031
生と力と強さの証 ◆BLovELiVE.
乗った車を『世界』に担がせて移動する3人。
移動速度は普通に歩いたほうが早いほどゆっくりであるが、曲がりなりにも怪我をしたという建前をしている以上仕方のないことだ。
「あの人形は一体…」
「ああ、少し超能力みたいな力が使えてね。その中で生まれたものなんだ」
『
DIO様の精神が形になった能力ですUYYYY!!』
イリヤの質問にそう答えるDIO。
本来はスタンド使いでない者には見えないスタンドがこの娘達には見えている様子だ。
先ほどの
ジョセフ・ジョースターの血を飲む前の体の不調といい、何かしらの調整がされていることが察せられていた。
目的地としては日が出るまでにどこか太陽から身を守れるような建物を拠点としたいと考えている。
その点で言えばうってつけの場所は勝手知ったる自分の屋敷、ということになるのだろうが、しかしDIOの屋敷、と書かれている以上ジョースター達が向かう可能性も高い場所だ。
さっきのような無様を晒したばかりの状態では万が一、ということもあり得る。
もし向かうならばもう少しでも体が馴染んでから、可能な限り万全な状態に近づいてからだろう。
そう考えていたDIOが、しかし特に目的地自体をそこまで深く考えることもなく『世界』を歩ませていたところで目に入れたのは切り立った崖から流れ落ちる大量の水、それなりに大きな滝の光景だった。
「ここ進むと何か街…なのかな?何か色んな研究施設とかがあるところに行くみたいですけど」
「ふむ、ではここは『世界』で引き続き――――む?」
そこまで考えたところで、DIOの体に走る違和感。
特に何かをしているわけでもないのに、まるで疲労しているかのような倦怠感を感じている。
確かに魔法少女に変身して動き回るなどということをしたが、あの時には疲れなど感じていなかったはず。
今していることといえば、せいぜいスタンドを使って車を運んでいるだけのはず。
(…いや、待て。そもそもスタンドがスタンド使いでない者に見える時点でおかしい。スタンドを使った時の疲労も肉体にフィードバックされる、とでも言うことか?)
車を持ち上げること自体は別にDIOにとってそう難しいことではない。
ただ、それをずっと抱えたままで移動する、となるとやはりある程度肉体的な疲労は感じてしまうことはあるだろう。
それをスタンドにさせた時の体力消耗もこうして感じてしまうように体かスタンドを弄られている可能性はある。
「あれ?DIOさんどうかしたんですか?」
「いや、何でもないよ。足の痛みがどうなっているかを少し確かめようと思ってね」
(ヒロカワとやら、やってくれるな…)
足の不調を理由にこうして車を運ぶなどという選択肢を取ったことは失敗だったか、と省みる一方でその事実を早期に知ることができたのは収穫かもしれない、とDIOは思案する。
もし知らずにスタンドによる戦闘を幾度と無く繰り返していれば、どこかで致命的な隙を作ってしまっていたかもしれない。それが例えばジョースター達のような同じスタンド使いであれば尚更だ。
だが、そうした場合この先はどうするべきか。
滝の流れるこの先はそれなりに急な坂道となっている。
平地でこうなら、坂道を車を抱えて歩いた時の疲労がどれほどになるか分からない。
かと言って引き返すのも二度手間だ。
「DIOさん?」
イリヤと操祈が考えるように止まっているDIOを怪訝そうな顔で見ている。
いっそここで車を仕舞って普通に歩いて移動するか、それとも疲労をおしてこのままの移動を続けるか。
そのどちらを選ぶにしてもこのまま進むか、それとも戻るか。
そう思考していたDIOは、ふと地図を見て思いつく。
この川の向こう側にも施設はある。
特にアインクラッドという名前の施設はどのようなものなのか、その名前からは想像もつかない。若干興味が湧くものもある。
そこを通っても北の街に行くことはできるだろう。
今のスタンドでどこまでの力が出せるのかを確かめる意味でも、少し変則的な道を選んでみよう。
「二人とも、しっかり掴まっていた方がいい。あと舌を噛まないようにな」
「え、ちょっと待って、何か嫌な予感がするんだけど――――」
と、イリヤがその後の言葉を言うより速く。
車を抱えた『世界』は、そのまま思い切り、まるで槍投げのような態勢で構え。
全力で川の向こうへと車を投げつけた。
「いやああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「フハハハハハハハハハハハハ!!」
