希苑組SS


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ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS9『助勢』


「あなたは騙されているんですよ」

会議室の中央に座る彼女の周囲を、規則正しい足音が回っている。
時計のようにコツコツと、彼女の心を焦らせるように。

「花組の調査結果の正確さは保障いたします。
 ダンゲロス子による、弱小魔人の大量虐殺。
 桂珪馬の、一般人に対する間接的無差別殺人。
 ノリノリのり子の公然わいせつ。
 魔山アリスクローンの出自詐称疑惑。
 エン・ジェル先生のレイプ疑惑。
 夏川文尊の転校生魔戒十条違反――」

ポーカーフェイスの笑顔が、俯く彼女を覗き込む。

「――雛森先生。
 あなたの所属する希苑組は、紛れもない犯罪者集団です」

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              08 雛森瑞穂

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「玄葉君。あなたは優しいのね」

「そうでしょうか」

顔を上げ、かすかに微笑みを浮かべる雛森。
対する玄葉の表情は、やはり変わらない。

「ねぇ玄葉君。少し、お話をしてもいいかしら。
 先生はね。この学園の子供達全員を、守ってあげたいの」

「ならば尚更、青空の会に加わるべきでは。
 雛森先生の能力は、希苑組の凶行から無力な生徒達を救う事ができる。
 盾は加害者のためではなく、被害者のために在るべきもの――
 救いを求める者にこそ、必要な力なのです」

「希苑組の子達は、救いを求めてはいないのかしら……?」

「……意味が分かりかねますが」

「あの子達が今までひどい事をしてきたのは……先生も分かっているわ。
 でもね。あの子達と一緒にいるうちに、だんだんと分かってきた気がするの。
 どうして彼らがそんな事をしてしまったのか。そうしなければならなかったのか。
 ……きっと救いを求めているのは、あの子達も同じなのよ」

自分が無表情で助かる、と玄葉は思う。
世迷い事を。そんなものは本当に分かった『気がしている』だけだ。
あの異常集団にそんな人間らしい事情など、存在するはずもないのに。

やはり未来の言っていた通りだ。
理想論を語るだけの、頭の悪い偽善教師。

「フ……なるほど。
 ですが雛森先生。その彼らの悩みとやらをあなたが解決できる保障は?
 いや、それが可能だとしても……
 彼らが心を入れ替えるまで犠牲になり続ける生徒達の事はどうお考えに?
 希苑組の犯罪者達の命は、そこまでする価値のある……
 他のあなたの教え子の命よりも重いものだと?」

「……違うわ。でも、それでも私はあの子達を救いたいの。
 青空の会を味方する人は、私じゃなくてもいくらでもいる。
 私がいなくなったら……誰があの子達の味方をしてあげるの?
 あの子達は誰からも敵意を向けられて……嫌われて……それでも戦っている。
 どうしてそうしなければいけないのか――玄葉君は考えた事がある?
 強いから、悪い事をしてきたから救いを求めていないなんて、
 そんなわけはないのに……」

――まともな説得は通用しないか。

「そうですか。ならば仕方ありませんね」

雛森の椅子のすぐ後ろで、玄葉の足音が止まる。
整った笑顔はあくまで崩さず……隠し持っていたN2爆雷を取り出す。

「任務は失敗です。自分はもう死ぬしかないでしょう。
 カナメ未来がそういう生徒だという事は、もうご存知のはずです。
 至近距離でこれが起爆したとしても、あなたは無事でしょうが――
 自分は確実に死ぬでしょうね」

「……」

「考え直していただけませんか?」

自身の命を盾にした脅迫。
その信念と理想論が本物であれば、従うしか道はないだろう。
念のために持ってきて良かった。これでこの女は――

「ごめんなさいね。玄葉君。
 先生は……優しくない教師かもしれない」

いつの間にか、彼女の手がN2爆雷に触れていて。

「……え」

――状況が分からなかった。

何故、自分から起爆スイッチを……
閃光で目が眩み。遅れて爆風が体を消し飛ばす。

まさか……自分がこんなに、呆気なく。

「――でも大丈夫。
 心配しないで」

「っ!……生きて……ッ!?
 今、能力を……」

「希苑組も……あなた達も、
 先生がみんなを守るから」

儚い笑顔を見せ、雛森は会議室を去っていった。
一人残された玄葉はその後姿を見送って、携帯に手をかける。

(……あくまで見捨てない、か。
 フフ……こちらだって、希苑組の事など言えないだろうに――)

“役立たず”

