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帝王に油断は無い ◆dKv6nbYMB.



誰にも触れさせはしない。

誰にも邪魔などはさせない。

これは俺だけに許された力だ。

俺だけの『世界』だ。







能力研究所での騒動から数十分が経過する。
ジョースターの反応や、杏子から何も報告がないことから、ほとぼりは収まったとDIOは認識した。

「杏子、一旦見張りを引き上げてくれないか」

日光に当たらないよう、暗がりから声をかける。

「なんでだよ。まだ始めたばっかだぞ?」
「研究所でのお話がまだ済んでいないからな。今の内に聞いておこうと思っただけさ」
「つっても、また後藤みたいなのが来たら面倒じゃん」
「...もう十分程度は経っている。私に個人的な恨みを持つ奴らや後藤なら、とっくに仕掛けてきているはずだ」
「そうかなぁ...まあ、あんたがそういうならいいか」

杏子との会話から、DIOはふむ、と顎に手をやり考える。
本来なら肉の芽を植え付けられた者は、DIOの忠実な部下となる。
まずDIOに対して敬称を使わないのは有り得ないし、ましてや意見するなど以ての外だ。
今までは操折が人の精神を操れる能力を持っているからだと思っていたが、どうやら肉の芽は効力そのものが弱まっているようだ。
いまの杏子はDIOを信頼しているようだが、不利な状況に陥れば逃げ出してしまう程度のものかもしれない。
下手をすれば、一時期は殺し合いに表立って乗っていた彼女のことだ。有り得ないことだが、もし自分が致命傷でも負えば裏切る可能性すらある。
肉の芽を植え付けたからといってその能力を過信すべきではないな、と心の片隅で決心した。

「で、あたしに聞きたいことってなにさ」
「そうだな...きみが言っていた、『変な生き物に騙される』という部分から聞かせてくれ」
「...聞いても、面白くもなんともないけどね」

杏子は語った。
キュゥべえの存在
自分が願った奇跡
味わった絶望
魔法少女の過ごし方...
ただ一点、己の心臓部であるソウルジェムについて以外の全てをDIOに打ち明けた。


「な?面白くもなんともねえだろ」
「いや、個人的には興味を惹かれたよ。魔法少女に魔女か...場所が場所ならもう少し詳しく聞きたかったが、あまりに掘り下げすぎて、夢中になるあまり邪魔が入るのも好ましくない。このバトルロワイアル自体にはそこまで関係ないみたいだしね」
「んじゃ、あたしからも質問いいか?」
「ああ、構わない」
「あんたが出してた『スタンド』...だっけ。後藤にやってたアレはその『スタンド』って奴の能力なの?」

DIOは考える。
相手の能力を知るということは、言い換えれば相手の弱みを知ることでもある。
杏子がDIOの能力を知りたがるのは、そのような打算か、はたまた純粋なる好奇心か。
杏子は、後藤との一件では明らかに『世界』の能力に対して狼狽していた。恐怖心すらあっただろう。
『世界』について知りたいと思うのは、恐怖心をごまかすための無意識の内の防衛反応だろう。
ならば、正体すらも明かさない方が手綱を握りやすい。
得体のしれない恐怖というものは、反抗する気持ちを削ぎやすいものだ。

「悪いが、それは企業秘密というやつだよ」
「ちぇっ、わかったよ」

企業秘密。即ち、これ以上踏み入るなという警告を杏子は本能的に感じ取ったのか、それ以上『世界』について言及することはなかった。
それから、DIOと杏子はそれぞれこのバトルロワイアルでの経験を語っていく。

「そのイリヤって魔法少女、なにからなにまであたしとは違うみたいだな」
「少なくとも、キュゥべえという単語は出てこなかったかな。それより、きみが最初に出会った学ランの男...間違いなくスタンド使いだ」
「やっぱりか。道理でなんとなく似てると思った」
「似ている?」

杏子がなんとなく言った言葉に、DIOの眉がピクリと動く。

「な、なんだよ。あたし変なこと言ったか?」
「いや、気にしないでくれ。...その男について、きみの思ったことを聞かせてくれないか?」
「そうだな...タイプっていうのかな。頑丈で、パンチ一発一発が重い上に速い。その辺りが、あんたのスタンドに似てるなって思っただけ」
「そうか...」

杏子の遭遇した男に対する印象を聞いて、DIOは確信する。その男は空条承太郎であると。
承太郎のスタンドの詳細についてDIOは何も知らない。
しかし、ジョナサンの肉体の影響により、自分がスタンドに目覚めると共にその子孫にもスタンドが伝わっていることだけは確かだ。
現に、ジョセフとの交戦で彼のスタンドも確認できた。しかも、この会場では使えない自分のもう一つの茨のスタンドとそっくりな形状のだ。
そのことから考えれば、『世界』に似たタイプのスタンド使いが空条承太郎であると判断するのは難しくは無い。

(この会場の中で、こうも容易く我が因縁と遭遇することになるとはな。ジョナサン、これも貴様が奴らを呼んでいるということか?)

