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その一歩が遠くて ◆BEQBTq4Ltk


七十一人。
会場に集められた自分以外の参加者は七十一人である。
その数は一学級の数を超えており、会場に満遍なく行き渡っている。
全員を殺すには多大な時間が掛かるが殺し合いの名目を打たれている以上自分以外にも乗り気な参加者が居る筈。
赤い瞳の少女もまた優れた戦闘能力を保有しており、会場に居るのは一般人だけではない。

超能力者が複数人居るのだ、他の参加者もまた優れている人材なのだろう。
彼らが衝突し合えば脱落者は必ず誕生する。
つまり御坂が七十一人全員を殺さなくても願いは叶う。
最も最後の一人になる以外願いを叶える方法は無く、その場所には友も仲間も存在しない。

最後の一人だけが願いを叶えられる。故に殺すのは自分以外。
大切な仲間も殺さなければならない現実を彼女は知っている。
直視したくないその現実から彼女は瞳を逸し時間が解決してくれることを祈っていた。


「誰も死んでほしくないってのは当たり前。でも退けない」


私はまだ手を汚していない、でも退いたら自己嫌悪で死んでしまう。
御坂には叶えたい願いが生まれてしまった。誰も祝福していない黒い夢。
その夢を見るためには屍を築かなければならない修羅の道。
踏み外すことの出来ない最初で最後の夢物語を実現するには総てを殺さなければならない。

この手は汚したくない。知り合いならば尚更であるが願いは叶えたい。
甘い、けれど覚悟は出来ている、それでも殺しを進む自分が嫌いだ。
助けて、されどその声、腕を握ってくれる救世主は近くに居ない。

代わりに現れたのは男性であり年は決して若くない。


「やぁお嬢さん」


優しい声で語りかけるもその腕には傷が残っていた。
出血こそしていないが戦闘の名残を簡単に連想させる。
それも本人が比較的元気でいる辺り、撃退したか勝利したか殺したか。
この会場に勝利の美学を求める人間、スポーツマンシップな人間がいるとは思えない。
つまりこの男性は生死は問わないにしろ誰かと交戦を行い勝利/殺した人間と推測する。


「やぁ、ってこの状況でよく言えるわね……ッ」

「――錬金術か?」


この男性は自分を偽って私に接触してきた。御坂は思う。
大方油断した所を殺そうとしたのだろう。質が悪く反吐が出る。

精神が不安定である御坂の思考は常識を逸脱している。
少しでも怪しい素振りを見せればその疑惑は真実味の無い核心に変わってしまうのだ。
しかし。


「錬金術ってそんな古いモンじゃないわよおじさん、これは超能力」


暗闇を走る雷光の煌きはとても美しく儚い。
見惚れてる程の輝きではあるがその性質は他者を殺す裁きの雷。
直線上に迫る電撃を男は最小限の横の動きで回避すると己を駈け出した。


(ノーモーションで錬金術を使うとはな……超能力と言ったが)


剣を取り出したブラッドレイは目の前の少女の力に驚いた。
全く予備動作を見せずに電気を発現したその力は絶大なモノである。
彼女曰く錬金術ではないらしいがそれでもその力には惹かれるものがあった。
鋼の錬金術師と言い最近の若者は実に人間離れしているようである。


「アンタも躱すんだ」

「では私以外にも電撃を躱す人間がいたのか」

「さぁどうかしらねッ!」


懐に迫るブラッドレイに対し御坂は己の筋肉を電撃で刺激し一時的な加速を帯びた蹴りを叩き込む。
初速は完全に少女の限界を超えており謂わば奇襲の一撃である。
しかしブラッドレイはこの一撃さえも首を捻り躱してしまう。
そのまま剣の柄で御坂の腹に一撃を叩き込み、更に足を払い彼女の体勢を崩す。

攻撃により液体を少し大地に吐き出した御坂は電撃を放出させる。
自分を中心に放つ広範囲の一撃を躱す術は早々無い。


「本当に強い力を持った少女だ」


ブラッドレイは後方へ飛ぶと剣を大地に突き刺した。
次に力をある程度込め土と一緒に剣を抜き上げる。
空中に舞う土達は迫る電撃を防ぐ即席の盾となりブラッドレイを守った。
しかし総てを防げるわけではないが少しでも防げれば充分である。


「その年でよくそんなに動けるわね……」

「これでも全盛期よりは劣っているのだよ」


それこそ信じられないと思う御坂だが目の前の男は電撃を躱し続けている。
攻撃された影響で腹を抑えているが倒れてはいられない。
願いのためにもこんな所で倒れる訳にはいかないのだ。

少しだけ。
ほんの少しだけ目を離していた隙に男は大分此方に近づいていた。

「しまっ――」


剣先は御坂の頬を掠り血が遅れて流れる。
右腕は男の左腕に掴まれ無防備な状態に晒され武器になるコインも取り出せない。
この会場には彼女の知らない人間が多すぎる。
最初に出会った赤い瞳の女も生身で電撃を躱す巫山戯た存在だった。
そしてこの男も。


