輝くは電流火花 ◆mist32RAEs



――MISSION 1


「俺は! スペシャルで! 2000回で! 模擬戦なんだよォォォォ!!」


――Target destroyed!!


   ◇   ◇   ◇


蛍光灯の人工的な明かりに照らされる一室がある。
備え付けられていたテーブルやティーセットなどの備品は乱暴に部屋の隅へと追いやられ、空いたスペースには一人の少女の姿。
ヒュッ――と、風を切る音が生まれる。
タンッ――という、床を蹴る硬質の音。
シュン――と、大気を薙ぐがごとき音。
全ては少女の動きが生んだものだ。
それらが連動して、まるでダンスを踊るかのような動きの一つ一つに生じる音が小気味よい旋律に思えるほど。
右ジャブ、右ロー、返しの左肘、踏み込んでアッパー気味の掌底と、細かなフェイントを入れながら繋いでいく動き。
流れるような、という言葉がふさわしいコンビネーションの最後は必殺の右ハイキックだった。
十分に体重を乗せ、高々と振り上げられた少女の右足が、床から170cmほど――成人男子の頭部あたりの高さを正確に、猛烈なスピードで撃ちぬいた。
その竜巻のような蹴りのあまりの勢いで、はいていたプリーツスカートがまくれあがる。
そこに覗いた、ほっそりとしつつも若々しく張りのある健康的な脚部。
その付け根の、やはり健康的で小ぶりなヒップを包む一枚の布地。
綿100%。自然素材でお肌に優しく、通気性もよし。
デリケートな部分にもぴったりとフィットし、一切の違和感を感じさせない代物だ。
余計な装飾はついておらず、シンプルにその機能美を際立たせている。
白と水色のツートンカラー。




――――しまぱん、であった。




   ◇   ◇   ◇

――MISSION 2


「――ガンダムを見たものを、生かして返すわけにはいかない」


十階以上の高層ビルが林立する中での、いわゆる市街戦であった。
先程は相手が擬似GNドライブすら積んでいない旧式のイナクトだったこともあり、操作を確認しながらでもあっさりと撃破できたが、次はそうはいかないようだ。
何せ相手は――奴だ。
見たことのないタイプではあるが、それが『ガンダム』であるというだけでいくら警戒しても足りることはない。
しかも向こうは砲撃戦特化型であるようだった。
ガンダムヘビーアームズ……名前からして重装備という、ストレートにわかりやす過ぎるネーミング。
こちらの機体スペックを確認したところ、どう見ても遠距離で相手ができるとは思えない。
懐に飛び込めば勝機はあるが、問題はそこまでどうやって辿り着くかだ。
ビル群を遮蔽物にしてどうにかしのいでいるが、反撃すらままならないこの現状は明らかにジリ貧。
さてどうやって近づくか――デパートか何かの一際巨大な建築物を盾にしながら思考をまとめようとした刹那。

「全てを殲滅させる」

揺れる、などという生易しい衝撃ではなかった。
耳を劈くほどの轟音。盾にしたビルが凄まじい音を立て、爆発にも似た崩壊でそのカタチを留めなくなっていく。

「……ちっ、まさか攻撃でぶっ壊せるってかよ!」

そう、相手の狙いはビルごとこちらを破壊することだ。
その戦術を可能にする火力はさすがはガンダムといったところだが、感心していられるほどのんきな状況でもない。
どうする、どうする。
そうこうしているうちにビルが崩れるだろう。悩んでいる暇はない。
一か八かの突撃――真っ向からいって蜂の巣か?
却下。
逃げる――そもそも逃げられねえ。逃げ場はねえって、そういうルールだ。
却下。

