083

幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks


経年劣化で脆くなった扉が、鈍い音を立てて開く。
姿を現したのは金髪の男女と、男に担がれて意識を失った状態の、猫耳を付けた少女。名はDIO、食蜂操折、前川みく
気絶したみくを除く二人は空気の籠もった部屋の中を見渡して、満足げに頷いた。
ここ、能力研究所の地下2階には実験動物用の檻となる、鉄格子で3つに区切られた部屋があった。
『心理掌握』の実験を行うには好都合な場所だと判断したDIOは最奥の牢の扉を開け、みくの体を放り込む。
頭を軽く打ってうう、と声を漏らすみくを心配することもなく、DIOと操折はその脇に座り込む。

「放送を聞いたが、御坂美琴の友人が一人死んでいたな。特別仲がよかった人間かな?」

「さあ、そこまでは。白井さんほど親しくはないんじゃないかしら? 例の、イリヤちゃんの友達も呼ばれてたけど……」

「イリヤスフィールの例を見るに、魔法少女はステッキがなければただの子供のようだからな。スタンド使いや超能力者相手では勝負にもならんだろう」

第一回放送を聴いて、DIOたちが心を動かされるほどの人間の名は呼ばれていなかった。
そもそも、この二人にとって死んだと聞いて心を乱されるような人物は名簿には名を連ねていないのだが。

「ところでペットショップ、って確かDIOさんの」

「ああ、希少価値の高いスタンド使いだった。人間のスタンド使いなら選べる程度には数がいるが、畜生がスタンドを備える例はそう多くない。補充の難しい優秀な門番でもあったのだがな」

(気を落とさないで……って言おうにも傷心力低そうだゾ)

DIOは残念そうに失った部下を顧みるが、そこに悲しみは介在しない。
死を超越し、あまりに多くの死をばら撒いてきた吸血鬼にはそういった感情はないのだろうか、と操折は思った。
それはそれとして、とDIOがみくを見下ろしながら操折に語りかけた。

「操折ちゃん、まずは君の読心能力を試してもらおうかな。この女が持つ情報を知りたい」

「それならここへ来る途中に既に済ましてあるわぁ。前川みく、アイドルをやっててお仲間とプロデューサー……元締めみたいな人ね、その四人とこの殺し合いに参加中。
 ここに来てから出会ったのはさっきのおチビさん、エドワードだけで、ずーっと温泉に隠れてたみたいねぇ。他の三人のアイドルは同じグループだけど自分だけ別だから心細かったみたい」

「イリヤスフィールの時も思ったがたいしたものだ。わたしが普通の人間ならその情報を直接頭に伝えられるんだろう? 学園都市でも冠絶する能力者というだけはある、本当に心強いよ」

DIOは本心から操折を褒め称える。相手の記憶を覗き見れるスタンド使いは知っているし、彼には彼で食蜂操折にはない強みを多く持つが、
こと情報・心理操作に関して操折の能力を上回るスタンド使いなど想像もつかない。一点特化の一言で終わらせられない、点を越えて面を制圧しかねない能力だ。
操折としても、この能力を羨んだり恐れたりしながらも媚びへつらう人間はごまんと見てきたが、下心をすぐ看破できるそういった連中と違い、妖しげな魅力を持つDIOの言葉は新鮮な喜びを与えた。
頭の中を一から十まで調べつくしてからこの人間は快なり、と見做した者しか身近に置かない操折にとってDIOは危険な爆薬であり、同時に心を刺激する麻薬のような存在だった。
本来ならばこれから行われる実験は、彼女にとって出来る限り避けたい、他者の人格の完全破壊に繋がる凶行となるにも関わらず、操折の精神には揺らぎがない。
しかしその影響をおくびにも出さず、軽口をDIOに返す操折。人格破綻者の伏魔殿、学園都市の闇に浸かりきった彼女は、内面を隠す所作を細胞レベルで習得している。


