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PSI-missing ◆rZaHwmWD7k




上条当麻はヒーローだった。


たとえ幾億の死を越えても、その上でただの一度の勝利も掴めなくとも、
最後にはいつだって皆が望む結末を手繰り寄せてみせた。
そんな彼だからこそ、御坂美琴は恋をした。


だが、運命は歪み、捻じ凶げられ、上条当麻は死ぬはずの無い時に、骸を晒した。



この物語に、ヒーローは居ない。




「どうして…」

どうして、こんなことになったのだろうか。
幾度目になるか分からぬ呟きを漏らしながら、セリム・ブラッドレイ/プライドは歩く。
しかし、歩みは遅々として進まない。

元々、あまりに希薄なアテの旅路だ。
しかも、絶望を突きつけられるかも知れないと分かっていては
歩幅の間隔も広くなることは決してない。
何も知らぬ者が彼を見れば、帰る場所を喪った孤児と形容するだろう。
傍らに、誰も寄り添うことは無く、
名前を無くし、帰るべき場所を無くした一人の怪物はただ進む。
まるで、レミングの如く。

「………?」

歩く傍ら、自分を見下ろす視線がある事に気が付いた。
茫洋と上方を見上げ、視線の主を探す。


グラトニーから奪った嗅覚のお陰で、視線の発生元であるその少女は直に見つかった。
街灯の上に立ち此方を見下ろしてくる、星空凛小泉花陽よりも少し幼い印象の少女。
陽光で影がかかっていた為、表情は伺えなかったが、瞳は何故か嫌でも目についた。

そこからたっぷり数秒間お互いの瞳を見つめた後、どちらともなくああ、と微かな呟きを漏らした。
朧げだが、理解したのだ。
彼女/彼もまた、帰る場所を喪った者なのだと。


ふわりと、少女の体が浮き上がり、セリムがいる地平へと降りてくる。
一瞬どうするべきか躊躇したが、それを見てセリムは意を決して口を開く。

「あの、」

今一度、少年としての仮面(ペルソナ)を被り、少女と相対する。
何世紀も繰り返してきた事だった。
目の前の少女は星空凛や小泉花陽と違い、無力な弱者では無く、婚后光子の様に何らかの力を有しているとセリムは踏んだ。
でなければ、街灯の上に立っていた事も、この時に至って独りでいる事も不自然だ。
新たな隠れ蓑にできれば御の字だろう、そう判断した。

「…………」

しかし、目の前の少女は答えない。
無表情でありながら、何かを図りかねているか様な雰囲気だった。
静寂が緊張を高めていく。

「……僕はセリム・ブラッドレイと言います。お姉さんは」

埒が明かないと判断し、不本意ながらもセリムの方から名乗った。
これでも無反応ならばお手上げだ。

しかし、幸運なことに――セリムの不安とは裏腹にブラッドレイと言う単語を聞いた途端、少女の顔が変わる。
最も、セリムが期待していた様な表情ではなく、どこまでも冷淡な、何かを確信した顔にだが。
少女が口を開く。

「………そう、アンタも人じゃないのね」



空気が弛緩し、固まる。
欺くために作った表情が酷く場違いに感じる程。
しかし、この程度で揺らいでいては、果てない時間を政府要人の子息として生きることなどできはしなかっただろう。

「何の事、ですか?」

戸惑った様な表情は忘れない。
この場で作る表情を間違えれば疑念の眼は避けられない。
無力な怯える少年、セリム・ブラッドレイを演じながら思考を巡らせる。

この少女は北側からやって来た。
位置や時間的に焔の錬金術師達から情報を得たとは考えがたい。
ならば、

「韜晦するのはやめなさい。アンタの事はエドから聞いてるわ。
 それに、あのオッサン…キング・ブラッドレイの息子なんでしょ?」

やはりか。
鋼の錬金術師の名前が出た事を確認し、心中で舌打ちしながらどうするべきか考える。
この少女は最早アカメ達の様に隠れ蓑には成りえないだろう、始末するしかない。
ラースの名前が出た事が気がかりだが、今わの際に吐かせれば事足りるだろう。


