072

鋼vs電撃vs世界


「こっちはみくを迎えに行かなきゃならねえってのに……」

エドワードは舌打ちをする。
温泉へ戻りみくを回収しようとした矢先、茶髪の少女、御坂の襲撃を受けた。
電撃を操る能力。その火力は、マスタングにも相当するかもしれない。

「悪いわね。死んで貰うわ」
「ふざけんな!」

腕を振るった先から続いたのは青白く光り輝く電撃の鞭。
エドワードの右腕、左足は鋼の機械鎧(オートメイル)。必要以上に電気を吸い寄せてしまう。
大幅に距離を空け電撃を回避しつつ、手を合わせ地面から数本の柱を練成し少女へと叩きつける。
近距離戦闘は無謀である以上、遠距離から感電の心配のない攻撃を仕掛けるしかない。
だが、少女の周りに黒い砂。砂鉄が集まり、高速で振動し触れたものを切り刻む壁となり柱を遮る。
柱は大根削りのように削れていき、御坂にはまるで触れられない。
エドワードが練成を止め、柱の動きが止まる。それを見計らい、御坂は砂鉄を今度は剣状へと形を変え横薙ぎに振るう。
剣を扱う上で必要な間合いを砂鉄を細め、長くすることで御坂は一切の移動もなく、腕の動きだけでエドワードを切り裂く事が出来た。
エドワードは上段に向かってきた砂鉄を身を反らし避ける。御坂は砂鉄をエドワードの頭上で止め、そのまま面へと振り下ろす。
髪を僅かに擦らせながら、バク転で後方へ退避。
砂鉄の剣は地面を切り刻み、エドワードの居た地面の土がが粉々になる。
人体があれを受ければ一溜まりもないだろう。
土製のミンチを見ながら、エドワードは嫌な考えを浮かべてしまった。

「的が小さいと当てずらい……」
「誰が豆粒ドチビだ!」

挑発なのか、単に感想を述べただけなのか分からないが、御坂がエドワードのコンプレックスを見事に踏み抜く。
我を忘れそうになるのをエドワードは辛うじて叫ぶだけに止めた。

(どうする? 下手には近づけねえし)

やはり厄介なのは電撃だ。エドワードは鋼の義手義足である為、回避に専念しないと僅かな接触で感電してしまう。
かといって、遠距離からの攻撃は砂鉄を操った防御で防がれる。しかも攻防一体と来た。
エドワードの得意の体術も、そして遠距離からの攻撃も見事に届かない。
せめて、マスタングのような焔の練成さえ出来れば話は別だが、エドワードにその技術はない。
見よう見真似で再現したところで、使い物にはならないだろう。

「お前、なんでノーモーションで錬金術を発動できるんだ?」

故に選んだのは時間稼ぎ。
逃げるにしろ戦うにしろ思考の時間が欲しい。

「二度も同じことを言われたわね。これは超能力よ」
「超能力……?」
「お喋りはもうお終り!」

エドワードの予想に反し、御坂は会話には乗ってこなかった。
言葉のかわりに電撃の槍が降り注ぐ。
エドワードを青く照らし、その身を焼き焦がそうと空気中を奔り迫る。
電撃の奔る速度に、人の動体視力は付いていけない。
僅かな御坂の腕の動作で予測を付け、エドワードは横方へと跳ぶ。
チリチリと服の裾が焼けた音が耳に付いた。
あとコンマ一秒でも回避が遅れていれば、焼き焦げた死体が一つこの場に出来ていただろう。

「どうして、こんな殺し合いに……!」
「煩い!」

説得も通じそうにない。というより、御坂は話をしたがらない。
戦闘で追い詰められているのはエドワードだが、精神的には御坂のが追い詰められている。
人を殺せない焦りが御坂の体を突き動かし、他人の言葉が耳に入らない。
エドワードの苦戦を嘲笑うように電撃の鞭が撓り、エドワードを絡め取らんと奔る。

「クソ! 人の話を聞きやがれ!!」

両手を合わせる。それは錬金術発動のためのモーション。
今までのエドワードの動作から、御坂にもそれは理解できていた。
もっとも、恐れる必要はそうない。このレベル5の『電撃使い』に有用な能力ではないからだ。
良くても、辛うじて柱を電撃から守る盾にする事しか出来ないだろう。
その場合は砂鉄の剣で壁を切り刻み、エドワードごとミンチに変えてしまえば良い。



(あんだけ砂鉄を操ってたんだ。ここいらから取れる砂鉄の鉄分なら……)

既に数手先を読み、勝利までの光景を確信した御坂の予想が覆される。
エドワードはその予想に反して地面から避雷針を練成した。
御坂が磁力で砂鉄を操るように、またエドワードも砂鉄を避雷針へと再構築。
電撃は避雷針に吸い寄せられ、御坂の意志に反し電撃がエドワードに届くことはない。

「避雷針!? ……あいつの能力、錬金術って言ってたわね」

思い返せば、ブラッドレイも最初は御坂を錬金術師と言っていた。
今更、そんなものを信じろと言われても、普段の御坂なら理屈を付けて適当に流していただろうが、今は不思議と受け入れられる。
そんな些細なことに関しては、もうどうでもよくなってきたのもあるかもしれないが。
間違いない。あれが錬金術師であり、錬金術は実在するのだろう。
土を操る能力かと思っていたが、それは大きな間違いだったらしい。
余談だが、学園都市内にも以前は錬金術師が潜伏しており、上条当麻と交戦していたのだが御坂は知る由もない。