「へへっ……楽しくなってきやがったじゃねえか!」

モニターに影が差した。
それは上から降り落ちる瓦礫のそれ。
ビルがガンダムの攻撃によって崩壊し、こちらを圧殺せんとする凶器へと変貌した姿だ。

「いくぜえええええええ!! ダン・オブ・サーズデイ!!」

――――轟ッッッッ!!
瓦礫を、死の影を突き破る。
一振りの巨大な剣が天へと上った。
相手のガンダムがそれを追うように右腕と一体化したガトリングガンをかざし、撃つ。
こちらの機体は巨大ロボットから変形して高機動モードとなれば、大気圏すら軽々と突破する推力を持つ。
大気を抉って牙をむいてくるガトリングの弾丸は、そのことごとくが天へと上る剣に追いつけず失速。
そして剣は、再び巨人へと姿を変える。
敵機の直上。捻りこみながらの急速落下。
迎撃のミサイルはそのスピードに追いつけず。
ガトリングの嵐は自機の手足を掠めるが、それがどうした。

――死ななきゃ安い。
唯一にして無二の武装、その大剣を振りかざした。
それは死神の鎌か、無慈悲なる雷鎚か。
ついに――――届く。




「チェェェェェストオオオオオオオオ!!!!」




――Target destroyed!!


   ◇   ◇   ◇


この肉体……軽いわ非力だわ、不満を言えばきりがないといったところだが、身体のキレや反射神経といった面では優秀だ。
先ほど一通りの動きを確認した上での結論だった。
電撃使いの能力を使えるという情報もリボンズから得ているが、いざ実際に使ってみようとすると小規模な火花を発生させるだけ。
これでは実戦で使うには心もとないにも程がある。信長やアーチャークラス相手には屁の突っ張りにもならない。
それは横に置いて、むしろモビルスーツの操縦でもやらせればかなりのモノになる可能性を秘めているのではなかろうか。
レスポンスは上々、高機動型で装甲は脆いが、そこはパイロットの腕でカバーするところだろう。
うら若い少女の肉体に精神だけが乗り移るという、世にも奇妙な体験の真っ最中な傭兵アリー・アル・サーシェス
乗り移ったばかりのそれを、さながらおろしたてのモビルスーツのように評価する。
それにしても、こいつどこかで見たような面してんな――と、部屋にあった鏡を覗き込んでにらめっこ。
笑ったり、泣き真似をしてみたり。そこで気付いたが顔の造形自体はかなり整った部類に入る。
遊び半分で胸を腕で押し上げたりお尻を突き出してみたりと、いわゆる挑発的なポーズを試してみた。

「……駄目だな、ロリコンでもなきゃ引っかかりそうにねえや。まあ毛もろくに生えてねえ餓鬼だしなあ」

己の、今まで付いていたものが付いていない股間の部分をチラリと見やる。
まあ、お人好しな連中相手なら泣き落としも通じそうではあるが、それは色仕掛けとは別の話だ。
さて……雇い主のリボンズからは、武装を調達するための下準備として、しばらくは自由に動いて装備を整えるように言われている。
それまではほかの参加者とみだりに接触するのは避けたほうがいいとも。
デバイスによる一方的な通信なので、その理由についてまでは聞いていないが、それについてはサーシェス自身も賛成だった。
今の自分は完全なる別人であり、つまり今まで得た知り合いの情報はほとんどリセットされたことになるからだ。
ゼクスや上条はまだ生きているようだし、その名前を利用して集団に入り込むこともできるが、自分に何の自衛手段もない今の状態ではリスクが高い。
それよりは現在40人弱の死人がこの島に転がっていることを利用して首輪を回収、換金、武器を購入といった手順を踏んでからでも遅くはないだろう。
まずは慎重に周辺の偵察。
ここが地図上に表記された施設であることはデバイスで確認済みだ。
近くに首輪のついた死体が放置されていれば、それを回収して換金。どんな一般人のものでも拳銃の値段分くらいはなるだろう。
そうと決まれば早速行動といくか――。
その表情はうら若き少女のそれに似つかわしくない獰猛な笑みに満ちていた。


   ◇   ◇   ◇

――MISSION 3


青く輝く湖面に美しい古城の残影が写る。
周囲は森、そしてすでに朽ち果てた街の姿が見えていた。
リンゴーン、リンゴーンと、どこからともなく鐘の音。
まるでそれが戦いのゴングであるかというように、穏やかな風景は一変した。
湖は荒々しく波立ち、そこに写っていた影を消し去っていく。
烈風が森の木々をなぶり、轟々と枝葉が鳴いた。

