アリアンロッド・トラスト第四話「おいしくってタメになる!」

今回予告

 人は何かを食べていかなければ生きてはいけない。よって人の体と、人が摂取する食物は深い関係で結ばれている。そしてエルクレストカレッジ料理クラブは、その食物と密接にかかわるクラブであり、その部員はただ単に美味な料理だけではなく、食することによって人の能力を向上させる料理にも通じている。という。しかし、彼らはそうした料理をあえて外に出すようなことはしておらず、あくまで噂の域は出ない。
 だが、料理クラブにはある掟があった。そしてその掟に従い、その小さな体を勇ましく立ち上げた一人の少女が、シャルリシア寮の門をたたく。
 前回の波乱から冷め切らぬうちに、またもやってきた新たな依頼。人の幸せに思いをはせて料理を作る少女の思いに、シャルリシア寮の面々はどのように応えるのだろうか。
 アリアンロッド・トラスト第四話「おいしくってタメになる!」
 新次元の料理が君を待つ!



登場人物


 ※プリンセンス・ミトは今回パーティに加わっていない


その他大勢

セッション内容

 以前(第三話参照)の事件により気を失った状態となっていたジャックは、医務室のベッドの上で目を覚ました。
 その周りにはミルカレシィを初めとしたシャルリシア寮のメンバーと、そのハウスマスターでるエンザ、ジャックの様態を心配して現れたアルゼオ、保険養護教諭のニクロムといったメンバーが集まっており、それぞれがジャックの容態を気遣っていた。
 ジャックは「赤い服の」マリーに操られていた時の事は覚えていなかったが、気を失っていた直後ゆえ本調子には遠いとはいえ、体には異常や後遺症はないらしいということが伝えられ、それを聞いたジャックは一人で考え事がしたいとばかりに医務室から出て行こうとする。
 しかしその直前、一人のフィルボル、ウィルテールが医務室に新たに現れ、ジャック達に伝えたいことがあって来たと話す。その内容は、「『赤い服の』マリーは悪気があってやったわけじゃないから、そう嫌わないでやってくれ」という、何故か「赤い服の」マリーを肩を持つことであり、何故そんなことを話しに来たのかとジャックから問われると、ウィルテールは「自分は『赤い服の』マリーの友達みたいなものだから」という発言をし、とにかくそれだけが伝えたかったと言い残すと、ウィルテールは去ってしまう。
 あとに残された面々には、ウィルテールの言葉の真意はつかみきれないものだったが、その中でジャックは、「赤い服の」マリーについて、彼の中で決心を固めつつあるようだった。こうした形で、前回の騒動はひとまずの幕を見る。


 それからさらに数週間の時が過ぎ、学内には目立った事柄もなく、シャルリシア寮のメンバーもまた、思い思いの生活をしていた。そしてその時ジャックは、マシンリムである自身の左腕の調整を自室で黙々と行っていたのだが、そのドアの向こうからけたたましく彼を呼ぶ声が聞こえ、ジャックが扉を開けると、そこには錬金術学部のデアスがいた。
 彼はなにやら興奮を抑えきれない感じで、ジャックに対して「リムブースト」の技術についてを語りだし、それを自身で自作したので、ぜひジャックに装備してもらいたくて持ってきたのだと言った。それに対して、とてつもなく嫌な予感を感じたジャックではあったが、デアスがあまりにも強く推してくるので、それを装着してみることを決めた。
 しかし、デアスに言われるがままにそれを装着した直後、リムブーストが何やら異音を発したかと思うと、突如爆発した。その轟音を聞きつけて、何事かとレシィが駆けつけてくると、爆発の影響で体を黒く染めてしまったジャックを目の当たりにし、とても驚き、困惑したが、レシィはとにかくまず、ジャックに癒しの術をかけてその傷を回復した。この事態はさすがにデアスにとっても予想外だったようで、申し訳ないとばかりに、手持ちのハイHPポーションを渡しつつ謝罪するのであった。しかし、デアスはその後、「今度こそ」リムブーストの開発を成功させ、いずれはジャックのマシンリムそのものにも手を加えて見せるという、ある意味非常に迷惑な意気込みを二人に語りつつ、自身の寮に戻っていく。そんな彼に対し、ジャックは迷惑の種を抱え込んだような呆れ顔で、レシィは唖然として見送らざるを得ないのだった。
 だが、ジャックを訪れようとしていた来客はデアスだけではなかった。デアスが去ってしまったすぐ後、ジャックの部屋にはナタフが現れる。彼は先ほどの音が一体なんだったのかといぶかしんでいたが、レシィとジャックから説明を受け納得すると、今日は聞きたいことがあってジャックを訪れたのだと、話を切り出した。
 その内容は何か、というジャックに対し、ナタフはおもむろに、「あなたは、人の子のためにその身を費やす覚悟があるか」と質問した。突然の言葉にその意味を疑うジャックだったが、ナタフからその言葉のとおりのことを答えてくれればいいといわれると、ジャックははっきりと、「自分にできることで他人が救われるならばそれをするまで」と答えた。それを聞いたナタフは、それはシャルリシア寮生としての勤めだからなのかとジャックに問いかけるが、ジャックは自分がここにいるのはあくまでアルゼオの頼みを聞いたからであり、そういった義務とは関係がなく、あくまで自身が考えた上でそうしているのだといって答えた。それを聞いたナタフは、そんなジャックをどこか認めたかのようにうなずいた後、突然の質問をしてしまったことを詫び、その場を去った。
 一方、そんな二人の会話を横で聞いていたレシィは、ナタフの口ぶりに、どこか既視感のようなようなものを感じていたのだが、それを口にするまではいたらなかったのである。

