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この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB.


「...なにこれ?」

この俺、足立透が首輪交換所の景品を貰って抱いた感想がこれだ。
黒の奴から首輪をかっぱらって交換したのはいいものの、その景品がコレ。
ポケットティッシュひとつ。これだけだ。
入れた首輪のランクが1とか言ってたし、あまり期待はしてなかったけどさ...

「...いやいや、これはないでしょ。もう一回押してみよっと」

きっとこれはなにかの間違いだよ、うん。だってさ、仮にも一人ぶんの命を入れたんだよ?それなりに見合った報酬じゃないと釣りあわないでしょ。
そんな考えで、俺はもう一度交換ボタンを押してみた。

『交換は一度だけで、支給品もランダムです。新たに交換される場合は、新たな首輪をご投函ください』

なめてんのかこいつ。
そう吐き捨てようとした俺だが、落ち着いて考えてみる。

(待てよ。もしかしたら、これも変わった支給品なんじゃ)

俺自身、妙な支給品は多く見てきている。
本物のライトセイバーとか、ビタミン剤に紛れた青酸カリとか、グリーフシードとかいうよくわからない魔法少女専用回復アイテムとか。
だったら、このティッシュも鼻をかんだら疲れがとれたり、毒が塗ってあったりするんじゃ...
そんな期待を込めながら、俺は足元の受け取り口から出てきた説明書を読んでみた。

『市販のポケットティッシュ@残念でした』

「クソが!」

思わず俺は交換機を蹴り飛ばした。
だが、交換機はウンとも寸とも言わない。
代わりに、俺はあまりの脚の痛さに蹲ってしまう。
なにこのポンコツくん凄い硬いんだけど。

「クソッ...なんなんだよ。こんなもん置いて期待させやがって。マジで死ねよ広川の奴」

爪先の痛みで涙目になりながらも、俺はどうにか気持ちを落ち着かせる。
とりあえず、他の奴らが首輪でいいものをゲットしたりしたらムカつくから壊しておこう。
タロットカードを握り潰し、マガツイザナギを召還。そのまま、間髪入れずに剣を突き立てさせる。
が、しかし。
剣は刺さらない。硬すぎる。
ならばと殴らせてみるが、一向に壊れる気配を見せない。
...そんなあっさりと壊されたら置いた意味もないし、当然といえば当然かな。


「...はぁ、やめやめ。もういいや」

壊せなかったのは残念だが、いつまでもイラついていても仕方ない。
どうせ壊せないなら、他に有効活用したいものだけど...。
うん、何にも思いつかない。
硬いだけのこいつをどう扱えっていうんだよ。
ん?硬いってことは

「そうだ、こんだけ硬かったら盾にできそうじゃんか」

マガツイザナギで攻撃してもビクともしないコイツだ。
そうそう壊せる奴なんていないだろ。
幸い、そこまで大きくはないし、頑張ればデイバックに詰めこ...

「...とられてんじゃんか、デイバック」

いや、デイバックに入れられなくても、普通に運べば...

「ふんぎぎぎぎぎ!!」

ゆ、床に固定されてて全然動かない。
あと、俺の感覚が確かなら、こいつ凄い重い。
マガツイザナギでもギリギリ運べるかどうかくらいだ。
これでは盾の使用なんてとてもじゃないが無理だ。

クソがっ!と再びケリつけるが、またも俺の爪先を痛めるだけ。

当の交換機はピンピンしてる。

「...ちくしょう、なんなんだよ広川の奴...」

あのクソ主催に対しての何度目かの悪態をつく。
なんで自分ばかりこんな目に遭うのか。
思い返せば、いままでロクな目に...
ああもう、やめやめ。何回目だよ、今までの不幸を振り返るの。
一旦マガツイザナギを消して、俺は努めて冷静に考える。


少し前向きに考えよう。
いまここに誰も来ていないってことは、首輪交換機を使おうとする奴らの待ち伏せができるってことだ。
当然、そいつらは誰かの首輪を持っている上に、そいつら自身の首輪も持っていることになる。
つまり、だ。
俺はそいつらを仕留めれば、最低でも首輪を二つ手に入れることができる。
しかも、それなりに戦いが出来る奴なら首輪の報酬も期待できるはず。
失敗すればさっさと逃げればいい。