この少女を殺せば、また一つ首輪が手に入る。
それは、真実に近づく事と同義だ。
“希望”に縋るために、少年は力を行使することに最早迷いはない。


影が、展開される。

「――仕方ありませんね。貴方もここで散ってもらいましょう」

同時に仮面が剥がれ落ちたように放出される禍々しい殺気と死の予感。
しかし、目の前の少女はそれを苦々しい笑みと共に受け入れた。
まるで、最初からこうなる事が分かっていたかのように。
こうなる事を望んでいたかのように。
少女が、口を開く。



「それじゃ、ウォーミングアップがてら始めましょうか―――」



少女の額から青白い火花が散り、
それが開幕の号砲となる。

直後、轟!!と言う爆音とともに
学園都市のナンバー3『超電磁砲』と始まりの人造人間『プライド』が激突した。



鋼すら容易に切断する最強の矛と最強の盾の性質を併せ持った影が世界を蹂躙する。
それは大地を、アスファルトを、民家を掘削し、瓦礫を撒き散らしながら少女に迫った。

しかし、少女には一抹の動揺も無い。
影と同じくして振るわれる腕(かいな)。

それだけで、少女に迫っていた死神の鎌たる影はあらぬ方向へと進路を変えた。
少年の目が見開かれる。

「……私と、同じ?」

少女は、黒々とした少年の影と似たモノを周囲に纏わせていた。
彼女の最も得意とする攻撃のレパートリーの一つ、砂鉄の剣。
鞭状だった砂鉄は、変幻自在に形を変えていく。
その数、八本。
少年の感覚としてはそれは、長大な蜘蛛の足の様に思えた。

「ええ、参考にさせてもらうわ」

ぎょろぎょろとした夥しい程目玉が張り付けられたおぞましい影と相対しても、
少女は渇いた目でそう一言残すだけだった。
心は既に、深い深い絶望によって麻痺状態にある。

砂鉄の剣と影がぶつかり合い、鎬を削る。
金属音とも違う、鋭い轟音が世界を包んでいく。
一手、二手、三手。
縦横無尽に繰り出される攻撃。


(成程、彼女が婚后光子が言っていた超電磁砲、ですか)

錬金術とも違う異能を使う、超能力者と呼ばれる者達の中でも屈指の実力者だと光子は語っていた。
確かにその能力は国家錬金術師すら凌駕するかもしれない。

だが、



「タネが割れれば、どうと言う事はありません」



日中の少年の能力はそれすらも超える。


八本の砂鉄の剣の内の一本を影が一瞬の内に食い破った。
少女の黒き剣は確かに大したものであるが、自分の影程堅牢でも、鋭くも無い。
事実、少女の黒き剣はよくよく観察してみれば自分の影を受け流す事がやっとの様だ。

このまま撃ち合いを続ければ、軍配は必ず自分に上がる。
しかし、それは少女にも承知していた。
砂鉄の剣はあくまで彼女にとっての見せ札の一つに過ぎない。


「どうと言う事はないかどうか―――試してみろってんのよ!」

再度、少年に牙を突き立てんと殺到する七本の砂鉄の剣。


「芸が無いですね」

影で黒き剣を事もなげに打ち払いながら、同時に妙だとも感じていた。
婚后光子の話によれば、この少女は電撃を操るという話のハズだ。
にもかかわらず、少女は一度も電撃を放ってこない。

放てないのか、それとも何か意図する所があるのか。

だが、防戦とは言え、黒き剣で自分の影を凌ぎ続けているのもまた、まぎれもない事実だ。
油断は決してしない。
電撃を撃たぬと言うのならそれならそれで好都合だ。
勝負を決めるための攻勢へと移る。

「これで、終わりにしましょう!」

影が怒涛へと変わる。
点の攻撃から面の攻撃へ。
一撃一撃の密度は落ちるもののそれでも殺傷力は少女の剣に勝る。

一本また一本と蜘蛛の足がもがれ、少女の姿が露わになっていく。
少年には明確な死が迫っていると言うのに、少女の眼はどこまでも渇いているように見える。
しかし―――その唇は歪み、笑みを形作っていた。


砂鉄の剣が様相を変える。
蜘蛛の足から、まるで鎌鼬。否、竜巻のごとし。
その刃は一度の交錯で百を超える裂傷を生み出すだろう。

常人なら瞬く間に心胆を凍らせる光景だが、少年の心中に沸いたのは疑問符だった。


(……何故、防御を捨てる真似をする?)