「お世辞が似合わない人ねぇ。……お次は何をすればいいかしらぁ?」

「そうだな、五感の操作や調節の精密さが損なわれていないかチェックしておこうか。女を起こそう」

言って、みくの細い首に手をかけて締め上げる。DIOはこのまま血を吸い尽くしたい衝動を抑えながら、呼吸を阻害する程度の力を込めた。

「……に゛ゃあ゛ぁっ!?」

「乱暴力MAXねえ、すごい声出したわよこの子」

「だがすぐに起きた。前川みく、今の状況はわかるか?」

「おえっ、っぉえぇえ……にゃっ! こ、ここはどこ! エドワード君は……」

咳き込みながら両手をついて半身を起こすみく。ぼやける視界が金髪の人間を捉えるも、高低差の問題ですぐにその相手が自分の望む者でないと気付く。
混乱する彼女を冷淡に眺めながら、DIOは声色に気を遣うこともなく、みくの疑問に答える。

エドワード・エルリックは君を見捨てて逃げ出したよ。君にはこれから我々の実験を手伝ってもらう」

「そんなの信じない! エドワード君がそんな……」

「操折ちゃん、彼女の"痛み"に関わる全ての感覚の上限を"気絶しない程度"に抑えてみてくれ」

「はぁーい。……えいっ♪」

操折がリモコンを取り出し、みくに向けてスイッチを押す。
みくは目に星を浮かばせて一瞬硬直し、即座に正気に戻った。
DIOはふむ、と呟いて右腕を振りかぶる。
みくが自分の昏倒に疑問を感じると同時に、その拳は彼女の左足の大腿部に打ち込まれた。
皮を裂き、肉を破り、骨を断ち切る一撃だった。一切の遠慮なく放たれたそれは、アイドルを支える四肢の一つを完全に肉体から喪わせた。

「え……」

「あーあー、これじゃもうダンスも踊れないわねぇ」


他人事のように嘆息する操折の言葉も、みくの耳には入らない。
飴細工がごとく砕けて千切れた自分の足を、体との僅かな繋がりとして残る皮を一息に引き剥がすDIOの無表情もみくの目には映らない。
「もうアイドルとして人前に出られない」という単純な結論に至った自身の思考だけが、みくの頭蓋を占めていた。
直後、生涯で一度も感じたことのない、しかし"耐えられる"激痛がみくを襲う。血が滝のように流れて視界を染め、意識が遠のいていく。
気付いた瞬間には、絶叫と共に地面を転げまわっていた。

「は、ぁあ゛があ゛あっっあ゛ああ!、!ああ゛、ひい゛、ああ゛ああ゛あ。いだ、痛゛ぃぃい゛いいっ! あ゛、し、あ゛ああ!! いや、嫌あ゛ああ゛あああああ゛ああ!!!!!」

「止血をするから暴れないでくれ。このままでは死んでしまうぞ」

人ならぬ膂力でみくを押さえつけるDIOの目には、加虐の悦びも何らかの達成感もない。作業の工程を一つこなし、次の工程に移ろうと手を伸ばすだけだ。
研究所内で調達したケーブルで止血を行いながら、操折に声をかけるDIO。

「ふむ、精密性も健在のようだな。逃げられないようにする為でもあったが、ショック死してしまったら検体が台無しになるところだったな、クックク」

「逃げられないようにするんなら、適当な命令を書きこんだのに。意地力悪いゾっ」

「ハハ、暗示が永続するかどうかというところも試さないといけないからな。もしもの時のために暗示がなくとも動けないようにしたのさ。気を悪くしないでくれ、操折ちゃん」

ぷくぅ、と頬を膨らませる操折にフォローをかけながら、DIOは止血を終えてなお絶叫を上げているみくの髪を掴んで両目を見開かせる。

「後は……眼も潰しておくか。最後に見るものがこのDIOである事を光栄に思うがいい」

「や…めで……えっ、もう、痛いの、いやっぁ…ぁ……ああ゛あ!!」

「あ、待って待ってDIOさん、五感の一つを潰しちゃうと実験の正確力がなくなっちゃうから」

「ふむ? そうか、超能力については学園都市出身の君に一日の長があるからな」

引きつった表情で震えるみくの心境には全く考慮せず、DIOと操折は藹々と語る。
二人にとってみくは既に道具であり、敵意を向ける理由もない存在だった。
DIOはとりあえずの下ごしらえを終え、みくに乱雑に声をかける。