携帯の向こうから、彼女の第一声が響く。



ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS10『浮上』


早朝。うっすらと霧に覆われた希望崎学園の階段を、
パタパタと駆け上がる小さな足音があった。

「なぁ、本当にこんなところにいるのかー?」

「本当だよ! うちのおにいちゃんが見たって言ってたもん!」

「で、でも……危ないよぉ……
 希望崎学園には怖い人いっぱいいるって……」

「だから人の来ないうちに見に行こうってんだろ!
 それでどんな奴なんだよ!」

「えっとねー、えっとねー、
 こーんな大きい妖精さんでね、パタパタするとリンプンが飛ぶって!」

「バッカお前、んなデカかったら妖精じゃねーだろー」

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         12 EXヒュージ・フェアリー

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三人の子供は、屋上を目指して走り続ける。
高校生にとっては普段何気なく上る何の変哲もない階段であっても、
まだ幼い彼女らにとっては大きな冒険であり、長い道のりとなった。

そして、あと少しで妖精の出る屋上に出るというその時。
彼女らは踊り場に寄りかかる影を見つける。

「あー! ハジメ兄ちゃん!」

「なんだよハジメ! そのケガどうしたんだー?」

「あ……あの……おはようございます、ハジメさん……
 大丈夫……ですか?」

ハジメと呼ばれた男は声に振り向き、小さく片手を上げる。

「よう」

三人ほどではないが、まだ若い――
高校生から大学生ほどの青年だ。
しかしその全身は包帯に塗れ、松葉杖を使ってようやく立っているという有様だった。

「ッハハ、ちょっと喧嘩で負けちまってさ……
 よっ……と。格好悪いとこ見せちまったな。
 せっかく会えたのに、このザマじゃ遊んでやれねえかな」

「えー? やーだー! ハジメ兄ちゃんと遊ぶー!」

「んだよ、負けるなんてだっせーなー!
 なんならオレがケンカ教えてやってもいいぜっ!」

「だ、だめだよ二人とも……ひどい怪我だし……無理させちゃだめ……」

「そういえば、ハジメ兄ちゃんが怪我してるとこなんて初めてみたかも……
 ……どうしたの?」

「ん? 俺だって負ける時はフツーに負けるさ。
 お前らもやたら喧嘩しちゃダメだぞー。
 ほら。骨とかこーんな風に折れちゃうかも」

「きゃっ!」

三角巾で吊った腕をぶらぶらと揺らしておどけるハジメ。
子供達もきゃあきゃあと騒ぎながら楽しんでいる。

「……っていうかお前ら、ダメだろ、こんな所に来ちゃあさ。
 希望崎学園は怖いところだぞ。
 悪い奴らがうじゃうじゃいるしな」

「でもハジメだっているじゃん。
 ここが怖いとこなら、なんでハジメこそそんなところに居たんだよ?」

「バカ……そんなの決まってるだろ」

ハジメが笑う。
目の前の子供達と同じような、悪戯っぽい笑み。

「――俺はお前らのヒーローだからな。
 悪い奴らを成敗しなきゃいけないんだよ」

「あはははっ、イヤだー! ハジメ兄ちゃんまたそんな事言ってー!」

「むー……またいつもの冗談じゃん。ごまかすなよなっ!」

「ふふっ……ハジメさんは僕らのハジメさん……ですよ……
 ヒーローなんかにならなくても、僕らはハジメさんのこと大好きですから……」

「あーあー。いいからもうお前ら帰れ帰れ。
 それ以上行くと母ちゃんに言いつけるぞ」

「はぁーい♪」

パタパタと遠ざかる足音を聞いて、
ハジメは再び……壁に寄りかかる。
俯くその頬には――

「……っ……う……ううぅっ……」

涙が。

「すまない……! すまない…………!」

屋上の扉の窓に巨大な影が差す。
彼はひたすら、『それ』に向けて謝罪の言葉を呟いていた。

「俺が――俺が、無力だから……!」

背中の包帯に、じわりと血が滲む。
『それ』の攻撃は無差別だった。
ハジメは最初から……降る無数の刃から子供達を守るために、
屋上と彼女らの間に立ち続けていなければならなかった。

踊り場の窓から、『それ』が飛び立つ姿が見える。
舞う鱗粉がキラキラと光って……
登る朝日の中、その悲しい存在を幻想的に照らし出してる。

「……俺が……君を救えていれば……
 すまない…………俺は……弱すぎたんだ……
 うう……うっ……」

ヒーローは勝ち続けなければいけない。
負けてしまったものは、ヒーローではない。
ハジメが力を失ったのは、きっとその報いだ。

――負ける時は、普通に負けるさ。

「ぅっ……く……ぅっ………」

希苑組の手から救えなかった生徒の恐怖が、悲しみが……
あの妖精を生み出した狂気に、込められている。

無力な彼は、もう『それ』を救う事はできない。
それが元『転校生』……人里ハジメの罪だ。



ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS11『顕現』


「よぉ。楽しんでるか? ご同類」

返ってくる言葉はない。
当然だ……呼びかける相手は、深く寝入っているのだから。

「そうか。それはよかった」

しかし声の主は返答のない事などお構いなしに言葉を続け、
文字など見えないはずの暗闇の中で、膝の上の本のページをめくり続ける。

「楽しくて楽しくて仕方がないってか? 『転校生』。
 律儀にルールを守ってる連中を反則放題で踏みにじるってのはよ」

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             07 高無次元

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話しかけられている相手――小さな少女は、
どういう趣味で誰が作ったのか……
巨大な玉座に寄りかかり、安らかに寝入っていた。