「何でもやれるって、考えといた方が良いのかしら」

予測の付かない能力だ。今まで様々な能力者と交戦してきたが、ここまで先が読めない能力も珍しい。
エドワードの動きに注意しながら、砂鉄の剣で避雷針を破壊する。これで電撃が反れることは無い。
再び避雷針を練成する為に、エドワードが地表に手を置いた。そのタイミングに合わせ、同時に地面から砂鉄の槍が上る。

「ッ? あぶねえ……!」

エドワードが身を捩じらせ、砂鉄の槍はその額を掠る。
右の額の皮膚が裂け、血が垂れてくる。右の眼球が赤に染まり、血を拭う。

「―――貰った」
「しまっ―――」

右の視界は血で、左の視界は砂鉄により遮られる。
だからこそ、エドワードは向かい来る電撃に気付くのが一歩遅れた。
それでも、生身の部分の直撃は辛うじて避けた辺り、エドワードの体術は流石というべきだろ。う
だが生身の部位こそ電撃には触れないが、鋼の右腕は違う。
鋼が電撃を吸い寄せ、感電する。

「がっああああああああああああああああああ!!」

電撃が機械鎧を流れ、エドワードへと巡っていった。
肉を焦がし、神経を狂わせ、電撃は身体に自由を許さない。
激痛と痺れを味わうエドワードの苦悶の表情に、御坂は目を反らしかける。

(いや、目を背けちゃ駄目なのよね……)

拒みかけた光景を御坂は食い入るように眺めた。
吐き気が喉を刺激し、胃液が這い上がってくる。
口内が胃袋の内容物の匂いに包まれ、今にも口から全てを吐き出してしまいたくなる。
けれども、御坂はそれを良しとせず。口を両手で押さえ強引に飲み込んだ。

(殺した……やっと一人、殺したのね)

これで、一歩近づけた。
これで、アイツを救う可能性が高まった。
間違っているのかもしれない事は分かっている。それでも御坂はこの方法を取るしかない。
目の前で出来た黒い妬き焦げた肉塊。自分が犯し、これからも犯し続ける罪の証。

「悪いわね。でも、謝る気はないわ。アイツをあの世から引っ張り出すまで私は……」

涙腺が緩んだ。視界が歪む。人であった肉塊を上手く視認出来ない。
吐き気は抑えられたが、涙までは堪えきれなかったらしい。
これでもし異臭も漂ってくれば、涙どころかゲロまで吐き出し、到底見られない姿になっていた事だろう。
いや、それも自分にはお似合いかもしれないと、何処か自嘲してしまう。

(異臭? ……あれ? 電撃で焼いたのに、何で匂わないの!?)

御坂は人体を焼いた経験が皆無であった為、最初は気にしていなかったが、考えれば妙だ。
人体は鉄でもないし、無味無臭でもない生物。そう、肉を焼いたのだ。匂いがないのはどう考えてもおかしい。
ふとした疑念と共に、風を切る音が聞こえた。
涙でまだ視界は良く見えない。だが、液体で捻じ曲げられた光は奇妙な光景を映し出す。
御坂の目には、肉塊が動いてるように見えたのだ。

(違―――こいつ生きて……)

いや、見えたのではなく、まぎれもなく生きて動いていた。
エドワードは五体満足でまさに疾風のように駆け、御坂の懐に入り込み拳を握り締めている。
これが幾度となく殺人を経験した軍人でもあれば、エドワードの死んだフリにも直ぐに気づけただろう。
御坂は人を殺害した経験がない。それが、この土壇場に来て、エドワードの生死を見誤ってしまった。

(不味い、かわす? いや―――)

エドワードの右腕から放たれるストレート。
回避は間に合わない。元よりする気もない。
エドワードに気付かれぬよう電撃を纏い、御坂は左腕を立てガードに回す。
こうすることで止むを得ず、御坂はエドワードの攻撃を受けざるを得ないという構図が出来上がる。
それこそが罠であり、付け入る隙になる。
エドワードが御坂の腕に触れた瞬間、今度こそ直接電撃を流し焼き殺す。
どのような方法で生き延びたかはしらないが、これで確実に仕留め切ってみせる。

「? ガッ……!?」

エドワードの右拳は高圧電流の流れる御坂に触れ、そのガードごと御坂の左頬を殴り飛ばした。
飛び掛けた意識で御坂は頭を回転させる。
先ず思ったのは、殴られた感触が奇妙だった。義手である事は分かっていたし、それが鋼製という変わった物であることも。
問題なのは、これは明らかに鋼ではないという事だ。
電撃がまるで通らない。そして異常に硬い。何より鋼とは比べ物にならない、美しすぎる輝きを纏っていた。

「北国仕様の機械鎧で助かったぜ……」

御坂を殴った右腕の姿が露になり、全ての合点がいく。
その右腕は鋼ではなく、人を魅了し引きつけて止まない宝石、ダイヤモンドだった。
道理で鋼の重苦しい輝きなどではなかった筈だ。
ダイヤモンドは電気を通さない絶縁体。故に御坂に触れる事も出来るし、殴ることも当然出来る。

「どういう、事よ……」

それでも分からない。どうして、鋼の腕がダイヤモンドの腕に変化したのか。
錬金術によるものであるのは確かだが、果たしてどんな理屈でその結果を引き起こしたのか。

「北国仕様の機械鎧は、炭素繊維たっぷりなんだよ。こんだけ炭素がありゃ、ダイヤモンドの一つや二つ作れる」

それはグリードの行っていた炭素硬化の応用だ。
北国仕様の機械鎧ならば、エドワードもグリードの炭素硬化が行えることはプライド戦で証明した。
そして、ダイヤモンドは炭素で出来ている。つまり材料は十分に揃っていたということだ。

