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邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB


「16人、か」
早い。とてつもなくペースが早いとジョセフ・ジョースターは思う。
その中には、彼の知っている名もいくつかあった。


殺し合いに連れてこられる前からの彼の仲間。
ジョセフの瞳に、悲しみの色が浮かぶ。
イギーは、アヴドゥルと協力してようやく捕まえたスタンド使いだ。
強力な猛者である彼がこうも早く命を落としたことにはもちろん驚いている。
だが、仲間である彼の喪失はそれ以上に大きな悲しみを与えていた。
承太郎やアヴドゥルは無事だろうか。
花京院は我々の仲間なのだろうか。それとも、敵の頃の彼なのか。
前者であればすぐにでも合流したいが、もし後者であった場合は、承太郎がいない時はどうすればよいものか...
この地に呼ばれた他の仲間たちのことを気にせずにはいられなかった。






再会を誓った者たちの知己の名。
親友を失った初春には、明らかに悲しみの色が浮かんでいた。
辛うじて、本当に辛うじて理性を保っているが、少しのキッカケさえあれば我を忘れて泣きだしそうにすら見える。仮にそうなったとしても、ジョセフは初春を責めはしない。
タツミたちも心配だ。
詳しい身元を証明はしなかったものの、タツミのかなり複雑な関係性を考えればクロメという少女は敵ですらあったのかもしれない。
それを踏まえても、知り合いが死んだとなればその心中が穏やかでは決してないはずだ。
だが、それ以上に心配なのは美樹さやかだ。
彼女が殺人を思いとどまったのは、友の存在のおかげだ。
その友が一人失われた。彼女の精神は追いやられるはずだ。下手をすれば、再び殺し合いに乗るかもしれない。
やはり、無理にでも4人で固まって行動すべきだったかと今さらながらに思う。



モモカ。南ことり。星空凛。園田海未


新たに合流した少女たちの友人の名。
アンジュは知己の死に対してどう思っているのだろうか。なんとなく直情的なタイプだということはわかるが、関わった時間も少ないため彼女についてはほとんど知らない。
一人で行動するタイプらしいが、もしも立ち直れなくなっているのなら、早く彼女を保護してくれるような人物と出会えればいいが...
真姫という少女は、放送を聞いたあと気絶してしまったようだ。
アイドルという、生死をかけた戦いとは無縁の場所にいる彼女だ。友人が一度に三人も死んでしまったとなればそれも当然かもしれない。
励まそうにも、ジョセフは真姫とはロクに言葉すら交わしていないのでそれは無茶というものだ。
とはいえ、全てを田村怜子に任せるのは正しい選択なのだろうか。
このままDIOを追うことは本当に正しいのだろうか。



「ワシは...どうするべきなんじゃろうなぁ」
返事は無い。
当然だ。いまジョセフがいるのは、霊安室と化した空き教室。
これから同行するはずのサファイアは初春たちと共に倒れた真姫のもとにいる。
故に、ここにいる生者はジョセフだけ。同室しているのは、かつて園田海未と巴マミと呼ばれた、物言わぬ骸なのだから。
「お前さんたちはどう思う?」
しかし、それでもジョセフは言葉を漏らさずにはいられなかった。
彼にしては珍しく吐いた弱音であった。


「...イカンな。どうにも頭が煮えたぎっちまっておる」
仲間の死。
ここにはいない知人の心配。
これからの自分の行動。
そして、広川への怒り。
あまりにも多くのことを気にかけ過ぎて、頭が混乱してしまいそうだ。
(ひとまず情報を整理しようかの)
ジョセフは、教室に置いてある紙切れに、放送から得た気になる情報を書き纏めると共に頭の中で整理することにした。



