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その血の運命(後編) ◆BEQBTq4Ltk
「中々樂しませてくれたがこのDIOの前では所詮は無駄だ」
心の篭っていない疎らな拍手を行いながら杏子に近づくインクルシオを解いた吸血鬼。
時計塔内部に戦場が移ってからはDIOの圧勝であった。
スタンドの能力を惜しみなく使い、漂うシャボンには一切触れない徹底。
杏子から一撃をも、貰うこと無く完封し、対峙していた魔法少女は槍に寄りそうように立っている。
誰が見ても思うだろう。
彼女はとっくに限界を迎えている。立っているのは意地の要素が強い。
流れる血、その姿から骨も何処か折れているだろう。
だが、彼女は諦めていない。
勝てないと解っていても、止まらない、その心を死なせない。
「またお前に負けるのは……っ、御免だぜ」
口に含んだ血を吐き捨て、強がりな台詞を吐き零す。
嘗て肉の芽によって支配された恨みは忘れていない、忘れる筈が無い。
あの屈辱、この男を生かしておけば更なる被害者が生まれ、流れる必要の無い鮮血が生まれてしまう。
「だからちょっと遊ぼうぜ……最期くらいガキらしく振る舞っても……いいよな?」
祈るように掌を組み合わせた彼女。
その姿は女神に祈る修道女のようで、一種の美しさや儚しさを帯びている。
祈りに答えるように時計塔の床を振動させつつ、槍が無数に生え始めDIOを囲う。
鎖の擦れる音を響かせながら一斉に対象に向かい、身体の至る部分を鎖で締め付け拘束。
「魔女狩りのようにこのDIOを焼くか? やってみろ、殺せるものならばこのDIOを殺してみせろよ魔法少女」
依然、余裕の発言を繰り返すDIO。
この男は自分が死なないと盲信仕切っている存在だ。
ならば、その慢心を打ち砕いた時――どれ程爽快感を得られるだろうか。
「あんたは魔女何かじゃない――生まれちゃいけない存在だったんだ」
膨れがる魔力。
杏子の目の前には己の魔力をエネルギー状に放出した結晶が結成されている。
残るありったけの魔力を己に込め――絶大なる一撃を放つために。
『佐倉様、いけません! 貴方は――その生命を無駄にする気ですか!?』
サファイアは気付いている。
佐倉杏子がやろうとしている行動と結末を。
それは何も得ることが無い、自己犠牲によって生まれる物語の終着だ。
幼い生命を此処で散らすことなど誰一人望んでいない。
死ぬべき相手は邪悪の帝王たるDIOであり、杏子が死んでいい未来など誰が望むものか。
『貴方が居なくなれば貴方を思う方がどれだけ悲しむのか――』
「家族はもういない……それに、いや、何でもない」
大切な親友であり、仲間であり、生命の恩人であり、先輩であり、大切な存在である彼女も生命を落としている。
もう佐倉杏子がこの世界に残す未練など――在る。
(死にたくないなぁ……ははっ、こんな時だけ弱気になっちまう)
乾いた嗤いが響く。
何度目になろうと死の直前とは怖いものである。
死んだ先に在るであろう無を想像すると、恐ろしくて思考が停止してしまう。
けれど。
「お前を道連れに死ねるなら……あたしの人生はまだ意味を持てるよ」
「道連れ……ッ!
貴様、まさかこのDIOごと――自爆する気か!?」
気付く。
膨れ上がる魔力は上限を知らずに大きくなっていく。
その質量、想像するまでもなく、時計塔の一つや二つを簡単に崩壞させるだろう。
流石のDIOも状況の危機を認識したのか、余裕が消え汗が流れ始めている。
その様子を見た杏子はやっと笑顔を浮かべる。一発してやったと謂わんばかりに。
サファイアに逃げるよう視線を促すが、移動する様子は無い。
寧ろ、杏子の身体周辺に魔力による障壁を形成し、彼女を生かそうと動き始めたのだ。
(自爆しようとしている奴を守る……面白い奴だな)
あり得ない行動と思いつつも、内心は喜んでいる。
もしかしたら巻き込まれて死ぬかもしれない、けれどサファイアは残ってくれる。
独りじゃない。
その事実が杏子を最期まで立たせる魔法の言葉となる。
「ぬぅんッ! この程度の鎖で縛れる程軟な存在では無いわッ!!」
外からスタンドで鎖を殴り付け、拘束から開放されたDIOを杏子を殺すために距離を詰める。
しかし杏子の覚悟は既に完了しており、DIOが焦ろうと関係無い。このまま爆発を待つだけである。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その時DIOの背中に衝撃が走り抜ける!!