「もうわかっているとは思うが、わたしは君を生かしておくつもりなど微塵もない。一縷の望みや儚い希望に縋るのは勝手だが、いらぬ行動を起こせばそれだけ死を早めることになるぞ。
 死んだ後でもその体には使い道があるから別に構わないが、わたし達を助けると思ってもう少し生きてくれると嬉しいんだがね」


「……」

「まあ貴女の決定なんて関係なく強制力を行使するんだけどね」

リモコンから走る信号が、みくの自由意志を奪う。
みくの目からは一瞬で恐怖や悲しみと絶望が消え去り、とろんとした夢見がちな光を帯びていく。
床に力なく横たわり、ぶつぶつと独り言を始めたみくを眺めながら、DIOは操折に尋ねた。

「どんな暗示をかけたのだ?」

「五感で感じる全ての物が好ましく、自分に都合がよいものと思うように改変したわぁ。これなら自分から逃げようとも、自殺しようともしないはず」

「そうか、随分優しいやり口だな。わたしならそんな手間はかけないが、そこが君の美点かな」

揶揄するようなDIOの言葉を薄い笑みでかわしながら、操折はみくを見下ろして心理を分析する。
別に情けをかけたわけではなく、ただ意識を奪うだけでは自分の能力の微妙な変調を見逃すかもしれないと思っての命令の書き込みだった。
操折自身が能力に振り回されないよう完全に己の心理を掌握する事が出来るからこその超能力(レベル5)なのだ。
『心理掌握』の真髄はその精密動作性にあり、洗脳下にある人間とはいえ、ある程度の意識の揺らぎ、波を持たせなければ操作は単調になりすぎるのだ。
ただラジコン人間を作りたいだけなら能力に頼らずとも金や権力で代用できる。操折が誇る『心理掌握』はその格に相応しい万象虚実を操らねばならないと操折は考える。

「……もう少し波が要るみたいだゾ。でもずっとこれと語り合うなんて面倒だしぃ。なにか気を散らすものでもあればいいんだけど、こんな殺風景力高い部屋じゃあねぇ……」

「ああ、それならわたしが外で花でも探してこよう。操折ちゃんはわたしの寝台……棺桶のようなものを探してくれないか?」

「え?」

操折が目を丸くする。DIOが花を摘む姿を想像したのもあるが、外には既に日が射しているのだ。
DIOが太陽の光にアレルギーという事は聞いていた操折の困惑はもっともな物だったが、DIOは事も無げに一言だけ告げると、部屋を出て行った。

「なに、わたしも少し実験をね」

みくの足を片手に去るDIOを心配げに見送りながら、操折は研究所の探索を開始した。

「……それにしても棺桶で寝るって、吸血鬼力ハンパないわねぇ」



結論から言うと、DIOの行った"実験"は成功した。
慎重に突き出した腕は日光を浴びても灰化することなく、徐々に乗り出した体は心地よい疲労を感じている。
帝具・修羅化身グランシャリオを身に纏ったDIOは実に100年ぶりに、朝日が射す町並みを闊歩していた。

「とはいえ特別感慨深くもないな……花も集めた事だしさっさと戻るとするか」

かって英国紳士として磨いたセンスで集めた野に咲く花は、黒き修羅の手に持たれていても映える美しさだった。
成果に満足しながら、DIOは帰路を急ぐ。血を吸い尽くしたみくの左足は既に捨てている。
全身を覆う鎧は日光を完全に遮断していたが、同時にDIOの体力を少しずつ奪う呪具でもあった。
ただ移動するだけなら問題はないが、長時間の戦闘は困難でありこの状態で『世界』をフル活用するのは自殺行為だろう。