「いける...いけるぞ、俺」

誰に言うまでも無く、俺は呟く。
そうだ。今度こそいける。
いまの俺の居場所を知ってるのはあのまっくろくろすけだけ。
あいつはあいつでイリヤとかいうガキに構ってるからそう易々とはこっちに来れないはずだ。
よし、そうと決まれば早速待ち伏せ場所の確認だ。
俺は意気揚揚と交換BOXの扉を開け。

「おや」
「うそぉ...」

少し離れた場所に立っていた火傷顔の男を見つけたとき、俺は思わず口をあんぐりと開けてしまった。




ヒースクリフと別れた魏は、地獄門へと向かうついでに、一度滝に寄り、次いで首輪交換機のあるアインクラッドへと足を寄せていた。
黒と戦うのは最優先だが、できればこの怪我も癒したい。
そのため、ここを訪れるかもしれない参加者から首輪を奪おうとしたのだが...

(使用中だったとは。まあいいでしょう)

目の前の男が何者かはわからない。
だが、やることは変わらない。
首輪を奪い支給品と交換するだけだ。


(なんでこのタイミングで他の参加者が来るんだよ!?ありえねえだろクソが!)

冷静な魏に対して足立は、大いに動揺していた。
良い策を思いついた途端にこれだ。もう何度目だよと叫びたくなる。
毒殺による内部崩壊を目論めば偶然見ていたという理由であっさりと犯人だと判明して。
逃げ出せたかと思えば殺人者名簿に載せられてた上に承太郎にハメられて追い立てられて。
電車に乗ろうとしたらまた承太郎たちに見つかって。
あいつら追っ払って一休みかと思えばエンヴィーヒルダの戦いに巻き込まれて。
どうにか切り抜けて後藤と戦った集団に入り込もうとしたらエスデスがやってきて全部ブッ壊されて。
むしゃくしゃしたから雪乃に八つ当たりをしようとしたら槙島に邪魔されて。
皆殺しを決意したらアカメたちに後藤を押し付けられた挙句支給品すら全て奪われて。
黒に保護されて、首輪も奪えてようやく運が廻ってきたかと思えばこれだ。

もう不幸という言葉すら生ぬるい。
広川が足立のもとに参加者を送り込んでるんじゃないかと疑うくらいだ。

(...いや、待てよ。尖った耳に、火傷の痕。こいつの容姿、どこかで聞いたような...)

尖った耳、火傷の痕。
これらのワードで断片的になにかを思い出す。

『襲われたって...大丈夫だったの?どんなやつ?』
『えっと、魏志軍さんっていう、尖った耳で、顔に火傷の痕があって...』

そうだ、思い出した。
コンサートホールで承太郎たちと戦った魏志軍って奴だ。
それに、黒からも危険人物だということを伝えられている。
だったらさぁ...


「もしかしてきみ、魏志軍ってやつ?」
「私の名をご存じとは。誰から聞いたのですか?」
「コンサートホールでちょっとね。そんなことよりさ、ちょっときみ、適当に参加者を襲って首輪もってきてくんない?」
「...?」
「僕の言う事を聞けってことだよ」
「なにを言いたいのかわかりかねますが」
「察しが悪いなぁ...こういうことだよっ!」

足立はタロットカードを握りつぶし、マガツイザナギを召還する。
魏はそれを見て、咄嗟に身構える。

「ハハッ、びびった?僕ねぇ、きみが手も足もでなかったまどかちゃんと承太郎くんをブッ殺してここまで生き残ってきたんだよ。つまりさ、きみじゃあ僕には敵わないってこと」
「...ほう。それはそれは...」