厄介なものだ、と思う傍ら、思ったよりも早く百年前からの因縁を決着を着けられると思うと、内心せいせいするといったところだった。

「もういいのか?だったら、見張りに戻るよ」
「その前に、きみの元々の知り合いについて聞かせてくれ。できれば、きみの知り合いには協力を持ち掛けたい」

いまのDIOのコンディションは、決して万全ではない。
ジョセフ率いるあの三人程度なら蹴散らすのはわけないが、あの三人に承太郎やアヴドゥル、田村怜子ら寄生生物がもし纏めて襲いかかってきた場合、杏子と二人だけでは苦戦は必至だろう。
そのため、元々の部下である花京院だけでなく、杏子のような戦力のある駒を引き入れておきたい。
DIOの言葉に、杏子はわずかに悩む素振りを見せたが、まぁいいか、と呟き話し始めた。

「あたしの知り合いは全部で四人。鹿目まどか。はっきりいってコイツは足手まといもいいとこの甘ちゃんだ。高い素質は持ってるらしいけど、契約してなきゃ何の意味もないさ。
美樹さやか。まどかに比べれば使えるけど、ハッキリいってあたしとウマが合わないから協力は難しいと思う。
暁美ほむら。こいつは...あたしにもよくわからない。ただ、結構場数は踏んでるらしいし、利害の一致があれば話せる奴だ。協力を持ち掛けるなら、こいつが一番いいと思う。
巴マミ...ハッ、馬鹿な奴だったよ。魔法少女の癖に使い魔を狩ったり、わざわざ新人の面倒をみたりさ、お人好しにも程があるってんだ。だからこんなところで早々に死んじまうんだ」

(死者に対して思い入れのある者ほど、口を軽くし、死者への暴言を吐きやすくなる。その巴マミについて触れることは時間の無駄になるな)

「...死者を振り返ったところでどうにもなるまい。それで、彼女たちはなにができるんだい?」
「さっきも言ったけど、鹿目まどかには何も期待しない方がいい。連れて歩くだけ邪魔になるさ。
美樹さやかは、回復の魔法が使えるけど、まだペーペーの素人だから戦力としての期待は難しい。
暁美ほむらは...よくわからねえや。あいつとは戦ったこともないし、付き合いが長いわけでもないし...あっ」

ふと、なにか思い当たったことがあったのか、杏子はポンと手を打った。

「どうした?」
「そういえば、あいつも妙なことができるんだよ。突然消えたり、いつの間にか場所を移動させたりさ」
「突然消える...場所を移動させる...」
「これさ、あんたが後藤にやったことに似てない?」






―――ギ ギ ギ

どこかで、何かの歯車が微かに動いた気がした。




突然消える。
気が付けば場所を移動させられている。
何故だ。なぜ、暁美ほむらという女はそんなことができる。
これではまるで...

「ひょっとして、ほむらの魔法はあんたと同じだったりして」




―――ギリ ギリ ギリ




歯車の音が鳴りはじめる。
『世界』と噛み合っていたはずの時の歯車が再び動き始めた。



「ったく、なんだってんだよー」

DIOとの情報交換を終えた杏子は、親に叱られた子供のように唇を尖らせ拗ねていた。

「あたし、なにか癇に障ること言ったかな」

杏子がDIOとほむらの力が似ている、と何気なく言った瞬間、DIOからは微笑みが消え、部屋中を圧迫するような殺気と警戒心が織り交じった空気に包まれた。
そのすぐ後、DIOはなんでもないと言っていたが、明らかに自分の言葉を受けたせいであることはいまの杏子にもわかる。

(まあ、本人が気にするなって言ってるんだ。あたしはあたしに任されたことをやればいい)