絶叫するイリヤ。
笑うDIO。
恐怖で声も出ないのか黙りこくったままの操祈。
そんな3人を乗せた車は川の向こうへと飛んで行く。
さながらSF映画の空飛ぶ車のように。
◇
「それで西木野さん、あなたはここからどこに移動したい、って希望はあるのかしら?」
「私は、ここから南に行ったところにある音ノ木坂学院に行ってみたいって思ってますけど。何か他のみんなもここに向かってそうな気がするし…。
田村さんはそういうところってないんですか?」
「後藤とは進んで合流したいとは思わないし、
泉新一の向かいそうな場所も検討がつかないものね。
西木野さんに合わせる形で構わないわ」
二人のいる場所は滝の見える川のすぐ傍。
今自分たちがいる場所を確かめるために聞こえた水の流れる音を便りに移動して、そこからどこへ向かうかを思案していたところだ。
「そういえばさっき言ってた、田村さんの知り合いってどんな人なんですか?後藤って人なんてとても危険だって言ってましたけど」
「一言でいうならば、そうだな、戦いや殺戮を好む戦闘狂、とでも言うところか」
「…意味分かんないです……。殺人鬼とか軍人か何かなんですか?」
それとなく聞いてみた質問だったが、返ってきた答えは真姫にとってはあまりに実感の沸かない話だった。
そもそもそんな危ない人がいても今までニュースにも聞いたことはないし、知られていない危険人物だとしてもそんな男を知っているという
田村玲子という女もまたどういう人間なのか分からない。
いや、真姫にしてみれば彼女が本当に人間なのかというところにほんの僅かだが疑念があったりもした。
視覚的にはどこからどう見ても人間であることには間違いない。
だが、人間として見た時にほんの少しだけ違和感を感じてしまうこともあった。
人間としては大切な何かが少しだけ欠けているかのような、そんな違和感。
感覚的なものであり理屈で説明できるものではないが。
ただ、それを敢えて聞いてみたりはしない。
精神的な疾患にはそういった症状が出ることがあることは知っているし、そうであるなら深く追求すべきところではないだろう。
「…?」
「どうかしたのかしら?」
「何か今、空に流れ星みたいな光が見えた気が…」
何となく空を見ていた真姫の目に、真っ暗な夜の闇の空を流れていく光が見えたような気がした。
位置的には南。距離ではどれくらいあるかは分からないが、あの辺りは地図では街があったと思う。
ちょうど音ノ木坂学院もその周囲にある。
だが、それが何なのかをさらに深く思案しようとした真姫の耳がさらなる何かを捉えた。
――――――いやあああああああああああああああああ!!!
どこからともなく響く、女の子の叫び声のような音。
しかし周囲には誰がいる様子もない。
「え、何この声――――」
そう疑問を声に出そうとしつつ周囲を見渡そうとしたその時。
田村が真姫の体を後ろに引っ張った。
踏ん張ることもしていなかったためその力に引き寄せられるように後ろに下がる真姫の体。
そしてその時だった。
ドーーーーーーン
「う゛ぇえ!?」
方向的に川の向こう側辺りから、まるで川を渡るように飛来した車が目の前に着陸したのは。
土埃と轟音を立てながら、飛んできたそれは真姫を混乱状態に陥らせるには十分だった。
「い、意味分かんない…」
腰の抜けた状態で、驚きからようやく復帰しての第一声がそれだった。
◇
その瞳を見た時、真姫は言いようもない謎の感覚を覚えた。
(何…、この男…)
男はただ立っているだけだ。
なのに妙に存在感を感じる佇まいと、人を惹きつける何かを真姫に感じさせていた。
例えるとするなら、μ'sのリーダーである
高坂穂乃果に近い、しかし性質はそれとはきっと正反対だろう何か――――
そこまで思案したところで、真姫の意識がシャットアウトした。
「おい、何をしている?」
田村が静かな瞳でDIOを、そしてその後ろにいる一人の少女を見ながら問いかける。
少女、グロッキー状態から復帰した食蜂操祈がこちらにリモコンのようなものを向けている。
「あらぁ…?」
「ほう」
「えっ、何?何なの?」
疑問の声を上げる操祈、反対に感嘆の声を呟くDIO。
イリヤだけはその二人の様子から取り残されていた。
そして、田村玲子の後ろでは真姫が瞳に謎の光を写してぼーっと突っ立っている。
まるで自我を奪われたかのように。
食蜂操祈の能力、心理掌握(メンタルアウト)。
既にその能力についてを把握していたDIOの、言葉には表さぬ指示によって操祈が発動した洗脳。