息を大きく吸う。吐く。吸う。吐く。
その行程を何度か行うと、ようやく呼吸が整い、心臓の鼓動も僅かに治まってきた。

―――佐天涙子

放送で告げられた友の名。
死んだ。上条当麻と同じく死んだ。
自分がもたついている間に彼女は死んだ。
彼女が死に直面している間、自分はなにをしていた?
最初に赤目の少女と出会った。迷っていて仕留めれなかった。
銀髪の男と出会った。自分の隠したい部分を曝け出された挙句、あっさりと逃げられた。
再び出会った赤目の少女と彼女率いる集団と戦った。仕留めきれなかった。
ブラッドレイという眼帯の偉丈夫と戦った。あっさりと攻撃を躱され、仕留められなかった。
食蜂操祈と共にいたDIOという男と戦った。真っ向から能力を叩き伏せられ、不様に逃走した。
ここまで醜態をさらしてなにが学園都市のレベル5だ。この場においてはそんなもの糞の役にも立っていないじゃないか。
だが、そのおかげで自分はこうして友の死を悲しむことができている。
それは、自分がその死に直接関わっていないから。
どこかの誰かさんが、もたついている自分の代わりに彼女を殺してくれたからだ。


―――君は心のどこかで、友人たちが誰かに殺されることを望んでいる。自分の手を汚したくないから


銀髪の男の声が蘇る。
...ああ、そうだ。まさにその通りじゃないか。

(もたついてたのは、私が誰も殺したくないからじゃない)

覚悟していた?なら、なぜ銀髪の男を追いつめて殺さなかった?
なぜ、赤目の少女たちを探すのを諦めた?
なぜ、ブラッドレイを背後から撃とうとすら思わなかった?
なぜ、逃走する前にDIOの傍に居る食蜂操祈を殺そうとすらしなかった?
確かに、生き残る上では合理的で冷静な判断だったといえるだろう。
何れも実行していれば無駄な労力だったかもしれない。
しかし、それで済ませられるだろうか。答えはNo。

(結局、私はあいつらに頼りたかっただけ...あいつらが黒子たちを殺すことを押し付けたかっただけ)

銀髪の男を仕留められなかったのは、彼の言葉を肯定したくなかったから。
赤目の少女たちを探すのを諦めたのは、いずれ彼女たちに自分を止めてほしかったから。
ブラッドレイやDIOの実力を知るや、牙を突き立てることすら考えなかったのは彼らの報復が怖かったから。
これで人を殺す覚悟を決めたなどと言えるはずもない。

『私は上条くんを生き返らせるために人を殺そうとしました。でも、誰も殺していませんから許してください』

もしも、自分を止められる誰かが現れた時に、そんな悲劇のヒロインを気取るつもりだろうか。



―――私は私の意志で、殺す。私の意志であいつを救う!


そう啖呵をきったことすら、逃げ道を閉ざしたくないための口実にすぎないように思えてきた。







「16人...だと!?」

エドワード・エルリックは焦っていた。
『殺さない覚悟』を常に持つ彼は、できれば誰も死んでいないことを願っていた。
しかしその反面、犠牲者がゼロだという可能性は低いと覚悟はしていた。
エンブリヲ御坂美琴、そしてDIO。強力且つ明らかな危険人物に計三度も遭遇している。
彼らの毒牙にかかれば、みくのような一般人は一溜りもないだろう。放送で呼ばれた渋谷凛という少女もその内の一人だ。
それにしても、この短時間で16人もの死者が出るのは異常だ。
その死にいくつ彼らが関与しているかはわからないが、少なくとも、エドワードの遭遇者以外にも火種は数多くいるとみて間違いないだろう。

(こっちはみくのやつも連れ戻さなきゃならねえってのに...!)

