「……僕と工藤さんは、幸い知り合いは連れてこられていませんが……やはり須賀さんの身内は呼ばれているようです」

「くそっ……ふざけやがって」

「まあ、殺し合いの中心に居るのが帆高だからな」


数分前、配られた名簿を手に取った右京、須賀、工藤の三人は事務所内で参加者の確認をしていた。


「あの映画に出ていた……凪、夏美……そして高井刑事か?
 高井刑事は別と考えても、あとの二人はあぶねえかもな。帆高のやつに味方するかもしれねえ」

「早まんなよ……夏美……!」

「俺が髪飾り渡すまで、馬鹿な事すんじゃねえぞ」

「貴方しつこいですねえ」

工藤の懸念は彼らの身の安全もそうだが、帆高の味方をし陽菜を復活させることへ、その背を押してしまう事への懸念も含まれていた。
現状、それをされては残された帆高を除く参加者全てが水の底へ沈んでしまうのだから、たまったものではない。

「流石に夏美さんは彼の味方になるとは思いますが、それはそれとして陽菜さんとの再会はまだ待つように説得するとは思いますよ」

「分かんねえだろ? 女なんてバカなんだからよ」

「……コワすぎスタッフの市川さんでしたか? 彼女は苦労なさってそうですねえ」

工藤の偏見に満ちた台詞は無視しつつも、夏美も馬鹿ではないと須賀も分かってはいる。
しかし、やはり焦りが消えることはない。
帆高を止めるにしても、殺し合いという異常な場に放り込まれているのは事実なのだ。
凪もそうだが、出来うる限り早期に合流し保護しなければ。

「それにしても……桃園ラブ、彼女はプリキュアの登場人物ですよ」

「は? おいおい……杉下さん、あんたそんな趣味あんのか?」

「いえ、以前捜査した事件にプリキュアが絡んでいたものでしたから、歴代のタイトルと主役の顔と名前くらいしか分かりませんがね」

実際に右京はとある写真に写ったプリキュアのシールから、そのプリキュアの放送年代を逆算しそれが撮影された正確な時期を特定したこともある。
恐らくは、その際にプリキュアシリーズについての知識も得たのだろう。

「……同姓同名とかじゃないですか」

須賀も娘がいる都合、多少の知識はある。
桃園ラブこと、約十年前に放送されたフレッシュプリキュアについては、流石に把握していないが、それでもプリキュアと言われればそれっぽい名前な気もしてきた。
とはいえ、今時の名前ならラブでも現実に実在しそうだ。

「ええ、僕もそう思いましたがね。……映画にキュアブラックとキュアホワイト、一番最初のふたりはプリキュアの主人公が居たんですよ。
 あれはコスプレのようでしたが、どうも無関係とは思えません」

「……夏美が小さいとき、見てたってけな。おジャ魔女……なんとかの次だったけ」

「いえ、その次は明日のナージャですね。……まあそれは置いとくとして、あくまで可能性の一つとしてですがね? 
 プリキュアは超常的な力で変身した少女が化け物と戦うアニメーション作品シリーズです。
 もしも、本当にプリキュアが居たとすれば、当然そのプリキュアと戦える化け物と匹敵する者もいるかもしれないと思いませんか?」

「それ、は……」

ちゃんと視聴していたわけではないが、須賀の知る範囲でもプリキュアの戦闘力は非常に高いのは伺える。
もし実在したとして変身されれば、ここにいる三人を纏めて相手にしても負けることはないだろう。

125: 正義 :2021/03/04(木) 18:54:46 ID:39hPFrtc0

プリキュアが殺し合いの乗るかは別にしても、それと戦えるよう相手と殺し合いをさせられているかもしれない。
右京は遠回しにそういった最悪のケースも考えて、行動すべきだと警鐘を鳴らしているのだと察した。

「なるほどなあ……言われてみりゃ確かにプリキュアが居れば、マジでドラゴンボールみたいなバトル漫画みたいな奴等が他にもゴロゴロ居るかもしれないってか。
 ……そんな奴らをカメラに収めりゃ……これは売れるぞぉ。……100%の晴れ女VSプリキュアかぁ」

