魔術

魔術(まじゅつ)とは、ユノワールに存在する魔法から派生した技術のうち、影響先を精神層に限ったものである。

魔術は魔法の派生技術の一つで、気功とともにこの世界での標準的な戦闘手段となっている。
気功に比べて魔術は学問的な要素が強く、歴史上何度も失われたり蘇ったりしている。




概要

 魔法は広範囲にわたって物理的な影響力を持つ。
魔術は広範囲にわたって精神的な影響力を持つものである。
精神にある霊子を使って物質層に干渉する場合、膨大な霊力を必要とする。魔術は影響先を操作元と同じ精神層に限ることで、必要な霊力を大幅に節約している。

端的にいえば魔術はマインドコントロールに過ぎない。魔術によって起こされる火炎や氷は実際に具現化されたものではなく、あくまで幻覚の類である。しかしながら、その幻覚を受けるは肉体と連動しているため、魔術で攻撃すれば多少なりとも肉体へのダメージも発生する。

魔術は高度に理論化された技術であり、その習得には学習を要するが、基本的には理解すれば自由に扱えるため、魔法学校などで教育されている。

なお、「魔術」という名称は安定せず、時代や地域によっては「魔法」と混同される。これは魔法側がそもそも人類にとってあまり身近な概念ではないことが原因であると思われる。

 魔術の文脈において、原動力となる魂の力は魔力と呼ばれる。闘気とは用途や考え方が違うが根本的には同じ霊力を由来としている。



利点と欠点

 魔術は魔法や他の技術に比べていくつかの利点と欠点がある。ここでは比較対象を魔法としていくつか挙げる。

消費霊力が少ない
魔術の成立目的である。魔法は通常、簡単な奇跡を起こす場合でも多くの霊力を必要とし、大規模になれば容易に命に関わる。魔術ではイメージ上は魔法と遜色なく、それでいて消費霊力は大幅に(1/100程度)削減している。
対象が選べる
これは精神にのみ影響を及ぼす魔術に特有の利点である。魔法や気功が引き起こすのは物理現象であり、物理現象は影響する相手を選ぶことができない。魔術では選定の手間こそあるものの、イメージを伝える相手を選ぶことが可能なので、敵味方入り乱れた戦場において敵だけに攻撃したり、味方だけに補助を行ったりが可能である。
影響が小さい
これは利点にも欠点にもなる。魔法で炎を具現化し、それで人を攻撃すると、当然ながら火傷を負い、規模によっては死ぬこともある。魔術で全く同じ規模の炎のイメージを相手にぶつけても、火傷くらいは起きるかもしれないが、死ぬことはまずない。
戦争において相手を殺すことはさほど重要ではなく、戦意を失わせればいいので、魔術を使った戦争ではみだりに死者を出さず、比較的温和にことを収めることが可能である。それは同時に、殺さねばならない相手が現れた場合に魔術では力が足りないということも意味する。
無生物には効かない
全ての生物はを持っており、魔術は魂に干渉する技術であるから、全ての生物に魔術は例外なく有効である(効く度合いは個体による)。逆にいえば魂を持たないものに魔術は無力であり、地形や機械といった完全な無生物に対して、いかなる魔術も効果を及ぼすことはできない。
これは室内で戦闘しても建物が損壊しないことにもなるが、壁で遮られると相手を認識できなくなるため、物理的に破壊しなければ手が出せなくなる。なお壁で隔てられても、対象とするべき相手とその位置が正確にわかれば遠隔で魔術を使うことは可能。
なお、盾のような防具は基本的に魔術に対しては無力である。
魔法場が必要
魔術の最大の欠点である。魔術の出力は大部分を魔法場(環境霊力)に依存しているため、魔法場の強度が魔術の威力に強く影響する。地球上で自然に環境霊力がゼロとなる場所は無いが、人為的にそのような環境を作り出すことは可能で、この場合魔法場を排除した領域では自己対象を除く一切の魔術が使用不可能となる。



原理

 肉体が何らかの刺激を受けると、例えば皮膚に高温物が触れた場合、皮膚の温覚器官がそれを検知して神経に信号を送り、脳が受容して結果として魂に「熱い」という感覚をもたらす。温度が高ければ、損傷を受けた細胞が水ぶくれなどを発生させる。
ここで重要なのは脳が信号を受け取って熱いと感じたという点である。脳と魂は相互に影響しあうため、もし直接魂に熱いという感覚を送りつけることができれば、脳は実際に高温信号を受容する