DIOから追加された依頼は、『建物に近づく者がいれば始末すること。ただし、特定の人物は除く』といったものだった。
DIOが指名したのは、彼の部下である花京院典明、DIOが殺し合いで出会ったイリヤという魔法少女、杏子の知り合いである暁美ほむらと美樹さやか、ついでに鹿目まどか。そして、杏子と面識のある空条承太郎とジョセフ・ジョースター。
後者二人に関しては意図が解らないが、それはDIOがわかっていればいい。
自分が知る意味はない。

「さてと、誰が最初に来るのやら...」

杏子は、まるで番犬のように建物の入り口で来訪者を待っていた。

『君が本当は―――――のか、どう―――ことが―――と思うのか。その―――を――――とさせることだ』

時折、頭の中を走るノイズに微かに苛立ちを憶えながら。



DIOは考える。
杏子との情報交換は実に実りあるものだった。...腹立たしいと思うくらいにだ。
鹿目まどかという少女は、何の変哲もない者らしいが、それはそれで非常食としても手ごまとしても使いやすい。
美樹さやかは、回復の魔法が使える。それがあればこうして回復を待つこともないのではないだろう。杏子はともかく友人であるまどかがいれば扱いやすそうだ。
だが、問題はそんなことではない。
暁美ほむらという女。間違いない、そいつの能力は時間停止だ。
正直に言えば、制止した時の世界に足を踏み入れる者がいるなど考えたくもないことだ。
だが、少なくともこの会場にはその世界に干渉できる者が自分を含めて二人...いや、『三人』もいる。

この会場に連れてこられる前、時折なにものかに見られる感触を味わっていた。
おそらく、ジョセフ・ジョースターの念写だろう。そして、その能力は自分の茨のスタンドも持っている。
『ジョセフ・ジョースターが自分と同じスタンド能力を持っている』。
今までならば、大して問題にしていなかったことだ。
しかし、これが奴の孫の承太郎にも当てはまるのなら。
奴もこの『世界』の能力を受け継いだのなら。

(空条承太郎...奴もまた、この『世界』の能力を受け継いでいる可能性は高い)

もしも、この事実に気が付かないままに奴と相対した場合、奴に一杯食わされる可能性は十分にある。
例えばそう、動けないふりをされ、迂闊にも近づいたところを腹を突き破られるなどだ。

(認めざるをえない、か)

制止した時の世界に入門できる者が揃ったとき、どうなるかはわからない。
だが、この瞬間から自分の力は強力ではあるが『無敵』ではなくなった。
それを自覚しなければならない。
侮れん、と思うと同時にこの手でケリを着けねばならないとも思う。


「制止した時の中で動けるのはたった一人でなくてはならない...思うに、自動車という機械は便利なものだが誰も彼もが乗るから道が混雑してしまう。止まった時の中は一人...このDIOだけだ」

そして、帝王はしばしの休息へと身体を預ける。
己の世界に立ちはだかるであろう愚者たちを蹂躙するために。


【F-1/一日目/午前】


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(大)、右腕欠損 、浅い睡眠
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。 最早この帝王に油断はない。
0:休息し疲労を回復させた後、ジョセフ達を殺す。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:花京院との合流。
3:休息中の見張りは杏子に任せる。
4:寄生生物は必ず殺す
5:杏子を餌に、彼女の同類を配下に置く。ただし、暁美ほむらは始末する。

[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。
※暁美ほむらが時間停止の能力を持っていることを認識しました。また、承太郎他自分の知らない参加者も時間停止の能力を持っている可能性を考えています。
※魔法少女についての基礎知識を得ました。
1.魔法少女とは奇跡と引き換えにキュゥべえと契約してなるものである。
2.ソウルジェムは魔法を使う度に濁り、濁りきると魔法が使えなくなる。穢れを浄化するにはグリーフシードが必要である。



【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神疲労(中)、疲労(中)、全身に切り傷及び打撲(それぞれ中)、ソウルジェムの濁り(中)、額に肉の芽
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ、帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
0:建物に近づいてくるやつはぶっ殺す。ただし、特定の人物(花京院、イリヤ、まどか、ほむら、さやか、ジョセフ、承太郎)以外。
1:巴マミを殺した参加者を許さない。
2:殺し合いを壊す。それが優勝することかは解らない。
3:承太郎に警戒。もう油断はしない
4:何か忘れてる気がする。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※DIOへの信頼度は、『決して裏切り・攻撃はしないが、命までは張らない』程度です。そのため、弱点となるソウルジェムが本体であることは話していません。


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102:noise DIO 109:雷光が照らすその先へ
佐倉杏子

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最終更新:2015年09月28日 01:49