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天秤 ◆w9XRhrM3HU


タスク、お前はブラッドレイから首輪の解析を頼まれたと言っていたな? あれから何か分かったか?」

潜在犯隔離施設。そこへ向かう道中、狡噛はタスクに首輪の解析の進行が進んでいるのか確認する。
だが、返った答えはNO。首を振り、何一つ分からないといった様子であった。
無理もないことだ。ここに来て、タスクは禄に首輪のサンプルにも触れていない。
そうなると、場合によってはブラッドレイとの停戦も破綻になる可能性がある。タスクが生かされたのは、首輪の解析に必要だと判断されたからだ。

「すいません。ブラッドレイとの交渉に使えるような事は、何も分からないんです」

ここまで狡噛達が持ちうる手札でブラッドレイの欲しがるものは一つたりともない。
一応、まだタスクはアンジュがヴィルキスの操縦者であり、その恋人という付価値が付くが、それも何処までブラッドレイを押し留めてくれるか。

(……戦闘狂。奴の本性はそれだ)

ブラッドレイは如何な苦戦を強いられたとしても、決して顔を歪ませない。
狡噛は二度のブラッドレイの交戦を目の当たりにしているが、ブラッドレイの動きには恐怖も躊躇いもない。あるのは高揚感。追い詰めれば追い詰めるほど、その動きはより俊敏に。そしてキレが増す。
生き延びる為にではない。恐らく、ブラッドレイ自身も気付かぬ、内に秘められた闘争心を満たす為、常に獣の如く、戦の手法を模索し敵を切り伏せ、突き進む。
そんな彼を縛り付けるのは、何らかの使命感。それが彼の殺戮を最小限に食い止めているのだろう。

(理由があり、ブラッドレイは自分の本性に忠実にはなれない。だから、交戦を望みながらもタスクやアンジュのような人材を確保しようとする。
 奴はその矛盾に陥り、思考もまた乱れている)

だから、図書館ではブラッドレイ達を退けられたのだろう。もし、ブラッドレイが既に使命を捨てていたのならば、あの場で死人が出るまで戦いは終わらなかった。
それを使命を優先しブラッドレイは己の保身を優先したのだ。
しかし、もしブラッドレイを縛る使命がなくなればどうなる? ブラッドレイが自らを縛る使命から開放されれば、その被害は甚大だ。死ぬまで戦い続ける殺戮マシーンと化す。
ブラッドレイが死ぬか、この場の全てが死に絶えるか。そのどちらかでしか、終焉は訪れない。
そうなる前に一刻も早い、首輪の解析と脱出のプランが必要だ。奴が、その本性に気付き、使命を捨てて全てがどうでもよくなる前に。

「マスタングの話で何か参考になる事は? 錬金術師も突き詰めれば科学者らしいが」
「ないですね。マスタングさんも、俺と大して変わらなくて」

潜在犯隔離施設に向かう前に、何処かへ寄る必要があるかもしれない。
サンプルの首輪と会場の捜索。なんにせよブラッドレイを食い止める有益な情報が欲しい。
もしもブラッドレイがその気になれば、槙島も―――


「狡噛さん?」

「……いや、何でもない」

思考が脱線し気付けば槙島の事を考えていた。今まで出会った人物には気取られないよう、敢えて頭の隅に置いていたことだが、やはり槙島が先に死んでしまう懸念は捨てきれない。
狡噛の中に焦りが募る。ブラッドレイとの交渉と槙島の殺害。この二つの条件をクリアするには速度を有する。下手に時間を潰せば全てがお釈迦になり後の祭りだ。
だが、こういう場面で焦れば焦るほど冷静な判断力を落とし、洞察眼を鈍り、捜査を誤る。今までに何人もそんな刑事を見た。
それらの失敗例を頭に思い浮かべ、狡噛は頭を冷却する。