ただでさえ、DIOという強大な相手がいるにも関わらずだ。エドワードがそちらに対処している間にも、殺し合いは確実に進むことになる。
それに、自分の知る中では、現状殺し合いに反逆する可能性が高いのは大佐とアンジュだけ。その二人にしても、害を為す人物に対しては容赦しないだろう。
簡潔に言おう。人手が足りない。それも、圧倒的にだ。
どうにかして信頼できる協力者が欲しい。そのために必要なのは情報だ。


『なに探してんだ?』
『いやあ、ここ温泉だし、もし広川って人がアイドルのファンだったら、覗き用の監視カメラくらいはあるかなと思って』
『ファンなら殺し合いなんてさせねえだろ。つーか、監視カメラってなんだよ?』
『知らないのかにゃ?アイドルに限らずぶっとんだファンっていうのはなにをするかわからないんだにゃ』
『そっちじゃなくてよ、監視カメラってのは...』


今まで手に入れた情報を思い出せ。


『パイプ爆弾、ねぇ。明らかに俺の知ってる爆弾よりも精度も技術も高いよな...』

考えられる限りの情報を絞り出せ。

エドワードは、今までの、そして広川の放送から得た情報を逃すまいとペンを奔らせた。



放送から得た情報は大きく分けてふたつ。
ひとつは禁止エリア。
ふたつめは死者の数。


禁止エリア。
これについては、深く考慮する必要はないだろう。
奴の言葉通りなら、これはランダムで選ばれた場所なのだから。

(重要なのはそれだけか?)

(いいや。もっと大事なことがある)

禁止エリアに入れば首輪が爆発する。広川は確かにそう言った。
だが、禁止エリアに一歩でも踏み込めば即座に爆発する可能性は低い。
なぜなら、このバトルロワイアルは、広川による殺戮ショーではなくあくまでも殺し合い。
禁止エリアは参加者の行動を制限するものであり、できればうっかり足を踏み入れて死亡などという事態は防ぎたいはずだ。
それに、今までの道のりからの判断になるが、『ここからここまではG-7』などという境界線は見当たらなかった。
おそらくなにかしらの警告がなされ、爆発までにはタイムラグが発生するはず。
それが時間なのか、禁止エリアに入ってからの歩数かはわからないが。
これについては、実際に試してみる他ないだろう。
とにかく、このタイムラグは今後の生存に大きく関わってくる。可能な限り早く調べたいものだ。


死亡者。
まず、死者の数が嘘の可能性は限りなく低いだろう。
たしかに嘘を織り交ぜれば、一時的な混乱を招くかもしれない。
しかし、それは本当に一時だけ。参加者が情報を交換していけばそのうち真実に辿りつくのは火を見るより明らか。
しかも、『広川は参加者の生死も把握できない無能』と思われれば、殺し合いの進行は確実に遅くなるだろう。

(そんなことを奴が望むはずがない。だから死者や禁止エリアに嘘偽りはない)

(だが、どうやって状況を確認する?)

殺し合いである以上、参加者の生死はもちろん、死亡までの過程も重要なものであるはずだ。
だがどうやってそれを確認する?
盗聴器ではどうだろうか。確かに会場中か首輪か、もしくは両方にあるだろう。
しかし、音声から得られる情報はたかが知れている。それだけで全ての動向を把握できると思うほど間抜けではないだろう。
監視カメラ?いや、それはないだろう。仮にそんなもので状況を把握していたとしても、だ。カメラである以上、確実に死角というものは存在する。
そもそも、参加者に簡単に壊されるような監視装置で状況を把握するなど以ての他だ。幾つかは置いてあるかも知れないが、それに任せきりなわけではないはずだ。
ならカメラが首輪にあれば?なるほど、たしかにこれなら簡単には壊せない。
だが、首輪に布でも巻いてしまえばそれだけで意味がなくなる。だからこれだけで監視をするのはリスクが高いといえる。
それに、視界に映るものが全て真実だとは限らない。
となれば、視界以上に確実に生死の判断ができるものが必要だ。

(たとえばそう)

(心臓の鼓動ではないだろうか)

心臓が完全に停止する。それは、人間や犬などの哺乳類なら確実な死を招くものだ。
それを首輪で測ることができるのなら、可能性は高い。
なんにせよ、首輪が監視手段の要であることはほぼ間違いないだろう。

(...しかし、これらは何れはみなが気づくもの)

(これで交渉するには厳しいものがある)