逆に邪な笑みを浮かべながら、工藤は新たなコワすぎの構想を練る。
この男にとって、人知を超えた存在は金の鳴る木である。是非プリキュアと対面したいものだと考える。


「―――イェーガーズ、警察です! 詳しく話を聞かせて貰う!!」







そんな工藤の妄想を遮るように、凛々しい女性の声が響いた。





セリューがラバックと行動を共にし、名簿を確認してから早数分。
お互いに、身内や知り合いが居ない事に安堵しながら(ラバックはエスデス等の帝国側の不在も含め)あてもなく歩いていると見知った事務所が見えた。
それは映画の中で流れた須賀圭介の事務所だ。

―――突入しましょう。

ラバックの制止を聞かずに、一人突っ込んでくセリューの後を追えばそこには二人の男と須賀圭介その人が居た。


「貴方、須賀圭介さんですね?」

「……まあ、そうですけど」

明らかに年下の女の子相手だが、警察と言われたのもあり須賀から敬語が飛び出してしまう。

「単刀直入に聞きましょう。森嶋帆高は何処でしょう」

質問は最もだ。
とにかく、この殺し合いは真っ先に帆高を探索するのが優先される。
その関係者が居るのなら、居場所の心当たりを聞くのは当然なのだがラバックは先ほどから冷や汗が止まらない。

(こいつ……帆高の知り合いだからって、悪認定とかないよな?)

ここに来るまで道中、話を聞けば帆高を悪だの何だのと散々ののしっていた。
となれば、その知人も同じように扱い、ともすれば殺害に至る可能性も十分にある。

帝都でない場所でまで、イェーガーズと争いたくはないがもしもの場合はやむを得ない。

「ああ、僕も警察なんですよ。警視庁特命係、杉下右京です。よろしければ、そちらのお名前もお聞きかせ願えませんかね?」

「警、察……?」

須賀が口を開く前に右京が割って入ってきた。







「……ふむふむ、なるほど。つまり須賀さんは森嶋帆高が、事務所を飛び出して以降はほぼ関与していないと」



最初は訝し気にしていたセリューだが、右京が同じ警察である事と丁寧かつ穏便に話を進めたお陰で諍いもなく情報交換に至れた。
セリューも須賀に対して、帆高に振り回された一般人と認識を改めたようだ。
ラバックはほっと胸を撫で下ろす。

「いやぁ……良かったですよ。須賀さんが森嶋帆高と同じ悪ではなくて」


(…………………んっんん?)


それも束の間、セリューは満面の笑みを浮かべ、ラバックの顔は引き攣る。


「おや? 悪とは……帆高くんのことですか」

「当然! 一般人に発砲し、あろうことかあのトウキョウという街を沈めようとする森嶋帆高は悪そのものです!
 今は神子柴という巨悪を倒すために生かしておきますが、いずれ私が裁くのでご安心を!!」

「ちょっと待ってよ。セリューちゃんだっけ? 生かしておくって言い方からすると、え、殺すってこと?」

「当たり前です!!」

「いやいやいやいや、やりすぎだってそれ。あの銃も当たってねえし」

「工藤さんの言う通りですねえ。
 少なくとも、命を以て償うような犯罪では決してありません」

「しかしですね……工藤さん、右京さん!!」

「いいですかセリューさん?
 まず先に、突拍子もない事を言うと……僕達は別の世界から呼ばれた可能性が高い」

「な、何を……」

「良いから聞いてください。そして皆さんも、これは大事な事です」

詰め寄ってくるセリューを制しながら、右京は落ち着いた声で話を続けた。

「先ほど言っていたキミたち二人の言う帝都に、その国名も僕は聞いたことがありません。
 百歩譲って国は知らないにしても、帝具という異能を秘めた兵器まで知らないというのは違和感があります」

