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それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB.



―――承太郎が目を覚ます前のこと。

「...セリュー、もう一人の子は...」
「まどかちゃん。ほむらちゃんの友達です。彼女も、足立に殺されました」
「...そうか」

気絶した承太郎をマスタングが背負い、ほむらとまどかの遺体はセリューがデイパックにいれて持ち運び、一行は駅員室の付近に身を潜めていた。

「...すまない。彼女の死は、私の責任だ」

ほむらが出ていこうとしたあの時止めることができれば、いや、それ以前の問題だ、
狡噛を逃がすためとはいえ、セリューがエンヴィーである疑いをかけて時間をとらなければ。
...少なくとも、ほむらが足立に殺されることなどなかったかもしれない。

「...あなたの責任じゃない。ほむらちゃんもきっとそう思ってます」

セリューは、顔をあげて笑みをつくる。

「彼女は、私たちにお礼を言ってくれました。もし自分の身になにかあれば、と、託してくれたんです」

見ればわかる。その笑みが、無理をしてつくられたものだということが。

「だから、私は足立を必ず殺す。...力を貸してくれますね、マスタングさん」
「...ああ」

マスタングは、それに対して沈痛な面持ちで肯定の意を示すことしかできない。

(―――これがセリューなのか?)

正直に言えば、信じられなかった。
セリューの見せてきた正義は、どう考えても異常だった。
少しでも間違いを犯せば即座に断罪と称して殺し、その『悪』と認定した少女の友人たちの前で平気で死体を食わせる。
更に、自分の正義を正当化するためには手段を択ばないときた。
そんな彼女だ。ほむらが死のうが、すぐに切り替えて足立を殺しに向かうと思っていた。

だが、目の前にいる彼女は違う。
守れなかったことを嘆き、死を悲しみ、無理をしてでも笑顔を作ろうとする。そんな、マスタングの知るセリューでは持ちえない優しさを持ち合わせている。

「...セリュー。きみは―――」


「だ、ダメですよ承太郎さん!」



かけようとした言葉は、青年の目覚めによってかきけされた。




ボートパークにて小型ボートを調達したマスタングと未央。

本来ならば、DIOの館を経由して東に横切る手筈だったが、思いのほかボートを見つけ出すのに時間がかかってしまい、卯月もだいぶ先に行っているだろうという推測のもと、すぐ近くの湖からボートを発進させようとしていた。
だが、それ以上に徒歩での移動を減らそうとしたのは、マスタングと未央、両者のコンディションの問題もある。
マスタングはこれまでに多くの激戦を繰り広げてきた。エンヴィー、キンブリー、後藤、キング・ブラッドレイセリム・ブラッドレイ...
ロクに休む間もなく戦い続けた身体に、屍と化した承太郎の打撃を受けたのだ。いくら軍人とはいえ、そのダメージは計り知れないものがある。
そして未央も、親しい者たちの死や直前に殺されかけたことによる、一般人にしては重すぎる心身の疲労により、体力もかなり消耗している。
両者とも、もはや歩くだけでもかなりの時間をとってしまう。
それを解消するためのボートだが...


「えーと...これをこうして...」

マスタングは、船外機の扱い方に四苦八苦していた。
マスタングのいた時代に船外機はなかったし、未央も未央で、当然ながら自分で小型ボートを操作できるわけでもない。
ご丁寧に船外機の操作書類は置かれていたものの、やはり初見の機械相手ではどうしても手間取ってしまう。

やがて、けたましいエンジン音が鳴り響き、エンジンが始動する。

「...よし。おそらくこれでボートを動かせるはずだ」

動いたエンジンを水に入れると、二人を乗せたボートがゆっくりと前進する。

(しまむー...)