「少し大人しくして貰おうか雷光の錬金術士」

「私は錬金術なんて使ってないって言ったわよね? これは超能力」

「この状況でも強がるか……まぁいい。
 ならば超能力とはなんだ、その力は一体なんだと言うのだ」

「アンタもしかして学園都市を知らないの? 私はその頂点に近い超能力者/レベル5の――」


学園都市、超能力、レベル5。
どれも聞いたことがない単語である。
だが不思議なことではない。この世に有り得ないなど存在しない。
未央やタスクから聞いた話とこの目で確かめたエンブリヲ
どれもブラッドレイの体感した世界では感じ得なかった不可思議の現実。
今更電撃を操る少女が現れようが問題はない。
あるとすればこの状況だけか。


御坂美琴だっての――ッ!」


掴まれているブラッドレイの腕に直接電撃を流し込む御坂。
ブラッドレイ、彼は見誤っていた。
腕を抑えれば電撃は使えないと判断していたが彼女の方が上手だったらしい。
素早く腕を離すが電撃は到達しており痺れが彼の左腕を襲う。

焦げてはいないが少しの間使用は不可能だろう。
距離を取り再度口を動かす。


「なにも私は君を殺そうとしていないのだよ」

「は? 信じられると思ってるの? アンタにその気は無いとしても私には叶えたい願いがある」

「それは私も同じだ。此処で潰し合っても意味が無い……違うかな?」

「……別れてスコアを稼ぐってことね」

「話が早くて助かる。分かっているとは思うが一人で全員を殺すには時間が掛かるのだ。
 私も無駄な殺生は好まんのでね。現に表は善良な参加者として振舞っているのだよ。
 こんな所でくたばる訳も行かなく帰る場所が私にはあるのでな」


殺し合いを加速させる人間が潰し合うメリットは存在しない。
生存率は確実に上昇するが願いを叶えたい人物にとっては必要のない希望。

殺し合いと止める、なんて幻想は壊してしまえ。
邪魔だ、甘い夢を見るな、覚悟を持たない理想など捨ててしまえ。

「手を結ぶ……私はアンタをそれ程までに信用していない。
 でも此処で潰し合っても意味が無いのは理解しているの、私は誰もこ、殺せていない」

「決まりだな御坂君。私はこれから図書館に向かい協力出来そうな参加者と接触する。
 だから君は別の道を行ってくれると大変助かるのだがどうする?」

「分かったわよ……なら私はそうね、温泉にでも向かってるから文句は言わないでよ」

「私が文句を言う理由があるのかね? それでは頼むよ――」「ちょっと待ちなさい」


疑問が生まれること無くスムーズに進む会話。
両者互いに状況を把握しているからこそ、願いを求めているからこそ。

腕を振るい去ろうとするブラッドレイを御坂は止めた。
自分だけに喋らせといて自分のことを話さないこの男が気に喰わない。

「まず名前を教えなさいよ」

「名簿ではキング・ブラッドレイと記載されているが互いに無関係を装うのがいい」

「そうね。私はアンタみたいな奴と仲間だなんて思われたくない」

他者を襲う存在と知り合い。その情報が漏れると御坂に対する評価は最低になるだろう。
何れは総てを殺す道だが毒を拡散させる瞬間は今ではない。

「今は退くけど私達は何れもう一度殺しあう」

「そこまで君が生きていることを願わせてもらおう」

それが彼らの最後の会話。






御坂と別れたブラッドレイは当初の予定通り図書館へと向かう。
左腕の痺れは大分解消されたが本調子には程遠い。

(御坂美琴……あの電撃は完成された一つの兵器)

彼女が操る電撃は速度、威力、範囲とどれも一級品であった。
この眼が無ければブラッドレイは確実にあの場で死んでいただろう。

錬金術とは異なる異形の力。
彼女も活かしておけばエンブリヲと同じような扱いが出来るかもしれない。

未知なる遭遇の次は更なる未知との出会い。
この会場に総ての常識は通用しないようである。

「凛と言い御坂と言い最近の若者は実に強い……君はどう思うかね、鋼の錬金術師」



【F-5/川岸/1日目/早朝】

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、腕に刺傷(処置済)、左腕に痺れ(感覚無し、回復中)
[装備]:デスガンの刺剣、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(刀剣類は無し)
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:図書館に向かいタスクらと合流。稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。
2:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
3:エドワード・エルリックロイ・マスタングは死なせないようにする。
4:有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ
5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。
6:御坂は泳がしておく。
[備考]
※未央、タスクと情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。






ブラッドレイは強い。
単純な近接戦闘ならば今まで戦ってきたどの相手よりも強い。
赤い目の少女よりも完成された肉体術であった。

自分の電撃は通用している。
だが生命には届かない。

覚悟はしているつもりだ。
だけど誰一人として殺せていない。

焦りが彼女の精神を黒く穢していた。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟? 、吐き気、頬に掠り傷
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×14
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:温泉の方角に向かってみる。
1:黒子たちと出会わないようにする。
2:次こそ絶対に殺す。
3:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。





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最終更新:2015年08月07日 03:23