 別の例も挙げよう。何らかの映像(光)が目に入ると、視細胞がそれぞれの波長の光に反応し、視神経を通して脳に信号が送られる。脳の視覚野でその情報が統合されて、結果として魂に情景を見たという感覚を与える。もし魂に直接視覚イメージを送りつけることができれば、脳は今見えている景色が目から入ってきたのか魂から入ってきたのか判別できない。"霊視"と呼ばれる技能は、魂が他の魂を観測できるほどに高い感度を持ち、通常の可視光による視界と、魂が認識した"霊的な"視界とが混じって見えるものである。

要するにそのようなイメージを相手に送りつけるのが魔術の本質である。

 術者から放たれたイメージ(ここでは念波と呼ぶ)は周囲の魔法場に振動を与える。ちょうど音が空気中を伝わるように、念波は魔法場を伝わり、対象に届く。念波が持つエネルギーは対象の魂に伝わり、術者が放ったイメージを相手も認識することになる。
念波には指向性を持たせることもできるが、普通は全方位に放たれる。ただし放たれるイメージは例えば「自分が発火する」といった相対的なものではなく「AとBが発火する」といった絶対的なものであり、念波を受け取ったからといって必ずしも影響を受けるとは限らない。
例えば4人どうしで戦っているときに、ある1人が敵の4人に向けて爆炎のイメージを送り出した場合、そのイメージ自体は全員が受け取るが、味方の3人が受け取るのは敵の4人が爆発を受けているイメージであり、ダメージは敵とされた4人にだけ入る。

 ここまで書くとお遊びのように感じるかもしれないが、高度に洗練された"イメージ"は決して抗えるものではない。影響されまいという意志を強く持つことによって影響を軽減することは可能であるが、完全な遮断は基本的に不可能である。



依存

 魔術の威力は次の4つの要素によって決まる。

術者のイメージ力

 イメージ力は単に想像力によって決まるわけではない。むしろ重要なのはいかにしてイメージに説得力を持たせるかという点である。

例えば落雷を起こす魔術であれば、漠然と「雷といえばこんな感じ」と思って作るイメージよりも、落雷のメカニズムを熟知し、副次的に起こる現象や、直撃した者への被害などを、より具体的にイメージしたほうが与える影響は遥かに大きくなる。
これは魔術が学問として重要であることを意味する。魔法学校では自然科学を入念に教え込む。知れば知るほど、知識と知恵を蓄えれば蓄えるほど、魔術はより高度になるのである。

 ゲームでいうと「知力」のステータスが魔法(魔術)の威力に強く影響するのはこれが理由となる。その現象について深く知らない状態でも魔術を使うこと自体はできるが、攻撃にしろ補助にしろ、その現象に対する知識と理解を深めれば深めるほど、イメージはリアルになり威力も向上する。

意志力

 ここでは術者と対象、両者の意志力が問題になる。
まず術者側はイメージ力とは別に「相手に影響を与えたい」という意志が重要である。その意志が弱ければ念波は相手に届いても大した効果を発揮しない。とはいえ、どちらかといえば知力のほうが影響が大きく、こちらの意志は持ってさえいれば強く持つ必要はない。

魔術を受ける側は、それが攻撃であった場合には、影響を受けまいとする断固たる意志が重要になる。全く備えずにイメージを受けると大きなダメージとなる。回復などの補助であれば特に拒絶する必要はないため、術者のイメージ通りの影響が出る。
魔術に抵抗する意志をどれだけ強く持てるかは、霊力に依存する。霊力を鍛えることは容易ではないため、生まれ持った形質がほとんどそのまま影響することが多い。

霊素組成

 両者のがどのような組成であるかも重要な要素である。
術者側は、ある現象をイメージして念波を送る場合、その現象に準ずる霊素が多いほど念波自体の威力が強くなる。
逆に受ける側は、その霊素が多いほど威力を軽減しやすくなる(必ず軽減されるわけではない)。

特に送る側の術者の霊素組成は重要で、例えば実効霊力が200であっても、火霊素が10しかない者が使う火炎魔術と、実効霊力は100だが、火霊素はそのうち30である者が使う火炎魔術とでは、後者のほうが威力が高い(単純に3倍ではないが)。

また魔法場の霊素組成も重要である。

魔法場

 魔法場による環境霊力は、魂と同じように、全ての霊素が均等に含まれるわけではない。詳しくはリンク先を参照のこと。

魔術を使う場合は魔法場への依存度が極めて高く、例えば火霊素が全く存在しない環境では火炎魔術は完全に無効となる。その霊素が多ければ多いほど魔術の威力は増すため、現在いる環境の魔法場がどのような組成比を持つかは魔術師が最も知るべきことである。

先ほど念波の伝搬を音に例えたが、環境霊力は媒体の密度に対応する。密度が高いほど音波は速く、遠くまで届く。魔術の場合速度は関係ないが、遠くまで届くのは同様である。そして、媒体は霊素の"色"ごとに独立しているというのが重要な点となる。火霊素が多く水霊素が少ないような環境では氷魔術より火炎魔術のほうが有利だし、雷霊素が多い場所では雷魔術による攻撃を警戒するべきである。