情報交換の際に身分を明かしあったが、右京達からすれば信じられないワードの連続であった。
世界には様々な国があるので、国に関しては右京が知らないということで納得も出来たが、帝具だけはそうもいかない。
特別秘匿されている訳でもなく、そんなものが実在するならグローバル化が進んだ現代なら、世界各国が警戒くらいはしそうなものだ。

他にも様々な話を聞いてみれば、右京の知る社会常識とは非常に違っている。

更には工藤や須賀からも右京は違和感を覚えていた。
彼らの場合は、非常に右京の知る世界背景と似ていたが、工藤は令和を知らない。つまり、時代の認識に数年のズレがある。
須賀に至っては映画でもあったが、右京の知る限り東京であれほど雨が降り続けていたことなどない。

「私達が嘘を言っていると?」

「いえ、むしろ逆です。つまり我々全員が真実を述べていると考えています。
 そしてそれらを統合すれば、別の世界が存在するというのが妥当なんですよ」

名簿を広げ、右京はある名前に指を差す。

「……桃園ラブ、例えば彼女はプリキュアが実在する世界から、呼ばれてきたのだとしたらどうでしょう?
 逆に僕達はそれが放送されている世界です。
 セリューさん達はそれらが一切存在しない。全く別の異世界……ありえないと断言出来ますか」

「プリキュアとやらは知りませんが、人を生き返らせてましたからね。考えたら、異世界もないとは言えないかも……」

「プリキュアに異世界、時間移動……これは題材が纏まんねえな……。どうするか」

セリューとてこの殺し合いの会場が、自分達の知る物とは比べ物にならないオーバーテクノロジーであることは察していた。
右京の指摘を受けてみれば、むしろ全員が嘘を言っているより、別世界の存在を認める方が無理がないように思える。

「では、話が脱線しましたが……。
 当然違う国、ましてや世界では価値観や法も違うのでしょう。
 先ほど言っていたように、異世界の存在も認めて貰えたと思います。その上で……少なからず情状酌量の余地はありませんか?」

「ありません!!」

「はいぃ?」

恐らくはセリューの価値観は現代とは違う。
話を伺う限りでは、帝都は右京の世界で言う中世当たりの年代に近い。
右京はそれを予想し、あえて世界の価値観の違いを問う事で、セリューへの帆高の敵意を逸らすように誘導するつもりだった。

「彼が発砲したのは紛れもない事実です。然るべき補導はすべきでしょう。
 しかしその発端自体は、好きな女の子が違法な売春をしようとしたのを止める為です。下心なしとは言えませんが、価値観としては至極真っ当ですよ。悪と処断するのは極端すぎるのでは?」

「私が言いたいのは、そもそもが天野陽菜からして悪ということです」

「……どういう意味でしょう」

「見ませんでしたか? 天野陽菜は職務を全うしてるだけの警察相手に雷を平然と落とすような残酷な女です。
 自分達の為に、相手を容赦なく傷つける。森嶋帆高と天野陽菜は紛れもない悪そのものです!!」

確かに、映画劇中で陽菜がその力を行使し、警察から帆高達と一緒に逃亡を図るシーンがあった。

「天野陽菜は大人たちの加護を受ければよかったのです。それを無情にも振り払い、己の都合の為に引っ掻き回し危うく人を殺そうとまでしていた。
 ご安心ください! 私達イェーガーズが必ず、この巨悪を滅ぼして見せますので!!」

「達……? そこのラバックくんも同じ意見でしょうか」

「いや、俺は……」

セリューの言い分も、全てが間違っている訳ではない。実際に陽菜の判断は誤ったものも多い。
大人の力を借りるというのは、正しい選択ではある。
だが、両親が他界し唯一の家族である弟と離れたくないという恐れと、守らねばならないという使命感が視野を狭めてしまったことをどうして責められようか。

「彼女はまだ子供です。選択の過ちも致し方ない面もあるのでは? それに雷のシーンも威嚇程度で当てる意思はありませんでした」

「力の使い方が未熟なだけです! 間違いなく当てようとしていました!!」

「根拠は?」

「彼女のこれまでの悪行を鑑みれば当然の帰結です。
 違法な売春、身勝手な力の行使……あの晴れ女のサービスも自身の力を使い、人々からお金を騙し取っているに過ぎません。詐欺です。
 須賀さんもあれを利用し被害に合われていましたね。私が必ず、あの二人を裁きますから!!」