『ただ、主催の作業は雑だから首輪の解析も不可能じゃないと思う』
「……?」

タスクからさり気なく渡された一枚のメモ。盗聴を懸念した筆談なのだろうが、その内容に狡噛は目を見開く。
アイコンタクトで狡噛はどういう意味かタスクに合図する。それに気付いたタスクは更に筆を走らせた。

『例えば盗聴機能。これは――』

外部からの如何なる干渉も防ぐ鉄壁の首輪だが、その反面機能が雑なところも少なくない。
タスクが真っ先に気付いた首輪の問題点はあからさまな盗聴機能だ。素人ならば気付かないだろうが、幾らか機械に精通したものなら一目で容易に分かる。
狡噛でもこの殺し合いに呼ばれて、すぐに気付けたのだ。
最初はダミーかと考えていたが、他にそれを補うであろう機能も見つからない。
それに首輪には盗撮機能もなかった。やろうと思えば隠しカメラの一つは仕込めただろうに、首輪には盗聴機能だけしかない。
その上、時間の合間を縫ってタスクは会場内を探索していたが、会場にもカメラの一つも見つからない。これでは会場の監視に支障が出るだろう。
更にいえば放送も会場に設置したスピーカーによるものだ。それも良く探せば、見つかるような位置に設置してある。
戦闘の余波で壊れでもすれば、放送を聞き逃し禁止エリアに突っ込む者も出るかもしれない。
そう、この場にいる全員を誘拐し殺し合いを強要するほどの力や技術を持っている筈の主催が、妙なところで手抜きをしているのだ。

『広川は殺し合いのシュミレートをちゃんとしてないのかも』

タスクがそれらの材料から推理したのは、広川がガサツで向こう見ずなところがある人間ではないかということだ。
あるいは、仮に殺し合いを破綻に追い込まれ、最悪主催VS全参加者の図になろうと勝てる絶対的な自信があるのか。

(いや違う。しなかったんじゃない。出来なかったんんじゃないのか?)

しかし狡噛の見識は違う。
広川を見る限り、あれはかなり用意周到で生真面目。尚且つ頭の切れる人間。
タスクの挙げた指摘点ぐらい既に分かっているだろう。
このような犯罪を行うならば、もっと用意周到に計画を進め、いわゆる完全犯罪を試みるタイプだ。
つまり、広川の人格を推察しつつ考察を進めるのならば、その雑さを理解しながらも殺し合いを推し進めなければならない理由があったと考えるべきなのだ。


(何かこの殺し合いには、意図しない誤算があったのか?)

如何に完全犯罪を目論む犯罪者も、誤算という壁はかなりの障害となることがある。
殺害時間を設定し、ターゲット殺害に踏み入ろうとした時、ターゲットがその日の予定を変える、普段はいない人通りで偶然目撃者が現れてしまう。
結果として急遽犯罪計画を変更し、その場凌ぎの策を練った結果、その歪からアリバイを崩され逮捕された犯罪者も少なくない。
所詮、人間は人間。その運命までも予測し完全な行動をし得ることは不可能ということだろう。
もし広川の身に誤算が起こり、結果として会場の監視が緩くなってしまったのだとすれば……。

(だが、広川は時間を遡り死人を連れて来れる……なら時間を巻き戻す事も可能なんじゃないのか? あるいは時間の干渉にも制約がある?)

マスタングの話から、推察するにこの場の一部の参加者は知り合い同士であろうとその背景事情が異なってくる。
どのような手品を使ったかまでは分からないが、死者を呼び出し、過去未来の人物を引き合わせる。
到底信じられる話ではないが広川の能力は時間を操れる。これはもうほぼ間違いない。なら、最悪都合の悪い誤算が起こったのならあれば時間を操りやり直せばいいのではないか?
それが出来ないのは、時間の操作には制約があるからに他ならないのかもしれない。