「……そうか、やっと分かってきたわ。錬金術ってのがどんな能力なのか」

殴り飛ばされ、地べたを転がりながら御坂は理解した。
物質を再構築する。
錬金術とは極端な話、物質操作の類なのだろう。
元となる材料さえ揃えば、何でも作れる。確かに下手な能力者より厄介で応用の幅も大きい。
もっとも、それもその場しのぎに過ぎない。御坂も能力の応用力には自信がある。
鋼の腕が電気に耐性を持ったところで、所詮生身に当てれば死は免れない。
優位性が変わったわけでもない。

(アイツ、まだ意識が飛ばねえのかよ)

エドワードもまた心の中で舌打ちをする。
殺さないよう、機械鎧の手の甲から生成する刃ではなく、拳での打撃を喰らわせたが、思った以上の御坂の耐久に面を食らう。
顔に付いた血を拭いながら立ち上がる御坂はまだ戦闘が可能である事を示している。

(流石に、もう一度死んだフリなんて通用しねえしな)

感電したと思わせて奇襲を掛ける。この手が通じるのは一度だけだ。
不意を付いた練成だからこそ、成功した奇跡的な防御であり、尚且つ御坂に殺人の経験が皆無だからこそ油断を誘えたのも一度だけの奇襲。
既に種を知られた御坂には通用しない。
ダイヤモンドの機械鎧も、御坂が意図的に生身に当たるように電気の流れを変えれば意味を成さない。
決して形成が好転したとはいえなかった。

(使ってみるか、パイプ爆弾。なんとか、閃光弾に作り変えられれば、一撃叩き込める)

目を晦ませて、その隙に一撃を叩き込む。エドワードが立てた次の一手は単純明快な策。
今のエドワードの右腕は電気を通さない。上手く電撃を掻い潜り接近できれば、如何に体に電気を纏っていようと、有効なダメージが与えられる。
幸いなことに丁度、パイプ爆弾はいい練成源になる。
エドワードの知らない類の爆弾とはいえ、エドワードの知る爆弾と内部構造に大した差は無い。
パイプを密閉する事で内部の圧力を上げ、爆発の威力を向上。更に、破片効果を目的に釘や細かな金属片を内部に詰め込こんである。
一度爆破したのを見、内部を調べたエドワードはパイプ爆弾の仕組みをある程度理解していた。
内部を弄って閃光弾に作り変えれば、人を殺傷せずこの場を丸く治められる事が出来る。

(閃光弾の成分なら、パイプ爆弾の内容物で賄えるしな)

ディバックに手を差し込み、パイプ爆弾を手にする。
パイプ爆弾の材料をイメージし、それらを作り変える過程を想像し両手を合わせる。
地殻変動のエネルギーがパイプ爆弾を巡っていき、その構造を作り変えていく。その寸前。

「エドワードくん!」

この場で、一番聞きたく無い声だった。
前川みくのエドワードを見つけ歓喜に満ちた声。
余程、心細かったのかエドワードの言いつけを守らず、彼女はここまで走ってきていた。
その一瞬、エドワードがみくに気を取られた隙が命運を分けた。
手を合わせてから、初めて錬金術を発動出来るエドワードと、意識しただけで能力を発動出来る御坂。
先手を取り損ねたエドワードが、圧倒的後手に回るのは言うまでもない。
エドワードの練成が遅れ、電撃がエドワードの眼前に迫る。
練成が間に合わない。練成を中止し、エドワードは回避に移ろうとして血の気が引いた。
御坂の矛先が変わったのだ。突如、電撃が向きを変え、乱入してきた少女へと電撃を放っていた。
かわされると分かっているエドワードより、無力な弱者であろうみくの殺害を御坂は選んだ。

「逃げろ! みく!!」

みくの身体能力では、電撃の回避には間に合わない。盾の練成も距離があり届かない。
保身も考えず、がむしゃらにみくの元へエドワードは駆けるが、電撃が遮るようにみくを包んでいく。

「エドワー……」

手を伸ばす。それはもう永劫届くことは無い。
目の前で命が散らされていく。罪の無い無力な少女すら守れない。
言いようの知れぬ、脱力感と空虚さがエドワードの心を染めていく。

「『世界(ザ・ワールド)』」

だが、エドワードの内心に対し現実は奇妙な光景を映し出した。

「え?」
「何が?」

エドワードと御坂が今現実に起こったことが理解できなかった。
自分達の戦いに割り込んできた金髪の男が一言何か呟いた瞬間、みくが男のそばに立っており、電撃はそのまま、みくのいた場所を過ぎ去ったのだ。
みくと男の距離は数メートルは空いており、瞬きすらする間もない内に移動するなど不可能。
かといって、瞬間移動のような特異な移動かといえばそうでもない。
まるでみくが、最初からそこに居たかのような自然さが却って不自然なのだ。
御坂はこれも錬金術の一種なのかと考えたが、しかしエドワードの様子を見るとエドワード自身何が起こったのか理解していない様子だ。

「間に合ったか。戦闘音を聞き付け、寄り道をした甲斐があったな」

戦いに割り込んだ男は腕を組み、さも見下したような視線をエドワードに向けていた。
態度が気に入らず、文句でも言ってやろうかとエドワードは考えたが、恐らくみくを助けてくれたのはこの男なのも事実。
ともかく礼ぐらいは言っておくべきだろう。