卯月への想いを馳せる未央。
彼女は、確かに殺されかけ、アイドルとしての歌の生命線である喉も傷付けられた。
しかし、それでもまだ未央は生きている。心臓は動いている。
それが、卯月にまだ良心が、今までアイドルとして共に積み重ねてきた壊れないものが残っているお蔭だと信じたいから。
プロデューサー渋谷凛、前川みく...多くを失った未央には、もう信じることしかできないから。
だから、怖くても前に進む。足が震えて竦んでも前に進む。
未央がこれまでに見てきた彼ら―――鳴上の、タスクの、承太郎の、マスタングの覚悟には程遠いけれど。
それでも、出来る限りの覚悟を決めて、彼女は前に進む。


マスタングは、己の掌をジッと見つめる。

一人の力などたかが知れている。ならば自分は守れるだけ...ほんのわずかでいい。大切な者を守ろう。
そして、下の者が更に下の者を守る。それが、小さな人間なりにできる、『皆』を守る方法。

かつてのイシュヴァール戦終結後、ヒューズに語り、完遂してみせると誓った理想だ。


(私は、これまでなにを守れた?)


だが、この場に連れてこられてからは自分はなにも守れていない。


手の届く場所にいながらみんな死んだ―――殺してしまった。


みんな、心や身体に決して消えない傷を負わせてしまった。


守るべき民は、誰一人守れなかった。


(どうすれば守れるのだ。どうすれば―――)


「―――タングさん。マスタングさん」
「す、すまない。どうしたんだ?」
「あそこに誰かいます。ちょっと遠いけど...」





結論からいえば、島村卯月には逃げられた。

彼女を追ってDIOの館に入ったのはいいものの、建物の入り組んだ構造、あてもなく闇雲に糸で逃げ回る卯月と、様々な要素が絡み合い、田村怜子は彼女を見失ってしまった。

ふと、DIOの館という名称で一人の男を思い出す。

(DIO...そういえば、あの男もまだ生きていたな)

田村が真姫の次にであった参加者(正確には一団だが)であり、吸血鬼でもあるスタンド使いの男。
あの男とは一度会話して興味が薄れたきりだが、いまごろどうなっているだろうか。
なにも変わらず、己の力を見せつけ頂点を気取っているのか、それとも多くの参加者と関わることでなにか変化をもたらしているのか。
そういった意味では少しだけ興味が湧いてきた。

...尤も、少し前の自分ならDIOを観察する気が起きたかもしれないが、いまとなっては微塵もおきない。

(...本当に、感情というものは不思議なものだ。いくら普段通りに努めようとも、どうにも収まりがきかない)

真姫の苦しむ顔を、島村卯月のあの笑みを思い浮かべる度に、あの女を殺したいという気持ちが湧き上がるばかりだ。
いまの自分を鏡で見たら、きっと、田村の子を殺そうとしたあの探偵のような顔になっていることだろう。

(けれど、その一方で思考は酷く冷静だ。次に彼女と会ったらどのように一撃で葬るか、会えなかったらどこを目指そうか。酷く合理的に考えることができる)

次に会うことが出来たら、観察など必要ない。すぐに彼女の首を刎ねて殺してしまおう。
会えなくても構わない。出会った参加者に島村卯月のやったことを言い広めれば、彼女は脱出派も危険人物も関係なく警戒され、やがては何にも頼れず姿を現す。

(迫害し、追い詰める、か。随分と短絡的な考えをするのだな、私は)

どうにも、こういった直情的な考えは自分のものらしくないと自嘲する。
真姫とはこの会場で会った一人にすぎないというのに、なにをそこまで拘っているのか...

(そうか、これが―――)

その感情の正体に辿りつこうとしたその時だった。

「すまない、そこの御婦人。少し話を聞かせて貰いたいのだが」

警戒心を減らそうと両手を挙げて歩み寄る男と少女が声をかけてきたのは。


DIOの屋敷を抜け、側に立つ民家に身を潜めつつ、三人は互いの情報を交換し合う。
田村は参加者の観察をしたいという性分から情報交換に臨み、マスタング達も田村の名は図書館で別れる前に新一から聞いていたため、両者は滞りなく情報交換に取り掛かることができた。


「しまむーが...!?」

未央が田村から聞かされた事実は残酷だった。
曰く、同行者である西木野真姫が、彼女に致命傷を負わされたのだという。
そんなはずがない。そう否定しかけた言葉は、先の自分の体験を顧みて噤まれる。

「どうやら心当たりがあるようね」
「......」

未央は、顔をあげることができなかった。
当然だ。なにせ、卯月の狂気はすでにその身で味わってしまったから。
その卯月が、本当に一片の曇りもなく殺人を行えるようになってしまったから。

そして、その西木野真姫の名にはマスタングも覚えがあって。

(穂乃花...花陽...)