「……む?」

DIOの視界に、見慣れない物が入ってくる。
車道を移動する、とても人間が乗り込めそうにないサイズの機械と、並走する黒猫。
黒猫は驚くべきことに時折人語を発しながら、マスコットのような風貌の機械に猫パンチを繰り出していた。

「ええい、何度逃げれば気が済むんだ! 止まれ!」

『巡回中です、巡回中です。市民の皆さんは色相のチェックを怠らず、健康な生活を送りましょう』

「このDIOが目覚めた時代にもあんなものは走っていなかった」

身を隠しながら機械と猫を監視するDIO。学園都市の発展ぶりは操折から聞いていたが、それでも実際に目にすると驚きはある。
だがその後ろから、参加者と思しき人影が姿を見せた瞬間、DIOは冷静に行動した。
建築物の隙間を縫って彼らに接近し、普通に声をかける。
その当たり前の行動を、警戒している相手に気付かれずに行うことで、有利に事を運ぶのを狙ってのことだ。


「やあ」

「っ……!? その姿は……」

スーツを着こなす金髪の男は、突如現れた修羅を見てディバックに手を伸ばし、ペットボトルを取り出す。
が、すぐに思い直してペットボトルを一本の銃に持ち替えた。
男の名はノーベンバー11。契約者であり、常に合理的な行動を取る彼は、目の前のDIOが纏う鎧が自身の所持する悪鬼纏身インクルシオと同種のものであると即座に見抜いていた。
そしてそれに対抗する為にはインクルシオを用いた上で銃……ドミネーターを効果的に使うことが最低条件である、と理解しての行動。
DIOを照準して掲げられたドミネーターは犯罪係数の測定を行うことなく瞬時にデストロイ:デコンポーザー形態に変形する。
ノーベンバー11にしか聞こえない機械音声は、DIOを人間ではなく脅威判定として認識する旨を告げた。
舌打ちするジャック。これでは一発撃っただけでこの武器は使い物にならなくなる。かわされれば終わりだ。
黒猫は押し黙り、機械は何処かへ去っていく。沈黙を破るように、DIOが語りかける。

「わたしの名はDIO。君の名前を教えてはくれないだろうか?」

「……私はジャック・サイモン。MI6のエージェントを勤めています」

確かにジェームズ・ボンドのイメージがあるな、とDIOは笑い、偽名であると気付きながらそれに言及せず情報交換を持ちかける。
すぐに襲い掛からないのは、日の射している中での戦闘は不慮の事態を招く可能性もあると考えての安全策である。
肉の芽を打ち込むのは、能力に制限がかかっている以上乱用は避け、それが必要と明白かつ有用な相手のみに行うとも決めていた。
既に実験材料が確保できている今、特段荒事に走る必要もないとのDIOの考えに便乗し、ノーベンバー11は自ら指定した建物の中での対話を条件に承諾した。
彼としても、インクルシオの使用は現状最悪の一手だったのだ。二人の利害は偶然に一致していた。だがノーベンバー11の方は、DIOにはない危機感を覚えている。

(さて……この悪寒とよからぬ予感を現実のものにしないようにしなければ、な)

黒猫を掴み上げて手近な建物に歩くノーベンバー11の背には、じっとりと冷や汗が浮かんでいた。



「……スタンド使いに超能力者。あのお嬢さんは猫ちゃんの話通りで魔法少女! 貴方はそれに類する人間も知ってる、という事でいいのかな?」

「君のいう契約者、なる概念は初耳だ。お互い未知の物を知ることはいいことだと思わないかね」

「とても信じられない、というのが本音ではあるが……目の当たりにした諸々を統合すると、まあ同感ではあるかな」

ノーベンバー11が選んだのは無人のファーストフード店。
グランシャリオを解除したDIOは陽の入らない位置で背を壁に預けながら、ノーベンバー11と情報を交換し終えた。
DIOの紳士的な態度はノーベンバー11から見ても完璧なものであり、人間関係はつつがなく構築される。
しかしノーベンバー11は自分の目的を優先し、DIOから受けた同行の誘いを断った。
DIOとしても、自分と同じタイプの帝具を持ち、未知の能力を持つ男を手元に置いておきたい欲求はあった。
だが、彼とは表向きの友好関係を築いておいて、イリヤのように自分を信用する勢力の一つとして放置したほうが良いともDIOは考えていた。

