、ダイに渾身の極星十字拳を放った。天をも慄かせる南斗鳳凰拳は、それこそ死への導きに相応しい技だ。ただの人に抗える余地など微塵もない。だけど、それを受け止めるダイは、二つの竜の紋章を持つ天をも凌駕する強者だ。勝負の明暗は、はっきりとした形でサウザーに伝わった。


「……何故反撃してこぬ?」


自らの必殺の手刀を、微動だにせずに竜闘気のみで防ぎきったダイにサウザーは訊ねた。


「おれは闘わないっ! 例えこの島にいる皆が攻撃してきたって、おれは闘わないっ! 絶対に闘わないぞっ!!」


身体を包む竜闘気を、より一層膨れ上がらせながらダイは叫んだ。それはこの地獄でも何ら変わることのないダイの信念であった。人などは守る価値などない。かつてダイは父であるバランにそう言われたことがある。確かに人は残酷で自分勝手な生き物だ。ダイも自らの経験でそのことを痛切なまでに知った。だけど、それでもダイは知っている。そんな人間たちの中にも、一生懸命頑張って正しいことをしようとしている人たちがいることを。だから、ダイは人間が大好きなのだ。そしてそんな彼らと一緒にいたいと思えるのだ。


「小僧、それはこのおれを舐めているのか? このおれがきさまに勝てないとでも思っているのか?」

「違う! おれは皆を守りたいんだ! 皆の命を大切にしたいだけなんだ!」

「皆だと? きさまはこの島にいる全員に情をかけるというのか?」


その疑問にダイは、迷いのない力強き目線で答える。そこには万の言葉以上に説得力のあるものだった。だけど、それはサウザーにとって、許し難き考えの表明でしかなかった。愛や情。それは一体どれだけ苦しみと哀しみをサウザーに与えてきたか。愛したからこそ、愛されたからこそ、そこに生まれる地獄があるのだ。サウザーは目の前で妄言を吐くダイを否定すべく、更に気炎を揚げた。


「帝王に愛などいらぬ!! はむかう者には死あるのみ!!」


射殺すかのような鋭き眼光と共にサウザーは容赦のない殺意をダイに向ける。それに伴ってサウザーの筋肉は膨張し、闘気も増大。次第にサウザーの手刀は、ダイの竜闘気を押し分けていった。しかし、その死神の鎌が肌に触れても、ダイは抵抗など見せなかった。いや、できるはずもなかった。


殺気溢れるサウザーの瞳。確かにそれは身が竦むかのような恐ろしさを持つものだ。だけど、その凍てつく目は、ダイにとって見覚えのあるものだった。それはかつて人を愛し、人を憎んだ自らの父――バラン。ダイはそのバランと死闘を演じ、その果てにバランは決して憎しみだけに支配された存在でないことを知った。だからこそ、ダイはサウザーの瞳の奥に隠されているもう一つの感情に気がついたのだ。


「嘘を吐くな!!」

「な、なにっ!?」

「愛がいらないって言うんなら、どうしてそんなに哀しい目をしているんだよ?」

「このおれが……哀しい目だと?」

「愛は苦しいかもしれないよ。おれだって人が大好きだからこそ、傷ついたこともある。だけど、そこにはいつだってぬくもりがあった。温かくて、優しくて、笑顔でいられるようなぬくもりが……。おまえだって、そのことを知っているはずだ!」


サウザーに脳裏に浮かんだのは、師であるオウガイとの日々だった。その別れこそ悲劇に見舞われてしまったが、そこに至るまでは陽だまりのような温かい思い出に溢れていたことは確かだったのだ。拳法の修行は厳しくこそあれ、辛い時や悲しい時はいつだって師の胸の中で抱きしめられ、優しさを貰っていた。


「ぬくもり…………お、お師さん」


気がつけば、サウザーの腕から力が抜けていた。愛への憎しみばかりに目を向けて、そこにあるはずの大切な想いを見失っていたのだ。そのことにようやく気がつけたサウザーからは、殺意が嘘のように剥がれ落ちた。ダイもサウザーの変化を感じ取り、再び協力してもらおうと声を掛けようとする。しかし、それはサウザーによって無残にも振り払われてしまうこととなった。