その名は、間違いなく彼女達の属するμ‘sの仲間のものである。
自分の関わった彼女たちは、間違いなく傷つき、悲しむだろう。
誰の責任だ。

他でもない。あの時卯月を逃がしてしまったこのロイ・マスタングの責任だ。

(また、私は...)

守れなかった。
少しの人どころか、誰一人守れていない。

こんな様で、なにが大総統だ。なにが錬金術師だ。


『マスタング、卯月ちゃんを救えるのは貴方しか今は頼れない』

(セリュー、私はどうすれば...)


陰鬱な表情で俯く二人とは対照的に、田村は顔をあげて感情の籠らない表情で話を続ける。

「こちらの話は終えたわ。次はそちらの話をお願いできるかしら」
「...ああ」

そして、マスタングもまた己の経験した出来事について話を進めていく。
エンヴィーやキンブリー、後藤との戦い、そして、これまで守れなかった者たちのこと、全てを。

「...そう。私の知ってる名前もいくつかあったわね。佐天涙子、由比ヶ浜結衣、鹿目まどか、暁美ほむら、空条承太郎...あと、犬」
「あなたの知り合いだったのか?」
「いいえ。音ノ木坂学院で出会った人たちの知り合いというだけで、直接の面識は無いわ」


由比ヶ浜結衣。
泉新一から聞かされた、雪ノ下雪乃という少女の知り合い。
暁美ほむらと鹿目まどか。
音乃木坂学院で、その命を使い果たしてまでも、田村、真姫、新一、アンジュを護った巴マミの知り合いたち。
空条承太郎と名前も知らない異能を使う犬―――おそらく、イギーという名だ。
音乃木坂学院での戦いの後に訪れたジョセフ・ジョースターの仲間たち。

連ねられた多くの名は、田村の感情を揺さぶるには程遠い。
精々、ほむらや承太郎など、第二回放送後に命を落とした者たちの知り合いには、もし第三回放送までに会えたら死んだことを伝えてやろうと思う程度だ。


だが、その中で一つだけ僅かに田村を揺さぶった名前がある。

佐天涙子。
田村と真姫と共に同行していた、初春飾利の親友だ。
その死自体は、第一回放送の時に知っている。
しかし、その最期を知っている者とは会えていなかった。

「情報提供には感謝するわ。首輪のことばかりでかなり収集が遅れていたから」
「あ...ま、まって」

情報交換を終えて立ち去ろうとする田村を、未央は慌てて引き留める。

「なにかしら」
「...その、しまむーのこと...」

未央の顔に複雑な心情が浮かび上がる。
彼女がしたことは許せない。自分だけでなく、キンブリーや足立のような極悪人でもない少女を笑みを浮かべて殺しかけた。
これほどのことをして、卯月一人だけが『こうなったのはセリューの所為だから』と許してもらうなど、虫がいいにも程がある。
しかし、それでも。それでも、彼女はニュージェネレーションの一人。それ以上に、大切な仲間で、決して欠けてはならない一人だ。
いままで積み重ねてきたもの全てが、否定できるはずもない。



そんな未央を見て田村は察する。

(彼女は、まだ島村卯月を諦めていない)

聞けば、彼女と島村卯月は親しい間柄とのことだ。
つまりは、彼女の言いたいことはそういうことだろう。
合理的な思考を徹底する寄生生物ならば、この場を荒立てずに澄ますためには平気で嘘の一つもつける。
それが、生き残るための最大の手段であることを知っているからだ。