背中に響いた衝撃は生涯感じた中でも、最も不快な波紋エネルギー。
この殺し合いに置いて波紋を扱う存在は一人しかいない。
忌々しい血族、ジョースター家の末裔である
ジョセフ・ジョースターだけだ。
つまり。
「そんな歳で死のうとするんじゃない、馬鹿め」
ジョセフ・ジョースター。
ハーミットパープルをターザンロープのように操り、DIOへ攻撃を仕掛ける。
奇襲は成功し、流し込んだ波紋により吸血鬼は苦痛の表情を浮べながら瓦礫の中に埋もれた。
杏子の隣に立ったジョセフは彼女の行動を咎めるも、深くは言わない。
落ち度は自分に有り、死を覚悟させてしまった同行者の自分に問題が在るのだ。
だから何も言わずに一言、たった一言。
「逃げるんじゃ。このまま奴と戦った所で得る物は何も無い」
杏子とてそれは感じていた。
「でもさ、逃げ切ることが出来そうにも無いんだよ……悔しいけどあいつは馬鹿みたいに強い」
「それも知っておる。だからワシが時間を稼ぐ間にお前だけでも逃げろ」
告げられた言葉に固まってしまう。
この老人は今、何と言ったのか。意味は解るが理解したくない。
「あんたフザケたこと言ってんじゃ」
「そう思うか?」
「……思わない」
『ジョセフ様……確かに一人が残れば逃走成功率は大きく跳ね上がります』
言わなくても解っている。
囮が居ればこの場から離脱出来ることを。
そしてジョセフが本気で言っていることも。けれど、甘えたくない。
「またそうやってあたしの周りから人が死んで……あたしだけが生き残る」
「何も死ぬつもりは無いわい。それにDIOの能力――見抜いたからな」
「それは気になってしまうなァ~ジョセフ・ジョースター。
貴様如きがこのDIOのスタンド能力を、『世界』を暴いたなどと妄言を吐くとは人間の老いとは悲しいなァ」
瓦礫から立ち上がったDIOはジョセフの発言に興味を示したようだ。
世界を見抜いた人間は一人しかいない。また、その女も例外である。
領域に到達した人間が易易と出られては、帝王の威厳が薄れてしまう。
無論、ジョセフが見抜いたなどとは思っていないようだが。
「ならばDIO、次にお前は――『このDIOのスタンド能力は時を止めること。貴様などに見抜ける筈も無い』――と言う」
「『このDIOのスタンド能力は時を止めること。貴様などに見抜ける筈も無い』――ハッ!?」
この瞬間こそがまるで時が止まったようだった。
ジョセフは嗤い、DIOは焦り、杏子は呆気に取られている。
時を止めることなど可能なのか。そんな能力が存在すればどのようにして立ち向かうのか。
解らない、けれど納得は出来てしまう。
『瞬間移動の正体は時間停止。時を支配すればその間の世界は誰も認識が出来ない故の超常現象……過程を認識させずに結果だけが残る』
サファイアが告げた通り、止められた時間を認識することは不可能である。
故に対象者が感じるのは結果だけであり、移動からしてみれば瞬間移動と捉えてえしまう。
「貴様……このDIOの能力を人間如きが見抜いたことは褒めてやる。
腐ってもジョースターの血……天敵だと認めてやってもいいかもしれん……が、それでどうする?」