 時移って、ミルカはいつもどおり召喚学部の授業を受けるため、講堂に向かっていた。そしてそこにたどり着くと、ミルカの姿を見つけ、彼女に向かって手を振って呼びかけてくるフィシルがいた。なんでも、ミルカとトッポに会いたくてわざわざ先回りしていたのだという。
 そうして二人がお互いのファミリアも交えながら談笑していると、そこに同じく召喚学部の授業を受けに来たらしいアーゼスが現れる。彼はそんな二人の姿を見つけると、軽口をいいつつ近寄り、挨拶をしてきた。
 そして、彼はミルカのトッポを見て、その懐いている様子に感心しつつ、いつからファミリアを持っていたのか、などをミルカに聞く。物心ついたときにはすでに一緒だった、と答えるミルカの姿に、ミルカとトッポの確かな関係性を見出したアーゼスは、一瞬何か思いつめるような顔をした。しかし、それを取り繕うように笑顔になった後、別れの言葉を言ってそこから去ろうとしたのだが、彼のファミリア、ギスはそこから離れようとしなかった。まるで何かを訴えるように、ミルカとフィシルを見ている。そんなギスを引きずるようにして、アーゼスは今度こそその場を去った。
 しかし、その異様な様子には、ミルカもフィシルも気づいていた。フィシにはアーゼスが何か悩みを抱えていたのではないかとし、だとすれば、それはいずれ、シャルリシア寮に持ちかけられることでもあるのかもしれないとミルカに言う。その時がもしきたなら、どうか協力してあげてほしいというフィシルの言葉に、ミルカはうなずくのだった。

 そのころ、クレハはまたいつものごとく、ナンパ相手を探して学園内を歩き回っていた。しかし、そんな感じで暇をもてあましているクレハの前に、突如ネヴァーフの少女、マナシエが現れ、クレハを指差して言う。
「何か面白いことないのかしら!?」
 何でも、最近は大きなニュースや事件もなく、彼女もまた暇をもてあましているのだという。そこで、性質上各方面とつながりを持つことになるシャルリシア寮の中でも一番扱いやす……もとい、情報収集力に長けてそうなクレハに、何か特ダネをつかんでほしいとのことらしい。
 それにともない、とりあえず何かネタはないかといわれたクレハは、咄嗟にそういえば自身の部活、陸上部の部長のことが気になると伝えるが、それはもう公然の謎だと答えるマナシエ。しかし、それをクレハが調べるつもりならば、それはぜひやってほしいと喜びを浮かべて言う。また、マナシエとしては例えばエンザのことが気になっているともいい、非常講師とはいえエルクレストの教師をやっておきながら、しょっちゅう出かけて授業を休講にすることも多いなど、過去も今も謎が多いエンザに対して、何かクレハは知っているネタはないかと聞く。
 それに対して、クレハはあることを思い浮かべる。以前からの手紙にあった内容。かつてエンザがヴェンガルド峡谷に住むヴァーナの一団を皆殺しにしたという話。しかし、まだシャルリシア寮の仲間達にすら話していないその秘密をマナシエに伝えるのはさすがにためらわれ、クレハはそう答えることはしなかった。そんなクレハに、そういったネタ集めは任せた、といって、マナシエは去っていってしまうのだった。
 マナシエと別れ、エンザの事について考えながらもクレハが学園内をまた歩いていると、彼女の愛竜、オピオンと共にいるハナを発見した。リャナンシーとの一件(第三話)以来、かなり思いつめたような様子を見せる彼女だったが、彼女ならエンザについて何か知っているだろうかと思ったこと、また、沈む彼女の力になりたいという気持ちを持ち、クレハはハナに話しかけた。
 だが、ただエンザとハナについての関係を聞いただけでは、ハナは明確なことを答えようとはしなかった。クレハはそれに対して、自身が持っている情報、エンザがかつてヴァーナの虐殺を行ったと聞いたことを伝える。それを聞いたハナは、クレハがそのことを知っていることについて疑問を持ったようだったが、やがて感情の堰を切ったように、それについてを話し始めた。
 「邪神の祝福」。ヴァーナの人間の中で、時折、そういった現象にさらされる者がいるという。その祝福を受けたものは、生まれながらに人間を超えた強大な力を有するといわれ、いつそれが暴走するか、また妖魔や魔族に利用されるかわからないため、危険だといわれている。そして、ハナも、そして彼女の兄もまた、レシィ達と同じように邪神の祝福を受けた子供だったというのだ。
 だが、彼女はその邪神の祝福の脅威から救われたのだ、という。それを成したのは、エンザの尽力であったらしい。かつて自分の力と、それに伴う結末におびえながら生きていた彼女にとって、そこから救い上げてくれたエンザはまさに救世主であった。……しかし、一方で、ハナは自身の兄はエンザが殺した、ということも口にした。そして、そのことを未だに恐れているという、二律背反も。
 母による情報がどうやら本当のことであったと知るクレハであったが、そのことよりも彼の心は、過去を思い起こし、今目の前で震える一人の少女に向けられていた。その力になりたいと、一人で全部抱え込もうとはするなというメッセージと共に、彼女を支えようとするクレハであったが、ハナはこれは自身とエンザの問題だとして、クレハの助力を拒絶した。涙を流しながらその場を去るハナを、その時のクレハは見送ってやることしかできなかったのである。