「...あなたには悪いけれど、それは無理よ」

しかし、田村は嘘をつかなかった。
それはなぜか...田村自身にも抑えがきかない『感情』によるものだろう。

「あなた達と島村卯月がどういう関係なのかはわかった。けれど、島村卯月を見つけたら、私は彼女を殺す」

田村の言葉に、未央は狡噛との会話を思い出す。

―――『大切な者が殺された時、あなたはどうするか』

ウェイブアカメは、互いに仲間のイェーガーズとナイトレイドの面子を殺されていても、この場で争うことをよしとしなかった。復讐に拘らなくても前へ進める人間だった。
マスタングは、エンヴィーを殺さずにはいられなかった。復讐の念を後回しにすることなどできなかった。

田村怜子は後者だ。
未央も、田村の立場であればどう答えるかはわからない。
もしプロデューサーを殺したあのエルフ耳の男や、承太郎を殺し、マスタングを傷付けたキンブリーと再び出会うことになれば...もし、彼らを殺せる立場になったら、どうなるかはわからない。

「...どうしてもか?」
「ええ。彼女と会えば、私は彼女を殺す。...それで、どうするの?彼女を護るために私を殺すかしら?」
「...いや。あなたの怒りは間違っていない。だが、頼む。彼女のことは私たちに任せてくれ。彼女は...」


信頼を置いていた同行者を殺され、怒る。当然のことだ。マスタングにそれを糾弾し、咎める資格などない。
そして、田村がそれを行使しようとしたところで、マスタングは卯月を守るために田村を殺すつもりもない。
だから、必死に懇願する。
こんな環境にいなければごく普通の少女であり、未央の大切な仲間。そして、セリューが最後まで護ろうとした彼女―――島村卯月を殺さないでくれと。

「...やはり、私たちは一緒に行動しない方がよさそうだ」

田村は踵を返し、マスタングたちに背を向ける。

それは、マスタング達の要求に対する拒否の意志表示。
未央とマスタングの唇が、卯月を止められなかった後悔と己の無力さと共に、深く噛みしめられる。

「私はこれから市庁舎を目指そうと思う。お前達の推測通りなら、島村卯月と遭遇する確率は少ないだろう」

田村のその言葉に、思わず二人は顔を上げる。


「あ...ありがとうございます!」

未央は頭を下げて田村に感謝する。
田村は猶予を与えてくれた。
それだけでも、これ以上ないほどの譲歩だ。


「田村...一人での行動は危険だ。私たちと一緒に来てくれ」

しかし、マスタングとしてはそうもいかない。
見たところ田村は丸腰だ。
新一の情報では、この会場の中でもそれなりに強いはずとのことだが、だからといって単独行動に危険が無いわけではない。

もう嫌だった。
救えるかもしれないものを取りこぼすのは―――これ以上、後悔を重ねるのは。

「...あなたの言いたいことはわかったわ。けれど、私を恐れて逃げ回る彼女が、私と共にいるあなた達からの説得なんて聞き入れるかしら?」
「それは...」
「お気遣いは有難いけれど、一緒に行動するデメリットより、別れて行動するメリットの方が大きい。そういう訳で遠慮させてもらうわ」
「...なら、これを持っていってくれ」

マスタングはデイパックを探り―――微かに触れる、覚えのない感触に違和感をおぼえつつも―――、一振りの剣を取り出す。
鉄パイプを錬成した剣。本来ならば、佐天涙子が自衛ように使う筈だったものだ。

「使うかどうかはわからないけれど...一応貰っておくわ」
「それと、エドワード・エルリックという男は信頼できる男だ。もし彼と会えたら一緒に行動してくれ」
「御忠言どうも」
「...まって、田村さん」

慌てて呼び止める未央の言葉に耳を傾ける。

「その...私、もう誰かが傷つくのは...死ぬのは嫌なんです」

これまでに未央は、多くの『喪失』を目の前で経験してきた。

プロデューサーやほむら―――そして、承太郎。
もう、あんな気持ちを味わうのは嫌だ。
関わった人にいなくなってほしくない。

「だから―――絶対に死なないでくださいね」

ああ、と短く返事をすると、田村は二人に背を向ける。

その口元には、自身さえ気づかない微笑みが浮かんでいた。


マスタングたちとの情報交換は、実に有意義なものだった。
音ノ木坂学院付近と346プロ近辺でしか行動できなかった分を取り返せる、とまではいかないが、おかげで図書館付近やコンサートホールの現状など、様々な施設について知ることができた。