「声が震えているぞDIO、怖いのかな?」
「死ねェいッ!!」
安い挑発に乗ったDIOが怒りの形相でジョセフに迫る。
その見た目からは帝王の気概など一切感じず、小物にすら見えてしまう。
「杏子、この情報を広めて仲間を集めんるんじゃ。それまでワシが食い止める」
「……本気なのは解ってるよ。だからこれだけ言わせてくれ」
幾ら言葉を並べた所でジョセフが納得しないのは解っている。
意地を張って残っても、迷惑を掛けることだけになるのも解っている。
だから一言。たった一言を残して彼女は飛翔する。
「絶対に死なないでくれ」
「このジョセフ・ジョースター。まだまだ死ぬつもりは無いわい」
迫るDIO。
残るジョセフ。
飛翔する杏子。
彼らを見守るのは漂うシャボンだけ。
そして終末が訪れる――時が止まるように。
上部に空いた穴から逃げる杏子に興味など示さずDIOはジョセフに迫る。
世界に石柱を持たし、振り廻すことで波紋シャボンを粉砕しそのまま投擲を開始。
横に跳んだジョセフを狙うように――この戦いで初めて声を挙げ、能力を行使する。
「時よ止まれ――『世界』」
止まった世界の中でDIOは何一つ躊躇わずにジョセフの身体へ拳のラッシュを叩き込む。
この男だけは絶対に殺す。そしてその腕、その血を糧とし、更なる高みへ昇るための踏み台となってもらうために。
「無駄ァ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
容赦なく吹き荒れた拳の〆は全体重を乗せた放てる限界の一撃。
死に体となっている老人を一人を殺せるなど簡単なまでに、強く、無慈悲な一撃。
「そして時は動き出す――な、何ィィィイイイ!?」
吹き飛ばされたジョセフを見て高笑いを行うつもりだったが、拳を見て悲鳴を挙げてしまう吸血鬼。
スタンドが殴ったのはジョセフ。そしてスタンド。
「か、身体に……ハーミットパープルを巻きつけての波紋は……効いたじゃろう」
ジョセフはただ殴られていた訳では無い。
DIOが時を止めると確信した上でわざと殴られ、そして静かに反撃していた。
老いても尚、その頭脳は衰えていない。
「クゥゥウウウウウ!! 舐めた真似をしおって! 貴様はここで確実に殺す!!」
波紋に苦しむも死には至らない。
血液が沸騰する不快感が身体に流れるも、まだ節々は生きている。
その首を潰さんと、瓦礫に身を委ねる瀕死のジョセフへ走るが、またもしてやられる。
「W、WRYYYYYYYYYYYY!? こ、これは陽光!?」
走るDIOを止めたのは天敵である陽光。
けれど此処は室内であり、陽光が届くはずも無い。
ジョセフが空けた穴とは明後日の方向であり、陽光が届くことなどあり得ない。
そのあり得ないを実現させたのが――ジョセフである。
「周りをよーく見てみろDIO……何がある?」
「クウウウ……シャボン……ま、まさか!?」
陽光にその身を焼かれながらも、DIOは周囲を見渡し異変に気付く。
漂っているシャボンが光っている。それもレンズ状に、幾度にも反射して。
「真っ黒に感光しろDIO!