彼女自身元々他人を操ること自体にはそう抵抗を持っていなかったこともあり、それを二人に向けて行使しただけのことだ。
しかし。
「止めさせなさい。これ以上の”それ”はこちらへの敵対行動と見なすわよ」
西木野真姫には効いた様子のあるそれは、田村玲子には通じていない。
そう言葉を投げかけた田村玲子から凄まじい気が発せられたように感じられ。
「…ひっ」
そしてそれを直接ぶつけられた操祈は、その恐怖に慌てるように手元のリモコンを操作。
「…あれ?今、私何を…?」
目が覚めるように真姫は意識を取り戻す。その瞳にはさっきまであった謎の光もない。
「西木野さん、少し下がっていなさい」
「いや、失礼した。どうやら彼女は人間不信なようでね。初めて会った人間にはどうしてもこういう行動をしてしまうようなのだよ」
「なるほど、それが広川の言っていた超能力とやらということか」
後ろに下がる真姫の前に出る田村玲子。その見据えているのはDIO。
彼の後ろの少女、イリヤと操祈の二人はまだ子供、精神的にもそこまで成熟しているわけではないように見えていた。何かしらの能力を持っていても脅威ではないだろう。
問題は目の前の男だ。
「君は、人間ではないな?」
唐突にそう言い切るDIO。
彼がそう判断した根拠は今の心理掌握が彼女相手には不発だったこと。
それは先ほど自分が同じものを受けても何の影響もなかった、しかし西木野真姫には間違いなく通用していた。
その二つの事実から推測したことをカマをかけるように問いかけたのだ。
田村玲子の後ろの真姫が息を飲むような音が聞こえた。
「それはお互い様でしょう?あなたも…寄生生物というわけではないけど、ただの人間ってわけでもない」
「何故そう思う?」
「私達は人間相手にはとある思考、本能的な囁きとでもいうものが働きかけるものだけど、あなたからはその働きかけが妙に薄い」
田村玲子――寄生生物が人間相手に感じる感覚、それは『この種を食い殺せ』というもの。
例え自分の意志でそれを抑えられるようになった彼女であっても、全くその囁きがなくなったわけではない。
しかし目の前の男、DIOに対してはその感覚が妙に薄いと感じていた。
寄生生物ならば発する念波もない、故に同類ではない。しかし人間とも違う。
広川の言っていた超能力や魔法といったものが存在するのであれば、非人間的な者もあるいは存在するのではないかと。
「なるほど。確かに私は人間ではない。正しくは人間を超越した者、とでも言おうかな」
そんな彼女の言葉に対し、DIOは自分の存在を誇示するかのようにそう告げる。
「…DIOさんって人間じゃなかったんだ……、ルビーは知ってたの?」
『WRY!魂から得られた情報は人間のそれではなかったDEATHネー!』
「…そっか」
それとなくイリヤはルビーに話しかけ、それで事情を何となく感じ取った。
だが元々スタンドという人間のものではない力を操っていたのだ、今更そこまで驚くことでもないだろう。
「人間を超越、か。言葉から推測すると、後天的に人間ではなくなった者、ということでしょうね。
具体的には、どういう風に変わったというのかしら?」
「フ、見たいか?このDIOの力を」
そう言って、軽々と自身の乗ってきた車を持ち上げるDIO。
数トンはあるだろう車体を片手で軽々と持ち上げる姿に真姫は息を飲む。
「確かにすごい力ね」
「いくら達人の人間がかかってこようとも、この俺を超えることなどできようはずもない。
他に見たいものはあるか?人間にとっては魔法、とでも言えるようなことも軽々とやってのけることができるぞ?」
「いえ、もう結構よ。その様子じゃ、私の聞きたいことは認識できてはいないようだし」
その言葉に、ほんの僅かにDIOの眉毛が動く。
「……何が聞きたいというのだ?」
バカにされているのか?と思ったDIOは彼女の質問の意図を知るために逆に質問した。
おそらくは自分が如何なる能力を持っているかを知りたいということではないのは察せられた。
「あなたは人間から別の生き物へと変化した。ではそんなあなたは人間にとってはどんな位置づけなのかしら?」
「それは――――」
無論食料、自分が支配すべきものだ、と口を開こうとしたがイリヤスフィールの存在、今の自身のスタンスを思い返したDIOは口を噤む。
「――この俺の力を崇めて讃える者がいる、多くの人間は俺に畏怖の念を感じていた。それが人間を越えた証ではないのか?」
「ただ力だけを誇示して上に立つだけなら猿にもできることよ」
(猿、だと…?!)