「そのまま去るならばよし! そうでないのならば……我がメッツァでこの地上から消し去ってくれる!!」

地を揺らし、風を巻き起こす巨人同士の激突。
一つは大剣の巨人、ダン・オブ・サーズデイ。
もう一つはレイピアのネオ・オリジナル、メッツァ・オブ・チューズデイ。
必殺の威を込めたレイピアの連撃が次々と襲い掛かる。
大剣の刀身で弾く、続いての一撃を柄で逸らす、もう一撃を機体を捻ることでかわす。
全てギリギリ、間一髪。反撃の間を取るにはまずこの間合いを外すことからだが、相手はそう易々とそれを許しはしない。

「避けているだけか! 臆病者が!」
「……はっ! やっぱ戦争は白兵戦でねえとなァ!」

メッツァの鋭いレイピアがついにダンの右肩部分を貫いた。
傷口から青い液体金属が、まるで血液のように噴出して流れ出る。

「わりぃなァ!! 避けるのが面倒くさかったもんでよォ!!」
「ぐっ……!!」

わざとだ。
そして自ら傷口を広げることになるのを一顧だにせず、そのまま懐に飛び込んでのぶちかまし。
体勢を崩したメッツァが胸部からビーム砲を撃ち放つも、それによってダンがさらにダメージを受けても怯まず、さらにもう一歩踏み込む。
その両手に握った大剣をすでに振りかぶった体勢で――そのまま竜巻のように回転する!

「貴様……ッ!」
「馬鹿がァ――――ッ!!」

その手にある刃を袈裟懸けの軌道で一気に振り下ろした。
先ほどのダンと同じく、だが段違いの勢いで胸部から青い液体金属の鮮血を噴出するメッツァ。
だが、まだ必殺には届いていない。
剣を振るうには互いが余りに接近しすぎており、間合いが狭すぎる――この一撃が浅かったのはそのせいだ。
ゆえにメッツァはその拳を打ち付けることでダンを引き剥がす。
さらに先の一撃でほとんど破壊されながらもかろうじて機能した胸部ビーム。
閃光が、炸裂した爆音が隙を作る。
そして――――ついにその間合いとなった剣を振るい、一直線にコックピットを狙う突きを放った。
完璧なる逆転のためのコンビネーション。
だが――、

「そうかい……こいつか……ッ!」

ニヤリと笑うコックピット内のサーシェスの眼前、青白い火花が飛び散った。
この肉体は学園都市レベル5、超電磁砲にして電撃使いの御坂美琴を元にしたものだ。
ゆえにそのクローンも量産異能者<<レディオノイズ>>として、ある程度の能力を備えている。
だがそれがサーシェスにも使えるようになったかといえば答えはノーだ。
そもそも遺伝子が同じならばクローンにもレベル5相当の能力が備わっているはずではないか。

だがそれについても答えはノーだ。せいぜいレベル2~3程度で、5はおろか4にすら届かない。
それは個人の『自分だけの現実』(パーソナルリアリティ)が能力を左右するがゆえ。
極めて簡単に言えば、「自分が超能力者である」という、非常識な認識をどこまで心の底から信じられるかという一種の信仰である。
本体の御坂自身が元々はレベル0であり、そこから第三位にまで登りつめるに至ったのは本人の強い意志と弛まぬ努力の結果なのだ。
クローン用に調整したにすぎない人格と、己の意思で前へと進み続けた本物の想いの力は、そのまま力の違い――そう言ってもいいのかもしれない。
さて、それではその肉体を借り受けたアリー・アル・サーシェスはどうなのか?
彼はリボンズからこの肉体が電撃使いの超能力者のものであるという情報を得ている。
だがいかにこの島についてから異能の化け物どもと遭遇し、その存在を認識しても、その程度で『自分だけの現実』を強化できれば世話はない。
例えばプロスポーツ選手の技術を間近で見ても、それを自分ができるようになるかは別の話である。
それでも――人間の筋肉を動かすのは電気信号である。これはすでに現代の体育学で常識になっている程度のことだ。
これならばサーシェスの認識でも十分に信じることができるだろう。
それをコントロールすること――すなわち人間の反応速度における限界点を自在に引き出すことに繋がるのではないか?
そもそも彼のような歴戦のパイロットは、互いが時速数百キロ以上のスピードで交差する戦場のモビルスーツを自在に操る人種だ。
実際に戦闘機のパイロットは、考える前に身体が反応するような、認識から脳すらも介さない最速の反射行動を行う者もいるというデータがある。
さらに言うならばこの素体はシスターズとして――つまり一方通行の実験材料として、ひいてはリボンズの手足として動ける程度の情報入力=訓練を既に済ませてある。
非力であるはずの少女が、実は対戦車砲すら生身で撃てるほどの戦闘能力を宿しているのだ。
つまり、自らの認識で十分に操れる電気信号――、