先程の激突で恐らく最高密度の点の攻撃でも自分の影は突破できなかったはずだ。
それなのに、自分の様に面の攻撃に移るとは。
自分が一度や二度の死では滅びない事を知らないが故の行動なのかも知れないが―――
これではあまりにお粗末に過ぎる。

盾と鎧を捨てた破れかぶれの特攻(バンザイ・アタック)も良い所だ。
しかし、少年には少女がそんな無謀な事をするとは思えなかった。
狙いは何か別の所にあるのだろう。
要するに、自分は誘われていると判断した。

(いいでしょう)

そこまで分かりきった上で少年は、セリム・ブラッドレイ/傲慢は誘いに乗る。
人の上位種である人造人間の矜持を賭け、
目の前の少女を下すために、自分の名を取り戻すために。

影は拡がり、津波に変わる。

例え少女の生み出した黒い竜巻が剣を超える鋭さだとしても。
例え電撃を放ってきたとしても。
一片の容赦なく飲み込み、食い破るために。



影と砂鉄の旋風が衝突する。
凄まじい程の圧がその場全てを制圧し、薙ぎ払う。


されど、拮抗は一瞬。
爆散。
少年の想定通り影は黒の竜巻を蹂躙しそのまま少女へ―――――



漆黒の壁の先に少女の姿は無かった。

(……何処へ?)

嗅覚をフルに稼働し消えた少女の行方を追う。
だがいくら臭いを頼りにしても少女の残り香を捕えるのみ。

ならば嗅覚の利かぬ風下かと今度は視線で少女を追う。
しかし、撒き散らされた砂鉄の塵で視界は悪く、見つからない。
ミサイルに対するチャフの役割を果たしていた。

(成る程、あの不自然な特攻は陽動ですか)

それに気づいた少年はすぐさま自分の両眼二つだけではなく、影についている目玉も総動員し、索敵に回して全方位をカバーする。


だが、それでも少女は見つからない。


まさか、と思い宙に顔を向ける。
陽光が目を指し顔を歪めながらそれでもしっかりと双眸を見開き、少女の姿を捕えた。


(―――上!?それも高い…ッ!)



翼無きはずの少女は飛んでいた。
一メートルや二メートルでは無い。
優に10メートル以上の飛翔。
例え鳥でも一度の羽ばたきしか許さぬ一瞬の内にだ


その異常な飛翔の正体は、莫大な高圧電流。
10億ボルトもの出力を誇る電撃により大気を爆発させ、その勢いをもってして少女は翔び、
その際、発生した爆発音も影と砂鉄の衝突によってかき消されたのだ。

(…不味い!!)

走る戦慄。
周囲に広げていた影を自身の周りに再び集めようとする。
だが、少女の攻撃に比べれば余りにも遅い。遅すぎる。

少女は落下しながら、掌を少年の頭上へと翳した。

音すら置き去りにして銃弾の数百倍の速度で迫る雷撃の前では、刹那すら致命となる。



『超電磁砲』
学園都市の第三位。
その序列が意味する通り第一位や第二位にはたとえ彼女が200人いた所で届かない。
『一方通行』/神にも等しい力の片鱗を振るう者。
『未元物質』/神が住む天界の片鱗を振るう者。

所詮人界の者にしか通じぬ力しか持たぬ超電磁砲では彼等とは隔絶した実力差が存在する。
しかし裏を返せば、彼女の能力は。
人界の業(わざ)が通用する相手にならば、圧倒的な威力を発揮する。

加えて、彼女の世界において、何か決定的な間違いを犯そうとする者を止めてきたのは、
いつだって、愚直なまでに真っ直ぐな魂と
揺るぎない信念と、
神の奇跡さえ否定する力を秘めた右手だった。
故に、如何に強力な力を有していようと―――惑い揺らぐ心では彼女は止められない!



