*警告*

  • 特に何も悪いことをしていないゆっくりが永遠にゆっくりできなくなります。
  • 80字改行です。その辺案配していただけると読みやすいです。


 ↓以下本文

「いるかいー」
「あいとるよー」
 ここは幻想郷の小さな村。村外れに一軒の鍛冶屋が店を開いていた。戦乱の世でもなけ
れば、妖怪と戦う剣や槍を作るわけでもない。針に鋏、農具を作って糊口を凌いでいた。
「釜が抜けちまってねえ。一つ接いでおくれよ」
男の抱えてきた釜を受け取り、ためつすがめつ眺めると、鍛冶屋は得心したように頷いて
炉に火を入れた。小さな村であり、幻想郷に名の知れているわけでもない彼は、鋳掛屋の
仕事も多かった。
「おう、昼前には間に合わせとくよ」
「いつもすまんねえ」
「いいってことよ」
火が熾る間に、鍛冶屋は奥から小さな籠を提げて戻ってくる。どっこいしょ、と置いた籠
にはまだ小さな生まれたてのゆっくりが一匹、幸せそうな顔をしてゆっくりしていた。
「おじちゃん、あちゅいよー」
仕事場は炉の熱気でじっとしていても汗ばんでくるほど。ぽよぽよと跳ねるものの、ゆっ
くりはまだ籠の縁を越えるほどの跳躍はこなせない。釜を炉にかけると、小さなゆっくり
を掌に載せた。がっしり固くなったプロの手である。
「かちゃいよ! おじちゃんのおてて、ゆっきゅりできにゃいよ!」
「ほれ、お前さんも固くならないとゆっくりできなくなるぞ?」
ぶにぶにと柔らかなまんじゅうを、鍛冶屋はそのがっちりした指を食い込ませるように握
る。苦しそうに仔ゆっくりがもぞもぞ動くが、しっかり握られたその指は緩むどころか次
第にきつく締め付け、仔ゆっくりは握りつぶされそうな恐怖に涙を流す。だが、鍛冶屋は
釘を摘むと、ぷるぷるした仔ゆっくりの目玉にゆっくりと近づけていく。
「ゆゆゅ! こわいよ! ゆっくりやめてね!」
「ほれほれ、ゆっくりできなくなってしまうぞ?」
目を瞑れば目の前から釘が消えると信じ、目を閉じて打ち震える仔ゆっくりのまぶたを器
用に引き上げ、眼球に鋭い先端を突きつける。決して針先を柔らかな葛饅頭に突き立てる
ことはなく、釘を摘む指には寸分の狂いもない。
「あちゅとろん! もうおじちゃんはいじめられないよ!」
「よしよし」
鍛冶屋は鉄の塊になった仔ゆっくりを年季のいったやっとこで掴んで、炉に突っ込む。
「ゆゆゆっ! あちゅいよ! ゆっくりだしてね!」
「もういじめられないんじゃないのかね?」
「ゆゆっ! あちゅくないよ!」
充分に熱せられた鉄ゆっくりを釜の穴にあてがう。鍛冶屋の見立て通り、ゆっくりは穴に
すっぽりはまっていた。そのまま金床に乗せると、鎚を振り下ろす。
「そんなのきかないよ! ゆっくりあきらめてね!」
「人の心配より、固くなっていないと潰れやせんか?」
「ゆゅ! ゆっくりかたくなるよ!」
金属音と火花が散り、同時に場違いなゆっくりな悲鳴が跳ね上がるが、気にせず鍛冶屋は
鎚を振るう。鉄の塊となった仔ゆっくりは叩かれる痛みも、炉の熱さも感じない。穴の大
きさにあわせた仔ゆっくりだけに、アストロンの効果で鉄になっていることを忘れ、ゆっ
くりして一瞬で潰れてしまうこともある。金物相手とは少し違う心配りも必要なのである。
「ゆぅん! ゆぅん! ゆっきゅり、ちてきた、よ!」
鍋の穴にはまった鉄ゆっくりを何度も叩いては平たくしていき、炉で熱しては再び成形し
ていく。鉄饅頭となった本体とは異なり、細い鉄線になっている髪の毛は先に熱で熔けて、
仔ゆっくりと釜の間を埋めていく。鎚で叩かれ、炉で熱せられることを繰り返し、徐々に
仔ゆっくりは平たくなっていき、声も次第に小さくなっていく。通常のゆっくりであれば、
鎚の一打で餡子と皮を撒き散らして潰れてしまうものだが、アストロンで鉄の塊になった
ゆっくりは、熔けて餡子であった鉄と、皮や飾りであった鉄が混ざりきるまでは息絶える
ことはない。
「も……と……ゅ……り……た……か……」
やがて声もなくなった頃、釜の穴は見事に塞がった。アストロン中に息絶えたゆっくりの
鉄化は二度と解けることはない。使い古された道具は、時経て妖怪になるという。この釜
もいつかは妖怪になるのだろうか。ゆっくりで接いだ釜は、ゆっくりした妖怪になるのだ
ろうか。ゆっくりしていってね! と声を上げる鍋や釜、ヤカンの百鬼夜行に、鍛冶屋は
口の端を釣り上げる。午後にはやかんになっているであろうゆっくりを選ぶため、奥へと
上がっていった鍛冶屋にいくつもの声が掛かる。
「ゆっくりしていってね!」




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最終更新:2022年05月03日 18:52