「あ、ありがとう、ございます……」

エドワードが口を開く前にみくが恐縮しながら頭を下げる。
男は暖かい笑顔をみくに向け、優しく囁いた。

「自分を大事にしたまえ、君はこのDIOの貴重な実験動物(モルモット)となるのだから」

エドワードの中で男の印象が最底辺にまで落ちた瞬間だった。
みくはキョトンした表情だったが、錬金術師でもあり科学者でもあるエドワードには、実験動物という意味がすぐに理解できた。
稀に非人道的な実験を用いる錬金術師が居る。彼らは人を人と扱わず、ただの道具実験体にしか見ない。
この男は決して味方などではない。
ただ丁度いい道具があったから、壊される前に確保した。その程度の認識でみくを結果として助けただけだ。


「アンタ、何言って……」
「無駄ァ!」

DIOにエドワードが掴みかかろうとした瞬間、DIOの拳がエドワードに叩き込まれていた。
何をされたのか、さっぱり分からない。
怒りで我を忘れかけたからか、胴ががら空きだったかもしれないが、それでも殴られたその瞬間まで、拳が見えないのは実に奇妙だ。
速すぎる攻撃は何度か見たことはあるが、これはまるで殴られたという結果だけが、発生したかのような感覚。

(何、なんだ……? 今の……)

過程がなかった。エドワードが掴み掛かったのが①で殴られたのが③なら、そこに至るまでのエドワードの手を払いのけ、拳を振りぬくという②が存在していない。
コーラの蓋を開けて飲んでからゲップをするのに、コーラの蓋を開けて、いつの間にか飲んでいた状態になり、にゲップをするようなもの。
超スピードだとかで片付けられる問題とは思えなかった。

「え、エドワードくん!」
「加減はしておいてあげた。朝食か、非常食にはなるだろうからね」

吹っ飛んだエドワードを眺めながら、DIOはみくの後頭部に当身を放ち気絶させる。

「この、野郎……」

意識が沈んでいく。加減したと言っていただけあり、命に別状はない。
それでも意識が朦朧としてくる。
更に言えば、あまりにも咄嗟の事で受身が取れなかったのも辛い。
逃がしきれなかった衝撃が頭を揺らし、エドワードから思考を奪っていく。

「ま、て……みく……」

エドワードの意識は暗闇に落ちていった。

「はぁ……やっと追いついたわぁ。
 それにしても、DIOさんの能力って改めて見ると不可解力が高いわねぇ……ってあれ?」

息を荒げながら、豊満な乳房をタユンタユンと揺らしながら現れた少女。
御坂と同じ、見慣れた常盤台の制服。レース入りのハイソックスにレース入りの手袋。
DIOと合わせたような金色の長髪。御坂とは正反対の運動音痴。

「食蜂操祈?」
「御坂さん……?」

御坂にとって、ある意味一番今の姿を見られるたくない女に出会ってしまった。
殺し合いに乗った御坂という哀れな道化の姿は、食蜂にとって最高の玩具であるはずだ。
あの普段の調子でからかわれたくない。神経を逆撫でされたくない。今の御坂はそれを受け流せる余裕がなかった。
殺人の優先順位が切り替わり、食蜂へとその矛先を向ける。
運が良いことに、食蜂は殺しても心が痛まない部類の人間だ。丁度良い殺人経験にもなるだろう。

「い、一番、会いたくないのに会っちゃったわねぇ……」

同じく食蜂も御坂にだけは会いたくなかった。
苦笑いを浮かべながら、冷や汗を流す。
御坂に『心理掌握』は通用しない。制限とか不調とかではなく、元より効かないのだ。
ジャンケンデでチョキはグーに勝てないように、『心理掌握』は『超電磁砲』には勝てない。
目線をちょっと動かし、DIOへと向ける。この場で頼りになるのはDIOとそのスタンド『世界』だけだ。

「なるほど、君が御坂美琴ちゃんか」

DIOが食蜂と御坂の間に割り込み、壁のように立ち尽くす。
見たところ外人であるため身長は180後半、いや190以上はいってるかもしれない。
ただ、DIOがその場に立ち尽くすだけで、威圧感が御坂を圧迫し締め付けてくる。
その風貌を例えるならば、帝王という言葉が相応しい。

「邪魔するなら、先に殺るわよ?」

「いや、我々が争う必要などないだろう。美琴ちゃん?
 君は見たところ、あのチビを襲っていた。私が見るに、あのチビは善側の人間。殺し合いに乗るような事は先ずない。
 つまり、君は殺し合いを肯定した賢い参加者だ。当然私も、そして操祈ちゃんも。
 殺し合いに乗る者同士、争う必要があるのかな?」

「あるわね。一人しか、生き残れないんだから!!」

気味が悪かった。
さっきまでは威圧感を漂わせていた男が、今度は魔性さ、妖艶さを漂わせ御坂へと語りかける。
何か心を鷲づかみにされ、引き込まれそうな感覚。
それを振り払うように電撃の槍をDIOへと投擲する。
DIOの不可解な移動の謎は不明だが、この雷の槍は到底避けえよう筈がない。
仮に避けたとしても、今度こそその種を暴いてみせる。


「電撃か。確かに、凄まじいが」

DIOは着雷のその瞬間まで、腕を組んだまま一切の動きを見せない。
動く素振りもまるで無い。ただ立っているだけだ。
自殺志願者でもないだろうに、その余裕に満ちた姿は滑稽そのもの。