「晴れ女が詐欺? 彼女は真っ当に力を使い、天気を晴れにしていましたよ?」

「いいえ。彼女が最初から力を使えば、あの世界はずっと晴れのままでした。
 あえて、世界に雨を降らせ、一時的に晴れにする。これは立派な詐欺、つまり犯罪です!」

「……なんだよそれ」

右京が反論するより先に須賀がセリューの前へ躍り出る。

「陽菜が、消えたのが正しいって言うのか……」

「そうではありません。彼女が守るべき無辜の民であるのなら、私は断固として救いたいと思っていました。
 しかし、実態は悪そのものです。むしろ、皆の役に立てたのですから良かったじゃありませんか。あんな惨めな悪でも、ああいった償い方もあるのだなと私はあの神様に感心してるくらいです」

「セリューさん、それは言いすぎだ」

ラバックもこれ以上は黙れず、最悪交戦も覚悟し口を開いた。

「特に陽菜って娘に関しては言いがかかりもいいとこだ」

彼らに一切の非がないといえば嘘になるが、とても悪だの何だのと糾弾すべき相手でもない。
声にはしないが、それを言えばイェーガーズの方が大概だろう。
一部の連中はまだしも、Dr.スタイリッシュのようなマッドサイエンティストを野放しにするような奴等だ。
セリューの目は節穴と言わざるを得ない。

「陽菜ちゃんは、むしろアンタらが手を差し伸べなきゃならない……無辜の民だろ!!」

何より、一部の上級階級の汚職にはほぼ手を出さず、真に苦しんでいる弱者には見向きもしない。そんなイェーガーズに対するラバックの本音でもあった。
エスデスはその思想故、弱者は切り捨てると断言するのは分かる。それでも、まだ正義を信じるセリューならば、あるいは―――

「違います。その無辜の民に危害を加える恐れのある悪です!」

「ふざけんな……お前、何見て来たんだよ!!」

「須賀さん?」

「陽菜は、ただ……皆の為に犠牲になって……帆高は陽菜に会いたいだけだ……。
 それの、何が悪いんだよ。一部の後ろめたいとこだけ切り取って、好き放題言いやがって。
 お前なんかが、二人の事を語るんじゃねえよ!!」

須賀は怒声と共にセリューへと駆け寄り、手を伸ばしていた。
それが和解の握手なのではなく、相手を害するものだと察するのに時間は要らなかった。

「……残念です。貴方は悪に染まっているようだ」

(ヤバい!?)

真っ先に構えるのはラバック。
セリューは須賀を殺害するつもりだ。もう共同戦線等と言っている場合じゃない。
ナイトレイドとして、戦えぬ弱者を守る。その勤めを果たそうと彼はスタンドを召喚しようとし、寸前で留まった。

「セリューさん!」

須賀とセリューの間に右京がその身を挺して割り込んだのだ。

「右京さん!? 何を……」

「僕は貴方と同じ警察です。当然、一般人である須賀さんを守る義務があります」

セリューの殺意が収まると同時に、その視線は同業者である右京への困惑が表れていた。

「そこの男は処断すべき悪です……。右京さん、退いてください!」

「いいえ。僕の世界では、まだ彼は犯罪者ではない。ですから、僕は命を賭してでも彼を守ります。
 須賀さん、このまま事務所を発ってください。これ以上、同じ空間で過ごすのは双方にメリットがありません」

「杉下さん……」

「それと、ラバックくんと言いましたか? キミも須賀さんに同行して頂けないでしょうか?」

「俺が?」

この状況、須賀を庇うように立つ右京にそれを睨み対峙するセリュー。
強さで言えばセリューは右京を倒し、須賀をそのまま殺めることも可能だ。だがセリューは同じ警察として右京に手は出したくないのだろう。
そのおかげで膠着状態に陥ってはくれている。だが、それがいつ崩れるか分からないのも確かだ。