 また少し時は移って、クレハは運動場にいた。いつもどおり陸上部のトレーニングで部長にしごかれ、息も絶え絶えといった形で、部活は終わろうとする。しかし、そこに部活仲間のアーゼスが現れ、クレハが部長の正体を探ろうとしていることが、マナシエによって学園中に広められつつあるという話をされる。突然のことに驚くクレハであったが、そこへ同じく部活仲間のラリエットも話を聞きつけて現れ、期待するような彼女の目線を受けたクレハは、今から部長の正体を追う、と豪語してしまう。まるで死地に赴く戦士へ言うような送り出しの言葉を受けながらも、クレハの決死の追跡が始まるのだった。
 多くの経験で鍛えられたシーフの本質を発揮しつつ、気づけばその場から消え、別のところに移動している部長の姿をなんとか追っていくクレハであったが、やがて部長は壁には窓のない、倉庫のような部屋にたどり着き、扉を閉めた。しかしその扉には小さな窓のようなものも取り付けられており、クレハはそこから中の様子を覗く。部長の姿は背中越しにしか見ることができなかったが、突如、部長の身に着けた全身鎧の止め具が独りでにはずれ、見る見るうちにはがれていく。その中から現れたのは、朱色の髪を持つ華奢な狼族の少女の後姿だった。
 ついに明らかになった部長の本体(?)に目を奪われるクレハ。しかし、そんな彼に対して、突如後ろから声がかけられる。クレハがその方向を振り向くと、そこにはハートフルアンブレラ争奪戦の時に現れた、仮面の騎士がいた。彼女はすでに傍らの剣に手をかけており、クレハとしては完全にリアクションが出遅れた形であった。
 殺気までは出さないものの、威圧的な様子でそれ以上部長のことをかぎまわるのはやめたほうがいい、とクレハに言う仮面の騎士。そして、気づけば後ろの部屋にいたはずの部長の姿はもはや影形も見ることができなくなっており、クレハはその言葉にうなずくしかできなかった。そうして、仮面の騎士に解放され、無事に日常に戻ったクレハではあったが、仮面の騎士に脅されたこともあってか、それともやはり部長相手にこれ以上のことはまずいと考えたのか、多くを語ろうとはしないのだった。
 クレハはこうして、部長の中(?)には本当に少女が入っているらしいということを突き止めたが、同時に、クレハは仮面の騎士に呼ばれて振り向くその一瞬の間に、窓の向こうの部長が何やら大人の男の形をした人形のようなものを持っているのを、見た気がしていた……