マスタング達から聞いた名で印象深かった名は二つ。

ひとつは、後藤。

(予想通りというか...やはり戦いを求め続けているようだな)

聞けば、彼は多くの参加者に戦いを仕掛けてまわっているらしい。
後藤を作った自分だからわかる。彼はその命が尽きるまで、本能に従い続ける。そして、その牙は親である自分にも向けられるだろうと。
できれば会いたくはないと思うが、互いに生き続ければ、いずれは会うことになるだろう。
その時、自分はどう出るべきか...その時になるまではわからない。


そしてもう一つ。

「エンヴィー...佐天涙子を殺したホムンクルス、か」

第一回放送での、初春の反応を思い出す。
彼女は、ひどく辛そうな様子だった。
悲しみに耐えようとして、それでも耐え切れずに涙を流していた。

(何故だろうな...他人のああいう反応を見ていると、私も辛くなってくる)

卯月の捜索を後回しにしたのも、彼女を殺せば未央も初春と同じような反応をすると思ったからだ。
以前の自分ならば、興味深い観察対象としか見なかったかもしれないが、いまは違う。
できれば見たくはないとさえ思う。

しかし、それとは相反して。
真姫に致命傷を与えた島村卯月にも、初春の親友を殺したエンヴィーにも。
彼女たちの死に対する償いという大義名分を得た報復をしたいとも思う。

(...これが、怒り...いや、悲しいという気持ちだろうか)

怒りも恨みも憎しみも。
全ては、『悲しみ』から始まる感情だ。
しかし、なぜ『悲しい』のか。どこからその『悲しみ』は生まれるのか。
それは、田村自身にもわかっていない。


(ん...?)

寄生生物として優れた五感が、『なにか』の気配を察知する。
その『なにか』のもとはどこからだ。

(空...?)

上空を見上げれば、そこに浮かぶのは一人の天使。
田村には気づかなかったのか、止まることも無く彼女は北へ向かって飛んでいく。

(確か、あの子は)

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。DIOと共に行動していた筈の少女だ。
何故、DIOと別れて行動しているのか...聞いてみたいとは思う。

(けれど、あんな目立つ方法での移動が危険なことは誰だって分かるはず)

わざわざ空を飛んで移動するということは、即ち誰かに見つかっても構わないという意思表示である。
例えば、誰かを探しているとき。
例えば、見つかるリスクを恐れる以上に、とにかく早く目的地に着きたいとき。
例えば、襲ってきた者や見つけた者を返り討ちにするための自らを囮にした罠であるとき。

(...単純に考えれば、彼女は殺し合いに乗っていて、近寄る参加者を狩ってまわるつもりといったところか)

仮に、イリヤがそのつもりであれば、恐らく彼女が目指すのは、首輪交換施設を設けられた武器庫だろう。
せっかく他の参加者を見つけることが出来たのだ。接触するのも悪くはないが、あの様子ではゲームに乗っている可能性は高く、賭けに近い。
ならば、当初の予定通り市庁舎やコンサートホール(全焼しているとは聞いたが)だけに留めておくべきか。

どちらにせよ、北上するのは確かだが...さて、どうするか。


【C-5/一日目/夕方】

田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康、卯月に対する怒り?
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、首輪 錬成した剣
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
0:先に市庁舎へ向かうか、イリヤを追うか
1:脱出の道を探る。
2:コンサートホール及び市役所を探索した後初春と合流する。
3:島村卯月は殺す。マスタング達が説得に成功したら...?
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
6:エンヴィーには要警戒。もしも出会ったら...
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。
※剣の他にも、何かマスタングから錬成された武器を渡されたかもしれません。