眩い程の光が、プライドを飲み込んだ。



「――でしょうね。何か、そんな気はしてたわ」

閃光が収まった世界で、美琴は相対する人外に毒づく。

「……やってくれますね。あの雷撃だけではなく、
落下の際に周りの瓦礫を操って僕を叩き潰すとは…僅かな間に二度、滅ぼされたのは初めてです」

美琴が放った『電流』の電圧は彼女の全電力の1%にして1000万Vオーバー。
処刑方法として広く世間に知られている電気椅子の電圧の有に500倍だ。
だが、目の前の少年はケロリとした表情で瓦礫の中から這い出てくる。

それと共に、獰猛な影は再び少年の周りに展開し、臨戦態勢を整えた。

全ては仕切り直し。
一陣の風が凪ぎ、二人の肌を撫でる。

しかし、

「やーめた」

相手の一挙一側に集中し、身構えていたセリムとは裏腹に、美琴は肩を竦めた。
あまりにも拍子抜けな展開に目を丸くしながら、セリムは美琴に問う。

「何のつもりですか?」
「私の戦場はここじゃないって事よ。それに、アンタも私を見逃した方が得だと思うけど」

訝しみながらも、セリムは美琴の真意を探る。
先程までの動の時間とは違う、ひりつく様な静の時間が通りすぎていく。


「アンタが下手打って、一人になって、それで首輪欲しさに私を襲ったなら、なおさらね」

全てを見透かすような口調で美琴は続ける。

「安心していいと思うわ。私、ゲームに乗ってるの。
……私の話に耳を貸すのは、この場じゃもう三人しかいないと思うから」

ひらひらと首輪を見せながら自嘲するような呟きを囁くその顔は、どこか儚ささえ覚えた。
暗に御坂美琴の口からセリム・ブラッドレイの正体が広まる事は無いと伝えている。

「信用できるとでも」
「じゃあ続きをやる?今度はできる限り派手にやるわよ」

その言葉にセリムの思考がわずかに揺らいだ。
この少女は自分の手札を全て出し切っていない。
それが自分を倒せるものとは思えないが、これから日が暮れていくこの状況で、
堂々と戦って人を集めては本末転倒である。


「それに…アンタの父親、キング・ブラッドレイとの約束があるし」
「ラースが?」

さらに、決して看過できない名前が出てきた事でセリムの戦意が削がれ、

「ええ、アタシと同じで殺し合いに乗ってるから協力しようってハナシ」
「……浅はかな」

表情では平静を装いつつセリムは少なからず動揺した。
ここには二人の人柱がいるのだ。
父上の指示も仰がず、ラースが本当に殺戮に臨むと言うのなら早計としか思えない。

「そうかしら?少なくとも………
 今のアンタよりはマシな選択したと思うけど」

そんなセリムの思考を読んだかのように美琴は言葉を投げる。

美琴にはキング・ブラッドレイがどんな真意で自分に協力を申し出たのかは分からない。
そもそも本気で殺し合いに乗っているのかすら。
でも、今はそんな事はどうでもよかった

「……何が言いたいんです」
「キング・ブラッドレイは、自分の意志でこの殺し合いに乗ってたわ
 確かに、自分の往くべき場所を決めてた。
 この期に及んでまだどうするべきか分からないって顔してるアンタ何かよりよっぽどね」

語りかけながら、美琴はディパックを開く。
すると、影によって食い散らかされた鉄分を含んだ大量の瓦礫が彼女の磁力によってディパックに収まっていく。
収納された瓦礫はこれからの彼女の盾となり、鎧となり、敵を破壊する鎚となり超電磁砲の弾丸となる。
念じたモノが出てくるディパックの性質上取り間違える心配も無い。

この瓦礫を手に入れる事が彼女がセリムと闘った目的の一つでもあった。
それが果たされた事を確認すると美琴はディパックから目の前のセリム・ブラッドレイに視線を移す。

「アンタも決める事ね。自分の立つべき場所を」

そう言い残すと、セリムからゆっくりと背を向け、図書館の方に向けて歩き出す。
今なら無防備な少女の背中を貫く事は容易そうだが―――セリムは何もできなかった。


損得で考えれば、彼女を行かせた方がメリットは大きいのだから。
あの少女は手強い、双方本気で殺しあえば自分もただではすまないだろう。
彼女があの図書館にいた者たちを減らしてくれれば、セリムも動きやすくなる。


影を収め、離れていく少女の背に問いかける。


自分は、少女の言うとおりどこにも立ててなどいないのかもしれない。
ならば、それならば。
目の前の彼女は何のためにその場所に立ったのだろう。

「貴方は、何のために殺し合いに乗ったのですか?」

ぴたりと、少女が足を止め、まるで、自分に言い聞かせる様な声で答えた。



「私はきっと、この場にいる人達皆を敵に回しても」



「アイツに、生きていて欲しいんだと思う」



御坂美琴の背中を見えなくなるまで見送った後、そのままセリムは立ち尽くしていた。

「自分の立つべき場所、ですか」

セントラルで父の手足として動いていた数世紀では考えもしない事だった。
その事に疑問など持たなかった。

「ラース、貴方は何を考えて…」


末弟の選択が長男である彼には分からなかった。
元は人間とはいえ大総統として選ばれた程の男だ、安直な考えで殺し合いに乗ったとは考えづらい。
だが、彼が永く人間と接しすぎたのもまた事実である。

(まさか、ラースには父上が何か指示を?)