一瞬DIOの中で頭に血が上りそうになる。しかし今それを表に出すのはまずい。
必死に怒りを抑えてどうにか気持ちを落ち着かせる。
「そうね、例えばあなた。子供はいるかしら?」
「いないが、それがどうかしたか?」
「私達のような生き物は、体が人間と同じならば人間と同じように命を育むことができる。
だけどそうして生まれるのはただの人間。何の変哲もない、後ろの少女のようなただの人間だ。
例えばの話だけど、あなたがもし子供を作ったとして、その力は継承されるのかしら?」
「……知らんな」
短く、少し考えて答える。
実際に知らないのだから仕方ない。
そもそもそれは彼にとっては考えたこともない話。
もし自分が子供を作った時にその力が受け継がれるのか。そんなことは考えたこともないし考えるつもりもなかった。
このような力を持った者が二人としていることは例え自分の子供であっても許せることではないのだから。
しかしそれでも一つだけ確信していることはある。
この自分のスタンド、『世界』。田村玲子には明かしていない、自分の真の力の象徴。
それが受け継がれることは有り得ないだろうということ。
「じゃああなたの強さは一体何のためにあるものなのかしら?
いくら人間を超越したといってもあくまで一介の生物。不死ということはないでしょう?少なくとも寿命は確実に存在するはずじゃないかしら」
と、田村玲子はDIOの口に生えている、鋭い犬歯に目をやりながら答える。
「そういえば世界には吸血鬼という生き物の伝承があるらしいけど、私にとっては彼らはそう強い生き物には見えないの。
体は強靭で不老不死に近い、しかし日光を浴びることができない。ほとんどの物語や伝承では最後は人間に殺されるだけの化け物」
「…………」
反応してしまいそうになる自分を抑えるDIO。
一歩間違えば殺気すら放ってしまいそうになるが、そうしてしまえば負けだ、と言い聞かせるように気持ちを落ち着かせる。
「理解者もおらずに人間社会から追放されるように郊外の城のような場所に潜み孤独に暮らす。
どちらかと言えば私にとってはそれは強さではなく弱さに思えるわ」
そう、女が聞きたいのはこのDIOという存在が人間にとってどのような存在なのか。
DIO個人としてではなく人間を越えた”種”としての問いかけをしている。
「だから聞かせて欲しいのよ。あなたは、何を思って人間を越えたのかしら?」
田村玲子はあくまでも無表情に、そうDIOに問いかける。
あくまでも一生物として、貶める目的でもなくただ興味本位のみで。
それが、逆にDIOの心を逆撫でるように苛立たせていることにも気付かずに。
◇
結局その後の会話はどうということもなく終了した。
ただDIOはあくまでも紳士的に、『すまないが君の求めている答えはできそうにない』という旨を伝えて。
そうして結局軽い情報交換を行った後、田村と真姫は南へ向けて足を進めていった。
真姫の現状の目的地とする施設、音ノ木坂学院へと。
「逃げないのかしら?私はあなたに人間ではないことを隠していたんだけど」
「………」
その言葉に、真姫は少し目を逸らす。
嘘をつく時のそれではない、ただ答えるのが少し恥ずかしいという表情に見えた。
「その、田村さんは私が最初に何か変なことされてた時に助けてくれましたよね?」
助けた、というのはあの意識がなくなった時のことを指して言っているのだろう。
あの時彼女がいなければあのままどうにかなっていたのではないか、と。そう真姫は思っている。
「だから、私を守ってくれた田村さんのことは信じてみてもいいんじゃないかって…」
「そう」
何となくだが、真姫は彼女が普通の人間ではないということは薄々感じ取っていた。
人ではない存在、とまでは想像が及ばないとしても少なくとも何かしら一般人とは異なる人間なのではないかということくらいは。
だけどそんな事実に怯えるよりも、自分を守ってくれた田村玲子という人を信じてみよう、と。
そう真姫は思ったのだ。
口にはしなかったが、あのDIOという男は何となく危険な気がしていた。
あの意識を失った時もあの後ろの食蜂操祈という少女のせいだと言っていたが、本当にそれだけなのか、もしかしたらあの男も関わっているのではないか?