「――お、お」

そして、それ抜きでも卓越した反応速度――、

「――お、おお」

何よりもその反応を即座に反撃へとつなげられる、魂の奥底まで染み付いたパイロットとしての経験と技量、シスターズの戦闘能力が――、


「――おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


今、この瞬間に超速のカウンターを実現する――。


一瞬。

刹那。

雲耀。

交差。

二つの刃。

裂く。

断つ。

咲くは蒼の鮮血。

絶つは命脈。



――決着。




――Target destroyed!!


   ◇   ◇   ◇


一つの死体がある。
その頭部は地に横たわる胴体から離れて地に転がり、無残な死相をさらしている。
そのすぐそばで、うんざりした表情を浮かべながら立ち尽くす少女の衣服には点々と血の痕。
その頬には汗がにじみ、疲労の色が見える。
ちっ、と舌打ち。
首を切断された死体を前にしても、全く動じていない。

「はぁ……」

まずは周囲の探索と意気込んで外に出たはいいが、その成果はお世辞にも芳しいとはいえなかった。
まず最初に施設を出てすぐの所に安置されていた死体はすでに首を切られており、首輪は持ち去られていた。
八つ当たりで首を蹴り飛ばしたら切断面から飛び散った血しぶきが服にかかるなど、泣きっ面に蜂とはこのことだ。
気を取り直して、ならば他にと森の中を慎重に探し回ってみたものの、何せもう夜だ。
明かりをつければ目立って誰かに見つかるかも知れず、かといって星や月を頼りに探したところで真っ暗な森の中では埒が明かず。
それどころか下手をすればこちらが迷子になりかねない有様だ。
結局、何の成果も得られぬままに無為な時間を過ごして、最初の施設に戻ってくる羽目になってしまった。
本当にうんざりだ、といわんばかりのため息をもう一度ついてサーシェスは手の甲で顔の汗をぬぐった。
いつもならばこの程度でバテることはないのだが、さすがにこの肉体ではややきつい。
それと、なんとなく肌がべたつくような気がする。
この死体は死後だいぶ経っているようで、直に触って調べたこちらにも結構な血と脂の匂いが染み付いているだろう。
最初に施設内を探索したときに見つけたのだが、幸いここの地下には温泉が設置されている。
そこで匂いを落とすついでに、血痕が付いたこの服に代わって着替えるものを調達したほうがいいかもしれない。
とにかくプランの練り直しだ。
無残な死体を残して、再び憩いの館の内部へ歩を進める。
そこでふと足を止めた。
死体といえば――、

「――ああ、どこかで見たと思ったら、この身体ってあのツンツン頭の餓鬼が抱えてた死体とそっくりじゃねえか」

遺骸を一瞥し、サーシェスは呆れ気味に呟いた。
この身体であの上条当麻などに会おうものなら言い訳の仕様もない。
こりゃ確かに他の奴らに気軽に接触するわけにもいかねえよなぁ――と、リボンズの情報に納得しながらも、この状況をどう利用すべきかと即座に頭脳をフル回転させるのだった。