「先ほどのロボットからは全く情報を得られなかったが、あれが貴方の仲間……ミサキの住んでいた街のものならば、彼女が見れば何か分かるのかもな」

「この殺し合い、ただ参加者の数を減らしながら生き残るだけでは最後に大きな壁にぶち当たる。武器となる情報は集めるにこしたことはないからな」

怜悧に語るDIOの物腰を見て、ノーベンバー11は内心で胸を撫で下ろす。
グランシャリオを着込んでいたというのにまるで疲労の色を見せていないのは、DIOが自称する吸血鬼という肩書きが真実だからだろうか。
『スタンド』という能力の圧倒的な威圧感から見ても、もし戦闘に及んでいれば劣勢は免れなかっただろう。

「ところでジャック、君の知り合い……黒といったかな。本当に地獄門に来るのだろうか?」

「彼は私と同じ契約者だから、思考も私と似通った物になると思うのだが」

「常に合理的な行動を取る、か。自分の知るそれと全く違う地理の地図を見て、とりあえず知っている名前の場所に向かう行動が合理的かどうかは置いておいて……。
 君を見る限り、契約者というのがそれほどパターン化された、機械のような人間とはわたしには見えないのだがね。分かったよーな事を言っていると思うだろうが」

「……」

黒は言うまでもなく、ノーベンバー11もまた、その最期には非合理的な行動を取ったと自覚している。
ならば真っ直ぐ地獄門に向かうよりも今のように積極的に他の参加者に接触して黒……BK201の情報を集めた方が合理的かもしれない。
考え込むノーベンバー11に、DIOは一つの提案を行う。


「わたしの方でも黒という男を探してみるが……君が先ほど話していたステッキを使わない魔法少女、佐倉杏子といったか。興味があるので彼女に会ったら能力研究所に誘導してはもらえないか?」

「それは構わないし、あのお嬢さんを引き受けてくれるのは助かるが……あの子が私の誘導にかかるかどうか」

「この黒猫をわたしに奪われたとでもいえばいい。傷心の女の子が仲間にいてね、その慰み役をやってもらおう」

「人を物のように扱ってくれるな、どいつもこいつも。だが私としてもこの男と一緒にいるよりは楽しそうだ」

猫(マオ)の前足を持ち上げながら提案したDIOに、ノーベンバー11は僅かに逡巡する。
大事な猫質としての用途はDIOに杏子を丸投げしてお役ごめんとできるにしても、BK201との繋ぎ役がいなくなるのは惜しい。
こちらにももう一つ、メリットが欲しい。DIOが許容しうる程度のメリットが……。

「……貴方の持つグランシャリオというコスプレを私のインクルシオと交換してもらえるならば、猫ちゃんは譲渡してもいい」

「説明書を見る限り、インクルシオはグランシャリオの原型機で、使いこなせれば後継機より性能は上だと書かれているが、いいのかね?」

「爆発力より安定性だよ。……なにより、デザインがいい。白ばかりでは味気ない、たまには黒いスーツを着るのもいいさ」

「了承だ、ジャック。わたしは仲間を待たせているのでこれで失礼するが、しばらくは能力研究所に逗留しているからいつでも訪ねてきてくれ」

インクルシオを事も無げに装着し、DIOは店を立ち去った。
ノーベンバー11もまた、店内で水を発見しペットボトルに補充してから外に出る。

「さて……DIOという男との誼、吉と出るか、凶と出るかな……」

警戒心を抱く要素など微塵もない会合だったにも関わらず、ノーベンバー11はDIOを完全に信頼する事が出来ない。
それはどれだけ完璧に振舞ってもDIOがその悪性を隠すことは出来ず、またノーベンバー11に熟成した善性が備わっている証左でもあった。


