長い道程だった、ここに至るまで、多くの困難があっただろう。
先ずはここまで来た君と、僕の言葉が届く君へ労いと感謝を贈ろう。
だが、物語はまだ終わっていない、まだ始まってもいない。
君達が辿ってきた道程は、言わばこれから起こる悲劇がどのように準備されていたかでしかない。
だから僕は話さねばならない、何故悲劇が起こるのか。
ここに来るまでに語られてこなかった人物の過去を話そう、それこそが全ての鍵となる。
先ずはここまで来た君と、僕の言葉が届く君へ労いと感謝を贈ろう。
だが、物語はまだ終わっていない、まだ始まってもいない。
君達が辿ってきた道程は、言わばこれから起こる悲劇がどのように準備されていたかでしかない。
だから僕は話さねばならない、何故悲劇が起こるのか。
ここに来るまでに語られてこなかった人物の過去を話そう、それこそが全ての鍵となる。
さて、話を始める前に簡単な計算をしてもらおう。
そう身構えなくて良い、小学生でもできる簡単な算数の話だ。
『ここに、「虐げられた者」と「虐げた者」がいる。
前者は後者を許さない、何があろうとだ。
謝罪の余地はなく、贖罪の機会など最初から無い。』
以上が条件だ。
怨みと憎悪を掛け合わせて論理観を引き、前者が後者に復讐することを解とする。
では本題だ──
『上記の条件に以下を追記する。
「何もしなかった者達」と、「何も知らなかった者達」がいて。
「そういうものだ」と、全てを許した世界がある。』
さあ、解いてみたまえ。
難しいかい?ならばヒントをあげよう。
「悪人」になり、例題のように邪魔な倫理観を捨てて考えれば良い、君が前者の人間になって考えれば良いんだ。
解けたかい?解けなければこの話は何も意味を成さないんだ、解けることを祈っているよ──
そう身構えなくて良い、小学生でもできる簡単な算数の話だ。
『ここに、「虐げられた者」と「虐げた者」がいる。
前者は後者を許さない、何があろうとだ。
謝罪の余地はなく、贖罪の機会など最初から無い。』
以上が条件だ。
怨みと憎悪を掛け合わせて論理観を引き、前者が後者に復讐することを解とする。
では本題だ──
『上記の条件に以下を追記する。
「何もしなかった者達」と、「何も知らなかった者達」がいて。
「そういうものだ」と、全てを許した世界がある。』
さあ、解いてみたまえ。
難しいかい?ならばヒントをあげよう。
「悪人」になり、例題のように邪魔な倫理観を捨てて考えれば良い、君が前者の人間になって考えれば良いんだ。
解けたかい?解けなければこの話は何も意味を成さないんだ、解けることを祈っているよ──
それでは、話をしよう、一人の嘘吐きの話だ。
男はバグズという組織に入り、その最上部と接触できる程の実力を持つ、そんな男が"そう"なってしまうまでの話だ。
男はバグズという組織に入り、その最上部と接触できる程の実力を持つ、そんな男が"そう"なってしまうまでの話だ。
結論から言おう、その男は早乙女涼雅を愛している、故にその男の行動原理は単純である。
故に男は"早乙女涼雅 の味方"を名乗る、男の目的は世界の平和でも争いの無い世界の設立でもない、早乙女涼雅が戦わない世界を作ることだ。
その為に男はバグズに入る前から様々な手を使ってそれを試みた、そしてその度に早乙女涼雅は戦う力を得ていった。
己の望みは叶わない、それだけではなく、早乙女涼雅が戦う度に、敵を倒す度に人々の醜さを目の当たりにさせられた。
早乙女涼雅を「英雄」と呼び助けを求めた。
早乙女涼雅が戦えないとわかれば「役立たず」と罵った。
早乙女涼雅が戦えるようになれば「英雄の復活だ」と自分が英雄にでもなったかのように勇み。
それに慣れれば「もっと早く助けに来い」と喚き。
再び戦えなくなれば「使えない」と嘆いた。