「―――消えた?」

電撃の槍はDIOの居た場所を素通りし、過ぎ去っていった。
対象を灰に残らない程、燃やし尽くしたのか。
答えは直ぐに訪れる。
御坂の背後から手を叩いた音が響き渡った。何度も何度も子気味良く、リズミカルに鳴る乾いた手の平の音。
拍手だ。御坂の電撃を褒め称えるように、拍手の音が耳を撫でていく。

「素晴らしい。正直なとこ、君達学園都市の学生は能力が強いだけの、素人だとばかり思っていた。大半はこんな殺し合いでは、到底生き延びれないと。
 学園都市の生徒は異能を持ちながらも、その実大半がただの子供だ。
 器に見合わぬ力は、その身を滅ぼしてゆくものだからね。
 君は違うな。君は先ほどまで、私に圧倒されていた。だが、いざ能力を発動させると冷静そのものだ。
 乱れた呼吸も整っている。戦いに対して、冷静で居られる強い精神のコントロールを心得ている」

「こ、の……!!」

振り向きざまに電撃を振りかざす。
今度はどうあっても逃れられぬよう、四方八方に電撃を巡らせ完全に包囲する。
超スピードでは物理的に回避不可能。瞬間移動も能力の及ぶであろう範囲を仮定し計算。そこまで電撃が及ぶようにしてある。

「流石だ。今この瞬間、内心酷く焦っているのにも関わらず戦術を立て、見事な策を練ったな。
 その『超電磁砲』とやらの強さは、その応用力と君自身の判断力によるところが大きい」

やはり、当たらない。電撃の及ばぬ明後日の方向にDIOは居た。
腕を組んだ姿勢は相変わらず、御坂の能力を感心しながら褒め続ける。
―――御坂の予想通りに。
既に次の布石は打ってある。
その足元に埋まっているだろう砂鉄。磁力を操作し地中に眠る砂鉄を呼び起こす。

「ほう、こんな真似まで……」

高速で振動する砂鉄が、獲物を噛み砕く牙となりDIOを飲み込む。
例え鋼鉄だろうと微塵も残さず切り砕く。
一秒も経たず、その中でバラバラに解体され、血をぶちまけたミンチが出来上がっていることだろう。
如何な超スピードでも逃げる隙間が無い。瞬間移動すら間に合わない絶妙なタイミング。

「!?」

「いや、中々悪くない策だった。私でなければ死んでいただろうね」

また、御坂の背後から、拍手の音が聞こえてきた。
背筋に嫌な汗がじわじわと流れ出す。けれども決して熱くは無い。
むしろ寒気がする。悪寒が走る。
後ろを振り向けば、笑顔を浮かべた表情のDIOが立っていた。


「ふむ、気が済んだろう? そろそろ良いかな、美琴ちゃん。実力の差が分かったと思うが?」

「私は、私は……あいつの為にも、負けられないのよォォオオ―――!!!」

コインを手に取り、残った全ての力を込め弾く。
御坂の能力名の由来ともなる必殺技。
音速の三倍の速さを誇る『超電磁砲』。それを一撃だけでなく、八発の連射。
腕を組んでいたDIOが右腕だけを上げ、人差し指を立てる。
そして、向かってきた『超電磁砲』を一発、デコピンを当てるかのような軽い動作で触れた。
『超電磁砲』は決して、おはじきじゃない。触れた時点で指が消し飛び、血は吹き出し、肉片が散らばっていることだろう。
それに敢えてDIOは触れ、おはじきのように弾いた。
コインが弾かれた。たった一発のデコピンで。
ふざけていた。車の一台や二台軽くスクラップに出来る『超電磁砲』が、たったのデコピン一発で弾かれるなど有得てはいけない。
御坂の攻撃を避ける人間は居た。斬り込んでくる人間も居た。防ぐ人間も居た。打ち消す人間も居た。反射する人間も居た。だがDIOはそのどれでもない。
DIOは弾いた先も計算し、弾かれたコインが更に他の七発のコインにぶつかる。
甲高い金属音と共に、八発の『超電磁砲』はまるでビリヤードの弾のように弾け、あらぬ方向へと全て飛んでいってしまった。
御坂の全身全霊を込めた攻撃は、DIOには届くことすらなく。無意味にコインを消費しただけに終わる。

「ちょびっと、痛いといったところか」

そして右手を見ながらDIOが呟く。
少し擦り傷を負ってしまってかのような軽い声で。
それでも僅かに勝機が見え掛けた。痛みを感じ、手から血を流しているということは、ダメージが無かった訳ではないらしい。
もっとも、その勝機も先ほどまで血に濡れていた右手が、再生を始めたことにより潰えていく。

「嘘、でしょ……。私、ここまでなの……」

敗北、死の恐怖より先に浮かんだのは、後悔。
アイツを助けられなかった。御坂はまだあの少年への恩を、何一つまだ何も返していないのに。
こんな場所で死ぬのが何よりも悔しく、心残りだった。

「美琴ちゃん、君が殺し合いに乗る意思があるのなら協力しないかな?」
「何、ですって?」

だがDIOはエドワードに対する態度とは真逆。
非常に優しく、暖かく話しかけ、まるで御坂の心を読んでいるのかのように、希望的な台詞を吐いた。
その声は非常に心地よく、心を直接愛撫されるかのようだった。

「私はね。少し事情があって、太陽の出てる昼間は動けないんだ。だから、代わりに動ける協力者を探していた。
 君は自衛手段もあり、殺し合いにも乗っている。非常に利害が一致するのだよ」
「……あんたが得をしても、私には得がないじゃない。誰がそんなこと……」
「私が見る限り、君は今弱体化している。能力の不調だとか、そういうのが理由ではない。
 謂わば精神的なものだ。自分の行いが間違っているのではないかとか、殺人への逃避とか余分な思考が君の力を鈍らせている。
 私ならそれを取り除き、君の不調を回復させてあげる事が出来る」