 さらに場所は移り、レシィは趣味の料理を今日も作ろうとしていた。しかし、エプロンをしまっていたことを思い出し、まずは倉庫にエプロンをとりに行くレシィ。だが、それを探す最中で、以前手に入れた、ハートフルアンブレラに目が行く。それを見てレシィは少し考えたようだったが、まだこういったものを使おうと考えるべきではない、とひとりごちて、倉庫の扉を閉めるのだった。
 そして料理を始めるレシィ。しかしそんなところに、レシィの名を呼びながら寮内に入ってくるフィルボルの少女、メンファが現れる。彼女は料理をしているレシィの姿を見ると、レシィに料理をよく他人に作ったりするのか、というようなことなどを聞いた。それに対する答えから、レシィが料理を他人のためを思って作っているということを改めて理解したメンファは、そのことがどうやら非常にうれしかったようで、何故か、満面の笑顔を浮かべながら、お礼を言って去っていこうとした。
 ……のだが、レシィを訪ねに来た本来の目的を思い出した彼女はそこで踏みとどまり、レシィに今度はハナの話をし始める。ハナの様子がなんだか最近おかしいことに理由を求める彼女に対して、レシィがハートフルアンブレラ争奪戦でハナにあったことをメンファに伝えると、メンファはハナがエンザを本当は好きでないのではないか、ということに関して、実を言うと心当たりはあったのだという。ハナがエンザを好きだ、というのは、まるで何かを押し隠そうとしているようにも時折見えるのだと。そんなハナに対して力になってあげたいというメンファに、レシィは協力すると語るのだった。

 シャルリシア寮の一行がこうしてそれぞれの日常を過ごしていたある日、料理クラブから突如大声があがった。それはメンファのものであり、何かを料理クラブ部長、ビアッジと話し合っているようだった。
 どうやらメンファは料理クラブで何かをやりたいようだったが、それを部長であるビアッジがかたくなに認めていない、ということのようである。どれだけ言葉を尽くしてもビアッジに理解してもらえないことを悟ったメンファは、突如「フードファイターバトル」なるものの挑戦をビアッジに宣言した。だがそれにはどうやら味方となるメンバーが必要のようで、そんな人間がいるのかと聞かれたメンファは、味方はいると答え、その「フードファイターバトル」でビアッジに勝つことによって、必ずやビアッジに自分の主張を認めてもらうと宣言し、部室を出てしまうのだった。
 あとにはそれを苦々しげに見送るビアッジと、何やらざわめきたつ部員達が残された。しかし、そのざわめきの内容は、メンファがビアッジに挑戦したという、そのことが絶望的ではないかということがほとんであったようである……
 一方、シャルリシア寮で料理を作っていたレシィは、作ったオムライスにかけたケチャップが何故か「チャーハン」という文字になっていたのを見て、何かが起きる気配を感じていたのだった。

 それからすぐ。エルクレスト・カレッジには週に一度の休日が訪れようとしていた。
 しかし、今週の休日は少し特殊であった。なぜなら、休日のすぐ次の日にエルクレスト・カレッジの創立記念日があり、この日も休みとされていたため、2連休となるからである。この2連休に入る直前の今、ミトは何やらポーションの特訓と称して、部屋にこもっていた。一体何の特訓をしているというのか、まるで創造できないシャルリシア寮のメンバーではあったが、本人がそのつもりなら何もいえないとばかりに遠巻きに見るほかないのだった。
 この時に、特別な予定を入れている者は他のシャルリシア寮生の中にはおらず、彼女達はその2連休を次の日に控え、寮内で思い思いの生活をしていた。
 しかし、突如シャルリシア寮の面々を外から呼ぶ声が上がる。その声をあげたのは、メンファである。彼女はシャルリシア寮に依頼があるといい、その内容を語り始めた。
 料理クラブには、ある掟があるという。それは、部長の決定は絶対であること、そしてもう一つ。部員が部長の決定を覆すには、「フードファイターバトル」で部員が部長に勝利することなのだと。
 その「フードファイターバトル」とは、部長1人と、そのパーティー4人、部員1人と、そのパーティー4人で戦闘試合を行うという戦いなのだが、それにはある条件も付随する。
 エリンディルの東方、チューシの本領たるセーリア大帝国の貿易の要、ウーシャンの街。そのさらに西に、「神秘の厨房」と呼ばれる町があるという。そこは本来チューシの初心者が自身の料理の効果を実感しやすくするように、魔術によって構成された特別な集落で、何でもそこの場所と材料で作られた料理は通常のチューシの料理よりもはるかに大きな効果をもたらすのだという。そして、その料理によって料理を作る人間以外の4人、「フードファイター」達を強化して戦うというのが、この「フードファイターバトル」であるということらしい。
 料理を作り食する、その準備のための時間として与えられたのは2日の間。明日と明後日の2連休の間であり、行き返りに関してはこの「フードファイターバトル」のときだけ使えるという料理クラブ秘蔵の転送石で一瞬でいける。だから、シャルリシア寮のメンバーに、ビアッジを打ち負かすため、その間協力してほしいと頼み込むメンファ。それを受けることに対して、異論は特に挟まなかったシャルリシア寮の一同であったが、ジャックだけは、メンファが部長を打ち負かして、果たして何がしたいのかということに疑問を感じており、そのことをメンファに問い詰めた。
 ジャックの問い詰めに圧され、自分の目的を隠しきれなかったメンファは、なんだか申し訳なさそうな態度でその目的を語り始めたのだが、なんと、彼女はシャルリシア寮創設のお祝いパーティーを、今からでも料理クラブをあげて行いたかったのだという。しかし、ビアッジはまだシャルリシア寮のメンバーのことをまったく認めておらず、「どこの馬の骨かもわからない奴に、料理クラブの料理はふるまえない」として、聞く耳なかったのだと。だが、お祝いの主賓となる人たちにそのために働いてもらうことはどうなのだろうか、という後ろめたさがあって、それを口にできなかったのだ、とメンファはいった。
 ジャックを初め、野暮なことを聞いてしまったという雰囲気になるシャルリシア寮だったが、自分達を祝ってくれるというメンファの思いに悪いものは感じておらず。その場の4人は、メンファへの協力を決意するのだった。そう告げられたメンファは花が咲いたように笑い、明日迎えに来るとして、一度そこから去るのだった。
 なお、この時点でミトのことについては、人数がすでにそろっているということもあってか、あえてそっとしておくべきという結論が出た。