【F-2/1日目/朝】

【ノーベンバー11@DARKER THAN BLACK黒の契約者】

[状態]:インクルシオを装備した事による疲労(中)、黒にエイプリルを殺された怒り?
[装備]:ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-
[道具]:基本支給品一式、狡噛のタバコ&ライター@PSYCHO PASS-サイコパス-、
      帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!、ロックの掛かったドミネーター×1@PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考]
基本方針:契約者として合理的に判断し行動する。今の時点で殺し合いに乗る気はない。
0:地獄門を目指す?その過程で拠点を確保する。
1:参加者と接触し情報を集める(特に黒、銀)。
2:極力戦闘行為は避け、体力を温存する。
3:黒と出会った場合は……。
4:万に一つ、佐倉杏子が自分を追跡して対峙した場合はDIOの事を伝えて逃げる。

[備考]
※死亡後からの参戦です。
※黒の契約者第23話から流星の双子までの知識を猫視点で把握しました。
※杏子と猫の情報交換をある程度盗み聞きしています。
※修羅化身グランシャリオはインクルシオよりは相性が良く、戦闘にも無理をしなければ耐えられます。



「にゃああああ!!! 猫ちゃんだにゃあ……にゃかまぁぁぁ!!!!」

「花も飾っておくぞ」

「きれい!!!」

猫(マオ)を抱きしめながら陶酔の表情を浮かべ、だらしなく開いた口から涎を垂らすみく。
研究所に戻ったDIOは入り口で待ち構えていた操折と合流し、地下室に戻った。
やはりみくは逃げ出すことなどせず、喜怒哀楽のうち"楽"以外の全てを失ったかのようにリラックスしていた。

「あの黒猫は人語を喋るようだったからか、動物には効かない心理掌握も効果を発揮しているようだな」

「考えは読めないけどねぇ。こんな生き物相手は初めてだから演技をしてたらわからないゾ」

「扉に外から鍵をかけておけばあの猫では破ることもこじ開けることもできまい。問題はない。変な物を頭につけているからまさかと思ったが、
 アレはやはり猫が好きらしいな。死体を使ってわたしの能力の実験をするときに、あの猫と繋げでもしてみようか」

(……まさか、このような悪党だったとはな。この少女は虜囚というわけか)

大人しくみくの相手をしている猫(マオ)には、操折の危惧通り『心理掌握』は効果を発揮していない。
だが逆らっても即座に殺されるだけだと悟り、あえて相手の思惑に乗って動いていた。

(蘇芳……)

放送で名を呼ばれた、自分の飼い主だった者のことを思い出す。
彼女ならば、みくを助け出そうとしていただろう。それならば、自分とてそう倣うべきだ。
チャンスを待つ。猫(マオ)はその時のために、少しでもみくを元気付けようと他愛もない言葉を交わしていた。

「……ところでDIO、棺桶は流石になかったんだけど、代わりになりそうな物は3階の貴賓室にあったわぁ」

「ほう、案内してくれ」

「にゃああ……エドワード君、逃げたのは怒らないからまた会いたいにゃ~早く会いたいにゃあ~……プロでゅ~さ~……」




檻に閉じ込められ、幻覚を見るかのように視線を泳がせるみくを放置して、二人は地下を後にした。
貴賓室にある棺桶の代用品とは、高級品のロッカー。蓋を閉めればなるほど日の光も防げるだろう。
上部に横線型の穴があるのが気になるが、室内ならば窓やカーテンを閉めれば問題にはならない筈だ。

「……まあ出先だ、選り好みもできないな」

「この辺りが研究施設の集まりなら、捜索力発揮すれば火葬場くらいはあるんだろうけどねぇ。出かけてきましょうか?」

「いや、そこまですることはないさ。君は好きな部屋を選んで休んでいてくれ。たまに前川みくの経過観察と他の心理操作の実験だけはしてほしいがね」

「ええ、もう休むところは決まってるわぁ」


DIOはロッカーを軽々と持ち上げる。最上階の研究所長室で休むよ、と言い残して貴賓室を出て行くが、操折は後ろから付いてくる。
気にせず階段を上るDIOだったが、結局所長室まで、操折はどの部屋にも入らず同道した。
ロッカーを横に置き、DIOは「どうした」と問う。操折が「好きな部屋でいいって言うから」と返す。
溜息をついてロッカーに入るDIO。僅かに部屋に入る陽の光を遮るように、上気した操折の身体がロッカー上部の覗き穴に近づく。