足立の言葉を聞いた魏が、一瞬なにかを考えるような素振りを見せる。
が、すぐに顔をあげ。

「...ならば、彼らから受けた雪辱は、代わりにあなたで晴らすとしましょうか」
「あっそ。...僕さぁ、少しイラついてたところなんだよね。だからさぁ」

マガツイザナギが地面に剣を叩きつけ砕く。

「痛い目みても、後悔しないでよ?」

マガツイザナギが剣を振りかぶり、魏に襲い掛かる。
斬撃であるため受ければ血は流せるが、あれだけ巨大な剣では致命傷は免れない。
魏はマガツイザナギの剣を躱し、己の左手首をナイフで切りつける。

(この能力にあの姿形...コンサートホールの、いや、ジュネスで戦った彼らにより近い)

目の前の男の能力は、ジュネスで戦った少年と少女、特に少年の操る人形に非常に酷似している。
ならば、この人形を傷付ければあの男にもダメージが伝わるはずだ。
そして、できた隙を突き仕留める。
魏は、マガツイザナギへと腕を振るい血を飛ばすが、しかしそれは剣で全て受け止められる。
舌打ちをしつつ指を鳴らすが、剣が崩れるだけで、足立とマガツイザナギにはダメージが伝わらない。


「お前の能力は全部黒くんから聞いて知ってるんだよ、バーカ!!」
「なに?」

思わぬ名前を聞き、魏の動きが僅かに止まる。
自分の能力が知れ渡っていること自体はなんら不思議ではない。
しかし、足立はいま確かに黒の死神の名前を出した、ということは。

(奴は、この近くに...!)

そんな、戦闘中、ましてや契約者では生じえない隙を、足立は見逃さない。
マガツイザナギが投げつけた折れた剣を、魏は咄嗟に跳躍で躱す。
魏が自分の迂闊さに気が付いた時にはもう遅い。

「ぶっとべオラッ!」

マガツイザナギの拳が、魏の胸部を強く殴りつける。
魏の身体が地面を跳ねて後方に吹きとばされる。
これまで交戦した新一にスタープラチナ、バゼットの手袋を着けたタツミやエスデスほどの威力はないが、いまの傷ついた身体では受けたくないダメージだ。


「さーて。そろそろ僕に従う気になったかなぁ?」

手放した剣に変わり、マガツイザナギに新たな剣を呼び出させる。

足立は上機嫌だった。
思っていた通り、この男は承太郎や後藤に比べて弱い。
あの流れる血にさえ気をつければ問題なく勝てる。
このまま力でねじ伏せることができれば、体のいいパシリとして使えそうだ。
そんな期待を込めつつ足立は笑みを浮かべる。
人に使われることはあっても、人を使うことはないため、その充足に優越感を抱いているのだ。

「御冗談を。...その姿かたちに特徴、やはり彼に似ている」
「は?」
「彼の能力と同じく、多数の人形と入れ替えることが出来るのか、それとも...」
「ちょっと待て。いまなんて」

足立の言葉を待たず、魏がデイバックを宙に投げる。
この時、一瞬だけ足立の視線がデイバックへと移る。
その瞬間だ。
突如デイバックから溢れ出した水流が、マガツイザナギへと襲い掛かってきたのだ。

「なっ!?」

足立は慌ててマガツイザナギを自らの元に寄せて剣を盾にするように構え、水流を受け止めさせる。
幸い、水流はどうにか受け止められる程度の圧力のため、足立自身が飲みこまれることはない。
しかし、これでマガツイザナギの自由は奪われた。
魏は、その隙を見逃さず足立との距離を一気に詰める。

「まっず...!」

マガツイザナギは水流を受け止めているため、迫りくる彼を迎撃することが出来ない。
一旦消して体勢を立て直そうにも、戻した瞬間水流にのみこまれてしまう。
電撃を発動しようにも、両手が塞がっているため狙いを定められず、かといって片手だけで受け止められる水流ではない。
迫りくる彼に立ち向かうには、足立自身でどうにかしなければならない。
が、しかし。

「くそっ!」

慌てて振るった足立の拳はあっさりと掴まれてしまう。
当然だ。
魏は、暗殺者である黒やアカメと渡り合える程の体術を有している。
手負いとはいえ、それでも一般人では相手にすらならない。
それに対して、足立はただでさえ疲弊しきっているうえにあくまでも一般人だ。
一応、警察になる過程での訓練はこなしているが、それだけである。
己の手で殴り合ったことなど数えるほどあるかも怪しい。
そんな彼の拳など、魏にとってはそよ風にすらならない。