DIOは御坂の抱える内面の不調を一目で看破し言い当てた。
事実、御坂は自分がこの場に来てから、全力で戦えたかと言われれば否かと答えるだろう。
やはり、迷いや躊躇が存在し御坂を何かが引き止めている。
それを、もし消せるのが本当であるなら。それはとても魅力的な話に聞こえた。


「……どう、するってのよ?」
「君は私に額を近づける。それだけでいい」

肉の芽。
食蜂に上条当麻の記憶を忘れさせたように、また御坂にも肉の芽を植え殺人への戸惑い迷いを消してしまう。
そうして殺人を躊躇無く行う殺人マシーンが一台出来上がる。
誘惑に惑わされ、御坂は前髪を上げDIOへと一歩歩み寄る。
DIOもまた手を伸ばし、その指の先を御坂の額へと向けた。

「……要らない」
「何?」

DIOの指が御坂に触れる寸前、御坂の動きが止まる。

「私と協力することで、君は安心を手に入れられる。
 殺人への恐怖などない安心を胸に抱き、君は人を殺せるんだよ?」
「そんなものは要らない。私は私の意志で、殺す。
 私の意志であいつを救う!」

勘に近かった。
DIOの言うとおりならば御坂は未来永劫安心し続け、何も恐れぬことはないのだろう。
だが、多分それは永遠に上条当麻に届くことのない偽の安心。
ここでDIOに逃げるのであれば、自分は一生この偽の安心に囚われ、上条を救い出せない。
そう確信した御坂は、額へと伸ばしていたDIOの手を叩く。
そして一秒にも満たぬ手と手が触れた瞬間、御坂はありったけの電撃を流し込む。

「チィ……! 調子に乗るんじゃあ―――」

怒りに任せDIOが右腕を振り上げた瞬間、腕が痺れ動かせない。
たった触れた程度の電撃でDIOの、吸血鬼の体が痺れるなど、これも広川の行った制限のうちの一つなのか。
いや違う。それじゃない。あの時、『超電磁砲』を受けたあの時だ。
DIOがちょびっと、痛いと言っていたあの『超電磁砲』が纏う電撃のダメージが今遅れてやってきたのだ。
御坂は雷光を光り輝かせ、即席の閃光弾を作り出す。

「目晦ましだとッ!?」

『世界』を発動させようとするDIOの腹部に違和感を感じた。
見れば、砂鉄の槍が腹部を貫通していた。
痛くはないしダメージとしてはそれほどでもない。だが間違いなく『世界』の発動のタイミングは遅れた。

「……逃げた、か」

視界が晴れた時、既に御坂の姿は無かった。

「チビも消えた……。奴もドサクサに紛れて逃げたのか? まあ良い。
 操祈ちゃん、この女で良いかな能力の実験は」
「いいわぁ。DIOさん」

食蜂の了承を得て、DIOは戦闘行為を終えた。
夜ならば後を追い、肉の芽を植えるなり食事にするなりしていたところだが、もう時刻的には早朝で日も直ぐに上がるだろう。
さっさと研究所に行き、太陽をしのがなくては。寄り道も大概にしなくてはならない。

とはいえ、せめてあのチビぐらいはせっかくの餌だったのだ。取り押さえておくべきだったか。
意識を奪うだけでなく、動けない程度に痛めつけておくべきだったかもしれない。
もっともそこまで腹も減っていたわけではないので、殆どどうでもよかったが。
襲ったことにより、悪評を広げられる可能性もあるが、それはそれで好都合。
DIOはここまで、自分が凄く良い人を演じていたと自信がある。
あの豆粒が何を抜かそうが、イリヤは反発するだろうし田村や真姫も信じないだろう。
そういった、信用しない派とする派の二つの派閥が潰しあえば、DIOが自ら手を下す必要もない。

(全く、たかだが豆粒如き、この帝王が気にするまでもないな)

意識を失ったみくを担ぎ、DIOは再び能力研究所へと向かう。
その後を、食蜂がおぼつかない足取りで付いていく。


(なんでかしらぁ? 御坂さんが殺し合いに乗ってるなんて、絶好のからかい時なのにぃ。
 誰かを裏切ってるというか、なんか誰かの意志を貶してる感じがするのよねぇ……。
 ……なんで、こんなに御坂さんにムカついてるのかしらぁ?)

何か得体のしれない、空しさが食蜂の中をうずまいている。
そして、何故か御坂へ対しての怒りだけが、異様に沸いてくる。
どうして、そんな選択を取ってしまったのか、そんな事は彼の意志じゃない。そんな風に思ってしまう。

(彼って、誰? ……嫌ねぇ、痴呆力が高まってきたのかしらぁ?
 天下の心理掌握が痴呆なんて洒落にならないわぁ)

彼の意志に反するであろう、御坂の選択を食蜂は許せない。
御坂は食蜂とは違い、彼の記憶に残れる。彼のそばを歩ける。共に戦える。
ならば、その意志を継ぐべきなのに。継げるはずなのに。
記憶がなくても、食蜂には僅かながら上条への影響が残っているのかもしれない。
それが妙な感情を引き起こすのだろう。

(変な感じねぇ、何か不愉快だわぁ)