「狡噛さん、あまり気にしないで下さい。結構強引ではあると思いますから」
「……あぁ、そうだな」

タスクの言葉で思考を打ち切る。判断を下すにはやはり材料が足りない。

「それに、来客のようだからな」

狡噛がリボルバーを手に息を大きく吐き出す。
タスクの目に写ったのは、ベージュのベストにワイシャツと青いスカートの制服を着た幼い少女。
タスクよりも歳は下。中学生ほどだろう。
そして、その制服は常盤台で採用されているもの。

「……お前が御坂美琴か」

狡噛が口を開く。目の前の少女の特徴は黒子や光子の言っていた御坂と一致する。
それだけならば、リボルバーを握る必要はないだろう。重要なのはその御坂が殺し合いに乗ってしまっている可能性があること。
黒子達の証言が正しければ、殺しを肯定する人物ではないのが分かる。故に狡噛もリボルバーを握るだけ。

「お前は乗っているのか?」

青白い閃光が瞬き、雷音が遅れて響く。


「これが答えよ」

狡噛の背後を一瞬にして消し炭のクレーターへと変えた。

「―――チィ」

狡噛は舌打ちをしながら自らの考えが愚考だったと苛立つ。
彼はセリューとの接触を避ける為に図書館を迂回し、橋を渡ってから潜在犯隔離施設へ向かうルートを選んだ。
無論、狡噛とタスクの二人だけでブラッドレイ親子のいずれかに当たる可能性もあったが、この二人は人のより多い場所へ向かうだろう事が推察できる。
セリムはあくまで危険思考ではあるが、穏便に済ませたがっている。少なくとも影が消える夜までに、新たな仲間を作る為参加者に紛れ込むのを選択するだろう。
そしてキングブラッドレイは己の知らぬ本性に導かれるまま、闘争を求め同じく参加者の多い場所へ行く。
その点、この橋は足跡の一つもない。まだ誰も渡ったことがないのだろう。それに、今まで出会った者達の方針や情報から考えるに参加者は南東に固まっている。
だから、もっとも安全なルートは橋を渡り北上するルートだと狡噛は判断してしまった。

(電撃を飛ばせるのか!?)

以前、交戦した黒とは比べ物にならない高圧電流。触れれば痺れるだけでは済まない。
一瞬で自分の見つけているスーツと一切の見分けが付かなくなるだろう。オマケに直接ないし間接で触れて流すのではなく、直接電撃を投げるときた。
狡噛は御坂の斜線上から離脱し、そのままリボルバーから二発弾丸を撃ち出す。
荒い運動の中の射撃だったが、成果は上。二発の弾丸は一つは御坂の眉間に、もう一つは御坂の肩へ吸い込まれていく。
無論、電撃を放てば弾丸は弾ける。しかし、それは弾丸を見切る音速の反応速度が必要だ。
御坂は身体能力は高いが、素の戦闘力は狡噛や同じ電撃使いの黒にも劣る。弾丸を見切れるほどの反射神経は備わってはいない。
故に決着は付いた。鉛玉が少女の肉体を食い破り、また一つの命が消え狡噛に十字架が重く圧し掛かる。


「ッ!」

因果が捻じ曲がる。弾丸は少女に慈悲を下すかのように本来の斜線上から逸れて虚空を奔り去る。
血飛沫一つ上げずに、御坂は腕を振るう。腕の動きに合わせ、砂鉄の集合体が形を成し剣を展開。
先程まで狡噛が居た場所を砂鉄は抉り取る。そのままチェーンソーのように個々の振動を続け、横に避けた狡噛へと薙ぎ払われる。
体制を後ろへ傾け、砂鉄を避けるが剣としての範囲から逸脱した砂鉄の暴風雨。その射程は既に人に向けていいモノではない。
対人戦に於いて、ただの人間がこれを脱するには同じく異能を持つか。あるいは人としての理を捨て人外への境地へと辿りつくか。―――さもなくば、その幻想を打ち砕くか。

(―――死ぬ?)

