はじめに
是(コレ)を執筆している私は、この島で培った経験ゆえの使命感から執筆している。なるべく、縷縷に至るまで書くよう尽力する事を約束するが、なにゆえ十年何某の歳月を経てからの事なので、鮮明でない箇所がある事には、赦免して頂くよう願う。
是は、決して被害者意識の凝固した怪文などでも、罪の意識に駆られた贖罪などでもない。
大殺戮を引き起こした、人類最期の大罪人による、単なる自慰行為である。その事にも、目を瞑って読んでいただこう。
是は、決して被害者意識の凝固した怪文などでも、罪の意識に駆られた贖罪などでもない。
大殺戮を引き起こした、人類最期の大罪人による、単なる自慰行為である。その事にも、目を瞑って読んでいただこう。
壱
3026年、『恋紋村』、私たちは其処(ソコ)で生まれ育った。
愛知ケン岩倉シにあり、スボ川とナガラ川の二流の合流点の中に浮かぶ、女性の秘裂のような、或いはオムレツ(是は君たちの時代に配慮した呼称である)のような形象をした中洲で、堤防替わりのブナの木々に隔たれ、『外界』へ渡るにはナガラ川に架かる、過去70年間放逐されている楔れた橋を渡らなければならない。
私たちは完全に隔離された生活を送っており、私たちのような子供は限りなく丁重に扱われた。其(ソレ)でいて、誰一人として漏れ余ることなく驕らず、慇懃で恭しい態度を持っていた。
其も其のはず、私たちには生きる上でのマニュアルがいくつも用意されていたのだった。『是するべき、是するべからず』が全て用意されていて、『人生という物の儚さ』、『唯物論』、『無常観』などを初等教育で説かれた。
(信奉する神もモットーもない私たちは、ニーチェが危惧したように、おかげさまで若干ニヒリスト的になり、今も私はその悪癖から脱却できていない。本書の執筆にあたる上での『私的な目的』の一つには、そのリハビリの一環という側面が在る。)
初等教育で与えられた教科書類には、寓話を用いた教訓がいくつもあり、其の中でも異彩を放つ二つが『業鬼』と『音夢』である。
折角なので、あなた達にも共有させていただこう。私たちの愚かさに対する解像度も、これを知った方が上がるというものだ。
愛知ケン岩倉シにあり、スボ川とナガラ川の二流の合流点の中に浮かぶ、女性の秘裂のような、或いはオムレツ(是は君たちの時代に配慮した呼称である)のような形象をした中洲で、堤防替わりのブナの木々に隔たれ、『外界』へ渡るにはナガラ川に架かる、過去70年間放逐されている楔れた橋を渡らなければならない。
私たちは完全に隔離された生活を送っており、私たちのような子供は限りなく丁重に扱われた。其(ソレ)でいて、誰一人として漏れ余ることなく驕らず、慇懃で恭しい態度を持っていた。
其も其のはず、私たちには生きる上でのマニュアルがいくつも用意されていたのだった。『是するべき、是するべからず』が全て用意されていて、『人生という物の儚さ』、『唯物論』、『無常観』などを初等教育で説かれた。
(信奉する神もモットーもない私たちは、ニーチェが危惧したように、おかげさまで若干ニヒリスト的になり、今も私はその悪癖から脱却できていない。本書の執筆にあたる上での『私的な目的』の一つには、そのリハビリの一環という側面が在る。)
初等教育で与えられた教科書類には、寓話を用いた教訓がいくつもあり、其の中でも異彩を放つ二つが『業鬼』と『音夢』である。
折角なので、あなた達にも共有させていただこう。私たちの愚かさに対する解像度も、これを知った方が上がるというものだ。
業鬼
__かつてこの村には、他の誰も比肩できないほどに聡明で、博識な少年があった。少年は、その賢さから、『やがてこの村の脳になる』と彼と親しくない大人からも烈しく持ち上げられるようになる。初等教育、中等教育とカリキュラムをクリアしていくうちに、少年は『自分は他の誰より聡く、俊英であるのに、何処までも『村民の一員』に過ぎないという事は、不公平ではないか。この村のしきたりは、詰まる所自分より愚鈍な人間によって構成されたものであり、より高位なはずの自分がそれに追従するというのは、いわゆる『穀潰し』ではないのか。』と、傲慢にも思い始める。少年はすぐに、