戦う力を与えられれば「なぜ自分が戦わなくてはいけないのか」と拒絶した。
許せなかった──
疎ましかった──
何故、こんな弱い生き物を守ろうとするのか。
何故、守られることを当たり前だと思う醜い生き物を守るのか。
何故、それを許して戦うのか。
何よりも、羨ましかった──
危険を冒してまで慕われる女が。
聖女のように全てを救おうとする愚かな女が。
その女と幸せな家庭を築いたことが。
──そこは、自分の居場所なのに。
故に男は"
その為に男はバグズに入る前から様々な手を使ってそれを試みた、そしてその度に早乙女涼雅は戦う力を得ていった。
己の望みは叶わない、それだけではなく、早乙女涼雅が戦う度に、敵を倒す度に人々の醜さを目の当たりにさせられた。
早乙女涼雅を「英雄」と呼び助けを求めた。
早乙女涼雅が戦えないとわかれば「役立たず」と罵った。
早乙女涼雅が戦えるようになれば「英雄の復活だ」と自分が英雄にでもなったかのように勇み。
それに慣れれば「もっと早く助けに来い」と喚き。
再び戦えなくなれば「使えない」と嘆いた。
戦う力を与えられれば「なぜ自分が戦わなくてはいけないのか」と拒絶した。
許せなかった──
疎ましかった──
何故、こんな弱い生き物を守ろうとするのか。
何故、守られることを当たり前だと思う醜い生き物を守るのか。
何故、それを許して戦うのか。
何よりも、羨ましかった──
危険を冒してまで慕われる女が。
聖女のように全てを救おうとする愚かな女が。
その女と幸せな家庭を築いたことが。
──そこは、自分の居場所なのに。
こうして男は少しずつ狂っていった、愛するその人と敵対する立場となり、言葉で訴え続け、いつしか剣を交えるようになっても気付くことなく、殺すことで救えると考え、終いには互いの命は互いが共有しているものであるとさえ錯覚した。
それでも男は目的を違えることは無かった、"早乙女涼雅が戦わない世界"を作る、それを目的として手段を選ばなかった。
バグズの時間跳躍装置を用いた過去改編もチャンスだと信じて引き受けた、その結果何も変わらないのだとしても。
世界はバグズが支配する、その未来は確定したも同然で、自分が居なくても世界から争いがなくなる、早乙女涼雅は死にはしないだろう、だからこの時代から去ることも気にならない。
寧ろ、主導者である男が何を目的としているのか探り、場合によっては阻止しなくてはならないと考えていた。
それでも男は目的を違えることは無かった、"早乙女涼雅が戦わない世界"を作る、それを目的として手段を選ばなかった。
バグズの時間跳躍装置を用いた過去改編もチャンスだと信じて引き受けた、その結果何も変わらないのだとしても。
世界はバグズが支配する、その未来は確定したも同然で、自分が居なくても世界から争いがなくなる、早乙女涼雅は死にはしないだろう、だからこの時代から去ることも気にならない。
寧ろ、主導者である男が何を目的としているのか探り、場合によっては阻止しなくてはならないと考えていた。
こうして男は今に至る。
だが、根底にあるものは何も変わっていない。
「人類など救う価値がない」
「世界などどうなろうと構わない」
「何故早乙女涼雅がそれを救おうとするのか理解が出来ない」
男が守りたいのはただ一つ──
早乙女涼雅、その男を戦いから遠ざけることこそが稲荷崎恭弥の唯一の目的であると、己を騙したのだ。
だが、根底にあるものは何も変わっていない。
「人類など救う価値がない」
「世界などどうなろうと構わない」
「何故早乙女涼雅がそれを救おうとするのか理解が出来ない」
男が守りたいのはただ一つ──
早乙女涼雅、その男を戦いから遠ざけることこそが稲荷崎恭弥の唯一の目的であると、己を騙したのだ。