狡噛の回避はここに来て何の功も為さない。避ける以前に彼には、御坂に勝ち得る術を一つとして持ってはいなかった。
迷いを捨てた超電磁砲(レールガン)に隙はない。



「―――なっ!?」

相手が一人ならば。
御坂の視界の端にもう一つの人影が飛び込む。その動揺に砂鉄の動きが止まり、狡噛は咄嗟に砂鉄から距離を取る。
御坂の追撃を抑えるかのように、白銀の線が滑り込みその茶髪が数本切断された。
咄嗟に顔を傾けたが為に直接受けはしなかったが、その右頬に一線の赤い筋が刻まれる。
狡噛の離脱を忌々しげに確認しながら、御坂は眼前の少年と相対し身体が練り上げた電撃を纏う。
眼前の少年、タスク。年齢にそぐわぬ無骨なその衣装は軍人の類に間違いない。近接戦闘では圧倒的に不利だ。
電撃の鎧でタスクを威圧しながら、御坂は後退していく。だが、タスクは電撃を構わず突進をかます。

(コイツ、何考えて……)

ナイフを前に突き出し、特攻する様は自殺行為に等しい。最悪、タスクはその命と引き換えに御坂を討つつもりか。
否、電撃に触れるその寸前、ナイフの刃は射出される。タスクから離れ御坂へと刃が独りでに迫り、命を断たんとする。
スペツナズナイフ。既にその性能はタスクが未央から身を以って教えられた。
確実に御坂を仕留め切れ得る距離まで近づき、その身を焦がされる寸前で放たれた刃は確かに御坂を捉えた。
しかし、これもやはり同じ。

「無駄よ。こんなものじゃ私を……」

「知ってるよ、電磁波だろ?」

刃が逸れる。同時に御坂の顔面を衝撃と茶色のディバックが襲う。
布製とはいえ、荷物が詰められた状態で大の男にフルスイングされれば御坂の身体も悲鳴を上げる。

「ぁぐ……!」

顔面は赤く染まり、鼻血を垂らしながら御坂はよろめく。


(……電磁波。そうか)

種を明かせば簡単なトリックだ。弾丸やナイフを反れたのは、決してそれらが独りでに動いたのではない。
電磁波により自らの望むルートへ誘導したに過ぎない。
タスクが数度の攻防で見抜けたのは、その高度な機械、兵器知識によるもの。
更にいえばエンブリヲやマナなどの異能にも接点があり、この手の思考では狡噛より比較的思考が柔軟に動かせたのもある。

(知識に加え優れた戦闘技術……。頼りになるな)

流れでタスクと行動を共にする事になったが、どうやら正解だったらしい。
異能使いとの交戦経験やその機械知識を鑑みれば、ある意味戦闘面なら狡噛よりも場慣れしているかもしれない。
これからの相棒として考えるなら、これ以上ないほどに頼もしい仲間と言える。

「うおっ、わっ!」

よろめいていく御坂に止めを刺そうとした瞬間、何もないところでタスクは躓き転倒してしまう。
そのままのめりに転がっていき、タスクの視界は暗転。
柔らかい感触と布が触れる感覚。それから嗅覚をくすぐる酸っぱい汗の匂い。
何より、独特なのがタスクの口周りに触れる小さな谷間だ。この谷間には非常に懐かしくも、それでいていつもとは全く違う。

「あ、アンタ……何やって……!」

「ちが……誤解だ!! 俺はアンジュの股間にしかダイブしないし、なんか君のはあまり好きじゃ―――」

(なんだこいつ……?)