そこで、都合のいい考えをしている自分に気づいた。
長男である自分に何も伝えないのだ、ラースに父が何か伝えているわけはないだろう。
しかし、もしかすれば、いや、と言う言葉が頭の中で何度も浮かび、思考の袋小路に陥ろうとする。


憤怒の名前を冠する弟は父に見捨てられたかも知れない状況で、絶望することはなく、自分の意思で殺し合いに乗った。

小泉花陽は、信じたものが根底から否定されても、自分から目を逸らす事は無かった。

あの電撃を操る少女…御坂美琴は、大切なモノのために殺し合いに乗った。


自分は?
このバトル・ロワイアルで、どこに立ち、どこへ行くのか?
誰も教えてはくれないし、その手を引く者などいない。
だから、自分で決めるしかない。


「ハッキリさせましょう。全てを」



希望が無になる事は恐ろしい。
しかし、此の儘では自分は何処にも立つことなどできはしない。
あるかも分からぬ希望に縋って哀れな孤児になるよりは絶望の真実を知ることのほうが余程いいと思えた。

瞳に深い絶望を宿し、方向性は違えど、闇の底で必死に足掻こうとする少女達を見たからかもしれない。

「ラースの事を言えませんね」

人造人間としての矜持を持っているにも関わらず、人に影響される自分を自嘲しながら、武器庫の方へと視線を向けた。

「―――行きますか」

そして、再び名前を無くした怪物は歩き始める。
その足取りは、先ほどよりも軽くなっていた。
ふと、肩を見る。
そこには、自分の物ではない、髪が一本あることに気づき、

それを払おうとして手を伸ばす。

だが、

『――凛ちゃんはそんな人のために死んでなんかいない!』

「もし全てが分かった時、私は…」

結局、その髪が払われる事は無かった。

【C-4/一日目/日中】

【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、精神不安定(ごく軽度)、迷い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2 、星空凛と蘇芳・パブリチェンコの首輪
[思考]
基本:今は乗らない。
1:武器庫へ向かう。
2:無力なふりをする。
3:使えそうな人間は利用。
4:正体を知っている人間の排除。
5:ラースが…?
[備考]
※参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
※会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
※賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、とある科学の超電磁砲の世界観を知りました
※殺し合いにお父様が関係していないと考えています
※新一、タスク、アカメ達と情報交換しました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。


「どうして…」

どうして、こんなことになっちゃったのかな。
名前を無くした怪物との邂逅を経た少しあと、図書館へ向かいながら幾度目になるか分からぬ呟きを第三位の少女は漏らした。
答える者のいない、答えが出るはずのない問い。

自分がレベル5など大それた能力を持っていなかったら、昔の、レベル1の能力者の時に呼ばれていたら、
誰の命も奪わずに済んだのだろうか。
あり得ない、あり得てはいけない『IF』を夢想しながら、少女は瞼を閉じる。


―――お前の味方で良かったと思ってるからさ。

「やめて」

―――何一つ失うことなく皆で笑って帰るって言うのは、俺の夢だ。

「やめてよ」

―――必ず御坂妹は連れて帰ってくる。約束するよ。

「できないよ。私には誰も失わない何て、難しすぎるよ…」

その声はセリム・ブラッドレイと相対していた時と比べればあまりにも弱弱しい。
今にも消えて無くなってしまいそうな印象を持つ物だった。


「遠い、なぁ……
 アイツが、遠い……」

瞼を開き、自分の掌を見ながら、美琴は呟く。
その手には、先ほどの闘いで生じた汗で濡れていた。
絶望で精神が麻痺状態にあるなど嘘だ、実際は、しっかりと怖れていた。
あの『最強』の様に、人を人形の様にしか見れなかったらどれだけ良かっただろう。
どんな攻撃も怯えなくていい反射と言う最強の盾があればどれだけ楽だっただろう。
仮面一枚剥がれてしまえば、御坂美琴は、哀しいくらいに人間だった。