須賀が離れた方が良いのは当然として、その護衛をラバックに頼みたいのだろう。


「……分かった……。行きましょう、須賀さん……」

ラバックは逡巡の末、それを快諾した。
セリューや右京の事は気になるが、やはり優先すべきは一般人の須賀だと判断する。
右京もセリューの様子を見るに危害を加えそうな様子はない。

「よし、杉下さん! ここは任せた。行くぞ、須賀さんラバック!!」

「工藤さん!? 待ちなさい。貴方はこっち側です!!」

更に大声を張り上げて、工藤が二人を率いるように先陣を切る。

「うるせえ! 俺は俺のやりたいようにやる! もう、あんたの指図は受けねえ! 行くぞお前ら!!」

工藤は帆高をゴールさせることに賛成側の人間だ。下手に放っておけば、どんな混乱を招くか分からない。
右京が焦り、その後を追おうとするがその足を止めた。
セリューから少しでも意識を離せば、彼女は須賀を殺しに行くことが分かったからだ。


三人の足跡が響き、そして束の間の後に静寂の中に二人の警察だけが取り残された。


「右京さん貴方のせいで、悪を一つ見過ごす事になったんですよ!!」

「キミ、本当に余計な事をしてくれましたねえ……」

怒りを露にするセリューを前に、溜息と共に呆れた声で右京は呟く。

「えっ?」

「この殺し合いの情報を、最も握っているであろう人物は須賀さんでした。
 恐らく、陽菜さんと再会できるであろうあの鳥居……その場所も、彼は知っていたと思いますよ。
 彼はライターです。その中で、様々な取材をする為に東京中を飛び回っていたでしょう。
 それゆえに、土地勘は養われているでしょうからね。
 映画で描写された廃ビルと鳥居から、場所を特定することも難しくはない。むしろ、オカルト誌の取材で既に知っていたかもしれません」

天気の子という映画を中心に繰り広げられる殺し合い。
その登場人物である須賀が、帆高のゴール先の鳥居を知らないとは考えづらい。

「もっと言えば、これを映画の物語であるとメタ的な読みも出来ます。
 あの中断された映画、その後の展開予想をするのであれば、陽菜さんの元に向かう帆高くんの前に須賀さんが現れるのは物語としては必然でしょう。
 そうとなれば、その舞台はやはり例の鳥居が最適です」

無論、映画が盗撮された映像であるかもしれないことは、右京も承知している。
だがプリキュアというアニメのキャラが居るのだと仮定すれば、天気の子という架空の映画から登場人物を呼んだとも考えられなくもない。
いわばあれは、天気の子という作品が辿る正しい未来の予知映像とも言える。それならば、途中で映画を打ち切ったのも理由に納得がいく。

つまり、本来収束する結末を視聴者(さんかしゃ)に知られたくはなかったのだろう。

「物語と考えれば、先に他者が介入しない二人だけのシーンが挟まってもおかしくない。
 つまり、須賀さんは自力でそこに辿り着ける。……鳥居(ゴール)の場所を知っている可能性が高かったんですよ」

「……そ、そこまで考えて?」

「帆高くんの探索においても、鳥居の位置を把握できているのならそこから逆算して、帆高くんのスタート地点や、使用ルートも絞り込めたでしょう。
 しかし、セリューさん。キミの浅はかな行動が彼の逆鱗に触れ、我々警察への不信感を高めてしまった。
 これで彼から情報を聞き出すのは難しいかもしれません」