このシャボンは貴様を焦がす最期の陽光――ワシの最期の波紋じゃ!!」
ジョセフは仕込んでいた。
時計塔内部に侵入する前、新たにシャボンを量産しDIOを追い込む布石を行っていた。
吹き飛ばされた方角も計算済みであり、プライドの高い帝王を煽ればこうなることは予想出来ていた。
(じゃが……もう身体が動かんわい……情けないが此処までのようじゃ)
時計盤に叩き付けられていた時点でジョセフは致命傷を負っていた。
彼を動かしたのは、彼に似合わない努力や根性と云った所謂気合であった。
仲間を失った彼、自分もまた消えることになるとは思ってもいなかった。
(すまんな承太郎……)
これで会場に残る仲間は自らの血族である
空条承太郎だけになる。
孫を残して死ぬことになる。けれどDIOのスタンドを暴くことが出来たのは事実である。
(後は頼んだぞ杏子……DIOを倒すために広めてくれ)
咳をするごとに血を吐いてしまう。
老体に無理をさせすぎた結果である。幾ら波紋と云えど老化には耐えられない。
当時は解らなかったが、今ならストレイツォの気持ちが解るかもしれない。決してやらないが。
「ワシもそっちに行くぞ……
イギー、花京院、アヴドゥル……シーザー……すまんなスージーQ」
瞳を閉じれば浮かんでくるのは大切な存在。
直前にして初めて解る死へのロード、止められない世界の最期。
ジョセフ・ジョースター。
幾度なく戦い抜いた波紋の戦士、老いて尚、その強さは健在であった。
「奇妙じゃったが――充実した人生だった」
そして彼の死は無駄では無い。
彼が死んだとしても、彼の意思が死ぬことは無い。
安らかに眠っていても、彼が残した遺産は――朽ちずに世界を輝かせるから。
「手こずらせおって――この死に損ないがァ!!」
悪鬼を纏った吸血鬼の手刀が波紋戦士の右腕を簡単に切り落とす。
切断面と切断面を接着させ、己から触手を生やし身体に馴染ませる。
同じジョースターの血が流れる身体同士、相性は良く、動きに問題は無い。
「インクルシオ無ければ危なかったが……勝ったのはこのDIO! 貴様ではなく、このDIOだ!
これで忌々しいジョースターの血統も残すは承太郎だけか……確実にこのDIOが殺してやる、感謝しろ」
ジョセフの死体に腕を突き刺す。
吸血を行えばDIOの傷は回復し、そして更なる高みへと昇る。
帝王は更に強くなり、この会場に置いても驚異的な存在になるだろう。
そして。
――
太陽が沈み吸血鬼の時間である夜が来訪する。
「――ん」
『どうしましたか佐倉様』
時計塔から脱出した杏子はジョセフを救うために会場を駆けていた。
DIOのスタンド能力を広め、仲間を集めて彼を救うために、DIOに勝つために。
立ち止まっている時間は無いが、頬にシャボンが触れて止まる。
このシャボン玉はジョセフのものだろう。風に乗って此処まで辿り着いたのか。
触れようとした時。
シャボン玉が破裂し、乾いた音だけが、彼女の耳に残った。
【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 死亡】
【A-3/一日目/夕方】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(極大)精神的疲労(大)流血(中)骨が数本折れている、顔面打撲
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:仲間を集める
1:
DIOのスタンド能力を広め、ジョセフを救出するための仲間を集める。
2:
御坂美琴は―――
3:
巴マミを殺した
サリアとかいうのは許さない。
4:ジョセフ……。
5:もしさやかが殺し合いに乗っていれば説得する。最悪、ケリはこの手でつける。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※
狡噛慎也、
タスクと軽く情報交換しました。
※サファイアと契約を結びました。
※DIOのスタンド能力を知りました。
【A-2/時計塔/一日目/夕方】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(中)、波紋と日光により身体が所々焼けている、肉体損傷(大)怒り(大)
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。 最早この帝王に油断はない。
0:ジョセフの血を吸い、行動を開始する。
1:承太郎を殺す。
2:
エスデス、寄生生物、
暁美ほむらは必ず殺す。
3:血液の確保。
4:食糧または協力者を確保するために武器庫を目指す。
5:イリヤとの合流。自分に逆らわなければ手駒にするが、逆らうのであれば問答無用で糧にする。
[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。
※暁美ほむらが時間停止の能力を持っていることを認識しました。また、承太郎他自分の知らない参加者も時間停止の能力を持っている可能性を考えています。
※魔法少女についての基礎知識を得ました。
1.魔法少女とは奇跡と引き換えにキュゥべえと契約してなるものである。
2.ソウルジェムは魔法を使う度に濁り、濁りきると魔法が使えなくなる。穢れを浄化するにはグリーフシードが必要である。
※エスデスが時間停止の能力を持っている、或いは世界の領域に侵入出来ることを知りました。
最終更新:2016年03月04日 22:03