これでは纏めた意味がほとんどない。
思い出せ。奴の言葉を。見つけ出せ、奴の油断を。

―――素晴らしいペースだ。この調子でいけば時間切れで全員が死亡なんて結末にはならずに済みそうだな。

この世に完璧なんてものは存在しない。奴の言葉の端々になにか隙があるはずだ。

―――だが、もし早く終わらせたいと願うなら速やかに殺し合いを進行させることだ。

それこそがこのゲームを崩す転機になりうるものだ。

―――下手に長引かせれば、隣にいる者にグサリ!...などといった結末をきみ自身が辿ることになる。

それが脱出に直接繋がらなくとも、なにかに役立てることができるはずだ。

さて、これで放送は終わりにするが...ひとつ忠告を忘れていた。

なにかないか。なにか―――

―――身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいるようだが、当然ながらそれにも対策は講じてある。試すのは勝手だが、そのことを頭の片隅においておいてほしいとだけ言っておこう。

...待て。広川はなんと言った?

―――身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいる

―――試すのは勝手だ

なぜ、試すことは許される?





『身体の構造上首輪を外せる術を持っている者』。それは、首を切断しても生きていられる者ということだ。
例えば、それは人間の身体を乗っ取った吸血鬼/限りなく不死に近い身体を持つホムンクルスが当てはまる。
おそらくこの忠告は彼らに向けてだろう。首輪を外す技術を持つ者ならば、『身体の構造』なんて言葉は使わないからだ。
次に広川は『試すのは勝手』と言った。つまり、試すこと自体はできるはずだ。

(もしも首輪を外すことが死に直結するのなら、そんな自殺染みた行為、殺し合いを観たい者からすれば絶対に止めるべきことのはず)

(心底止めたいと思うなら、『それをした瞬間お前達の首輪は爆発する』とでも言うはずだ。だが広川は『やっても無駄だ』としか告げていない)

(奴はわざわざ『対策』という言葉を使っておる。つまり、対策とは『爆発以外のなにか』であるはずだ)

(となると、導き出される答えは)


『首輪を外すだけでは、ゲームから逃れる手段には成り得ない。しかし、首輪の解除自体は死に直結しない』




老練なる策士と国家錬金術師。

場所は違えど、辿りついた答えは同じだった。



(...これ、ワリと使えるんじゃねえか?)

優勝を目指す者からしても、首輪という存在はかなり厄介な代物であるはずだ。
なんせ、優勝したからといって広川が願いを叶えない可能性はある。
その時に首輪をつけられたままでは広川を脅すこともできない。
つまり、全ての参加者にとって首輪は邪魔な存在であることは共通事項なのだ。
首輪を外せるのならわざわざ殺しあう必要もないと判断する者は多いはず。
そうなれば、殺し合いの進行は確実に遅くなる。
なら、後はさっさと首輪を解除できる術を探し出せばいい。

(けど、それにはどうしてもサンプルが必要だ)

首輪のサンプル。それは即ち参加者の犠牲ということ。

(...やるしかないか)

死んだ母を求め、己の片手足と弟の身体を失ったあの日から、エドワード・エルリックは決して殺人を侵さないと決めている。
その信念は、この殺し合いの場でも貫き通す所存だ。
ならば、首輪のサンプルはどこから入手しようというのか。

(死体から回収...するしかねえな)

16人の死者の内、全ての首輪が使い物にならないということはないだろう。
亡くなってしまった者たちには申し訳ないと思う。だが、このクソッタレゲームに叛逆するにはどうしても首輪のサンプルが必要なのだ。

(それと、もしホムンクルスの奴らも何も知らされていなければ...どうにか協力してもらう必要がある)

もしも、この会場にいるホムンクルスが皆黒幕と繋がりがあるなら協力は見込めない。
しかし、彼らもまた他の参加者と変わらぬ被害者であれば、『身体の構造上、首輪を外せる術を持つ可能性が高い者』として協力を得なければならない。

(プライドはともかく、エンヴィーのやつならその誘いに乗る可能性は高い。...気は進まねえけど)

