アマネオ

あなたは望まれて生まれてくるの(2004年)

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amaneo

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 砂浜の近くにたつカナメとナツの家。高い塀が砂を防ぐ。夜は人通りも減り、内海の穏やかな波音が淋しげに響いた。ベッドの上には息を荒くした全裸のカナメがいた。ナツはその胸に頭を預け胸板を撫でた。ふとナツは顔を上げて、まっすぐに自分の夫の目を見た。

 二人は見つめ合った。
「ゴム無しでこおゆうことするってんはさ、カナメはこどもができる覚悟があるってんやろ」

 カナメは一瞬止まったあと、妻の首筋にキスをして笑った。うなじを撫で、耳元で呟く。
「そりゃこっちのセリフだ。避妊もせずこういう行為をするってことはナツに赤ちゃんを持つ覚悟があるってことだよな」

 ナツは数秒考えて立ち上がり、演技じみた動作でカナメを指さした。
「望むところよ」
「名前はどうする。俺、ヒノスケとか兄ちゃんにもネーミングセンスが無い無いって言われ続けてるから自信ないぞ」

 ナツは裸のまま引き出しから筆ペンと紙を出してさらさらと書き出した。
「おお、本格的な」

 カナメが覗きこむが、腕で隠された。一瞬だけ見えたのは、紙に何列も漢字が並んでいた様子だけだった。
「なんでだよ。名前って夫婦で決めるもんじゃないのか」

 ナツは立ち上がってカナメの尻を軽く叩く。
「産むまで秘密ね」
「お前は何か、亡国の王子でも身篭るつもりか」

 カナメは無理矢理ナツを抱きしめ、片腕でその紙を見る。

美妃みっふぃ
大神光めぎどらおん
超新星すーぱーのば
羽姫芽わきが
ポチ男
皇帝さうざー

 カナメは絶望した表情になったが、すぐに顔を上げた。
「良かった。今見といて本当に良かった、お前全部『強い妖戦士田中』レベルじゃないか!」

 ナツは不服そうな顔だ。カナメは更に下を見て「お」と言った。

海女禰音女海
女禰緒音緒禰
禰緒音緒海女

「これはなんて読むんだ」

 カナメは腕を緩める。ナツは紙を取り上げた。
「読み方なんてないよ。ただ、ウチ前に子供が産まれる夢を見たんよ。その時、出てきた文字。たしかこんな字がいっぱいあった」
「ふうん。その子、男だったか? 女だった?」

 ナツは腕を組んで人差し指を頭の横でくるくる回した。目を閉じて思い出している。
「よくわからんね。どっちにも見えたんよ。一人で泣きよったけん、その子を抱き上げるところで目が覚めた」
「なんかすごい話だな。じゃあ名前はそこから取ろうぜ」

 ナツが海、音、音にマルをつけた。カナメの目の前に紙を見せ付ける。
「やったら海音々でうみねね。これは譲れんね」

 カナメは頷き、まあいいかとベッドに座った。
「じゃあ男なら、俺は木陰がいい。全然関係ないけどな。まあ、みんなが集まってくるような。そよ風が吹いて休めるような場を作れる男になってくれれば」

 カナメは頭をぼりぼりかきながら、突然照れた。あー、うー、と部屋を行ったり来たりして冷蔵庫を無意味に開け閉めした後、また戻ってきた。
「何やっとん?」

 ナツは笑う。
「なんか子供欲しくなった。もう一回できるか?」
「望むところよ」

疲れきった様子でカナメは眠っていた。ナツはそれを見て頭を抱き寄せ、キスをした。それから自分の腹の肉を引っ張る。結婚してからツナギを着ずに事務ばかりで、肉がついてしまっていた。

 もう一度ツナギを着て溶解し、PCに記録されている肉体数値までリセットすれば元に戻る。しかしそれでは受精卵までも失うことを意味した。

 やがて腹を優しく撫ではじめる。まだ子供ができているかどうかもわからないが。
「早く会いたいな、うみねねちゃん。こかげちゃん。あなたはどっち?」

 次第に明けていく薄闇の中で、ナツはひとりごちる。

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