魔術師の中には、周囲の環境に依らず自分に有利な魔法場を形成するために、シフトエレメントという 魔法 を使う者もいる。



発動と術式

 魔術にはいくつもの流派があるが、ここでは現在主流のメラディン式魔術について説明する。
ここで、ある魔術を発動するために必要なイメージの構成手段を術式と呼ぶ。

魔術の発動にはイメージを固定するための術式構成と、術式の起動のための術号呼名が必要となる。
術式組成には2つの方法がある。すなわち呪文詠唱魔法陣描画である。

呪文

 本質的には、呪文とは魔術のイメージを補強するための言葉の羅列であり、効果を明瞭にイメージできるなら内容はなんでもよい。
実用上は、魔術ごとに定められた詩を読み上げることでイメージを固定する。メラディン式魔術の教育機関では物理学などとともに呪文学も必修の科目であり、定められた詩を暗記したり、その意味を深く理解するため文法の学習なども行っている。魔術師の中には、イメージをより強く持てるように、教わった呪文を自己流に改変して使う者もいる。
 発音の必要があり、一度に1つの術式しか構成できないが、魔法陣に比べて素早い発動が可能である。

魔法陣

 魔法陣描画は、魔法陣と呼ばれる霊子回路を描くことで術式とする。魔法陣は円や矩形といった単純な図形、テイメルによる呪文に相当する文などを組み合わせて描く。これらも呪文と同じく術式ごとに決まった形がある。
 一度使った魔法陣は基本的に再使用できない。書くものが必要で、描画そのものにも時間がかかるため瞬発力は無い。代わりに、一度描いた魔法陣はしばらく貯めておくことができるため、事前にいくつもの魔法陣を用意しておき実戦で矢継ぎ早に繰り出すことが可能である。
このように呪文詠唱と魔法陣描画にはトレードオフの関係があるため、多くの魔術師はいくつか魔法陣を用意しておき、必要に応じて呪文詠唱と使い分けている。

詠唱破棄

 強い想像力を持つ者は、これらの術式構成を省略して直接術号だけを唱えることもある。これは詠唱破棄と呼ばれ、術式構成の省略による即時性が強みである。しかしながら、イメージ力の有無とは関係なく「呪文を唱える」という行為それ自体が大きな制約であり、そして制約によって魔術の威力は上がるため、緊急時でもなければ呪文は唱えたほうがよい。


 1つの術式構成に更に同じ(あるいは別の)術式を重ねることもでき、多重詠唱などと呼ばれる。魔法陣と呪文詠唱を併用することも可能で、極めて高い威力を発揮する。また魔導書などの霊子回路を利用することもできる。

 なお、いずれの方法で術式を組む(あるいは組まない)にしろ、最終的には必ず術号を唱える必要がある。すなわち、何らかの手段で口を封じられると魔術師は無力となってしまう。ゆえに魔法学校では魔術師が命よりも優先して守るべき部位として喉が注目される。



7属性

魔術には、霊素に準じた7種類("無"を含めて8種類)の属性という分類方法が存在する。
基本的にはに含まれる霊素と同じの魔術は威力が向上するため、魔法の適性と魔術の適性はある程度近似して考えることができる。

魔術の7属性とは冥と虚を除いた霊素、すなわちの名で呼ばれる。
以下に、メラディン式(イルドール大陸の魔法学校で教えられる魔術の体系)の7属性分類について簡潔に記述する。各評価項目はAが最良、Eが最悪の5段階で表現された相対評価である。

威力 範囲 燃費 速度 精度 補助 妨害
A B E C D B C

破壊の属性。攻撃魔術のイメージは火炎や爆発。火属性の魔術は総じて威力が高く、有効範囲も広い。そのぶん詠唱は長く、精度(念波の指向性)も比較的低い。また、霊力(魔力)の消耗が激しい傾向にある。
火属性の補助魔術として、火霊素本来の増幅を活用した筋力増幅魔術がある。目立った短所がなく使い勝手もいいため、よく使われる。ただし火属性の魔術で強化できるのは基本的に身体能力に限られる。また妨害効果として火傷*1と呼ばれる持続イメージを与えることが可能で、相手の体力を徐々に削る効果が見込める。