 そして次の日の朝。シャルリシア寮に再度メンファが訪れ、4人を転送石で件の「神秘の厨房」へと転送する。
 テレポート特有の浮遊感を感じ、視界がゆがんだかと思った次の瞬間、一行は見慣れぬ部屋の中に転移していた。そこには包丁や鍋といった調理器具や設備、そしてちょうど5人程度が座れる丸テーブルと椅子があった。メンファによると、ここが「フードファイターバトル」によって用いられる調理場兼食事場らしい。
 しかし、ここで行動をおこす前に、まずはこの町の管理人に挨拶をしなければならない、とメンファはいい、一同はまず、そちらへと向かうことになった。

 最初の建物を出てから少し歩くと、一つの住宅の前でメンファは足を止めた。豪奢なそぶりはない普通の家であったが、その中からは食欲をそそられるいい匂いがしている。その家の扉の前でメンファは、大声で「リウ」という名前を呼ぶ。するとドアが開き、中からは人のよさそうな一人のヒューリンの男が出てきた。
 男はリウ・ケーアと名乗り、この神秘の厨房の町長……管理人のようなことをやっていると自己紹介した。そしてシャルリシア寮のメンバーからの紹介も受けたリウだったが、それを聞いた彼は、何やら怪訝そうな顔をした。なんと、彼が言うには「フードファイターバトル」の「フードファイター」達は、原則料理クラブにゆかりのあるものでなければならないのだ、という。
 そう伝えられてうろたえるメンファ達であったが、リウはそれはあくまで原則であり、今の料理クラブにビアッジに敵対するほどの強い気持ちを持ったものもそうはいない現状も察せるとして、特別に、シャルリシア寮のメンバーがこの「フードファイターバトル」に参加できるかどうかは自身がテストすると言い出した。つまり、自身と戦ってみろということである。
 リウが凄腕のチューシであることを知っているメンファはそれを聞いて恐れるものの、リウはあくまでテストであり本気は出さない、という。そして、シャルリシア寮の4人はそうしなければこの依頼は達成させてあげられそうにもないという状況を理解し、メンファと共に、リウに自分達の力を示すことを決め、戦いは始まった。

 リウは非常に高い魔力で、まだ散会しきれないクレハ以外のメンバーに対し強力な炎魔法をしかけてきたが、それを何とか耐え切った一行はおかえしとばかりに己の持てる技で反撃を仕掛けていく。特にミルカの魔法とジャックの剣は痛烈な威力でリウの体をとらえ、数度の技の応酬の後、リウは賞賛の言葉と共に、戦闘の終了を宣言した。

 こうしてリウによって参加を正式に認められたシャルリシア寮の一行。しかし、リウはシャルリシア寮の一行が、以前彼がエルヴィラから何かしらの報告をされていたという人物であることに気づくと、突如、「これから先、辛いことがあるかもしれないが、今まで得た、そしてこれから得る仲間を大切にしなさい」というメッセージを伝えてきた。
 それだけを伝えると、リウは「フードファイターバトル」のルールの説明を始めた。この戦いに用意されるべき料理に関しては、その材料の仕入れも自身たちで行わねばならず、また、それに使用できる金額も限られている、という。普通に買っていただけではその金額はすぐなくなってしまう。だからこそ、なるべく安く、もしくはお金をかけないで材料を手に入れる方法が重要になってくる、と。
 そうして二日間を過ごし、料理によって鍛えられた能力でもってして、「フードファイターバトル」は行われる。その場所は「決戦の鍋」といわれるこの町唯一の試合闘技場。
 それを伝えられて、一行はまず体制を整えるべく一度最初の部屋に戻ろうとするが、そこでリウからメンファには聞こえないように、耳打ちをされる。
 リウが言うには、メンファの料理の腕にははっきり言って不安があり、本気で対抗するのなら、料理を作る役のメンファは、それだけに専念させたほうがいい、ということであり、シャルリシア寮一行はそれに納得して、材料集めは自分達だけでやる、とメンファを説得し、行動を開始した。