以前、グラトニーに共に飲まれたときは、出られる方法を提案すればそれに協力はしてくれた。
今回の状況もそれだと同じだ。こんな狭苦しい状況、脱出するチャンスがあれば逃す奴ではないだろう。
とにもかくにも、だ。せっかく見つけ出した情報だ。これを活かさない手はない。

(もしかして、DIOの奴も首輪のことを知れば、案外あっさりみくを返してくれるなんてことは...ねえよな)

DIOはみくを実験動物にすると言っていた。そんな悪党が、まだあくまでも予想の範疇でしかないこちらの意見を聞き入れる可能性は低い。
首輪云々は一先ず後に回して、実験を止めるためにDIOからみくを奪い返す方が先決だろう。
だが、自分と御坂の二人だけでは不可能に近いことは身を持って証明済みだ。
どの道、まずは味方の数を増やさなければならない。大佐でも誰でもいい。とにかくDIOを抑え込むのに必要な戦力が必要だ。

「よし、そうと決まればさっそく人数集めだ!みく、必ず助けてやるからな!」
「意気込むのはいいけど、さっさと協力者を探すわよ」
「わかってるよ。んで、どこからまわる?」
「音ノ木坂学院が近いけど、わざわざ学校を目指すような奴らにはあまり戦力として期待できないと思うわ。イェーガーズってところか図書館あたりがいいと思う」
「イェーガーズってのは軍部基地っぽいからわかるが、なんで図書館なんだ?」
「...図書館なら学校よりは大人も集まりやすいでしょ。ほら、早く行くわよ」
「勝手に決めるなよ」
「嫌なら私一人で向かうわ。じゃあ、後で温泉で合流で」
「...わかったよ。行先はその二つでいい。お前を一人にさせたらなにするかわかんねえからな」

学校は目指さないが図書館は目指す。
どう見てもチグハグな言動について、エドワードは考える。

(こいつ、戦力になる奴にあてがあるな)

学校に寄らない理由はなんとなくわかった。あのDIOを相手にするには、戦い慣れしていない者は足手まといにしかならない。
ならば、なるべく戦力となる者だけを選び向かった方がみくを助け出せる可能性は高い。それ自体には同感だ。
しかし、それで図書館を候補に挙げるのはおかしな話だ。
確かに大人はいるかもしれない。だが、そこへわざわざ向かうのは一般人の方が多いはず。
それでも図書館を候補にあげた理由はひとつしか考えられない。

(こいつには手を組んでいる奴がいる。しかも、参加者を殺してまわろうって奴だ)

エドワードが初めて御坂と会った時は、話し合うことすらせずに襲いかかってきた。
そんな奴が、ゲームから脱出しようとする者と手を組むはずがない。
となれば、相手は殺し合いの肯定者。それも、最低限、御坂と張り合える程度の実力者だろう。

(けど、わざわざ殺る気満々の御坂と手を組もうってんだ。そいつがただの戦闘狂である可能性は低い)

と、なれば脱出の鍵さえ見つけてしまえばその相手を説得することは可能かもしれない。

「...なあ。お前ってなんで殺し合いに乗ったんだ?」
「はぁ?」
(そのためには、まずは御坂のやつに殺しをやめさせなきゃな...)

そして、エドワードは語った。
先程の思考から見つけ出したひとつの解答を。


田村、初春、新一の三名と別れを告げ、ジョセフ・ジョースターとサファイアは北へと歩みを進めた。
脱出に必要な首輪のサンプルは、巴マミと園田海未のものがあったが、新一と田村と話し合い、両者の知り合いが納得してから回収すべきだと判断したために回収しなかった。

『...本当に、私などが一緒でもいいのですか?』
「なあに。最初も言ったが、ワシは死神から最も嫌われた男でな。乗り物は悉く大破するし、飛行機の墜落事故には小型セスナを含めれば4回も遭っておる。大気圏に限りなく近い場所からダイヴしたこともあるが、こうして元気に生きておるよ」
『......』

