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DEEP BREATH◆ENH3iGRX0Y
市庁舎に戻った杏子だがそこには人っ子一人いない。
二時間後に合流の予定だったが、時間を間違えたのだろうか。
だが、デバイスと市庁舎の時計を見比べても差はない。これは何か緊急事態が起こったのだろうかと頭を捻ると、前方から鈴の音が響いた。
「……猫? お前一人……いや一匹かよ。エドワードは?」
「別れたよ。色々あってな」
杏子と猫が再会したのは夜も明けて、日光が差し込んできた頃だった。
「―――そうか、それで田村が……で、
ウェイブとも会ったのか」
「ああ、かなりボロボロだった。アイツがエドワードと、その穂乃果って知り合いを連れて図書館に行くらしい。
俺はその伝言兼、誘導係ってとこだな」
猫から一通りの説明を受け、杏子は二時間後の約束が果たされない理由を改めて理解した。
「……まだ北のロックが終わってないんだよ。雪乃達が今探してるけど、だから合流は北の方に出来ないか?」
図書館で合流するのはいいが、万が一ロックとやらの解除前にその一帯が禁止エリアになれば目も当てられない。かといって、二人を放置するのは危険だ。
猫もロック自体は詳しく知らないが、それでも杏子から短い説明を受け重要であることはすぐに理解した。
「そうか……ならウェイブはまだこの周辺にいるだろうし、追っかけてそう言うしかないな」
せっかくの再会だが、淡々とした情報交換のなか話を切り上げ、杏子は猫を担ぎ上げるとそのまま突っ走った。
猫にまた伝言を伝えても良かったが、
すれ違い伝言が届かない可能性を考えると、まだ近くにいるうちに杏子が向かったほうが早い。
猫の案内でウェイブがいるであろう場所へと杏子は突進み、そして数分もしないうちにそれは見つかった。
しかも黒子から託され、ウェイブも探していた穂乃果もおり、雪乃達が心配していたあの
アカメの末路すらも、その光景は一目で分かるほど単純だった。
「嘘……だろ」
穂乃果はウェイブに斬り殺され、ブラッドレイも同様、ウェイブもまた冷たくなっており恐らくアカメはブラッドレイを殺める前に力尽きたのだ。
一言で言えば全滅、何の救いもない。ただの無だけが杏子の目の前に広げられていた。
開いた口が塞がらない。猫が数十分前に見たといっていたウェイブが、いまやこの有様だ。
穂乃果も死に、その双眸からは涙の後が見て取れる。何が起こり、ウェイブが斬殺しなければならなかったのか。それを知る由はなく、黒子が遺したものすら無意味になった。
ただ一人、満足気に安らかな顔を浮かべているブラッドレイ。眼帯こそないが、雪乃の言う特徴を捉えたこの男に一人勝ちのように見え、杏子は堪らず蹴り上げようとして、寸前で止めた。
まがりなりにも神父の娘である為か、死者への冒涜は本能的に避けてしまうのかもしれない。
「どうして……こんなことになっちまったんだ」
状況から推理すればアカメの戦闘後、何らかの方法で復帰したブラッドレイをウェイブが文字通り命賭けで倒した。そこまでは良い。
だが問題はここからだ。何故、仲間の穂乃果をウェイブが手に掛けたのか。
彼女らが分からないのも当然だ。この問題に関して一人と一匹は完全に部外者で、殆ど関係がない。
卯月に関しては別だが、どちらにしろ杏子が知る由はない。
「チクショウ、何でだ……いつもこうだ……」
元から人を救えたことなど一度もないが、それでもここまで悲惨ではなかった。
関わった仲間は皆死に、ウェイブも田村も、手の届く距離にあった者達が全員消えて逝く。
結局、あの三人組で残ったのは杏子一人だけだ。こうなると、
タスクと雪乃ですら怪しくなってくる。
エドワードだって何処かで野垂れ死んでいるのではないか、そう考えると途端に可笑しくなり口端が釣りあがってきた。
とんだ三流コントだ、オチもクソもない。ただ同じ事を繰り返すだけのド三流だ。
「―――ッッ!!」
「おい杏子!?」
吹っ切れたように自分の顔面に杏子は拳を叩き入れた。
顔が赤く腫れ、鼻血が唇を伝り、鉄の匂いが口内を充満する。
「笑えよ猫」
笑みを浮かべたまま杏子は口を開く。
「何言ってんだお前、いきなり……」
「どいつもコイツも馬鹿ばっかだろ。
契約者とか抜かしてノーベンバーは他人を庇って死んで、どうせウェイブだって、最期まで他人に足引っ張られて死んだんだ」
「杏子、まさか……」
「考えてみれば当たり前の話さ。……いいか、人間も魔法少女も世界は自分中心に回ってんだよ。そいつは変わらない。
私のせいで死んだ? ハッ……笑わせるだろ? どいつもこいつも私なんか眼中にねえよ。
連中が死んだのは、アイツらが馬鹿だったから、好きにやって勝手に野垂れ死んだだけさ」
そうだ。
ノーベンバーがアヴドゥルという男が、何故杏子の為に動いたと言える?