 行動範囲内に3箇所ある食材市、利用することで肉が取れる狩場、手伝いをすることで穀物か野菜がもらえる農場、それに加えてこの街ならではの、達成報酬に食材の提供を掲げている依頼などの情報を調べ、限られた時間と資金を、少しでも効率よく使うために考えをめぐらせたシャルリシア寮一行。
 クレハを初め、最初のうちは目標の食材を手に入れるのにかなりの労力を費やしたが、その苦労のかいあって完成した自身の能力をパワーアップさせる料理を食していったことと、依頼の達成によって副次的にもたらされた情報の充実により、後半になるにつれ食料の調達は滞りなく進むようになった。
 また、シャルリシア寮の一行たちの応援もあって、心配されていたメンファの料理は、一度も失敗することなく各人にいきわたり、二日を終えるころには来るべき決戦に向けて、シャルリシア寮の面々は大幅な強化を達成していたのである。


 そしてその時は来た。5人は空から見ると、まるで大きな中華鍋のような形をしている建物、「決戦の鍋」の中へと入る。そしてそこでは、料理クラブ部長、ビアッジ・オーダルと、彼が従える4人。両手剣持ち、盾持ち、魔術師風、魔導銃持ちの「フードファイター」達がすでに5人を待っていた。
 メンファとシャルリシア寮の一行の姿を見るなり、ビアッジはシャルリシア寮一行を「部外者」と一喝し、料理の志を理解しないものにこの「フードファイターバトル」で遅れをとるはずもない、と宣言した。しかし、メンファはそれに反論する。「料理を志すのは料理人の仕事であり、そしてそれは食べてもらう人に喜んでもらうためにやることなのだ」と。そして、ビアッジは、それを忘れている、とも。
 だが、もとより口問答で終わる問題ではない。両陣営の間に見届け人のリウが立ち、お互いを位置につかせる。そして、彼の「初め」の合図と共に……「フードファイターバトル」は始まった。

 ビアッジが用意していたフードファイター達は、それぞれがシャルリシア寮の一行たちが扱う技よりも一段上のレベルでの技を有しており、さらに、それをこの「フードファイターバトル」で用意されたのであろう料理の力と、料理を自身の力に変えるチューシの戦闘技術を組み合わせてきた強敵であった。さらに、料理人として参加していたビアッジ自らも、この場所では自身の本領を発揮できるとして、人間の動きを越える素早さでチューシの得意とする魔術を次々と放ってきたのである。
 しかし、料理の力でパワーアップしているのはシャルリシア寮の一行もそうであった。素早い行動力と、敵の攻撃を見切る回避力に特化して料理を食していたクレハが、敵の主力の両手剣使いの足を押さえ、さらに手元にあった調理器具を投げつけることで、ビアッジの独特な魔術を妨害する働きを見せる一方で、攻撃の命中力と威力、そして回避に重点を置いて料理を食していたジャックと、魔法の威力の底上げと、自身の不足がちな耐久力をカバーする料理を食していたミルカの遠近2大巨砲が、強大な防御力を持った敵の盾持ちの体力すらも次々と削っていく。そして、他のメンバーをサポートすべく、自身の特殊能力の効果をあげる料理、さらに、切り札と呼べる強大な力をもう一度だけ使える料理を食していたレシィが防御に回り、敵の強大な力に決してうちまけない立ち回りを見せた。
 戦いの中、料理の効力を受けることができないメンファは試合場の上で倒れることとなったが、彼女が試合中にさらに用意した唐揚げの防御力上昇効果もあわさり、さらなる力で敵を攻めるシャルリシア寮。しだいに相手の抵抗も薄れていき、ついにカバーの役割を担っていた盾役がミルカとジャックの攻撃の前に沈む。その守りを失ない、自身に料理による強化があたえられていないビアッジはミルカによってあっさりと吹き飛ばされ、その後ろから攻撃をしていた魔術師もジャックに叩きのめされた。
 そうして残った両手剣使いは、最後の意地とばかりに、もはや人間を越えた域の回避の技を見せるクレハですら見切れない必中ともよべる攻撃を幾度か繰り出したものの、それをうけてなおクレハは最後のところで踏みとどまる。そのことに驚愕している中で、ミルカとジャックの次のターゲットに定められ、両手剣使いもあえなく倒されることとなった。そして、最後に残っていた魔導銃使いは、もはや勝利の目なしと判断したか、降参する。この瞬間、シャルリシア寮一行の勝利が決定したのだった。