威力 範囲 燃費 速度 精度 補助 妨害
D D A B C D B

安定の属性。攻撃魔術のイメージは水流や氷結。上位魔術では氷の嵐もある。威力は低めで範囲もあまり広くはないが、消費される霊力が格段に少ないというメリットを持つ。精度も比較的高いため、水魔術を得意としない術師もサブウェポンとして覚えておくことが多い。
水属性の補助魔術は念波を遮断する氷の壁であり、相手から受ける魔術の影響を減らすことができる。しかし特筆すべきは妨害性能である。ひとつは凍結*2と呼ばれる持続イメージによって相手の動きを制限、あるいは止めることが可能であり、相手を凍結させられれば戦闘においてかなり有利になる。そして、水霊素本来の鎮静効果を利用して相手を眠らせることも可能。

威力 範囲 燃費 速度 精度 補助 妨害
C A D A D B E

広域の属性。攻撃魔術のイメージは鎌鼬や竜巻。威力は凡庸だが射程と範囲が非常に広く、多数の敵を相手取るのに向いている。属性相関(霊素のページ参照)では水の隣にあることもあって、単体攻撃に水魔術を使う術師が範囲攻撃用に覚えておくことが多い。また詠唱が全体的に非常に短く、先手を打てる確率が高い。
風属性の補助魔術は味方の動作を高速化する"ヘイスト"と呼ばれるもので、単純に行動機会が増える上に相手の攻撃を避けやすくもなるため強力である。その反面、妨害魔術に関しては、相手に衝撃波をぶつけてよろけさせるくらいしか手段がなく、搦め手に乏しい。

威力 範囲 燃費 速度 精度 補助 妨害
A E C C A D C

必殺の属性。攻撃魔術のイメージは雷撃。攻撃範囲がほぼ一点に限られ、そのわりには消費霊力も少なくないが、驚異的な命中精度と威力を誇る。一般に、術者の霊力にあまり影響されない、すなわち攻撃側の霊力が低くてもある程度の威力が保証され、被撃側の防御力が高くてもある程度のダメージが見込めるという特徴を持つ。
雷属性の補助魔術は魔術などの命中精度を向上させ急所に当てやすくするというものである。効果自体は強いが、戦闘者自身の練度が上がればおのずと精度も改善するため、強くなればなるほど効果が相対的に薄くなる。妨害効果としては感電と呼ばれる持続イメージがあり、凍結ほど効果は高くないがある程度相手の動きを制限できる。

威力 範囲 燃費 速度 精度 補助 妨害
E B C C D B A

堅実の属性。攻撃魔術のイメージは岩石と重圧。攻撃範囲はそれなりに広いが、攻撃魔術としての威力は低く、速度も燃費も凡庸。地属性に適性のある者でも両隣の火属性と水属性の魔術を攻撃用に使うことが多い。地属性の攻撃魔術は、主に後述の付加効果を狙って使われる。
地属性魔術の特長は補助性能にある。まずはと呼ばれる持続イメージがあり、火属性の"火傷"よりも急速に体力を削る。また石化という状態もあり、全く動けなくなる代わりに受けるダメージを大幅に軽減する。あくまで魂に対する幻覚を与える魔術であるが、石化状態では物理的なダメージも軽減される(このあたりは気功に関連している)。石化は味方に対しても敵に対しても有効だが、特に敵を石化させた上で毒にするという、相手が1人なら必殺となるコンボが成り立ちうる。

威力 範囲 燃費 速度 精度 補助 妨害
B A E E D A E

浄化の属性。攻撃魔術のイメージは光の羽根や光輪など。攻撃手段としては高威力・広範囲で優秀だが、詠唱が長く消費霊力も極めて大きいとハイリスクハイリターンである。勝負を決めるための必殺技として使われる場合が多い。
光属性の特徴はなんといっても豊富な補助魔術である。戦闘能力全般を強化する祝福、体力の回復、呪い(魔術による状態異常)の除去など、光に適性の無い術者でも必須級の術がいくつもある。妨害魔術は皆無といってもよく、単純な攻撃と味方の補助に特化した属性といえよう。

威力 範囲 燃費 速度 精度 補助 妨害
C D C C B C A

呪詛の属性。攻撃魔術のイメージは黒い霧や魔力の剣など。威力は弱く範囲も狭い、燃費も悪いと単純な攻撃手段としては見劣りするが、地属性を超える多彩な妨害効果がそれを補う。
補助に特化した光属性に対して、闇属性は妨害魔術に特化している。相手の目を塞ぐ暗闇、戦闘能力全般を弱体化させる呪詛、言葉を封じて魔術自体を使えなくする沈黙、さらに敵の霊力を吸収するなど、戦況を有利に進める様々な手段がある。また補助魔術としても、味方の魔術威力を向上させるものがある。
最終更新:2019年02月26日 21:55

*1 現実の火傷とは異なり、皮膚の変質は伴わず常に発火しているように感じる

*2 たんに部位が冷えて動かなくなるのではなく、氷漬けになる