冗談にしか聞こえない体験談を笑い飛ばすかのように語ったジョセフ。
気を遣ってくれてるな、とサファイアは申し訳なく思った
そして同時に、今度こそ死なせたくないと決意した。

『ジョセフ様。エドワード・エルリック様を発見したら、一度田村様のもとへ返りませんか?』
「なぜじゃ?」
『田村様が仰るには、DIOは強さだけは本物のようです。それに、初春様の友達の御坂様もそうとうな能力を持っているそうですし...』
「ふむ...」

サファイアの言葉に、ジョセフは改めて方針を考える。
確かにDIOは倒すべき相手だ。
しかし、手がかりがあるとはいえ少人数で、しかも承太郎やアヴドゥル抜きで挑むのは少々荷が重いだろう。
それに、DIOが北にいるということは、同時にタツミとさやかはDIOと遭遇する危険性はかなり低いということだ。
一度、彼らと合流してから戦力を整えるべきではないだろうか。


「そうじゃな。エドワード・エルリックという少年と合流し、御坂美琴を説得してから決め直す必要があるかもしれんのう」
『御坂様...もですか』
「なぁに。説得に必要な材料は揃っておる。ワシに任せておきなさい」

ジョセフは既にさやかの説得に成功している(と思っている)。
さやかのとき同様、友人の名を出して思いとどまればよし。
それがダメでも、願いを叶えるための別の方法を提示してやればいい。

「殺し合いに乗る輩のタイプは大きくわけて三つ。ひとつは、単純に戦闘や殺しが好きなやつ。もうひとつは、どうにかして生き残りたいやつ。最後は願いを叶えたいやつじゃ」
『いずれにせよ、強固な意志であればあるほど説得は難しいのでは?』
「まあのう。しかし、前者はともかく後者ふたつは説得の余地は十分にあると思う」
『生き延びたいと思う者はともかく、願いを叶えたい者は...』
「田村から聞いたのだが、広川という男は思考はともかく、あくまでも普通の人間らしい。そんな奴が、時間や平行世界に干渉はできんはずだ」
『と、なると...』
「うむ。必ずや、奴の協力者や異次元に干渉する『なにか』を手にしているはず。優勝しなければ願いが叶わないというのは、言い換えれば広川が『優勝しなければ願いを叶えてくれない』だけにすぎない」
『つまり、願いを叶える手段さえ知ることができれば』
「殺し合い自体が意味を為さんものになる。そのために、まずは首輪を外さねばな」
『ですが、よろしいので?こんなことを広川に聞かれたら...』
「心配いらん。参加者のうちの何人かがゲームから脱出しようと考えるのは奴も予想済みじゃ。でなければこんな面倒な催しの主催なんぞできんわい。要は、その方法さえ知られなきゃいいのよ」

それに、と一旦言葉を切り、ピストルを持つような仕草を見せつける。

「もしワシがピストルなど持った途端に『今から全員皆殺しじゃー!』などと、殺し合いに乗ったような様を見せつければ、そっちの方が怪しく思われるわい」
『そういうものでしょうかねぇ...』
「広川はワシらの性格や関係を既に把握しておる。自然体に振る舞うのが一番じゃよ」


そして、歩くこと十分程度だろうか。

ジョセフは、前方の道を歩く金髪の少年と中学生ほどの少女を発見した。

(金髪にあの身長...彼がエドワード・エルリックかのう)

アンジュから聞いた特徴は一致している。それに、二人組であることから殺し合いに乗っている可能性は低いと見た。
ならば、早々に合流すべきだろう。





「そんなことありえるわけないじゃない!」
「だから、まだ予想の範囲だって言っただろうが!...けど、無闇に殺しまわるよりこっちの方が絶対可能性が高いはずだ」
「...と、とにかく私は自分の信じた道を進むから」
「好きにしろ...って言いたいところだがよ、俺の目が黒いうちは、殺しなんざ絶対にさせないからな」
エドワードは、首輪は外せる可能性が高く、主催の持つ願いを叶える方法を奪ってさえしまえば、優勝する必要はない旨を御坂に伝えた。
尤も、あくまでも予想の範囲にしかすぎないこの意見は彼女に受け入れられなかったが。

「おぉ~い!」

どこからか響く声。
振り返ると、やたらと体格のいい老人がこちらに手をふっている。

「ワシの名はジョセフ・ジョースター!きみはエドワード・エルリックか!?」
(...なによあいつ。こんな殺し合いで声をかけるなんて馬鹿じゃないの?)