 勝負あり。リウの声が「決戦の鍋」にこだまする。
 敵の攻撃に耐え切れず倒れていたメンファが起き上がり、感極まったという表情をする。彼女が小さな体をぴょんぴょんととびはねさせながらシャルリシア寮一行に感謝と喜びを伝える一方で、ビアッジは自身の料理のほうがメンファの料理よりも優れていたはずなのに、何故遅れをとったのかということを愕然としながら口にした。
 それに対して、リウは言う。料理とは技と心、二つを兼ね備えて初めて完成するものだと。そして、メンファがビアッジに勝ちたかったのは、部活の権利のことだけではなく、それをビアッジに思い出してほしかったからなのだと。
 そう諭されて、ビアッジは沈黙する。だがそれは激昂しているようでなく、何かを考え直している、そういった感じの様子だった。リウはそんなビアッジを見た後、シャルリシア寮一行とメンファに向き直り、「フードファイターバトル」は終わったのだから、もうエルクレストに帰る頃合だと、一同をうながした。
 そして帰路に着くため、5人は「決戦の鍋」をあとにしようとしたが、そこで今度はミルカだけが、こっそりとリウに呼び止められる。彼は、シャルリシア寮のプリフェクトであるミルカに対して、伝えておきたいことがあるという。
 彼は、ミルカ達シャルリシア寮の生徒がやっていることは、エルクレスト・カレッジにとって大きな意味があると言った上で、しかしそれは、決して学園のため、だけではないと。そうしてつながれた信頼の絆が、いつか必ず、シャルリシア寮の生徒達自身のためになるのだと。
 だから、大変なこともがあるとしても、これからもミルカがシャルリシア寮を先導し、あの学園で、困っている生徒達の力になってあげてほしいのだと、リウは言った。そして、ミルカはそれにうなずいた。リウはそんなミルカの姿を見て、心からの笑みを漏らす。

 こうして、一同はエルクレスト・カレッジに帰ってきた。メンファは料理クラブで行われるシャルリシア寮歓迎パーティーをこれから準備していく意気込みを一行に語りつつ歩いていると、シャルリシア寮の前にたどり着く。あとはここで分かれるだけであったが、メンファはその別れの直前、懐からクッキーの袋を取り出した。調理中に、あまった材料で作ったのだという。
 ここで別れる前に、最後に一度だけ、みんなで食事がしたいというメンファの言葉を、4人は快く受け入れ、メンファは花のような笑顔を浮かべるのだった。


 これにて、今回の一軒は終結を見せる。
 メンファの作ったクッキーはやはりどこか足りておらず、味は決してそこまで優れているわけではなかった。
 しかし、彼女が人のためを思ってこめた思いやりと、それを食べるシャルリシア寮の一同に向けられた笑顔は、単なる食料として以上に、人の心を満たせるものであったはずである。


追加ストーリー


 クレハは考えていた。エンザ・ノヅキという男について。
 ハナとの接触により、クレハが以前母より聞かされていた「エンザがかつて、ヴェンガルド峡谷においてヴァーナの集団の抹殺を行った」ということについての真実は見えてきていた。確かにエンザは、ヴェンガルド峡谷でヴァーナの集団……ハナの兄を初めとした人物を抹殺していたのである。
 しかし、クレハにわからないのはその理由であった。なぜハナを救いながら、その兄を初めとした他のヴァーナたちを殺したのか?クレハは、ハナに力になることを宣言したからゆえか、それともついにエンザへの疑念を払拭できなくなったからなのか……いずれにしろ、エンザについてもっと調べるため、行動を開始したのである。
 しかし、といってもエンザについて有力な情報を持っており、かつ自分があたれるところとなると、そうはないのが現状であった。そこでクレハは、むしろ本人に直接あたることを決心した。
 エンザとその次に顔をあわせた時、クレハは話があるとしてエンザと二人になった。そこで、クレハはエンザがかつてヴェンガルド峡谷で活躍した、という話を聞いた。という話題でエンザに探りを入れる。するとエンザはそれまでのへらへらした感じから一転して真面目な顔つきになり、クレハがそれをどこで聞いたのかなどを聞き返したが、クレハの口から話がハナのことまで及ぶと、エンザは少し辛そうな表情をし、考えるような数瞬の後、クレハに対してそのことを語るといい、口を開いた。