彼らにとって杏子という存在が、そこまで尊く大切であったか? 否だ。仲間どころかそもそも身内でも何でもない。
ただの他人同士、成り行き上行き会っただけの関係でしかない。
彼らは、ただ単に自分勝手に動き続けただけだ。その結果、死んだに過ぎない。
それがなんだ。いつまでも自身を責め続け、挙句の果てに悲劇のヒロインを気取る。
「ああ、ほんっとうに馬鹿さ……。知ってた筈だろ私は、それをずっと忘れちまってた」
他人の都合など知らず、勝手な善意で魔法を使い続けた末路を杏子は見てきた。
誰もが不幸になり、ただの一人すら幸せを得たものなどいない。
それを理解していたからこそ、杏子は魔法を自身の為だけに使い続ける決意をしてきた。
だが忘れていた。この殺し合いが始まった頃から、
佐倉杏子はその信念を捻じ曲げ戦い続けてきた。
無意識の内に誰かを意識し戦い続け、誰かの為だけ戦っていた。
だから、全てが上手くいかない。誰かを傷付け続けていく。
「そうさ、私は負け続けてた」
ある時は
DIOの為に、ある時は死んだ連中の為に、ある時は依存したエドワードの為に。
自分の為だけに殺し合いに乗っていた頃ですら、本心はプライドを捻じ曲げて媚を売ろうと主催の為に戦っていた。
「しかも戦ってすらいねぇ……戦いになる前から負けてたんだ……情けねえよ、今思い出しても反吐が出そうだ」
だから、負け続けていた。勝ちなど見えるはずがない。既に戦う前から、佐倉杏子という人間は敗北してきていたのだから。
自分の足で歩むことを忘れ、ずっと飼い慣らされてきたのだから。
そうだ。元から、こんな殺し合い気に入らなかったのだ。
最初から、それを潰す為に動いていれば話は早かった。
戦力だって序盤から、承太郎を確保できたし、まどかとほむらとも即合流できた。だが、その反対の行動を起こしたが為に話はややこしくなる。
全ては迷い、そこから隙が生まれどんどん亀裂が走り決壊へと走っていったが為に。残されたものは後悔しかない。
「自業自得さ。でもね、これ以上後悔するような生き方なんて真っ平ゴメンだ」
槍を精製し振るう。
これまで戦った中で最も素早く、鋭く、力強い槍捌きに猫は目線すら付いていけず呆然とした。
三つの首が飛び、三つの首輪が飛び跳ね杏子はそれをキャッチする。噴出した血ですら、追い付かないほどの流れるような作業は美しさすら感じる。
「魔法ってのはね。徹頭徹尾、自分だけの望みを叶えるためのもんなんだよ。
だから……私の理由で、私の為だけに使ってやる!