田村からC-6が禁止エリアに指定されていることを聞いた二人は、結局徒歩での移動を余儀なくされていた。
ボートパークで船を調達していたことや、ボートの操作方法を覚えていたことはなにからなにまで無駄となってしまった。

「マスタングさん」
「...ああ。必ず、卯月を見つけだすぞ」

田村は、わざわざ卯月を避けて別の場所をまわると提案してくれた。これ以上ないほどの妥協案だ。
そして、同時に思う。今度こそ、こんどこそ卯月を止めなければらない。田村が与えてくれた時間を、決して無駄にはしていけないと。
...だが、もしそれでも止められなければ?それでも、彼女が正義という名の傲慢を振りかざし、人々を脅かし続けるとしたら?

『マスタング、卯月ちゃんを救えるのは貴方しか今は頼れない』

マスタングを先に逃がし、一人戦場に残ったセリューの姿が脳裏を過る。

彼女の正義感は異常だった。
己の価値観で善悪を判断し、悪と見なした者には一切の躊躇いが無く、どんな残酷な手段も平気で行使することができる。

けれど、彼女は決して冷酷なだけの人間ではない。

卯月が不安を抱いていれば、ちゃんとそれを気遣った。決して見捨てようとはしなかった。
ほむらがいなくなった時は、誰よりも早く彼女を救おうとした。彼女が死んだ時は、誰よりも悲しんでいた。
承太郎のこともそうだ。彼がキンブリーに殺された時は、素直に怒り、仇をとると息を巻いていた。
そして、そんな中でも、彼女は先に逃がした卯月たちのためにマスタングに全てを託して―――

(...そういえば)

あの後、卯月が未央を殺そうとしていたことやボートを探すのに必死で、セリューに渡された物がなんだったかを確認していなかった。
田村に剣を渡す際に微かに触れた物が、おそらくそれだろう。

デイパックを探り、それを取り出し正体を確かめたその時。

マスタングと未央の目は驚愕と共に見開かれた。


「え...それって」

マスタングの手に握られていたのは、二つの首輪。

「なんで、それがあるの?」

二つの首輪。即ちそれは、二つの死体があったということに他ならない。

『少しだけ先に行っていてください、三分もしない内に追いつきますから!』


承太郎を追う直前、セリューは一人残った。
残ったセリュー。二つの遺体。二つの首輪。
全てを察した未央の顔が青ざめる。


『マスタングさん、セリューさんは何をしてたのかな』
『分からん。私達に見られたく無いことは確かだが……』

(馬鹿か私は!あの場で、あの状況で他者に見られたくないことなど、一つしかないだろう!)

「なんで...なんでそんなことが出来るの...?」

未央の中で、怒り、恐怖、悲しみ...そんな様々な感情を入り混ざる。
やっぱり、あの女は異常者だ。卯月を狂わせ、仮にも『友達』と呼んだ少女の遺体を平気で弄ぶ。
どうしても、あの女を認めることなど―――できない。


「あの人はやっぱり...!」
「違う。そうじゃない。そうじゃないんだ、未央」
「なにが違うの!?あの子達がなにをしたっていうの!?しまむーが真姫ちゃんを傷付けたのだって、あいつが」
「彼女がそれを望むはずがないだろう!」

マスタングの怒号に、思わず未央の身体がビクリと跳ねる。

「きみも見ただろう。ほむらがいなくなったあの時、セリューは誰よりも彼女を心配していた。彼女が死んだときは、誰よりも悲しんでいた。...そんなセリューが、好き好んで彼女達の首を斬りおとす筈がないだろう」
「じゃあ、なんで」
「守るためだ。この腐ったゲームを止めるために、誰かがやらなければならなかったんだ」

自分は知っていたはずだ。
セリューが、どれほどほむらを助けたがっていたのか。
考えることはできたはずだ。
ほむらの死が、どれほどセリューを傷付けたか。

(なぜ―――その役目が私ではなかった)