セリューは呆然とした。

「凄い……凄いです」

今までに提示された情報を元に、これほどまでに高度な推理を組み上げられる人物を見たことがなかったからだ。

「感服いたしました……。このセリュー・ユビキタス、是非ともあなたの……この場での相棒にして頂けませんか!?」

異世界ということもあり、些かの正義の基準点は違うが、同じ警察として非常に優れた人物だ。
この場にて、是非とも協力関係を築き上げたい。

「嫌です。
 理由は二つ、一つはキミは亀山君達(かれら)の代わりにはなれません。
 そしてもう一つ……何より、キミの正義は暴走しています」

「私の……正義が……?」

「キミの世界にも警察があるのなら、そこには法が存在し犯罪者を裁くべく、定められた決まりがあるはずです。
 実質内乱に近い世界とはいえ、それでも帆高くんや陽菜さん程度の軽犯罪で死罪なんて法は、最早国として成り立たないと思いますがねぇ?」

セリューの話には、ナイトレイドと呼ばれる暗殺組織にも触れていた。
国の重役などと狙った殺し屋達、もう実質的には内乱状態に近いのだろう。そんなものが闊歩する程に腐敗した国とも考えられる。
しかし、まがりなりにも国である以上は法律が存在し、どれほど守られているかは分からないが、当然その犯罪の重さも線引きがされているだろう。

「ですが……悪は裁かなければ!!」

だが、セリューの様子を見るに法を一切鑑みない完全な独断で相手を裁いている。
誰も指摘をしない。誘導しやすい駒として利用されているのか、最早咎める余裕もない程に疲弊しているのか、どちらにせよ非常に哀れにすら見える。

「……かつて、僕の相棒だった青年がいました。
 彼は非常に熱い正義感を持った人物でしたが、キミのように自らの判断基準で、法を無視した制裁を与える犯罪者へと成り下がってしまった……」

「良い事ではありませんか! 悪を滅ぼそうとするなんて!!」

「いい加減になさぁい!! キミの言うそれはただの独善、違法です!
 法を順守しない警察が正義を語る資格など、何処にもありませんよッ!! 恥を知りなさい!!!」

「……うぅ」

如何に帝都といえどそこには法律は存在する。
右京の推測通り、腐敗しきってはいる上に現代の日本社会とは違うものの、一つの国家として罪人を裁くシステムが確立はしている。
セリューの正義はそれを無視していると指摘されれば、彼女とて黙らざるを得ないだろう。

行き過ぎた正義とはいえ、正義を語るのであれば法は守るもの、それが警察として大前提であるのはセリューも理解しており、正論を言われているのは自分だと分からない訳ではない。

(しかし……やはり、悪は滅ぼさなくては……!)

だが、それはそれ。これはこれだ。
悪を見過ごす事で、誰かが犠牲になるなどあってはならない。例え小さな悪であろうと悪は裁く、それがイェーガーズだ。

(右京さん、貴方は素晴らしい警察なのでしょう)

鋭い洞察力、大胆でありながら的確な決断力、何より彼の語る正義はセリューにとって理想とも言えた。
だからこそ、理想は理想でしかないと現実を知っている彼女は完全には右京とは相容れない。

(法を守る……確かに、それは罪のない民にとって見習わねばならない姿……ならば、私は右京さんとその民を影ながらに守らせて頂きます……。
 右京さん、貴方にバレないように裏で悪を殲滅します!!)

右京のような光の正義を貫くことで、それが民にとっての目指すべき模範的な警察であり続ける。とても素晴らしい事だ。
それもまた一つの正義なのだろう。

ならばこそ、手を汚すのは自分だけで良い。セリューはセリューの正義を貫くまで。

(先ずは……須賀圭介を筆頭とした悪を皆殺しにする。
 須賀夏美はもちろん、天野凪……子供ですが彼も悪に染まる可能性が高い。場合によっては彼らも含め、殲滅しなければ……)

ここにはエスデスを始めとするイェーガーズの仲間はいない。ラバックも須賀に影響された場合、やはり殺害しなければならない。
完全な孤軍奮闘であり、しかも右京に絶対に感知されないような暗殺を行う必要がある。

(少し、大変ですね……けれど、絶対にやり遂げて見せますよ!! 
 右京さん……神子柴を倒し、森嶋帆高を裁き、全てを終わらせた時……きっとなれますよね……私達、本当の相棒に!!)