魏の裏拳が、足立の顔面を捉える。

「ぶっ!」

顔面を包む痛みに一瞬怯むが、すぐに我に返る。
マガツイザナギを介して伝えられたスタープラチナの拳に比べれば、大したことはない。
数歩よろけた後、水流が消えたことを確認した足立はすぐにマガツイザナギに剣を振りかぶらせる。

「おっと」

魏は、掴んでいた拳を引き寄せ、足立の首根っこを掴み盾にするようにマガツイザナギへと向き合う。

「す、ストップストップ!」

振り上げられたマガツイザナギの剣が、静止の声と共にピタリと止まる。

(チクショウ、これじゃあマガツイザナギで振り払えねえ...!)

いま、足立の身体は盾にされている。
また、気の所為でなければ、足立の首を掴む際に魏の血液も着けられた。
これではマガツイザナギはなんの手出しもできない。
剣はもちろん、電撃なんて以ての外だ。
マガツイザナギを消して再召喚しようにも、そんなことをすれば即座に殺されるだろう。
かといって、肉弾戦でどうにか出来る相手ではないのは証明済みだ。
つまり。

「幾つか質問に答えていただきましょうか」

現状、詰みであることを、首元に当てられたナイフと共に足立は実感した。


「先程、あなたは黒という人物から私の能力を聞いたと言いましたね?」
「そ、そうそう!さっき別れたばっかなんだけどさ、あっ、もしかしてきみ彼の友達だった?なら早く合流してあげた方が」
「友達...?」

足立の首を絞める力が強まる。

(ヤバイ、なんか地雷踏んだ?)

黒は魏志軍を警戒していたが、花京院と承太郎のように話のズレが生じている可能性もある。
そう考えた足立は、黒と友好的な関係にあるかを尋ねようとしたが、しかし魏の反応を見てそれは間違いだと思い直す。

「ごめんごめん、僕ってば早とちりしちゃったみたいで...」
「...その黒という人物の特徴は?」

続行される質問にどう答えるかを思案しようとするが、魏の視線とナイフがそれを許さない。
嘘をついたりとぼけたりすれば、即座に殺すと訴えかけている。
仕方なく、足立は素直に答えることにした。

「真っ黒いコートを着てて、黒髪で、ワリと細身で...」
「電撃の能力は?」
「電撃?いやー、僕が戦ったわけじゃないし、よくわからないよ。ワイヤーは上手に使ってたけどね」

今度こそは間違いようもない。
黒のコートに、ワイヤーを巧みに扱う男。
魏は、足立から得た人物像を聞き、彼が出会った『黒』は、ほぼ間違いなく魏の追い求めるあの男であると確信する。

「あのー、そろそろ離してくれないかな...」
「...次の質問です」

足立の首をナイフで軽く小突くと、懇願することもなく渋々と口をつぐんだ。

魏は、足立は殺すつもりでいるが、後々に厄介になるであろうあの能力について知っておくのも悪くない。
そう考え、尋問を続行する。

「あなたの人形を出す能力。契約者とも違うようだが、あれはなんですか」
「し、知らないよ。ペルソナっていう能力なんだけど、たまたま使えたから使ってるだけで、詳しくはわからないし...」
「そうですか」

溜め息をつく魏に、溜め息をつきたいのはこっちだと内心で唾を吐きかける。
実際にオモテに出せば即座に殺されるためやらないが。



「次の質問です...私は、ジュネスであなたによくにた能力を持つ少年たちと戦いました」

ピクリ、と足立のこめかみが動く。

「あの少年の能力は、非常にあなたのモノと酷似していましたが」

足立の脳裏に、『アイツ』の顔がよぎる。
甘い戯言ばかりほざき、絆を振りかざし、足立の全てを否定してくる『アイツ』の顔が。

「あなたは彼らの仲間なのですか?」

(『アイツ』の、仲間...?)