戦闘に集中していた狡噛ですら引き金を引くのを忘れるほど呆然としてしまった。
何せつい先ほどまで頼もしい相棒になるかもしれないと考えていた男が、目の前の少女の股間に顔からダイブしているのだ。
狡噛が今までに見たことのないタイプの人間だ。


「この、ド変態!!!」

鼻血を拭いながら電撃を放出する御坂からタスクは大慌てで離脱する。

「……おかしい。何で、俺アンジュ以外にこんな……」

電撃を避け続けながら、タスクは己の不調に疑問を抱く。
普段なら、何があってもタスクはアンジュ以外の女性にこんな真似はしないししたくない。
なのに御坂の股間に吸い寄せられるようにダイブしてしまった。

「……嫌な予感がする……アンジュ」

「ぼさっとするな!」

別の思案に気を取られたタスクの頭を抑え込み、狡噛も地面に伏せる。
電撃の槍が頭上を通過し、二人の背中を青白く照らす。
そのまま頭上の電撃が振り下ろされる。流石に幾度か見た御坂の攻撃パターンを二人も徐々に見切りつつある。
御坂もそれを理解し、壁のように降り立った電撃により分断された二人の内、タスクに狙いをつける。
個人的な恨みも然ることながら、タスクを生かしていた方が質が悪い。事実、狡噛一人なら既に殺せていたのだ。
故に真っ先に片づけるべきはタスクだ。

砂鉄を舞い上がらせ、電撃を張り巡らせるがタスクは慣れた動きで避け続けていく。
伊達にタスクもアンジュの騎士ではない。エンブリヲの瞬間移動を見切り、弾丸を避け続ける動体視力はここでも遺憾なく発揮された。

「アンタ……よく躱せるわね」
「エンブリヲの瞬間移動で、こういうのには慣れたよ。……それよりも君、どうして殺し合いに乗るんだ。
 光子は君はそんな人間じゃないって……」
「煩い!」

タスクの顔が青ざめる。
先ほどまでとは比べ物にならない電撃の雨が御坂から降り注いだ。


「―――ダメか」

同時に狡噛がリボルバーを放つが、弾丸は御坂から逸れていく。いくら種が明けようが、それに対する対策がなければ弾丸は通らない。
この場にマスタング、あるいはエドワードが居れば話が変わったのかもしれないが。
舌打ちしながら、弾丸の切れたリボルバーを懐に仕舞い、狡噛はスペツナズナイフを取り出す。
タスクに気を取られた御坂は狡噛が接近しようとまるで構いもしない。

「ッ!? 何が……」

狡噛の手のスペツナズナイフが射出され、御坂の電磁波に触れた瞬間。刃は逸れることなく、起爆した。
砂鉄を盾に回すことで爆発は御坂には届かないが、防御に徹したが為に身動きと視界が封じられた。
この二つの隙を見逃す程、敵は甘くもなく。だが、それを生かせるほどの手札を持ってもいない。
選んだのは逃走。この僅かな隙に二人は全速力で足を踏み出し、駆けて行く。

「……逃がさない!」

砂鉄の盾を解除し、二人の背中姿をその目に留める。
コインを一枚取り出し、電撃を込め弾く。次の瞬間、コインは音速を超え一個の兵器として生まれ変わった。
音速を超えた砲弾に二人の体は為す術もなく爆発四散し、その鮮血をぶちまけた。




「上手く行きましたね」

戦線を離脱したタスクと狡噛は互いの健闘を称えながら、安堵の息を漏らす。

今から数時間前、図書館でまだマスタングと別れる前のことだ。
マスタングはタスクの武器であるスペツナズナイフの刃の予備と、火薬を仕込んだ特別製の刃を錬成しタスクに手渡していた。
この先の戦いを乗り切るには、リボルバーとナイフ二振りでは心もとない。
それをタスクは御坂に気付かれることなく、狡噛に一本手渡し、更に狡噛も火薬の刃に気付かれぬよう敢えて銃を発砲し、弾切れでヤケを起こしたかのように見せかける。
当然、御坂はナイフの刃にそんな仕掛けがあるとは夢にも思わず、気づいた時には爆発の中。逃げるだけの隙は十分にある。
最後の超電磁砲は予想外だったが、それもタスクの忍法で躱すことができた。