死んだ連中には悪いけど、こっから先は開き直って好き勝手やらせてもらう」
だから、もう迷わない。
やると決めたことはやり通す。最後まで。
「きょ、杏子……お前、ビビらせるなよ……」
「なんでビビるんだよ」
未だにビクビク震える猫を尻目に杏子は首輪を仕舞い、適当に穴を三つ槍を叩きつけて作るとそこに三人の遺体を収める。
その間に杏子は珍しく頭を働かせ、現状の整理を行う。
ウェイブ、そして特徴が一致していることから、ほぼ間違いない穂乃果とブラッドレイ(仮)の三人が死んだ。
そしてアカメも新一も脱落し、後藤、田村も死んだ。
この時点で、七人が死んでいる。残った乗った側の参加者で多少なりとも知っているのは御坂とよく噂に聞くエルフ耳くらいか、それらを含め、多めに見積もっても四人ほどが残っていると考えていいだろう。
(逆に乗ってないのは知ってる限り私入れても五人か、しかも戦えるのはエドと黒とか言う奴だけ。
ヒースクリフってのはよく知らないし、そもそも死んでないって言い切れないのがタスクと雪乃しかいねえ)
戦力が纏まっていない。
あまりにも参加者が分散しすぎている為に、乗っている者達からすれば格好の餌食になってしまう。
「おい猫、お前もう一度橋渡って、エドと黒って奴を探して来い。橋は禁止エリアだけど、お前は支給品だから関係ないだろ」
「お前は?」
「雪乃とタスクを回収して、ロックを何とかしてから北側を回って東に向かう。猫も北側から私達と合流してくれ。出来れば、ロックを外せそうなやつも連れてな」
「ウェイブは図書館に集まれって言ってたが、なんで変えるんだ?」
「あいつ等は北にいるからな、わざわざ連れてこっちまで戻るより、進んだ方が時間短縮だろ。ロックだって結局先延ばしにして、もう一度解きに戻るかもしれないしな。
それに図書館は島の真ん中だ。参加者の通りだって多いし、もしかしたら、誰か乗ってる奴が居座ってるかもしれない」
理由を話してから、杏子は猫の首輪に手を伸ばしタスクから受け取ったメモを捻じ込んだ。
首を傾げる猫に筆談で首輪に関することで、内容を手短に伝えてから、これを他の参加者にも伝えるよう指示を出す。
それから更に話し合い、合流場所をコンサートホール(正確には跡地)に定めた。
「……そうだ。あとエドがまた単独行動に出たら、絶対に止めろよ。
私達はバラけ過ぎちまった。数じゃ多分まだ有利なんだ、合流して戦力を整えりゃ全滅は避けられると思う。必ず一匹と二人以上で来い」
「分かった」
指示をすべて聞き終わってから、猫は橋に向けて走り出した。
しばらく橋を見つめる杏子だが、猫が引き返す様子はない。
もし猫が禁止エリアに足を踏み入れてから、何か異常があればすぐ引き返すだろう事を考えると、やはり支給品は例外らしい。
いや元々、こういった用途で使用する為に猫を支給したのだろう。それなら納得もいく。
猫を見送ってから、我に帰ったように杏子も北を向き、駆け出そうとする。
だが何か思い出したかのように、杏子はイェーガーズ本部に入り暫くしてから外に出る。
「……うっ!? ゲホッ! なんだこれ……よく吸えたなアイツ」
手に持っていたのはマッチと煙草だった。
嗜好品として本部に置かれていた物だ。口にして煙草を飲み込むが、初めての喫煙で咽ないはずがない。
咳を吐きながら、杏子は煙草を線香のように地面に突き刺した。
「
ノーベンバー11、アンタの言ってた宿題、やっと分かったよ。
だから、あの世でコイツでも吸いながら首荒って待ってろよ。70年後ぐらいに向こう逝ったらボコしてやる」
もっともそれはノーベンバー11には最悪の供え物なのだが、杏子は知る由もなく。知っていたとしてもわざとやっていただろう。
それから三つの土の山を見やりながら、その前に付き立てたインクルシオを握り締める。
「これ貰うよ。アンタには、もう必要ないだろ。必要でもぶん取るけどね……。
まっ、代金の代わりさ。ついでにアンタの分まで主催(れんちゅう)をぶっ潰す代金のね」
懺悔と後悔の時は終わりを告げた。
その先にあるのは絶望か希望か、まだ見ぬ未来に向け手を伸ばし続ける。
ようやく、行き先を見つけた少女の末路は―――。
【C-5/二日目/早朝】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(大)、顔面打撲、強い決心と開き直り
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、使用不可のグリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ
クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0~4(内多くても三つはセリューが確認済み) 、
南ことりの、浦上、ブラッドレイ、穂乃果、ウェイブの首輪。
音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(2/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHOPASS‐サイコパス‐、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』、練習着、カマクラ@俺ガイル
タスクの首輪の考察が書かれた紙
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:雪乃、タスクと再合流後にロックを何とかしてから、コンサートホールへ向かう。
1:後悔はもうしない。これから先は自分の好きにやる。
2:さやかも死んじまったか……。
3:
御坂美琴はまだ――生きているのか。
【E-4/二日目/早朝】
【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(絶大)、首輪にタスクのメモ
[思考]
基本:帰る。
0:橋を渡って黒、エドワードと合流。その後コンサートホールへ。ロックをどうにか出来そうなやつも見つけたい。
1:黒の奴、飲んでないといいが。
2:銀……。
最終更新:2016年11月08日 23:10