   ◇   ◇   ◇


――MISSION 4


「オール・ハイル・ブリタァァニアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


ビルが崩れ、黒煙を放ち、あちこちが燃え盛る都市部。
その絶叫を聞くのは何度目になるだろうか。
宙空を自在に飛び回るそれはずいぶんと奇妙な形状をしていた。
オレンジ色の球体に近い形で、そこから六本の棘のようなハーケンを撃ちだして攻撃してくる。
さらにはブレードを展開し、高速で回転。
鋸のようにあらゆるものを切断する勢いで急降下し、実際にビルやアスファルトを砕き散らして、再び上空へと舞い上がる。
今までの敵に比べてずいぶんと小さいが、破壊力では引けを取らない。
むしろ小さい分、攻撃があたりにくいのが厄介だ。高速で空中を飛び回る飛行型となれば尚のこと。

「クソッタレがぁ!」
「そう……私は! 帝国人民の敵を排除せよ! ならばこそ! オール・ハイル・ブリタァァニアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

上空から次々と襲い掛かる攻撃を飛び退ってかわす。

だが、あまりのスピードでこちらの反撃の機をつかむことができない。
とっさに廃ビルの陰に隠れてハーケンの一つをやりすごしてから、空中へと自機を躍らせる。
ここは強引にでも、どうにかして突破口を見出さねばならない。

「だが、当たらず! このジェレミア・ゴッドバルトには!」

敵は器用にも宙で回転しながら方向を変え、こちらの反撃をかわし、再び上空へ。
強引な足掻きの結果、無様な隙を見せる剣の巨人に手痛い報復を食らわせてやるといわんばかりの、高速回転による急降下のブレードアタック。
宙空でろくに姿勢制御もできない状態では、防御すら間に合わない。
だが――先ほどの戦いで掴んだ極限状態での反射速度を、再びここで発動させる。
コツは体内電流を具体的に脳内でイメージすること、そしてもうひとつは全てを本能に任せることだ。
数々の戦場を生き抜き、数多の敵を屠ってきた百戦錬磨の傭兵、アリー・アル・サーシェスの生存本能に、生と死を分かつその刹那の全てを。
先ほどと同じ――再び、少女の姿をした戦鬼の眼前に青白い火花がバチリと散った。
ぶん、と大剣を振り回し、それにより生じた遠心力で強引に姿勢をコントロール。
剣の峰からパーツを取り外し、正面から襲い掛かる殺人独楽に切り裂かれる寸前、逆手に持ったそのパーツ――小太刀を握り締め、突き刺す。
火花が散る。
その一撃でも独楽の回転は止まらず、勢い余ったブレードが小太刀を持ったダンの片腕をザックリと持っていく。
だが怯まない。多少のダメージがどうした。ここで捕まえ、叩き潰せば勝ちだ。

「姑息孤立小癪ゥッ!!」
「オォラァァァァッ!!」

ブーストをかけて逃げようとするオレンジ独楽――ジークフリートを、大剣を捨てたもう片方の腕で掴み、機体の重量で押し潰すようにして地面に向かい、もろともに突っ込む。
地を揺らす轟音と衝撃が五感をシェイクする。

「おぉのれえええええええええええ!! 卑怯! 後ろをバック!!」
「ギャーギャーやかましいのも大概にしなァ! こいつで仕舞いだぁッ!!」

敵機は正面から地面に突っ込む形になり、その背後にして真上に位置する自機には反撃不可能。
あとはその真上から、地面とダンとでサンドイッチになった哀れな敵を一方的に叩き潰すだけ。
蒼い鮮血――液体金属、G-ER流体に塗れた拳が振り下ろされる。
爆発。
もう一撃。
さらに大きな爆発。
その破壊のさまを間近で見るたびにサーシェスの顔が闘争の歓喜に歪んでいく。




「イッちまいなああああああああああああああああああああああ!!!!」
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」




――Target destroyed!!