声の主の座る椅子は、それとは対照的だ。
どこにでもあるような、安っぽいパイプ椅子。

「……で、俺が呼び出される時はさ。いつも言ってやる言葉があるんだ。
 当ててみろよ。何だと思う?」

自分の頭の中だけで自分の言葉に返答しているのだろうか。
それともただ、狂った独り言を呟き続けているだけなのだろうか。
声の主はたった一人で、しかしごく普通に、友人に話しかけるかのような調子で――
暗闇の中、会話を続けている。

「はずれだな。正解はもっとシンプルだよ。
 『現実を見ろ』、だ」

「どんな次元だろうがどんな存在だろうが、
 生きてる奴は、生まれた世界だけがそいつにとっての現実だ。
 ……だってそうだろ? 三次元の奴がいくらネトゲで強くなったところで、
 現実でそいつがニートだって事実だけは動かせねえし、
 現実で餓死すりゃあそのキャラクターも同時に死ぬわけだからな」

「要は全部生まれた世界が基準って事よ」

ページを捲りながら、声の主は一人で少女に向かって話し続ける。

「だから『現実を見ろ』……何も変わらねえよ、『マダマテ』。
 お前がいくら万能を奢ろうが、ここはお前にとっての現実じゃない。
 三次元の奴は、いくらでも二次元の世界で最強になった妄想ができる。妄想だけはな。
 お前の『強さ』なんてのは――言ってみりゃそれと同レベルの、薄っぺらな強さだ」

「いくら強くても、お前にできるのは精々登場人物を何人か動かす程度じゃねえか……
 この世界をブッ壊す事も大きな流れを変える事も、何もできやしねえよ。
 既に筋の決まってるストーリーを反則し放題で作り変えるのはそいつの自由だが……
 誰もそんな勝手な改変は認めないだろ? 二次元が三次元に手出しできないように、
 三次元も二次元には口出しできないわけだよ」

「おいおい。怒ったか?
 そう言われると心外だな。俺はほら、願われたから来てやってるだけだしな。
 それに俺の方は、お前と違ってちゃんとルールは守ってるぜ?
 ほら、郷に入っては郷に従えってやつよ」

「……無理だよ。どの道お前の望みも最初から無理な話だったんだ。
 常識で考えりゃあ分かる事なのに……
 二次元の女と結婚したいとか抜かすようなもんだ。桂珪馬と同レベルだぞ」

勝手に反応し、勝手に返す。
全てが彼の妄想かもしれないが、どこまでも一方的に会話は続く。

「チッ、本当は楽になりたいと思ってるくせに……
 そりゃお前の次元は現実を見ても見なくてもそんなに違いはないだろうけどさ。
 それでも、そこがお前にとっての現実なんだよ」

「……いや、だからお前が他の奴と比べてちょっと異常だってのは分かってるよ。
 じゃあお前のいる現実にそれを治療する方法は確立されてねーの?
 お前の症例はお前の次元じゃそこまで特殊なケースなの?」

「こっちじゃあ珍しくもなんともないんだけどな」

ページを捲る音。小さな寝息。
そして、延々と続く独り言。

――どれだけ時間が経っただろうか。
やがて、声の主が席を立つ。

「ああ、そろそろ時間だ。お前も早いとこ目覚まして来なよ。
 ……あ? いや、俺はそこそこ楽しいよ?
 だって俺はこれ終わった後帰るもん。二次元に」

「お前も『楽しいから』にしといた方が、ほら、後々楽だぜ。
 自分で小難しい理屈こねて苦労してるから、
 また小難しい理由で悩む羽目になる……
 そんなガキ、お前にとっちゃもうどうでもいいだろ。所詮二次元嫁だろ」

「もう一度だけ聞くぜ『マダマテ』。
 楽しんでるか?」



ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS12『開戦』


(※漫画版ジャイアントロボの九大天王登場シーンのイメージで)

「焼き尽くし!」

       「犯し尽くし」

   「……撃ち抜き」

 「喰らわせて」

        「攻略するは」

  「木偶の標的」

     「我らはただ、自らの願いを叶え」

 「信念を守り抜く」

     […………]

「どこまでも自由に飛ぶ」

        「盤上の、12の、球」

 「それこそが……我ら……」

   ――『希苑組』。








最終更新:2009年07月24日 12:32