「……あの娘、どうして乗ってしまったんだろう」
「上条当麻。御坂の思い人だったかもしれないらしい」
「上条……最初に殺された」

広川が生み出した最初の犠牲者。ツンツン頭の奇抜なヘアースタイルではあったが、この殺し合いに真っ先に異議を唱えた正義の少年。

「死者の蘇生、か……。でも想い人だからって、御坂って娘には光子や他にも友達が居たんじゃ。それなのにどうして……」
「これは想像だがな。……人は平等じゃない。必ず、何処かで天秤は傾く」
「……」

「上条の性格はあの通りだ。一目見ただけで、分かるぐらいのお人よしの正義感。
 御坂は彼に救われたのかもしれないな。……同時に、友人からは何もなかった」

「それは、光子たちが御坂を見捨てたって事ですか?」

「違う。御坂にとって大事だからこそ、友人を遠ざけていたんだろう。
 だが、距離を開けすぎてしまった結果。溝が生まれ、この殺し合いで完全な崩落となってしまった……。
 彼女は一人だ。そこへ初めて自分の隣に居てくれる存在ができた。
 その存在は唯一無二だ。……ここにある全てと比べても尚、天秤が傾かないほどに」

「まるで、自分の事みたいですね……」

狡噛の予想は予想とは思えぬ程、真に迫りタスクに異様な説得力を与えてきている。
本当に予想なのか。これが全て御坂の心境、飛躍すれば狡噛の内心に何か繋がるのではないか。
つい口を滑らせ、声を漏らしたタスクに狡噛は視線を逸らした。

「そう、だな……。俺にも……どうしても傾かない天秤がある」
「え?」
「だから、俺も。ある意味では御坂と似たようなものなのかもな」

狡噛の脳裏に強くこびり付く白い悪魔。
奴をこの手で殺害する為ならば手段を選ぶことはない。
今でこそ、槙島の殺害と同時に殺し合いの脱出を目的に動いている。
だが、もし槙島を殺す為に殺し合いに乗るのが最善であったのならば―――

「違いますよ」
「……?」
「狡噛さんは違うと思う。
 何か大事な事があるのかもしれないけど、狡噛さんは図書館の人達を助けてる。
 だから、狡噛さんは違いますよ」

青いと思った。
狡噛とタスクの付き合いは長くない。なのに、ここまで信頼するとは。
やはり、身のこなしはともかく内面は歳相応なところもあるのかもしれない。
その青さが何処か懐かしく、好ましい。

「狡噛さんの大事な事は、きっと誰も傷付けない。俺はそう信じてます」
「……そうか」

タスクの言っていたアンジュという恋人の名前。
股間ダイブはともかく、その後に抱いていた不安は間違いなく本物だ。
決して口には出さないが、嫌な予感というのは当たりやすい。次の放送、万が一の事もあるかもしれない。
タスクもそれを覚悟はしている筈だ。
恋人に何かあったのかもしれない。そんな不安を持ちながら、逆に励まされてしまう。

(俺も、まだまだって事か)

「大丈夫かな。未央達は……」

「多分、大丈夫だ。マスタングも流石に図書館に長居はしない。あそこは参加者が集まりすぎる。
 それにセリューも居る。戦力だけなら俺達よりマシだ。御坂が来ても撃退は容易だろう。
 それと東から潜在犯隔離施設に行くつもりだったが、ここまで来たら病院に寄りたいと思う。医療道具を調達すれば、今後の強い味方になる。若干遠回りだがな」

「……分かりました」

先を急ぐ少年の背中を狡噛は見つめる。
タスクとその恋人アンジュ。タスクの話では喫茶店を開くと言っていた。
そこで仲間や新しい家族に恵まれ、仲睦まじく幸せな日常を送っていくのだろう。
そんなありきたりで幸福な二人の未来を、こんな場所で壊させたくはない。
刑事として、この二人だけじゃない。未来がある少年少女達を、これ以上誰一人として欠けさせる訳にはいかない。