そんな彼女に、辛い役目を背負わせてしまった。
同じだ。デイパックの中で決意を固める前から、なにも変わっていない。
セリューの暴走を止める役目を狡噛に押し付けてしまったが、それと同じだ。
セリューを警戒する余り、彼女の気持ちに目をやれず、再び汚れ役を押し付け、あまつさえ『友』と認めた者の首を斬らせた。
それを行うべきは自分であるはずだった。

「マスタングさんは...あいつを許せっていうの?しまむーをおかしくした、あいつを!」

しかし、いくら仕方ないことだと説明されても、いまの未央はセリューを受け入れることなどできなかった。
浦上の生首を図書館に放置したこと。
卯月の異変の一端を担ったこと。
それらの面が、どうしてもセリューの否定へと繋がってしまう。

「...いや。彼女の掲げる正義には、私も許せない部分がある。だから、彼女の全てを許せ、受け入れろなどとは言わない。だが」

未央の両肩に手を置き、懇願するように頼み込む。

「頼む。彼女が命を賭けて皆を救おうとしたことだけは、否定しないでくれ」

マスタングの言葉に、未央はハッと息を詰まらせる。
セリューは、確かにいまの卯月のキッカケかもしれない。
しかし、卯月が生きているのは、そして未央自身もこうして生きているのは、紛れも無くセリューがその命を守ったおかげだ。
そんな命の恩人であるセリューを、一方的に『おかしい』だの『一緒にいるな』だのと罵倒してしまったのだ。
自分の立場で考えるなら。プロデューサーや凛にみく、タスクや狡噛たちを侮辱されるのと同じだ。
だというのに、卯月がセリューに依存しつつあると聞かされていたのに、狡噛に卯月と共に行動するのなら耐えろと言われていたのに、未央は耐えることができなかった。
キッカケはセリューでも。いまの卯月を作り上げてしまったのは、間違いなく未央自身なのだ。

「...ごめんなさい...私...」
「いいんだ。...必ず探し出そう」

マスタングの言葉に、未央はこくりと頷く。




(すまない、セリュー)

自分はいつも後悔ばかりだ。
エンヴィーと相対した時は、あれだけエドやホークアイ、果てはスカーにまで忠告されていたというのに、結局憎しみで戦ってしまった。
セリューに対してもそうだ。警戒心ばかりが先行して、セリュー自身への対応がおざなりになっていた。
なにかに盲目的にならずにはいられない程度の人間なんだな、と自嘲する。

(しかし、そんな私でも、きみが卯月を生かしたのはこんなことをさせるためではないのはわかる)

必死に戦って。傷ついて。血反吐を吐いて。友の死に直面して。辛い役目を背負わされて。
そして守り抜いた命が、悲劇を繰り返す。
...そんなの、あんまりじゃないか。


(もしも、卯月がきみの意思を踏みにじる行為を続けるのなら、その時は―――)


【B-5/一日目/夕方】

【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、喉頭外傷、セリューに対する複雑な思い
[装備]:なし
[道具]:小型ボート
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:しまむー…
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。



【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(絶大)、迷わない決意、過去の自分に対する反省、全身にダメージ(極大)、火傷、骨折数本
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、 即席発火手袋×10 タスクの書いた錬成陣のマーク付きの手袋×5。暁美ほむらの首輪、鹿目まどかの首輪、万里飛翔マスティマ
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:殺し合いを破壊するために仲間を集う。もう復讐心で戦わない。
1:セリューの安否を確認し、生きていれば共に卯月の説得をする。もしも卯月の説得が不可能だった時は...
2:ホムンクルスを警戒。ブラッドレイとは一度話をする。
3:エンヴィーと遭遇したら全ての決着をつけるために殺す。
4:鋼のを含む仲間の捜索。
5:死者の上に立っているならばその死者のためにも生きる。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※並行世界の可能性を知りました。
※バッグの中が擬似・真理の扉に繋がっていることを知りました。
※田村と情報交換をしました。


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139:これから正義の話をしよう ロイ・マスタング 171:地獄の門は開かれた
本田未央
149:NO EXIT ORION 田村玲子 174:絶望を斬る
最終更新:2016年03月17日 11:19