   ◇   ◇   ◇


サーシェスは施設内に戻り、設置された無人販売機の前に立つ。
出かける前に確認はしたが、改めてもう一度商品のラインナップを眺めてみると――。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


飲料水1L:120ペリカ
『ガラナ青汁』『きなこ練乳』『いちごおでん』各種セット:500ぺリカ
携帯食:1000ペリカ
清澄高校の制服(男女のタイプを選んでください):5000ぺリカ
救急セット:100万ぺリカ
コルトガバメント(マガジン7発入り×4もセット):1000万ぺリカ
接着式投擲爆弾×10:3000万ペリカ
ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル:4000万ぺリカ
メタルイーターMX:5000万ペリカ
リリーナの防弾仕様リムジン(ピンクとゴールドの二種類があります):6000万ぺリカ
濃姫のバンカーバスター:7500万ぺリカ
設置型ゲフィオンディスターバー(使い捨て):1億5000万ペリカ
RPI-209 グロースター:2億ぺリカ
VMS-15 ユニオンリアルド:3億5000万ぺリカ
OZ-12SMS トーラス:8億ぺリカ

※時間経過で商品は増えていきます。
※各地の販売機によって、商品は多少変更されます。
※機動兵器各種に武装はついておりません。別売りでお求めください。
※当施設には独自のサービスがあります。
 1000万お支払い頂くことで、当施設の地下にあります『ガンダムvsガンダム~』をプレイするにあたり、優遇措置をご利用頂けます。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


……足りない。まったく足りない。
何の変哲もない拳銃すら買えないではないか。
億を軽く超えるモビルスーツクラスなど夢のまた夢。
どうにもならない現実を前にして思わず頭を押さえ、ため息をつく。
第二回の放送では優勝に近い者の首輪ほど高値がつくといっていた。
ということは脱落する可能性が低い者――怪物級の強さを誇る連中のことだろう。まさに賞金首というわけだ。
つまり人外の強さを持つプレイヤーを仕留めて首輪を手に入れられたならば相応の金額を手に入れられるだろうが、それこそ奴らは拳銃程度で殺せるようなタマではない。
最初に出会った片倉小十郎から始まって、次々と桁外れの怪物を相手取ってきたことを考えれば、今まで生き残れただけでも奇跡に近い。
ましてやこの慣れない貧弱な身体でそんな分の悪い賭けなど、どう考えても無謀に過ぎる。

「……待てよ。地下?」

自販機の画面、その一番下に表示された文章に目を止める。
そういえば先刻、地下を探索した際に、やたら長ったらしい名前の機動兵器のシュミレーターに似たゲームが設置されていたのを発見した。

練習モードで試しに数回ほどテストプレイを行ったが、素人でもそれなりに扱えるようにという配慮なのか操作はだいぶ簡略・統一化されており、未知の機体でもそれなりに扱うことができた。
しかし腕に自信がないというわけではないが、命をかけた本番モードで自機を選択できないというのはいささか危なっかしいとスルーしていたのだ。
優遇措置――それは自機を自由に選択できるという権利だった。
自分や、グラハムマニューバの創始者としてMS乗りの間に名を残すグラハム・エーカーのようなパイロットには絶好の儲け話だ。
もっとも参加者名簿に載っているグラハム・エーカーは同姓同名の別人という可能性もあるが、それは今はどうでもいい。
リスクとメリットを心中の天秤に乗せてサーシェスは思考する。
練習モードで確認したが、このゲームならば勝つ自信はある。一回目でうまいこと強力な機体を引き当てられればよし。
もし弱い機体を引いてしまった場合は、最低でもその最初のバトルをどうにかして凌がなければならない。
だが、それさえどうにかすれば次は賭けるぺリカがある。命を取られる心配はなくなるのだ。
とにかく最初だ。ここさえ何とかなるなら、後はこの腕でどうにかしてみせる。
少なくとも化け物クラスの連中と鉢合わせする危険を抱えながら、当てもなく死体漁りに励むよりは勝ち目のある勝負だ。
サーシェスは意を決してゲーム筐体が設置された地下へと降りていくのだった。


   ◇   ◇   ◇


――MISSION 5


このゲームは一戦ごとに次のステージへ進むかどうかの選択肢が用意されている。
最大の難関であるランダム機体は、幸運にも一戦目でいきなり当たりを引いた。
ダン・オブ・サーズデイ――遠距離戦は不利だが、それを補って余りあるすばらしい近接戦闘能力は十分合格に値する。
このラッキーを思えば、夜の森をさまよった挙句の徒労も報われるというものだ。
そして一戦目で手にした1000万を勝ち抜くたびに倍に増やし、そこから倍々で1000万→2000万→4000万→8000万と来たわけなのだ、が。