その疑念だけは抜けなかったのだ。
「だけど、少しだけ教えて。田村さんの言っていた寄生生物って一体何なんです?」
ただ、それでもまだ知らぬこと、情報交換をしている時に出てきた寄生生物なるものが一体何なのか真姫は詳しく聞いてはいない。
知らなくてもいいことかもしれない。だけどこれから行動していく相手だ。少しでも理解しておきたいと、そう思ったのだ。
「別に、答えたくないって言うんだったら無理には聞かないわ」
「いえ、むしろ今まで黙っていた私の落ち度ね。
学校に行くまでは少し距離があるし、どこまで分かるように教えてあげられるかは分からないけど。
さて、何が聞きたいのかしら?」
(スタンド使い、そして学園都市か。広川、一体どこでそのような情報を得たのだ…?)
田村が思考していたのは情報交換で出てきたもの。
自分の知らない人間たちの持つ力、そして人間の能力の限界を目指しているらしい組織。
しかしそのような情報を得たことはない。
特に学園都市とは日本の関東地方の一角に位置する巨大な施設らしく、聞いたことがなければおかしい。
後ろを歩く西木野真姫は東京に住む女子高生だ。彼女が知らないというのは尚の事だ。
彼女の語っていたスクールアイドルのこともあくまで自分の知らぬ場所で行われていたものではないかと考えていたが、もしかしたらそれも同じではないのかという疑念が浮かんできた。
だとするならば、広川の背後にいるだろう何者かは想像も及ばない力を持っている何かということになる。
(…なるほど、改めてお前という男に興味が湧いたぞ、広川よ)
寄生生物であれば浮かべるはずのない、小さな笑みを自然に顔に浮かべていることに気付かぬまま。
田村は真姫の質問に答えるために彼女の声に耳を傾け始めた。
◇
「…ねえ、操祈さんってDIOさんと一緒にいるわけとかあるんですか?」
「私?別に大したことじゃないんだけど、こう、あの人の言うことには一応従っておいたほうがいいんじゃないか、みたいなものを感じただけねェ」
「そうなんですか。…どうしてなのかってのは分からないんですか?」
「分からないのよねェ自分でも。
でも、何かしら。何か大切なものをなくした…ような気がするのよねェ。あの人に奪われたとかじゃなくて。
それで死にそうなくらいに絶望してた…ような気がするのよ。だけどあの人が来てからその感覚がなくなったわけ」
「………」
「それが私にとって幸せなことなのかは分からないけどぉ…、ただその恩くらいは感じてなくもないかなぁって思うわけよねぇ」
「……行くぞ」
静かな声でそう告げるDIO。
何となくだが、イリヤはその声が怖いとも感じている気がした。
(…DIOさん、怒ってるのかな?)
本来向かおうとしていたアインクラッド経由の道ではなく、滝を登って直接北の施設に向かう道だ。
何故彼がその道を選んだのか、考えれば分かる。
きっとあの田村玲子という人から離れたいのだろう。
ここから向かおうとすれば、しばらくあの人と同じ道になるだろうから。
車は今、何故かは分からないが滝の中心に刺さっている。
滝の流れそのものに影響はないが、流れを滝のド真ん中で遮って二つに分けている。
一体何故あれがそうなっているのかは分からない。気がついたら目の前から消えた車がああなっていた、分かるのはそれだけだ。
まあ、誰も運転できる者がいない以上普通に歩いた方が速いこともあって別に惜しいというものではないのだが。
(…まあ、色んな話は聞けたけど結局遠回りすることになっただけだったなぁ)
聞いた話だとμ'sなる学校のアイドル部のメンバーと寄生生物なる者がこの場にはいるらしいという。
だが美遊やクロの情報は得られなかった。
あとは操祈の語る学園都市、そしてDIOの話した仲間やペット達の情報といったところか。
話した中で危険人物だというのは田村の語った後藤という男のみだった。
ただ。
(DIOさんって、本当に私の印象通りの人なのかな…?)
何となくだが、あの時田村と話すDIOの様子に何か危険なものを感じた気がした。
ルビーを拾ってくれたおじさん、という認識だったがそれ以上のことは何も知らない。
考えてみれば殺し合いという場所だ。人を騙して取り入る、というのも普通に有り得るのではないか?
あの時の予感が正しいものであったならば彼と一緒にいるのは危険なのかもしれない。
だが。
(それを言ったら食蜂さんも…だよね)
少なくとも彼女は彼の傍を離れるつもりはないらしい。
まだDIOがどうかというのは仮定の話とはいえ、この人を放って一人で離れるのも違う気がする。
(ねえ、ルビーはどう思う?)