「DIO、貴方の寝顔を間近で見てみたいゾ。えっちな意味ではなく、私の上に立つ人の素の顔を、ね」

「その為にこれを選んだのではないだろうな……まあ、好きにするがいい」

「ふふ、おやすみなさい」

寝ている間であろうが、何をしても操折にはDIOを殺すことは出来ない。
そう確信しているからか、DIOは少女の悪戯心を許した。
年端も行かない小娘に潤んだ目で見られて欲情するほど、DIOの精神は若くもない。
不快な思いのまま眠りにつくなど、慣れ親しみすぎて不快ですらなくなったくらいだ。
操折の有用さを考えれば、これくらいでクビを切るほどのこともあるまい。

ふと、放送で広川が語った言葉を思い出した。

―――身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいるようだが、当然ながらそれにも対策は講じてある。

無意識に、手を首筋に伸ばす。
かって、自らの首を切断した瞬間の屈辱を思い出す。
かって、新しいボディを手に入れた瞬間の虚しさを思い出す。
どちらも、取るに足りないことではあったが。

―――試すのは勝手だが、そのことを頭の片隅においておいてほしいとだけ言っておこう。

「余計な心配だ」

漏れた言葉に? と首を傾げる操折を気にもかけず、DIOは眠りについた。


【F-2 能力研究所/屋上所長室/1日目/朝】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:睡眠
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
0:邪魔が入らなければ夕方まで寝る。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:花京院との合流。
3:昼間動ける協力者が欲しい。(杏子に興味)

[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。

【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。 疲労(中)、御坂に対する嫉妬と怒り
     心理掌握行使可能人数:2/2名(イリヤへの能力行使が解除され次第、1名分回復)
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:DIOに自分を認めさせ、生還する。
2:みくで能力の制限を把握する。
3:次に御坂と会ったときは……。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
  毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「行きつけの店のカリスマ美容師」に対する程度の敬意しかないようだ。
※『心理掌握』の制限は以下。
  ・脳に直接情報を書き込む性質上、距離を離す事による解除はされない。
  ・能力が通じない相手もいる(人外) ※定義は書き手氏の判断にお任せします。
  ・読心、念話には制限なし。
  ・何らかの条件を満たせば行動を強制するタイプ(トリガー型)の洗脳は8時間で解除される。
  ・感覚、記憶などに干渉して常時効果を発揮するタイプ(常時発動型)の洗脳は6時間で解除される。
  ・完全に相手を傀儡化して無力化するのは、2秒程度が限界。
  ・同時に能力を行使できる対象は二人まで。
   一人に能力を行使すると、その人物の安否に関わらず2時間、最大対象数は回復しない。



【F-2 能力研究所/地下室/1日目/朝】

【前川みく@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:左足の太ももから下を喪失(処置済)、疲労(大)、『心理掌握』下。
[装備]:猫耳
[道具]:猫@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
[思考]
基本:生きて帰りたい。
0:にゃあああ~~
1:エドワード君~~

[備考]
※エドワード・エルリックの知り合いについての知識を得ました。
※登場時期はストライキ直前。

【心理掌握による洗脳】
※常時発動型 6/6時間経過

『五感で感じる全てを好ましく、自分に都合がよいものと認識する(喜怒哀楽のうち、"楽"以外の感情が全く発達しなくなる)』


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Back:あこがれ 愛 Next:白色の爆弾

投下順で読む
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072:鋼vs電撃vs世界 DIO 095:STRENGTH
食蜂操祈
前川みく
075:アンバーリファイン ノーベンバー11
最終更新:2015年08月08日 00:26