「……」

先に進むにつれて難易度はどんどん上がっている。
当たり前の話ではあるのだが、正直に言ってこれ以上のステージは、いかにサーシェスといえども勝ち残れると断言できない。
ここで負ければ一文無しに逆戻りである。
ここまでかなりの労力を費やして辿り着いたのだ。結果がゼロでは笑うに笑えない。
しかも次からは再び、機体選択の自由もない上に賭けるぺリカがない――つまり運任せの上に自らの命を失うリスクも付いてくる。

「普通ならここで引くんだろうがな……」

狂気の笑み。
もとより一度死んだ命だ。
まだチャンスがあるだけ儲けもの。多少の分の悪い賭けを乗り越えられなくて、どうしてこのゲームを勝ち残れるものか。
8000万ぺリカ――全額、倍プッシュだ。

「狂気の沙汰ほど面白いってなあ! いくぜぇ、ガンダムゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

凶悪な獣の笑みとともにバチリと青白い火花が散る。
そう、相手はガンダムだ。
積年の借りを返すべく、戦争の醍醐味をしゃぶり尽くすべく敵と定めた、あのガンダムが最後の相手だ。
たかがバーチャルのゲームとはいえ、これ以上に楽しいことは滅多にない。
さあ、往こう。
戦争が好きで好きでたまらない、人間のプリミティブな衝動に準じて生きる最低最悪のロクデナシのための饗宴の舞台へ。
もう一度、しかし先ほどよりも激しく蒼い火花がバチリと爆ぜる。
闘争の終わりなきワルツ――ダンスパートナーは奴だ。




「――刹那・F・セイエイ……エクシア、目標を駆逐するッ!!」


   ◇   ◇   ◇


ガラリと戸を開けて更衣室に入る。湯上りの火照った肌を適度に冷やす部屋の空気が心地よい。
ふぅ、と息をついて濡れた髪を備え付けのタオルでごしごしと拭く。
それから首筋、肩口から鎖骨、慎ましやかな胸のふくらみ、ウエストから下腹部にかけてと、順々に肌に付いた水分を拭き取っていく。
立ち上る石鹸の香り。血の匂いを取るためとはいえ、ちょっと念入りに洗いすぎたかもしれない。
まあ、ともかく。
足の先までタオルを這わせ、それから最後にもう一度だけその栗色のショートヘアをごしごしとかき混ぜるように拭き、それから手ぐしで前髪を整えて。
さっきまで着ていたものは処分してある。自販機で手に入れた新しい衣服に着替えることにしよう。
下着は今までのものと同じ、水色と白の縞々柄。
何せいちいちが初めての体験だ。前後が逆にならないように慎重に確認してそっと脚を差し入れる。
いざはいてみると何か妙なところに食い込んでしまったようで、あちこちに指を入れて布地を直しながら調整。
それが済んだらブラである。が、正直肩紐や胸元の感触がうっとおしいので付けないことにする。
重さや揺れが気になる大きさでもないことだし、このままでも問題はないだろう。
純白のソックス、鮮やかなブルーに白のラインが入ったスカート、そしてセーラー服を身につけ、これもまた鮮やかな深紅のスカーフで胸元を締める。
ここで時計を見ると、すでに随分と時間が過ぎていた。夜の森を探索、シュミレーターでのバトルを五回となれば当然と言える。
あともうしばらくすれば日付が変わり、四回目の放送が流れるだろう。
だが色々と準備に手間どった割には早く済んだほうといえる。
超反応技術を駆使した最後のバトルにまさに紙一重の差で勝利し、一億と六千万ぺリカをゲットした後で買ったものは、