(YYYYYY、イリヤさんの判断にお任せしますィ)
ルビーに問いかけてみるが、やはり自分で決めるしかないようだ。
それにしてもルビーのおかしさがずっと変わらない。
サファイアがいればルビーのおかしさも治せるだろうか。
自分とルビーが離されていたこともあって美遊の元にはいないのかもしれない。こちらも探さなければならないだろう。
(私は―――――)
もし自然に離れられるタイミングだとしたら、さっきの二人に付いていく道を選べる今だろう。今ならまだ追いつけるはず。
だが、一方で食蜂操祈のことも気掛かりだし、嫌な予感自体が取り越し苦労である可能性だってある。
彼女の選択は―――――――――――――
◇
車に苛立ちをぶつけるように時を止めて滝に向けて投げつけたDIO。
しかしそれでもその苛立ちは収まらなかった。
別にあの女、田村玲子が言っていた自分が何者かということに思うところがあったわけではない。
他の人間のことなど知らないし、帝王である自分より下等な存在であるという認識自体が動くはずもない。
ただ、許せないことがあった。
(この俺が弱い、だと…?俺の考えが猿と変わらない、だと…?!)
悪意無く言われた、自分を卑下する言葉の数々。
それは彼のプライドを逆撫でするには十分なものだった。
もしこの言葉に意図的な侮蔑が入っていたならば分からなかった。
だが、それでも手を出すことだけは耐え抜いた。
自分の怒りと、それなりには得られた情報や現状である程度得ている信頼関係。
それを天秤にかけてどうにか耐えたのだ。
肉の芽を使う、という手段は先程操祈が田村玲子に怯えたことから効力が弱まっていることが推測できた。
自分に畏怖の念を持っていたならばあの程度に恐怖を感じるはずもない。とすれば強引に手駒として情報を引き出すことはあの女相手ではギャンブルに近い。
こうして今はそれなりの情報を得られたのだ。この程度の怒りは飲み込んでやろう。
もしかしたらある程度怪しいところは見せてしまったかもしれないが、まだ誤魔化しの効くレベルのはずだ。
(寄生生物、か…。覚えたぞ)
今は手を出すのは得策ではない。あの女も見逃そう。
しかしもし自分が仕掛けるに足ると判断した時、あの女も含む寄生生物とやらは全て殺してやる。
それでこの苛立ちは消えることだろう。
(もしその時がきたら、田村玲子、後悔するといい。この帝王に下らぬことを言って)
無表情で、しかしそれでも抑えきれていない苛立ちを沸き上がらせながら。
心の奥に隠した黒い感情をたぎらせてDIOは歩み始めた。
【G-4/(東)/1日目/深夜】
【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。
1:脱出の道を探る。
2:田村玲子と協力する。
3:μ'sのメンバーを探す。まずは音ノ木坂学院へ向かってみる。
4:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
アニメ第二期終了後から参戦。
泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。
【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
アニメ第18話終了以降から参戦。
μ'sについての知識を得ました。
首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
広川に協力者がいると考えています。
広川または協力者は死者を生き返らせる力を持っているのではないかと疑っています。
【G-4/(北)/1日目/深夜】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(中) まあまあハイ!、若干の苛立ち
[装備]:イリヤのハンカチ
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:体の調子を取り戻せるまでは慎重に動く。
3:寄生生物(泉新一、後藤)は殺しておきたい。田村玲子もいずれ殺す。
4:部下との合流(
ペット・ショップ、花京院)。ただしそこまで優先するものでもないと考えている。
5:北の施設に向かう。
[備考]
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※自身にかかったスタンドや各能力の制限について大まかに把握しました。
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー(混沌・善)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品1~3
[思考]
基本:美遊、クロと合流しゲームを脱出する。
1:美遊、クロとの合流
2:DIO、操折と協力する。
3:DIOさんと別れて田村さんを追うか、このままDIOさんと共に行動するか―――――?
4:サファイアを探してルビーの不調を治したい。
[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1、不明支給品0~1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:とりあえずDIOと協力する。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『心理掌握』の制限は、洗脳力の低下。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「バイト先の店長」に対する程度の敬意しかないようだ。
※以下の情報を交換しました
・イリヤの知り合いについて
・学園都市のこと、食蜂操祈の知り合いについて
・DIOの部下のこと、スタンドについてのことをある程度(ただし交友関係は花京院、ペットショップが”仲間”であるということのみ。ジョースター一行のことは話していない)
・寄生生物のことについてある程度、泉新一と後藤のことについて(広川のことは話していない)
・μ'sのメンバーについて
※G-4の滝に車が突き刺さっています
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最終更新:2015年06月11日 17:52