法で裁けぬ悪を闇の正義で裁いてみせる。
新たな強い決意を固め、セリューはまだ見ぬ悪へと強い殺意を昂らせていった。


【D-4 須賀の事務所/1日目/深夜】


【杉下右京@相棒】
[状態]:健康、セリューに対する嫌悪感とダークカイトの既知感
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:誰の犠牲もなくゲームから脱出する。
1:首輪の解析と帆高の探索。
2:プリキュアと戦えるような超人及びセリュー、工藤を警戒。
3:出来れば、須賀さんから鳥居の場所を聞き出したい。
4:セリューを監視する。出来れば、法の裁きを受けさせたい。
[備考]
※参戦時期は冠城登場以降の何処かです
※アカメ世界、コワすぎ本編をある程度把握しました


【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:濡れてる、右京に対する警察としての尊敬
[装備]:五道転輪炉
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:神子柴と帆高、そして帆高を私利私欲で狙う悪を裁く。
1:右京さんにバレないよう闇の正義を執行する。
2:一般人を保護、悪は裁く。
3:情報を引き出し、須賀を殺す。その身内(夏美、凪)も警戒、場合によっては殺す。
4:いずれ、きっと右京さんとは相棒になれます!!

※参戦時期は死亡後です
※腕と口の銃に弾があるかは現時点では不明です(少なくとも頭の五道転輪炉はあり)

※現時点での悪認定リストは確定が帆高、陽菜、須賀、候補が夏美、凪です。



「……馬鹿だな」

柄にもない。須賀は先の行動に強い後悔を抱いていた。
帆高を悪く言おうが、陽菜をどう貶そうが黙って頷けば良かった。あのセリューは馬鹿だが、それだけでこっちを味方と考えて諍いも起こらなかっただろう。
だが須賀は強く反発してしまった。

結果、協力できそうなチームは分断された。しかも事務所から半ば追い出されるような形で、こんな土砂降りのなかを傘もなしに歩く羽目になった。

そもそもが、一度は帆高を突き放した。陽菜だって見捨てた。一人が犠牲になれば、それで雨やむなら構わないとまで言っていたのに。
どうして、あそこであんなにも怒り狂ってしまったのだろうか。

「……須賀さん、さっきの啖呵気に入ったぜ」

「え……」

冷ややかに自分を嘲る須賀に工藤は声を掛けてきた。

この男、工藤仁にあまりいい印象はない。金の亡者というか、奇怪な現象をすぐに金に繋げて向う見ずに行動する男。
出来れば、元の日常では絶対に関わりたくないような。そんな考えまで抱いていた。

だが、この一言だけは工藤とは思えぬほどに温かみを感じた。

「やっぱ、あんたさ。帆高も陽菜も夏美もあのガキも大事なんだろ?
 それをよ。あの変な神様に滅茶苦茶にされて、腹が立たねえか?
 だからさ、やろうぜ? あの、金魚どもと空に居る龍……あいつら捕獲してやんだよ!!」

「はあ?」

やっぱり前言撤回だと須賀は認識を戻した。

「何する気なんだよ……」

ラバックも呆れ半分、困惑半分で口を開く。

「ここにはプリキュアがいんだろ!? だったらよ。そういう奴らを集めて、首輪を外す。
 その後に帆高と一緒に鳥居に乗り込んで、あいつらを捕獲だ! 世界初、龍の捕獲映像だよ? これはもう神話だよ! 爆売れするぞ……間違いない。
 ……ついでに陽菜も助かるじゃねえか」

思い返せば、映画の中で天気の神に関する伝承を絵にしたものがあった。そこに記されているのは龍だったが、それを見世物にしようとでもいうのだろうか。
須賀は当然ながら、ラバックも理解するのに少し間を置いた。

「けど、捕獲か……悪くないかもな」

だがラバックも驚きこそすれ、その発想に否定的ではなかった。
元凶と言えば、あの神なのだから、それを倒すという発想は彼にとって必然でもある。
如何な神といえど、何の罪もない人々を苦しめ、そしてたった一人の少女に全てを背負わせる。そんな道理を許せるわけがない。