魏のその言葉に、足立の思考が真っ黒に染まる。

俺が、独りでも戦ってきたこの俺がだ。
あの甘ったれのクソッタレな『アイツ』の仲間だと?

「...ざけんじゃねえぞ...」

気付けば、そんなことを口走っていた。
命を握られているこの状況でだ。

「俺が、『アイツ』の仲間だと...!?」

普段ならば、適当なことを言ってお茶を濁しているところだ。
もしも、殺し合いが始まった直後の時点で、『アイツ』が脱出の鍵を既に握っていたとしたら、適当に便乗させてもらうこともしたかもしれない。
だが、いまは違う。

この殺し合いを経て、足立の憎しみは募りに募っている。
後藤との戦いで気付かされた『アイツ』への深い憎しみは、もはや理性で抑えられるものではなくなっていた。

「もういっぺん言ってみやがれ。てめえのそのツラ、消し炭にするぞ」

足立の血走った眼に、隠すつもりのない怒りの形相を見て魏は薄く笑う。

(―――なるほど。これなら、使えそうだ)

足立は黒と出会っていた。鳴上を憎悪している。
これら二つがあれば、まだ利用価値はある。

「最後の質問...いえ、提案ですか。私は、あなたの出会った黒に用がある。あなたは、私の出会った少年に用があるようだ。そこでです。ここはひとつ、協力でもしてみませんか?」
「...あぁ?」


魏と幾分かの情報交換をした後、首についた血をティッシュで拭いつつ、足立は首輪交換機付近を離れ南下していた。

結局、足立は魏の提案を承諾せざるをえなかった。
あの状況ではどうしようもなかったのは事実だし、意地を張って無駄に命を落とすような真似はしたくなかったのだ。


(黒を見つけたら地獄門に来るように伝えろ、か...)

魏が一時的な同盟の条件に提示したのが、黒への伝言だった。
足立としては、それを伝えて魏が死のうが黒が死のうがどちらにしても好都合なため、それ自体は二つ返事で受け入れた。

黒への伝言の他に足立が魏から得た主な情報は三つ。

エスデス、キング・ブラッドレイ、そして鳴上悠についてだ。

前者二人に関しては、彼らの戦いの最中、ヒースクリフと二人がかりで奇襲を仕掛け奈落へと突き落としたらしい。
キング・ブラッドレイというフィジカルモンスターに関しては、まだ生きている可能性が高いとのことだが、エスデスはかねてより重症だったらしく、まず助からないだろうというのが魏の見立てらしい。

(まさかあの女が死ぬとはね。...ラッキーといえばラッキーかな)

正直、この件に関しては完全に想定外だった。
聞けば、まどかとほむらの死体を繋ぎ合わせるという、彼女たちを殺した張本人でさえドン引きし吐き気を催すような行為をしていたらしい。
できればこの手で今までの雪辱を晴らせればよかったが、そんなキチガイ女と関わらずにすむのならそれにこしたことはない。


そして、鳴上悠。

聞けば、『アイツ』はジュネスで里中千枝と共に魏と交戦したらしい。
電車を使った様子もないらしいことから、おそらくはあの付近にいるはずだ。

(待ってろよ、クソガキ。てめえは、必ず俺が絶望の淵に叩き込んでやる...!)

『アイツ』の手がかりを得た足立は、憎しみを胸に抱き進む。


「...そういえば」

ふと、魏から聞いたジュネスでの出来事について気になった。
里中は、鳴上と一緒にいた青髪の少女から現れたモンスターに殺されたらしい。
そのモンスターが出現した経緯は、鳴上ともう一人の仲間のタツミがグリーフシードとかいう物を渡す渡さないで揉めている内に、タイムリミットを迎えたとのことだ。
グリーフシードといえば、ヒースクリフの持っていた支給品で、まどかのソウルジェムを浄化するのに使っていた物のはずだ。

(その青い髪の女の子って、たぶんまどかが言ってた美樹さやかってことになるよな)