 エンザはある目的を持って旅をしていた。それは、「邪神の祝福」を受けたヴァーナを、元の状態に戻すことだ。そのような方法が存在しえるのかすら、世間では認知されていなかったが、エンザは人の邪悪化を救う研究をしているカナンの魔術師、ク・バルカンの協力を得て、ごく少数にだが、その邪神の祝福からをも人を救う術を発見したのだという。
 エンザはそれをもって、自分に救える限りの人を救ってきた。そして数年前のある日、ヴェンガルド峡谷には、その「邪神の祝福」を受け、隔離状態となったヴァーナ達が住まう隠れ集落があると聞いて、エンザはそれを救うためそこへ駆けつけたのだった。この集落こそ、ハナと、そしてその兄達のいた集落である。
 この時、ハナはエンザの言葉に心の底から感謝し、希望を見出していた。彼女にとって、邪神の祝福による力とは、いつか自分が自分でなくなるかもしれない、これがあるがゆえに、人に疎まれたり隔離されたりするのだといった恐怖そのものであり、それから開放されることに、彼女は感謝していたのだ。
 しかし、ハナの兄を初めとする、この集落にいた多くのヴァーナたちの考え方は違った。腫れ物に触るような扱いを受け、ついにはこんなところに隔離同然の形で追いやられた彼らの心はすさんでおり、自分達が受けた邪神の祝福による力は、自分達が選ばれたものである証拠だとして、それをいまさら捨て去ることは断固できないと答えた。
 それを聞いたエンザは、その力をほうっておくと、自分の意思がなくなってしまうかもしれない、魔族や妖魔という邪悪な存在に利用されることになるかもしれないのだと説得しようとしたのだが、彼らは聞き入れなかった。その答えはむしろ、そうなることすらもいとわないという意思の表れであった。
 この時、エンザは切れた、という。そして、その結果、そのヴァーナの人間達を、すべて皆殺しにしてしまったのだと、エンザはそうとだけ答えた。

 エンザはその時のことを一生涯における過ちだったと語り、これを語った以上、クレハに、シャルリシア寮の生徒に軽蔑されてもかまわないと告げた。しかし、クレハはそう答えるエンザの様子に、さらに深い何らかの事情を感じた。そして、クレハが想定していたよりも、さらに多くの事情を語って聞かせてくれたエンザに対して、今この場で、それ以上を踏み込むことはできなかった。だから、クレハは「軽蔑はしない」とだけ答え、エンザはそれに感謝の言葉を述べると、あとは言葉なく、その場を去っていった。
 こうして、そこに残されたのはクレハだけとなったが、この一部始終を、影から見ていた人物がいた。レシィである。
 かつて邪神の祝福に魅入られていたというレシィが、この事を知り、思うこととは……


補足

 PC視点としてエンザの話からわかるのは以上のことだけだが、PLにはこの時点ですでに、エンザがなぜその状況で怒りを抑えられなかったか、ということについても説明済み。
 さらに詳しくは第五話において展開予定だが、概要としては……

 エンザにはかつて兄がおり、そしてその兄は、「邪神の祝福」を受けていた人物だった。兄はその得意な瞳の色以外はなんらおかしいところのない、心優しい、立派なヴァーナの青年であったのだが、その体に宿る力を恐れた彼らの部族の決定により、処刑されることとなってしまう。
 エンザはそれを認められず、徹底的に抗おうとしたのだが、当の兄は、その現況を受け入れてしまっていた。彼は、「生まれながらに業を背負ったものもいる。その責任を果たさなければならない」とだけエンザに伝え、ついに、処刑された。
 このことは、エンザの心の中で未だに大きな事象となっている。だから、エンザは冒険者となり、邪神の祝福から、人を救う方法を探し続けたのだ。そして、長い年月を経て、ついにそれを成し遂げつつあった。
 しかし、ヴェンガルド峡谷の一団は、たとえその業により世界に災厄を振舞ったとしてもかまわないと言った。
 まだそうなったわけでもないのに、立派な人物だった兄が「そのおそれがある」というだけで死ななければならなかった。しかし、目前の一団は救える方法を提示したにもかかわらず、それをはねのけて世界にあだなすことを厭わない。このことが、エンザにとってどうしても抑えることができない、感情の濁流をあふれさせてしまったのである。
 結果として、ハナを初めとした救いを望む少数のヴァーナは邪神の祝福より開放され、それ以外の者達は抹殺されることとなった。それを感情が抑えきれず、最初に手をかけようとしたのはエンザである。しかし、実のところそれを実際に手にかけたのは、彼の仲間たちであるらしいが……

 ……といった形である。


PC達がこのシナリオで出会ったキャラクターまとめ


ミルカ


クレハ


レシィ


ジャック・アルマー


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最終更新:2012年11月20日 00:34