帝国と同じだ。弱者から全てを毟り、自らの糧とするやり方は気に入らない。
死した身ではある。それにここは帝都でもない異界だ。
けれどもナイトレイドとして、ラバックは弱き者の為にその力を振るってきた。
例え、戦場が変わったとてその信念を曲げることは出来ない。

元より神子柴を倒す事は考えていた。
ならば、神とやらもまた討ち取るべきではないか。

(しっかし……一国を相手にしていたとはいえ、規模がインフレしすぎだっての)

改めて状況を認識すると苦笑すらしたくなってきた。

「だろ!? 金は出すから協力してくれよ!!」

「まあ、その意見には乗るかはともかくとして、それよりも夏美さんって人や凪くんだっけ? あの二人を先に探したほうが良い。
 セリューは多分、須賀さんを狙ってる。とくれば、あの二人も標的にしてるかもしれない」

だが、先に片さなければいけない問題としては、須賀の身内の保護だ。
帆高は生かすと言っていたのでまだしも、一度悪と考えた須賀とその関係者をセリューが見過ごすとは考え難い。

「……俺のせいで」

「あんたのせいじゃない。誰だって、あんな風に言われたら怒るさ」

ラバックもナジェンダをああも言われたら、間違いなく怒り狂う。
流石にそれが潜入任務であったのなら抑えるが、完全な一般人の須賀にそれは酷だろう。

(何やってんだよ……今は面倒ごとは避けねえと……萌花に会えなく……)

―――娘と会いたい。それは陽菜と会いたい帆高と一緒なんじゃないのか。

帆高の行き先、鳥居の場所に心当たりはある。そこから逆算すれば、帆高の場所も……。

(待てって……何しようと……)


「急いだほうが良い。セリューはかなりの実力者だ。何とか先に二人を匿っておきたい」

確認できなかったが、もしセリューに帝具があれば、現状のラバックでは相当厳しい戦いを強いられる。
やはり戦いは避ける方向で、二人を匿うのがベストだろう。

須賀も帆高を探すのも大事だが、自分のせいで危険人物に目を付けられた二人を探す方が優先だと思考を切り替える。

「……」

先を急かすラバックの背を見つめながら、須賀はまた指輪に触れていた。


【D-4/1日目/深夜】


【ラバック@アカメが斬る!】
[状態]:不安(大)
[装備]:ストーン・フリーのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:神子柴に従うつもりはない
1:セリューより先に夏美と凪を保護する。場合によってはセリューを……。
2:暇があればもう少しスタンドを理解したい。
3:神を捕獲か……。

※参戦時期は死亡後です。
原作、アニメで最期が少し違いますが、
どちらでも問題ありません(採用次第)
※スタンドの使い方は概ね把握してます。

【須賀圭介@天気の子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:帆高を見つけてから考える。
1:夏美を凪を探す。
2:セリューを警戒。
[備考]
※陽菜が消えて以降からの参戦です
※アカメ世界、コワすぎ本編をある程度把握しました

【工藤仁@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
[状態]:健康
[装備]:呪いの髪飾り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!、ビデオカメラ@現地調達
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1、コワすぎ!DVD@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
[思考・状況]
基本方針:コワすぎ!を撮る。
1:杉下が消えたので好きにやる。
2:プリキュアとか、そういう奴らを沢山連れてきて神様を捕獲する。
3:2が無理なら帆高に髪飾りを渡して戦わせる。
4:カメラマンも欲しいよなあ……。
[備考]
※参戦時期はタタリ村に行く前の何処かです
※アカメ世界をある程度把握しました


55:小さな体に眠る熱 投下順 57:【飢】うえること
時系列順 58:見据えてる視線の先にある殺意の目
前話 名前 次話
37:旧態依然 ナイトイェーガー セリュー・ユビキタス
ラバック
27:FILE-XX【100%の晴れ女捕獲作戦】 須賀圭介
杉下右京
工藤仁
最終更新:2021年08月18日 15:49