致命傷でもソウルジェムさえ無事なら生きていられるのが魔法少女だ。
ソウルジェムが濁り切ったさやかからモンスターが出てきたということは、つまり魔法少女はソウルジェムが濁り切れば死ぬのではなく、モンスターに生まれ変わるということだ。
だが、自分が殺した二人は、モンスターになっていない。
放送で呼ばれている以上、死んでいないことはありえないはずだが、これはどういうことだろうか。

「...まあ、俺の運が良かったんだろ。うん、そういうことにしておこう」

既に終わったことを気にかけても仕方ない。
ならば、前向きに捉えて今後のやる気の糧にしよう。
痛む右腕を押さえながら、再び足立は『アイツ』のいるであろうジュネスへとその歩みを進めた。




「さて、と」

南下していく足立を見送った魏は、これからの方針を考える。
いま現在、黒への言伝を知っているのは足立とヒースクリフの二人。
この会場の中で二人のどちらかでも黒に出遭える確率はあまり高くない。
それでも、黒自身がヒースクリフとの交流で地獄門へ来る確率は高い。
つまり、言伝通りに地獄門で待つのが利口な選択肢に思える。

(...だが)

魏は、ジュネスで遭遇して以来、銀を見つけていない。
銀を自分が連れていることを知れば、奴は必ず地獄門へやってくるが、彼女がいなければ後回しにされてしまう可能性は高い。
また、黒が銀を見つけていた場合も同様だ。
奴からしてみれば、自分はこれまで葬ってきた数々の契約者の内の一人に過ぎないだろう。
銀を既に保護しているのなら、奴がわざわざ決闘に応じる理由はない。

(...いっそのこと、足立を追ってみるか?)

足立はまず間違いなく自分を葬りたいと思っている。
もしも黒の正確な場所を知っていれば、いち早く黒と合流して潰し合わせようとするだろう。
もしかしたら、地獄門で待つよりも彼を追った方が早く黒と戦うことができるかもしれない。

(だが、奴の正確な居場所を知らなければそれだけでも時間を無駄にしてしまう)

魏は、第二回放送後からは東エリアを中心に行動しており、黒も東エリアで銀を探していたと思われる。
しかし、掴めた手がかりはヒースクリフと足立からの情報だけ。
どうやら何度もニアミスしているようだ。
下手に動けばそれだけ黒と戦えるチャンスを減らすことになるのかもしれない。

(言伝通りに地獄門で待つか、足立を追うか、はたまた来た道を引き返すか...)

どの選択肢が正しいのかはわからない。
非常に悩むが、時間は有限だ。
合理的判断のもと、魏が下した答えは...


【H-4(南部)/一日目/真夜中】

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)、爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血、若干の落ち着き、満腹
[装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品
[道具]ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:皆殺し。とりあえずいまはジュネスの方面へと向かう。
1:特に鳴上は必ず殺す。優先順位は鳴上>エスデス>後藤>その他。
2:黒と魏志軍をぶつけ合わせて両方潰す。
3:落ち着いたので少し冷静に動く。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
※黒と情報交換しました。



【H-4/一日目/真夜中】

【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
[状態]:強い決意、疲労(絶大)、黒への屈辱、背中・腹部に一箇所の打撃(処置済み)、右肩に裂傷(処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕、左肩に裂傷、銀に対する危機感
[装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲(星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器) 流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×4、ビタミン剤の錠剤@現実×11(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品) ビリヤードの球(細工済み)×7
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:地獄門に向かい黒を待つか、足立を追うか、やはり南下して黒と銀を探すか。道中、銀を発見したらなるべく刺激しないように地獄門まで連れて行く
1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、可能な限り消耗の激しい戦闘は避ける。
4:あのドールは……。
5:あの男(ブラッドレイ)は危険。もっと準備をしなければ。
6:足立は可能な限り利用する。できることなら鳴上と潰し合わせたい。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。
※ペルソナとスタンドの区別がついていません。
※銀の変貌に勘付いていますが、黒との決着を優先しています。


時系列順で読む
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181:白交じりて、禍津は目覚める 足立透 192:足立刑事の自白録-二度殺された少女たち-
179:WILD CHALLENGER(前編) 魏志軍
最終更新:2016年07月28日 10:34