【清澄高校の制服】:5000ぺリカ
【救急セット】:100万ぺリカ
【コルトガバメント】(マガジン7発入り×4もセット):1000万ぺリカ
【接着式投擲爆弾】×10:3000万ペリカ
【ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル】:4000万ぺリカ
【濃姫のバンカーバスター】:7500万ぺリカ

――以上、一億五千六百万と五千ぺリカ也。
これならば立ち回り次第で十分に戦えるだろう。
車は移動手段として確保したかったところだが、エンジンの音で目立つことになるのであまり有用とは言い難い。派手なリムジンならばなおのこと。
そして対戦車砲の威力を誇るメタルイーター。正直言って見逃しておくのは惜しい。
が、それよりも今後に大型ロボットを手に入れる機械があれば必要になるのはマニュアルの方だと判断。
慣れない機体であろうとも取り回せるように備えておく方がいい、とこちらを選択した。
さて、リボンズからの指令は放送明けになるのだろうか。
次の放送で何人死ぬかはわからないが、それでもまだまだ闘争の種は尽きないだろう。

できることなら楽しめる指令を寄越してくれよ、大将――。

心の内でそう考え、仮初めの依り代である少女の表情に喜悦を貼り付けながら、どっかりと椅子に腰掛けてマニュアルのページをめくった。
指令がくればいよいよ戦争の始まりだ。それまではゆっくりさせてもらうとしよう。
再び巡りくるであろう闘争の予感にアリー・アル・サーシェスは独り――嗤う。

【D-3/憩いの館(地下の温泉)/一日目/真夜中】

【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:妹達(シスターズ)に転身状態、体内電流を操作することで肉体の反応速度を上げることが可能、ノーブラ
[服装]:清澄高校の制服@咲-saki-、首輪
[装備]:ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル、コルトガバメント(7/7)@現実、予備マガジン×3、接着式投擲爆弾×10@機動戦士ガンダム00
[道具]:基本支給品一式、特殊デバイス、救急セット、濃姫のバンカーバスター@戦国BASARA、399万5000ぺリカ
[思考]
基本:雇い主の意向の通りに働き、この戦争を勝ち上がる。
1:とりあえずマニュアルを読みながら次の指令待ち。
2:迂闊に他の参加者と接触はしない方がいいかもしれない。
3:ゼクス、上条当麻、デュオ、式、スザクたちには慎重に対処したい。余裕があれば暦に接触してみたい。
【備考】
※セカンドシーズン第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※五飛からガンダムWの世界の情報を取得(ゼクスに関してはやや誤解あり。ゼクス=裏切りもの?)。真偽は保留にしています。
 情報収集のためにヒイロ、デュオと接触する方針はとりあえず保留。
※この世界の違和感(言語の問題等)は帝愛のせい、ということで納得しているようです。
※スザク、レイ、一方通行がアーチャーに接触した可能性があるとみています。
ライダーとはアーチャーが、藤乃とは式が、それぞれに共通した敵であると伝えました。
※シスターズの電撃能力は今のところ上手く使うことができません。
※常盤台の制服は地下の浴場に放置。

※特殊デバイスについて
マップ機能の他に『あちら側』からの指令が届く。
それに従わなかった場合サーシェスの首輪は爆破される。




【清澄高校の制服@咲-saki-】
宮永咲原村和らが所属する清澄高校のセーラー服。鮮やかな青のスカートと襟元、そして真っ赤なスカーフが特徴。
自販機には男子用の制服もある。

【接着式投擲爆弾×10@機動戦士ガンダム00】
刹那がセカンドシーズン第一話でオートマトン相手に使用した小型の爆弾。
投げつけると破裂した接着剤によって目標物に張り付き、ゼロ距離で爆発する。

【ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル】
オリジナル。各種機動兵器の詳しい性能と操作方法が記された分厚い冊子。

【濃姫のバンカーバスター@戦国BASARA】
長篠の戦いにおいて本田忠勝に止めを刺した、濃姫の武装。
地面に打ち込むことで地中を潜って進んでいき、標的の足元で大爆発を起こす。


時系列順で読む


投下順で読む


237:とある傭兵の超連射砲<ガトリングガン> アリー・アル・サーシェス 265:Thanatos.


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年07月25日 23:50