「小僧、皆を守ると言ったな? ならば、この胸にある禁呪という秘孔は、どうやって解除するつもりだ?」

「ヒ、ヒコウ? いや、えと、おれだけじゃ、どうしていいか分からない。だけど、ポップならきっといい解決策を見つけられるはずだ!」

「フフ……これをどうにかできる、と? ならば、さっさと行け! この聖帝サウザー、二度も見逃すほど甘くはないぞ! この胸にある秘孔が解除できなかった時が、きさまとその仲間の最後だと知れ!」

「え? えーと?」

「小僧、きさまの命を一時預かると言っているのだ。死にたくないのなら、さっさと動くことだな!」


その言葉を聞いて、状況をようやく理解したダイは元気よく返事をして、勢いよく森の中に駆け出していった。さっきとは打って変わって従順な姿勢を見せるダイを、サウザーはほほえましく思う。だが、とサウザーは自分の内から湧き出る想いを強靭な意志によって切り捨てた。如何に愛のぬくもりを思い出したからといって、それは今更のことだ。これから生き方を変えていけるほどサウザーは器用な性格ではないし、また自らが王に相応しいことに彼は疑いを持っていない。だから、サウザーは以前と変わらず覇道を歩むつもりだ。
だけど、サウザー自身が気がつかなくても、見れば気がつく人もいただろう。そこには北斗神拳伝承者ケンシロウと同じように哀しみと苦しみを背負った姿があったことを。



【一日目 深夜】
【現在地 B-6】
【サウザー@北斗の拳】
【状態】健康、頬に殴られた痕
【装備】なし
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
 基本 帝王として君臨する
 1. ダイが禁呪を解くのを待つ
 2. 刃向かうものは皆殺し
【備考】
※愛のぬくもりを思い出しました
※禁呪は秘孔の一種だと思っています





「レオナより偉そうな人だったな~。やっぱりどこかの国の王様なのかな?」


ダイにとっては見覚えのない顔だったが、あの言動はまさに王様でしかありえないものだった。もしサウザーが本当に王だったのなら、バーンと決着をつけた後のレオナとのやり取りが無駄に想像できてしまう。そのことに思いを巡らせて、ダイは思わず溜息が漏れた。


「は~、それにポップに黙って勝手に禁呪を解除できるなんて約束しちゃったしな~。またポップに怒られちゃうかな?」


その場のノリと仲間への信頼から、随分と調子のいい発言をしたことを思い出して、ダイは後悔した。勿論、ダイとしては嘘を言ったつもりはない。艱難辛苦を乗り越えてきたポップなら、やってのけるだろうという思いは確かな形としてダイの中にある。だけど、その言葉の内容には何ら保障はないことも事実だ。他人が見れば、それはより顕著となることだろう。そしてもし禁呪を解除できなかったら、サウザーは自分ばりか、ポップをも殺しにかかってくるという。


「……と、とにかくポップを探さなくちゃ」


ダイは額に冷や汗を一つ流し、慌ててトベルーラを唱えて、夜空に飛んでいった。



【一日目 深夜】
【現在地 B-6】
【ダイ@DRAGON QUEST-ダイの大冒険】
【状態】健康、右瞼に切り傷
【装備】ダイの剣@DRAGON QUEST-ダイの大冒険
【道具】ランダム支給品、支給品一式
【思考】
 基本 殺し合いの打破
 1. ポップを探す
 2. 協力者を探す
【備考】
※人間相手には極力戦闘を行わないつもりです



【支給品説明】
  • ダイの剣
ロン・ベルク作の、オリハルコン製の剣。意思を持っており、剣自体が使われるべき時だと判断するまで鞘から抜くこともできない。埋め込まれた魔法玉はダイの闘気、意志あるいは存在そのものに反応して輝く。なお、ダイが死ぬと魔法玉の輝きも消えて剣の命も失われるとされる。



20:Wild World <BACK  NEXT> 22:Toy Soldiers
サウザー 30:Free as A Bird
ダイ 43:Smells Like Teen Spirit



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最終更新:2012年03月13日 20:26