訝しがる御坂を余所に、エドワードは呼びかけに答える。

「ああ、俺はエドワード・エルリックだ!」
「きみのことはアンジュから聞いておる!ワシもこんな殺し合いに乗るつもりはないから、一度きみと話がしたい!」

ジョセフの言葉に、思わずエドワードの頬が緩んだ。
もしも、マスタングら元々の知り合いから聞いたということであれば、それを利用して自分を利用・殺害しようとする可能性はある。
しかし、アンジュとは数時間前に別れたばかり。放送でも呼ばれていないので、アンジュを殺害して情報を得た可能性は無い。
アンジュを利用する悪党の可能性もないことはないが、少なくとも前者よりは危険は低い。
とはいえ、やはり危険人物の可能性もゼロではないのだが...

「どーすんのよ」
「いくら疑ったところで仕方ねえだろ」


情報を得るためには、それなりのリスクは承知で、ある程度は相手に踏み込まなければならない。
まだ信用はできないにしても、情報交換すら出来ない程に疑心暗鬼に陥れば、それこそ広川の思う壺だ。


「え~っと、ジョセフさんだっけ?情報交換は、どっか身を隠せるところを見つけてからでいいか?」
「ああ。ワシは構わんよ」


こうして、老練なる策士と鋼の錬金術師は邂逅する。
しかし、ジョセフ・ジョースターはまだ知らない。
エドワードに同行している少女が、殺し合いに乗ってしまった少女、御坂美琴であることを。
そして、DIOがエドワードの仲間を拉致したために、もはや一刻の猶予もないことを。
エドワード・エルリックはまだ知らない。
DIOがジョセフの血を吸ったとき、DIOは更なる高みへと上り詰めることを。

【G-4/一日目/朝】



【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中~大)
[装備]:いつもの旅服。
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、エドワード・エルリックのコート
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
0:エドワード・エルリックと情報交換をする。
1:北に向かい、初春の友人の御坂美琴の説得とサファイアの仲間であるイリヤの探索。 DIOを倒しに向かうかは保留。
2:仲間たちと合流する
3:DIOを倒す。
4:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。
[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。


[サファイアの思考・行動]
1:ジョセフに同行し北に向かい、イリヤとの合流を目指す。
2:魔法少女の新規契約は封印する。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟? 、吐き気、頬に掠り傷、焦り
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×6
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:DIOを倒すまでエドワードと組む。 DIOを倒したあとはエドワードを殺す。
1:図書館へ向かいキング・ブラッドレイを探す。
2:戦力にならない奴は、エドワードに気付かれないように慎重に始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
3:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
4:一先ず対DIOの戦力を集める。(キング・ブラッドレイ優先)
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※御坂がエドワードに優勝を狙う理由を話したかは後の方にお任せします。


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、コートなし、焦り、右の額のいつもの傷
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×3~1、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1~0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:DIOを倒しみくを助ける。 ジョセフと情報交換をする。
1:DIOを倒すまで御坂と組む。DIOを倒したあとは御坂をぶちのめす。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したいが、御坂を連れて会うのは不味いか?
3:エンブリヲ、DIO、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:対DIOに備えて戦力を集める。
5:御坂に人は殺させないし、死なせもしない。
6:首輪のサンプルを手に入れる。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。 関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。





072:鋼vs電撃vs世界 エドワード・エルリック 102:noise
御坂美琴
073ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ジョセフ・ジョースター
最終更新:2015年12月10日 00:13