DIOの勧誘を拒んだ事も食蜂の心を乱していた。
安寧を求めて、DIOと共に行くことを決意した食蜂と、その逆を行こうとする御坂。
まさに彼女の選択は、自分を否定されているようで、不快だった。
あるいは、自分にない選択をした嫉妬だろう。

(まあ、気のせいよねぇ。それより能力の制限力を把握しないと)

今は自分の能力の制限を完全に把握するのが第一だ。
能力研究所に辿りつき、内部へと入っていく。
DIOは特殊な体質で、太陽を浴びることが出来ないらしい。しばらくはここで篭城するのだろう。
気持ちを切り替える。DIOに自分を認めさせるのに悩んでいる暇など無い。
御坂の事を考えてても時間の無駄だ。けれども、彼女の知らない深い心の底には御坂への怒りや嫉妬は確実に存在していた。






「たくっ、チビの癖に重いわね」

御坂はエドワードを背負いながら歩いていた。
生身の体重だけなら、その辺の女子よりは軽いほど小柄な癖して、右手と左手の厳つい義手が体重をさらに重くしている。
これでも北国仕様の機械鎧はかなり軽いのだが、御坂は知る由もない。

「……み、みく?」
「残念だけど、私よ」

エドワードが目を覚ましたのを見計らって、御坂はエドワードをそのまま降ろした。
尻から地面に落ち衝撃が伝わってくる。思わず尻をさすりながらエドワードは困惑していた。
殺し合いに乗っている筈の女が、何故自分を助けたのか。

「何だお前、人質か何かのつもりかよ?」
「人質なら拘束するわ……アンタさ、私と組まない?」
「どういう、意味だ?」

組むという発言がエドワードには理解できなかった。
エドワードの殺し合いに乗らないという意思と、御坂の殺し合いに乗るという意思は反発している。
故に敵対こそすれ、組むなど有り得ない。

「別に、最期まで組もうなんて言う訳じゃない。……でも、あの男、あいつを倒すまで一時休戦しないって事よ?」
「ふざけんな。誰がお前なんかと……」
「じゃあ、アンタ一人で勝てるんだ? あの男の能力は半端じゃないわ。一人で挑んでも、チビの死体が出来るだけよ。
 私もそう。あの男は私にとっても邪魔なのよ」
「誰がチビ……くそっ」

御坂も、そして途中から気絶していたとはいえエドワードもあの男、DIOの能力は一切分からなかった。
辛うじて分かったのは、あまりにも不可解で奇妙な移動をすること事ぐらいだ。
それ以外は全ての詳細が不明。御坂もエドワードも今まで様々な能力を見てきたが、あれほど理解できない能力は見たことが無い。
あの一方通行ですら、能力の理屈自体は理解出来た。なのにあの男の能力はそれすら許さぬ。
まさしく、怪物に相応しい未知の能力だ。
下手に挑めば死ぬ。それだけは間違いのない事実。

「みくは……猫耳付けた女はどうした?」
「助ける義理もないし、そこまで余裕はなかった。信用できないのなら、それでも良いけど」

御坂の言っている事は恐らく本当だ。
DIOが捕獲する人間は一人で良いと言っていたのを、エドワードは聞いていた。
みくは攫われてしまった。殺し合いに肯定的な二人組みに。
助けに向かわねばならない。だが一人でどうする?
今回は運が良かったが、次挑んでみくを助けろどころか、逃げることすら出来るかもわからない。

「……分かった。あいつを、倒すまでだな?」

結果として、エドワードは御坂の提案を受け入れざるを得なかった、
一人では何も出来ない。協力者が、それも強い力を持つ者が必要だ。
苦虫を噛み潰したような顔で、エドワードは首を縦に振った。

「話が分かるじゃない」
「うるせぇよ」

鋼の右拳を地面へと叩きつける。
ここまで自分の無力さを痛感したのは始めてだ。
一時期、スカーにウィンリィを預けた事があったが、あの頃から自分はまるで成長していない。
自分の力だけでは何一つ守れず、借りたくもない力を借りねばならない。
何一つ強くなれていない。あまりにも今の自分が惨め過ぎた。
言いようのない憤怒を何処かへぶちまけたい。
だが今は押さえるしかない。
御坂の言うとおり、エドワードも御坂もDIOには勝てない。手を組み奴を倒すのは、合理的であり悪くない提案である。
等価交換だ。直接交戦したから分かる。危険ではあるがこの女の能力は役立つ。今だけ、手を組んでいれば……。

(……悪党とは等価交換の必要なし、か。……笑えねぇ)

以前アルを攫われたエドワードがグリードに対して叫んだ言葉だ。

―――悪党はボコる!どつく! 吐かせる! もぎ取る!
   すなわちオレの総取り! 悪党とは等価交換の必要なし!

今まさにその悪党と等価交換をし、力を借りるのは誰だ。
あの台詞を聞かせたグリードが今のエドワードを見れば、大いに笑う事だろう。

「一旦、あいつらとは別方向に行くわよ。戦力を集めたいし」

エドワードと御坂が手を組んだとはいえ、二人で打ち勝つというのは現実的じゃない。
一時的な協力者を増やす必要がある。
先ほどまで、一人でも多くの参加者を減ることを望んでいた御坂が、今度は生きた参加者を求めることになる皮肉に御坂は堪らず笑いそうになる。

(戦力を増やす、か。でもそんな暇あるのか……?)