だが、同じく槙島への殺意もこれ以上なく消える素振りを見せない。

もしも、誰かの未来と槙島。この二つが同じ天秤に乗ったとしたら狡噛はどちらを選んでしまうのか。

狡噛の正義は如何に傾いていくのか。それはまだ誰も知る由もない。




「逃がしたってことかしら」

御坂の前に転がる筈だった死体は一つもない。
逃がしたのだ。既に御坂から距離を離した場所、近くの橋を渡った形跡もないので北上したのだろう。
追うにも向こうにはエドワードやジョセフが居る。彼らを殺すことに躊躇いはないが、狡噛達と徒党を組まれるのは些か厄介だ。
何よりエドワードとはタイマンでケリを付けたい。これは感傷ではなく、錬金術の性質を考えると非常にサポート向きな能力だからだ。
エドワードが居るのと居ないのとでは御坂が強いられる苦戦も違う物になる。

「それにDIOやDIOとやり合ってた氷使いに、影使いのあの子も居るんだし……ここで無茶しなくてもいいわね」

それより気になったのがタスクの存在だ。いきなり股間にダイブしてくる不幸っぷりは、少し上条当麻に似ていなくもなかった。
だから、御坂も少しだけ昔に戻ったような気分になった。あの頃の日常のような。

「……そんな事ないのにね」

御坂は甘い幻想をバッサリ切って捨てる。
今更、もうどうしようもないのだ。
それよりも考えるべきはこれからの進行状況。タスクが口走った光子という名から少し前までは、タスクは光子と行動していたのは確定だ。
少なくとも光子はこの近辺に居たのだろう。そして、目の前で殺されたか、別れた後殺されたか。
もし後者なら光子が別れる理由は知り合いの探索。それも何か確証があったのだ。

「黒子か初春さんかな……。どっちか分からないけど」

必ず殺す。
せめて友人だけは痛みもなく、安らかに眠らせたい。

ただの自己満足に過ぎない。本当に友人を想うのならば、やるべきことはこんな真似ではない。
それでも天秤は傾かない。

殺意の電撃姫は歩みだす。その先にまた新たな死を予感させながら。


【D-4/一日目/午後】

狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:疲労(小)、槙島への殺意、右足に裂傷(止血済み)、全身に切り傷
[装備]:リボルバー式拳銃(5/5 予備弾20)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:病院に寄り医療道具を調達後、潜在犯隔離施設へ向かう。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:キング・ブラッドレイ、御坂に警戒。 特にブラッドレイは下手に刺激することは避ける。
6:ブラッドレイが自分の本性に気付く前に何とか脱出派に引き込みたい。
7:銃の予備弾もそろそろ補充したい。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。



【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中) 、不調、嫌な予感(極大)
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実、刃の予備@マスタング製、火薬刃の予備@マスタング製
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:狡噛を護衛する。
1:アンジュを探す。無事でいてほしい……。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイと遭遇した時は穏便に済ませられないか交渉してみる。
5:御坂を警戒。
6:首輪のサンプルを探す。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×2 、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、回復結晶@ソードアート・オンライン、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:図書館に行ってブラッドレイと合流した後DIOを殺す。代わりに誰かいれば殺す。
1:DIOを追撃し倒す。 DIOを倒したあとはエドワード達を殺す。
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
6:もし知り合いがこの近辺に居たのなら、必ずこの手で殺す。
7:コイン補充をしたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


時系列順に読む
Back:生の確立 Next:とんとん拍子

投下順に読む
Back:かわいい破滅 Next:とんとん拍子

128:Inevitabilis 狡噛慎也 147:とんとん拍子
タスク
135:PSI-missing 御坂美琴 156:ずっといっしょだよ
最終更新:2016年01月12日 23:30