血塗られた手で顔を覆う。

「婚后さん」

思い起こされるのは一人の友の顔。
先程放送で呼ばれた名前を、反芻する。

『―――その方を私、婚后光子の友人と知っての狼藉ですの!!』

食蜂操祈とは違い、派閥と言う物がどうしても肌に合わなかった私にとって彼女は数少ない、掛け替えのない友人だった。
こんな所で終わって良い人では決してないと断言できる人だった。
きっとあの人は佐天さんと同じで、私なんかとは違って、誰かを守って逝ったんだと思う。
最期まで気高く生きたんだと思う。

けれど、もういない。

たとえ、広川を倒して帰ったとしても、
アイツは居ない。佐天さんは居ない。婚后さんは居ない。

もう、どれだけ恋焦がれてもあの日々は帰って来ない。

たとえ誰もが笑っていられる世界があったとしても、
私には今度こそ、その場所にいる資格は無い。

もっと言ってしまえば。
本来ならばゲームに乗った自分に佐天涙子や婚后光子の死を偲ぶ資格などありはしないのだ。


ならば、自分には何ができる。
代わりに何をすべきだ?

「決まってる、戦う事だけよ」

それだけで人は死ぬのだから。
アイツが帰って来るかもしれないのだから。

覆っていた手を離し、ポケットに手を突っ込む。
シャーペンの芯程のケースに収められた白い粉末。
彼女の最後の支給品。『体晶』
木原幻生、木原=テレスティーナ=ライフラインが開発し、学園都市暗部においても禁忌とされる薬物。
投与した能力者の能力を凄まじい程に暴走させる悪魔の代物。

美琴は説明書を読まずともこの薬品がチャイルドエラーに投与された結果どうなったかを、どれだけ危険なものかを知っている。
だが、これを使えば約束された破滅と引き換えに短い間ではあるが、自分はこの場に居る者全てを凌駕する力を得られるであろうことも。

レベル5である自分の能力が暴走すればどうなるか、考えただけでも肝が冷える。
ただし、使えば自分には適性が無いであろうため拒否反応が現れ倒れてしまうだろう。
これを使うのは本当に最後の最後の手段でなければならない。

近い未来、彼女の一つ下の序列に位置する学園都市の第四位がたった一人の無能力者を撃破するために使用する事になるのだが―――彼女は知る由もない。

バチリ

体晶をポケットに戻した直後。
図書館の方角で雷が走るのを感じた。
最強の電撃使い(エレクトロマスター)である御坂美琴がその方角に意識を集中させていたからこそ偶然感じ取れた事だった。

そう、偶然。
しかし、いつの世も百、千の必定より、偶然が勝るものである。

「―――行かなきゃ。自分を曲げないために」


瞬間。磁力により鉄製の街灯に体が引き寄せられ急加速。
迷いはあれど、揺らがぬ意志だけを抱いて修羅は進む。
“その時”が来れば、最早体晶を使う事すら、躊躇いは無いだろう。

空気を裂き、駆ける脳裏に金髪の少年とツインテールの少女の姿がよぎる。

(もし、あんた達が私を止めたいのなら……)

今の彼女に『正義』は無かった。

(私を、殺しなさい)

『価値』も消え失せた。

(それ以外に―――)

だが、怖がることは無い。

(私の往ける場所何て―――無い!!)

いつの世も勝者こそが正義なのだから。
彼女だって、勝利すれば正義に為りうる、価値を持てる。

敗者が真に正義と謳われた事など、どんな世界のいつの時代の文献を紐解いても、一度足りとて有りはしないのだから。


【D-4(南)/一日目/日中】

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×3 、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、回復結晶@ソードアート・オンライン、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:図書館に行ってブラッドレイと合流した後DIOを殺す。代わりに誰かいれば殺す。
1:DIOを追撃し倒す。 DIOを倒したあとはエドワード達を殺す。
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


時系列順で読む
Back:いつも心に太陽を Next:自由の刑

投下順で読む
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126:名前のない怪物 セリム・ブラッドレイ 147:とんとん拍子
123:無数の罪は、この両手に積もっていく 御坂美琴 146:天秤
最終更新:2015年12月13日 14:31