御坂の考えは悪くない。
戦力を増やすのは決して悪手ではないし、御坂がこのまま二人でDIOと挑もうと言うのであれば、協力関係を即解消するところだ。
だが、みくが気になる。あの二人の手に落ちたみくがどうなるか考えたくもない。
実験と言っていた以上、即座に殺されることは無いだろうが。

「あの娘の事なら、そう簡単には殺さないでしょ。何か理由があって生かしてるんだから」
「……黙ってろ」
「今すぐ助けに行っても無謀なだけよ」
「んな事は分かってんだよ!!」

焦ったところで、事態が好転するわけでもない。
今は戦力を補充し戦いに備える。それが最善であり、最速だ。
それにエンブリヲの件もある。みくのことにだけ、気を取られるわけには行かない。
あの凜という少女もまた別の意味で時間がない。それに、凜は恐らくはみくの仲間の一人のはずだ。必ず生きて再会させてやりたい。
戦力補充ついでに、エンブリヲから凜を救い出すのが理想になるだろう。
可能なら、アンジュと再度合流もしておきたい。もっとも、御坂を連れた状態で会っても良いものか考えものだが。
ともかくやる事が多く、時間も無い。焦りに身を任せて、時間を更に削るわけにはいかない。

「…………一つだけ言っておく。俺と組んでいる間、お前に絶対に殺しはさせねえからな」
「……好きにしなさい」

それでも、時間がない中、一言だけエドワードは御坂に告げる。
エドワードの目の前で堂々と殺人を行う真似はないだろうが、万が一にもそうなった場合。
絶対にそれだけは阻止するという御坂にも、エドワード自身にも言い聞かせる為の楔のように。
そして、これは言葉には出さないが御坂自身もまた死なせないとエドワードは決意している。
殺し合いに乗っている以上、あちらこちらで吹っかけて因縁を付けているのは間違いない。逆襲に来る参加者も少なからず居るだろう。
それでも、人を死なせることだけは絶対にしない。エドワードは“殺さない覚悟”を今一度強く固めた。

(気付かれないように殺すことだって、出来ないわけじゃないのよ。
 戦力にならない奴は隠れて始末すれば良い。……とにかく早く殺しに慣れないと……)

御坂にエドワードの言葉が突き刺さる。
御坂もまた焦っていた。早く誰かを殺さねばならないのに、殺せない歯痒さに。
やはり自分は甘いのか。DIOの言うように、殺人への躊躇を消して貰うべきだったのか。
エドワードと組むと言うのも、本当は人を殺すのを先延ばしにしたいだけ、自分への言い訳、逃げなのではないか。そう、自分自身すら疑ってしまう。
とにかく今は殺人に慣れないといけない。それもエドワードの監視の目を掻い潜って。
御坂は内心を悟られぬよう目を反らした。

異なる意志を持った二人が歩みだす。
相反する二人の先に、何が待ち受けているのかはまだ誰も知らない。




【G-5/1日目/早朝】


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟? 、吐き気、頬に掠り傷、焦り
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×6
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:DIOを倒すまでエドワードと組む。 DIOを倒したあとはエドワードを殺す。
1:黒子たちと出会わないようにする。
2:戦力にならない奴は、エドワードに気付かれないように慎重に始末する。
3:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
4:一先ず対DIOの戦力を集める。(キング・ブラッドレイ優先)
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。

【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、コートなし、焦り、右の額のいつもの傷
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×3~1、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1~0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:DIOを倒しみくを助ける。
1:DIOを倒すまで御坂と組む。DIOを倒したあとは御坂をぶちのめす。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したいが、御坂を連れて会うのは不味いか?
3:エンブリヲ、DIO、ホムンクルスを警戒。
4:対DIOに備えて戦力を集めつつ、エンブリヲを倒し凜も助けたい。
5:御坂に人は殺させないし、死なせもしない。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。



【F-2 能力研究所/1日目/早朝】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小 回復中) まあまあハイ!
[装備]:帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:部下との合流。(ペット・ショップ、花京院)
3:みくで操折の能力の実験をする
4:昼間動ける協力者も欲しい。
[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。

【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。 疲労(大)、御坂に対する嫉妬と怒り
     心理掌握行使:1/2名(あと1時間で1名回復)
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:DIOに自分を認めさせ、生還する。
2:みくで能力の制限を把握する。
3:次に御坂と会ったときは……。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
  毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「いとこの大学生(ルックスもイケメンだ)」に対する程度の敬意しかないようだ。
※『心理掌握』の制限は以下。
  ・脳に直接情報を書き込む性質上、距離を離す事による解除はされない。
  ・能力が通じない相手もいる(人外) ※定義は書き手氏の判断にお任せします。
  ・読心、念話には制限なし。
  ・何らかの条件を満たせば行動を強制するタイプ(トリガー型)の洗脳は8時間で解除される。
  ・感覚、記憶などに干渉して常時効果を発揮するタイプ(常時発動型)の洗脳は6時間で解除される。
  ・完全に相手を傀儡化して無力化するのは、2秒程度が限界。
  ・同時に能力を行使できる対象は二人まで。
   一人に能力を行使すると、その人物の安否に関わらず2時間、最大対象数は回復しない。

【前川みく@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康、気絶
[装備]:猫耳
[道具]:なし
[思考]
基本:生きて帰りたい。
0:……。
1:卯月ちゃんやプロデューサー達と会いたい。
※エドワード・エルリックの知り合いについての知識を得ました。
[備考]
登場時期はストライキ直前。





060:その一歩が遠くて 御坂美琴 088:邂逅 賢者の意思/意志
055:エンブリヲの後の静けさ エドワード・エルリック
053: DIO 083:幸せ砂時計
食蜂操祈
033:神の発情 前川みく

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最終更新:2015年08月08日 00:15